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【白刃】鋼索線上のアリア
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調査隊出動!
最終発言2015/10/19 19:07:02 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2015/10/15 22:56:48
オープニング
●H.O.P.E.
「……老害共が、好き放題に言ってくれる」
H.O.P.E.会長ジャスティン・バートレットが会議室から出た瞬間、幻想蝶より現れた彼の英雄アマデウス・ヴィシャスが忌々しげに言い放った。
「こらこらアマデウス、あまり人を悪く言うものではないよ」
老紳士は苦笑を浮かべて相棒を諌める。「高官のお怒りも尤もだ」と。
愚神『アンゼルム』、通称『白銀の騎士(シルバーナイト)』。
H.O.P.E.指定要注意愚神の一人。
広大なドロップゾーンを支配しており、既に数万人単位の被害を出している。
H.O.P.E.は過去三度に渡る討伐作戦を行ったが、いずれも失敗――
つい先ほど、その件について政府高官達から「ありがたいお言葉」を頂いたところだ。
「過度な出撃はいたずらに不安を煽る故と戦力を小出しにさせられてこそいたものの、我々が成果を出せなかったのは事実だからね」
廊下を歩きながらH.O.P.E.会長は言う。「けれど」と続けた。英雄が見やるその横顔は、眼差しは、凛と前を見据えていて。
「ようやく委任を貰えた。本格的に動ける。――直ちにエージェント召集を」
傍らの部下に指示を出し、それから、ジャスティンは小さく息を吐いた。窓から見やる、空。
「……既に手遅れでなければいいんだけどね」
その呟きは、増してゆく慌しさに掻き消される。
●ドロップゾーン深部
アンゼルムは退屈していた。
この山を制圧して数か月――周辺のライヴス吸収は一通り終わり、次なる土地に動く時期がやって来たのだが、どうも興が乗らない。
かつての世界では、ほんの数ヶ月もあれば全域を支配できたものだが、この世界では――正確には時期を同じくして複数の世界でも――イレギュラーが現れた。能力者だ。
ようやっと本格的な戦いができる。そんな期待も束の間、奴らときたら勝機があるとは思えない戦力を小出しにしてくるのみで。弱者をいたぶるのも飽き飽きだ。
「つまらない」
「ならば一つ、提案して差し上げましょう」
それは、突如としてアンゼルムの前に現れた。異形の男。アンゼルムは眉根を寄せる。
「愚神商人か。そのいけ好かない名前は控えたらどうなんだ?」
アンゼルムは『それ』の存在を知っていた。とは言え、その名前と、それが愚神であることしか知らないのであるが。
「商売とは心のやり取り。尊い行為なのですよ、アンゼルムさん」
「……どうでもいい。それよりも『提案』だ」
わざわざこんな所にまで来て何の用か、美貌の騎士の眼差しは問う。
「手っ取り早い、それでいて素敵な方法ですよ。貴方が望むモノも、あるいは得られるかもしれません」
愚神商人の表情は読めない。立てられた人差し指。その名の通り、まるでセールストークの如く並べられる言葉。
「へぇ」
それを聞き終えたアンゼルムは、その口元を醜く歪める。
流石は商人を名乗るだけある。彼の『提案』は、アンゼルムには実に魅力的に思えた――。
●ケーブルカー始発駅
能力者たちはリンクを保ったまま、生きている者の気配が絶えて久しい駅に踏み込む。
そこに並ぶ可愛らしく飾られた車両は、かつて多くの人々を運んでいた。しかし、今はただ世界の無情さを見る者に訴えかける、悲しいオブジェと化している。
