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エージェント対抗バレーボール大会!
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最終発言2016/11/24 00:47:11 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2016/11/22 19:17:43
オープニング
●
「えー、というわけで、バレーボールです」
若干やる気なさげにバレーボールを両手に持ちながらリリイ レイドール(az0048hero001)が宣言する。
「芸術の秋、読書の秋、そしてスポーツの秋。その秋も流石にもう終わり気味で、正直もう冬じゃないの!?っていうツッコミが喉まで出かかっていますが……。まあ、個人的見解は置いておいて最後の駆け込み需要を狙ったバレーボール大会を開催いたしまーす」
一瞬だけ妙にテンションを上げつつ用意された台本らしきものを読み上げるリリイ。
「リリイ、どうしちゃたの?」
「奥山さんに無理やり連れてこられたとか言ってましたよ。何でも一週間家から一歩も出てなかったとか」
リラ(az0023hero001)の疑問にこちらもあまり興味なさげに新聞を読みながらジェイソン・ブリッツ(az0023)が返す。
「開催の挨拶も終わった所で、私から簡単にレギュレーションを説明しよう」
リリイの隣に立っていた奥山 俊夫(az0048)が一歩前に出て選手たちにルールなどを記した紙を配っていく。
「ルールは基本6人制でリベロなし。25ポイント先取の5セットマッチだ。能力者と英雄は基本同じチームになる。チーム分けは此方で決めさせてもらおうぞ。力の差がなるたけできないように一応な。細かなルールについては紙を確認してくれ」
言われて配布された紙に目を通す。生真面目が奥山らしくやたらと詳しくルールが記載されている。とはいえ、重要な項目などは強調されていて見にくいうほどの資料ではないが。
「長々と説明したが……まあ、単なるレクリェーションだ。存分に楽しんでくれればありがたく思う」
奥山はそう言って珍しく優し気な微笑みを浮かべた。
解説
・ルール説明
基本的にはバレーボールのルールに準拠します。共鳴禁止。
前衛と後衛をローテーションするのでその点はご注意ください。
・特別ルール
今回のシナリオに限り特殊な能力値ルールを採用いたします。
攻撃力=アタック力(物魔で高い方)
防御力=ブロック力(物魔で高い方)
命中 =ボールコントロール(サーブ・アタック・トス等)
回避 =レシーブ力
生命力=スタミナ
として取り扱います。厳密な判定ではなくフレバー的なものとお考え下さい。
能力値は共鳴時のものではなく、能力者と英雄それぞれのものとなりますのでご注意ください。
・チーム分け
能力者と英雄をセットとして、出発時の能力者のレベル順に上から順にABBABAと振り分けていきます。
能力者のレベルが同じだった場合、英雄のレベル。それも同じだった場合総獲得経験値で並べます。
人数が足りなかった場合、NPCが参戦いたします。(順序は最後)
例:Lv30、Lv25、Lv20、Lv15、Lv10、Lv5の6人をチーム分けする場合
Aチーム:Lv30、Lv15、Lv5
Bチーム:Lv25、Lv20、Lv10
というチーム分けになります。
リプレイ
●告知
『エージェント対抗バレーボール大会』
H.O.P.E.本部の連絡版に貼られた告知ポスターに目を引かれるエージェント、そして英雄たち。
手作り感あふれる感じに、ざら紙に創英角ゴシップ体で書かれたチープなポスターポスター。
バレーボールを知る者知らぬ者、経験のある者ない者。それぞれバレーボールに対するスタンスは違うが、その妙に安っぽいポスターに導かれ、休日の体育館に12人の男女と、あと保護者が集うのだった。
●ルールはどこだ!
