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緑の襲撃者
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作戦相談所
最終発言2016/10/08 11:24:50 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2016/10/05 21:31:45
オープニング
●
アマゾンの密林に雨が降る。乾季を除き年間を通して降水量の多い土地である。
緑が生い茂るジャングルの地面はぬかるみ、ただでさえ木の根や蔓草で歩きにくい場所を難所に変える。
足元が悪い上に勢いよく降るスコールに体温を奪われ、慣れない人間なら遭難しかねない。
「今日もまたよく降ってるなあ。なんかすげえ染みて来る」
「雨具の防水ケチるからだろ。ちゃんと新しいの買うか防水掛けなおせよ」
降り続ける雨をものともせず、ギアナ支部に所属する研究員達が歩く。
アマゾンを愛する研究員はフィールドワークを好む者が多く、彼等もその例に漏れない。
「この先に小屋があるし、そこで一旦着替えるか防水掛け直せ」
「そうそう。君リンカーだからってちょっといい加減過ぎ。そんなだから相棒に呆れられるんだよ」
「へいへい」
口々に言われた男は腕につけた幻想蝶を見下ろして肩を竦めた。
男と契約した英霊はやや潔癖症のきらいがあり、密林の中では滅多に出てこない。
やれやれと溜息をついた時、視界に何かの影が過った。
『気を付けて。何かいる』
普段ならだんまりを決めこんでいる相方の声が幻想蝶から聞こえて来る。
「……みたいだな。お前らちょっと待った」
呼び止められた仲間達はすぐ異常を察した。
お互い少しずつ離れて背中合わせになって周囲を警戒する。
激しい雨の音と雨粒の勢いが動き回る音も草木の揺れも隠してしまうが、確実に何かが動き回っている。
それも男の英雄がわざわざ注意を呼び掛けるようなものが。
「支部の方に連絡取ってくれ」
「分かった」
仲間の一人が連絡を取ろうと懐に手を入れたのと、物陰から何かが飛び出して来るのはほぼ同時だった。
「レーゼ!」
男が英雄の名を呼びながら仲間の盾となるべく飛び出す。
●
「そこの人、ちょっと助けてもらえませんか」
ぽんと肩を叩かれて、気が付いたらここにいた。
怪訝そうな顔でお互いを見るリンカー達に八の字眉の職員がドリンクサーバーで入れた飲み物を置いて行く。
「アマゾンの密林まで調査グループを救出しに行ってほしいんですよ」
ちょっとで済む内容じゃない。
思わず言いそうになったリンカー達だったが、言ったとしても糸目に半月の笑みを浮かべた職員が聞いてくれるかどうか。
現に何か言いたげな視線をさらりと無視した職員は、聞かれもしないのに話を始めた。
職員が言うには密林に調査に行ったグループの一つが襲撃を受け、そのまま音信不通になったと言う。
最後に来た連絡でグループの内一人が負傷して避難しようとしている事は分かったのだが、直後に通信機が壊れたか通信状態が悪くなったかでその後の連絡は取れていない。
「負傷したのはリンカーなんですよ。ただの獣に襲われたとは思えません」
他に人はいなかったのかと周囲を行き来する支部の人々を見ていたリンカー達も、その言葉にはっとなる。
半月を描いていた職員の糸目が三日月のように鋭くなっていた。
「グループに加わっているリンカーは研究員でして。あまり戦闘は得意ではありませんが、そこらの獣に後れをとる程でもありません」
適当な人員に任せれば雨が降りしきる密林。しかもリンカーもいた調査グループに襲い掛かった襲撃者までいる状況では二次災害が起きかねない。
そこで多少の事は力押しで何とか乗り越えてしまえるリンカーのみで救出グループを作ろうと見繕っていたと言う。
「と言う訳で、こちらにサインをお願いします」
どうぞと渡された書類とペンを手に、リンカー達は断る方法はないのだと溜息を吐いた。
解説
●目標
行方不明になった調査グループの救出
襲撃者は撃破しても追い払うだけでもよし
●状況
時間・天候:午前中~・大雨
激しいスコールと密林で視界が悪くなっています。足元も木の根や蔓草などで歩きにくい上ぬかるんでます
日中は薄暗い程度で済みますが、夕方以降は灯りがあっても照らされていない範囲は真っ暗
調査隊のリンカーは負傷したものの襲撃者を一旦退かせる事に成功。近くにある小屋に避難したと思われます
小屋は最後の通信があった場所から約2km先にあります。長期調査用に使われており、防御機能は一切ない丸太小屋です
