本部

Die Landsknechte

影絵 企我

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2017/07/21 16:26

掲示板

オープニング

●暗躍する騎士達
 真夜中だというのに、そのクラブは水を打ったように静まり返っている。ぼんやりと輝く照明の下、人々がくったりと倒れている。割れたワイングラスやボトルが転がり、灰皿に乗る煙草には未だ火が燻っていた。ロックグラスの中にも氷が残っている。給仕も通路の真ん中に倒れ伏し、指先一つ、眉毛一本動かす気配は無い。
 紡がれゆく時の完全な途絶だ。神が本気で世界を終わらせたなら、きっとこうなるのだろう。
 かくして、労働労働労働の苦界から一時の離脱を試みた人々は、そのまま永久に帰らない事になった。あるいはそれを、皆心のどこかで望んでいたのかもしれない。常に世はセンセーショナルに危機を叫び続ける。絶えぬ閉塞感に堪えられなくなった人々は、どこかで”終わり”を望んでいるのかもしれない。それが、”死”を呼び寄せたのかもしれない。
「……」
 蒼い鎧を纏った兵士が、虫食いの旗を右手に握りしめる。その目の前で、人々は瞬き一つする間もなく死んだ。一秒一秒、それとは知らぬ間に世界の果てへと向かって突き動かされた人々は、滝壺へ落ちるように死んでいった。それを見届けた蒼鎧は、踵を返してその場を去る。

 入れ替わるように現れたのは、紅い鎧を纏った兵士。その後に付き従う、ぼんやりとした霊魂。兵士は、予めそう決められていたかのように、迷わずその剣を抜く。霊魂は彼の背を追い越し、死体の中へと飛び込んでいった。

●破滅をもたらすランツクネヒト
「……はい。今回は不本意ながら、グロリア社の研究部門にこれ以上笑われるなという上層部の意向もあり、”ごくごく真面目に”武器の開発を行わせていただきました。コードネームは『ランツクネヒト』、このライヴス回路を外付けする事で、敵へインパクトを与えた瞬間にライヴスを吸収して一時的に弱体化させ、そのライヴスをこの回路に貯蔵する事で一時的に武器の出力を上昇させることが出来ます……」
 眉間に皺を寄せ、いかにも「私は不満だぞ」という表情をしたH.O.P.E.に所属する研究員、仁科恭佳。集めた8人のエージェントを前に、配布した試作武器の説明を行っている。見た目はソケットの付いた小さな円盤、確かに見た目の面白みは無い。彼女の語る設計思想も、彼女を知る者ならば「やればできるんじゃねえか」と言うレベルで真面目だ。彼女は常に作りたいものを作っているだけであって、変なものしか作れないわけではないのである。幽霊ブーツも元はと言えば彼女が設計したのだ。
「……というわけでして、皆さんにはこれより山中にて出没したという熊従魔の駆逐作戦にてその武器の試用をお願いしたいのです。一応全近接武器に対応できるようにはなっていますが、その中でも向き不向きがあると思いますし、実用化する上では何かに特化した方がコストの削減なども出来るので、その確認もしていただきたいので――」
 その時、いきなりオペレーションルームに職員が飛び込んできた。
「付近のイベント会場に大勢のミーレス級従魔と、一体のデクリオ級従魔が出現しました! この任務は他のエージェントに対応して頂きます。至急対応に向かってください!」
 随分急な命令だ。君達は周囲を見渡した。なるほど、それなりに手練れがいる。それで白羽が立ったのだろう。とはいえせっかく手渡された試作品が宙に浮いてしまった。君達の一人が恭佳の方を振り向く。彼女は髪を手で梳りながらしばらく考えていたが、やがて君達に手をひらひらさせる。
「……とりあえずそれもそっちに持って行ってください。緊急性の高い任務のようなのでアレですが、そういった切羽詰まった状況で役に立たないと実用化なんて出来ないので」
 君達は頷くと、ランツクネヒトを手にオペレーションルームを飛び出した。

●黙示録の赤い騎士
 トレーラーライブの為に集まった人々が必死の形相で逃げ出していく。盾を持ち、槍と銃を握りしめた兵士達が、血塗られた旗を掲げ、紅い馬に跨る騎士と共に二列横隊を作って駆ける。戦争だ。血で血を洗う戦場だ。兵士たちは共に縫い合わされているかのように、一糸乱れぬ挙動で駆け抜ける。その先には、突然の襲撃に惑い、逃げ遅れた人々がいた。
「――!」
 空へと突き抜ける鬨の声。屍の兵達は、その手にある刃を血で染め抜くために駆ける。

