本部

「ちゅー」がしたいの

落花生

形態
ショート
難易度
やや易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~10人
英雄
6人 / 0~10人
報酬
寸志
相談期間
5日
完成日
2017/11/25 21:16

掲示板

オープニング

●映画
「愛の記憶が欲しいの」
 ヒロインは、主人公と唇を合わせる。
 閉じたヒロインの瞳の奥では、様々な愛の記憶が流れていた。

●現実
「これが映画の企画書ですか」
 H.O.P.Eの職員は、プロデューサーに渡された企画書を読んでいた。とある映画の企画書。内容はSF恋愛ものとでもいうべきか、一番の見せ場はヒロインの宇宙人が地球人の主人公とのキスシーン。そのキスによって宇宙人のヒロインは、様々な人間のキスシーンを見るのである。そのシーンを見たヒロインは、人間との共存を心に決めるというものである。
「あの、なんでヒロインは主人公とキスして他人のキスシーンがフラッシュバックするんですか?」
「それが宇宙人としての能力です」
 いくら宇宙人だからといって、それでいいのだろうか。
 H.O.P.Eの職員は、疑問符を浮かべながらも企画書をめくる。
「今回リンカーさんたちには、ヒロインのフラッシュバックの中身になってもらいたいのです」
 なにそれ、と職員は思った。
 映画のプロデューサーの話によると、ヒロインのキスシーンのあと数分だけ流れる様々な人間のキスシーン。そのエキストラとして、リンカーたちに出演して欲しいということである。
「このシーンはヒロインが愛を知るシーンですから、できるだけ多種多様な人間のキスシーンが欲しいです。家族愛とか友情とか、そういうのでもいいです。ああ、でもこの映画は全年齢指定ですから、そこらへんは注意してくださいね」
 友人同士でキスするかな、と職員は思った。
「まぁ、H.O.P.Eには多くの人がいますから映画のエキストラとして募集をかけておきます」
 よろしくおねがいします、とプロデューサーは頭を下げる。

●H.O.P.E支部の廊下
「キスシーン……キスシーン」
 アルメイヤは、素敵な響きを胸で半数する。
 この仕事に参加したら、合法的にエステルの天使のほっぺたに「ちゅー」できるのである。
「キスシーン……キスシーン」
 アルメイヤは不気味に唱えながら、家路を急ぐ。
 その後姿を見ていた男も、また呟いた。
「キスシーン」
 男は、アルメイヤのストーカーであった。
 だが、存在感がなさすぎてアルメイヤに気がついてもらえない存在だった。
「この依頼にでれば、アルメイヤさんとキスできる」
 ストーカーは、はぁはぁと歓喜した。

解説

・映画のエキストラに参加してください

・場所……映画会社(昼)俳優や女優が多くいる広い建物。
・撮影場所……室内の白い壁の前。撮影スタッフの数が多いが、和気あいあいとしている現場。
・休憩室……エキストラが休憩できる部屋。飲み物やお菓子が自由に食べられる。
・更衣室……着替えができる部屋。衣装の持込は可能であるが、たいていのものは撮影所にそろっている。

・キスシーン……恋人、友人、家族、関係はなんでもOK。ただし、映画は全年齢指定である。

・アルメイヤとエステル……アルメイヤはエステルとの「ほっぺにちゅー」を狙っている。エステルはそれを少し恥ずかしがっている。

・ストーカー……休憩室に忍び込むストーカー。アルメイヤとの「ちゅー」狙っており、隙あらばアルメイヤの唇を奪おうとする。なお、ストーカーは存在感がない一般人であり、ストーカーらしい雰囲気はない。

