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【初夢】IFシナリオ

【初夢】かぜっぴきのえいゆう

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
無し
相談期間
5日
完成日
2018/01/16 18:38

掲示板

オープニング

 この【初夢】シナリオは「IFシナリオ」です。
 IF世界を舞台としており、リンクブレイブの世界観とは関係ありません。
 シナリオの内容は世界観に一切影響を与えませんのでご注意ください。

●こほんこほん
 簡素な部屋の中、咳の声が響く。
 額には熱が冷めるようにと濡れたタオル、室内は暖房器具で暖かく、寝込むベッドは普段以上に布団が乗せられている。
 なんでこんなことに。
 熱にうなされながらも、ユウ(az0044hero001)はぼやいた。
 病気にならないはずの英雄が何故こんなことに。
 彼の疑問には、テレビから流れるリポーターの声が答えた。
「現在猛威を振るっているのがこの『英雄風邪』です。何でも異世界から来訪した英雄しか発病しないとか」
 とか、なんとか。
 ぼやっとした思考ではとりあえず寝ていなければいけない以上の情報を得られず、再びこほんこほんと軽い咳を繰り返す。
 そしてもう一つ彼の思考をよぎったのは。
「かんびょう、する」
 普段とは逆転した立場に何故か燃えている竜見玉兎(az0044)が、何もやらかさなければいいなぁというその一点であった。

●げほんげほん
「提案します」
「却下」
 風邪にやられたと分かるがらがら声のまま、挙手した二条夢(az0106hero001)の手を名執芙蓉(az0106)はそっけなく下ろさせる。
「そんな状態で連れていけるわけないだろ?」
 風邪の看病の為に必要な物を買ってくると言えば、自分も着いていくと言い出した夢である。
「再度提案します」
「再度却下。いいから寝てて」
 無理やりベッドに押し込めてぽんぽん布団を叩けば、むっとしながらも案外心地よかったのか目を細める夢。
 ……うん、たまにはこういうのも悪くない。
「すぐ戻ってくるから」
 言って、コートを着込んで外に出る。
 折角だからおかゆの他にも何か作れるように買っていこう。桃の缶詰もいいな。風邪を引いた時はいつも家族が冷やした桃を出してくれた。
 そんな事を思い出しながら。

 英雄の為に、能力者は奔走するのである。

解説

●目的
 風邪を引いた英雄を看病する

●状況
・英雄しかかからない『英雄風邪』にかかってしまい、寝込んでしまった英雄
・『英雄風邪』は英雄しかかからず、能力者は『英雄風邪』を引かない
・風邪は普段通り流行っている
(PL情報)
・買い出しに出かけた場合、名執芙蓉や竜見玉兎と遭遇する可能性有り

リプレイ

●バルタサールと紫苑の場合
 初めのうちは「またからかわれているのか、どうせ仮病だろう」とバルタサール・デル・レイ(aa4199)は考えていた。いつもこちらを騙し、からかっては楽しそうにしているのが紫苑(aa4199hero001)という英雄である。テレビも普段見ないので英雄風邪も知らず、しばらく放置しておこうと思っていた。既に死んでいるから死なないだろうし、何より静かでいい。
 そう思っていたのだ、が。
「(あれは本当に病気か……?)」
 日々のうざ絡みにすっかり慣れていたバルタサール、紫苑の反応の薄さに何故か物足りなさを覚える。おかしい、何故だと自身に問い掛けてみるが、ぴたりと当てはまる答えは返ってこない。
 看病なんてガラでもない。しかしこのままずっと病気でいられても困る。そう、自分たちは力を得るための関係だ。あの調子ではいざという時に戦えなくなるではないか。等々、寂しいわけではないと言い訳を重ねに重ねた結果、バルタサールはついに紫苑に声を掛けた。
「……おい、何か欲しいものはないか」
 一方、英雄風邪を引いて寝込んでいた紫苑。バルタサールの声に「ふっ落ちたな……」と内心笑みを浮かべた。実際怠いは怠いのだが、バルタサールを心配させるために多少盛っていたのも事実である。何も喋らず、まるで死んだように横たわり続けた甲斐があったというものだ。
 しかしここで普段通りにしてはつまらないというもの。
「……お粥と、梅干しが食べたい」
 しんどいのに人間観察もおちょくるのもやめられない。それが紫苑という名の英雄である。せっかく風邪を引いたのだから、この状況を全力で楽しまなければ。バルタサールの反応で。
 と、紫苑がしおらしくしながらも策を練っている間、バルタサールは首を傾げて携帯を操作していた。
 Que es OKAYU?
 おかゆとはなんぞや?
 恐らくは日本の料理なのだろうと検索をかけてみると、何やらどろどろとした物体が候補に挙がった。米と水。梅干しを上に乗せてもいいようだから一石二鳥である。
 ひとまず買い物に行ってくると紫苑に告げ、ついでに情報収集もしてくるかとバルタサールは部屋を出たのであった。

