本部

可愛い子には旅をさせよ

昇竜

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2015/10/16 16:31

掲示板

オープニング

 招集を受けたエージェントたちがブリーフィングルームに向かうと、そこではいつになくゲンナリとした説明係が待っていた。見かねたエージェントの一人が、そんな一大事になっているのかと尋ねると、説明係はそうじゃない……と事のあらましを語り始めた。

「私事になってしまうが、俺にはライヴス能力に目覚めたばかりの高校生の息子がいる。こいつが例にもよってバカ野郎でな、勉強そっちのけで『討伐隊』なんていう若者グループに夢中になっている。H.O.P.E未所属のエージェント気取ったガキんちょ集団だ。夜な夜な近所の弱っちい従魔どもを倒しに行ってはバカ騒ぎして盛り上がってる」

 息子には父親である説明係からも、危ないからやめなさいと何度も言って聞かせたそうだが、言うことを聞かない。説明係は妻にそのことを咎められ、H.O.P.E職員なのだからエージェントに頼んで子供たちにちょっぴり痛い目でも見せてあげればいいと言われていたという。
 エージェントは忙しい、報奨金を出せないなどとあの手この手で妻をかわしていた彼だが、今朝出勤して受付に立っていると、なんとその妻が怒り心頭といった面持ちでそこへ現れたのだという。

「……俺のへそくりが入った茶封筒をカウンターに叩き付けてな、こいつで息子の目を覚ましてやれと言って帰って行った……」

 俺の競馬代が……と項垂れる説明係。なるほどゲンナリしていたわけである。

「……話を戻すが、実際に討伐隊の活動は目に余るレベルに及んでいる。最近では町内の神社を拠点にしていて、夜中まで騒ぐもんだから周辺住民からも苦情が出ている。ハンティングのやり方も従魔を舐めきっていて危なっかしいし、この際だから神社に乗り込んでけちょんけちょんにしてやってくれ。いい勉強になるだろう」

 討伐隊の正義感溢れる子供たちに適度な挫折感を与え、危険な活動をやめさせるために考案した作戦。
 その内容とは『エージェントがヴィランに扮し、圧倒的強さを見せつける』というものである。

「ヴィランの設定は適当でいい。神社をアジトにしている秘密結社でも新興ヤクザでも、好きにしてくれ。今の内容で回覧板を回しておいたから、地域住民からは了承を得ている。すまないが、君たちの後世を担う彼らのために、ひとつ教鞭を執ってくれないだろうか」

解説

達成条件
ヴィランに変装し、討伐隊にお仕置きしましょう。

討伐隊員
広けた境内で戦闘になる、12~18歳程度の低級能力者8人組です。
相手に勝てないと判断すれば逃走し、全員逃走した時点で勝利となります。
・ナイト×2:回復使いを狙う敵を優先します。攻撃よりカバーリングを優先します。
・剣士×2、弓使い×1、魔法使い×1:ナイトが狙う敵を攻撃します。
・回復使い×2:離れた位置から、味方を治療します。

状況
・討伐隊の集会は学校が終わったあと、午後6時頃から始まることがわかっています。
・(参考)説明係の息子は剣士として参加しています。リーダーシップを取っているのはナイトです。

リプレイ

●依頼直後

 司令室を後にするエージェントの中に、齶田 米衛門(aa1482)と英雄スノー ヴェイツ(aa1482hero001)の姿があった。依頼への意気込みを熱く語る二人の後ろを歩くのは、巨級美少女有栖川 有栖(aa0120hero001)を侍らせた絵に描いたようなヲタク桂木 隼人(aa0120)である。

「従魔を舐めとるバカケ共に取り返しのつかなくなる前に灸を据えるべさ!」
「応とも、灸を据えてやろうぜ!」
「ガキが粋がっているのか……」
「隼人くんなら一発だよね!」
「一発でやっつける依頼ちゃうんやて。心バキバキにへし折ったらなあかんやろ」