「バレーボールねぇ。なんとなくノリで来たけど、詳しいルールって知らないのよねぇ」
「む、そうか。相手陣地にボールを落とす競技なのだが……レミアの故郷にはそういうのはなかったのか?」
口元に手を当てて悩むレミア・ヴォルクシュタイン(aa3678hero001)の言葉に狒村 緋十郎(aa3678)が問い返す。
「ならば、俺が教えてやる……と言いたいところだが、俺も実際にやった事はないからな……」
「おや、君達もバレー未経験者かな? 実は私も覚えがなくてね」
と、その後ろから声が掛かり二人が振り返るとそこにはエス(aa1517)と彼の従者である縁(aa1517hero001)の姿があった。
「バレエなら昔嗜んでいたことがあるがな! 胡蝶のようにそれは美しく……」
「今回はバレエではありませんよ、主様。ちなみにチーム競技だそうですが……」
「ほほう、それはいい! 私頑張らなくていいな!」
「主様……」
エスの止まらない自慢話を打ち切って話を戻そうとするも、却って変な方向に話が飛んでしまい、縁が思わずため息を吐く。
「なるほど、今日は初心者同士よろしくな」
目の前で繰り広げ枯れる漫才じみたやり取りも気に留めず緋十郎は軽く会釈をして挨拶をする。
「うむうむ、幼女の絡まない緋十郎氏は真面目だなぁ」
その様子をいつからか横から眺めていた俺氏(aa3414hero001)が旧知の仲である緋十郎に話しかける。
「おお、俺氏! ちょうどよかった。聞いていたかもしれないが……」
「もちろん聞いてたよ。でも、残念! 俺も知らねぇ―!」
「えっ! お前、知らなかったのかよ!?」
両手で勢いよく「ばってん」を表現する俺氏に、誰よりも彼の相棒である鹿島 和馬(aa3414)が驚愕の表情を見せる。
「お前が参加しようって言いだしたんだろ!? っていうか、先に言え!」
「おーけー、おーけー、落ち着け和馬氏。安心したまえ、俺氏は馬鹿じゃない、おーらい?」
声の荒げる和馬をなだめながら、俺氏が懐から――多分懐と思わしき場所からごそごそと何かを取り出す。
「なんだ? 『ハイ&Q』?」
「これで勉強した」
「マンガじゃねぇか!」
「いやいや、結構詳しいからね!? 勢いで怒ってない、和馬氏!?」
「……緋十郎」
二人のじゃれ合いを見ながら後ろにいたレミアがポツリと緋十郎に問いかける。
「何故、俺氏に聞こうと思ったのかしら?」
「いや、自信がありそうだったからついな……」
頬を指で掻きながら申し訳なさそうに返す。
「あら、レミアさんに狒村さん!」
「お、和馬と俺氏もいんじゃーん。見た顔ばっかだな!」
と、そこへ二人の女性が手を振りながら駆け寄ってきた。
「良かった、知ってる人がいて」
「お、朝霞に伊奈じゃねぇか。お前達も来てたのか」
この二人は大宮 朝霞(aa0476)と春日部 伊奈(aa0476hero002)。戦うヒロイン達である。
「ちょうど良かったわ、朝霞。バレーボールのルールを知りたいのだけど、この二人じゃ話にならないみたいなの。教えてくれない?」
「ちょっと待て! 何で俺まで戦力外になってんの!?」
和馬が横から口を挟むが、それはスルーする。
「なるほど、英雄さんはこちらのスポーツのこと知らない人が多いですもんね。伊奈ちゃんもそうでしたし……。でも、大丈夫です、これを見れば!」
といって、鞄から手持ちサイズの四角い箱を取り出す。
「この不滅の金字塔! 『レシーブNo1』を、みれば、すぐに理解できます!」
それはアニメのDVDだった。
しかも、最近のものではなく20年以上前の傑作と名高いものだ。
「……ここじゃ見れないわね」
レミアにしては珍しく精一杯遠慮した声音で朝霞に指摘する。
「それもそうですね……」
若干トーンダウンし、いそいそとDVDボックスをしまい込む。
「まいったな……む、あれは御神じゃないか? おおい、御神!」
「ん? 狒村さん、か。どうした?」
体育館に入ってきた御神 恭也(aa0127)と伊邪那美(aa0127hero001)を緋十郎に呼び止められ近づいてくる。
「伊邪那美さんは今日も美しいな……。まるで人形のようだ……。それで、御神。今、バレーボールのルールの確認をしていて……」
「その伊邪那美への挨拶はどうしても必要だったのか?」
