本部

メリーニクヤキマス

ガンマ

形態
イベント
難易度
易しい
オプション
参加費
500
参加制限
-
参加人数
能力者
25人 / 1~25人
英雄
25人 / 0~25人
報酬
無し
相談期間
4日
完成日
2016/12/23 16:16

掲示板

オープニング

●焼肉が食べたい

 師走某日。

 世間ではジングルベルが鳴り響き、どこもかしこも赤と緑のクリスマスカラーで、サンタとツリーとケーキとクリスマスソングが町を明るく染めていた。
 こんな時期に人が食べるものといえば、そう! 甘くてふわふわ、クリスマスケーキ! とってもジューシー、クリスマスチキン!

 がッ!
 状況は「そんな風潮など知ったことか」と言わんばかりのモノだったッ!

 ――ここに、一店の焼肉店がある。
 この焼肉店はかつて、小さな小さな焼肉点だった。だがそんな小さな焼肉点が愚神事件に巻き込まれあわや大惨事――というところを間一髪H.O.P.E.エージェントに救われた、そんな過去があった。
 その時、オーナーは思った。いつか必ず恩返しを、と。

 ――そして、焼肉店は日本各地にチェーン店を展開するほどの大手へと成長した。
 機は熟した。
 恩返しの時だ、と。

「一日焼肉食べ放題です」

 オペレーター綾羽 瑠歌が、エージェント一同を見渡した。
「こちらに招待状がございます。ええ、文字通り、こちらの焼肉店で、食べ放題です。お財布の心配不要です。調理や片付けなどもあちらのスタッフさん方が完全にサービスして下さるそうなので、皆様の任務は『焼肉を食べること』のみとなります」
 焼肉店のウェブサイトを印刷したもの――その中にはメニューもある――が配布される。店の説明やメニューの内容としては「THE・焼肉の店」、それがおそらく最も分かりやすい説明だ。
「クリスマスプレゼント、というものですね。焼肉と過ごすクリスマス、というのも良いのではないでしょうか」
 ニコリ。だがエージェントは知らない。この婚期がデンジャーな瑠歌の笑顔の奥は、知り合いや周囲が誰も彼も「クリスマスはかれぴっぴとお泊りホーリーナイト(はぁと)」とかだったり、クリスマスが終わって正月に実家に帰省したら「アンタ結婚は?」って絶対親に聞かれるんだろなーとか年賀状で知り合いから「結婚しました(はぁと)」とか届くんだろうなーとかで割りとメンタルが殺意オブ殺意であることに。今夜はヤケ食いだ!! 合言葉はメリーニクヤキマス!!!

解説

●目標
 焼肉でクリスマス。

●食事について
 焼肉店のメニューにあるものならば大抵あります。
 超弩級大食いも視野に入れていっぱいお肉あるので大丈夫。
 なんと生レバーも食べられるのです! 生センマイなどちょっとツウなものもあります。
 サイドメニューも充実。ビビンバとかサラダとかアイスとか。
 ドリンクも充実。お酒もあるよ!
 アルコールについては外見年齢20歳以上以外はNGです。外見年齢20歳以上でも設定欄に「未成年」とある場合もNGです。

●状況
 日本某所のとある大型焼肉店。広々、貸切。
 テーブル、お座敷、お好きな席をどうぞ。
 時間帯は夜。
 厨房での調理や片付けなどはスタッフが完全に行うので、そういったお手伝いは不要。
 当然ながらお店に迷惑をかける行為は厳禁です。
 NPCとしてオペレーター綾羽 瑠歌が同行します。黙々と食べてます。カロリー? 知らんなァ! 今夜はクリスマスだヒャッハー!

※※!注意!※※
 「他の人と絡む」という一文のみ、名前だけを記載して「この人と絡む」という一文のみのプレイングは採用困難です。
 『具体的』に、『誰とどう絡むか』を『お互いに』描写して下さいますようお願い申し上げます。
 また、相互の描写に矛盾やねじれがあった場合はマスタリングさせて頂きます。(しっかり事前打ち合わせしておくことをオススメします)
 文字数の都合上、やることや絡む人を増やして登場シーンを増やすよりも、一つのシーン・特定の相手に行動を絞ったプレイングですと、描写の濃度が上がります。ショットガンよりもスナイパーライフル。

リプレイ

●肉会

 町は一面のクリスマスである。
 そんな聖夜の一角、舞台はとある焼肉店――。

「瑠歌さん初めまして! いやぁお噂に違わぬお美しい方で」
 貸切のそこに入店したガルー・A・A(aa0076hero001)の足取りは朗らかで、そして表情も朗らかで、綾羽 瑠歌の手を取り挨拶をしていた。「えっ、あ、どうも……」と驚く瑠歌、それを見るなり紫 征四郎(aa0076)が、
「ガルー、迷惑かけないでください。席はあっちなのですよ」
 ぐいぐい。英雄を引っ張って引っぺがし、歩いて行く。

「お肉、いっぱい、食べる……」
「つきさまが燃えておりますの」
 ふんす、と意気込む木陰 黎夜(aa0061)に、真昼・O・ノッテ(aa0061hero002)が感心している。そう、今日は焼肉食べ放題。彼らは馴染みの者たちと一座敷を借り、肉会と称して焼肉パーティーを開く心算なのだ。
 続々と集まる顔馴染み。大宮 朝霞(aa0476)もその一人――座敷へ向かいつつ、英雄のニクノイーサ(aa0476hero001)に振り返る。
「ニックに言っておくことがあります!」
「なんだ朝霞、改まって」
「焼肉には、『鉄の掟』があります!」
「鉄の掟……だと!?」
「そう! タレと塩は同じ網で焼かない! コレは絶対不可侵のルールだから!」
「……よくわからんが、わかった」
「ちょっと! ホントにわかったの? 絶対だからね!」
「分かった分かった」「ホントでしょうね!」なんて、靴を脱ぎながら賑やかな二人である。

「あれ、和兄さんじゃないですか。俺氏さんもご無沙汰してます」
「む、奇遇であるな」
 座敷席への下駄箱にて。酒又 織歌(aa4300)とペンギン皇帝(aa4300hero001)は、見覚えのある顔に声をかける。
「焼肉食べ放題の依頼だしな、やっぱ参加してたか」
「やあ織歌氏、久し振りだね。元気そうで何よりだよ。皇帝氏もね」
 挨拶を返したのは鹿島 和馬(aa3414)と俺氏(aa3414hero001)だ。織歌と和馬、実ははとこという間柄なのである。彼らの英雄同士も、正月に能力者の親戚一同が集まる場にて面識があった。
「そういえば和兄さん、就職おめでとうございます。社会復帰成功ですね」
「うむ、目出度き事よ。一族の者達皆、集まる度に心配だと話しておったものな」
 織歌がニコリと微笑み、ペンギン皇帝が感慨深げに頷く。断っておくが心からの祝福だ。悪気はない。ないったらない。「あー、」と和馬は苦笑を浮かべて後頭部を掻いた。
「そんなに心配されてたのかよ……正月、超顔出し辛ぇ」
「まぁ、それは心配すると思うよ、ヒキニートだったもの」
 しれっとマジレスる俺氏。ぐうの音も出ない和馬。
「カズマと親戚って本当なのです?」
 と、そこへだ。会話が聞こえたのか、征四郎が座敷からにゅっと顔を出す。
「征四郎さんも参加されていたのですね」
「そなたが征四郎の英雄か。余はペンギン皇帝である、宜しく頼むぞ」
 つい最近知り合ったばかりの友達だ。表情を綻ばせる織歌、ペンギン皇帝は座敷奥のガルーへと手羽先……じゃない片腕を上げる。
「ああ、それで。和兄さんとは、本当に親戚です」
「確か織歌の祖父の妹が、和馬の祖母に当たるのであったな」
 征四郎の問いに答える織歌達。和馬が「まさか征四郎が織歌と知り合ってたとはなぁ」と感心した様子だ。征四郎は今一度織歌と和馬を見比べ、ニコッと笑った。
「ふふ、仲良しさんなのですね!」

 さてさて、挨拶もそこそこに。
 今夜は無礼講、食えや飲めや歌えや騒げ!