 通常運転で的外れな英雄を窘めつつ、桂木もまた先達として子供達を心配し、教訓を示すために容赦しない所存を滲ませる。ドキツイ社会勉強にしようと考える彼らに対し、奈良 ハル(aa0573hero001)の召喚者今宮 真琴(aa0573)は違うベクトルでやる気満々だ。そしてその後ろにも、間違った方向にうきうきしているのが一人。真壁 久朗(aa0032)の英雄セラフィナ(aa0032hero001)である。

「悪い子におしおきとか、わくわくするね……」
「まぁいい機会じゃろ。目を覚ましてやるか」
「お菓子スナイパーの腕の見せ所……トリックオアトリートとか言いながら狙撃したい」
「やめれ気色悪い、その職業名もカッコ悪いぞ」
「ハルちゃん煩いよ……」
「ちゃん付けもやめれって!」
「クロさん、今度の任務ちょっと楽しみですね!」
「え? あ、ああ……そう、だな。悪いが、俺はいまいち何をしたらいいのか……」
「なら、僕がいろいろ準備しておきますよ!」
「それじゃあ……任せる」

 真壁はどんどん俗世の影響を受けるセラを不安げに見たが、彼が楽しそうなので諦めたように笑った。当の英雄はそんな召喚者の心中など知るよしもなく、着せ替え人形にされて眉間に皺を寄せた真壁を想像して尚の事良し、と心躍らせた。最後まで司令室に残っていたのは、レオン・ウォレス(aa0304)と麻生 遊夜(aa0452)である。麻生は依頼説明の間大人しく待っていた英雄ユフォアリーヤ(aa0452hero001)の黒い髪をひとつ撫でると、やれやれといった様子で心情を口にした。

「ま、これも大人の務めかね」
「……ん、危険は知っておくべき」

 リーヤはこくりと頷き、心地良さそうに麻生の手にすり寄った。一方、レオンと英雄ルティス・クレール(aa0304hero001)は以前担当した事件を思い返しながら、此度の仕事が二人を結ぶ絆に違わないものかを確かめていた。

「子供絡みの依頼は前にも受けたけど、今度のは更に始末に負えないな。『大切なものを守る』が俺達の誓約だが、これは対象外と考えていいのかな?」
「我欲の為に力を振るうのは、けして否定されることではないけれど。今回の場合は彼ら自身が規範を逸脱しているのだから、誓約には反しないわよ。思い切りお仕置きしましょう」
「ふむ、では依頼を果たすために尽力することとしよう」

●作戦当日

 御神 恭也(aa0127)は不本意にも全身黒ずくめで神社の境内に立っていた。彼の衣装を見繕った伊邪那美(aa0127hero001)は御神の変装姿を見て一瞬目を輝かせたが、何か物足りないと感じたのか。

「仮面以外は普段の恭也と変わらない気がする」
「確かに黒が好きだと言ったが……伊邪那美、妙な依頼を勝手に受けて来て」
 しかし受けてしまったものは仕方ない。御神は顔全体を覆う仮面を付け直し、仲間たちの元へ歩いて行った。それとすれ違うように本堂へ向かうのは、足元までを覆うヴェールのドレープを美しく靡かせるカリスト(aa0769)と英雄アルテミス(aa0769hero001)である。

「討伐隊も良いけれど、ちょっとおいたが過ぎるようですね。貴女もそう思うかしら、カリスト?」
「はい、アルテミス様。あの……いかがなさいましたか。そんな風にじっと見詰められては恥ずかしいです……」

 アルテミスは歩みを止め、召喚者の表情を隠す前髪をそっと掻き分ける。カリストはラッセル・レースのあしらわれたヴェールの裾から麗しい英雄の姿を覗き見て顔を赤らめた。

「ごめんなさい。カリスト、貴女はいつも可憐だけれど、今夜は特別なものだからつい魅入ってしまったの。白い肌に黒髪がよく映えていてよ」
「そんな! アルテミス様の方がずっと……その、黒い御髪がとてもお似合いでいらっしゃいます。いつものブロンドの方が私は、好き、だけど……」
「まあカリスト……」