襲撃者は調査グループを追ったと思われますが、新たな獲物の存在を察知すればそちらに向かう可能性もあります
●調査グループ
ワイルドブラッド/シャドウルーカーのリンカー1名を含む4人グループ。
リンカーの名前はギャレット・ガウリン。両手足が爬虫類の鱗に覆われたワイルドブラッドで、二十前後の粗野ながら情に厚い男性です
英雄の名前はレーゼ・シュマンク。共鳴状態で直接会話はできません
ギャレットは重体。意識はありますが毒も受けており、早めに本格的な治療を受けなければ危険です
他の三人は怪我はないものの疲労が濃く雨の密林を踏破するのは難しいでしょう
●敵
・???(名称不明)
蜘蛛の従魔。大きさは2m足らず。体表に緑の苔のような物が生えて密林の中では保護色になっています
樹上や物陰から飛び出して来て一撃を加えたかと思うとすぐ身を隠し真正面からの戦闘を避ける
また弱っているものを優先して狙い、危険な相手だと判断すれば襲撃を諦める程度の判断力があります
・能力
非常に動きが素早く攻撃に毒のBS効果がある事と粘着質の糸を吐く事が確認されています
まともに交戦していないとは言えリンカー一人では相手にならなかった事から、相応の等級がある従魔だと思われます
リプレイ
●雨の密林
密林に降り注ぐスコールは恵みの雨か無慈悲な礫か。
遠くを見ようとすれば分厚い雨のカーテンが景色を歪ませ、地面はぬかるみ足を滑らせる。
「酷い雨だな。無事にいるといいんだが」
真壁 久朗(aa0032)が雨で張り付いた前髪をかき上げる。いつもなら右目の幻想的な煌めきが目につくものだが、この雨の中では目立たない。
セラフィナ(aa0032hero001)と共鳴して白銀に変わった髪はじっとりと濡れ不快感があった。
事前に付近の情報を聞いてはいたが、実際に歩いてみると足場と視界の悪さが酷い。
『道も悪そうですね……気をつけていきましょう!』
「ああ。救出が遅れれば遅れるほど危険が増すからな」
セラフィナに同意しながら近くにある木に槍で目印を付けておく。
この雨では少し離れてしまっては見えなくなるが、万が一の備えだ。
「毛がベタベター。帰ったらお風呂入ろうかな」
大神 統真(aa3156)の髪は前髪どころか後ろの方まで濡れていた。
借りてきた通信機をいじっている間もぽたぽたと滴が垂れて来る。
我慢して通信機の設定を終えた時には髪から伝った滴で服まで濡れるほど、スコールは激しい。
「……雨、ね」
髪と同じ赤く染まった瞳で空を見上げようとして、鬼灯 佐千子(aa2526)は激しい雨に顔面を叩かれて顔をしかめる。
アイアンパンクであり共鳴状態になった彼女の体はその程度でダメージを受ける訳ではないが、顔が濡れる不快感はある。
『スコール、と言うヤツだな。……雨は体温を奪う。急ごう』
共鳴しているリタ(aa2526hero001)軍人然とした口調はいつも冷静に響く。
佐千子も頷き、広げたまま手に持っていた地図をもう一度確認する。
アマゾンの密林に地図などあってないようなものだが、自分の位置を確認するためにはあった方がいい。
特にギアナ支部で使われている物は実際に自分の足で歩き目で確認した研究員達が持ち寄った情報から作られている。信頼性は高い。
「負傷者の消耗が気になるな」
霧島 侠(aa0782)がいつの間にか雨具に泥と一緒に張り付いていた蛭を払い落とす。
何気なくその後を目で追えば、木の葉の影にチロチロと動く舌のような物が見えた。おそらく蛇だろう。
雨の密林に適応して来た生き物がそこかしこで活動しているが、人間の身ではそうもいかない。
「件の襲撃者はまだこちらに気付いていないか……」
ライ・シャムロック(aa4442)が周囲を見回す。
調査グループを襲った襲撃者はそのまま後を追ったと思われるが、どの辺りまで追ったのか、救出に来たライ達に気付いているのか、今の時点では分からなかった。
「襲撃者は蜘蛛のようだったとか。早く戯れてみたいのう」
雨と足場に苦労しながら歩いているリンカー達の中で、蜘蛛好きのカグヤ・アトラクア(aa0535)は一人楽しそうにしている。
身に着けたアマゾンシャドウは確かに密林に適応能力を与えてくれるが、激しい雨が相手なら万全とは言えない。にも拘わらずその足取りは楽し気だ。
調査グループを襲撃したのがどうも蜘蛛型らしいと聞いてからこの調子である。
「密林の中の姿なき襲撃者か」
赤城 龍哉(aa0090)が近くの木にマーキングしながら何気なく言うと、パートナーのヴァルトラウテ(aa0090hero001)がそれに反応した。