リプレイ

●待合室はドキドキ
 その日も撮影所は活気に満ちていた。そんな撮影所で、とある映画のエキストラへと応募したリンカーたちは休憩室に通された。
「呼ばれるまではここで過ごしていてください」
 スタッフは、休憩室を後にする。
 エウカリス・ミュライユ(aa5394hero001)は、恥ずかしそうにもじもじしていた。
『えっとね、クロエちゃん。前に映画出たことあるって言ってたじゃない。だから私も出たいな、って』
「うん」
 クロエ・ミュライユ(aa5394)は、心を無にして英雄の言い訳を聞く。手には、映画の台本。クロエたちはエキストラのため、むろん台詞など書かれてはいなかったが。
『でね、クロエちゃんも一緒に出られたらいいなって思ったの』
「うんうん、私もカリスと一緒に出るのはちっとも嫌じゃないわよ」
 にっこりとクロエは、笑う。
『それで、H.O.P.E.で募集がかかってたから、出ます、って言っちゃったの』
「そうだったのね。でもね……。これ、キスシーンしかないエキストラじゃないのよ――っ!!」
 さっきまでの笑顔はどこかに忘れてきたような形相で、クロエは叫んだ。
『ひゃあああああっ!? ぜ、全然気づかなかったんだもん……』
「大丈夫よね、ベッドシーンでのキスとかじゃないわよねぇ!!」
 クロエは、台本をチェックする。
 へっぽこ英雄はお菓子を食べながら、ぐすんぐすんと泣くばかりである。
「……ん。アルヴィナ……キスシーンなんて、やっぱり、恥ずかしいよ……」
 氷鏡 六花(aa4969)は、ぽっと頬を赤く染める。やることは分かっていたが、いざその日になってしまうと恥ずかしさが先立つ。
『あら、そう? さっきからエステルも恥ずかしがってるみたいだけれど……キスっていうのは、恥ずかしいものなのかしら?』
 一方でアルヴィナ・ヴェラスネーシュカ(aa4969hero001)は首を傾げていた。アルヴィナとしては、仕事で六花との「ちゅー」を記録できるので大変喜ばしいかぎりなのである。可愛いプニプニほっぺに「ちゅー」だなんて、今から楽しみだ。
「一組ずつ撮影していくんだな?」
 フラッシュバックの映像にしては1組ずつの事情を丁寧に拾ってるな、と迫間 央(aa1445)は映画の企画書を見ていた。マイヤ サーア(aa1445hero001)が珍しく「この依頼を受けたい」と自己主張した仕事である。キスシーンの撮影というのは、少々以外であったが彼女のために綺麗な記録をとりたい。そう思いながら、央は鏡でさりげなくスーツの確認をした。着慣れたスーツだが、この姿で映画に出ると思うと若干緊張するような気がする
『今日の主役は薙だから。このくらいシンプルな方がよい』
 一方で、念入りで鏡で自分の姿の最終チェックをする者もいた。エル・ル・アヴィシニア(aa1688hero001)である。細身の黒いドレスに小さく可憐な白い花を髪に挿して、服の雰囲気だけならばヨーロッパの純朴な娘のようである。
「僕達、エキストラなんだよね?」
 魂置 薙(aa1688)は、休憩室においてあった菓子をつまむ。キスには抵抗がないつもりだったが、こうして改めて休憩室に集められると緊張する。もしかしたら、央がさりげなくスーツを直しているのを目撃してしまったからかもしれない。自分も何か服装チェックをしたほうがいいのだろうか、と薙はそわそわしていた。
「番号、三番の方! スタジオに入ってくださーい」