「焼くのは任せるでござるよ。皆は楽しまれるといいでござる」
 注文すれば次々と運ばれてくるお肉達。トングを手に、白虎丸(aa0123hero001)がそれを片っ端から焼いてゆく。今夜の彼は焼肉奉行だ。
「リュカちゃん肉食べよ肉! 白虎ちゃんに焼いて貰って!」
 ジョッキビールを片手に、木霊・C・リュカ(aa0068)と肩を組んだのは虎噛 千颯(aa0123)だ。なおリュカもジョッキ片手である。
「よっしゃ! 白さんどんどんお願いしまーす! 我の皿に肉を捧げよ!」
 イエアーと乾杯しつつ飲みまくる二人。ワクだけど若干雰囲気酔いしているのかテンションが高い。
 そんな注文を「相分かった」と承りつつ、白虎丸はメニューをつぶさに眺めている凛道(aa0068hero002)へも声をかける。
「凛道殿は何を食べられるでござるか? 舌も尻尾も心臓もあるでござるよ」
「……この国は、何でも食べるんですね……。あ、カルビクッパ食べたいです」
 凛道はカルビロースなどといった正に肉! というものを好んで食べていた。一応自分のものは自分で焼いている。なお酒は酔うから飲まない。
「お代わりお願いしまーっす!」
 一方でリュカはなんでも食べてとにかく飲む。生レバーやらチャンジャ系まで酒のアテも頼む。ついでにモツ系も好きなのでホルモンも頼む頼む。
「ウワッ……」
 運ばれてきたモツ達に凛道は露骨に顔を顰めた。グロい。ヤバイ。しかも生で食べられるモツもあるとかで、マジ、無理。リュカが生レバーを食べるシーンを直視できなかった。カルビクッパが凛道の癒し。

「いつもならポン酒だが、焼肉だとやっぱビールだよなー、うはは♪」
「人間のお店は野生の塊たる俺氏には勝手が分からないよ……あ、店員さん、とりあえずビールね」
 和馬と俺氏はとりあえず乾杯、ビールを飲む。肉は何でも食べる、馬並みに食べる、自称牡鹿の俺氏も雑食動物めいて食べている。
「俺氏殿、これは鹿では無いので共食いにはならないでござるよ」
「鹿じゃないなら安心だね」
 白虎丸から焼けた肉を皿に盛られ、俺氏はそれを黙々と食べてゆく。凛道がそんな彼を不思議そうに見ていた。
「ところで上のその服は脱がなくて大丈夫なんですか、タレが飛んだり匂いがついたりしてしまいそうですが」
「神聖だからそういうのないない。あってもファブるから」
「ファブ……?」
 しかし凛道の質問は、
「朝霞もニックも飲んでるかー? ほれ、かんぱ~い♪」
 そんな、陽気な和馬の音頭と、「かんぱーい!」と返事をした朝霞達の声に掻き消され。だがふと、ビールを飲んでいた朝霞がジーッと俺氏を見つめて首を傾げる。
「俺氏さんは、牛肉って食べるの?」
「牛肉も食べるよ。俺氏は好き嫌いをしない良き鹿英雄。子供の見本的存在だもの」
 そうなんだ……朝霞が感心していると、今度は千颯が横合いから。
「朝霞ちゃん食べてるー? 高いお肉頼んで食べないと勿体無いんだぜー」
「ここはやっぱり上カルビですよね! 虎噛さん!」
 その傍ら、ニクノイーサはパクパクと肉を食べ続けている。
「白虎丸が焼いてくれるから、鉄の掟とやらは心配しなくてもよさそうだな」
「ちょっとニック! 私のカルビ食べないでよ!」
「朝霞はもっと野菜を食べろ」
 カルビ上手い。とってもジューシィ。朝霞の前に塩キャベツをズイッと差し出しつつ。そんな英雄に「もう」と口を尖らせた朝霞はというと、
「白虎丸さん! 塩カルビ焼いてください!」
 彼の喉の下の毛をモフりつつ。白虎丸は「承った」とドンドン肉を焼いてくれる。二人のやりとりを見ていたニクノイーサは塩タンを頬張りつつ、ふと呟いた。
「白虎丸は、生肉のままガブッといきそうだよなぁ」
「ちょっと! 失礼なこと言わないでよ!」
 が、当の白虎丸は気にしていないようで。朗らかなまま、征四郎の皿に肉を盛っている。
「征四郎殿食べているでござるか? ほら牛の横隔膜の肉……ハラミでござるよ」
「ガルーちゃん飲んでるー? テキーラいっちゃう?」
 ついでにメニュー表を開いた千颯がガルーへと。振り返ったガルーはかなり出来上がっているようで、
「やだもー俺様酔わせてどうするつ・も・り?」
「ガルー氏の良いとこ見てみたい~。あ、噂の魔法少女コス姿のことじゃないよ?」
 待ってましたとばかりに俺氏が囃す。完全にフリである。任せておけと言わんばかりにガルーが悪い笑みを浮かべる。
「なぁに、魔法少女プリブラックガルーちゃん呼んじゃう? よーし変身ー」
「呼んでない! 呼んでないですやめるのです!」
 鞄をガサゴソし始めた英雄を、征四郎が必死に止めている。
「え? 何? プリプリする? お兄さんもプリホワイトする?」
 リュカまでスッと現れて「もう!」と征四郎は顔を真っ赤にしていた。
「おっ! じゃあ和馬ちゃんには恋バナをして貰いたいと思います!」
 一方、無茶振りの気配を察知した千颯が声を張る。
「ちょ、おま、恋バナって……よし、何から話そうか」
 だが和馬はノリノリである。
 そんなドンチャン騒ぎを眺めつつ……黎夜は焼肉を美味しく頂いていた。運動部の男子中学生並みに食べていた。タンもカルビもホルモンもハラミもロースも、何でも食べる。隣では真昼が恋バナなるものに興味津々、甘いものが苦手ゆえと激辛にしたビビンバを食べる手が止まっているほど。
「木陰殿はたくさん食べられるでござるな、見ていて気持ちいいでござる」
「真昼ちゃんは何食べる? 俺ちゃんが白虎ちゃんに頼んであげるぜー」
 白虎丸が満足げに頷き、千颯が微笑みかける。
「すごく、食べてる……。遠慮なく……すごく、おいしい……」
「ありがとうございますの、とらがみさまっ。では、まひるはハラミをいただきたいですの!」
 コクリと頷く黎夜、両手を合わせる真昼。子供がいっぱい食べることは良きこと、凛道が「ど、どどどどれを食べますか」と不審者マックスになるほど良きこと(?)。
「黎夜も真昼も、肉と野菜をバランス良く食べるんだぜ」
 無制限に黎夜と真昼の皿に肉を盛る凛道の一方、和馬が二人の分までサラダをよそう。俺氏は「凛道氏は堅物そうなふいんき」となぜか変換できない言葉で肉盛り眼鏡マシーンと化した凛道を見ていた。
「ピーマンは……苦いのは、ちょっと……遠慮していい……?」
 説明しよう、黎夜は真昼のように野菜をなんでも食べられる子ではないのだ。ピーマンがダメなのだ。「ではまひるが」と真昼が彼女の分のピーマンを食べている。
「せーちゃん野菜でまいて食べるんだよ!」
「わ、ほんとだ。さっぱりして美味しいのです」
 征四郎も、リュカに教えてもらった食べ方で野菜を食べている。小さいながらに良く食べている。そして頬張ったそれをオレンジジュースで飲み込めば、「プハーッ」とこの一杯の為に生きている顔。
「レイヤ! マヒル! ジュースつぎますか!」
 きゃっきゃと黎夜と真昼のもとへ行く征四郎は、完全に場酔いしていた。
「リュカもそろそろジュースを飲むのです! 征四郎のジュース飲めないというですか!」
 どれぐらい酔っているかというと、リュカにオレンジジュースを渡して一気コールをするレベル。
「征四郎さん! 木陰さん! お肉食べてますか~」
 そこへ朝霞も加わるが、彼女はガチのアルコール酔いでベロベロで。
「あぁ、その酔っぱらいは適当にあしらっといてくれていいからな」
「なんらと! 上ロース追加で!」
 お行儀良く肉を頬張るニクノイーサの言葉、対して朝霞はもはや呂律が回っていない。
「こちらもよろしければどうぞですのっ」
 そんな朝霞に、真昼がサッとチェイサーの水を渡す。めっちゃイイコである。「ええこや~~」と朝霞が泣き始めて、オロオロし始める真昼であった。
「あっ木霊さんら! はじめまして~」
 だが酔っ払いパワーは凄まじいもので、次の瞬間にはケロッとしてこれである。
「はじめましてじゃないだろ。何度か一緒に依頼に参加しているぞ?」
「あれ~」
 幸せそう~にニコニコしている朝霞に、ニクノイーサは溜息をつくばかり。声をかけられたリュカは「いいよいいよ」と笑っている。
「こうして話すのは初めてだもん」
「大宮さんも何かシメ? に頼みますか」
 メニューを手にした凛道が問う。お酒はその辺にしておいた方が、と言いかけたところで、
「朝霞さん乾杯! 美人が一緒だと肉が余計美味いですね」
 ジョッキ片手のガルーが乱入。ついでに凛道の皿にあった肉もムシャァ。
「何をしているんですかガルー・A・A、それは僕が育てた肉です領土を侵食しないでください」
 威嚇と言わんばかりにトングがちがち。ガルーはへらりと笑うだけだ。
「ここは戦場だぜりんりん。呑気に目ぇ離してるお前さんが悪い。つーかその呼び方なんとかしなさいよ、よそよそしい、俺様とお前の仲でしょー」
 言いつつ、瓶ビールを凛道のグラスにドボドボ注ぐ。「飲みませんよ」と凛道が言えば、朝霞がそれを勝手に飲んでいた。

