本部

もののけぱんでみっく

鳴海

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
10人 / 4~10人
英雄
10人 / 0~10人
報酬
普通
相談期間
4日
完成日
2017/06/22 16:34

掲示板

オープニング

● 獣が増え続ける世界。

 そこはやためったらにファンシーな世界である。
 ピンクや黄色、極彩色で目が痛くなるような街並みに、足元はクッションなのかふわふわしておぼつかない。
 建物は皆さんの背丈くらいしかなく、大きい建物でも身をかがめて入らないといけないミニチュアな町。
 そこが『もののけ町』
 もののけたちが住む町である。
「調査員の報告によると、ファンシー好きにはたまらないそうだな?」
 指令官アンドレイは告げる。
「ただ、かわいいだけじゃない。茨のとげよりエグイマイナス要素がある。
これを見てほしい」
 そう会議室のモニターに映し出されたのは、ドロップゾーン内部の映像。
 そのゾーンはもののけで溢れていた、あっちを見てももののけ。こっちを見てももののけ。
「このゾーン内では、このファンシーな生き物たちは勝手に増殖を続けるらしい」
 このゾーンのとあるエリアに、大体二十体程度のもののけが溢れかえった時。それはおこったという。
「もののけたちが一斉に一か所に集まって地面を掘り始めたんだ。すると」
 すると驚くべきことにそのエリアの地面が崩落し、大量のもののけたちが現実世界に解き放たれたそうだ。
「その時の姿は全く可愛くなかったという」
 ドロップゾーンから次々と現れる従魔たち、確かにそれらはドロップゾーン内で模していた動物の形と似通っている、ただ一様に二足歩行であり、金属バットを持ち、残された特徴としては、カラーリングと、申し訳程度の兎耳、猫耳程度。
 あの可愛らしいもののけたちすべてが屈強な筋肉ムキムキマッチョマンの変態になってしまった。
「その後近隣のまちを襲い始めたのだから困ったものだ」
 従魔はなかなか難しかったらしい、少なくともデビュー半年程度のリンカーたちはかなり苦戦していた。
「このまま野放しにしておけば、あの夢も希望も欠片もない、従魔たちの大量生産を許してしまう、リンカーたちにはドロップゾーンに潜り、従魔の数を減らしつつ、愚神を叩いてもらいたい」
 そうアンドレイは締めくくり、具体的な作戦説明に移った。

●ゾーンの構造
 このドロップゾーンは広大で、半径10キロメートルにわたる円です。
 その中に半径100メートルの円程度の町が五つ点在しており、町と町の感覚は1キロ程度離れています。
 この五つの町にもののけが溢れると、床が重みに耐えきれなくなって破れ、現実世界に、強めの従魔が召喚されるようです。
 この町のもののけの増殖を防ぎつつ、いち早く愚神を倒すのが今回のシナリオ趣旨です。

● もののけ達の特徴

 今回戦闘依頼ですが、戦闘要素は低めです、効率よくもののけ達を減らす立ち回りが重要になる任務です。
 その間に、ゾーン生成に特化したデクリオ級愚神を見つけだし倒してください。
 もののけたちの特徴がなかなか多いので、その把握も大変かと思いますが、頑張って倒してください。
 ちなみに、このドロップゾーンに登場するもののけは巨大です。最低でもサッカーボール程度の大きさがありまして、邪魔です。
 移動妨害してくるので対策は必要かと思います。

『うさぎ』 大きさは大型犬程度の犬です。普段はおとなしくもしゃもしゃと何かを食べているのですが、ひとたび攻撃を受けると二メートル近く飛び上がりながら逃げます、すごく狙いにくいです。

『やぎ』 四足歩行の山羊ですが、現実世界とあまり大きさが変わりません。攻撃を受けると突進してきます、ダメージは獄小、装備を整えていれば無効化できるでしょうが、数が多くなると群がられて移動ができなくなります。

『はむちゃん』 ハムスターです。大きくてサッカーボールくらいの大きさです。特に特徴を持たない、一番スタンダードな奴です。

『ねこ』 一番厄介です。彼等は死角からあなたたちを狙っています。そして隙あらば飛びつき、すりすりすりすりしてきます。
 この誘惑を跳ねのけるのは至難の業です(キャラクターの性格しだい)
 数が多くなると一斉に飛びかかられて埋もれることになるので注意。
 大きさは大人の豹くらいです。

『ぞうさん』 大きいです、普通のぞうさん程度の大きさがあります。もののけ達を守る盾になります。魔法防御力が特に高いので、倒す時は近接アタッカー複数名でひたすらに殴るとよいでしょう。