 しかしそこへ、幾つもの影が飛び込んだ。急な命令にも応じ、人々を救うために戦場へと躍り込んできた君達である。

 行くぞ。

 銘々の武器を取る。左手には恭佳に託されたランツクネヒト。君達はそれを――

解説

メイン レギオン全員の討伐
サブ ベルームの撃破ないし撃退

エネミー
●レギオン(死体)A×10、B×10
 ベルームの召喚した従魔により操られている死体。隊列を組み現れ、イベント会場に向かって突撃を始めた。
・脅威度
 ミーレス級(ALL)
・ステータス
 全てC前後(ALL)
・武器
 銃(A)、槍(B)
・スキル
 テストゥド:パッシブ。遠距離攻撃(単体、範囲共に)無効。巨大な盾で飛び道具から身を守る。
 アンデッド:パッシブ。精神系BS無効。こいつらはもう死んでいる。

●ベルーム
 又の名をレッドライダー。戦争を司る死神を模した従魔。
・脅威度
 ケントゥリオ級
・ステータス
 物攻B その他C以下
・スキル
 死の舞踏……パッシブ。味方の攻防を50上昇させる。戦の彼方に待つものは。

支給品
●【SW】ランツクネヒト×8
 恭佳が(スカバードライフル以来ようやく)真面目に作った、近接武器用の外付けライヴス回路の試作品。世を席巻した傭兵達の名に恥じず、攻撃した敵からライヴスを奪い取る。ただし、特殊効果を持つ武器には短絡を起こす為使用できない。
 種別:特殊 部位:サブ武器
 【サブ武器性能/パッシブ】特殊効果を持たない射程1~1の武器に以下の効果を加える。[物攻‐20。シナリオ中、攻撃を命中させた敵の攻撃を5下げ、自分の攻撃を5上げる。この効果はそれぞれ10回まで重複する。]

フィールド
・二車線道路
 幅20sq。イベントの為にホコ天化されていた。イベント設営中の地点までは残り100sqある。
・日中
 視界良好。
・一般人
 百人単位で混乱の最中。可能ならば沈静化させ、設営地点まで逃がしたい。

Tips(PL情報)
・テストゥドはプレイングによって無効化できる。
・ランツクネヒトの使用は自由。使えば恭佳は喜ぶ。
・基本的にベールムはレギオンの後方に位置している。
・レギオンの実情はPL情報なので注意。

リプレイ

「――ちと聞きたいんだが」
 一ノ瀬 春翔(aa3715)はオペレーションルームからの去り際、恭佳の前で足を止めると、彼女にオイルライターのようなパーツを差し出す。
「奪い貯めたライヴス……それを直通でコッチのタンクに繋げられねぇか?」
 恭佳はライターを受け取ると、懐から虫眼鏡を取り出しじっと眺める。
「これは……回路が焼けても知らないですよ」
「でも出来るんだな? どうしても試してみたいんだよ」
 切実な表情で見つめる春翔。探るような眼でしばらくそれを窺っていたが、やがて肩を竦め、彼の手にあるランツクネヒトを指差し、それも渡すようにジェスチャーを送る。
「そりゃあ。天才ですから」

●屍兵vs傭兵
『みんな大混乱ですっ! 京子姉さん、助けに行きましょう!』
 リディア・シュテーデル(aa0150hero002)はビルの屋上から敵の隊列と逃げ惑う人々を見渡し、志賀谷 京子(aa0150)の袖を引いて叫ぶ。しかし京子は隊列の一点を見つめて石のように動かない。
『……どうかしたですか?』
「ん? あの紅い騎士の色違いに見覚えがあってさ。ただのその他大勢じゃなかったか」
 彼女が見つめるのは紅の騎士。脳裏に甦る、霧の帝都で戦った蒼い騎士。
「(戦争を司る紅が隊列を組んで突撃してくるのは分かるけど、死者を使うのは違和感があるよね……ま、奴らが黙示録通りだって保証が無いにしても、さ)」
 二人は共鳴すると、素早くビルを飛び降りた。