 賑やかさは衰えず。
 黎夜はマイペースに肉を食べつつ、楽しげな雰囲気に目を細めていた。それから、お箸を置いて、フゥと一息。煙の向こうの白虎丸へ、ニコリと薄く微笑んだ。
「白虎丸、おいしく焼いてくれて、ありがとう……。お腹いっぱい、おいしく食べた……ので、うちはごちそうさま、するな……」
 お腹も一杯、楽しい心地に心も一杯。
「真昼、少しお腹が落ち着いたら……デザート、食べる……? 甘くないやつ……フルーツとか、あるかな……」
「まぁ、それはすてきですの! そうだつきさま、なにかおのみものは?」
「うーん……じゃあ、ウーロン茶」
「かしこまりましたの」

 そんなこんな、肉会はまだまだ盛り上がる――。



●クリスマスチキンも焼いた肉だから、焼いた肉をクリスマスに食べることは道理

「お に く!!」

 ユフォアリーヤ(aa0452hero001)は人差し指を天井に掲げ、耳と尻尾をビシィと立てていた。
「へいへい、分かってるから落ち着けー」
 麻生 遊夜(aa0452)が笑いながらユフォアリーヤの頭をガシィ。「やーん」と英雄はうずうずと尻尾ふりふり。とは言え食べ放題、テンションも上がる。ユフォアリーヤも尻尾ブンブン、遊夜もいそいそと注文用タブレットを手にしている。
「普段食べれないものを食うチャンス……」
「……ん、いっぱい食べる!」
 レバ刺し、センマイ刺し、タン刺し、ミスジの刺身にタタキ、ランプやイチボのユッケ、タン塩やタン元、タン先にツラミ、ハツやカッパにノドスジも。スーパーでは買えないモノのオンパレードだ。元の世界で狼だったというユフォアリーヤは生肉を美味しそうに頬張っている。
「……ん、生も美味しい」
「タンは刺身もあるのか……美味いな」
「……ん、ご飯が進む」
「白飯と一緒に食うと太りやすいと聞くが……」
「……ん、そう? ……体重は、欲しい方」
「ま、良いか」
 ほっぺをいっぱいにして頷く英雄を見、遊夜は白ご飯(大)を再注文。ついでに定番のカルビ、ハムサラダ、塩キャベツも注文だ。
(リーヤは一部以外痩せてる方だし、俺も体重が増えない方だし……食生活的にたまにはこういうのも良かろう)
 そう思考を帰結させて、遊夜は運ばれてきた肉をトングで網に並べていく。ユフォアリーヤがウーロン茶を飲みながら目を輝かせている。二人ともお酒は飲まないスタイルだった。
 今更ああだこうだ喋って間を持たせないと落ち着かないような仲でもない。沈黙すら愛おしく、今か今かと肉が焼けるのを二人して待っている。肉が焼けたところで、先にそれを奪取したのはユフォアリーヤ。ふぅふぅと冷ましてから、微笑みと共に遊夜へと。
「……はい、あーん」
「自分で食える……ああもう、わかったわかった」
 やれやれ。しかし満更でもなさげにそれを食んだ遊夜に、英雄は「……ん、ふふ」と幸せそうに目を細めた。その笑みがあんまりにも妖艶で、遊夜ははぐらかすように言葉を口にする。
「デザートは柚子シャーベット辺りかね」
「……ん、さっぱり」
 むふん。

 じゅうっ、と聞こえる、幸せな音――。

「肉を焼こう」
 朝命を賜った騎士の如き居ずまいで、鶏冠井 玉子(aa0798)がそう言った。
「クリスマスディナーに焼肉というのも悪くない。店にとって稼ぎ時とも言えるこの時期に無料というのも実に豪気。これがオーナーの厚意によるものなのであれば、ぼくたちにできることはただひとつ」
 全力で肉を楽しむことに他ならない。そう締め括る玉子の向かいの席にはオーロックス(aa0798hero001)が静かに着席していた。
「さあ存分に焼こうじゃないか、オーロックス」
 さて。早速肉が運ばれてくるが、玉子はそれをすぐ網へ運ぶことはしなかった。フ、と笑んで口を開く。
「焼肉店で心がけるべきことは、たくさん食べる、いろんな肉を食べる、などなど人それぞれであろうが――それはあくまでも応用。では基本とは何か、分かるかいオーロックス?」
「……」
「そう、肉を美味しく食べることであろう。然らばその為にはどうすれば良いか?」
「……」
「その通り。店が用意する肉、そして備え付けの網、そして火力。これらを確認し、どの程度の時間をかければベストな焼き加減になるか抑えることが必要不可欠だ」
「……」
「片目に時計の秒針を、片目に肉の様子を捉える。難しいかもしれないが、肉が最大限に美味くなる焼き時間を把握するためには必須」
「……」
「良いだろう。それでは見せようじゃあないか、鶏冠井玉子のスペシャルバーニングアタックを」
 取り出されるトング。良い具合に爆ぜる炎に、料理人の楽しげな笑みが照らされた。
「なに、酒は飲まないのか、と? 確かに焼肉には麦酒と相場が決まっているが、今回はアルコールは控えておこうと思ってね。ああ、だから水だ。肉の味の微細な変化を確かめる以上、舌への余計な刺激は最小限に留めるべきであろう」
 食への崇拝めいた理念と共に、黄金率的に焼かれゆく肉。胃が切なくなる香り。最初の一枚は肉そのものを味わう為、何も調味料を付けずに「頂きます」。
「うん――聖夜に肉の焼き加減を徹底的に調べ尽くす、なんと素晴らしい過ごし方だろうか」
 噛み締めれば閉じ込められていた肉汁(しあわせ)が旨みと共に溢れ出す。飲み込んだ後も、喉の奥から肉の上品な風味が立ち上る。最高だ!
 さあ。立ち上る煙でサンタクロースが煙突から侵入できない程に、焼き続けよう。