「じゃ、この辺の調査は任せたぜ。守るにしろ攻めるにしろ、やっこさんたちの鼻っ柱を叩き折るためには、この直通ルートは重要なんだ」
自部隊の移動を兼ねて送迎を受け持った別働隊のリーダーは、はるか頂上を見上げながらぶっきらぼうにそう告げた。
過去の討伐作戦に参加したことのある彼には、少なからず思うところがあるのだろう――そう能力者たちは考えながら、駅からゆるやかに広がる路地を進み、調査を開始した。
解説
●目的
生駒山山頂に向かう「直通ケーブルカー」の周辺に、どれだけの敵戦力が配備されているか調査する。
●詳細
・PCたちは、OP開始時点で別働隊の助けを借り、リンク状態で麓のケーブルカー始発駅にいます。ドロップゾーンの影響で放棄されていたにも関わらずケーブル部分の整備がされているのが駅からでもわかるため、従魔や愚神の手が入っていることは容易に推察可能です。
・非常用電源を使ってケーブルカーを動かすことは可能ですが、現在は危険が多いためPCたちが動かすことは禁じられています。
・調査できる高さは、始発駅とその次の駅の中間までです。
(そこからはライヴス濃度・敵の強さ共に調査の範囲を超えると、PCたちは感じます)
●調査範囲内で出現する従魔
《哨戒百足》体長100~150cm前後のムカデ型従魔。ミーレス級。
顎での噛み付きしか攻撃手段を持ちませんが、素早い上に頑丈な外殻を持っています。また、常に3~5匹の群れで行動し、戦闘中に1匹が離脱してより強い従魔(《禍々鹿》と《禍々烏》)を呼びに行こうとします。
《禍々鹿》
鹿の頭部を持つ、体高200cm程度の二足歩行型従魔。デクリオ級。
一撃が強力だが動きは鈍い。しかし、そのことを自身で理解しているようです。
《禍々烏》
巨大な烏型の従魔。デクリオ級。
常に飛行しており、急降下攻撃で防御を崩すヒット&アウェイが得意。急斜面で戦っていると現れやすいとの報告があります。
リプレイ
●往路にて
「まず、以前の討伐での状況と敵戦力のことを聞きたいんだけど……だが」
倉内 瑠璃(aa0110)が、気を抜くと女性的に傾いてしまう口調を直しつつ尋ねた。現状を把握するための偵察ではあるが、不測の事態に備えての情報は多い方が有利に働く。
「……俺は最初の討伐には参加してないんだが、とにかくあのムカデ野郎が厄介だ。烏は撃ち落とせる。鹿は転ばすことができる。だが、節足動物はしぶとい。まず頭をやれ。胴体じゃダメだ。逃げるし噛んでくるぞ」
男はことさらに《哨戒百足》の厄介さを強調した。聞けば、以前のどの討伐でも、百足の数に圧倒された部隊が少なからずあったのだということだった。
「すごい速度で組織化が進んでるんですね……制圧される前は、従魔は相互の連携を持たず、発生する事件も散発的だったのに」
手の中の端末を操作して、穂村 御園(aa1362)が過去のデータを照合しながらため息をついた。
「それだけここを支配する奴がどえらい奴だってことだよ。だから、相手の戦力がかなりの物なら、すぐ撤退した方がいいかな。あくまで偵察、なんだから」
リンクを終えて大人の姿を取るアンジェリカ・カノーヴァ(aa0121)も、真剣な面持ちで語る。
「あたしがいれば大丈夫よ! 魔法少女フミリル、愛と勇気を携えて、あなたを折檻しちゃうわよ☆」
弥刀 一二三(aa1048)、もとい"フミリル"が座りながら腕だけ決めポーズを構えて、一行を鼓舞する。到着してからでは危険だという常識的判断と、魔法少女のポリシーの折衷案なのだろう。
「フミリル? ……ああ、それと、これは『俺の勘』なんだが――」
●整えられた駅