『落ち着いて聞いてください。我々はH.O.P.E.エージェントです。これからあなた方を安全な場所まで誘導します。我々の指示に従ってください!』
 カイ アルブレヒツベルガー(aa0339hero001)は大きく手を振りつつ、メガホンで呼びかける。その背後では、遅れて駆けつけたエディス・ホワイトクイーン(aa3715hero002)が押し寄せる軍勢と向かい合っていた。
『おにぃちゃん……アレ、もう壊れてる』
 春翔も兵士を見据える。スーツのまま、給仕服のまま、ドレスのまま盾と武器を持たされ突き進んでくる異様な風体の兵士達。その目は皆虚ろだ。春翔はエディスに囁く。
「そうか……だったらまずは……わかってるなエディス」
『うん、もちろん』
 エディスは巨大な盾を構え、真正面から軍勢に対峙する。盾は光を帯び、まるで薔薇が花弁を撒き散らすように、喚び出された盾が道を塞ぐように広がっていく。紅い騎士は手綱を引いて馬の脚を止め、軍勢もその場に留まり盾を構えた。にゅっと盾の隙間から銃口が伸び、白い薔薇に向かって銃弾の雨が襲い掛かる。
「なるべく長く持たせろ!」
『がんばる!』

「あれが皆さんを守ってくれる“盾”です! あの盾がある限り皆さんは安全です! これから避難場所に向かいますよ!」
 御童 紗希(aa0339)も拡声器で人々に呼びかけながら、そっとカイの傍に駆け寄る。
「ねえ。あの愚神……騒速も来たりしないかな」
『アイツは今関係ねぇだろ?』
 カイは苛立ったように答える。先日騒速がかました暴露が脳裏に過り、その名前が出る度にピリピリしてしまうのだ。憶えてない紗希には関係ないのだが。
「でも、こないだの猪豚の時も強者の霊力を感じ取ったなんて言ってたし……これだけの従魔とエージェントが集まってたら……」
『今は避難誘導に集中しろ! お前は先頭で誘導、俺が最後尾から逃げ遅れを拾ってく。こうする手筈だろ。行け!』
「う、うん!」
 カイの剣幕に気圧され、戸惑ったような顔をしながら紗希は走っていった。カイはそれを見送りつつ、周囲に目を配る。近くでは転んだ少年をキャルディアナ・ランドグリーズ(aa5037)が助け起こしていた。
「ほら起きろ。今仲間がバケモノ抑えってっから。今の内に逃げりゃ間に合う。早く行け」
 少年に励ますような笑みを見せ、そのままその尻を叩いて走らせる。息を切らし、脚も遅れた人々がまだ周りに大勢いる。キャルは大声で呼びかけ回る。
「慌てずに急げ。子どもと年寄りが優先だぁ! 動けねぇ奴見つけたらちゃんと手ェ貸してやれよ!」
 その隣でツヴァイ・アルクス(aa5037hero001)は二人の背後に広がる戦場を見つめる。広げた盾でエディスが銃弾を受け、他の仲間が軍勢へと切り込んでいた。
『もう交戦が始まっているな……』
「ああ。向こうにばっかり負担掛けられねぇし、も少しペース上げてえところだな……」
 キャルは通信機を取り、遠くで誘導を続けている友人に繋ぐ。
「優雨! そっちは頼むぞ!」

「うん……みんなの事、安心させて……あげなくちゃ……」
 柏木 優雨(aa5070)はキャルの言葉に応え、目の前で転んでしまった子連れの母親の下へと走っていく。優しさゆえの焦り、緊張。優雨の見張られた瞳にその色を読み取ったフロイト・ヴァイスマン(aa5070hero001)は、傍に駆け寄り彼女に囁く。
『張り切り過ぎるな、いつも通りくらいで良い』
「……うん」
 優雨は駆け寄ると、ひたすら泣き続ける子どもをそっと抱えて立たせる。その目を覗き込み、優雨は宥めるように語り掛ける。
「大丈夫、守るから……向こうまで、逃げて……」
 彼女の胸に光る、恐怖に駆られた人を助けたいという強い想い。彼女の目から言葉からその心が伝わったのか、子どもはふっと泣き止み、見えない糸で引かれるかのように走り出す。ほっとした顔でそれを見送り、優雨は立ち上がった。
「H.O.P.E.です……もう、大丈夫、だから……設営地点まで……避難、して」
 拡声器を使って呼びかける。なお続く喧騒の中、優雨はその耳に幼い少女の泣き叫ぶような声を聞く。フロイトと共に彼方を見ると、ぺたんと座り込んだまま泣き続ける子供がいる。派手に転んだのか、膝やら肘やら擦り剥いている。
「キャル……こっち、怪我人……なの」