 ……以降はイチャイチャ無限ループの為省略させて頂く。さて、境内に集まったのは何とも珍妙なヴィランズである。中でもひときわ小物感が強いのは齶田とスノーの二人だろう。

「仮装大会ってこんな感じなんスかね?」
「んー、どっちかってぇと恋愛漫画のカマセな感じがすんぜ?」

 仮装用の仮面と黒いニット帽は見事に悪の組織の下っ端感を醸し出していた。しかし、その実力は本物である。もしかしたら今後戦友になるかも知れない子供たちに怪我をさせぬよう、齶田が考えたのは剣の刃を一時的に潰しておくことだった。これなら間違っても深い傷を負わせることはない。
 一方、こちらはセラフィナがコーディネートした真壁。ブラック・スーツのインに柄物のシャツを纏い、いかにもヤのつく自由業といった風貌である。機械化した左目を覆う前髪をかきあげると、額から顎にかけて頬を大きく抉った古傷……を模したシールが露わになった。
 己の仕事のクオリティに打ち震えるセラフィナの後ろには、スーツに120キロの巨体を捻じ込んだ桂木の姿があった。メガネの上から付けるタイプのサングラスを掛け、武器を手にしていない。武器を使えば死人出るかも知れないというのも理由の一つだが、正直なところガキの躾なぞ拳ひとつで十分である。
 ぼろぼろの外套を身に纏ったレオンは、さながら死神と形容するのが相応しい出で立ちだ。口が耳まで裂けた道化師の仮面を被り、得物は大鎌である。傍らのルティスは黒い羽根の付いた衣装に加え、その美貌に毒々しい化粧を施して、ヴィランに与する悪魔を思わせる。

「この歳でこんな格好する羽目になるとは……」
「……ん、カッコイイ、よ?」

 有名ヴィランズの模倣とはいえ、麻生はぼやかずにいられない。リーヤはそんな麻生の様子に首を傾げている。大きく開いた胸元には翅を広げた蝶のタトゥー・シールが貼られており、退廃的な色気が匂い立つ。普段なら注意されるような格好で、今日は好きなだけ甘えていいというのだからリーヤが楽しくなってくるのも無理はない。クスクス笑うリーヤにため息をひとつ吐き、麻生はシガレットを取り出して斜めに咥えた。眼下には神社と幹線道路を結ぶ石段が伸びており、そこから何も知らない学校帰りのターゲットたちが上がってくるのが見えた。

「ガキ共の安全の為だ、やってやるさ」

●ミッションスタート

 ブレザーを着た8人組……討伐隊が、いつものように輪になって今夜の獲物について話始めると、滅多に人の来ない神社に来訪者が現れた。真壁を先頭に桂木、麻生、リーヤ、齶田、スノーの六名である。初心者リンカーたちは見るからにヤバいスーツ集団の出現に驚き、一人が声を荒げた。

「なんだお前ら?!」
「あん? 先客か?」
「……んー」

 麻生が挑発的に言うと、リーヤは麻生の首に手を回して凭れかかる。その光景は健全な学生たちには目の毒で、何人かはウッ……と視線を逸らした。

「どうしたガキ共、こんな時間にこんな所にいたらあぶねぇぞぉ?」
「……ん、邪魔」
「おうおう、最近シマを面白おかしくしてんのは兄ちゃん達ッスか」
「シマだと……?」

 次に齶田が進み出て、頑張って悪ぶった。シマなどというテレビか漫画でしか聞いたことがない単語に、討伐隊の表情が曇る。

『クロさん、睨みつけるように!』
「……お前ら、ここが俺たちのシマだって知らねぇのか?」

 セラフィナに背中を押され、真壁が棒読み気味に言い放った。しかし気圧されていた子供たちには大根演技に気付く余裕はなく、むしろ彼こそが若頭的な存在なのだと思い込んだ。

