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【甘想2】連動シナリオ

【甘想2】男子になってチョコを貰わないと

形態
ショート
難易度
やや易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
7人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2017/02/20 19:01

掲示板

オープニング


 北欧にて。
 惨劇とも呼ぶべき全てを凍らす雪嵐が、命をも奪い刈りながら災いと渦を巻いていた。
 力なき者は救いを乞い、力ある者はその声に応えるべく雪原を駆け……という事件が起こっていた中、
 北欧とは関係ない所では、甘くて苦くてたまにしょっぱい事件が渦を巻いていた。
 そしてその裏には、従魔や愚神の影があったり、なかったり……

●チョコの香りに包まれて
 どうしてこういうことになったのか、エージェントたちは考えた。
「……ここからの招待って、いつもこういう目に合う気がする……」
 ぼそりと呟いたミュシャ・ラインハルト(az0004)の声はこころなしかいつもよりさらに低い。
「…………」
 灰墨信義(az0055)は口を開こうとして…………やめた。
 恋愛の聖地をうたい文句にする観光施設『ロートスの樹』。
 クラシカルな情緒溢れる小さな建物の一つにエージェントたちは愚神によって閉じ込められた。
 敵はデクリオ級愚神ルリコン。ピンクと茶色でハートモチーフがたくさんついたミニドレスを着た金髪ツインテールの美少女だ。武器はキューピッドが持つような先端にハートの付いた弓矢。背中には小さな天使の羽が生えている。周囲には同じく羽の生えたハートの従魔が何羽も周りを周回している。
 ……正直、この愚神はデクリオ級の中でもそう強い部類では無いようだ。
 問題はそこではない。
 エージェントたちは『ロートスの樹』で行われるアイドルによるチョコレートづくりの番組エキストラとして招待されていた。
 しかし、全員が建物内に入った途端、この愚神が現れて建物をドロップゾーンにしてしまったのだ。
 そして愚神は言った。

「きゅるるん、るりたんのドロップゾーンへようこそ~!
 メンズはガールに、ガールはメンズになぁれ♪」

 デクリオ級愚神ルリコンは建物の上に浮かび上がると、ハート型の従魔たちが集まって雲のようになったその上に寝そべった。

「ガールはぁ、チョコを作ってメンズに食べて貰わないと出れないからねぇ。
 もちろん、メンズもガールからチョコを貰って食べないと出れないよぉ?」



●男子になってチョコを貰って食べないと出られない、女子になってチョコを作って渡さないと帰れない
 窓には幅六十センチほどの色とりどりのリボンが張り付いているのが見える。恐らく建物全体に巻かれているのだろう。
 しかし、それは見かけだけで、見えない力によって建物は外界から完全に隔離されていた。
「困ったな……ここにチョコはないみたいだ」
 エルナー・ノヴァ(az0004hero001)※現在、女子────はパートナーのミュシャを見る。
「……そうだな」
 変化に戸惑ったミュシャ※男子は人見知りモードである。
「チョコレートなら、作ればいいんじゃないのかしら? 幸い、ここには道具も具材もたっぷりあるわ」
 信義の英雄であり、本来は彼の妻であるライラ・セイデリア(az0055hero001)※現在、男性化────が言うと、信義※女子は眉を顰めた。
「おい、なんで海鮮とかあるんだ────」
 思わず呟いて、慌てて口を押さえる。少し高くなった声が嫌らしい。
「あの、プロデューサーさんが……番組を盛り上げるために色々使ってって……」
 そう言ったのはチョコレート作りをする予定だった女性アイドルグループ『エトワール』のリーダーだった。後ろでは四人のメンバーが不安そうに肩を寄せ合っている。ただし、全員男性化している。
「そうか、じゃあ、エトワールさんたちにチョコを作って貰って…………」
 顔を輝かせたのは男性アイドルグループ『ルーチェ』の五人だ。もちろん、こちらも女性化している。
 だが、その時、愚神からの声がまた室内に響いた。
『だめだよー! チョコ作りはガールの特権なの! ちゃんとガールが作らなきゃ!』
 えっという顔をするルーチェたち。
『もちろん、メンズはガールのチョコを『美味しい☆』ってちゃんと言って食べなきゃアウトだよぉ!
 あっ、そうだ! ガールは渡す前にちゃんとチョコにキスしてから渡してね! 今決めた!』
 崩れ落ちるルーチェたち。
「あ、えっ、でも、最近の男性ってお料理とか出来るって言うし……」
 フォローしようとした(?)エトワールたちに、ルーチェは震え声で言った。
「僕たち、ずっと寮生活で包丁すら握ったこと無いんです」
 引きつった顔のエトワールたちは、エージェントの方を振り向いた。
「────最悪、わたしたち外に出る必要無いですよね?
 あなたたちがあの愚神倒して来るのを待っていればいいわけですから。
 ────ね?」
 最後の念押しの「ね?」は非常に力強く迫力があった。



