本部

ゲレンデの白い悪夢

花梨 七菜

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~6人
英雄
5人 / 0~6人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2017/01/23 21:07

掲示板

オープニング

●スキー場にて
「よーし、今日はミホちゃんにいいところ見せるぞ」
 大学のゼミ仲間とスキー場にやってきたハルトは、ぐっと拳を握りしめた。
 男子4人、女子4人のグループ。ちょうど今、リフトを降りたところ。
 ハルトは、中学生の頃から家族で年に一回スキーに行っているので、スキーはなかなかの腕前だと自負している。
 颯爽と滑る自分の姿をミホが見れば、「ハルト君、素敵!」となるはずで。そうなったら……ふっふっふ、と広がり続けるハルトの妄想をコウイチの一言が打ち破った。
「じゃ、俺達は先に行くから。ハルトは初心者コースだろ? ゆっくり滑ってこいよー」
「え? え?」
 ハルトがあたふたしている間に、コウイチ達は中級者コースの斜面を滑っていってしまった。ミホちゃんまでも。
 一人取り残されたハルトは、肩を落とした。すっかり出遅れてしまった。
「みんなー、置いていくなよー」
 ハルトは皆の後を追いかけようとしたが、ドサッという音に驚いて音のした方を振り向いた。その音は、木の枝に積もっていた雪が地面に落ちた音だった。そして、何が木の枝を揺らしたのかというと……。
「え? 何? 着ぐるみ、じゃないよな……」
 身長2メートルくらいの巨大な猿。白くて長い毛が体中に生えている。毛が顔を覆っているので、目は見えない。見えるのは大きな口だけ。そいつは、その大きな口を開き、牙をむいて咆哮した。
 ハルトは、ストックを雪に突き立てて、猛スピードで逃げ出した。そして、直滑降で斜面を滑り、一気にコウイチ達を追い抜いた。
 そのまま滑りきって、最後はターンしてかっこよく停止することができたらよかったのだが、現実は厳しい。ハルトは頭から雪にダイブした。
 ハルトが顔から雪を払いのけていると、コウイチ達が滑ってハルトのところにやってきた。
「なにしてんだ? お前」
 コウイチは、にやにや笑いながら言った。
「で、出たんだよっ」
「なにが? 幽霊?」
「幽霊じゃない。あれは……雪男だよ」
 ハルトの言葉に、一同は爆笑した。
「またまたー。そんなものいるわけないだろ」
「本当だよ。本当に出たんだ」
「冗談はもういいから。行こうぜ。ハルトに付き合ってたら日が暮れちまうよ」
 コウイチを先頭にして皆はその場を立ち去ろうとしていた。
「ちょっと待って!」
 ハルトは叫んだが、誰も聞く耳をもたない。ミホだけはハルトのことを気にして何度か振り返っていたが、結局行ってしまった。
「どうしよう……」
 コウイチやミホ達を止めなければ……。だが、彼らは全然自分の話を信じてくれないし……。コウイチ達を追いかけている間に、他の人が雪男に襲われてしまうかもしれない。
「まずはスキー場の責任者に話さなきゃ……」
 ハルトは勢いよく立ち上がった。

●雪男を倒せ!
 H.O.P.E.敷地内のブリーフィングルームで、職員が説明を始めた。
「スキー場に従魔が出現しました。従魔の見た目は、“雪男”だそうです。従魔の出現場所は山の中腹で、リフト降り場の近くです。リフトは、初心者コースと中級者コースの間にあります。初心者コースは斜面の傾斜が緩やかで、中級者コースは急斜面になっています。現在の時点で、リフトに新しく乗客を乗せることはしていませんが、リフト自体は動いています。また、放送で避難を呼びかけていて、一般人の半分ほどは避難が完了しています。残りの一般人の避難と、従魔の討伐をお願いします」

解説

●目標
  一般人の避難、従魔の討伐

●登場
 ・ミーレス級従魔「雪男」。
  体長2m。
  全身を白くて長い毛が覆っている。
  殴る、蹴る、噛みつくなどの近接攻撃を行う。
  物理攻撃力と物理防御力は高い。
  敏捷性は低い。