『こう言ったものをフィクションで観た事があるな』
「ああ、あれか」
ヴァルトラウテと同じ物を観ていた龍哉も思い出して頷く。
「おっと」
その拍子に担いでいた背負子の肩紐が雨に滑って少しずれる。
負傷者を運ぶために用意した物だ。落として泥まみれにする訳にはいかない。
救出を頼まれた調査グループの内、リンカーである一人は従魔の襲撃で負傷している。
軽い怪我ならどこかで応急処置をして支部に戻るなりできただろうが、体を張ってグループの仲間を守り襲撃者を追い払った代償は安くなかった。
「この辺りが襲撃を受けた場所になるんですが……」
国塚 深散(aa4139)は調査グループが襲撃を受けた地点に近付いていた。
地面は抉られ降り注ぐ水が小川になって流れていたが、それが自然のものなのか襲撃で抉れたのかまでは分からない。
「九郎、どう思います?」
幻想蝶に向けて声を掛けると、少し間が空いてパートナーの九郎(aa4139hero001)が答えた。
『地面の方はよく分かりません。他の方が来られてから一緒に周辺を調べましょう』
「この辺りに従魔はいそうにないのう」
九朗が言い終えた時、丁度カグヤが残念そうに辺りを見回しながら合流し、他の仲間も続く。
「いた形跡ならあるな」
そう言って久朗が指差した先に、明らかに強い力でへし折られた木や衝撃で地面から掘り起こされたと思われる木の根が散乱していた。
戦闘の跡はそこからしばらく続いており、注意深く見ながら歩くと木片や石の破片に混じって調査グループの持ち物と思われる品や壊れた通信機を発見する事ができた。
「大体この辺りで通信が途絶えたらしい」
壊れた通信機をライが拾い上げる。
頑丈に作られているはずの通信機が真っ二つになっていた。
「聞いていた場所とほぼ一致するわね」
佐千子が地図を広げ、て自分達の位置と事前に聞いていた襲撃場所や通信が途絶した場所と照らし合わせる。
周辺を更に調べると草木を乱暴にかき分けたような形跡が続いており、それが調査グループが逃げた形跡だと推測できた。
おそらくこの形跡は小屋まで続いているだろう。
「わらわはここから別行動じゃ。何人かで固まって行動するより単独の方が向こうも狙いやすかろう」
では小屋まであと一息と皆が動こうとした時である。カグヤのこの発言に残る全員が驚いた。
カグヤの能力は低くはない。だが単独で従魔と戦うのは流石に危険だ。
せめて調査グループの安否を確認するまでは同行してほしいと説得する。
「仕方ないの。その代わり蜘蛛が現れた時に撤退はなしじゃ」
そこが妥協点だと示すカグヤに、一同はそれでいいと頷く。
要救助者の救出が優先になるのは変わらないが、元より従魔との戦闘があるものと考えているのだ。
●狙う者と守る者
少しばかり手間取ったが、リンカー達は小屋に向かう事にした。
調査グループが通った道は襲撃から逃げていたためか時々とんでもない方向にずれたりしていたが、確実に地図上に示された小屋に向かって進んでいる。
リンカー達は襲撃を警戒しながら足を急がせ小屋に向かった。
「音も臭いもこれじゃよく分からないよね……」
耳を澄ませ空気の臭いを嗅いで、統真は少し肩を落とす。
自分達が歩く度に鳴る濡れた足音と激しい雨が体や周囲の木々を叩く音。
雨に濡れた濃い緑の臭いに土の臭い。
不意に襲ってくる襲撃者の存在を察知しようとしてもそれらが障害になった。
「相手を見て出方を考えられるなら、もう出てこないでくれて構わんのだがな」
龍哉も状況の悪さに思わずそう言ってしまう。
従魔は物陰や樹上から襲い掛かってくるらしいが、こうも雑音が多いと視界の悪さも手伝って見つけるのは難しそうだ。
『追い詰めた獲物を諦める割り切りが出来る従魔なら可能性がないとは言えませんわね』
「……あー、そりゃなさそうだ」
いっそ従魔の方が諦めてくれればいいのにと少し込められた願望はヴァルトラウテにあっさりと潰された。
「どこから抜けてくるか判らん相手だしな」
こちらに襲撃を仕掛けてくるならむしろ望む所だろうが、調査グループが逃げ込んだ小屋で襲撃される可能性もある。
ライヴスゴーグルを装着して他の仲間と離れない程度に足を早める。
足場の悪い中でもリンカー達の健脚は約2kmの道程を何事もなく通り抜け、目的の場所に到着した。
丸太を組み合わせた小屋に近付くと、雨と緑の臭いに混じって血の臭いが漂って来た。
小屋の屋根がある程度雨を防いでいるため、地面から小屋の中に上がる階段には血痕が残っている。
「……ここまで襲撃の気配はありませんでしたね」
深散が小声でパートナーに言う。
やはり人数が多いのを嫌ったのだろうか?