 帰宅したバルタサールは早速お粥作りを始めた。難しい料理では無いし、そう手間も掛からない。初めてにしては上出来なお粥を紫苑の元へと運び、体を起こすのを渋々手伝えば。
「つらい……食べさせて」
 演技ではないのか?という考えが一瞬、バルタサールの脳内をよぎる。しかしまぁ、やはり渋々お粥を口元へ運んでやり、寝かしつけてやる。英雄風邪は安静にしていれば治るとのことだし、このまま寝ていればそのうち元気になるだろう。そう考えるバルタサールに追い打ちをかけるように、紫苑は呟く。
「もうダメかも……ごめんね……」
 もちろん演技である。風邪を引いてもタダでは引かない。さぁバルタサールの反応やいかに。

●アリスとAliceの場合
「熱は……無いね、やっぱり。体は辛くない?」
 アリス(aa1651)の声にAlice(aa1651hero001)は頷いて応じた。
 元より体温の無いAliceにとって、英雄風邪は熱の無い風邪状態である。しかし喋るのは少々つらいようで、極力頷くだけでアリスとの会話を成立させているのだ。意思の疎通は出来ているし、そこは問題ない。
 問題があるとすれば。
「そう、辛いんだね。買物行ってくるから寝てて」
 普段は信頼できるアリスの行動も、心配になってしまう部分だろうか。
 風邪も流行っていると聞くし、自分の事は良いからアリスこそ体調管理をしてほしい。何か作るよと言われれば怪我をしないかと不安になるし、外出すると聞けば気を付けてと思う。
 アリスがどうか無事に帰ってきますように。

 Aliceに布団を掛けて外出したアリスは買い出しに向かっていた。
 自分ならまだしもAliceが風邪を引くなんてと珍しい思いをしつつ、アリス自身も風邪を引く方ではないわけで。
 料理が出来ないわけではないし大丈夫だろうとは思うが、たどたどしい看病になる可能性は否めない。
「おかゆと生姜と……」
 必要そうなものを適当にカゴに入れていると、知っている顔が前を横切った。おや、と思ったタイミングで向こうも気が付いたようで、あの時はありがとうございましたと言葉付きで一礼をされる。
「お久しぶりです。名執芙蓉です」
 朧気な記憶が形を結んだ所で、名執が「あ」と声を上げる。視線の先にあるのはアリスの持つカゴ。
「Aliceさん、風邪ですか?」
「もしかして、そっちも風邪?」
 名執のカゴの中身もアリスのカゴと似たり寄ったりだった為、話題を振れば頷きが返された。能力者が感染するということは無いらしいから大丈夫だとは思うが、互いに「お大事に」と言葉を交わして早々に帰路に着く。

「ねぇAlice」
 ご飯を作るからと言った時のAliceの視線がどうにも見過ごせなくて、アリスは思わず言葉を繋げた。
「そんな不安そうな顔されるなんて心外なのだけど。いつも交代でご飯作ってるでしょう」
 Aliceも知っている事実を述べれば、返されるのは頷き。理解しているけれど、だろうか。
「大丈夫。すぐ出来るから、寝てて」
 再び頷いたのを見て、アリスは今度こそ調理に向かう。
「(そういえば、英雄風邪が普通の風邪薬で良いのかな)」
 まぁ、飲ませておこう。そんなことを思いながら。


 深夜。誰も気が付かないほどの声で、少女が呻く。
『……ぉ、兄……ちゃ……』
 聞く者は居らず、眠りを妨げる物もまた居らず。
 ただ、Aliceが朝目覚めた時には英雄風邪の症状はさっぱりと無くなり、完治していたのだった。