●とある夫婦のちゅー
「キスシーンだって……!?これはボクとえすちゃんの絆を試す時……!」
 撮影所で御剣 正宗(aa5043)は、興奮していた。まだ撮影は彼女たちの番ではなかったが、先に見学しておきたかったのである。一方で、撮影内容を今の今まで知らなかったCODENAME-S(aa5043hero001)はため息をついた。自分には婚約者までいるというのに。
『……はぁ』
 本日、何度目なのか分からないため息をCODENAME-Sは零す。
『キスなら、どんなキスでも構わないのよね?』
 レミア・ヴォルクシュタイン(aa3678hero001)は、スタッフに最終確認をする。スタッフが頷いたのを確認するとレミアは「にやり」と笑った。そして、おもむろに取り出したのは使い込まれた荒縄であった。
「ぬッ……レミア……?」
 姫と青年のキスを思い描いていた狒村 緋十郎(aa3678)の体に、若干緊張が走る。公衆の面前で、映画として残るものに、そんないつもどおりの光景を残してよいのだろうか。戸惑っている間に緋十郎の体は、手際鮮やかに縛り上げられる。撮影所の冷たい床に転がされて、細いヒールで緋十郎の肉がへこむほどに踏みつけられる。そのとき、ロングスカートの裾からふわりと香るのは甘い香り。
 愛しいレミアの体臭である。
 ――もう、いつもどおりでいい。
 緋十郎の理性は、簡単に陥落した。
『さぁ、このあとはどうすればいいのかしら?』
 真っ赤な靴から取り出されたのは、小さくて白い足。
 その白い足に、ごくりと緋十郎は生唾を飲み込む。レミアの要求は、分かっている。だって、彼女の足は緋十郎の下へとちょっとずつ近づいていく。緋十郎は彼女の無言の要求どおり、足の指先にキスをする。
 リップ音もしない。
 触れるだけの――服従の証を。
『どう、しっかり撮れたかしら?』
 レミアの言葉に、監督は「使えるかー!!」と切れた。アシスタントは先ほどの取れた画像を名前を付けて保存する。データの名前は「女王様の戯れ」今回取ろうとしている映画とは明らかに方向性が違う。
「もうちょっと、お子様が見ても大丈夫な感じでお願いします」
『さっき、どんなキスでも良いって言ってたじゃない。分かったわよ、仕方ないわね……』
 レミアは緋十郎を軽々と持ち上げると、転がしたせいで乱れた彼の髪を整えた。見苦しくない程度に整え終わると『カメラを回して』とスタッフに合図を送る。
『ほら、目を閉じなさい、緋十郎』
 愛し合う男と女のキスよ、とレミアは緋十郎にささやいた。金色の髪をさらりと揺らして、レミアはそっと緋十郎に口付ける。それは、段々と深いものになっていき――
「全年齢指定だって言っているだろー!!」
 監督が、再びキレた。
 『しかたないわね』と渋々レミアは縄を解いて、緋十郎を顎をつかんでキスをした。

●とある婚約者同士のちゅー
「なんか、スタッフが疲れているような……」
 首を傾げながらも、央とマイヤはスタジオに入る。白い壁の前に立たされて、普段は目にしない大きなカメラを前にすると少しばかり緊張がぶり返してくる。俳優や女優はこのような場所でキスの撮影をしているのかと思うと、彼らの仕事ぶりには脱帽するしかない。
「キスの撮影なんて、珍しいな」
『いつ央が愚神や従魔に襲われるかわからないから』
 ドレスの裾を揺らしながら、マイヤはそっと央の胸に手を当てる。マイヤの頬がいつもよりも若干赤みを帯びているのは、メイクのせいなのかもしれない。
『残しておきたかったの』 
 二人が出会った当初、マイヤは疲弊しきっていた。常に虚ろで、空っぽだった頃の自分。深い悲しみと喪失感で、消えることだけを望んでいたマイヤの側にいてくれたのは央だった。央が、最初に自分に呼びかけてくれた言葉を今でも覚えている。彼の存在が、とても暖かいことも知っている。
『いつか――』
 自分たちの前に、強大すぎる敵が現れたとき。
 それに、自分たちの力が届かなかったとき。
 マイヤは、央を失うだろう。二度目の喪失から立ち直ることなど、マイヤは望んでいない。今度こそ、静かに消えていくことを望む。
 だが、そうやってマイヤが消え去れば、今の自分たちの生活が誰の記憶にも残らないであろう。それが、少し寂しかった。だから、残したいと思ったのだ。
 映画のワンシーンでいい。
 自分は、この人と共にあったのだという証拠を残したい。
『……私はきっと、貴方に出会う為に、この世界に喚ばれた……私は貴方との運命を疑わない。央にとっては、どう?』
 二人の関係は、恋人、相棒、婚約者。何と言えば適切なのか、分からない。いつか時が満ちたらと約束はしているが、その約束以上の役割が二人を強く雁字搦めに縛っている。
 マイヤの真っ直ぐな言葉を聞いた央は、少しだけ息を吐いた。
 彼女の気持ちは、痛いほどに伝わった。そして、伝えたいことがあった。ただ、その言葉を吐き出す勇気を搾り出すのに数秒が必要であったのだ。
「……運命とか、そういうのはわからないけれど、マイヤは俺にとって、何より特別だよ」
 自分たちが主役だったら、指輪か花束を彼女に渡すべきなのだろう。
 だが、今回はあくまで自分たちは脇役。
 だから、今の央はマイヤの白い腕をただ受け入れる。そして、彼女は央にキスをする。
 触れるだけの短いもの。
 だが、二人が離れたその一拍後、マイヤは再び央にキスをする。
 今度は時間が止まってしまったぐらいに長くて、優しいキスを。