 ・ハルト
  従魔の目撃者。

 ・コウイチ
  ゼミ仲間のリーダー的存在。

 ・ミホ
  ハルトがひそかに思いを寄せている女子。

●状況
 天気は快晴。時刻は午前11時頃。
 スキー場には、2人乗りのチェアリフトがある。
 リフトの西側は初心者コース、東側は中級者コースになっている。
 初心者コースは斜面の傾斜が緩やかで、中級者コースは急斜面になっている。
 初心者コースに約100名、中級者コースに約60名の一般人がいる。
 従魔は、リフト降り場の近くに出現した。
 リフト降り場には、リフトの管理者が2人いる。
 コウイチ達7人(ハルトを除くゼミ仲間)がリフトに乗った後で、リフトは乗車禁止になった。
 リフトに乗っているのは、コウイチ達を含め20人。

リプレイ

●スキー場にて
「ねー、おねーちゃん。ゆきだよ、ゆき!」
 スキー場に到着したりこった(aa4800)は、一面の雪を見て歓声を上げた。りこったはマルチーズの特徴を備えたワイルドブラッドの少女である。
『ホントだ! アタイ初めて見たかも!』
 黒猫を模したフードを被っている英雄のこーだ(aa4800hero001)も、にっこり笑顔である。
 二人にとっては、今回の任務が初めての仕事であった。りこったもこーだも、エージェントの仕事がどういうものかよく分かっていない。何となく、戦わなきゃいけないんだな、という漠然とした考えしか持っていなかった。「とりあえずやってみよう!」という感じで、能天気で緊張感のない二人だった。
 同じく、阪須賀 槇(aa4862)と英雄の阪須賀 誄(aa4862hero001)にとっても、これが初めての仕事であった。槇は、ネコ耳で糸のように細い目が特徴的な青年である。誄は、槇の弟で、槇によく似ている。
「……OK弟者。帰ろう」
 槇は、早くも逃げ腰だった。
『ちょっと待て』
 しっかり者の弟、誄が引き留める。
「だだだダメだ弟者、命が幾つあっても足りない」
『ハァ……兄者が受けようって言ったんだろ。それに、時に食い扶持も限界だ』
 誄にたしなめられて、槇はしぶしぶ歩を進めた。
「こういう場所には行楽で来たいところだが」
 真壁 久朗(aa0032)は、スキー場を見渡して呟いた。
『ぼ、僕寒い所は……! い、いえ今はとにかく一刻も早く現場へ!』
 寒いのが苦手な英雄のセラフィナ(aa0032hero001)は、焦った表情を見せた。
「ああ、やるべき事をやりに、だな」
 久朗はそんなセラフィナの様子を微笑ましく思いながらも、冷静に頷いた。
「雪男を見つけたら、懸賞金とかもらえなかったっけ?」
 九字原 昂(aa0919)は、傍らにいる英雄のベルフ(aa0919hero001)に話しかけた。
『アレが本当に雪男と認定されたらだがな。そら、仕事の時間だ』
 ベルフは、飄々と言った。
「……寒い」
 アルゴ(aa4814)は呟いた。その顔からは全く感情が読み取れない。かつてある犯罪組織に「記憶」と「カオ」を奪われて、アルゴの顔は人工品に置換されたのである。感情が顔に出なくとも、寒さは感じた。だが、寒さに怯んでいる場合ではない。従魔を倒して早く平和を取り戻さなければ。
 アルゴは、まずハンズフリーで仲間と連絡できるようにスマートフォンを設定した。
 次に、アルゴと槇の提案で、スキー場からスノーモービルを借りた。借りることができたのは、一人乗りのスノーモービルが三台。昂、久朗、槇が、スノーモービルを使い、アルゴとりこった達は歩いてリフト降り場まで行くことになった。
 昂はベルフと共鳴した。外見は昂のままだが、いつもの柔和な表情が消えて真顔になった。
 久朗はセラフィナと共鳴した。久朗の黒髪が白銀に変わり、右目が幻想的に煌めく緑眼に変化した。久朗が普段隠している機械化した左目が露わになった。機械化した左目の瞳孔は深海のような青色である。
 槇は誄と共鳴した。髪の先端やネコ耳から赤い炎のような気があふれ、同じエネルギーの尾が増えた。そして、体の随所に緑に光る幾何学模様が浮かび上がり、瞳がレティクルの模様になった。
『わっ、すごい! 合体したー!』
 仲間が共鳴するのを見て、こーだは歓声を上げた。
「カッコイイね、すごいねおねーちゃん」
 りこったも大喜びしていた。この二人はそもそも共鳴したことがなく、共鳴とは何かよく知らない。皆の姿かたちが変わるのが魔法のようで、ただ面白く感じていた。
 槇は貸し出してもらったスノーシューを足首に装着して、スノーモービルに飛び乗ると言った。
「じゃ、オレ達は先に行きます」
「ええ、あとで会いましょう」
 アルゴは、出発する三人に軽く手を振った。
 