「行っくよー! 見た目ダサくても、しょうがないから使っちゃうよー!」
『デザインよっぽど気に入らないんだね!』
 雪室 チルル(aa5177)とスネグラチカ(aa5177hero001)、二人は派手に騒ぎつつ、左翼から隊列へと突っ込んでいく。パイクを構えた屍がそれに気づき、彼女の方へとその切っ先を向けようとする。
「そこだぁ!」
 チルルは白いロングコートを靡かせ剣を振り回し、パイクを弾いて一気に懐へと潜り込む。その素早い挙動に、隊列維持しか能のない屍は反応できない。
「あたいのちょーつよい一撃、受けてみろっ!」
 袈裟に斬りつける。剣が肩口を裂き、その傷口からレギオンのライヴスを吸い上げる。取り付けられたランツクネヒトが光を帯びた。チルルは剣を突き上げ大声で叫ぶ。
「ゾンビなんかに負けないんだっ!」
 その声に反応したのか、傍の屍が銃を構えて撃ってくる。元気いっぱいに騒いでいるが抜かりはない。素早く盾に持ち替えると、チルルは銃弾を的確に弾いて見せた。
『そんなのくらわないよーだ!』

『ランツクネヒト、ね……』
「どうしたの光嵯さん」
 路地の影、光縒(aa4794hero001)は取り出したハルバードにランツクネヒトを取りつけながら、ぽつりと呟く。天宮城 颯太(aa4794)はちらりと彼女の方を窺う。
『その名で呼ばれた傭兵団は矛槍を主力武器としていたから、颯太の武器によく合うと思って』
「へぇー……よく知ってるね」
『(奇抜で珍妙な格好をしていた事の方が有名だけどね……)』
 ついでに颯太の半ズボン姿を眺めてちらりと思う。そう思われているとも知らず、颯太は固い筋を解しつつ呟いた。
「ああ、それにしても熊従魔逢いたかったなぁ。もふもふだったんだろうな……」
『アンタ、虎とか熊とか、ホント好きね……ほら、さっさと行くわよ』
「うん」
 颯太は光縒と共鳴すると、斧をぶるんと振り回して駆け出した。その目は鋭く強気な光を帯びる。
「ワイルドハントにはまだ早いんじゃないかな?」
 隊列の右翼から突っかかると、敵に反応する暇も与えず斧を思い切り肩へと担ぐ。
「理屈はよくわかんないけど、要は沢山斬ればいいってことだよね!」
 銃をこちらへ向けた屍に向かって、荒々しい三連撃を見舞う。元はといえば死体に弱弱しい従魔が飛び込んだだけの存在、糸の切れた操り人形のように、あっという間に崩され倒れてしまった。
「あっと……これじゃ効いてるのかわかんないな」

「ほーら、行かせないっての! あなたたちはここでわたし達と遊ぶんだからね」
『通しませんっ!』
 京子は巨大な盾を構え、全面にライヴスを放つ。エディスに狙いを定めていた屍兵達は、目の前に立ちはだかる彼女に向かって一気に間合いを詰めていく。
「――!」
 口を開いて声にならぬ雄叫びを上げながら、前面の兵士は槍を構えて京子へ突っ込む。しかし京子は難なくその一撃を受け流す。それどころか、鏡のように輝くその盾を突いた兵士は、たたらを踏んでもがく。その胸には抉れたような穴が開いていた。
「わたしの防御を抜くのは、ちょっとばかり難しいよ?」

『その子にばかり拘泥していていいのかしら?』
 京子に向かって銃も槍もレギオン軍団が向ける中、深紅の大剣を抜き放ったレミア・ヴォルクシュタイン(aa3678hero001)が側面から一気に切り込む。嵐のように放たれる五連撃で屍兵達を薙ぎ倒し、無人の野を往くが如く背後の紅の騎士へ突き進んでいく。騎士は咄嗟に深紅の長剣を抜き放つと、素早くレミアに向かって振り下ろした。
『随分と赤々した馬に刃ね……』
 ランツクネヒトが光を放ち、応じてレミアの大剣も瘴気の中に紅の輝きを見せる。目の前の“深紅”が気に入らないとでも言わんばかりだ。
「(どんな深紅の業物も“闇夜の血華”には敵わんよ)」
『ええ。そのとおりね』
 狒村 緋十郎(aa3678)の言葉に頷くと、レミアは思い切りそんな“彼女”を振り上げ、挑発的な笑みを浮かべる。
『わたしが相手してあげるわ。喜びの内に死になさい』