『カジキ』 空中を漂うカジキです。体長二メートルくらいです。鋭い角が特徴ですが、一度刺さったら抜けなくなります。
 空を猛スピードで飛んでくるので狙いにくいですし、カジキの突撃は痛いです。普通に体を貫通します。
 怖いです。ジャックポットの活躍が祈られます。

解説

目標 愚神『カンナ』の撃破

 今回の目標は、五つの町のどこかにいるカンナの討伐ですが。
 それを探すのもまた一苦労です。
 何せカンナは体長一メートル程度の幼女型愚神だからです。

● 愚神『カンナ』
 このドロップゾーンを管理する少女型の愚神です。
 町のどこかに隠れていて探さなければいけませんし、一度見つけても別の町に逃げようとします。
 逃げる方法はテレポートですが。
 ラウンドの最初にテレポートすると周りに宣言し、そのラウンドの終了時でないと効果を発揮しないので、落ちついていれば対処はできるでしょう。
 カンナはドロップゾーンの管理、そして防御力に特化した愚神です。
 周囲に常にバリアを張っており、これを壊さなければ本体にダメージは与えられません。
 攻撃手段ですが、近くのもののけを、投げ飛ばすことと。
 腕力が強いので接近戦を仕掛けてきます。
 ただ、接近戦を仕掛けるのは癇癪を起した時や、どうしても逃げられない時だけで、行動の優先順位は逃げること、みたいです。
 知能は低く。十歳前後の少女のような振る舞いを見せます。
 ただ、ひとたびドロップゾーンの外に出てしまえば残忍になる従魔を総べる主ですから、本人も油断ならないでしょう。
 あとはお菓子が大好きです。
 