 槇は、初任務で記憶上初めて見る怪物に浮足立っていた。
「おぉぉOK弟者、落ち着こう」
(いや兄者が落ち着け、ってか真面目に大丈夫か)
「もうだめぽ」
(……大真面目に命の危険もある。煽りじゃなく、何なら撤退したって良いと俺は)
「OK弟者、それはナシだ」
(いや、だが……)
「ここで帰ったらさ……多分、人が死ぬだろ。助けられるのに見捨てるのはさ……カッコ良く無いよな弟者」
(……OK兄者。視界の開けた道を突き進むんだ、奇襲を受けたらワンチャン即死だぞ!)
「OK! 任せろ!」
 誄との会話によって、恐怖を抑え気持ちを奮い立たせることができた槇は、スノーモービルで山頂へ移動しながら、避難者情報を仲間に報告した。
 最初にリフト降り場へ到着したのは、昂だった。昂はかんじきを履いて、付近の捜索を始めた。間もなく久朗も到着し、捜索に加わった。
「いました。初心者用コースの森の中です」
 従魔を発見した昂が小声で仲間に報告した。すると、その声を聞きつけたのか、従魔は昂のほうをくるりと向くと、昂に襲いかかってきた。昂は素早く従魔の攻撃を回避した。
 槇は、スノーモービルで従魔と昂の間を走り抜けた。雪をまき散らしながら走るスノーモービルを従魔が目で追う。ある程度走ったところで槇はスノーモービルを停止させ、離れたところから余裕のある状況で射撃を行った。狙うのは、従魔の頭部である。
「OK、ヘッドショゲット!」
(流石だな、続けるんだ!)
 従魔が両手で頭をガードし出してからは、槇は筋肉の少ない関節や脇、機動力の要の足先を狙って射撃を続けた。自らが囮となって従魔をリフト降り場から引き離し山頂のほうへ誘導しようという作戦である。
 槇の狙い通りに、のっしのっしと従魔が大股でやってくる。だが、昂と久朗の姿はまだ見えない。このまま一人で従魔と相対するのは避けたい。
 槇は置きっぱなしにされていたボードに目を留めた。
「……おおお弟者、俺スキーの経験が」
(……やれやれ、交替だ兄者。時に“大活躍”してやるだろ)
 槇は、主導権をアウトドア派の誄に譲った。槇の容姿が誄に変わった。そして、髪の先端とネコ耳に緑色の炎があふれ、赤い幾何学模様が体に浮かび上がった。誄はボードに乗って斜面を滑り、従魔の目の前で一気にジャンプし窮地を脱出。昂と久朗に合流することができた。