●紅の騎士
「楽しいイベント、あるはずだったの。関係ないのは、出ていって……」
『市民の娯楽を邪魔するとはいい度胸だ』
 フロイトと共鳴した優雨がレギオンの前に駆けつける。ランツクネヒトを起動し、籠手を嵌めた両腕を前に構えて槍の懐へと潜り込む。捻じり込むような左フックで敵の構える盾を跳ね除け、その鳩尾に向かって右ストレートを一発叩き込む。敵の反撃は鮮やかなサイドステップで躱し、さらに間合いを詰めてかかっていく。
 ぽやぽやしているかと思えば意外と武闘派、それを横で見ていたチルルは目を丸くした。
「やるねー!」
『あたし達も負けてられないよ!』
「もっちろん!」
 チルルはライヴスを刃に纏わせ、左から右へ思い切り振り抜く。その重みと勢いに負け、屍は盾を取り落としてしまう。そこに出来た隙をキャルは見逃さない。
「こいつでも貰っときなぁ!」
 次々放たれた弾丸が、彼方から屍の急所を撃ち抜き斃す。ついでに隣の屍も狙うが、がっちりと構えられた鋼鉄の盾にあっさりと撥ね返されてしまった。
『堅牢な守りだ。遠距離で仕留めていくとなると時間がかかりそうだな』
「かぁ! 地道な作業だこって。一体ずつとか面倒だなぁ!」
 キャルは銃を収め、代わりに深紅の短槍を取り出す。その穂先にランツクネヒトを取り付けると、戦列へ潜り込むようにして戦っている優雨の下へ駆けだす。
「おい優雨! あんま前に出過ぎんなよ! 孤立したら囲まれるぞ!」

「溜め過ぎるとどうなるかわからねぇ。継続的に開放すんぞ!」
 春翔の指示に合わせ、エディスは斧の先に取り付けられた“ラッキーストライカー”を起動する。火打石が激しく巡り、斧の刃が青白い炎を纏う。
『えいっ!』
 大きく一歩踏み込み、斧を上から下へと振り下ろす。屍は盾を振り上げ受けに掛かるが、その一撃の重さに堪えきれない。盾ごと肩を叩き割られた。その傷口から、斧はライヴスを吸い上げ始める。
「(……流石に最大解放状態には追っつかねぇか)」
 それでもタンクはすぐさま空となり、炎の色に不安定な赤が交じる。回路に負担がかかり、エンストを起こしたような音を立て始めた。エディスはストライカーの火力を落とし、再び火を青色に戻した。
『このくらいなら吸収する分で間に合いそうだよ』
「ああ。……なるほど。ゲージ回収が現実でも出来るってのは大きいな」
『またゲームのはなし?』
「……まあな」
 エディスと春翔がさらりと言葉を交わすそばを、颯太が一気に駆け抜ける。ランツクネヒトから放たれる光を帯びた穂先を振り回し、並び立つ屍兵を次々薙ぎ倒していく。矢の射ち合い槍の打ち合いに強いテストゥドも、軽装の傭兵が乗り掛かってきたら形無しだ。
「こいつらは俺が相手するから。一ノ瀬さんはあの親玉の方を狙ってくれよ!」
 長柄斧を振り回して屍兵を次々撥ね飛ばし、颯太は春翔にくるりと向き直った。頼もしい笑みを浮かべている。エディスはぺこりと頭を下げると、その脇を素早く抜けていく。
『ありがとうございます。ではお任せしますね』
 すれ違い際に囁くと、エディスは長い裾を靡かせ紅に向かって突っ込む。振り抜かれた斧は、騎馬の首筋を捉えた。深紅の血が噴き出し、馬は嘶き仰け反る。
「(こいつは……)」
『どうしたの?』
「……いや、何でも」
 春翔の脳裏にも、少し前に見た騎士の姿が蘇る。血塗られた旗が、“ソレ”の掲げる腐った旗を思い起こさせる。
『ふうん……エディスはね、この紅見てたら、何だか壊したくなっちゃう!』