わざわざ膝を付いて視線の高さを合わせてまで伊邪那美に話しかける緋十郎に一応突っ込んでから、コートの内側から一枚の紙を取り出す。
それは以前張られていた紙とおなじくこのバレーボールの告知の紙だった。恭也がそれを裏返し、告知が書かれていた面とは逆を見せる。そこには大まかなバレーボールのルールが図解付きで書かれていた。
「おお、こんなものがあったのか」
「連絡掲示板の下に置かれていたぞ。見なかったのか」
「気付かなかったな。助かる」
「集まったかね? そろそろ始めるぞー!」
ルールに目を通していたところに、今回の主催者である奥山達、H.O.P.E.のオペレーターが体育館に入ってくる。奥山とジェイソンは普段のスーツではなく紺のジャージを着ており、どことなく体育教師っぽく見えなくもない。
「ジェイソンも奥山さんも……忙しい中にこんな機会を設けてくれてありがとうな」
「ふふ、リラもリリイもお疲れ様ね。お招きありがと」
二人に遅れて付いてきた女性陣にもレミアが声を掛ける。
「あーい、どうもねー、レミアさん」
「うん、よろしくね!」
リリイとリラの間に凄まじいテンションの差があるが、そこは敢えて気にしないようにする。大体理由も想像つく。
「奥山さん。一つ相談が……」
「ん? 何かね」
バレーボール用の道具のセッティングを始めようとしていた奥山に恭也が話しかける。
「実は伊邪那美用の運動服を用意できなくて……もしあれば、と……」
「女性用ですね。ありますよ」
それに答えたのはジェイソンだった。端の方に置いてあった紙袋を掴み恭也に差し出してくる。
「伊邪那美さんくらいの背の高さであれば丁度いいはずです、どうぞ」
「良かった……ありがとう」
「着替えるならステージ横の控室を使ってくれ。向かって右が男子、左が女子だ」
「わかりました」
言われたとおりにそれぞれの控室へ向かうエージェント達。
「……めんどうくさい……帰りたい……」
「ほら、もうここまで来たんだから諦めなさい! たまにはスポーツの一つもやらないと。若いんだから」
その列にいつの間に来たのか能力者である佐藤 咲雪(aa0040)を引きずって歩くアリス(aa0040hero001)の姿もあるのだった。
●疑惑
「ねえ、恭也。……これって運動着なの? すごく恥ずかしいんだけど」
微かに頬を赤く紅潮させながら、伊邪那美が居心地が悪そうに上着の裾を弄る。
伊邪那美の恰好はいわゆるブルマと呼ばれるそれだった。動きやすいのは確かだが、微妙に露出が多く普段露出の少ない伊邪那美には恥ずかしい。
「いや、確かだがブルマは廃止されたはずだが……運営側の趣味か?」
と、自然に全員の視線が奥山の方へ動く。
「いや、待て! それを用意したのはジェイソンだ!誤解するな!」
その嫌な視線に気づいたのか、奥山が必死に手を振り否定する。視線はそのままジェイソンへ。
「リラから日本の体操着はそういうものだと伺いましたが」
「漫画にそう描いてあったのよ」
リラが満面の笑顔で答える
「いいじゃないですか、ブルマ。やっぱりバレーと言えばこの格好、っという感じがしますし」
そう言って握り拳を作り気合を入れるのは朝霞。彼女と伊奈は持参の服のはずだが、その衣装はやはりブルマだった。
「それに……セクシーだろぉ? どうだ、試合に集中できっかなぁ?」
「ひゅーひゅー!」
「こらこら! ヒーローは色仕掛けなんてしない! ちゃんと! 正々堂々とやるのよ!」
俺氏達男子勢に向けてセクシーポーズを取っていた伊奈を朝霞が慌てて止める。
「良い仲には垣をせよと言う。諸君、フェアプレイでよろしく頼むよ」
やいのやいのと騒ぐ面々に優雅な仕草で一礼し告げるエス。
「色仕掛けも然る事ながら、やはり攻撃の時に痛くしてはいかんと思うのだ。できればそうっと優しく花を摘むような可憐な仕草で……」
「それでは試合になりません。……それに主様この中に知り合いの方いましたっけ?」
「たった今知り合っただろう?」
涼しい顔で縁の疑問にエスが答える。
「……ん。じゃあ……早く、始めよう。そして、早く帰ろう……」
「やる気があるんだか、ないんだか……」
咲雪の言葉にそっと頭を抱えるアリス。
「漫才やっとらんで、始めるぞ」
呆れ顔の奥山の言葉でようやく試合の位置に各々が歩き始めた。
●試合開始
「えー、さてそれじゃあ、始めますよー。まずはAチームのサーブから」