「焼肉食べ放題って太っ腹だな」
「メリーニクヤキマスー!」
 初めての焼肉店に視線を巡らせる日暮仙寿(aa4519)、対して不知火あけび(aa4519hero001)は上機嫌、仙寿をリードすると言わんばかりに注文用タブレットを早速操作している。
「頼み過ぎじゃねーか?」
「焼肉は別腹だよ!」
「……甘い物も別腹じゃなかったか」
 女子は腹が多すぎる。なんて思った仙寿だったが、まずわかめスープとサラダが運ばれてきて、「最初にスープで体を温めると太りにくいんだよ」とあけびに言われ。
(あ、意外と気を使ってんだな)
 ちょっと失礼だが、そんな感想と共にキャベツを頬張り始めたのであった。まもなく肉が運ばれてくる。仙寿はそれらを焼く為にトングへ手を伸ばすが、トングは既にあけびの手の中。
「レモン絞っててね」
 初心者は見てろと言わんばかり、手際よく肉を焼き始める。
「仙寿様って実はお坊ちゃんだからね!」
「……」
 なんだこの敗北感は。確かに初めての焼肉だけれど。解せぬという表情で、仙寿は黙々とレモンを絞っていく。その間にも他の座席――奇しくも玉子が見事な手腕で肉を焼いている光景――を盗み見、焼肉作法を学ぶ。そこは『そういう方面』で武にやんごとない家系の御曹司、すぐにやり方を覚えては塩タンを上手い具合に焼いていく。焼けたらあけびの皿に置く。
「好物だろう。箸の進みが早かったから」
「むっ……」
 なぜ分かった、という表情を浮かべるあけび。ビンゴのようだ。してやったり、仙寿は不敵に笑っていたが――ふと自分の皿を見る。好物のハラミがたくさん盛られていた。あけびにも好物がバレていた。
「……」
「……」
 黙々。サンチュを巻いてハラミを食べる仙寿。仙寿が絞ったレモン汁で塩タンを食べるあけび。それからは互いに肉を焼いては、互いの皿に盛り続ける妙な空間に。


「食事をする時はですね、誰にも邪魔されず、自由で……なんといいますか、幸せじゃなきゃいけないんです」
 織歌は肉とご飯をほっぺいっぱいに頬張りながらそんなことを呟いた。全神経を食事に注ぐ彼女はなんとも美味しそうに食べている。さながら「うおォン俺はまるで人間火力発電所だ」って奴だ。
「なんだ、それは……美味しい物を独り占めしたいということか?」
 ペンギン皇帝が首を傾げている。織歌は寸の間、空白を置くと……
「えへ」
 にこ。これには「グァー」とペンギン皇帝も呆れ顔だ。だがふと、そんな織歌が箸を止めてまで英雄を凝視しているではないか。
「火に近づいた陛下から美味しそうな匂いがするような……」
「グァッ!?」
 この後、一口だけ齧られた。手羽を。


「雨月! お前細ェんだからもっと食え!!」
「……えー……」
 抗議めいた呟きを零した天海 雨月(aa1738)の目の前の皿は、艶朱(aa1738hero002)によって肉で山盛りになっていた。
「キャベツおいしい……」
 だが雨月はというと、マイペースにキャベツをもさもさ食べている。時折、艶朱が盛り過ぎた肉をちょっとだけ食む。ゆったり。
「おい、冷める前に食え!」
 対照的に艶朱は肉ばかりをガツガツ食べている。食べているというより掻き込んでいるという表現の方がシックリくる。そして酒も無尽蔵に飲む。酒呑み騒ぎ宴会状態で上機嫌、ガハハと笑い声が響き渡る。もし肉の争奪戦でも起きようものなら、「肉だ! 戦だ!!」と飛び込んで入ってしまいそうなほど。幸い肉は大量にあるようで、そんな戦争が起きることはなかったけれど。
 辺りは賑やかだ。様々な顔触れが焼肉を美味しそうに頬張っている。話し声、肉の焼ける音、注文の声、乾杯の音頭、笑い声――肉の焼ける煙で少し朧な景色。それらを硝子球のような瞳で、雨月は視界に納めている。楽しげな雰囲気にあてられて、雨月の表情も穏やかに綻ぶ。
「雨月! お前細ェんだからもっと食え!!」
 その視界にズイと入ってくる艶朱。さっきも言った台詞と共にドカドカ盛られる肉。
「……えー……」
 雨月はさっきも言った抗議めいた呟きを零しつつ、シーザーサラダをもさもさ食べていた。まぁ、盛られすぎた肉の九割九分九厘は艶朱が飲み干すように食べるのだが。(そしてまた肉が大量に盛られるのである)


「焼き肉食べ放題? 下らないな、帰るぞ」
「参加します」
「またお前、勝手に……」
 それが、この焼肉店に訪れる前のバルタサール・デル・レイ(aa4199)と紫苑(aa4199hero001)のやりとりだった。まぁ、いつもの、という具合だ。
「焼き肉って言ったって、おまえあんまり量は喰わんだろう」
「だって暇だったしー。せっかくだし質に拘って食べようよ」
 というわけで座席、バルタサールは「今時はこんなもんがあるのか」と注文用タブレットをしげしげと眺めていた。
「しかし律儀だな、恩返しとは」
「不誠実なきみとは正反対だね」
 間髪入れずに紫苑が微笑む。バルタサールはそれを無視する。
「じゃあ、恩返しっていうしな、メニューの端から端まで頼むか」
「食べ物は粗末にしないで、食べきれる量だけ頼もうね」
 ニッコリ笑顔のまま、タブレットを操作しようとした相棒の手をつねる紫苑。「いてっ」と男は顔をしかめ、溜息を吐いた。
「なんだおまえ、俺のお袋か何かか」
「こんな可愛くない子を持った覚えはないよ。じゃ、きみ焼き肉奉行やってね」
「口を出すだけだよな……」
 そんなこんな、高級そうなものや「上なんちゃら~」というものが運ばれてくる。それからたくさんのキムチとたくさんのビール。「ちょっとそれそろそろひっくり返さないとじゃない?」「焼きすぎじゃない?」「まだ半生だよ?」「並べすぎじゃない?」と紫苑から小うるさく指示されまくりつつ、バルタサールは渋々焼肉奉行だ。そんなに言うならお前やれよ、とは飲み込んでおくバルタサールである。
「それにしても、おまえは何にでも興味を示すんだな」
 キムチと一緒に肉を食べ、ビールを飲み、最中にバルタサールは正面の紫苑へ目をやった。ふぅふぅと熱い肉を冷ましている英雄が、雅な眼差しを彼に返す。
「きみが興味を示さなすぎなんだよ。毎日食べる食事なんだし、もとの世界になかったもの、色々と食べてみたいじゃない」
「そんなもんかね」
「そんなきみのために裏メニューを……」
「げてものはやめろよ」
「生センマイ食べよ、生センマイ」
「なんだそれは…… うわグロい」


「ユリナ、焼肉食べ放題だって! あたしも一度くらいいっぱい食べたい! ユリナも一緒に行こう!」
「わ、私はあまり肉を食べないわよ、リディス?」
「あたしも食べてあげるからへーきへーき!」
 そんなやりとりが月鏡 由利菜(aa0873)とウィリディス(aa0873hero002)の間にあった。そして場面は焼肉店、テーブルにはサラダや肉やビビンバに、果汁100%ジュースやウーロン茶。ででん。早速肉も焼かれ始める。
(わ、私の死んだ親友も食欲旺盛ではあったけど……節度はそれなりに守っていたはず……よね?)
 ウィリディスは由利菜の故人である親友に良く似ている、けれども。由利菜が頭の中をぐるぐるさせていると、ウィリディスが取り分けたサラダを差し出して。
「ユリナ、先にサラダから食べるといいよ。肉はよく噛んでゆっくり食べてね」
「り、リディス、普段はちゃんと食べ方の栄養管理しているのに……今回そんな食べ方で大丈夫なの?」
「たまにはいいじゃん! ……ラーメン食べ放題の時、あたしすごく楽しみにしてたのに……!」
「こ、心残りだったのね……」
 頬を膨らまされては、由利菜は頷くことしかできず。まずは前菜としてサラダを食べ始める。その間にウィリディスはビビンバ丼をオトモに焼肉を幸せそうに食べている。同時に由利菜の皿にどんどん肉を盛っていく。
「え、ええと、焼肉をあまり食べすぎると太ってしまうので……」
「普段は細かく栄養考えて食べてるけど、たまには食べ放題もいいと思うよ? ……あ、あたしは胸を大きくしたい! 由利菜も一緒にがんばろ!」
「胸はもう大きくならなくていいです!」
 もう、と困った顔をしながら、由利菜はアッサリとした塩タンを少しずつ食べるのであった。