リプレイ

第一章 もののけぱんでみっく
「さて、それじゃ…………」
 銃身をなぞり『麻生 遊夜(aa0452)』は嘯く。
「始めるとしようか」
――…………ん、狩りの時間。
 少女の笑い声が童話の町を引き裂くように高らかに響いた。
 直後がなるのは砲塔。
 悲鳴のような残響を残しながら、町を闊歩する従魔を次々と打ち抜いていく。
――ん、逃さない。
『ユフォアリーヤ(aa0452hero001)』は笑うように目の前の山羊さんを葬った。
 直後二人の前を横切るのは『レミア・ヴォルクシュタイン(aa3678hero001)』両足だけでバイクを器用に操作するレミアは、その両手に《闇夜の血華》が抱えられている。
――……レミア。
『狒村 緋十郎(aa3678)』が重々しい声で言葉をかける。
「なに? 緋十郎、危ないって話なら聞かないわよ」
――いや、思う存分やってほしい。痛みは俺が引き受ける。
 その言葉に少女は残忍に笑った。
 ここは愚神が支配するドロップゾーン内部。
 足場はふわふわし、出てくる従魔も可愛らしいが従魔と愚神であることには変わりない。
 だから倒す、狩人である遊夜にとって、理由はそれだけで十分だ。
「確かに、来る奴によっては大変そうなとこだな」
――……ん、可愛い……でも敵、ならお肉。
 空に並ぶデフォルメされたカジキマグロ、それが一斉にレミアに降り注ごうとしたとき、遊夜は早打ちにてそれを迎撃。
 レミアは器用に前輪を持ち上げ反転。遊夜に迫る山羊を体当たりで吹き飛ばした。
 さらに飛びかかってくる猫を。
「可愛いけど、私に刃向うことは許されないわ」
 レミアは魔剣で叩き切った。
 その容赦のない一撃に怯えたのか、ウサギやネコがあたりに散っていく。
 その行く手を阻むように遊夜は弾丸をばらまいていく。
――……早くても、向きは同じ……狙うのは、簡単。
「すまんな、そこにいるのはわかってるんだ」
――……跳んでも、無駄……逃がさない、よ?
 たまらず直情方向に飛んで逃げる兎、だがその目の前にレミアが立ち肌方。
「リーゼの長さは240cmよ。つまり」
 二メートル程度のジャンプではかわせない。
 レミアはテニスでショットを決めるように体を一直線に伸ばして体験を振るう。
 結果兎は真っ二つになり、軽快な音と共に消えた。
「ナイスアシストだ、緋村夫妻」
――なに、これくらいはしてみせるさ。それにしても今日も冴えわたっているな。麻生夫妻。
 そう緋十郎が告げると、照れたように遊夜は頭をかいた。
「そう言えば、そう呼ばれてもおかしくないんだよな」
――……ん、なれない。はずかしぃ。
 恥ずかしがっていても狙いは外さない遊夜である。
 遊夜は建物や物陰を素早く移動。射的ゲームのように軽々と敵を仕留めていく。
 その時である。
 サンドエフェクトでカモフラージュされたモスケールに反応が見えた。
「近くにいるみたいだな」
――……ん、お出まし。その点はあたりをうろついている。
 おそらくは遊夜を探しているのだろう、だが。
「少し、もったいなかったかね」
 遊夜は香水の瓶を投げ捨てた。町を駆けながらいたるところに香水を散布したのだ。
 これで嗅覚による索敵は使えない。
「ちっとばかり勝手が違うが……」
――……ん、やることは同じ……でもやっぱり、嫌いな臭い。
 ユフォアリーヤはプルプルと震えて嫌悪感を示した。
 こちらも鼻は使えない、だがレーダーがある分だけ有利だろう。
――見つけたわ、緋十郎!!
 その時である、レミアが一際強く声を上げた。その双眸は目の前の家を見ている。
 あの中に愚神がいるのだろうか。
 いや、間違いない。緋十郎の腕輪も、モスケールもあの場所を指示している。
 だからレミアは、バイクの勢いそのままに大剣を横から振り上げて。そして。
 家ごと叩き切った。
 だが見れば、愚神は大剣を白羽どりして食らいついている。
 小さな幼女だ。緋十郎が好みそうな幼女である。
――君が、カンナか、どうだお菓子でもたべ……
「緋十郎は黙ってなさい」
 奥さんに怒られる緋十郎である。
「うう! カンナのお友達、減らしちゃダメ!!」
 そのまま大剣を足場にしてレミアへ殴り掛かってくる愚神。だがその横っ面に弾丸が突き刺さってカンナは転がった。
 素早く受け身を取って距離を取るカンナ。
――レミア、頼む。俺に要らぬ情が移る前に…速やかに愚神を滅してくれ……。
 緋十郎の叫びにいらだちを見せるレミア。
 そんな夫妻にカンナはカジキをまるで槍のように飛ばしてくる。
「おお、元気だな」
 遊夜はそれを打ち落としつつカンナに接近しようと試みた。
 だが目の前を遮るのは、どこから湧いたのかゾウ。
 でっかいゾウさんが遊夜を通せんぼしてしまう。残念ながら他の従魔と違って一撃で倒すとはいかなそうだ。
――……ん、一射一殺が理想……でも、火力不足。
――こちらにカンナがいた。至急応援を。
「お兄ちゃんたち! 嫌い! 私いなくなる!!」
 緋十郎がそう周囲に呼びかけようとした瞬間であった。
 カンナはふっと消えてしまう。
 テレポートなのだろう。
 仕留め損ねてしまった。二人は顔を見合わせる。
 こんかいの事件、解決は難しいかもしれないと思い始めた二人だった。

第二章 事の次第

「我が名は御剣華鈴。士族の血統を引く御剣家の娘であり、現在は由利菜お嬢様の屋敷の使用人を務めております。以後、お見知りおきを」
 『御剣 華鈴(aa5018)』が一同に挨拶を済ませると『月鏡 由利菜(aa0873)』が笑って告げた。
「メイドの華鈴が初めて依頼に入るので……大急ぎで参加申請しました」
「カリン、この三ヶ月半の修練の成果を見せてみよ」
 師である『リーヴスラシル(aa0873hero001)』の言葉に力強く頷く華鈴、だが傍らの『フェニヤ(aa5018hero001)』は不服そうに告げた。
「カリン……戦はまだ始まらないのか」
「ふぇにや、開戦は間近である。今は静かに闘気を研ぎ澄ませよ」
 ただ、静かに研ぎ澄ませと言っても当面の敵は従魔、ぬいぐるみのようにコロコロした従魔である。
 いまいち緊張感が出ない。
「随分かわいらしい感じですね、先輩」
 目の前を歩き去るハムスターを眺めて『ユズリハ ルナリィス(aa0224hero002)』が『月影 飛翔(aa0224)』に問いかける。だが飛翔にとって可愛さとは何の意味も持たない、それより気になるのはこのゾーン独特の味場。
「足元もおぼつかない、踏込みとか気を付けないとな」
 その言葉に『メリッサ インガルズ(aa1049hero001)』が頷く。
「足元の不安定感は動けば慣れそうね」
「この極彩色は慣れたくないな……」
 そう言葉を返したのは『荒木 拓海(aa1049)』だった。
「まずは従魔の数を減らさないと。撃破しつつ愚神を探すか」
 その飛翔の言葉に頷くと一同は持ち込んだ車両などに乗り込んでいく。
「おらっ行くぜ! 俺の前は誰にも走らせねぇっ!」
 そう性格を豹変させた『黄昏ひりょ(aa0118)』がスタンドを上げると前輪を持ち上げたひりょが急加速『フローラ メルクリィ(aa0118hero001)』は戸惑いと驚きで引いて言葉もでなかった。その後部座席で『黛 香月(aa0790)』は姿勢も乱さず精神を集中させていた。
「馬鹿馬鹿しい。こんな酔狂な真似をして…………余程暇を持て余しているんだな?」
 その悪態に『清姫(aa0790hero002)』はただ頷いて、そして一行は担当の場所を目指す。