●とある姉弟のちゅー
『大きくなったの』
 小さなブーケを手に持ったエルは、しみじみと薙を見つめる。
 ようやく並んだ背丈はうれしいが、男の子である薙はきっとエルをすぐに追い抜いてしまうであろう。それを思うと、少しばかり寂しい。彼は自分を年の離れた姉のように思ってくれているようであるが、本物の姉もきっと弟を見たらこんな気持ちになるのであろう。その痛みに耐えながら、エルは撮影スタッフから持たされた花束で遊ぶ。
 感謝の気持ちで花束を送られた、その後。という設定をエルは撮影スタッフに伝えたが、小道具なしでそれを表現するのは難しいので、ということで急遽持たされたのである。白くて小さな花ばかりがつめられたブーケは、少ないお小遣いを必死にやりくりして買った物のように思われた。
『薙の幸せを願うておるぞ』
 出会った時、薙は傷ついていた。
 愚神を家族に殺された少年に、エルは一人ではないとずっと語りかけ続けてきた。ボロボロになっていた薙を放っておくことが、エルにはどうしてもできなかったのだ。自分がいる、仲間がいる、世界はまだ暖かい、そういうふうにエルは薙に語りかけ続けてきた。
 そのかいもあって、今の薙はほんの少しだけ笑顔を見せてくれることもある。生意気にも、自分のことを鬱陶しく思っているときだってあるようだ。
 その変化が、エルにはうれしい。
 ちゅ、とリップクリームを塗っただけの唇が薙の頬に触れる。
 十年後、二十年後――もっとはるか先のあなたが、安らいで過ごせていますように。
 そういう願いをこめながら、エルは薙にキスを送る。
 きっとカメラには弟が姉に花束を贈って、姉がその礼にキスをするというふうに映っているだろう。
『お返しはしてくれぬのか?』
 いたずらっ子のような顔をして、エルは薙にささやく。
 返事など期待していない。
 きっと思春期真っ盛りな弟は、恥ずかしがって顔をうつむかせているだけであろう。エルは、そう思っていた。だが、薙はまだあどけなさが残る顔で、エルを見つめていた。
「エルル、ありがと」
 わずかな戸惑いに後に、出てきた言葉。
 その言葉に、エルは目を見開く。だが、すぐに柔らかな笑顔となった。
 薙は、見守られていることを理解していた。
 ただ普段は、それを上手くは伝えられなくて――。
「これからは僕も、エルルを守るからね」
 昔に比べたら、薙の身長は伸びて体格も少したくましくなった。いつか、大人の男になって、姉のような人を、家族を守れるようになるのだろう。
 だから、少しだけでいい頼って欲しい。
 ちゅ、と薙はエルの頬にキスをした。きっとエルにとっては以外だったのだろう、彼女はまた少しだけ驚いて、次の瞬間には薙を抱きしめていた。
「えっ……あの、エルル」
 彼女の柔らかい髪が頬に触れて、自分たちはようやく同じぐらいの身長になったのだなと薙は驚きながらも考えた。
「カット。とってもよかったよ」