●恋愛の聖地『ロートスの樹』
 風光明媚な景色を売りに特にカップルに絞った営業を続ける観光施設『ロートスの樹』。
 風鈴を思わせる緋色がかった透明な花序の生るロマンチックな大樹。それに寄り添うように作られた街。
 不思議で古めかしく洒落た世界観を持つその街は実は近年に作られたものだ。
 海上に作られた人口島、スタッフは皆シスターの制服で来場者を優しく見守る恋愛の聖地────という売り込みで人気を集める、それが『ロートスの樹』である。

 そんなロートスの樹をここ数日ずっと観察していた愚神は思った。
「んー、ルリコンはぁ、バレンタインのチョコを集めると強くなれるって聞いてぇ、集めようと思ったんだけどぉ、っていうか、ラブラブカップルって素敵よね! あっ、でもお、お仕事で嫌がらせしなきゃならないのっ!」
 ふよふよと従魔たちが愚神の周りを飛ぶ。
「えっ、そんな、るりたん可愛い? 嬉しい!
 ────うん? さきの事とかよく考えてないよぉ」
 ひとりで納得して愚神は奪って来た高級チョコレートを頬張りながら、頬杖をついて室内の様子を観戦する。

解説

●DZ(ドロップゾーン)のルールを守り、DZから脱出、愚神を倒せ

●ルール
・男子になってチョコを貰って食べないと出られない、女子になってチョコを作って渡さないと帰れない
・男性は女性に、女性は男性に、性別不詳はお好きな方に変化
・外見は元の外見に準拠します
・元の性別のままでもいいですが、そう言う人はきっとメンタルが反対の性別に近いのでしょうというレッテルが貼られます
・服装は(変化後)女子は愚神と同じようなフリル付きの可愛いバレンタインモチーフドレス、(変化後)男子は王子様風パンツスーツ(装備品の性能は変わりません)
・試練(チョコの取引)が終わった人だけ外に出ます
・チョコにキスは包み紙の上からで構いません
・食材は普通のチョコの物以外に海鮮も野菜もお肉もありますのでお好きにどうぞ!全て高級食材です!
・誰も居ないで残った場合、アイドルグループ「エトワール」(女子グループ)・「ルーチェ」(男子グループ)がパートナーになりますが、外見等は指定できません(マズイかったり気に入らないと「エトワール」は罵ります)
・愚神を倒すと元の性別に戻ります

愚神と戦う時はもちろん共鳴状態じゃないと戦えません。
NPC(ミュシャペア・信義ペア)に渡してもOKですが、断られる可能性が高いのでその場合のプレイングも書いてください。

●デクリオ級愚神ルリコン(自称、るりたん)
・飛行能力有り、素早く浮遊しながら戦う
・部位攻撃で羽根にヒットすれば飛行能力を奪える
・そんなに強くない

●ミーレス級従魔ルリコン・ハート×24
・普通のミーレス級よりは少し強く、AGW武器で無ければ倒せない
・飛行能力有、素早く浮遊しながら戦う
・非常に邪魔(うざい)
・サイズは30cm

リプレイ

●ボーイミーツガール

「なんか、嫌な予感がする」
 流 雲(aa1555)がポツリと呟いた、その直後。彼らはドロップゾーンに囚われた。
「……どうせこんな事だろうと思った」
 フリル付きバレンタインドレスを身に纏い、光の消えた瞳で遠くを見つめる雲────サラツヤの長い黒髪と空色の瞳を持つ美少女がそこに居た。
 ────ウチの雲、やばい可愛い、もうダメ!
 荒ぶる胸中の想いに言葉を失う、フローラ メイフィールド(aa1555hero001)は、金髪碧眼の王子様だ。