『数ばっか揃えりゃいいってもんじゃねえぞ!』
 右翼から攻め寄せたカイは、神斬を振るって敵の盾を一刀両断する。返す刃で屍に袈裟懸けで斬りつけ、そのまま蹴倒し陣形を切り崩していく。転がる死体の顔を見たカイは、先ごろ依頼を探している時に見た行方不明者の写真を思い出す。
「この人達……クラブで行方不明になったって……」
 カイは屍兵の立ちはだかる先を見据える。馬で駆け回り軍旗を靡かせながら、騎士はレミアと春翔を相手に深紅の剣を振るっている。
『あの紅い騎士が殺したって言うのか……?』
 立ち尽くすカイに向かって二人の兵士が迫る。いかにも鬱陶しそうに剣を構えるが、それよりも先にチルル、優雨、キャルの三人が飛び込んでくる。
「これでどうだー!」
 銃を構える屍に向かって真っ先にチルルが斬りかかる。隊列が崩れて既に防御もままならず、屍は一撃を喰らって横ざまに突き倒される。その脇を抜けた優雨とキャルは、槍を構えた屍へ間合いを詰める。
「協力して一気に仕留めちまうぞ!」
「……了解」
 キャルが槍を大きく振るって屍の得物を払い除け、その隙に優雨が懐深くへと潜り込む。そのまま右に左にワンツーを見舞い、締めにアッパーカットで仰け反らせる。ガラ空きになった胴体に、態勢を整えたキャルが一気に槍を突き立てた。
 屍は事切れ、キャルの目の前でどさりと崩れ落ちる。
「悪いなぁ。天国へ行けるよう祈ってやっから、ちょっと勘弁してくれや」

「こっちは大丈夫そうね。わたし達もあの騎士の方に行きましょ」
『そうだな。あいつは放置しといたらヤバそうだ……』
 肩を並べた京子に頷いて見せ、カイは共に騎士に向かって駆けだす。大剣を納めて籠手を嵌め、刃の間隙を縫って一気に騎士へと突っ込む。
『偉そうに上から見下ろしてんじゃねえっ!』
 馬の横っ腹を思い切り殴りつける。突然の衝撃に耐えられず、馬は横ざまに吹っ飛び倒れ、騎士もどうと倒れた。さらにカイは馬へと踏み込み吹っ飛ばそうとするが、その目の前で馬は血の塊となってべちゃりと潰れる。
『何だっ?』
 カイは素早く振り返る。広がる血だまりはするする蠢いて騎士の足下へと這い寄り、再び深紅の馬となって騎士をその背に乗せる。
『こいつ……』
 どこか嘲笑うように見下ろされて言葉を失うカイの隣で、京子は短剣を取って構える。
「その動きも見た事あるよね、うん。……あなたが黙示録の四騎士だとしても、死を司るのは紅じゃなくて蒼。蒼い騎士は、わたしこの手でブチ倒したんだけどさ、ひょっとしてまた出たのかな?」
 騎士は京子に向き直ると、彼女の問いには一切答えず血染めの剣を高々と振りかざす。元々返事が来るとも期待していなかった京子は、左にその一撃を躱して懐へ飛び込む。
『姉さんの難しい話はともかく、その首……いただきますっ!』
 鎧の切れ目に向かって鋭く刃先を突き出す。騎士は腕を払って京子を突き飛ばすが、その隙をついてエディスが大きく一歩踏み込む。
『悪いやつは、エディスが壊すの!』
 斧の刃先が滑るように光る。青白い炎に熱せられ、命を叩き潰す使命を呼び起こされた刃はその一撃で兜を砕き、騎士の首を撥ね飛ばした。

 激しく血が噴き出し、何もわからなくなった騎士は滅茶苦茶に剣を振るい始めた。エディスは斧でそれを切り払うが、同時に開きっぱなしのチャージャーが煙を上げて沈黙する。
「(やべぇ。流石に無理を通し過ぎたか……)」
『後はお願いします!』
 エディスが振り返って叫ぶ。レギオンに止めを刺した優雨は、咄嗟に刃の雨をぶつけた。
「親玉……逃がさないの……」
「こいつも貰っときなぁ!」
 キャルの投げつけた槍が騎士の腕を穿った。騎士はよろめきながら、どうにか馬の上に踏ん張る。
『哀れなものね。そのまま真っ二つにしてあげるわ……』
 そこへレミアは大きく一歩を踏み出した。首を失ったままの騎士は、めくらめっぽうに剣を振り回す。その一撃を大剣の刃で受け止めたレミアは、その勢いを借りて身を躍らせる。刃は闇を纏い、血の様に濡れる。

 目にも止まらぬ三撃が、騎士を馬ごと膾切りにした。

 騎士はその場で倒れ込み、消滅する。
『(倒せた……か。それなら……)』
それを見届けたカイは、さっとライヴスゴーグルをかけ、周囲を見渡した。
『(こんだけの戦況を従魔だけが作るのか? そんなわけは……)』