●とあるストーカーのちゅー
「ん……。さっき……ドラマにでていた俳優さんをみちゃった」
 撮影所をうろうろしていた六花は、控え室に戻ってきてからはぁと感嘆のため息をつく。普段テレビでみるような俳優や女優を見たことによって、少しだけ興奮しているようだ。
 番組はこういうふうに作られるんだ、と小さな六花の胸はときめいていた。社会科見学をしている小学生のような六花は、どこにいっても好意的に受け入れられた。皆、優しかったな、と六花は思い出してうれしくなる。何気ない気持ちで見ているテレビに、今度から違う視点がもてそうであった。
 エステルは、ほんの少し頬を赤くしていた。
「……ん。エステル……。アルメイヤさんも、アルヴィナも……何だか、乗り気、みたいだし……。もう、覚悟を……決めて……がんばろう……ね。やっぱり……恥ずかしい、けど……」
 恥ずかしがるエステルにアドバイスをしながら、六花のほぐれたばっかりの緊張が再び訪れる。一方でアルヴィナとアルメイヤたちは、平然としている。
 大人って、すごい。
 隠れて他の組のキスシーンを見たときの六花は、顔が熱くてたまらなかったのに。いつか自分も平然と人にちゅーができるようになるのかな、と六花はちらっと考える。
 だが、そんななかでアルメイヤを熱心に見ている男を六花は発見した。アルヴィナも気がついて、アルメイヤに尋ねる。
『ねえアルメイヤ。あの人……あなたの知り合い?』
「いいや、映画のスタッフじゃないのか?」
 アルメイヤは、男に関心を持っていなかった。
「そういえば、あんな人いたっけ?」
 六花と同じく、男に気がついたクロエは首を傾げた。
『……なんだろ。英雄さんも一緒じゃなさそうだけど』
 もぐもぐとエウカリスもチョコを食べながら呟く。
「みんなまだラブラブいちゃいちゃしてるのに……うわ、エステルって子のほうばっか見てる」
 絶対にロリコンよね、とクロエは判断した。
『……なんだろ。英雄さんも一緒じゃなさそうだけど』
 うーんと首を傾げながらエウカリスは、クッキーを食べる。そろそろ休憩所のお菓子が全滅してしまう。
「八番の方! スタジオにはいってくださいーい」
 スタッフに呼ばれたアルメイヤとエステルが、立ち上がろうとした。その瞬間、エステルを熱心に見ていた男も立ち上がる。
「アルメイヤさん! ずっと見ていました、俺とちゅーしてください!!」
『おまえなど、知らん!!』
 エステルに近づくな、ロリコン!! とアルメイヤは叫びながら男の頬をひっぱたいた。アルメイヤも、男のことをロリコンだと思っていたのである。
「な……なにが起きたの?」
 六花は、目をぱちくりさせながら男を見ていた。
 そんな男に、アルヴィナは語りかける。
『私もまだよく分からないけれど……キスっていうのは、お互いに愛情を抱いている者同士が、愛慕の情を確認し合う為にするのでしょう? 片思いも、一つの愛の形ではあるみたいだけど……無理やり迫るのはマナー違反なのじゃないかしら』
 アルヴィナの言葉に、男ははっとする。
「そうか! まずは、告白だった!!」
 普通はそうよね、とアルヴィナはため息をつくのであった。