 そう。彼らは男子は女子に、女子は男子になったのだった。

 あまりのことに騒めくエージェント達。
 ミュシャや信義たちはそれぞれの変化に言葉を失った。
「なにこれ~! マナのおっぱいがなくなってる!」
 叫び声を上げたのはマナ・クロイツ(aa4761)だ。長い髪と白い耳を持ったワイルドブラッドの少女だった彼女は、どこか可愛らしさを残した短髪の少年になった。
 ────マナを楽しませようとしてこの体たらく……。しかも俺が女に……。
 あまりのことに英雄のヴァナルガンド(aa4761hero001)もショックを隠せない。銀髪ストイックな青年だったはずの彼は灰色の狼耳と、豊かな髪を持った立派な女子である。
「なんだってこんな事に……」
 頭を抱える一ノ瀬 春翔(aa3715)。
 本来はちょっとぶっきらぼうな煙草の似合う24歳は、なぜか背の低い童顔の快活そうな少女へと変わった。
 雪のような白髪と透き通る肌を持ったエディス・ホワイトクイーン(aa3715hero002)は、物語の王子様のような美青年へと変わり、パートナーの春翔の変化に白い頬を赤く染めて叫んだ。
「かわいい……か わ い い !」
 春翔の姿はこの場に居ないもう一人の英雄────アリスを思わせた。
 姉であるアリスに愛憎併せ持ち春翔をお兄ちゃんと慕うエディスは淑やかな姿を忘れて、狂喜────もしくは狂気────乱舞する。
 そんな”師匠”たちの姿を唖然を見守るアリソン・ブラックフォード(aa4347)とホワイト・ジョーカー(aa4347hero001)。
「これがボクかー」
「これがアタシ?」
 こちらももちろん性別が入れ替わっている。
 金髪ツインテールであったアリソンの髪は短くなり眼鏡をかけた物静かな少年の姿へ、青年ジョーカーはセクシーさを感じる金髪美人に。
 そして、アリソンたちと一緒にいた”超友達”の天宮城 颯太(aa4794)と光縒(aa4794hero001)は。
「視界が低いし、胸がスレて痛いし……。あ、でも、光縒さん、いつもと変わらないね」
 違和感無くロリ少女と化した颯太がそう言うと、その顔面に光縒少年の男女平等パンチが美しくキマッた。
「私の胸板が、男と大して変わらないとでもいいたいの? ……殴るわよ」
「もう殴ってる……」。
 白金の髪を一本の三つ編みにして胸元へと垂らした赤い瞳の乙女、木霊・C・リュカ(aa0068)。視力の弱い”彼女”はエレガントな作りのフリル付きロングドレス姿に変わった自身の変化を一通り触って確認すると、納得した。
「つまり、お兄さんがお姉さん!」
「順応性、高すぎないか」
 パートナーに憮然と問うのはオリヴィエ・オドラン(aa0068hero001)。短いフリルスカートにスパッツを履いており、いつもとの差は少ないものの、やはり多少髪も伸びて綺麗めの女子へと変わっている。
「共鳴の時みたいですね」
「……ウワァ、声高ぁい!」
 紫 征四郎(aa0076)とガルー・A・A(aa0076hero001)は自分の変化に対してそれぞれの感想を述べた。
 征四郎はキリッとした顔つきの少年に変わったが、ガルーとの共鳴時の姿がそのまま本来の年齢まで下がったような状態なので違和感は少ない。
 一方、ガルーはと言うと色々変わっていた。後ろ髪が腰まで長く伸び────何よりも変わったのはそのナイスな体型である。
 ガルーのそれに気付いたリュカが彼の元へやって来て、その胸をぱふぱふする。
「ふええ、納得いかない……。何でこんなに差があるの……許せない……でも幸せ……」
 うっうっと軽くべそかきながら、お姉さんになったお兄さんは友人の胸に八つ当たりした。
「やだ、リュカちゃん、貧しすぎじゃない? 揉んでやろうか……?」
 今は女同士。リュカに対して慰め(?)の態をとった無自覚(?)セクハラをかますガルー。
「せーちゃんは男の子になっても可愛いね!」
 ガルーからの悪意無き上から目線に耐え格差社会を一通り嘆いてから、リュカは少年姿になった征四郎を手放しで褒める。
「オリヴィエより高いのです!」
 身長が三センチほど伸びた征四郎がドヤ顔で言うと、逆に身長が彼女とそう変わらなくなってしまったオリヴィエは複雑そうな表情を浮かべた。
「やだ、ちょっとロリヴィアちゃん可愛い! お姉さん、ドレスとか着せたい!」
 ガルーのからかいに淡々と冷たい視線で応えるオリヴィエ。
 そんな中、エレオノール・ベルマン(aa4712)は焦りを覚えていた。
 アイドル、バレンタインチョコレート、番組エキストラ……。
 招待は受けたものの自分の英雄にはちょっと合わないと思って共鳴状態で参加したのが彼女の運の尽き。
 長い赤毛と赤い瞳のその姿は共鳴状態のエレオノールのままであるが、今、彼女は間違いなく男子であった。
 そして、なぜか共鳴が解除できない!
「これ、は……」
 エージェントとして危機感を感じるバレンタインぼっちなど、初めてである。