●まみと拓海の場合
「へー馬鹿でも風邪って引くのね」
 桜茂 まみ(aa1155)の一言に、松田 拓海(aa1155hero001)は危うい咳をしながら笑う。
『病人に対して有り得ぬ辛辣な言動wwwマジうけるんですけどwww流石行き遅れのアラサー女子www』
「拓海くんは永遠の眠りにつきたいみたいだね!」
 小馬鹿にしてくる英雄ではあるが、憎らしいやつではあるが、風邪を引いている病人だ。
 さすがに看病をしようかと立ち上がるまみだったが。
『ちょwww姐さんwww看病とかマジうけるんですけどwww』
 口が減らないというか図太いというか、態度を崩さない拓海の姿に「そのまま死なないかな(ハート)」と思うまみである。
「(まーあんなのでも英雄だし、死なれたら目覚め悪いもんね)」
 なんだかんだと思いつつも、食べやすい料理を作ろうと台所へ。
 手際よく作るのは鉄板のおじやだ。
「いつ嫁に行っても良いようにちゃんと練習してるからね!」
 自分で言ってて泣けてきたわ……としょんぼりしながらも、拓海に食べさせるべくレンゲでおじやを掬う。
「はぁー私もこんな英雄の為におじやとか作るんじゃなくて愛しの彼ピッピの為に作りたいわ~」
 思わず零れる独り言のはずが、風邪でもツッコミ精神を忘れない拓海がすかさず笑い転げた。
『彼ピッピwww死ぬwww姐さんいちいち笑わせないでwww俺の腹筋と喉が死ぬwww』
 むしろ悪化しているのではないかという勢いで咳き込む拓海。食べていたおじやが飛んでこないのが幸いではあるが。
「何で私こいつの面倒みてるんだろう……」
 まみの言葉を聞く者は、悲しいことに笑い転げている英雄しかいなかったのであった。

 ひとまず食事を終えた拓海を寝かせたところで、まみは改めて部屋を見てなんとも言えない顔になる。
 アニメのDVDや漫画で溢れかえった床、所狭しと貼られたアイドルのポスター。どこを見てもアイドルと目が合う部屋。
「いつも思うけど拓海くんの部屋って色々キッツいわー……」
『勝手に人の部屋入って駄目だしとかマジうけるんですけどwww』
「このさよりちゃん? だっけ? これの何処がいいのかなー?」
『しおり殿ですけどー? あと勝手にdisるの辞めていただけるでござるか?』
 うとうとし始めた拓海は続けて、
『まぁー場末のアラサー姐さんにはしおり殿の溢れる若さに嫉妬の心を持ってしまうのは理解出来るでござるがwww?』
 言った後に再びゲボゲボ咳をして、すやりと眠りに就いた。
 菩薩のような笑みを浮かべるまみの顔を見ないまま。
「――とりあえず、これ全部捨てるね」
 にっこりと微笑んだ少女は、べりべりと全てのポスターを剥がし、漫画もDVDも片付けていく。
「よし、これで少しは綺麗になったかな? こんなに汚いから風邪をひくんだよ」
 至って普通になった拓海の部屋をぐるりと眺め、満足そうに頷くまみ。
 風邪から回復した英雄には絶望が待っているわけだが――そうとは知らない拓海は、まだ穏やかな夢の中である。

●参瑚と巳勾の場合
「巳勾、なんか眼が虚ろになってね?」
 桐ケ谷 参瑚(aa1516)の声に、巳勾(aa1516hero001)は目をそっと逸らした。自分でも頭がぼーっとすると思っていたし、風邪っぽいと見当をつけてはいたのだが。
『や、大した事ぁねェから大丈夫よ』
「大丈夫に見えねーから参瑚さんが言ってんでしょ」
 ここで逃がすかと参瑚は巳勾の帯を掴む。助平と言われようが何のその。大体簡単に帯を捕まえられた時点で調子が良くないのは確かだ。
「ハイ、体温計」
 強引に英雄の口の中に突っ込んだ結果は熱有り。恐らく風邪だろう。やっぱりなーと体温計を消毒する参瑚に、巳勾は良い事を思いついたと笑みを浮かべる。
『風邪ならアレよ、卵酒でも飲みゃあ一発治らあな♪』
 酒は百薬の長。薬は無くとも酒は有る。
「分かったよ、病気の時くらいなら許そう」
 まさかの許可が下りたことに思わず身を乗り出す巳勾だったが、
「……とでも言うと思ったかー!!」
 参瑚の繰り出した冷却シートが額にクリーンヒット。痛みに悶えながらもソファーに逆戻りである。医師を志す参瑚にとって酒なんて言語道断。滋養のつく物を食べて温かくして、ゆっくり休むのが一番だ。
「おじや作ってやるから感謝に咽び泣いて待つがいい」
 病人向け料理を脳内でリストアップしつつ、参瑚は足りない食料を買い出しに。巳勾には大人しくしてろよ?と釘を刺して、いざスーパーへ。