●戦闘開始
 久朗はフットガードを使用し、仲間が足場を気にせずに戦えるようにした。
 昂は、従魔が一般人に近づくことのないようにこの場所で足止めしようと、女郎蜘蛛を使用した。昂は両手から網を放ち、移動しながら従魔を絡めとって束縛した。
「UMA捕獲……なんてね」
(捕らえても連れて帰れない以上、意味は無いな)
 ベルフはクールに呟いた。
『ね、ね、アレだよね。よーっし、頑張るぞー!』
 緊迫した状況の中、こーだのかわいらしい声が響いた。徒歩で移動していたりこったとこーだが現場に到着したのである。
「ゆきおとこさんって、ふさふさだね。さわってもだいじょーぶかなぁ」
 りこったは共鳴せずに、無防備に従魔に近寄った。
「危ない!」
 久朗が叫ぶのと、従魔が網を引きちぎるのとほぼ同時だった。自由になった従魔はりこったを拳で殴りつけた。
「い、いたいよぅ……。う、うわぁぁあああああんっ!!」
 泣き叫んでへたり込むりこった。りこったは、逃げることも知らずに従魔の攻撃の的になり続けた。
『りこ! ゴメンみんな、アタイら……』
 こーだは、りこったを抱えて戦線を離脱した。
『ゴメン、ゴメンね、りこ。あたいが、お仕事してみよなんて、言ったから……』
 こーだは、手当もままならず、ぐずるりこったを抱きしめてあやした。
 エージェント達は、りこったとこーだのことを気にしながらも、従魔との戦闘を続けた。
 久朗は、ライヴスフィールドを使用し、敵を弱体化させる結界を作った。
 誄から再び体の主導権を譲り受けた槇は、イメージプロジェクターで真っ白な服装の幻影を纏い、遠距離からの支援攻撃に徹した。ファストショットで体勢崩しを狙って撃つ。弾は従魔の足に当たった。
(OK! 先制ゲットだ)
 誄は、槇の中でサムズアップした。
 従魔は大声で吠えると、槇に向かって駆け出した。だが、途中で方向転換し、もっと手近にいる獲物に狙いを変えた。狙われたのは、りこったとこーだ。
 りこったを抱きしめていたこーだは、はっと顔を上げた。従魔が二人に迫る。
『アタイのせいだ。アタイが、りこを……。守らなきゃ。アタイがりこを、守らなきゃ!! 立って、りこ。絶対、アタイが守り抜くから!!』
 こーだはりこったに誓った。りこったは、涙の残る目でこーだを見上げて頷いた。二人の心が一つに重なり、りこったはこーだと共鳴した。
 りこったは、横に転がって従魔の攻撃を回避した。すっと立ち上がったりこったの顔は大人びていて、さっきまで泣きじゃくっていた少女はそこにはいない。
「……迷惑、かけたようね。私、ようやく本気を出せそうよ」
 仲間達は、ほっと安堵の息をついた。
 久朗は後方に移動し、共鳴を解除した。
『後は一旦お願いします!』
 セラフィナはそう声を掛け、昂、槇、りこったに従魔の相手を任せ、久朗と一緒に一般人の避難誘導へと向かった。

●避難する人、避難しない人
 アルゴがリフト降り場に到着した時、そこには10人くらいのスキー客がとどまっていた。従魔が近くにいるのではないかと恐れて、避難できずにいたらしい。
 アルゴは、エージェント登録証を見せながらスキー客に呼びかけた。
「みなさん、落ち着いて下さい。雪男型の従魔とエージェントが交戦中です。初心者コースから、避難をお願いします。……見に行った場合の責任は、負いかねます」
 アルゴは、淡々としかし真剣に、脅すのではなく突き放すように言った。無表情なアルゴの得意な分野である。ざわついていたスキー客は落ち着きを取り戻し、避難を始めた。
 アルゴは、リフトの管理者に乗客の降ろし方を教えてもらってから、管理者の二人にも避難をお願いした。そのあとは、上ってきたリフトの客を順次、初心者コースへと送り出していった。避難は順調に続いているように見えたが、アルゴの目の届かない場所で、こんな会話が繰り広げられていた。