「俺たち『古龍幇』の縄張りも知らねぇたぁ、ごっこ遊びか……さっさとやめて帰んな、それとも俺たちと遊ぶかぁ?」
「……ん、遊ぶの?」

 麻生が指ぬきグローブをした手で幻想蝶の義眼を覆うと、リーヤが光の塊となって召喚者を覆い尽くす。息を呑む子供たちの前に再び姿を現した麻生には、リーヤと同じピンと立った狼耳と豊かな毛並みの尾が備わっていた。
 同時にスノーと齶田も共鳴に入る。齶田は髪が伸びて根本から中ほどまでが紅蓮色に染まり、瞳孔は獣のように縦に伸びて、機械化した右半身が淡く光った。

「能力者……?! こいつらヴィランだ!」
「古龍幇って、アジア諸国を牛耳ってるっていうあのヴィランズか?!」
「ヤバいよリーダー、どうしよう?!」
「ひとまず奥に逃げるんだ!」
「おっと、そうはいかん」

 境内の方へ逃げようとする子供たちの前に、レオンが立ちはだかる。外套が風に靡くと、その背後から黒翼を持つ美しい女性が現れた。

「……安っぽい正義を振りかざし、我が眷属を刈る者共。自らの招いた報いを受けるがよい」
「見るからに不味そうですわね……。主様、こんな小物にその力を振るわれますの? 力の無駄使いですわよ」
「さァて、覚悟しいやガキ共」

 コキコキと手をこまねく桂木が極めつけを口にすると、ついに逃げられないと理解した子供たちは頷き合い、一斉にリンクドライブに入った。鎧の騎士、斧を持つ戦士、とんがり帽子の魔法使い……8人がそれぞれの装いに変化する。
 一番槍を買って出たのは齶田だった。大剣を大きく振りかぶり、戦士に襲い掛かる! 戦士は間一髪その斬撃を打ち払ったが、しかし衝撃の重さに低く呻いた。

「オラオラァ、そんなんじゃ下位構成員のオイ程度も止められんスよ!」
「なんて強さだ……アイツが苦戦するなんて!」
「どこ見てんねん。回復役潰すんはセオリーやで」

 討伐隊が齶田に気を取られている隙に、桂木は白魔導士ローブを着た少女に殴りかかる。しかし、桂木の拳を受け止めたのは討伐隊リーダーの盾だった。

「……ま、それを護るのもセオリーやな」
「素手とは舐められたもんだな!」
「じゃかぁしい、殴ったって強いんやで」
「桂木君、お若い騎士殿の相手は私が引き受けよう」
「ほな、あんじょうたのみまっさ!」

 レオンが前衛の足止めを引き受け、桂木は白魔導士を追う。そうはさせまいと、弓使いは素早く矢をつがえ桂木を狙い撃った。しかし矢は射落され、何者と振り返る弓使いは、本堂の屋根上に立ち月を背負うカリストの悠然たる姿を目の当たりにした。

「まあまあ、随分と可愛らしいハンターさんだこと」

 アルテミスと意識を重ね合わせたカリストに、弓使いは畏怖の念を感じながらも矢尻を向けた。放たれた矢に対し、カリストは真っ向から射返す。二本は寸分違わぬ直線上で刃を交え、カリストの一射が弓使いのそれの矢羽根までを貫き裂き、射手の頬をかすめるように突き抜けた。手腕の差を見せつけられ愕然とする弓使いを、カリストが嘲笑う。

「本物の狩猟というものを、教えて差し上げてよ」

 カリストは矢摺籐に矢をこすり、中仕掛けにあてがった。今度は弓使いのすぐ足元に矢が突き刺さる。勝てるわけがない! 弓使いは敗北を確信し、悲鳴をあげて逃げ出した。
 一方、回復使いの学者風少女には御神が襲い掛かっていた。