    *    *


「はっきり言って虫唾が走る」
 唸るバイクのエンジン音、回転数を上げ甲高く響くそれは、もののけたちの安寧をやすやすと引き裂いた。
「ただでさえ憎き愚神が、こんなろくでもない遊びに耽っているのだから」
「いくぞおら!」
 ひりょの叫びで街中に突っ込むバイク。香月は片手に刃を閃かせてそして。
 銀色に閃く旋風でもののけ達を根こそぎ巻き上げた。
 斬撃でポンポンと音をたて、無に帰るもののけたち。
 撃ち漏らした敵はひりょが的確に片付けていく。
 その弓の一矢は正確で、巻き上げられたもののけ達は地面に降りることができず、爆発して消えていく。
 ざっと見たところ、限界ぎりぎりまでもののけが増えていたようだ、早急に減らさなければまずい。
「 我々を舐めているのか、それとも作戦の一つなのか。なんでもいい。 敵の目的がいずれにせよ、跡形もなく捻り潰し、粉砕するのみ」
 そう告げて香月は後部座席に足をつけて立ち上がる。
 ひりょは振り返ってパワードーピングによる支援を駆けた。
「ここはお任せします。黛さん、ご無理なされずに……ご武運を」
 ひりょが告げた次の瞬間、香月は座席から飛び立った。目の前に見えたのはもののけのための商店街。
 小さく可愛らしい街並みだったが、そんなもの香月にとっては破壊対象でしかない。
 慌てふためき、にげまどうもののけ達。
 それに刃を浴びせる香月と。撃ち漏らしを迎撃していくひりょ。
「愚神……いないようだな」
 日本刀・国士無双を払い懐に収めると香月は通りがかったひりょのバイクに乗車した。
 どうやら別の町で愚神が出たらしい。
 二人は急いでその場に急行する。