「それでも常識の範囲でお願いしますね」――この一言。この一言を引き出そうと、彩咲 姫乃(aa0941)は頑張った。メルト(aa0941hero001)は洒落にならないくらい食べるとも説明はした。しかし失敗した。店側への説得は失敗したのだ。
「なら、遠慮してあげる理由がなくなっちまったじゃないか」
 説明しよう。メルトは超弩級大食い――ではない。食材はあればあるだけ食らい尽くす暴食の化身なのである。

 いくぞ 焼肉店 肉の貯蔵は十分か。

 彼岸な島と丸太的なあれこれなノリで、姫乃は『戦場』に降り立った。
「ヒメノー オナカスイター」
「メニューの端から端まで。――十人前ずつ頼むなー。あ? フルコースなら前菜……の前のドリンクってところだぞ? フルコースにドリンク出すかは知らないけどさ」
 ピッピッピッピッピッピッ――ええいもうタブレット注文じゃ駄目だ。間に合わない。そういうわけで姫乃は直接スタッフを呼び、口頭でどんどん注文していく。そんな弩級オーダーに、スタッフの方はと言えば「来たな超絶大食らい様が」としたり顔で注文を承っていく。
(あの顔がどこまで『もつ』か、見ものだな……!)
 焼くというより炒めている状態。ところ狭しと網に並べた肉をガンガン焼いていく姫乃。そんな姫乃に、吸い込むように肉を食らい続ける英雄が空の皿を差し出して。
「ヒメノー オナカスイター」
「分かった分かった……あ、何止まってるんだ? 注文はすでに次の注文へと変わってるんだぞ。あー、めんどくさいな……あるだけ全部もってこい!」
「ヒメノー オナカスイター」
「待て待て待て待て! 生肉を食うな、せめて焼いたのを口にしろ」
「ヒメノー オナカスイター」
「いやいやいやいや! 焼けた網に直接手を突っ込むな! こら! やめろっやめっ やめて! 流石にお皿を食べるんじゃないッ! 割り箸もダメだってば流石に店の備品は食うな食うな! こらーーーっ!!!」
「オナカスイター ヒメノー ヒメノー」
「うるせぇ焼肉のたれでも飲んでろ! くそ、補給はまだか! スタッフ! スターッフ!!」
 そこは、戦場だった。


「しかし、肉くうだけの依頼ってどうなんだろうな」
 個室座敷。リィェン・ユー(aa0208)はイン・シェン(aa0208hero001)、そして零(aa0208hero002)と共に肉をつつきつつ取り合いつつ他愛もないことを話していた。この話題も、そんな他愛もないものの一つ。
「よいではないか。たまにはこうした外食もありじゃろう」
「おかしな依頼なのは確かだが、食うことも一つの鍛錬だ」
 インは酒という酒を次から次へとあおりながら、零は肉という肉を大盛りビビンバ丼をオトモにかき込みながら、しれっと答える。その飲みっぷり・食べっぷりに、リィェンは「んじゃ、なにからいくか」と尋ねた瞬間の「そこな店員、酒じゃ!! 酒を持て!」「とりあえず、メニューのここからここまでを人数分頼む」と食い気味に声を発した英雄達の様子を思い出していた。
「汝らは一年以上一緒に戦ってきてるわけだが、どうなんだ? 異性間での共鳴とは?」
 ビビンバ丼を空にした次は冷麺をすすりつつ、零がリィェンとインを交互に見る。
「ふむ。共鳴後はこやつと感覚を共有化しておるがそこまで違和感はないかのぅ」
「ま、主体は俺だからな。俺的にも特にないかな」
 答える二人。「じゃが」と酒のツマミにホルモンを食べつつ、インが続ける。
「あれじゃな。股の間にある業物の違和感だけは変な感じがするがのぅ」
「「そりゃどうしようもないな」」
 男性陣の声が重なった。
 まぁそんなこんな、肉と同じぐらい酒も進んでいく。すると一同もなんだか酔ってきたような、まぁ、そんな感じに出来上がってくる。
 すると、だ。
「そちは細かいことなど気にせず攻めていかねばいかんのじゃ!!」
「まったくだ。若いうちから小さくまとまりおって、汝には度胸が足りん。おもいっきり踏み込んでいかなくてどうする」
 なぜだか英雄二人によるリィェンへの駄目出しが始まったではないか。これにはリィェンも困惑のまま視線を泳がせる。
「いや、しかしだな」
「「しかしもカカシもないわ!! 愛してるなら愛してるとさっさと告白せぬか!!」」
(どうしてこうなった)
 リィェンは両側からのエンドレス駄目出しに遠い目をして天井を仰ぐのであった。


「おっにくー♪」
「食べ放題だって」
「たっくさん食べるぞー」
 えいえいおー、はしゃぐピピ・ストレッロ(aa0778hero002)に、皆月 若葉(aa0778)も笑顔を浮かべる。隣同士に仲良く座れば、若葉が手際よく配膳したり肉を焼いたり、サラダを取り分けたり。自分の事は二の次の甲斐甲斐しさだ。
「おいしーね♪」
 焼いて貰った肉や野菜でほっぺをいっぱいにしつつ、ピピは目を輝かせる。好き嫌いなくなんでもたくさん食べるものだから、若葉も食べさせ甲斐があるものだ。「よく噛んで食べろよー」と若葉は骨付きカルビを焼いていく。
「ボクも焼く!」
 するとピピが立ち上がり、トングを貸してとせがむではないか。
「お、やってみる?」
「うん! ……わわっ、火がっ!?」
 矢先の出来事。ぼんじりなど脂っこい肉を大量投入したせいで、網の上で火が燃え上がる。あたふたする英雄。若葉は苦笑を浮かべると、
「はは、それ貸してみて」
 と。慣れた様子で肉を分散させ、野菜や飲み物の氷などであっという間に鎮火した。
「はい、消火完了♪」
「……おー!」
 すごいすごい、ピピの拍手。なお鎮火に使った野菜も全部食べました。
 そんな最中だ。若葉はふと、近くに座っていた瑠歌の鬼気迫る様子に気が付く。何か悩んでいるのかな? なれば気晴らしになれば。そう思い、声をかける。
「何があったか知りませんが俺も付き合いますよ。今日はとことん食べましょう!」
「ふふ……そうですね……生きてるとね、人生色々あるんだなぁって……はは……」
 ワァすごい遠い目。マジで色々あったんだなぁと若葉は察した。
「お肉、焼きますから……! 食べて下さい……!」
 せっせとオペレーターの為に肉を焼き始める若葉。

 と、その近くでだ。

「綾羽さん。解るよ、アンタの気持ち」
 俺と同じ眼をしてる。煙の奥で目を細めたのはカイ アルブレヒツベルガー(aa0339hero001)だった。
「クリスマスがいつから男女がイチャつく日に成り下がったのか……俺の知り合いも大分既婚者が出てきてね。ご祝儀ばっか払った一年でもあったよ」
 独り言つようなその言葉に、ヤケクソ気味にミノを噛み締めていた瑠歌が顔を上げる。カイは乾いた笑みを天井に向けていた。
「既婚者の年賀状みていつも思う。『人ン家の子供の成長記録を毎年みせられてもコッチは反応に困るんですけど~!』ってな」
「わかり……ます……!」
 絞り出すような同意だった。そこからはもう堰を切ったように愚痴合戦。
「向こうで肉貪ってるJKが相方だけど、まぁ現役JKと契約した時点で覚悟はしていたさ、色んな意味で。けどね、肉より偶には俺のほう見て欲しいなって……でも今、話しかけたら確実にキレられるし、俺こんな好きだ信号だしてんのにアイツ全く受信してないっていうか……!」
 カイがチラッと視線をやった彼方には御童 紗希(aa0339)。肉を食べる以外はアウトオブ眼中。焼肉の枕言葉は白飯。「太るなら痩せておけばいいじゃない」――そんなスローガン掲げ、断食祭を強行し焼肉パーティに臨んだ経緯があるほどのツワモノだ。
 そう、だから、食事の邪魔になろう気配を微塵でも察知しようものなら。殺人鬼の様な眼差しで貫かれる。心臓がキュッとなったカイは反射的に視線を逸らしていた。