 やってきたものの、店内は人でごった返していた。英雄風邪のせいかと考えつつ、卵や喉の為の林檎をカゴに入れてちょうど目についた桃缶に手を伸ばしたところで、隣から伸びてきた少年の手に気が付いた。
「お、ごめん、先どーぞ」
「あ、すみません」
 少年が桃缶をカゴに入れた所で、いつも通りの表情を浮かべて。
「ここのメーカーの桃缶おいしーよな」
 言いながら参瑚も桃缶を一つ取ってカゴの中に。世間話と洒落こむも病人が家で待っている為早々に切り上げて、帰宅した参瑚は早速料理に取り掛かる。
 ささみ肉と大根、白菜に生姜をきかせて柔らかく煮込み、溶き卵を入れて。出来上がったのは参瑚特製のおじや。
「ほい、たらふくお食べ」
『ほう……参瑚が作ったにしちゃなかなか良くできてる、美味そうだ』
「なんならふーふーしてあーんしてあげようか?」
 冗談とも本気とも取れる真顔の参瑚に『やめろィ、気色悪ィ』と片手を振って辞退する。見た目を裏切らず美味かったおじやを綺麗に平らげ、器を置けば次に出てきたのはすりおろし林檎の混ざったヨーグルト。デザートという事なのだろう、至れり尽くせりだ。それは嬉しい事なのだが。
『しかしいいのかい、受験近ェんだろう?』
 医師になる為の受験なのに自分の世話ばかり焼いていていいのかと言う英雄に、参瑚は「受験勉強?」と首を傾げる。
「一日休んだくらいでダメんなるなら、そりゃ俺の今までの努力が足らなかっただけじゃん?」
 それに。
「目の前の病人ほっといて、医者になれるかっての」
 口元だけ綻ばせた微笑に巳勾は数度瞬きしてにかりと笑う。
『……そうかい、お前さんイイ医者になれらあな』
 ぽんぽんと参瑚の頭を撫でる手はまだ熱いけれど、すぐに良くなるだろう。
 なんて言ったって、未来の医者がついているのだから。

●木霊とオリヴィエと征四郎とガルーの場合
『リーヴィ、大丈夫か!』
『……声が大きい』
 木霊・C・リュカ(aa0068)からオリヴィエ・オドラン(aa0068hero001)が風邪と聞き、救急セットを抱えてやってきたガルー・A・A(aa0076hero001)はオリヴィエのじと目をスルーしててきぱき看病を始めた。
 未知の病への興味と心配が4:6という割合ではあるが、薬屋を営んでいるだけに手際よくオリヴィエの汗を拭いて額に氷嚢を乗せる。
『セオリーとしては体を温めて頭を冷やすことだが、楽になったか?』
 どうだ?と窺ってくるガルーに、少し楽になったとオリヴィエは頷く。オリヴィエの風邪は鼻と熱からやってくるようで、熱が和らぐだけで楽になった感覚がある。それに、ガルーの比較的優しめな看病も嬉しいような、気がする。
『後で粥を作ってやるから』
 次々と行動に移していくガルー。
 普段看病される側である木霊もお湯を沸かしたり冷却シートを取り替えたりしていたのだが、やはり専門家の動きは速い。看病時にやる事は分かっているのだが、何しろ初めての事だから若干手際の悪い部分が目立ってしまう。「あれー、確か市販薬どっかにあったはずなんだけどなー」と風邪薬を探すも見つからなかったり、とかとか。だからこそガルーを呼んだわけなのだが。
『よもや英雄が風邪をひくなんて……。ライヴスの異常か、それとも特殊なウィルスなのか』
 雲行きが怪しい、というか目がやばい。
『とにかく調べるところからだが。早く薬を作る……あわよくば論文……』
 調べるの辺りで熱っぽい目で見つめられたオリヴィエ、これは病への興味が大きいのでは?むしろ興味だけでは?と首を傾げたのも束の間。
 様子を覗き込んできたガルーの顔が、近い。
 それはまるで押し倒されるかのような距離で、オリヴィエは目を見開いたまま――倒れこんできたガルーの重みを感じることになった。
『……おい、おい?』
『え、あれ、体が重い』
『リュカ、ガルーが倒れた!』
 起こそうにも下敷きにされて思うように身動きが取れず、鼻をずびずびさせながら必死に能力者を呼ぶ。呼ばれた木霊もひいひい言いながらどうにかガルーを布団に移し、ぽちぽちとメールを打つ。
「材料、一人分追加お願いします、っと」