「あのケーブルカーのぬいぐるみがあれば欲しいな」
到着して開口一番、緊張感のかけらもない感想を告げたのはエス(aa1517)だ。
「……すごく不気味な山だと思いましたけど、昔は違ったんでしょうね」
三ッ也 槻右(aa1163)も、愛らしいそのデザインに興味を惹かれているようで、改札近くで敵を警戒しながらも、ちらちらと車両に視線を向けていた。
「頂上には遊園地があるらしいよ。……けど、今や山全体がアトラクションか」
「早く敵を追い払って、遊園地を山の上だけに戻したいね。ボクがステージショーに出るためにも!」
風見 春香(aa1191)とアンジェリカが、山上の遊園地に思いを巡らせながら駅構内や鋼索の写真を撮影する。今のところ、車両や鋼索に細工をされた形跡は見受けられない。
「綺麗に整備されてるね。まるで新装開店、できたてほやほやみたいな感じ」
「いや、それ以上だ。……その資料と見比べてみろ。周囲の草まで刈り取られている」
春香が瑠璃の言葉に撮影の手を止め、事前に入手した観光案内の写真を見て小さくあ、と声をあげる。見れば、ケーブル脇の障害物や草木は取り除かれ、やろうと思えば県道や山道からすぐに路線へと踏み込めそうだった。
「ほんとだ……これ、かえって危ないんじゃないか?」
「従魔にはあまり関係ないことだからな。ことによっては、ケーブルカーを使わずに駆け下りてくるかもしれない」
そう語る瑠璃の目は険しく、この整備の良さを歓迎していないことが、ありありと見て取れた。
「はあ、なんでケーブルカーが有るのに使えないんだろう……上からちゃっと見て終わりで良いよね?」
「本拠地は上にあるんですよ? よくて人質、悪くて見せしめですよ」
「それは……はぁ、歩くの面倒くさいな……」
槻右に釘を刺され、御園は今日何度目かになるため息をつきながらホームに立ち、山の上を警戒する。彼女は敵がケーブルカーを起動させることを危惧していたが、現在その気配はない。
「……静かね。警備の必要性がないのか、それとも、その価値がないのかしら?」
一二三は改札を背にし、接続するビルからの敵を警戒しながら訝しむ。その静けさは、数多の命を奪って成り立つがゆえに、どこか禍々しいものを纏っていた。
「みんなの町をこんなにしちゃって……許さないんだからね」
●惨劇か否か
撮影を終えた構内を出て、一行はゆるやかに県道を進む。ケーブル路線に沿って伸びるその舗装道路は、放棄されてからの月日などまるでなかったかのように、静かに、そして清潔に保たれていた。しかし、それが今は裏目に出た。
「隠れづらい、ですね」
「退屈ならクッキーでもつまもうと思ったが……気の抜けない見晴らしだね、これは」
槻右がリンク時に現れる狐耳を伏せてささやき、いつもの軽いトーンを抑えたエスがそれに答える。左手側に線路、右手側に切り立った石垣と家、という人工物が続くその光景には、隠れるべき場所が見当たらない。姿勢をできるだけ低くし、右手側の石垣に身を寄せて移動するが、一瞬の油断も許されなかった。その石垣の向こうに緑が見えたとき、音を立てぬよう静音性を重視した装備の一二三が足を止め、振り返る。
「……静かに。百足がうろついてるわ」
その言葉に、一行が息を詰める。
「5匹に……《禍々鹿》が1匹。グラウンドを見回ってるみたい」
「気づかれてしまいましたか?」
槻右の言葉に、一二三はゆるやかに首を横に振る。
「いいえ。けど、これ以上進んだらアウト。みんな、音を立てずに横を向いて、目線を上から離さないでね。交差路までゆっくり戻るわよ。」
異議を唱える者はいなかった。慎重に、慎重に歩みを戻す。――今の任務は偵察。見つけた敵を倒すことではなく、それらがどこで、どのような行動を取っているかを調べるのが目的なのだから。