「吹き飛べ……!」

 間一髪ナイトが盾を割り込んだが止めるには至らず、狙われた少女共々石畳を吹き飛んだ。御神が地面にめり込んだ大剣を引き上げると、精神を同調した伊邪那美が彼を窘めた。御神は胸の内でそれに応える。

『恭也、やり過ぎだよ……』
『見た目は派手だが威力は無い。彼らが死ぬ事も大怪我を負う事も無い』

 元より御神の狙いはナイトを挫くこと。ゆっくり標的へ近付いてゆく御神を、突如ライヴスの火炎が襲った。魔法使いが放った魔法である。やったか?! と一行は炎の中に目を凝らすも、炎の中から平気な顔の御神が現れると、彼らの背筋は凍り付いた。

「温い……」

 その瞬間、学者は背中にべちゃ! という衝撃を感じて飛び上がった。じわ……と濡れている感覚に、学者は撃たれたのかと慌てて背中を触ったが、手のひらに付着したのは血ではなく蛍光グリーンの塗料であった。恐る恐る背後を振り向くと、そこには子供向けのハロウィン用黒マントを着てペロペロキャンディを咥え、全長130センチの長大なライフル銃を手にした今宮の姿があった。暗闇で浮かび上がるように光るカボチャのハーフマスクを付けている。

「とりっくおあとりーと……」

 狼狽する学者をよそに今宮は飴を咥え直し、遊底を引いて次弾を装填した。薬室から落ちた薬莢が石畳で小気味よい音を立てる。奈良と共鳴状態の今宮には、共鳴者が本当に言うのか……と呆れているのが感じられた。

『菓子食べながら言うセリフじゃないの。あとそこからじゃ聞こえとらんからな』
「とりっく……見えない所からの攻撃は恐怖……??」
『だから怖いって。あ、次は最中が食べたいのぅ』
「チョコじゃないと……集中もたない……?」
『なんで疑問形!? 洋菓子より和菓子がいいんじゃよぅ』
「くっ……お前ら離れろ! 俺が時間を稼ぐ!」

 御神の猛攻を受け切ることで精一杯のナイトが叫んだ。それを受けて逃げ出す学者を今宮が追う。魔法使いは後ろ髪を引かれながらも、その場から離れるべく後ずさった。しかし、狙撃手は二人いたのだ。魔法使いの耳が風切音を捕らえた瞬間、本を持つ腕にチクリとした痛みが走った。本は彼女の手を離れ、それを拾う間もなくスカートから伸びた脚を同様の痛みが襲い、魔法使いは声をあげて転倒した。彼女が顔を上げると、押し殺したように笑う麻生の姿があった。

「ちったぁ楽しませてくれよ?」

 魔法使いは立ち上がって本を拾い、麻生に対して火炎攻撃を試みた。しかし麻生はそれに先んじて弾丸を放ち、魔法書を宙高く撃ち上げる。あ……と少女が言いきらぬうち、2発目の弾丸が空中の魔法書を貫いた。背表紙を破壊された本はバラバラと解けて魔法使いに紙の雨を降らせる。紙屑を浴びながら、少女の心は絶望でいっぱいになった。

「んだよこの程度かぁ? ツマンねぇなぁ」

 麻生が放心状態の魔法使いに一歩近付いた途端、彼女は糸が切れたように悲鳴をあげて、境内から逃げ出して行った。やれやれ……と麻生が振り返ると、ちょうど学者が走ってくるところだった。学者少女は麻生と今宮に挟まれたことに気付き、ひぃっ! と悲鳴をあげた。