 メールを受け取った紫 征四郎(aa0076)は増えた買い物内容をメモしつつ買い出しへの道を歩いていた。元々買い出しは征四郎が、看病はガルーがと分担をしていたわけだが思いの外大荷物になりそうだ。
「あ」
 やってきたスーパーの中、知った顔を見つけて思わず足を止めれば、相手も同じく気付いたようでぺこりとお辞儀をされた。
 名執芙蓉。以前依頼で関わった人物で、現在はエージェントとして活動を始めているとか。
 互いに英雄と共にいない所から自然と話は英雄風邪の話題になり。
「そちらもなのですね。心配ですね……」
 どうやら名執の英雄も風邪に感染してしまったらしい。安静にしていれば治るとのことだが、英雄も気が気でなければ能力者だってそうだろう。
 早く良くなりますようにと大事を願って名執と別れ、征四郎は膨れ上がった買い物バッグを背負った。通常ならば肩にかけるはずのそれは、多くの食材が詰め込まれているせいで征四郎の身体ではちょっと危うい。
「お、重いのです……」
 どうにかこうにか、ぎゅっとバッグを握り締めて見据えるのは帰路。正月早々大変なことになってしまったけれど。
「征四郎が、頑張らなければ!」
 まずは、帰る所から。

 征四郎が大荷物を抱えて歩いている間、木霊家も大変なことになっていた。
 オリヴィエの隣の布団に収まったガルーはたまに魘されて布団を抜け出そうとするわ、それを逆エビ固めしてオリヴィエが止めるわ、大変なのだ。主に木霊が。
『俺が、俺が一番に英雄風邪の薬を作る……作らなければ……』
 もがきながらガルーがそんなことを言うものだから、オリヴィエを止めるべきか、ガルーを止めるべきか。しかし迷ってる内にガルーの意識は落ちかけていて。
『リーヴィ、すまん。力になれなくて……』
 最後に一言呟いて眠りについた英雄の声は、もう一人の英雄だけが聞いている。
『……熱いか、わからないな』
 手を伸ばせば届く距離にある頬に触れれば似たような体温で、あぁ自分も熱いから分からないのかと気付く。
 そんな穏やかな時間が流れて――いた。
 ドサリと重たい荷物が置かれ、息を整えた末のただいまが聞こえるまでは。

 征四郎が大荷物を抱えて帰宅した後、木霊家は再び(主に征四郎が)どたばたし始めた。
「熱が上がってる……!」
 そう言って氷嚢を持ってきたものの慌ててガルーの頭上に落としかけたり、おかゆを焦がしかけたり。やるべき事は分かるのに体がついてこない。しかも自宅とは勝手が違うものだから、その部分も慌てる要因になってしまっている。
「リュカ! このタオル、使ってもよいですか?」
 あっちへばたばたこっちへばたばた。走り回る征四郎を微笑ましいなと応援したり手伝ったり、ちょっとハラハラしながらも木霊は見守っていた。
「そうそう、卵をといてからふわっといれて、弱火でちょっと置いておく」
 大丈夫大丈夫と隣に立って、征四郎をいつものペースに引き戻していく。
「ネギもいれて、梅干しもいれると口さっぱりするからね」
 おかゆが出来上がる夕方頃には征四郎も看病も落ち着いて、ほっと一息ついて休憩タイム。
「はい、せーちゃんお疲れ様」
 差し出されたレモネードに征四郎は「ありがとうございます」と感謝を述べて一口。ガルーもオリヴィエも今はよく眠っているし、きっと早く良くなるだろう。
「やっぱりする方は大変だね、いつもご迷惑かけます」
 いざ看病する側になって痛感した大変さ。しかしそれを真面目に言ってしまっては、うとうとし始めた征四郎をまたしっかり者に戻してしまいそうなので、努めて冗談っぽく。
「治ったら、健康祈願の初詣、さっそく皆で行こっか!」
 征四郎分の毛布を持ってきた木霊の声を聞きながら、少しは役に立てただろうかと少女は思う。役に立てていたならば、どうか。
 ――はやく、元気になってくださいね。