「見に行ってみようぜ」
「危ないって」
「大丈夫だろ。ちょっと遠くから見るだけなら」

 一方、久朗とセラフィナは、リフト降り場周辺から東と西に別れ一般人が残っていないか手分けして捜索を開始していた。
 久朗は、右往左往している人影を見つけた。近づいてみると、その男性はストックをなくして探しているところだった。久朗は冷静な目で辺りを見回しストックを見つけると、男性に手渡して下へ滑り降りるように避難を指示した。
「従魔はこちらには来ない。落ち着いて避難を」
 セラフィナは、足に怪我をして動けなくなっている女性を見つけた。
『大丈夫ですか』
 セラフィナは女性に手を貸して立ち上がらせると、リフトから降りてきたスキー客に声を掛け、女性と一緒に避難してもらうことにした。
『H.O.P.E.が現場の対応に当たっています! 皆さんは安全な場所へ!』
 久朗とセラフィナは周辺の避難がほぼ終了したのを確認すると、共鳴してリフト降り場へ向かった。
「リフトに乗っている人達と、リフトの管理者さんの避難は完了しました」
 リフト降り場にいたアルゴは、久朗にそう告げると、他の仲間にも報告を入れた。
 久朗とアルゴは、従魔との戦闘場所に向かおうとしたが……。
「馬鹿なことを!」
 久朗は思わず舌打ちした。
 従魔のいる方向へと斜面を上っていく人影が三つ。
「やれやれ。ちゃんと忠告したんですけどね」
 アルゴは、無謀な三人を追いかけて走りながら共鳴した。アルゴの体をスクリーンにして、アルゴの立体映像を投影しているような姿に変わった。
 従魔が三人に気づいて、三人のほうに駆け出した。
 アルゴは、立ちすくむ三人の前に回り込み、従魔の攻撃を盾で押し返した。そして、縫止を使用し、従魔の行動を阻害した。
「専門外なんですけどね」
 アルゴはそう呟くと、三人の首根っこをつかみ、ずるずると安全な場所まで引きずっていった。
「従魔の怖さがわかりましたか? わかったら、さっさと逃げて下さい」
「……は、はい!」
 アルゴは、あたふたとスキーで滑り出す三人の後ろ姿を見送った。

●雪男を倒せ!
 従魔が三人のスキー客に襲いかかったことで、昂が前衛、槇、りこったが後衛という戦闘の布陣が乱れた。
 従魔は、りこったを拳で殴りつけた。
 久朗は、傷ついたりこったにケアレイを放った。
「大丈夫か」
「平気です。ありがとうございます」
 久朗の言葉に、りこったは冷静に答えた。
 昂は、従魔の注意をこちらに向けようと、苦無「極」を従魔の背中に投げた。従魔の背中に命中した苦無は、内部のライヴスを衝撃力に変換し従魔に叩き込んだ。昂は、従魔との間合いを詰めようとした。
 槇は、遠距離から射撃を繰り返した。
 従魔は両手を振り上げ、ぶんぶん振り回した。下手に近づいたら、遠くまで弾き飛ばされそうだ。
「鈍重な分パワーがあるな」
(直撃は避けたいですね!)
 久朗はセラフィナの言葉に頷くと、キリングワイヤーを使い中距離からの攻撃を試みた。従魔が攻撃に出そうな瞬間を見逃さず、従魔の顔をワイヤーで切りつけ、従魔の視界を妨害しターゲットを定めにくくした。
 りこったは、味方の後方からブルームフレアを放った。真っ赤な火炎が従魔の周囲で炸裂し、従魔がひるむ。
 昂は、ジェミニストライクを使用し、ライヴスで作り出した分身とともに従魔を攻撃した。
 狼狽した従魔に、槇と久朗が攻撃を加える。
 りこったは、遮蔽物に身を隠したり、時々現れたりして従魔の注意を逸らした。
 苛立った従魔は、昂につかみかかり、昂の左肩に噛みついた。昂は従魔を全力で押し返して、従魔の鋭い牙から逃れた。
 久朗は、昂の傷をケアレイで癒した。
 次に従魔が襲おうとしたのは、久朗だった。
 昂は、攻撃すると見せかけ、腕の軌道を変えて従魔の眼前で手を叩いた。猫騙である。
 従魔がひるんだ。
「やってみたら、意外と通用するものだね」
(目の前で起きればそうもなる。誰だって、なんだってな)
 経験豊富な暗殺者だったベルフにとって、従魔の反応は予想通りだった。
 一瞬動きの止まった従魔に向けて、槇は弾丸を発射した。
「……OK、射角ゲット。逝ってよし……ッ」
 弾丸は、従魔の長い毛に隠れている目に命中した。従魔が顔を両手で覆って吠える。
 従魔の吠え声が響く中、無感情な声が聞こえた。
「会えて光栄ですが」
 三人組の避難を見届けてから、潜伏して従魔の近くに移動していたアルゴの声である。
「写真を撮る暇もない」
 アルゴは、ライヴスを蓄えたアックスチャージャーで従魔を不意打ちした。斧は従魔の背中に食い込んだ。
 久朗は、従魔の消耗が激しくなってきたと判断し、従魔の攻撃手段を減らすため、従魔の腕の切りとばしを試みた。グローブから伸びたワイヤーが従魔の右肩に巻きつき、従魔が振り上げた右腕は切り落とされ、雪の上に落ちた。
 従魔は、エージェント達に背中を向け逃げ出そうとした。
 りこったは、ブルームフレアを放ち従魔の逃亡を防いだ。
 昂は、従魔に近づきソニックベルジの魔法の刃を従魔に叩き込んだ。
 久朗は、キリングワイヤーで従魔の左肩に切りつけ、従魔の左腕を切り落とした。
 攻撃手段をなくして立ちすくむ従魔の頭に、槇の放った銃弾がめり込んだ。
 従魔は、後ろにゆっくりと倒れた。
 従魔が倒れた周囲で、雪がパッと舞い上がった。