「……お、お前は元気そうだな。俺の相手もしてくれよ」

 学者は覚悟を決めたのか、唇をギュッと引き結ぶと手にした杖棍を構えた。あるいは、ジャックポット二人相手ならば生命力で勝る自分に機があると思ったのだろうか。愛らしいほど浅はかな少女に麻生は困ったように笑い、瞳を伏せた。相方に共鳴の主導権を引き渡したのだ。ライヴスの光が収束し、再び形成される。現れ出たのは巨大な鎌を持ち、普段より格段に大人びた姿のユフォアリーヤであった。彼女が伏せた瞳をゆっくりと開くと、麻生と同じ幻想蝶の義眼が学者を捉えた。

「……ん、近づけばいいと、思った? 甘い、ね」

 ぞくっとする学者の背後で、今宮がおもむろにライフルを投げ捨てた。放られた銃はライヴスに還元され、空になった今宮の手には曲刃の剣が現れ出る。お仕置きにテンションマックスの今宮には奈良の声も聞こえない。

「はやく……お菓子くれないと……」
『キャラが変わっておるな……あと怖いわ』
「ふふっ、うふふ……さぁ、遊ぼう?」

 リーヤは舞うような足取りで、今宮は甘い匂いを撒き散らして学者に近付く。普通の少女には、到底耐えられない状況である。彼女はわぁ~ん! と泣きながら境内から逃げ出していった。
 一方、真壁は血気盛んな戦士に一騎打ちを挑まれて困っていた。

「テメェがボスだな、この俺が討ち取ってやる!」
『クロさん、攻撃が通用しないのを分かってもらえるよう、こちらからは手出し無用ですよ』
「……ど、どこからでも来い……」

 強面ではあるが中身は常識的な真壁は、柄の悪い若者相手に心労を募らせていた。セラフィナがそんな真壁を励ましていたが、乗り気でない様子は相手の神経に障ったのだろう。戦士は剣を振りかぶり、雄叫びを上げて斬りかかってきた。造作もなくその攻撃を受け止める真壁の腕は、戦士がどんなに力を込めようとも一切ブレない。

「この程度か? まったく利かんぞ」
「くっ……!」

 パワーに絶対的な自信のあった戦士には十分効果てきめんの一言だった。およそ勝ち目がないと知るにつけ、周囲を見れば弓使い・魔法使い・学者はすでに逃げ出している。そして、すぐ傍で御神と戦っていた兄貴分のナイトが、今しがた情けない声をあげて逃げ出したところだった。かくなる上は……

「覚えてやがれ~ッ!」

 真壁は転がるように神社を後にする戦士を、ほっとしたように見送った。
 残るは齶田と戦う戦士、レオンと戦うリーダー、そして桂木と戦う白魔導士……なのだが。桂木に関しては戦いにはなっていなかった。教育のためには心を鬼にすることが必要ということだ。

「自分は! お前が! 泣くまで殴り続ける!」
「お願いですぅ、助けて~!」

 女子高生に馬乗りになって、桂木は殴る。とりあえず心が折れるまで殴り続ける。抵抗できなくなっても某サブミッション系魔法使いのごとくサブミッション(関節技)をかける。傍から見れば鬼畜の所業、だがしかしこれも愛のムチであり、もちろん手加減している。

「素手で殴ってもそれなりなんやけどな、えげつないても使わせてもらうで」
「ひいっ?! あううう!」
「どや、関節技の味は。死ぬほど痛いやろ、でも死なへんのやなこれが」
「い、いたいたいたい~ッもう許してくださぁぁい」

 チキンウイングアームロックで肩を極められ、そんなことされたことがない白魔導士は生まれて初めて味わう激痛に涙した。彼女はその後も様々な関節技の餌食になり、最後にはボロ雑巾のような姿で泣きながら神社を後にした。この出来事は間違いなく彼女の心に深いトラウマを刻み付けただろう。
 残るはリーダーと戦士のみだが、この二人がなかなかに諦めの悪い性質だった。戦士は齶田に何度いなされようとも体勢を立て直して向かってきた。しかし、元来アマチュア向けの武器というのはそうしっかりした造りではない。齶田自身が武器破壊を狙ったこともあり、しばしの攻防を経て戦士の斧は破損してしまった。それでも戦士に諦める様子はない。胸の前で両拳を握り、戦士は恐怖と決意を秘めた目で齶田を見た。