 ちなみに、細かな差異はあるものの彼らは総じて女子の姿はフリル付きのバレンタインモチーフドレス、男子は王子様風パンツスーツであることを改めて記しておく。



●メイキング チョコレート
 段々と混乱は収まる。
 灰墨信義は『絶対喋らない』という意志の下に調理台の片隅へと移動した。それを気の毒そうに見遣るエルナーをライラが手招きした。どうやら一緒に作り方を教えてくれるらしい。
 ルーチェの面々はチョコレートの塊を手に途方にくれており、元女性アイドルグループ『エトワール』はチョコの材料であったお菓子をつまみにドリンクをやけ酒の如くあおっていた。
「いやぁ、チョコか。そうか。お姉さん気合入れちゃうよ」
 ジョーカーは語尾にハートが付く勢いだが、手にはなぜか生魚。
「程々にねー……で、ボクは誰からチョコ貰おうか……貰わないと出れないって話だけど」
 道理に外れたパートナーの狂言をいつも通り普通に返すアリソン。眼鏡の少年になった彼女は、とにかくチョコを貰うべく調理台の周りを見て回ることにした。どうやら、迷いなく生魚を持ち出した自分の英雄から受け取る気は無いらしい。
 同じように、内心困り顔でエレオノールも歩いていた。
 男になったといっても、女子(本来は男だが)からどうすれば好かれてチョコがもらえるかわからない……。
 世の男子たちはバレンタインの度にこんな思いをしているのだろうか!
「わっ!」
「ごめんなさい!」
 調理台ばかり見て思わずぶつかりかけたアリソンとエレオノールは、互いに同じことを考えていたことに気付く。
「────そんなわけで、共鳴状態なんだ」
「それは大変だね」
 話ながらふたりは生魚を捌くジョーカーと、それを参考に見よう見真似で不器用に魚介類を切るルーチェたちを観察していた。
「チョコレートを貰うには、とりあえず恋愛的アプローチから入ろうと思うんだ」
「なるほど」
 一見、大人しそうなエレオノールがとんでもないことを言い出したがアリソンは普通に頷いた。ジョーカーと普通に会話できるスキルを持つ少女は伊達ではない。


「あの……エディスさん……視線が怖いっス……」
「おにぃ……いや、おねぇちゃん? ホラ、チョコレート作って? 作らないと終わらないよ?」
 自分の横顔をじっと見つめるエディスの視線を見返すことができない春翔。
 チョコをせがむ美しい王子様からは『何が何でも、必ず、絶ッ対、確実にチョコを貰う』という鋼の意志が見えて、春翔は心底恐怖した。
「辛い……」
 とは言え、元々料理は得意なので手際よくチョコレートを作り始めた頃、春翔はもう一人の王子様の姿に気付く。
「どうせ食べてもらうなら美味しいモノが良いです」
 料理好きの雲は自分のモットーを思い出して調理台に向かっていた。
 調理台の前に立つ雲。170センチ近かった身長も150センチしかない。そんな雲がポニーテールを揺らして手際よくチョコを作り始めている。
 ────お持ち帰りしたいなぁ。
 そう思ったフローラにはすでに自分が彼と一緒に住んでいることは頭に無かった。
「ここが天国……」
 雲の尊い姿にふらぁっと立ちくらみを起こすフローラ。倒れはしなかったものの、テンションを上げ過ぎて鼻血を出しかけ離脱した。
 そんなフローラと雲の姿に親近感を覚えた春翔は声をかけた。
「あんたらはあんたらで大変そうだなァ……」
 その声に振り向いた雲※女子は笑顔を浮かべて軽く首を傾げた。
「あ、いえ」
「え、そうでもない……?」
 春翔を後ろからにこやかにガン見するエディス。その姿が目に飛び込んで来た雲はそれだけで色々察して何も言う事が出来なかった。
「ただいま! 私も作るよ! さすが、雲! 上手だね!」
 戻ってきたフローラ※王子様が『可愛いは正義、ウチの雲は世界一!』のテンションで絶賛し絶賛し感動する。
 そんなフローラの姿に春翔はやはり同情めいたものを感じる。
「おねぇちゃん、チ ョ コ レ ー ト ち ょ う だ い ?」
 ……自分を見つめる眼差しから現実逃避していた春翔は、その声に引き戻されて調理に戻る。
 怖い。
「勝率を見極めるのも必要だよな」
「なるほど」
 チョコレートを貰うため、女子※元男子を見かけたらとりあえず口説いてみようと思ったエレオノールだったが、流石にここに踏み込んではいけない気がした。一緒に歩いてきたアリソンも頷く。