●スキー場に平和が戻った
 戦闘終了後、久朗とセラフィナは、戦闘現場の後片付けを始めた。ブルームフレアの影響で周囲の雪が溶けて地面が見えていたので、雪かき用スコップを借りてきて、雪を運んで戦闘前の状態に戻した。その後は、負傷者の確認と治療に当たった。幸いなことに、負傷者は、セラフィナが見つけた女性とそれ以外に数人しかいなかったので、治療はすぐに終わった。
『クロさん、寒いです』
 雪を運ぶ作業で体が冷えてしまったようで、セラフィナはぶるぶると体を震わせた。
「そうだな。あれでも飲もうか」
 久朗が指差したのは、売店ののぼり旗。のぼり旗には、“甘酒”と書いてあった。
『甘酒ですか。いいですね!』
 セラフィナは、にこりと笑顔を浮かべた。久朗とセラフィナは、熱い甘酒を飲んで疲れを癒した。

「こ、こわがっだよぉぉ……」
 共鳴を解除したりこったは、幼い少女の姿に戻り、こーだの腕にしがみついた。
『怖かったね。怖いのに、りこはよく頑張ったよ』
 こーだは、ぐずるりこったの頭をよしよしと撫でた。エージェントの任務は、二人が最初に思っていたほど甘いものではなかった。でも、どうにかやり遂げることができた。二人だけでは無理だっただろう。頼れる仲間がいてくれたから、任務を達成することができたのだ。
 こーだとりこったは、スキー場の人々の安否を確認した。怪我人の世話を久朗とセラフィナに任せて、さて帰ろうとしたところで、二人の足が止まった。
 売店から漂うおいしそうな香り。ほかほかの湯気。大きな鍋でぐつぐつと煮込まれているのは、豚汁であった。
「あー、お腹空いたなぁ。食べたいなぁ。でも、盗っちゃ駄目だよ、おねーちゃん」
 りこったは、手癖の悪いこーだに釘を刺した。
『わ、わかってるよ!』
 二人ともお金を持っていない。家すらなくて、毎晩路地裏で過ごしているくらいの極貧状態なのだ。
 りこったの目は、救いの神を求めてふらふらとさ迷い……頼りになりそうな人物を見つけた。