そうして息を詰めて後ずさる合間にも、聞こえてくるものがある。雄叫び、断末魔、快哉、そして、
「35番、いっちょあがり! 49番と88番は前へ! 勝ったほうが一抜けだ! さあ殺(や)りあえ!」
拡声器の音割れを伴って響き渡る男の声。
内容から、何かの進行を行っているらしい。――音しか聞こえないこの位置でも、かつて和やかだったその場所は、地獄と化していることは容易に知れた。従魔の血にまみれたその地面が何色かは、ついぞ伺い知ることはできなかったのだけれど。
●知恵ある蟲
いったん始発駅に戻り、次は寺の参道に続く上り坂を進む。こちらの道には多くの建物が両脇に並び立ち、死角をつたって移動するのは容易だった。しかし、並び立つ電柱が折り取られた形跡を含め、異様な静けさと整えられた路面は、県道と変わらぬ不気味さだ。
「……あのグラウンドの音……察するに、殺し合わせて、経験を積んだ従魔を効率よく作ってるのか。悪趣味な奴らめ」
瑠璃が周囲を警戒しながら、忌々しげに首を振る。
「お嬢さん、そうカッカしない。でも、その見立ては正しいだろうね。いわば『蟲毒』、百足を操るやつららしいや」
エスはそれにひょうひょうと返した。
「毒を持つ虫を戦わせ、より強い毒を得る呪術、だったか……それとラピ、いや俺は、男だ」
「え?」
途中の分かれ道で細い路地に入り、参道にいくつかある小さい寺のひとつを探る。ここには特に異常が見られなかったため、路地に戻り、さらに上方にある踏切を目指そうと踏み出した。
途端、カチカチカチカチと何かの打ち合わさる音。聞き覚えがある。そう昔ではない。
「……百足が6匹。待ち伏せまでやるなんて……泳がされてた?」
一二三が唇を噛む。この狭い路地で戦闘を回避しようとすれば、麓に降りてもその間に敵は援軍を呼ぶだろう。そうなれば、以前の討伐隊の轍を踏むことにもなりかねない。別働隊の男が語った話が、頭にリフレインする。
「仕方がない、やるからには一気にいこう。援護するよ」
言って、春香が構えた。他の者も百足に武器を向け、敵を包囲するようにじりじりと動く。時間にして一分足らずの複眼とのにらみ合いが、永遠にも思える。
――ぁあ、アア、くぁあ、ワァアア、かぁ、かぁ、カァ――
いやに長く響く鳥の、いや、災いの声がその沈黙を破った。
「《禍々烏》!? 百足は全部ここにいるのに!」
「……おそらくアレが話に聞く『俺の勘』の烏ね。嫌な予感ほど当たるなんて、もう!」
驚く御園とは対照的に冷静な一二三が、隼風で百足の頭をひとつ、刺し貫いた。
隼風を引き抜かれた直後に発せられた百足の金切り声を皮切りに、御園と春香が別々に3匹ずつ、すなわちその場にいるすべての百足の頭をトリオで撃つ。一二三に貫かれた1匹目はそのまま絶命し、残りもそれぞれが方向感覚を失って暴れ回る。飛び上がった個体に鎌での一撃を加えたのは、エスだ。
「ふー。身体を動かすのは、あまり好まないのだがな」
言いながら、ヘヴィアタックで腹から確実に両断する。残りは4匹、そのうちの2匹が鎌首をもたげて潰れかけた顎を打ち鳴らす。それに応えて、烏が羽根をすぼめて急降下の姿勢を取った。
「させるか!」
落下にも似たその形へ瑠璃がマビノギオンを撃ち込む。腿のあたりをかすめた剣に体勢を崩された烏は急いで翼を開いて上昇し、別方向からの降下攻撃を試みようとする。
「もう、人を朝のゴミ袋みたいに! 近所迷惑ですよ!」
御園はすかさず、がら空きになった胴体を正確に狙撃した。間を置かずやってきた二つの痛みに絶叫した烏は、鎌首をもたげていた百足を1匹巻き込んで墜落する。槻右がその2匹を確実にコンユンクシオで叩き潰し、他に呼びかける。