「良い根性持ってるッスね……押して参るッス!!」

 戦士を称え、齶田は大剣の武装を解き、獲物を鉤爪に切り替えた。勝負は肉弾戦にもつれこむ。出来得る限り掌打で迎えうつ齶田が手加減していることには、さしもの戦士も気付いていたかもしれない。このあたりが潮時であろう。戦士が深く踏み込んだ隙に、齶田の手刀が戦士の後頭部に炸裂する。戦士は気を失って倒れた。
 最後に残ったのはレオンの手でズタボロにされ、膝をついたリーダー格のナイトである。彼もまだ屈するそぶりを見せていなかった。さてどうしたものかと思案するレオンの横を、気絶した戦士を引きずって齶田が通り過ぎた。

「残ってるのはアンタとコイツだけっスよ」

 齶田は戦士をその場に捨て置き、リーダーに敗北を宣告した。そこへ各々ターゲットを仕留めたエージェント達が集まってくる。討伐隊の二人は思ったより怪我が多かったため、レオンは自分がやったとは分からないように少しずつ彼らに癒しのライヴスを送り込んでいた。その甲斐あってか、戦士は間もなく目を覚まし、リーダーの頬にもいくらか血の気が戻る。

「……簡単に殺してしまっては面白くもないからな。チャンスをくれてやった。立ち向かう勇気があるのならば、今一度掛かって来るがいい」
「ねぇ? ねぇ? 今の気持ちどう? こんなになってもまだつづけるの?」

 既に共鳴を解いていた桂木の英雄有栖川が、二人の顔を覗き込んだ。空気読んでくれ……! と心の中でツッコむエージェントたちとは裏腹に、討伐隊の残党は敵ながらレオンに敬服の念を抱いていた。彼らにはレオンの言動が戦闘前に回復してくれるラスボスのように見えていたのだろう。しかし、世の中優しい敵ばかりではない。一行から進み出たのは桂木である。

「ただの太ったおっさんやと思ったやろ。どないや、そんなのにやられた気分は。見掛け倒しのだっさいやつやのう」
「……くっ」
「これで従魔や愚神と戦うんか? お笑いもんやで」
「ダサいよね、正直あまり他の人には興味なかったけど、ほんとダサいと思った」
「ぐぐっ……」
「なにが討伐隊やっちゅーねんこのボケカスゥ」
「そんなことより私と隼人くんリンクして強かったでしょ? そう思うでしょ?」
「うぐうう……」

 ちょいちょい脈絡ない質問を捻じ込んでくる有栖川を無視して罵声を浴びせる桂木。もうやめて! とっくに二人のライフはゼロよ! そこへセラフィナに促され、真壁がトドメの一言を言い放つ。

『すごく怖い顔で!』
「……今度目障りになるようなことがあったら、お前らの家族や友人の命は無いぞ」
「「すっ……すいませんでしたああああ!」」

 こうして、討伐隊は一人残らず逃げ出したのだった。

●ミッションコンプリート

「無事に終わりましたね! とてもやりがいがありました」
「すごく、疲れた」

 依頼を終え、エージェントたちは共鳴を解いた。真壁は疲れ切っているが、セラフィナは満足そうだ。即座に仮面を外す御神を見て残念そうにする英雄に、御神はずっと心に留めていた疑問を尋ねる。