随分かかったがようやく試合の開始である。リリイが若干やる気なさげに審判席に座り指示を出す。
チーム分けはAチームが恭也伊邪那美ペア、和馬俺氏ペア、エス縁ペアの6人。Bチームが朝霞伊奈ペア、緋十郎レミアペア、咲雪アリスペアの6人である。
「ふっふっふっふっ、ここは俺氏の見せどころ。勝負は先手必勝、一撃必滅。俺氏の必殺サーブ見せてあげよう」
「不安しかねぇ……」
サーブのポジションに立ちながらブツブツと呟く俺氏に和馬が一抹の不安を感じ思わず呟く。
「天井に当たらないように……でも、ギリギリまで高く……そーれっ、と」
上から打ち付けるやり方ではなく、下からボールを救い上げるようなフォームで俺氏がサーブを撃つ。
結構な勢いで上昇したボールは天井スレスレまで上がり、そしてそこから一気に加速して落下してくる。
「やりますね、でもこれくらい!」
回転が完全にゼロになり、空気の影響でめちゃくちゃにぶれながら落下してくるボールをアリスが何とかレシーブして受け止める。
「ナイスレシーブ! 伊奈ちゃん、お願い!」
「任せな!」
浮いた球を朝霞が綺麗に伊奈まで通す。
「最初のポイントもらい!」
一見普通の人間と同じように見えるが英雄の身体能力と言うのは、個人差もあるが大体において高い。それは能力者もであるが。
その脚力で高々と跳び上がった伊奈が全力でアタックを打ち込む。
「なめんなぁ!」
しかし、それを和馬が滑り込んで右腕一本で拾う。そして跳び込んだ勢いは回転して和らげる。いわゆる回転レシーブという奴だ。
「よし、縁。行くのだ!」
「ええと、こうでしょうか?」
縁が戸惑いながらも前線の味方へトスを上げる。
「よし、行くぞ」
そこへ跳び込んだ恭也が空いたスペースを狙いアタックを撃ち込む。
「甘いぞ、御神!」
「何!」
しかし、そこに立ちふさがる黒い壁。緋十郎のブロックである。
「くっ!」
咄嗟の軌道変更は間に合わず、見事緋十郎にブロックされてしまい、ボールはAチームのコート内に落ちた。
「御神も俺氏も来い……! どんな球が来ようと、レミアのため受け止めて見せる……!」
「ピー! Bチームの得点。0-1」
リリイの宣言に従って、リラがスコアボードの数字をめくりBチームに加算する。
「……なあ、朝霞。サーブ向こうだよな? 今のが何でうちの得点になるんだ?」
「え!? ……そうか、しまった。ラリーポイント……」
伊奈がルールの勉強に使ったのは20年以上前のバレーボールアニメである。その頃はまだサーブポイント制。得点の成立するルールが違う。
「参考にしたアニメが古かったか……。ううん、でも大丈夫、伊奈ちゃん。今も昔も変わらないことがあるわ。それさえ胸に刻んでおけば大丈夫よ」
「おっ、なんだよそれ?」
「それは、根性よ! 燃えるハートよ! それが勝利を引き寄せるのよ!」
「お、おう」
眼を燃やし、闘志を滾らせる朝霞に若干置いてかれながらも伊奈は辛うじてそう答えた。
●中盤戦
「ウラワンダー☆ブロック!」
「ぐ、くそっ!」
和馬の渾身のアタックが朝霞と伊奈の息の合ったブロックに止められ、ボールが地面に落ちる。
「ピー! 6-8! テクニカルタイムアウト!」
「……一セット目に続いて苦しい展開だな」
スコアボードをちらと見て恭也が呟く。
今は1セット目をBチームがとり、二セット目の序盤であるが、1セット目の勢いそのままにBチームに押されつつあるのを恭也は感じつつあった。
「パンチ不足って感じだな」
汗を拭いながら和馬も恭也に同意する。
未経験者も多い都合上一セット目の序盤こそ、恐る恐る手探りといった感じだったが、しかしそこはリンカーと英雄たちである。すぐにコツをつかみそれぞれのチームカラーがはっきりしてきた。
簡単に言ってAチームが守りのチーム、Bチームが攻めのチームである。
強力なアタック力を誇るレミアを中心に攻撃を仕掛けてくるBチームを、和馬と俺氏をメインにしぶといレシーブでAチームが凌ぐという図式が1セット目の途中から生まれていた。
「彼女のアタックは確かに強力だけど、全体的なレベルではこちらも負けてはいないと思うよ。――いや、私の見立てでは確実にこちらが上だ」
「確かに枚数はこっちが多いね。ただ柱がない」