第三章 お菓子の家。

「何ていうか……かわった生き物と戦ってばかりだね、僕達」
『エスト レミプリク(aa5116)』が謳うようにそう告げると『シーエ テルミドール(aa5116hero001)』が反応してくれる
――今日は何に会えるのかしらぁ♪
 一見楽しそうな二人。ピクニックでもするのかと思える陽気で、しかももぐもぐとお菓子を食べながらのどかな街中をバイクで飛ばしている。
 でも実は従魔退治というのが皮肉なところ。
 そんなエストは『国塚 深散(aa4139)』にしがみついていた、小回りと二人乗りでのバランスを考慮してのツアラータイプ。
「ちゃんと捕まってください。振り落とされますよ?」
 そんな深散の言葉にエストとシーエは、はーいと返事を返した。
――変な所触っちゃダメよぉ?
 実は恥ずかしがっているエストにそう釘をさすシーエ。
「そう思うなら変わってよ!」
 高鳴る胸の鼓動を抑えながら、そうエストは抗議の言葉を返した。
 だが、そんな和やかなツーリングもぞうさんの通せんぼで終りを迎える。
――やるしかなさそうだね。
 『九郎(aa4139hero001)』がそう静かにつぶやくと、ザッハークの蛇を伸ばし構える深散。
「そこをどいてもらいましょう。町まで入れませんから」
 次の瞬間、ぞうの首に縄が巻き付いた。悲鳴のような鳴き声を上げて立ち上がるゾウ。
 見上げるほど大きな草食動物と深散の綱引きが始まった。
――象と綱引き、たーのしー。
「エストさん、私が引き止めている間に!」
「な、なんで象と力比べを……!?」
 唖然とエストはつぶやいた。するとシーエが告げる。
――もう! 女の子が頑張ってるんだから早く手伝ってあげなさい!
「え……ええ!?」
 掛け声はこの際、わっしょいである。 
 わっしょい、わっしょいと、二人がかりで像を通路からどかして、最終的に引き倒し。倒れてのた打ち回る像を見ながらお菓子を食べる二人。
「そう言えば、ぞうさんって倒れた時どうやって起き上がるんだろう」
 そんなエストのつぶやきに誰も答えられないまま一行は街中を目指す。
 あんな硬い生物に構っているよりはさっさと別のもののけを倒したほうが楽だろうという判断だった。
 そしてやっとこさ侵入できた町の中心。そこはハムスターの楽園であった。
 バイクを降りてころころと転がるハムスターを眺める深散。
――なんか蹴りたくなるね。
 九郎が告げると深散は苦笑いを返した。
「なりませんよ?」
「ここまでリラックスされてると……やりにくいけど」
――やらないわけには……ねぇ。
 そうエストとシーエは告げると武器を抜く。その不穏な空気に反応してハムスターがてってこてってこと駆けはじめた。
「国塚さん! 下がって!」
 直後はなたれたのは斬撃の嵐。たくさんいたハムスターたちは根こそぎ狩られていく。
 その直後だった。家の扉を突き破るように何者かが接近してきてエストに拳を振るう。
「あぶない!」
 その攻撃を遮るように深散が敵の目の前に躍り出た。
 それは幼女のような姿をしていて。深散の刃に肌を当てても一切切れている様子がない、愚神である。
「お友達に意地悪しちゃ! だめ!」
 その刃を深散は弾いて距離を取り、そしてお菓子を食べる。
「人が真面目な話をしてるのに! お菓子食べちゃダメ!!」
「あ、いえ、お腹がすいていた物で」
 もぐもぐもぐもぐ。右手に刃、左手にお菓子の状態で深散は愚神とにらみ合った。
「バカにしないで!」
 二人は機動力にまかせた接近戦を見せる。
――すごい動きねぇ、今のエストじゃとても真似出来ないわぁ。
「そんなのわかってるから集中してシーエ!」
 拳と刃を合わせ、はじかれ、着地。位置取りを代えて再びのアプローチ。その目にも留まらぬ押収にエストは目を回す。
「ごめんなさい、貴方にあげられるお菓子はないの。月鏡さんの所に行けば、沢山もらえると思うけれど」
「え? そうな……。別にお菓子なんて欲しくないんだから!!」
――お菓子ならあっちにいっぱいあったわよぉ?
「だから! お菓子なんて……ででも、あっちって。どっち?」
 シーエの言葉に集中力が奪われるカンナである。
 ちなみにシーエは親切に由利菜のいる町を教えてあげた。意外とカンナは礼儀正しく、二回もありがとうと言った。
「でも! それとこれは、話がべつなの!!」
 仕切り直す愚神とリンカー。
 次いで、どこからともなく現れたカジキを二人に投げつけるカンナである。
 だが、カジキを投げるために一瞬動きを止めたカンナをシーエが見逃すわけがない。
――あら……とってもいい位置ねぇ。
 愚神ごと、カジキごと、周囲のもののけまで暴虐の嵐で吹き飛ばすエスト。
「いやあああああ」
 思わず頭を抱えてしゃがみこんだ愚神。そんなカンナへチャンスとばかりに深散は刃を向けた。
 だが、それを庇うように飛び出したのが、ねこさんである。
「うにゃーん」
 その爪を刃で受け止めた深散は、返す刃でねこさんを切り裂く。
「ツンの無い猫、猫に非ず、です」
 目の前で爆発するねこ。だがその煙が晴れるころには愚神はその場にいなかった。
「逃げられちゃいましたね」
 深散にあわてて歩み寄るエスト。
「あ、いえ。デスマークを付けているのである程度場所はわかるかと」
 転んでもただでは起きない深散である、ちなみに愚神はすぐに由利菜の町で見つかったのでそこに急行することにする。
「何かあればすぐに呼んでくださいね」
 そう告げて深散はバイクに乗り込んだ。
 その後ろ姿に手を振ってエストは見送る。
 次いで、地響きを立てて追いすがってきたぞうさんと、残りのもののけ達をエストはみやった。
――ここからは一人よぉ?
 シーエはそうあたりを眺めて告げる。
「うん……全力で行こう!」
 頷いたエストはより苛烈に、その刃を振るうことになる。