「あーあ……死んじゃったなぁ。でもいいかぁ。また作ってくれるんだろうし……」
 黒い布を頭からすっぽりと被り、顔を影の中に覆い隠した男がビルの屋上から戦いを見下ろしていた。その左手にはうすぼんやりと光を放ち続けるカンテラ、右手には剣。
 ライヴスゴーグルを掛けたカイが、ちらりと彼を見上げる。彼は素早く身を翻すと、その場から宙を滑るように逃げ出す。
――Epee de Justice――
 それの携える剣の腹には、歪なアルファベットが刻まれていた。

●因縁九十九折
「近接武器に限定されるけど、武器種を選ばないのはよし。雑魚相手だと効果の実感が持ちにくいが、強敵相手なら有効に思われる……っと」
 任務を終えて支部に戻ってきた颯太は、備え付けのパソコンを使ってレポートを纏める。隣で光縒はランツクネヒトを片手に弄び、どこか不満げに呟く。
『でも、相手のライヴスを吸収……なんて、愚神じみた能力で好きじゃないわね』
「あ……そういえばコレ、愚神以外のライヴスも吸収できるのかな?」
 思いついたように颯太は呟く。しかしそれが運の尽きであった。
『……なら、颯太で試してみる?』
「え……? ちょ、待って」
 低い囁きに恐る恐る振り返ると、ハルバードを握りしめる光縒がいた。
『久々に稽古、つけてあげるわ。嬉しいでしょう……?』


「トレーラーライブ一番手! Dual Heartsでーす! さぁ盛り上がっていこー!」
 蒼と紅を基調とした装いを纏ったアイドル二人が、トレーラー上のステージに立ってファン達を盛り上げる。やや遠巻きにして、キャル、優雨にチルルの一行はライブを眺めていた。
「やいやい!」
『いぇーい!』
 アイドルの明るい掛け声に応じてチルルとスネグラチカが同時に拳を突き上げる。元気娘二人組は、楽しそうなイベントを前にして黙っていられない。人ごみの背後で、ロック調の歌に合わせてぴょんぴょんと小躍りしている。その背中を眺め、優雨はほっと息をついた。
「……よかった。イベントも、ちゃんと、盛り上がってて……」
「優雨が避難誘導頑張ったもんなぁ。誰にも大きなけががなかったし、こうしてライブが開けてんのはお前のお陰だぜ」
 キャルはおっとりと笑みを浮かべる優雨と肩を組み、にっと顔を輝かせる。頼れる姉貴の誉め言葉は素直に嬉しい。
「うん……ありがと」
『ただ気になる事はあるな。この前の猪豚もだが、統制の取れた従魔というのは妙だ』
『ああ。カイってやつが言ってたよな。ビルの上に何かいたって』
 一方、武官気質のツヴァイとフロイトはシリアスな表情を作って周囲を窺う。祭りの中においても、警戒は怠らなかった。そのやり取りを背後で聞いていたキャルは、一瞬深刻な顔を作って悩んだような顔を作る。
「うーむ……」
 しかし彼女はにっと笑うと、不意に腕を伸ばしてツヴァイとフロイトもまとめて囲い込んだ。
「まぁいいじゃねえか。今は楽しもうぜ!」


「……まぁ、良い装備だった。お前の事も見直した。本当に天才なんだってわかったよ」
 研究室にやってきた春翔は、わざとらしく恭佳を讃える。恭佳はにやにやしながらその言葉を聞いていたが、春翔は一気に顔色を悪くし、懐から黒く焦げた“ラッキーストライカー”を差し出す。
「その天才を見込んで頼みがあるわけだが、こいつ、修理出来るよな?」
 受け取った恭佳はしばし見つめて唸る。
「……あと一回なら騙して使えるでしょうけど、恒常的に使うとなると……その気ならしばらく私のところに預けて頂きたいですが、これだと新品を新しくこの形に改造した方が早いかも……」
「おいおい……こうなるんならもっとちゃんとリスクについて話してほしかったが……」
「思い入れある品だと思うので迷ったんですよ? でも試したそうだったんで。私も試したかったですし?」
『……そのせいでお兄ちゃんの大切なものが壊れちゃったんだよ? 一回死んだ方が良いんじゃない?』
「ひっ」
 今回はエディスに殺意を向けられ、恭佳は条件反射的に震え上がる。
「待て待て待て。ショートする危険性は一応触れられてたから……まぁ、あの決戦には持ち込めるなら、まだいいか……」