「男になりたかったんだろ?」
「……ううん、やっぱりちょっと違和感ありますね」
 器具の準備をしながら尋ねるガルーに、手伝う征四郎は微妙な表情を浮かべた。
 ────本当の意味の四男として、征四郎として生まれたかった。でも、でも。
「……征四郎も可愛いドレス着て、皆とチョコ作りたかったなぁ」
 その答えに、ガルーは小さく笑った。
 そのまま、リュカ、オリヴィエ、征四郎は菓子作りが得意なガルーの指導を受けチョコ作りに入る。
 作るのは洋酒の効いたアマンドショコラ。特にオリヴィエをよく見ながら丁寧に教えるガルー。
「お姉さんは、友チョコ義理チョコ何でもウェルカムだよ」
「今日は作る方だろう」
「材料はきっちり測ること。お菓子作りは化学だからな」
 普段から料理は手伝うが、お菓子は専門外のオリヴィエは目分量を禁止されて怪訝な顔をする。
 チョコを細かく刻むために包丁を持ったガルーはぴたりと動きを止めた。
「……包丁使うのに胸が邪魔」
 無い胸のリュカがぱすぱすと叩く。
「とりあえず、オリーブオイル入れれば美味しくなると思わない?」
 そういうものもあると言えばあるが、リュカが振りかざしたオリーブオイルの瓶がひょいと空のボウルに変わる。
「はーい、リュカお姉さんはこれに愛を込めてくださーい」
 危ない作業は適時手を出すガルー。
 ひたすら混ぜたり愛を込めたりつまみ食いしたりするリュカ。
 オリヴィエは白いチョコペンで熱心に猫のイラストを描き込んでいる。
「折角だから抹茶味と苺味も作るか」
 そう言いながら、見事な大粒の苺の箱を取ったガルーは遠い目をした。
「というか美味しそうな食材いっぱいね、夕飯に持って帰ってもいい?」
 そんなやり取りをしながら、さり気なくこの場の人数分のチョコをラッピングまで完成させた。
「騒動が終わったら”雲ちゃん”やみんなと友チョコ交換だな。でも、その前にっと」
 ドロップゾーンから脱出しなくてはならない。
 ちょっと緊張した面持ちで立つ征四郎に、三人の女子(仮)が順にチョコを渡す。
 ガルーがキスをしたチョコを普通に受け取る征四郎。
 軽く口づけて特に感慨なく自然に渡すオリヴィエのチョコを征四郎は笑って受け取る。
 リュカは征四郎の前でしっかりとチョコにキスをして、盛大に照れた征四郎に。
「!!」
 おまけの頬にキス。
「ほっぺのちゅーは、関係ない! です!」
「映画とかでよくあるじゃない、綺麗なお姉さんのちゅーは正義でしょ」
「もう!」