   *    *

――先輩、兎ですよ、モフモフです。抱き付いたら気持ちよさそう。
「ユズリハ……」
――ああ、この猫、すごくモフモフです。
「なんでもいい、だから」
――ああ、幸せです。
「体の主導権を返してくれないか?」
 飛翔は空を見あげながら、テンションの振り切れた相棒に告げた。
 時は任務開始して各自敵拠点に向かったすぐあと。
 もののけ達の想像以上の可愛さにユズリハがやられてしまい。
 飛翔はいまや、ハムスターを両手に抱え。兎と猫の下敷きになっていた。
 もはや飛翔レベルのステータスになると、この程度の従魔の攻撃は痛くもかゆくもないところが災いした。
 なかなか戦闘に戻れそうにない。
 戦闘開始時にユズリハは

―― 一気に殲滅です

 など意気込んでいたはずなのになぜ……
 そんな風景を見守る拓海の心中もまた穏やかではなかった。
 どうしても頭の片隅にある事前情報が離れない。
 この従魔たち。今は可愛い見た目をしているが、いったん野に解き放たれればムキムキ筋肉のマッチョマンなのである。
「ダメだ……可愛いのを見ると裏に何か有る気がして素直に愛でれない」
 脳内でマッチョが乱舞している拓海。
――見た目に騙される事が減るなら儲け物ね。
 メリッサはそう苦笑いを浮かべた。
 そんな中、いい加減もののけ達も増えてきたことだしと行動を開始する飛翔
「お前は狼だろうが…………帰ったら尻尾の手入れしてやるから」
――ホントですか! なら早く終わらせましょう。
 直後、スパーンと景気のいい音を響かせてもののけ達が舞い上がる。
 直後飛翔はもののけたちを足場に高く舞い上がって。そして上空からフリーガーの嵐を浴びせた。
 その攻勢から逃げおおせた兎、だが目の前に拓海が立っている。
 容赦ない斧での一撃が、一刀のもとに兎を両断する。
 そんな拓海が不穏な空気を感じ振り返ってみると、そこに浮遊していたのはカジキの群である。
 それが猛スピードで突撃してくると、拓海はそれを間一髪のところで回避して見せる。
 腹部の布が裂けていた。
「飛んでる……フットワーク軽っ!」
 さらに続けて打ち出されるカジキたち、それに、そこら辺を転がっていたハムスターを投げることで攻撃をそらした。
 チューっとハムスターは鳴いていた。
 さらに展開されるストームエッジ。
 飛翔は容赦なくうさぎ、やネコたちを葬っていった。
 そんな仲間たちを見かねたのか立ちはだかったのはぞうさんである。
 これは骨が折れる。そう歯噛みする飛翔。
 対して拓海は天使のラッパで敵をひきつけ走っていた。
「さぁついて来い」
 気分はハーメルの笛吹である。
 だが、そんな拓海だったが、地面に転がっていたハムスターに足を取られて転んでしまう。
 群がるもののけ達。脳裏によぎる、マッチョ祭。
 拓海は悲鳴を上げて起き上がった。
「うわああああああ!」
 ひたすらに攻撃を繰り返す拓海である。特に猫。お前は許さない。
――……見た目で差別するのね。
 そう皮肉っぽく告げたメリッサ。
「わざと言ってる? 言ってる? 近隣を襲うって聞いたろう?」
 苦笑いで言葉を返す拓海、その拓海の困ったような返しにメリッサは楽しそうに笑った。
 そして降り注ぐストームエッジ、これであらかたの掃除は終わった。
 拓海は安全が確認できると飛翔に厳選ショコラを手渡した
「飛翔、1つどうだ?」
 飛翔はそれに礼を告げて受け取る。直後二人に通信が入る。愚神が由利菜の町に現れたようだ。
「なら、こっちは任せろ、そっちは任せた」
 拓海は飛翔にこの町に残る旨を伝えると、飛翔は頷きバイクにまたがる。
 最終決戦まで近い。そんな予感が二人の中には逢った。