『従魔に噛まれた傷は大丈夫か』
 ベルフは、昂が戦闘中に負った傷の様子を気遣った。
「もう大丈夫だよ」
 昂はおっとりと言って、左肩をぐるぐると回して見せた。
「今回の敵は、動きが鈍くて頭もそんなによくなかったから楽だったね」
『そうだな。だが、ああいう力の強い奴は、周りの人や物に大きな被害をもたらす』
 昂とベルフがそんな会話を交わしているところへ、りこったとこーだが小走りに近づいてきた。
「おつかれさまです。ゆきおとこさん、つよかったですね。たくさんうごいたから、おなかすきましたよね。いっしょに豚汁たべませんか。昂さんのおごりで」
 りこったは、人懐っこい笑顔を浮かべて言った。
 昂は、一瞬ベルフと顔を見合わせた。少し驚いたが、こんなかわいいお誘いを断れるわけもない。
「いいですよ。食べましょう」
 りこったが昂の手を引き、こーだが昂の背中を押す。売店へと向かう三人の後ろ姿を見て、ベルフは苦笑を浮かべた。

 アルゴ、槇、誄の三人は、通報者であるハルトのところに行った。
 ゼミ仲間と談笑していたハルトは、アルゴ達に気づくと、仲間から少し離れてぺこりと頭を下げた。
「エージェントのみなさん、どうもありがとうございました」
「いえいえ、こちらこそ。迅速で的確な対応、ありがとうございました」
 アルゴも頭を下げ、無感情な声で続けた。
「あなた……今日のヒーローですよ」
「え?」
 ハルトは心底驚いたようで、言葉も出ない。
「そうだよ。一番活躍したのは、従魔の存在を伝えてくれた君だ」
 槇は、ハルトの肩を軽く叩いて言った。
「自信を持って頑張れよ。スキーも、恋も、な」
 ハルトは少し顔を赤らめて、「……は、はい」と答えた。
『恋も、だって。よく言うな、兄者』
 槇に女性経験のないことを知っている誄は、小声でツッコミを入れた。
「おーい、ハルト。滑りに行こうぜ」
 アルゴ達に背中を向けていたハルトのゼミ仲間が、振り向いて言った。アルゴに気づいて、その顔が強張った。
「……あなた達は、さっきの……」
 アルゴは、そう言うと大きく両手を広げて驚きを表現した。
 従魔を見物に行こうとした無謀な三人組は、ハルトのゼミ仲間のコウイチ達だったのだ。
「……人の言うことは、ちゃんと聞きましょうね」
 アルゴは、感情の読み取れない声で諭した。
 しゅんとしてうなだれる三人がおかしくて、ハルトはつい笑ってしまった。
 ミホも笑っていた。その目がハルトを見ていることに、ハルトはまだ気づいていなかった。

結果

シナリオ成功度 普通

MVP一覧

  • 此処から"物語"を紡ぐ
    真壁 久朗aa0032

  • 九字原 昂aa0919

重体一覧

参加者

  • 此処から"物語"を紡ぐ
    真壁 久朗aa0032
    機械|24才|男性|防御
  • 告解の聴罪者
    セラフィナaa0032hero001
    英雄|14才|?|バト

  • 九字原 昂aa0919
    人間|20才|男性|回避

  • ベルフaa0919hero001
    英雄|25才|男性|シャド
  • エージェント
    神坂 玲奈aa1603
    人間|18才|女性|攻撃
  • エージェント
    レイカaa1603hero001
    英雄|20才|女性|ソフィ
  • エージェント
    りこったaa4800
    獣人|14才|女性|回避
  • エージェント
    こーだaa4800hero001
    英雄|16才|女性|ソフィ
  • エージェント
    アルゴaa4814
    機械|22才|男性|命中



  • その背に【暁】を刻みて
    阪須賀 槇aa4862
    獣人|21才|男性|命中
  • その背に【暁】を刻みて
    阪須賀 誄aa4862hero001
    英雄|19才|男性|ジャ
前に戻る
ページトップへ戻る