「マリー! 俺を構ってくれー!!」

 手に持っていたジョッキでビールあおぎ、カイは慟哭を響かせる。泥酔英雄の戯言。しかし能力者には届かぬ想い。成長期のJKは無尽蔵の食欲のまま、尚も肉を食らう。
「すいませーん、特上カルビ追加お願いします! あとキムチとご飯も!」
「マリ……ううっ マリ……」
 カイが顔面大洪水にして突っ伏していることなど露知らず。



●女子会
「食べ放題って、しあわせなのです! 熟成赤身肉さん、とろとろの霜降り肉さん、コリコリしたホルモンさん! まだまだ食べられます!」
「はいはい、リディア、落ち着いて食べようね」
「京子ねえさん! タンが焼きあがりましたよ!」
 個室座席。目を輝かせながら焼肉を頬張るリディア・シュテーデル(aa0150hero002)に、志賀谷 京子(aa0150)はクスクス微笑みながら肉を焼いたり口元を拭ってあげたりと世話を焼いていた。
 おいしい、おいしい、あらあらうふふと賑やかな一方で、向かい側に座っている梶木 千尋(aa4353)と豪徳寺 神楽(aa4353hero002)は静かなものだ。淡々としたペースで空いた皿を積み上げていく。
「生レバーなんて初めて食べたけど、こんな味なのね。やみつきになる人が出るのもわかるわ」
 塩とレモンと胡麻油、ネギとゴマとシソを香味に、プリプリとした生レバーが口の上で優雅に蕩ける。感心している千尋だが、神楽は怪訝な眼差しだ。
「生とは何だ、じっくり焼くに決まっている。肉を生で食べるなど、阿呆の所業だろう」
「神楽、いいから食べてみなさいな。美味しいわよ」
 勧められるも「臓物を生で食らうなど正気でない」と神楽は蛇蝎を見るが如し、しっかり火の通ったハラミを口に運んでいた。
「お二人とも健啖ですね! ……やっぱり食べると育つのですか?」
 そんな千尋達にリディアが丸い瞳で問いかける。視線は二人の、豊満な胸元へ。
「駄肉だよ、あんなの」
 視線に気付いた京子がケッとやさぐれる。腹癒せのようにカルビを噛み締める。耳聡く聞きつけた千尋は余裕タップリの笑みを浮かべ、
「あら、京子。悔しいって素直に言ったらいいじゃない」
「べつに悔しくないもの。神楽さんも大変でしょ、こんな押し出しの強いの相手にしてるとさ」
 フン、と鼻を鳴らした京子は神楽へ話を振った。英雄は「ふむ」とおしぼりで品良く口元を拭うと、いつもの謹厳さで続けた。
「理解できん時もあるが、この阿呆は見ていて面白くはあるからな」
「それ本人の隣で言う?」
 大きく溜息を吐く千尋。神楽は「事実を述べているだけに過ぎんだろう阿呆、何か問題が?」と言わんばかりである。

 まぁそんなこんな、焼肉をオトモに女子会が続く訳だが。
 女子会といえばガールズトーク、ガールズトークとなれば避けられぬモノが、そう、コイバナ、色恋の話題だ。

「まあ、千尋もお相手がいるわけじゃないでしょう? ご自慢のスタイルも無駄じゃない?」
 さっきの仕返しとばかりに京子がニヤリと笑いかける。対する千尋はすまし顔でウーロン茶を一口。
「あなただっていないじゃない。それにわたしはいいの。そんなことしてる場合じゃないし、ふさわしい人もいないし」
「そんなこと言っていると機会を逃すぞ。良い奴がいたら捕まえておけ」
 間髪入れずに千尋へ言葉を突き刺したのは神楽だ。が、それに千尋は驚いたように目を丸め。
「……意外。そんなこと言うのね。恋人がいたわけ?」
「いたさ」
 即答である。刹那、リディアがガタッと立ち上がりつつ肉を頬張りつつ、
「神楽さん、恋人いたんですか! どんなひとですか! どうやって……」
「リディア、食いつきすぎだって」
 座りなさい、飲み込んでから喋りなさい、と京子にいさめられるリディア。神楽は網から立ち上る煙をどこか遠い目で眺めつつ、質問に答えた。
「可愛いやつでな。よく料理を作って待っていてくれたな」
「……ショタに違いないわね」
「ショタなの?」
 千尋の呟きに、着席したリディアが目を瞬かせる。「好きに言うがいい」と肩を竦めた神楽は、逆にリディアへと問いを口にした。
「リディアはどうなんだ?」
「わたしはいませんでしたよ。だから、王子様を捕まえに行きたいです!」
 グッと両手を握り締め、リディアは意気込む。千尋が微笑ましげに瞳を細めた。
「あら、リディアちゃんも肉食系なのね」
「肉食系?」
 聞きなれぬ単語を繰り返す英雄。回答したのは京子だ。
「待ってるばかりじゃないってことだよ。向こうの二人はとくにそんな感じだよね」
 ピッと親指でぞんざいに指し示す先に千尋達。「あなたがそんなこと言う?」と千尋はジト目でライスを頬張っていた。京子がイタズラっぽく笑う。
「それじゃ、まあメリーニクヤキマス!」
「……はいはい、メリーニクヤキマス」
 ウーロン茶で乾杯。



●恋人達の聖なる夜
「個室空いてるそうだ。四人でゆっくりしようじゃないか……」
 そう言ったのはヘンリー・クラウン(aa0636)だった。手を差し出した先には恋人の葉月 桜(aa3674)。
「今日は時間をかけ、本心を聞き出そうじゃないか」
 微笑む言葉に、桜は「はぁい」とはにかみ笑んで愛しい人の手を取った。
 ヘンリー達の後に続くのは彼らの英雄達だ。恋人である五十嵐 渚(aa3674hero002)と腕を組んで、片薙 蓮司(aa0636hero002)はちょっと照れ臭そうにしている。渚はといえば、すまし顔で「タダほど美味しいものはないっす」と興味津々に店を見渡していた。

「このお肉、美味しそうだね~」
 注文すればすぐに運ばれてきたそれらに、桜はうきうきとした様子。隣に座っているのは勿論ヘンリーだ。彼が年齢確認をして飲み物の注文まで行ってくれた。こう見えて全員成人済みである、お酒も大丈夫。なので「今夜は飲みたいな~!」と桜から頼んだのだ。

「「乾杯!」」

 チン、とグラスが触れ合い響いた。直後に肉が網の上に置かれる美味しそうな音。ヘンリーが桜の皿に盛ってやれば、焼けるまでサラダを食べていた桜が待ってましたと言わんばかりに美味しそうに焼肉を食べ始める。
「美味しい?」
「美味しいよ~!」
 幸せそうに焼肉を頬張る桜の笑みに、ヘンリーも朗らかに笑みを浮かべた。
 なるほど、ああやればいいのか。蓮司も相棒を真似て渚の皿へお肉を乗せようとトングを手に、
「渚も食べる? どれがいい?」
「そんなに食べないからちょっとでいいっすよ。ていうか自分でとるっす」
 悲しきかな、そっけない返事。身を乗り出して渚は自分で自分の肉を取る……が、そんな姿勢になれば必然的に隣の蓮司と距離が近くなり。
「そ、そんなにくっつくなよ。恥ずかしいだろ」
「そんなに自分のことが気になるんすか?」

 その一方でヘンリーと桜は引っ付きあって二人の空間、桜はまるで子猫のようにスリスリと恋人に甘え付いている。
「ほらほら、もっと飲めるだろ? お前は俺のことどう思ってるんだ?」
 舌先で嬲るように囁きながら、カルーアミルクを桜に勧めるヘンリー。思惑通りである。甘くて飲み易い上に度数の高いお酒で、恋人を酔わせるという。そしてヘンリーはワクだ。余裕タップリ。
「ん~、えへへ~、ヘンリーのこと、だぁいすき……」
 とろんと蕩けた眼差しの桜。ヘンリーは満足げに笑みを浮かべている。
 そして、お酒が回ってきたのは桜だけではなかった。渚もまたすっかり赤くなって、しどけなく蓮司にもたれかかっている。
「蓮司、蓮司。……すき」
 にぱ~、と表情を緩ませて、蓮司を見上げる渚。
「なんだよ! 可愛いかよ! 本当恥ずかしい!」
 渚以上に真っ赤になる蓮司。ヘンリーがちょうど、デザートを取りに席を立ったので便乗してそれにそっとついていく。恥ずかしくてどうにかなりそうだった。
 そのあと二人が戻ってくれば、恋人達がすぐに寄り添って甘えてくる。ヘンリーも蓮司も、愛しい人の手を握った。そしてその頬に、愛を込めて口付けを。幸せなひとときを。