「志賀谷さんに狒村さん、それに御童さんじゃないですか。どうしたんですか?」
 恭佳の研究室から中々戻ってこない春翔を支部のロビーで待ちぼうけていた京子、緋十郎、紗希の一行。そこへ現れたのは、スーツと白衣を土埃だらけにした澪河青藍とその英雄だった。
「おぉ。澪河さん。任務でちと気になる事があったのでな。これから集めた情報をプリセンサーのところへ持っていくつもりだったのだ」
「けれど一ノ瀬さんが戻ってこないんで、ちょっと待ってるんです」
 緋十郎と紗希が青藍に軽く事情を説明する。それを聞いた青藍は訝しげに眉をひそめる。
「気になる事ですか?」
「そうそう。夜霧を倒した時、あいつの供廻りに蒼い騎士がいたじゃない?」
「蒼い騎士……ああ、アレですね」
 京子の切り出した話に、彼女は深々と頷く。リディアも京子の背後から身を乗り出し、勇んで声を弾ませた。
『その蒼い騎士に似た紅い騎士が現れたのですよ! 市井のど真ん中に!』

『ついでにそいつらは死体を手下にして、隊列組んで突撃だ。従魔がそうも統制の取れた行動をすんなり取れるなんておかしいだろ。……って思って戦いの後に周りを見渡したらな、いたんだよ。何か強いライヴスを持った奴が』
 カイは青藍に半ば詰め寄るようにして訴える。黒いローブを纏った死神のような影。只者とは片づけられないライヴスを有していた。レミアもいつになく真面目な顔でカイの言葉を支える。
『聞けばこれが初めての事ではないというじゃない? 小さな出来事として片づけていいとわたしは思えないのだけれど。』
「待ってください、待ってください。あんまりいきなりの事で整理が……」
 矢継ぎ早に言葉を放ってくる六人に圧倒され、青藍は思わず後退りまでしてしまう。ウォルターはそんな彼女の背中を押さえ、低く低く溜め息をついた。
『ともかく、穏やかではないですね。……こちらも気になる事が起きましたので。特に志賀谷さんはうんざりしそうな話だと思いますが――』
「おーう。今戻ったぜ。ちょっと厄介な事が起きちまったが……ん? 澪河にウォルターじゃん。服が汚れてっけど、任務の帰りか?」
 そこへ春翔とエディスがやってくる。二人を認めたウォルターは、一層深刻な顔をして頷いた。
『ええ。その通りですよ。……一ノ瀬さんまでいらっしゃるとは話が早いですね。実は……』

『また出てきたのですよ。夜霧事件の時に出てきた、ファントムやリーパーが』

 京子と春翔はぎくりとし、紗希と緋十郎は顔を見合わせた。その名を知る二人は言わずもがな、知らぬ二人も深刻な状況と知るには十分だった。





「……この世は生で溢れすぎている」

To be continued.

結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

  • 生命の意味を知る者
    一ノ瀬 春翔aa3715

重体一覧

参加者

  • 双頭の鶇
    志賀谷 京子aa0150
    人間|18才|女性|命中
  • 分かち合う幸せ
    リディア・シュテーデルaa0150hero002
    英雄|14才|女性|ブレ
  • 革めゆく少女
    御童 紗希aa0339
    人間|16才|女性|命中
  • アサルト
    カイ アルブレヒツベルガーaa0339hero001
    英雄|35才|男性|ドレ
  • 緋色の猿王
    狒村 緋十郎aa3678
    獣人|37才|男性|防御
  • 血華の吸血姫 
    レミア・ヴォルクシュタインaa3678hero001
    英雄|13才|女性|ドレ
  • 生命の意味を知る者
    一ノ瀬 春翔aa3715
    人間|25才|男性|攻撃
  • 希望の意義を守る者
    エディス・ホワイトクイーンaa3715hero002
    英雄|25才|女性|カオ
  • エージェント
    天宮城 颯太aa4794
    人間|12才|?|命中
  • 短剣の調停を祓う者
    光縒aa4794hero001
    英雄|14才|女性|ドレ
  • リベレーター
    キャルディアナ・ランドグリーズaa5037
    人間|23才|女性|命中
  • リベレーター
    ツヴァイ・アルクスaa5037hero001
    英雄|25才|男性|バト
  • エージェント
    柏木 優雨aa5070
    人間|15才|女性|防御
  • エージェント
    フロイト・ヴァイスマンaa5070hero001
    英雄|25才|女性|カオ
  • さいきょーガール
    雪室 チルルaa5177
    人間|12才|女性|攻撃
  • 冬になれ!
    スネグラチカaa5177hero001
    英雄|12才|女性|ブレ
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