「本当に良い食材が揃っていますね!」
 颯太は良い笑顔で調理台を見渡した。
 そして、鶏肉や鮮魚、野菜を物色し始め、慣れた手付きで食材を切り、下拵え、調理────傍らでチョコを湯煎。それらを手際よく、同時進行する。
 天然と言われる颯太だが、家事は得意なのだ。
 そんな彼の目に魚介類の荒いすり身を大量生産しているルーチェたちが目に入った。
「チョコの主成分、カカオバターには5つの結晶型があってですね────大丈夫、手順と分量を守れば、誰でも作れますよ!」
 今度はルーチェたちにテンパリング技術を教え始めた。
「……H.O.P.E.のエージェントって料理スキル高すぎない?」
「あんな彼氏欲しいなあ」
 そんな颯太の姿にお腹を空かせたエトワールたちが囁き合う。もうすっかりただの観客だ。


 ヴァナルガンドの姿を見つけたエレオノールは、自信満々に声をかけた。
「貴様、エレオノールがお前の美しさを讃えてや────」
「せっかくおしゃれしてきたのに、なにこの格好! 髪も短いよぅ! しかもヴァル美人だしなにこれ~!」
 猫耳の少年が涙目でヴァナルガンド※女子の胸元を掴んで揺さぶる。
「落ち着け。俺がお前にチョコを渡せば、外に出られるらしい。愚神を倒せば元に戻るだろう」
 ヴァナルガンドはエレオノールたちに気付かず、マナに揺さぶられるまま調理台へ移動する。
 そして、薄く切ったじゃがいもやカリフラワー、根菜などを電子レンジでカリカリのチップにすると、溶かしたチョコを一部分にかける。
「野菜のチョコチップだ」
「ヴァル、料理できたんだ! ……おいしい!」
 食材を前に再び考えるヴァナルガンドは、すぐに鴨肉を包みフライパンへ、鶏肉をトマトや香草類と一緒に圧力鍋で煮込む。
 チョコチップが無くなる頃、ソースがかかった切り分けた鴨肉をマナに差し出す。
「これは何がチョコ?」
「ソース」
「ふーん……おいしっ!」
「こっちは鶏肉のチョコ煮込みだ」
「うわーん。お肉トロトロでこれもおいしいよぅ!」
 感動するマナ。だが、あることに気付く。
「……でもね? チョコにちゅーしてくれないと、マナたちここから出られないんだけど……」
「これでも飲んでろ」
 渡された熱々のホットチョコレートをふーふーしながらゆっくり飲むマナ。その目の前にカップケーキらしきものが置かれた。
「これで大丈夫だろう」
 身を屈めた英雄がカップとスイーツの境に唇を落とした。
「カップケーキ?」
「フォンダンショコラ」
 顔を赤くしたマナの問いに彼が答える。
「美味しい!」
 マナがそう言った瞬間、ふたりは光に包まれて掻き消えた。
「甘かったね」
 思わず一部始終を見守ってしまったエレオノールとアリソンだったが、気が付けばずいぶん時間が経っていた。
「アリソン。これ……食べてくれないかな?」
 振り返ると、颯太が立っており、エレオノールが姿を消していることに気付いた。気がかりだったが、颯太を待たせるわけにはいかない。
 颯太が示す先には綺麗に飾り付けられた料理が並ぶ。
「こっちは、鶏肉のチョコレートソース煮だよ。モーレポブラーノといってメキシコを代表する料理の一つなんだ。これはトマトソースにチョコソースを加えた、アコウダイのムニエル。こっちはホタテのココアソテー。添えたヨーグルトソースをお好みでどうぞ」
 レストランもかくやと言う料理の数々にアリソンは目を丸くした。
「野菜のチョコチップスはフレーバーも、いちご、ホワイト、ミルク、ブラック、4つの種類で楽しめるよ。見た目も可愛いでしょ?」
 そう言って、頬を赤らめた颯太※女子。アリソンは少し感動した。
「どうもありがとう――嬉しいよ」
 やはり男子(?)としては女子(?)に自分の為に料理を作ってもらえるのは嬉しい。それがバレンタインならなおさらだ。
 颯太は顔を真っ赤にして続けた。
「か、隠し味は、ボクの、キ、キスです……」
「ん? なんか言ったかな?」
 聞こえないふりをして、アリソンは用意してくれた食事を口に運んだ。
「うふふ? さぁ、どうぞー?」
 タイミングを合わせてジョーカーがチョコの乗った皿を光縒に渡す。
 それは、スターゲイザーパイならぬ、スターゲイザーチョコであった。チョコから無数の魚の頭が生えているが味的には問題ない――らしい。煮干しのチョコレートかけがあるくらいなので問題はないのだろう。たぶん。
 光縒はそれを受け取り、淡々と口に運ぶ。
「青春ね……」
 噛み砕き飲み込むと光縒はぽつりと呟き、ジョーカーは軽く首を傾げた。