●亮とシロガネの場合
 シロガネ(aa1195hero002)はふと目を覚ました。体は重いが、起きて向かわなければいけない場所がある。
『……オヤジはん、何か手伝いましょか?』
 隣室は台所で、奇怪な音が聞こえてくる現場で――現在、百目木 亮(aa1195)が孤軍奮闘している戦場でもあった。
「いや、寝ててくれや」
『そないな音立てられたら寝られまへんて』
「……もうちょい静かにする」
 頭をガシガシと掻いて、亮は再び目の前の料理に向き直った。如何せん家事(主に料理)は第一英雄に任せていた為、あまり得意ではない分野である。しかしあの好々爺は不在。看病の経験もほとんど無いので、頼りになるのは子供の頃の記憶のみ。
「(看病ってどうやるんだったっけなあ……ばあちゃんは何してくれたか……)」
 どうにか引っ張り出した記憶に残るのは、冷たく絞られたタオルと、熱で火照る頬に当てられた冷えた祖母のてのひら。
「……ずいぶん昔のことか」

『(特別うるさい訳やないけど、おじいはんの音と違うて落ちつかへん……)』
 部屋に戻り、布団に潜り込んだシロガネはおとなしく横になっていた。看病慣れしていないのだろう、ありったけの布団と毛布を乗せられそうになるし、台所から聞こえてくる音が妙に危なっかしいし。かといって手伝おうかと思えば先ほどのように眠っていてくれと言われてしまう。
『(風邪の時は水分要るてお二階はんが言うてたなぁ。後でせがみますか)』
 水分と言えばどの飲み物がいいか悩ませてしまうだろうから、出来るだけ具体的に要求しなければ。スポーツドリンクならばいいだろうか。後は……とシロガネ自身も自分の持っている知識をフル稼働させる。
 そうして考えていると、軽いノックの音と共に「買い出し行ってくる」と亮が顔を覗かせた。思わず自分も行こうかと言えば、苦笑気味に寝ていろと言われてしまう。買い物はやれてる、という主張付きで。
「何か必要なもんはあるか?」
 聞き取りやすいようにか布団の傍までやってきた亮。
『スポドリと、喉痛いんでバニラアイスが欲しいですー』
「寒いってのに……いや、」
 そっとシロガネの額に乗せられたのは亮の左手。洗い物でもしていたのか、適度に冷えた温度が心地いい。
「熱出て熱いのか。わかった、買ってくる」
 立ち上がった亮に寄り道はしないようにと釘を刺せばわかったわかったと苦笑するから、出かけていく背中に手をひらりと振って見送る。
『……寒いなぁ……』
 考え事をして疲れたのもあってか、布団に潜り込んだシロガネは穏やかな眠りに落ちていく。

 買い出しに出かけた亮はスーパーに寄り、食材を買い込んでいた。
「卵に葱に、醤油。あとはスポーツドリンクに、バニラアイスっつってたか」
 大き目のスポーツドリンクをカゴに入れて思い返すのはシロガネの要求の細やかさだ。
「ありゃ気ぃ遣われてるよなあ……」
 こちらが悩まないようにと気を回してくれている。もう少し上手くやれればいいものだが……とりあえずは。
 シロガネが眠っていられるよう、出来るだけ静かに料理をしようと食材を多めに買い込む亮であった。

●GーYAとまほらまの場合
『あたしどうしちゃったのかしらぁ』
 ふらふらしながら幻想蝶から現れたまほらま(aa2289hero001)は、パジャマ姿のまま床にへたり込んで自らを抱きかかえる。とても寒い。震えが止まらない。一体、何が。

「38度5分で寒気か、なら39度以上体温は上がるな」
 人間基準だけどと付け加えて、自分のベッドに英雄を運んだGーYA(aa2289)は呟いた。羽毛布団と厚手の毛布を重ね掛け、さらに湯たんぽで温めて加湿器で湿度の調整も欠かさない。加えてエアコンの設定温度を上げれば看病用の部屋の出来上がりだ。
 まほらまの様子を確認し、的確に水分補給を挟み冷却シートを貼り直すジーヤの行動は手慣れていて安心できるから――まほらまは、いつの間にか意識を落としていた。