「あと3匹! 倒したらすぐに帰りましょう!」
「言われなくと、もっ!」
精度を高めたアサルトライフルで、鳴いていたもう一方の百足を吹き飛ばしたあとの隙を狙われ、接近戦に持ち込まれたアンジェリカが叫び返した。半分えぐれた頭でなお相手を噛み殺そうとするその一匹を、春香がクロスボウで吹き飛ばす。
「舗装道路でこれとは……いやはや、随分と危険なハイキングコースになったものだね」
冷静さを保つための明るい皮肉。アンジェリカはそれに無言の笑みで応え、武器をシルフィードに持ち替えて吹き飛ばされた百足の腹を、頭から縦に掻っ捌いた。
「あと1匹……逃がさないわよ!」
一二三が逃げようと地を這う最後の百足を追って駆け、二撃、三撃と確実に胴を細切れにするよう刺し貫く。――6匹分の百足と烏は、もう何の音も発しなかった。
ここまで派手に立ち回った以上、警戒されずに探索を行うのは難しい。戦闘を終えた一行は急いで路地を抜け、広い斜面を駆け降りていく。
「結局上まで行くのは無理かあ……でも、戻るのも勇気だよね! 上まで行っってもギャラ同じだし?」
御園の言葉に、悔しげな響きがにじむ。得るものは多かったが、行けるところまで行けなかった、という無言の口惜しさが、そこにあった。
●復路にて
連絡を受けて急行してくれた迎えの車中で、一行はリンクを解き、簡易的な報告書を作成する。
「敵はおそらく練兵のようなものを行っている、と。音しか聞くことができなかったけれど」
「いや、これだけでも重要な情報だ……俺としては、上出来だと思う」
観察の詳細を書き込みながら悔しげに唇を噛む槻右を、瑠璃が不器用にフォローする。
「あと、細い路地で戦っていた時、百足に呼ばれてないのに烏が来たから……百足ばかりが哨戒役じゃない、というのは確実だね。『俺の勘』も捨てたものじゃないなー」
「上空から警戒してるんだろうね。まったく、隙の無い軍隊だよ。穂村の胸ぐらい死角がない」
「そうそう、って誰が上下左右を見渡せる起伏のない胸かっ!? このー!」
御園とエスは軽口をたたき合うが、口調と裏腹にその表情は硬いものが見え隠れしている。
「偵察って疲れるね……」
スマホの写真を別端末にコピーし終えて座ってから、ぐったりと元の小さい体を休めているのはアンジェリカだ。戦闘の疲労と言うよりは、気取られぬよう動くための集中に精神力を使って、気疲れしたというほうが正しい。その証拠に、警戒役をやり遂げた一二三は、後部座席にもたれて微動だにしていない。彼の場合、リンクを解除した後の気恥ずかしさも抱えているので、口もききたくないといった状態だ。だが、彼の口は動いた。
「ケーブルカーだけと違(ちご)て、周囲の道も制圧される前の資料よりずーっと路面状態がええみたいやなあ。電柱とかは潰されとったし、警備もどちらかといえば手薄。……こっちが大勢で昇ってくるのを待っとるみたいや」
一二三の言葉に、車内に沈黙が流れる。その得体の知れなさは、相手の狙いを掴みかね、おぼろげな恐れを一行に与えていた。
ざっと概要を纏め終えた頃、車は山からやや離れた国道に入り、その速度を増す。夕暮れに照らされた後部座席からは、その眩しさにもかかわらず、既にいくつか寝息が聞こえてきていた。
「良い絵は撮れたけど……やっぱりあの山は、元の風景を撮影に来たいね」
さして緑の多くない車外の風景を眺めながら、かつてあった、今もあるべきだった紅葉を思って、春香はひとりごちた。
練兵、知恵のついた百足、以前より整えられた道――少なくとも、『侵略』とは違った意思がそこにあるという実感とともに、彼らは帰路につく。本当の戦いへ赴くための覚悟を手土産にして。