 アリソンたちの元から離れたエレオノールはとりあえずソファーに身を沈めた。
 なんとなく、『口説いて貰えたらありがたいなー』という感じを出してみる。
 しかし、甘い空気が発生しつつある周囲には雰囲気は伝わらないようだった。
 ────なりふり構わず口説くしかないのでしょうか。
 通りがかったルーチェの一人にエレオノールが声をかける。
「愚神を倒すために協力しないか?」
「えっ、でも、外に出たら危ないですよね?」
 彼の持っているチョコからカニのハサミが覗いているような気がしたが、今はそんなことに括ってはいられない。
「あの」
 声の方を見ると、そこには不安そうな雲の姿があった。
「丁度良かった。誰かチョコが余っていたら仮に貰えないか?」
「良かったら私の作ったのをどうぞ。こうした方が美味しくなるとかあったら教えて下さいね♪」
 雲の後ろでチョコが並んだトレイを持つ幸せそうなフローラ。そこからチョコを取り分けながら、少し言い辛そうに雲は言った。
「あの、キスはできないけど」
「Kiitos suklaasta! 平気だ、うちにも”女子”はいるんだ」
 そう言ってエレオノールは雲たちににやりと笑いかけると、受け取ったチョコに自らキスをし、そのまま齧った。
「女子の作ったチョコ、そして”女子”のキス、条件は揃っただろう? ────美味かった」
 ”共鳴”状態のエレオノールを光が包む。


「いつも仲良くしてくれてありがとう。良かったら食べて欲しいな?」
 雲たちは、知人であるリュカ、征四郎、ミュシャたちを始め、室内の人々にチョコを配り終える。
 気が付けば、他のエージェントたちはすでに外に出た後だった。
「フローラ」
 雲の声にフローラの顔が期待で輝く。
「ちゃんとキス、しないとね」
 王子様に優しく言われて、雲※女子は激しく躊躇した。それでも、自分たちも急いで外へ出なくてはいけない、その想いから頬を真っ赤に染めて優しくキスをした。
「ありがとう……雲の手作りチョコ、食べたかった!」
「もぅ……普段から色々食べてるじゃん」
 感極まって涙ぐむフローラの頭を撫でる雲。すると、フローラは「あーん……」と”彼女”に食べさせ合いをねだった。
 ちなみに二人は恋人同士ではない。
「えっ!? それは流石に難易度高いよぉっ!」
 空気を読んだアイドルたちがさり気なく移動したのに気付いた雲は、少し躊躇った後、思い切ってチョコをつまんでフローラと仲良く食べた。



●ロッツオブラブ!
「ああああー! 全てを消し去りたいィィ!!」
「よくもマナのおっぱいを~!」
 共鳴した颯太※女子とマナ※男子が叫びながら従魔たちをなぎ倒す。
「一応お礼を言っておくわ! 素敵な時間をありがとう! その能力くれないかしら!?」
 危うい発言を口走るフローラ。対して表情を引き締めた雲が状況を確認しようと空に浮かぶ愚神を問いただす。
「こういう襲い方が効果的って誰かに教わった?」
「よくわかんないけどぉ、るりたん、去年から噂で知ってたよ!」
 なぜ去年やらなかった。
 愚神ルリコンは頬を膨らませた。ひとりひとり出て来たならばそれを襲う手もあったのだが、エージェントたちは大して時間差も無く出てきてしまった。
「好き勝手やってくれたよなァ? オイ? 覚悟は出来てんだろォ?」
「こんな機会を作ってくれたアナタには、最大級の賛辞をもって破壊を送ります!」
 春翔とエディスが正反対の感情で同じの結末を示唆する。共鳴した春翔の足には空を飛べるライヴズジェットブーツ。そして、愛用の斧であるラッキーストライカーにライヴスを溜め始める。
「るりたん、エスケープ!」
 素早さは多少あるがルリコンはデクリオ級の中でも弱い。三十六計逃げるに如かずである。
 けれども。
「ふふーふ、共鳴も女子ver.なんて洒落てるねっ」
 共鳴しても、愛らしいバレンタインドレスを着たリュカが愚神の背中の羽を狙って銃弾を放った。
 それは恐らく飛行能力を奪うための一撃だったと思う。
「激おこ☆フリーガーファゥスト・スペシャ……」
 アリソンの一撃が放たれることは無かった。
「ぎゃんっ!」
 愚神ルリコンは……リュカの一撃でハートの粒になって消え失せた。
『どかーん』と共鳴したジョーカーが呟いた。
「────弱い、な」
 沈黙を貫いていた信義が思わず口を開いたが、リュカの一撃が強かっただけなのかもしれなかった。