●いとし子へのちゅー
「とうとう……六花たちの番」
 カメラに囲まれた六花は、緊張しながらアルヴィナを見つめる。特に特別な衣装は選んでいない、いつもの自分たち。
「ん……アルヴィナは、キスはお互いが愛情を抱いている者同士がやることだって」
 六花も、それぐらいは分かっている。だから、今からの行為はバレンタインで友チョコを渡すようなものなのだろう。でも、それよりもずっと恥ずかしい。
『六花。私は、六花がすごく大好きよ』
 ちっちゃくて、強くて、可愛い六花――強い悲しみを知っていても、その瞳は前を向いている。人間は好きって気持ちを表すときに、キスという行為をするという。それを知ったからこそ、アルヴィナは愛情を示す行為をやりたかったのだ。
 幼い六花の前で、アルヴィナは膝を折る。
 白いアルヴィナの指が額に伸びたことで、六花は反射的に目を瞑った。白くて、つるつるの額。思春期すらまだ迎えていない柔らかい皮膚に、アルヴィナはそっと唇を落とす。
 まるで、神聖な儀式のような光景だった。
 女神が、敬虔な信者に加護を授けるような。
「カット」
 監督の声が響く。
『とうとう、わたしたち番になっちゃった』
 エウカリスは、今更ながらあわてだす。
「キスシーンの服なんて選べるんだ……」
 一方で、クロエは諦めて衣装を眺めている。撮影所だけあって、普通に格好いい服から着ぐるみのような色物までなんでもそろっていた。
『キスするときの衣装……。んー、ウェディングドレス??』
 エウカリスがカーテンのような白いドレスを手に取ろうとしたので、さすがにクロエは止めた。
「……あのね。ちょっとガチすぎるし、妖しい領域に突っ込んじゃうでしょ。苗字同じなのが意味深になっちゃうし」
 世の中には、同性婚というものも存在するのである。二人でウェディングドレスを着て「ちゅー」なんて、ことをしたら間違いなく世の中ではそう思われるであろう。
「まあ、変に凝らないで、いつもみたいな感じでいいんじゃない?」
 女子大生同士の気楽な感じよ、とクロエは言う。
「よし、覚悟決めたわ」
『……』
 恋人ができたら「ちゅー」なんていくらでもするのだろうし、今「ちゅー」する相手はエウカリスである。減らないから大丈夫、とクロエは腹を決めた。一方で、言いだしっぺのエウカリスのほうが緊張しだしていた。
「ほらほら、なにガチガチになってるの」
 カメラマンの人がちょっと困っているでしょう、とクロエは年上のエウカリスをしかりつける。
『あ、あのっ……。ふ、不束者だけど、よろしくお願いしましゅ』
 舌をかんだらしく飛び上がったエウカリスに、思わずクロエは笑みを零した。
「ふっ……!! なあに、それ。お嫁に来るんじゃないんだから」
『ううう……。頼りないお姉ちゃんだけど見捨てないでぇ……』
 まったく、しょうがないんだから。
 クロエは、泣き出しそうになるエウカリスの髪を整えてやった。
「はいはい。……大好きよ、お姉ちゃん。ほら。ん……」
 家族に送るような、親愛をあらわすキス。
 ほっぺたに送る、軽いもの。
『ほにゃ……。 私も、大好き……』
 とろけた笑みを浮かべたエウカリスは、クロエの額にキスをした。