第四章 お菓子の町で最後の戦い

――我がここまで勘を取り戻すに、三ヶ月と少しかかったが……無駄な時間ではなかったらしい。
 フェニアがそう告げつつ刃を振り下ろすと最後のネコが炸裂音を鳴らして目の前から消えた。
「らしる教諭の教えと、私達の一日も怠らぬ鍛錬の賜物。お嬢様やそのご友人達も共に在る。恐れること何も無し」
 華鈴はそうつげあたりを見渡す。そんな肩に力の入った華鈴へ、諭すように言葉を向けるのは由利菜。
「頼りにしていますよ、華鈴」
 二人はいち早くこの町に現れるとあっという間に従魔を殲滅した。
 全てはこれからの準備のためである。
 持ち込んだティーセットやお菓子を手ごろな机に並べ始める二人。
「この風景は、愚神カンナの願望を映し出したものなのでしょうか……?」
 華鈴がティーセットを並べていると由利菜はそう尋ねかけた。
――見せかけだけの風景、奇怪な姿形の従魔……長居はしたくない歪な場所だ。
 リーヴスラシルは言葉を継ぐ。
「……模型の街に蔓延る怪異……何と奇っ怪な場所であろうか」
――戦ができるなら、如何様な場であろうと我は構わぬ。
 そんな真っ直ぐな意見をぶつけてくるフェニアに華鈴は微笑みを向けた。
 さて、準備も佳境である。
 持ってきた音楽再生機器で由利菜は遊園地のマーチを流したり、あとはオートマトンも用意。
「学園祭や、ベルカナの季節キャンペーンでこのような作業は経験があります」
 一時戦いということも忘れて由利菜は小さく微笑んだ。
「使える時間は少ない、手短に済ませるぞ」
 その時である。
「お茶が苦いわ」
 いつの間にか椅子に座っていた幼女がおもむろにそうつぶやいた。
 これが噂のテレポート能力だろうか。
 二人は身構える。
 そしてカンナの小さな手がお菓子に伸びようとしたとき。
――……私達は、愚神を姿形で判断はしない。
「この世界や人々へ災厄をもたらすのであれば、討ちます」
 そう由利菜が剣を向けた。
「怖いわ!」
 そうカンナが叫んだ時。突如周囲にカジキが湧いた。まるで狙い澄ましたスナイパーのように二人を狙う。
 そのカジキに刃を向けたのは華鈴。
「お嬢様と共に最後まで戦いたかったですが……愚神はお嬢様と私より優れた武芸者達へ任せ、従魔の掃討へ向かいます」
――ちっ……大物捕りをしたかったが、仕方ねぇな。
 二人は一足ではじかれたように左右に飛ぶ、由利菜は愚神へ、華鈴は従魔へ切りかかた。
「愚神カンナ……楽しい時間と場所は、周囲に迷惑をかける形で得てはならないものです」
――……盛大に歓迎してやろう。貴様を討滅する宴の始まりだ!
 華鈴はまず武装をAK-13に変更。
「私としては火縄銃が好ましいが……」
 そう告げカジキを打ち落としていく。
 そんな銃弾をかいくぐって猫が接近。華鈴へ飛びかかった。
「く! 腕力が強い」
 悶える華鈴、そんな姿を見かねてフェニヤが叫ぶ
――カリン、肉体の主導権を渡せ! 叩き斬ってやる!
 直後猫を蹴り飛ばして体制を立て直す華鈴。
「それには及ばない……」
――……狩場は可愛さで生きていけるほど甘くねえんだ。狩人をなめるなよ、猫もどきが……!
 そして華鈴は武装をインサニアに持ち替えた。
「お嬢様より預かりし大剣の切れ味、その身に受けよ!」
 滑るような移動、下から上への切り上げは流れる水のごとくなめらかで。
「穢れを祓うが如く……! 桜神楽!」
 猫を一刀両断にした。
 さらに群がってきたヤギやカジキに対しては。
「金、木、土、水、火……」
 刃にありったけの霊力を込めての反撃をみまう。
「これぞ我が剣技、五行相剋!」
 吹き飛ばされるもののけ達。その鬼神のごとき武力には一切の不安も感じさせない力があった。
「浄化せよ、風の聖槍!」
 その背後で由利菜は、愚神ごと風の槍で従魔たちを巻き上げていた。
 スカートを抑えて飛ぶ愚神。その愚神に一撃みまうもバリアによって防がれる。
「怖いわ、こわいわ! お茶会だって聞いたのに!」
「それはおあいにく様でしたね!」
 さらに一撃突き出す由利菜、それを回避し愚神が由利菜の懐に潜り込む。
「もうしらない! 私帰る」