「あれ? 折角の変装止めちゃうの?」
「何時までも時代錯誤な恥ずかしい姿で居られるか……。伊邪那美、一つ聞きたかったんだが、何故今回の依頼を勝手に受けたんだ?」
「……説明係のおじさんが項垂れたから、力になってあげたくて。恭也の親戚のおじさん達もそういう雰囲気の時があるから、気になったんだ」
「そ、そうか……」
「それに恭也は眼つきが悪いし不愛想だから、悪役にピッタリだしね」
「……帰りに何か好きな物を買ってやろうと思ったが無しだ」
「なんで~。鬼~、悪魔~、人でなし~」

 御神は思わずときめいた自分を戒めつつ、いつもの調子に戻った伊邪那美の頭を少しだけ撫でた。そんな中、いったいどれだけの量を持ち込んでいたのか、今宮はまたお菓子を食べている。召喚者も大概だが英雄もそれなりで、奈良はどこから持ってきたのか湯呑で茶をすすっている。齶田はまじめに今回の事件を振り返っているが、気が抜けたのか方便がちらほら出ていた。

「これを機に、きちんと訓練とか受けてくれたら良いッスね」
「んな事より腹減った、弟よ飯だ飯!」
「ボクも……動いたらお腹減った……」
「あんだけ食べておいてか……あぁ、団子が食べたい」
「ワシもうコエーがら外食にするべよ…」
「さて、折角揃って愉快な格好をしている事ですし、この後皆さんでハロウィンパーティー……なんていかがでしょう」
「いがっぺ~! ワシらもかだらしてけろ!」
「あら、男性陣は早く帰ってお休みあそばしませ」
「アルテミス様っ、めっですよ!」

 アルテミスの名案に誰もが飛びつき、早速お店の予約を取って浮つくエージェント達。一方レオンとルティスは少し離れた場所から黄昏の街を眺めていた。

「リンカーの資質はその人間性など度外視している以上、また同じような事件が起きそうだな。頭の痛いことだ。少なくとも今回は、前途ある子供を救えたことを喜ぶべきなんだろうな」
「どこの世界でも、強い力を持って路を外れる人間は後を絶たないわ。私たちが悪の芽を摘んでいけることを、慰めにするしかないのかも……ね」

 優しさと甘さは違う。厳しくするのも優しさの内と言うものだ。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 此処から"物語"を紡ぐ
    真壁 久朗aa0032
  • ただのデブとちゃうんやで
    桂木 隼人aa0120
  • 来世でも誓う“愛”
    麻生 遊夜aa0452

重体一覧

参加者

  • 此処から"物語"を紡ぐ
    真壁 久朗aa0032
    機械|24才|男性|防御
  • 告解の聴罪者
    セラフィナaa0032hero001
    英雄|14才|?|バト
  • ただのデブとちゃうんやで
    桂木 隼人aa0120
    人間|30才|男性|攻撃
  • エージェント
    有栖川 有栖aa0120hero001
    英雄|16才|女性|ブレ
  • 太公望
    御神 恭也aa0127
    人間|19才|男性|攻撃
  • 非リアの神様
    伊邪那美aa0127hero001
    英雄|8才|女性|ドレ
  • 屍狼狩り
    レオン・ウォレスaa0304
    人間|27才|男性|生命
  • 屍狼狩り
    ルティス・クレールaa0304hero001
    英雄|23才|女性|バト
  • 来世でも誓う“愛”
    麻生 遊夜aa0452
    機械|34才|男性|命中
  • 来世でも誓う“愛”
    ユフォアリーヤaa0452hero001
    英雄|18才|女性|ジャ
  • 撃ち貫くは二槍
    今宮 真琴aa0573
    人間|15才|女性|回避
  • あなたを守る一矢に
    奈良 ハルaa0573hero001
    英雄|23才|女性|ジャ
  • 慈しみ深き奉職者
    カリストaa0769
    人間|16才|女性|命中
  • エージェント
    アルテミスaa0769hero001
    英雄|18才|女性|ジャ
  • 我が身仲間の為に『有る』
    齶田 米衛門aa1482
    機械|21才|男性|防御
  • 飴のお姉さん
    スノー ヴェイツaa1482hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
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