●宴は続く

「そういえば今日クリスマスっすね」

 ポツリ、木佐川 結(aa4452)が焼肉を頬張る沈黙の合間に呟いた。その隣には彼女のために肉を焼き続けるだけのマシーンと化した水蓮寺 義政(aa4452hero001)、もう反対側の隣には瑠歌。
「私もあんま人のこと言えないっすけど、みんな暇なんすね」
 無表情に、淡々と、流れるように。瑠歌へ顔を向けて反応を窺ったりはせず、手元の焼肉へ視線を落したまま、結は語る。
「知り合いの社会人組なんかは『合コンで男捕まえるんだ―』なんて言ってましたけど、綾羽さんその手のこと興味ないんすね。いやーいい食いっぷりっすわー、だいたいこの時期ってカロリーと男を気にして食事制限する人ばっかでつまんないんすよねー」
 ちょうど瑠歌の追加注文が来たところで、ようやっと結はオペレーターへ視線をやった。彼女は彫刻のように真顔だった。これは聞こえていないフリをしている。追加でやってきた焼肉を腹癒せのようにめいっぱい網においている。ついでにライスもおかわりしている。
 そのまましばし拷問用の重石めいた沈黙が流れた。結は気にせず皿に盛られた焼肉をのんびり平らげ、そしておもむろに口を開き始める。
「そういや義政さぁ、お前いくつだっけ?」
「二三ですが」
 フゥと寸の間の一休みと言わんばかり、顔を上げて額を拭った義政が答える。「なに網から目ぇ離してんだよ」と結に言われてスッと視線を網に戻す。そんな英雄に、結は質問を続ける。
「で、十代過ぎてどうよ?」
「そうですね……やはり衰えましたね。無茶が利きません。十代のころは何をしても次の日には元通りでしたが、二十代になってからは体力とメンタル的にそうはいきません」
「ふーん。お前って相手とかいたん?」
「まぁ、さすがに三十前には身を固めておかねばなりませんでしたので、一応は」
「へー、らしいっすよ、綾羽さん」
 婚活ネタ、カロリーネタ、年齢ネタ、フルコンボだドン。高まるヘイトにご飯が進む。瑠歌はひたすら無言だった。


「人のお金で焼肉食べ放題。ああ、ここが人類の理想郷か」
「タダほど高いものは無い、とも言うよ……?」
「つまり! 高級お肉ッ!!」
「そうじゃなく!?」
 ヨダレがヂュルリとノアの洪水なストゥルトゥス(aa1428hero001)に、聖夜という今日もニウェウス・アーラ(aa1428)は振り回されっぱなしである。
「メ、メリーヤキニクマス? なんか、想像していたクリスマスと違うような……」
「クリスマスに焼肉してもいいじゃない。っていうか毎日してもいいじゃない。それじゃ飽きる? デスヨネー」
 そんな会話を交わしつつ、案内された先の座席で二人は焼肉を食べていた。ストゥルトゥスは肉のみガチ食いスタイルで、ニウェウスは野菜と肉をバランスよく食べている。

 そう、そこまではわりといつもの食事風景だった――。

(何あのヤケ食いクイーン)
 ストゥルトゥスの目にふと留まったのは、憎しみを食欲に昇華している瑠歌の背中。気になるアイツはヤケ食いクイーン。凄い気になるっていうか負けられねぇ。そう思っては、彼女のすぐ傍に座席を移して。
「メリーニクヤキマス」
 挨拶はただ一言、それ以上の言葉など戦士には不要。あとは肉にて語るのみ。
 お前も同志か――戦士の来訪を、瑠歌は追加注文にて歓迎する。しからば礼儀としてストゥルトゥスも追加注文。
「ちょっと、ストゥル?」
 そんな様子に、ニウェウスが首を傾げてやって来る。
 そうか。キミも昇るのか、この焼肉坂をよ――盛大に勘違いをした英雄はひたすら肉を焼く。自分の分、瑠歌の分、ニウェウスの分、てんこ盛りオブてんこ盛り。
「待って、ちょっと多い……」
「んなこたーない。ほら、瑠歌嬢はぺろりといってる」
「っていうか、野菜もちゃんと食べよう?」
「そうか、野菜が欲しいか。ならばくれてやろう」
 肉を巻いたサンチュ(誤字ではない)をニウェウスの口に突っ込む英雄。「むぎゅ!?」と圧倒的肉に息が詰まるニウェウス。
「そうか、そんなに嬉しいか」
 ストゥルトゥスの勘違いは続く。そして肉を食らい続ける聖なる儀式も続く。ストゥルトゥスと瑠歌は何度目かの追加注文を行った。

「さぁ、もっと食おう。愛などいらぬ、肉をくれッ!」



●宴は続く続く
「メリーークリスマース!」
「主様そのような大きな声を出されては……」
 勢い良く焼肉店のドアを開け放ったエス(aa1517)、オロオロしながら付いてきたのは縁(aa1517hero001)。
「タダ飯食い倒れと聴いて馳せ参じたぞ! さあ食べさせてくれ!」
 誰かに恩を売った覚えは毛頭ないが、厚意には存分にご相伴に預かるとしよう! ――そういう訳で席に案内される。ハイテンションのままエスは衝動的にタブレットで乱れ注文を行っていくピピピ。
「肉だー! 縁久々の肉だぞー!」
「最近惣菜ばかりでしたからね。でもお肉ばかりでは駄目ですよ主様。お体を壊されては大変……」
「なんだこれは? これか? これで焼くのか!?」
 終始楽しそうなエスは、縁の言葉に重ねるように声を張った。両手にトングを持ってカチカチカチカチ。
「……あの、調理は縁がいたします。主様では危なくてとても……」
 小声で消え入るように言いつつ、縁はそっとトングを没収したのであった。

 その隣の座席では――

「肉か……」
「おっさんどうせほっとくと大して食べないだろうからノルマ設定するよ」
 呟いた水落 葵(aa1538)に対し、間髪入れずに言葉をかけたウェルラス(aa1538hero001)が容赦なく注文を行っていく。
 そうしてまもなく肉が運ばれてきて、ウェルラスの手によって網の上に並べられ、良いにおいと音が広がる。それを葵が眺めていると、だ。
「どうだ食べてるか! 私はこのハラミとか言うのが気に入ったぞ!」
 座席にドーンとやって来たのはエスではないか。左手にライス(大)、右手に箸。無駄に優雅な箸づかいで葵の皿の上にあったハラミを奪取してゆく。
「お騒がせして申し訳ありません、ああ、お肉まで……申し訳ありません、焼かせて頂きますので」
 更にペコペコ何度も頭を下げながら縁もやって来る。申し訳ない申し訳ないと謝りながら葵の座席の網で肉を焼き始める。
「よぅ。エっさん久しぶり」
「お久しぶりです。お元気でしたか?」
 そんな無駄に声の大きい謎の麗人と物腰低い少年に――葵達はちょっと驚きつつも、気さくに挨拶を。【白刃】大規模作戦の時は同部隊だったのだ。
「こうして会ったのだからもう友人みたいなものだろう? さあ飲もう!」
 エスは勝手に葵の横に座ると、これまた勝手に葵のグラスにウーロン茶をダバダバ注いで、乾杯チーン。
「俺のおススメはミスジかランプだな。霜……脂身は少ないがなかなか美味いぞ。ラムも癖が美味い」
 乾杯されつつ。エスがハラミが気に入った、と言うので葵も自分のオススメを勧める。ついでに焼き方も勧める。が、言うだけで手は出さない。エスの面倒を見るのはエスの英雄、縁の役割であり大事なポジションだと、そう思うからだ。
「縁ちゃんと食べてるか!?」
「そ、そのような心の余裕は」
 その一方でエスがせっせと肉を焼き続けている縁へ振り返る。首を横に振る英雄。ニヤリと笑みを浮かべる能力者。
「ほう! ならば私が食べさせてやろう! ほら口を開けろ!」
「ひええええ」