「いえいえ、もう少し遊んで行ってください、私は遊び足りませんから」
 いつの間にだろうか。
 愚神の背後に深散が控えていた。
 一瞬にして背後をとり、そして愚神の反応速度を超えて、その刃を閃かせる。
「やはり、攻撃の時はバリアが消えますか」
「ふっ! 俺のバイト先のお菓子は絶品だぜ! いいだろ~?」
 そう愚神を挑発するようにバイクで周囲を回るのはひりょ。
 相変わらず人格がおかしい、フローラも相変らず茫然としている。
 そんなひりょは弓で牽制攻撃を仕掛けながら由利菜に近づいた。
 パワードーピングによる強化。
 そして戦場にいる全員へケアレインをかけた。
 そう、全員である。そこには遊夜も緋十郎もいれば。各町から連絡を聞きつけてやってきたリンカーたちが勢ぞろいしていた。
「そんな!」
 逃げ場がない、息を飲むカンナ。
 そんなカンナだったが、背後に忍び寄る影に気が付いて。反射的に拳を撃ってしまった。
 反撃とばかりに香月のロストモーメントが発動する。
「きゃあああ!」
「相手が幼気な子供じゃなくて悪かったな? 私を愚弄する者には悲しき末路が待っている。何か言い残すことはあるか小娘?」
 そう殺意をぎらつかせる香月に清姫が同調する。
――やれやれ、不愉快な悪餓鬼よのぅ。この程度の遊びしかできぬとは、実に哀れな奴よ。
 カンナは恐れ後ずさる。
 そのバリアを遊夜のだんがんが打った。
「俺達全員に参ったって言わせたら、ここのお菓子は全部あげるぞ」
 飛翔が上空からの兜割を決める。
「もういらない!!」
 そのバリアへ緋十郎が刃を突き立てた。
 やはり心が痛むのか、緋十郎はすごく複雑な表情を浮かべていたけれども。
「『夜神一灯流、奥義が三【一輝刀閃】』」
 直後、飛翔は全ての剣技を解放した。カオティックソウル、さらにスカバード加速の斬撃でバリアを切り裂く。
「あ!」
「今だ、一気に叩き込め」
 叫ぶカンナ、噛みしめるように告げる飛翔。
 そのタイミングを待っていたとばかりに由利菜が躍り出た。
「……祭典は華やかに!」
 その剣劇は一瞬に数閃。逃げ場を奪いながらも命を削り、やがて舞のような斬撃が終われば、そこに立つものなど無いのだろう。
――誓約術、リミッター解除! 私の力全てを主と一つに!

『「ディバイン・キャリバー!!」』

 カンナは甲高い悲鳴を上げながら、軽快な音共に煙をまき散らして消えた。
 世界が崩れていく。
 夢の国も、もののけ達も。
 ついにはゆめの、あとである。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • ほつれた愛と絆の結び手
    黄昏ひりょaa0118
  • 来世でも誓う“愛”
    麻生 遊夜aa0452
  • 永遠に共に
    月鏡 由利菜aa0873
  • 苦悩と覚悟に寄り添い前へ
    荒木 拓海aa1049

重体一覧

参加者

  • ほつれた愛と絆の結び手
    黄昏ひりょaa0118
    人間|18才|男性|回避
  • 闇に光の道標を
    フローラ メルクリィaa0118hero001
    英雄|18才|女性|バト
  • 『星』を追う者
    月影 飛翔aa0224
    人間|20才|男性|攻撃
  • エージェント
    ユズリハ ルナリィスaa0224hero002
    英雄|16才|女性|カオ
  • 来世でも誓う“愛”
    麻生 遊夜aa0452
    機械|34才|男性|命中
  • 来世でも誓う“愛”
    ユフォアリーヤaa0452hero001
    英雄|18才|女性|ジャ
  • 絶望へ運ぶ一撃
    黛 香月aa0790
    機械|25才|女性|攻撃
  • 反抗する音色
    清姫aa0790hero002
    英雄|24才|女性|カオ
  • 永遠に共に
    月鏡 由利菜aa0873
    人間|18才|女性|攻撃
  • 永遠に共に
    リーヴスラシルaa0873hero001
    英雄|24才|女性|ブレ
  • 苦悩と覚悟に寄り添い前へ
    荒木 拓海aa1049
    人間|28才|男性|防御
  • 未来を導き得る者
    メリッサ インガルズaa1049hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • 緋色の猿王
    狒村 緋十郎aa3678
    獣人|37才|男性|防御
  • 血華の吸血姫 
    レミア・ヴォルクシュタインaa3678hero001
    英雄|13才|女性|ドレ
  • 喪失を知る『風』
    国塚 深散aa4139
    機械|17才|女性|回避
  • 風を支える『影』
    九郎aa4139hero001
    英雄|16才|?|シャド
  • 我ら闇濃き刻を越え
    御剣 華鈴aa5018
    人間|18才|女性|命中
  • 東雲の中に戦友と立つ
    フェニヤaa5018hero001
    英雄|22才|女性|ドレ
  • 決意を胸に
    エスト レミプリクaa5116
    人間|14才|男性|回避
  • 『星』を追う者
    シーエ テルミドールaa5116hero001
    英雄|15才|女性|カオ
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