エスの見立てに俺氏も頷いた。連携やフェイントなので何とか点を取っているが、絶対的なエースがいないというのがこちらの悩みだった。
「……恭也。ボク打ってみたい。お願いできる?」
今まで身長の低さからレシーバーやセッターとして動いていた伊邪那美が一歩前に出る。
「伊邪那美? ……了解した。此方でタイミングを合わせるから好きに仕掛けろ。みんないいか?」
「もちろんです」
「仲良きことは美しきかな」
恭也の言葉に全員が頷く。
「タイムアウト終了!」
「よし行くぞ!」
リリイの声でコートに戻っていく6人。
「……ん。やる気、だね。でも、早く帰りたいから……勝つよ。……それ」
試合開始の合図とともに咲雪がサーブをAチームのコートに投げ込む。
狙いはコートの隅、ギリギリ。
「ふ、こういう球は任せてくれ!」
見事にコートの端を狙い切った一球を珍しくエスがレシーブする。咲雪のサーブはコントロールは凄いが球の勢いはない。有り体に言うと痛くない。
「よし、ナイスだ! それ!」
浮いた球を和馬が前線に向けてトスをする。
「来い、伊邪那美!」
「うん!」
伊邪那美が待ち構える恭也に向けて駆け込み、その膝を足場にして高々と跳躍した。
「おお!?」
「いっけぇ!」
伊邪那美のスパイクが、前線を守っていたアリスと伊奈のブロックを突き抜け、誰もいないコートに突き刺さる。
レミアに負けるとも劣らない見事なアタックだった。
「やった!」
「よっしゃぁ! やるじゃん!」
「ピィィィィ!」
湧き上がるAチームを横目にリリイが普段よりも長めに笛を吹く。
「いやいや、流石に反則っすわ。跳び上がるときに味方を足場にしちゃ駄目だよ」
「ええ!?」
盛り上がった所に水を差され、伊邪那美が消沈する。
「知らなかった……」
「すまん、伊邪那美。俺のルールチェックが甘かった」
「いえ、でも伊邪那美さん。アタックはお見事でしたよ。次は普通に狙ってみては?」
縁が伊邪那美に駆け寄り声を掛ける。
「でも、ボクじゃ身長が……」
今まで何回か試したが伊邪那美の跳躍力では何とかネットに届くかどうかというところだ。安定したアタックは難しい。
「……伊邪那美さん。靴紐、もう少し硬く結んだ方がいいんじゃないか?」
「え?」
その声は意外なところから投げかけられた。
「靴紐、緩んでいるぞ。それではうまく地面に力が伝わらない」
それは相手チームの緋十郎だった。
「ん、確かにちょっと緩んでるな。……どうだ、伊邪那美」
「……あれ、もしかしたら行けるかも」
恭也が結び直し、試しに何度か跳んでみると確かな感触が伊邪那美の脚に伝わった。
「おいおい、どういう風の吹き回しだ緋十郎?」
「ふ、俺はただ正々堂々と戦いたいだけだ……」
和馬に茶化されながらも、目を瞑り静かに語る緋十郎。
「決して今のアタックの威力を見て、ぜひとも伊邪那美さんの魅惑の二の腕から放たれるあの球を受けてみたいと思ったなどという邪な気持ちでは決してない。決して……」
「緋十郎、帰ったら覚えていなさい……」
「待て、本当に違うんだ、レミア! 信じてくれ!」
「いや、絶対無理でしょ」
「口が軽いってレベルじゃない」
和馬と俺氏はそう言って二人して肩をすくめて自分たちのチームの方へ戻っていった。
犬が食わぬ物は馬だって鹿だって食べないのだ。
●終盤戦
それからは実に一進一退の攻防だった。
アタッカーとして覚醒した伊邪那美を中心に、決して落とさないしぶとさを発揮するAチームと、レミアのアタックと咲雪、朝霞達のフェイントやサーブを織り交ぜてひたすら攻めまくるBチーム。
ついに最終セット。2対2でここまでやってきてデュースを挟んで、16-16。ついに最後の決戦の時だ。
「さあ、泣いても笑っても最後です! 気合入れていきましょう!」
「そうだな、ここまで来たら絶対勝ちたいしな」
朝霞の気合の入った激励に伊奈も笑顔で答える。
「そして、今回は私のサーブ。狙いますよ……」
ティンティンとボールを床に弾ませてから掴み、そして精神を集中する。
「……行きます! そぉーれ!」
上から打ち付けるように放ったサーブが敵陣の中心部を裂くように突き抜ける。
「インだ!」
ネット前に立つ恭也が叫ぶ。
「ここは自分が!」
それに食いついたのは縁。跳びつくようなレシーブで何とかボールを上にかちあげた。
(……く、追いつくだけで精いっぱいだ……!)