 賑やかな様子だ。エスと縁を眺めつつ、葵はサラダをぱりぱりと食べている。肉も一応、食べてはいるが、ウェルラスに課されたノルマの八割程度だ。
「こうやって賑やかな食事もたまにはいいね」
 ウェルラスがその横顔を眺めつつ、そう呟く。葵のノルマ未達成は、今日ぐらいはまぁ、見逃してやろう。
「うん、そうだな」
 英雄にそう返事をして。葵はウェルラスと共に空いた皿のまとめや注文と、裏方に回るのであった。

「ところでデザートももちろんあるんだろう!? この石焼ブリュレを食べてみたい!」
 エスは焼肉を頬張りながら、メニューをビシッと指差した。「僭越ながら……」と縁がそれに返して曰く、
「主様、本日はあくまでも焼肉の食べ放題だった気が」
「えーと石焼ブリュレとパフェとアイス五人前っと」
「主様っ……!?」

 安心して下さい、全部ちゃんと食べました。(エスが食べきれない分は縁が食べました)



●ごちそうさまでした
 宴もたけなわ、楽しい時間はあっという間で。
「欲しいの?」
「別に」
 あけびはデザートとしてイチゴアイスを注文していた。一口食べたところで仙寿の視線を感じたが、彼は平然とウーロン茶を飲んでいる。仙寿は実はイチゴ好きであるが、それをバラすつもりはなかった。
「……何だかお腹一杯になっちゃった! 仙寿様食べない?」
「は? まだ一口しか食ってないだろ?」
「いいから、いいから」
「まぁ……残すのは勿体ねーな」
 なんでこいつこんなニコニコしてるんだ。そんなことを思いつつ、仙寿はアイスをスプーンでひとすくい――。


「も、もう無理ぃ。お薬ぷりぃず……」
 ニウェウスはガックリと机に突っ伏していた。ストゥルトゥスは椅子にもたれ、「ふ」と笑んでいる。
「はらぺこ共が夢の跡、か」
「ふ、太る……」

 食べに食べたり。

「リディス、あれだけ食べたのによく平気ね……消化が大変じゃない?」
 由利菜はおしぼりで口元を上品に拭いつつ、満足気に座席の背もたれにもたれているウィリディスに問うた。すると彼女は満面の笑みで、
「英雄だから大丈夫! それに自分の胃の調子くらい、自分で面倒見れるから心配しないで」
「そ、そう? まあ、リディスが喜んでくれたならいいけれど……」


「オナカスイター」
「いやー、食らいに食ったな」
 メルトと焼肉店の戦いは、タイムアップによる引き分けという結果だった。「俺は悪くない」と姫乃は遠い目をする他になかった。


「やきにくー……むにゃ」
 ピピは満腹になって眠ってしまったようだ。仕方ないなぁ、と若葉は英雄をおんぶして、座席から立つ。二人とも、幸せそうな表情をして。
「ふふ、また今度、皆で食べに来よっか」


 外は聖夜。赤と緑とツリーとサンタ。
 皆の服は煙臭い。でも、こんなテンプレートじゃない祝い方をしても、きっといいはずだ。今夜もごちそうさまでした。



『了』

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 薄明を共に歩いて
    木陰 黎夜aa0061
    人間|16才|?|回避
  • 生満ちる朝日を臨む
    真昼・O・ノッテaa0061hero002
    英雄|10才|女性|カオ
  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
    人間|31才|男性|攻撃
  • 断罪者
    凛道aa0068hero002
    英雄|23才|男性|カオ
  • 『硝子の羽』を持つ貴方と
    紫 征四郎aa0076
    人間|10才|女性|攻撃
  • 優しき『毒』
    ガルー・A・Aaa0076hero001
    英雄|33才|男性|バト
  • 雄っぱいハンター
    虎噛 千颯aa0123
    人間|24才|男性|生命
  • ゆるキャラ白虎ちゃん
    白虎丸aa0123hero001
    英雄|45才|男性|バト
  • 双頭の鶇
    志賀谷 京子aa0150
    人間|18才|女性|命中
  • 分かち合う幸せ
    リディア・シュテーデルaa0150hero002
    英雄|14才|女性|ブレ
  • 義の拳客
    リィェン・ユーaa0208
    人間|22才|男性|攻撃
  • 義の拳姫
    イン・シェンaa0208hero001
    英雄|26才|女性|ドレ
  • 革めゆく少女
    御童 紗希aa0339
    人間|16才|女性|命中
  • アサルト
    カイ アルブレヒツベルガーaa0339hero001
    英雄|35才|男性|ドレ
  • 来世でも誓う“愛”
    麻生 遊夜aa0452
    機械|34才|男性|命中
  • 来世でも誓う“愛”
    ユフォアリーヤaa0452hero001
    英雄|18才|女性|ジャ
  • コスプレイヤー
    大宮 朝霞aa0476
    人間|22才|女性|防御
  • 聖霊紫帝闘士
    ニクノイーサaa0476hero001
    英雄|26才|男性|バト
  • 戦うパティシエ
    ヘンリー・クラウンaa0636
    機械|22才|男性|攻撃
  • ベストキッチンスタッフ
    片薙 蓮司aa0636hero002
    英雄|25才|男性|カオ
  • 共に歩みだす
    皆月 若葉aa0778
    人間|20才|男性|命中
  • 大切がいっぱい
    ピピ・ストレッロaa0778hero002
    英雄|10才|?|バト
  • 炎の料理人
    鶏冠井 玉子aa0798
    人間|20才|女性|攻撃
  • 食の守護神
    オーロックスaa0798hero001
    英雄|36才|男性|ドレ
  • 永遠に共に
    月鏡 由利菜aa0873
    人間|18才|女性|攻撃
  • 花の守護者
    ウィリディスaa0873hero002
    英雄|18才|女性|バト
  • 朝日の少女
    彩咲 姫乃aa0941
    人間|12才|女性|回避
  • 胃袋は宇宙
    メルトaa0941hero001
    英雄|8才|?|ドレ
  • カフカスの『知』
    ニウェウス・アーラaa1428
    人間|16才|女性|攻撃
  • ストゥえもん
    ストゥルトゥスaa1428hero001
    英雄|20才|女性|ソフィ
  • 色鮮やかに生きる日々
    西条 偲遠aa1517
    機械|24才|?|生命
  • 空色が映す唯一の翠緑
    aa1517hero001
    英雄|14才|男性|ドレ
  • 実験と禁忌と 
    水落 葵aa1538
    人間|27才|男性|命中
  • シャドウラン
    ウェルラスaa1538hero001
    英雄|12才|男性|ブレ
  • 綿菓子系男子
    天海 雨月aa1738
    人間|23才|男性|生命
  • 口説き鬼
    艶朱aa1738hero002
    英雄|30才|男性|ドレ
  • 初心者彼氏
    鹿島 和馬aa3414
    獣人|22才|男性|回避
  • 巡らす純白の策士
    俺氏aa3414hero001
    英雄|22才|男性|シャド
  • 家族とのひと時
    リリア・クラウンaa3674
    人間|18才|女性|攻撃
  • 友とのひと時
    片薙 渚aa3674hero002
    英雄|20才|女性|ソフィ
  • Trifolium
    バルタサール・デル・レイaa4199
    人間|48才|男性|攻撃
  • Aster
    紫苑aa4199hero001
    英雄|24才|男性|ジャ
  • 悪気はない。
    酒又 織歌aa4300
    人間|16才|女性|生命
  • 愛しき国は彼方に
    ペンギン皇帝aa4300hero001
    英雄|7才|男性|バト
  • 崩れぬ者
    梶木 千尋aa4353
    機械|18才|女性|防御
  • エージェント
    豪徳寺 神楽aa4353hero002
    英雄|26才|女性|ドレ
  • エージェント
    木佐川 結aa4452
    人間|16才|女性|回避
  • エージェント
    水蓮寺 義政aa4452hero001
    英雄|23才|男性|シャド
  • かわたれどきから共に居て
    日暮仙寿aa4519
    人間|18才|男性|回避
  • たそがれどきにも離れない
    不知火あけびaa4519hero001
    英雄|20才|女性|シャド
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