 愚神ルリコンがあっけなく消えた後、ぽむぽむと綿菓子のような埃が落ちてエージェントたちは元の姿へと戻った。
 従魔を全て退治するのもそう時間はかからなかった。
 室内に戻るエージェントたち。
 元に戻ったアイドルたちは感激して礼を述べたが、エトワールたちがどこか雄々しく、ルーチェたちが女性らしく見えてしまうのは事件の後遺症だろうか。
「……さっきの余り、やる」
 オリヴィエはガルーに先程のチョコの余りを差し出した。ガルーは受け取ったそれを面白そうに唇の前で振ってみた。
「……するわけない、だろっ」
「はっは。お前さんはやっぱ、そっちの姿の方がいいな」
 笑ったガルーは自分が作ったチョコの包みに軽くキスをして、それをオリヴィエの手の中に落とした。
 一方、征四郎はリュカに貰ったチョコを胸に抱いて彼の前に立つ。
「あ、あの、リュカ、チョコありがとうございました……っ! バレンタインは、美味しいチョコお返ししますから!」
 ────だから、リュカ、まっててください!
 少女の口に出さない想いが届いたのか、リュカはにっこりと微笑んだ。

 改めてチョコレートを配っていたアリソンが颯太の手に一個の包みを乗せた。
「あ、颯太君のは特別です――何がってそれは……カカオ100%増し?」
 対して颯太も綺麗にラッピングされた包みをアリソンに渡す。
「あのこれ……。男として、渡したかった、から」
 受け取ったアリソンがそっと包みを解くと、カカオを水で煮だしたジュレを真ん中に抱えたチョコレートが顔を出した。
「べ、別に、この前迷惑かけたし、そのお詫びってだけなんだからね! 勘違いしないでよね!」
 嬉しそうにチョコを見るアリソンの姿を見た颯太はダッシュで飛び出した────内股で。
 一息ついた春翔は大きなため息とともに煙草の煙を吐き出した。
「こんなん、もう二度とゴメンだ……」
「エディスはまた来年も……うふふ……」
 ぞくりと寒気を感じたのは決して気温のせいではない。
 ────春は、もうすぐ。





結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068

重体一覧

参加者

  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
    人間|31才|男性|攻撃
  • 仄かに咲く『桂花』
    オリヴィエ・オドランaa0068hero001
    英雄|13才|男性|ジャ
  • 『硝子の羽』を持つ貴方と
    紫 征四郎aa0076
    人間|10才|女性|攻撃
  • 優しき『毒』
    ガルー・A・Aaa0076hero001
    英雄|33才|男性|バト
  • 温かい手
    流 雲aa1555
    人間|19才|男性|回避
  • 雲といっしょ
    フローラ メイフィールドaa1555hero001
    英雄|18才|女性|ブレ
  • 生命の意味を知る者
    一ノ瀬 春翔aa3715
    人間|25才|男性|攻撃
  • 希望の意義を守る者
    エディス・ホワイトクイーンaa3715hero002
    英雄|25才|女性|カオ
  • 迷探偵アリソン
    アリソン・ブラックフォードaa4347
    機械|17才|女性|防御
  • ハロウィンの奇術師
    ホワイト・ジョーカーaa4347hero001
    英雄|25才|男性|カオ
  • エージェント
    エレオノール・ベルマンaa4712
    人間|23才|女性|生命



  • 幸福の灯
    マナ・クロイツaa4761
    獣人|16才|女性|命中
  • エージェント
    ヴァナルガンドaa4761hero001
    英雄|20才|男性|カオ
  • エージェント
    天宮城 颯太aa4794
    人間|12才|?|命中
  • 短剣の調停を祓う者
    光縒aa4794hero001
    英雄|14才|女性|ドレ
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