正確にコート内に戻す余力はなかった。ボールが大きく跳ね上がり、コートからどんどん離れていく。
「よくやった、縁。あとは私に任せたまえ」
意外な事にその球に追いついたのは縁の主であるエスだった。
「ふ、たまには良いところも見せんとな」
「主様……」
恰好いいが、種を明かすと今までレシーブを他人任せにしていた分、スタミナが有り余っていたのである。
「しかし、ここぞという時にはやるのが私だ!」
オーバーハンドでボールを勢いよくネット際に戻す。
「君も決めたまえ、伊邪那美!」
エスが大きな声で伊邪那美に激励を飛ばす。
Aチームのエースアタッカー伊邪那美がグッと地面を蹴る脚に力を籠めた。
「行くよ……!」
「させん!」
伊邪那美のアタックをブロックしようと緋十郎と伊奈が跳び上がる。
しかし――
「なんてね」
「ゲッ、マジ!」
伊邪那美は跳ばず、その場で屈伸運動をしただけだった。
「本命はこっちだ……!」
伊邪那美の上を通り過ぎたボールを隣にいた恭也がアタックする。
ノーブロック。完全ノーマークの一発。
「まだ届く!」
人のいないスペースを狙った恭也のアタックだが、アリスの反射神経がそれに辛うじて反応した。
右腕を突き出し、何とかボールを弾く。
「もらうよ!」
しかし、運悪く――本当に運としか言いようがない――それは相手コートまで飛んでしまい、それをそのまま伊邪那美が跳ね返し地面に叩きつける。
「ピー! 17体16! Aチーム、ゲームポイント!」
「よしっ!」
恭也が珍しく感情を豊かにガッツポーズを取った。
「これで終わりにしましょう……!」
Aチームのサーバーである縁がボールを掴み、構える。
「縁、さっき話した作戦だが」
「分かってます。……行きますよ、そーれ!」
勢いよりもコントロールを意識したサーブが敵陣へ飛んでいく。狙いは咲雪。
「……あたしか、面倒くさい……」
「これを落としたら帰れるぞ!」
レシーブ体勢を取った咲雪にエスが大きな声で呼びかける。
「咲雪!?」
「……いや、さすがに取るけど」
一瞬アリスが焦って声を掛けるが、咲雪はそのまま普通にレシーブした。一瞬だけ動きが止まったのは愛敬の範囲だろう。
「よし、私に任せろ!」
その球を伊奈が拾い、前線に押し出す。
そこへ駆け込むはエースアタッカーレミア。
「さあ、俺氏、行くわよ……!」
「もう嫌だ! 腕痛い!」
レミアと俺氏の勝負はここまで一進一退だ。
レミアの渾身のアタックを何度も俺氏はスパーレシーブをしていた。つまり一方的に俺氏が痛い目を見ているともいえるが。
「終わらせるにはここで勝つしかねぇぞ! でなきゃ一生デュースだ!」
「なるほど確かに」
和馬の正論に俺氏が頷く。
「潰れなさい!」
不穏な叫びと共にレミアの必殺アタックが飛来する。
「火事場の鹿力ぁ!」
それを何とか真上へかち上げ、俺氏がゴロゴロと後ろに転がっていく。勢いを殺す為だ。
「拾って――」
「――繋げるっ!」
和馬がボールの落下地点に入りトスの姿勢を取る。そして落下してくるまでに誰に上げるのかを考える。
(伊邪那美はやっぱマークされてっか……。恭也もさきのフェイントで意識されてるし……)
と、そこでふと一人と目が合った。
(よし! 決めた!)
作戦を確かめる暇などない。目が合ったならそれで通じてると信じる。
「行け、縁!」
和馬は敢えてネット際までボールを飛ばさず、自軍中心部でほぼ真上にボールを浮かせた。
「はい!」
そこへバックアタックラインで踏み切った縁が跳び込んでくる。
「――!」
ここに来て初めて使われるバックアタックという選択肢。
Bチームの誰もが意表を突かれた。
そして――
「ピィィィィィ! ゲームセット! 3マッチ先取でAチームの勝ち~」
「よっしゃぁ!」
「勝ったぁぁ!」
Aチームが最後に決めた縁の元に一斉に集まる。
「あいた、痛いです、皆さん……!」
もみくちゃにされながら縁が遠慮がちに呟く。
「どうだ!? 楽しかったか、縁!」
「え、っと……やった事のないものに触れられたのは、確かに……」
「そうか! よしよし!」
特に念入りにエスに抱き締められながら、少しだけ縁は微笑んだ。