 腕に点滴がある。胸には薄いプレートがいくつも貼られ、電子音が鳴り、横に置かれた機器の数値が変動している。
 ここは小さな窓しかない――病室。
 時折現れる看護師は事務的に機器を確認して去っていくばかり。電子音が乱れれば人が増えて騒がしくなるが、処置が施されて規則正しい旋律が響くようになればまた独りきり。
 誰もいないし、誰も現れない。
『(これは)』
 ふと、まほらまは気づいた。これはジーヤの記憶だ。熱に浮かされたせいか、ジーヤの過去を追体験しているのだ。
 ――暖かさを求める手は何も掴めない。夢は形になる前に消えていく。優しい嘘は救いにもなるし許す事もできる。
 ジーヤがもがき、苦しむ。伝わってくる。記憶だからこそ、まほらまに、直に。
 ――越える事ができればこその試練だ。それなら、生きられないと知ったものはどうすればいい?
 ――嘘はどんなに優しくても嘘のまま終わる。
 ――世界に拒絶されれば足掻く事さえ許されないのか!?
 ジーヤが、掴み取ろうと手を伸ばしている。
『(あぁ、だから)』
 だから愚神ではなく、英雄として隣に居られるのだ。
 世界を恨んでいたのではなく、ジーヤが『世界』を求めたのは。
 優しい人と交わした約束を、優しい嘘のままにしたくなくて。
 認められ、輝こうと足掻いていたから。
 ――視界が、明るい。

 まほらまが目覚めたのは、もう日が暮れる頃だった。
 夕焼けに照らされる部屋の中、影に目を向ければそこには眠る前と同じ、たった一人の能力者の姿がある。
『そばに居てくれた……の?』
「HOPEに出向いて担当者から正確な情報聞き出し知り合いに拡散した後はずっとね」
 その際、とある依頼で関わった名執芙蓉や竜見玉兎と出会い、互いの状況や看病の方法を共有して……看病にはこれですよと提案された物が一つ。
 それはちょうど、『担当者もお気の毒』とまほらまが微笑んで視線を向けた先にある。
「英雄だけが罹患する風邪みたいなものだからすぐに治るってさ」
 でももしかしたら、またある事かもしれないし。幻想蝶内に能力者は入れないわけだし。
「これを機に2DKの物件見つけて引っ越そうか」
 まずはまほろまの風邪が治ってから、と微笑むジーヤにまほらまも微笑を返して。
『(そうね、たくさんお花を飾りましょうか)』
 瞳に映った、青い花のように。
 たくさんの幸福を、飾ろう。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
    人間|31才|男性|攻撃
  • 仄かに咲く『桂花』
    オリヴィエ・オドランaa0068hero001
    英雄|13才|男性|ジャ
  • 『硝子の羽』を持つ貴方と
    紫 征四郎aa0076
    人間|10才|女性|攻撃
  • 優しき『毒』
    ガルー・A・Aaa0076hero001
    英雄|33才|男性|バト
  • (自称)恋愛マスター
    桜茂 まみaa1155
    人間|30才|女性|命中
  • エージェント
    松田 拓海aa1155hero001
    英雄|26才|男性|ジャ
  • HOPE情報部所属
    百目木 亮aa1195
    機械|50才|男性|防御
  • Adjudicator
    シロガネaa1195hero002
    英雄|20才|男性|ブレ
  • 助けるための“手”を
    桐ケ谷 参瑚aa1516
    機械|18才|男性|防御
  • 支える為の“手”を
    巳勾aa1516hero001
    英雄|43才|男性|バト
  • 紅の炎
    アリスaa1651
    人間|14才|女性|攻撃
  • 双極『黒紅』
    Aliceaa1651hero001
    英雄|14才|女性|ソフィ
  • ハートを君に
    GーYAaa2289
    機械|18才|男性|攻撃
  • ハートを貴方に
    まほらまaa2289hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • Trifolium
    バルタサール・デル・レイaa4199
    人間|48才|男性|攻撃
  • Aster
    紫苑aa4199hero001
    英雄|24才|男性|ジャ
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