●とある英雄と契約者のちゅー?
 とうとう来てしまった、とCODENAME-Sは思った。
 正宗たちは最後のペアであり、撮影所にはエキストラは誰も残っていなかった。休憩室も同じで、正宗はそこで撮影がしたいと言い出したのである。正宗はCODENAME-Sには撮影所の変更の件を黙っていようと思ったが、撮影スタッフが休憩所に入る手前どうしても怪しくなる。だから、お弁当を食べるシーンの撮影だと偽った。
 CODENAME-Sの目は、疑いをはらんでいた。
『じゃあ、私はこのニンニクたっぷり焼肉弁当にします』
 ドラマ撮影スタッフのところからもらってきた余りの弁当は数種類あったのだが、CODENAME-Sはそれを選択した。ものすごく、警戒されている。
 正宗は、サンドイッチを選択した。その選択には意味があったのだ。
「……おかずを交換しよう」
『別にいいですけど?』
 正宗は考えていた。
 サンドイッチは箸やスプーンを使わないで食べれる弁当だ。しかも、紅茶にもよく合うため選らんでも不自然ではない。そして、非常にシェアしやすい弁当でもある。
『撮影所のお弁当って、けっこう豪華なんですね。有名人の人が、お弁当をお持ち帰りする気持ちもわかります』
 このサンドイッチも野菜がいっぱいで美味しいです、とCODENAME-Sはもぐもぐとサンドイッチを食べていた。CODENAME-Sのおかずをもらおうと正宗は、手を伸ばすがここで問題が発生した。焼肉弁当は、白米の上に肉が敷き詰められた丼スタイルの弁当なのだ。もらえそうなおかずは、肉かデザートのオレンジか漬物のみ。
 にんにくの臭い肉を選択することはできない。
 だからといって、これからキスする相手のデザートを奪うのは紳士の国イギリス出身者としてできない。
『……本当に、サンドイッチとそれの交換でよかったんですか?』
「ああ……」
 正宗は、若干死んだ目をしながら柴漬けをぽりぽりとかじっていた。
 美味しいけど、なにか違う。
「……デザートに、クッキーと紅茶でもどうかな?」
『それは、私がしますよ』
 休憩室の菓子入れを正宗は、ちらりと見た。
 だが、そこには入っていた菓子は空っぽであった。ちなみに、犯人はエウカリスである。
 CODENAME-Sが入れるダージリンは、今日も美味しい。だが、あわせる菓子がないのが少し寂しい。
「……そろそろ時間が押してるかな?」
 正宗が、ぽつりと呟いた。
 CODENAME-Sは、あわてて弁当を口に放り込む。コレを狙っていたのだ。普通に食べただけでは、普通に食べ終わる。だが、少しでも急がせたら――正宗の思惑通りCODENAME-Sの頬に米粒が付いていた。
 正宗は、ずいとCODENAME-Sに近づく。
「……ほっぺたに付いている」
 正宗は、CODENAME-Sの頤を掴んで柔らかな頬に近づく。
 そのまま、米粒をなめ取るようにキスを――。
『何をやっているんですか』
 冷たい声が響いた。
 少し視線をずらすとCODENAME-Sが、虫でも見るような目で正宗を見ていた。
「頼む、ボクとキスしよう……!」
 正直に言う。
 CODENAME-Sは、激怒した。
『やめてください! 警察を呼びますよ!』
「頼む!」
『しつこいです!!』
 正宗の体が吹き飛んだ。
 監督が「カット」と叫ぶが、CODENAME-Sの拳は収められない。
 誰か白いタオルもってこい、と撮影スタッフは叫んだ。
 CODENAME-Sは、正宗に向って唾を吐きかける。
『ペッ、あなたはこれで十分です!』
 この映像は使っていいですよ、と最後にCODENAME-Sは言い捨てて帰っていった。だが、撮影スタッフは全員が思った。
「……いや、使えないから」
 こうして、映画のキスシーンはCODENAME-S組みだけ上映されなかったらしい。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 素戔嗚尊
    迫間 央aa1445
    人間|25才|男性|回避
  • 奇稲田姫
    マイヤ 迫間 サーアaa1445hero001
    英雄|26才|女性|シャド
  • 共に歩みだす
    魂置 薙aa1688
    機械|18才|男性|生命
  • 温もりはそばに
    エル・ル・アヴィシニアaa1688hero001
    英雄|25才|女性|ドレ
  • 緋色の猿王
    狒村 緋十郎aa3678
    獣人|37才|男性|防御
  • 血華の吸血姫 
    レミア・ヴォルクシュタインaa3678hero001
    英雄|13才|女性|ドレ
  • 絶対零度の氷雪華
    氷鏡 六花aa4969
    獣人|11才|女性|攻撃
  • シベリアの女神
    アルヴィナ・ヴェラスネーシュカaa4969hero001
    英雄|18才|女性|ソフィ
  • 愛するべき人の為の灯火
    御剣 正宗aa5043
    人間|22才|?|攻撃
  • 共に進む永久の契り
    CODENAME-Saa5043hero001
    英雄|15才|女性|バト
  • 世話焼きお姉ちゃん
    クロエ・ミュライユaa5394
    人間|18才|女性|命中
  • でっかい小さい子
    エウカリス・ミュライユaa5394hero001
    英雄|21才|女性|ジャ
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