『要救助者を見つけた直後は安心して気を抜きがちだ。油断しないようにね』
九朗の忠告に頷いて周囲を警戒しながら階段を上がる。
「H.O.P.E.エージェントです。……助けに来ました」
佐千子が声を掛けながら扉に手を掛けると、木製の扉は簡単に開いた。
相当慌てていたのか考える余裕もなかったのか、扉には鍵やつっかえ棒のような物が掛かっていなかった。
「H.O.P.E.の……救助に来てくれたの……!」
「や、やった! ギャレット、救助が来たぞ!」
俄かに騒がしくなった小屋の奥に一同が向かうと、ぐっしょりと濡れた床に放り投げられたボロボロの上着と簡易ベッドが目に入った。
ベッドの一つには血に染まった包帯を巻いた男が横になっており、三人の調査員が彼を囲んでいた。三人とも疲労困憊だったが、救助を得られたことで表情に気力が戻って来ている。
深刻なのはギャレットと呼ばれた男の方だ。
爬虫類の鱗に覆われた手の爪も唇も青紫に変色し、わずかに痙攣している。最初は目を閉じていたが、救助が来たと聞いて瞼が動いた。
「……たす、か……こいつら、頼む……」
「その前にできるだけ処置をする」
久朗はギャレットの側に行くとケアレイとクリアレイを掛ける。
「少しまってて。今体を温める準備するから」
その間に佐千子は冷え切った彼等の体を温めるための準備を始めた。
ギャレット以外の三人に怪我はないようだったが、疲労と雨に濡れた事で体が冷えて大きなダメージを負っているのは明らかだ。
深散が用意して来たブランケットと温かいHOPEまん、生姜湯を取り出せば、統真と龍哉もそれぞれ自分が用意して来た道具や食事を使ってギャレットと調査グループ三人の処置と介抱を始めた。
「毒のせいで体力を消耗しているが、G.E.Cなら大丈夫だな」
侠なりのジョークに調査グループの四人、治療を受けているギャレットもニヤリと半分無理矢理にだが笑って見せる。
少量とは言えブランデーの辛みにぼやけた頭が少し晴れ、濡れていない布地の心地よさとあたたかな食事など、用意されたそれらに気力と体力が僅かながら戻っていた。
疲労困憊状態だった三人は温かい食事を取ると体力も大分回復したが、ギャレットの方はそうもいかなかった。
ここまで出血と毒で消耗して来たせいなのか、治癒の効果が今一つ良くない気がする。
「やっぱり早めに病院に連れて行った方がいいか」
「できれば一日休んで貰いたかったのですが、そうもいかないようですね」
龍哉と深散の会話は全員が聞いている。
疲労している調査グループの三人は自分達を守って重傷を負ったギャレットを心配しており、食事ももらい体も温まった。自分達は大丈夫だと主張する。
ギャレットの容態は治療により落ち着いている。久朗が襲撃者の情報を聞くと、途切れ途切れながらも答えらえる程度にはなっていた。
事前に聞いていた情報とほとんど変わりはなかったが、知らなかった情報も持っていた。
「見た目と動きは蜘蛛……緑色の、タランチュラに近い……。装甲はあまり硬くない……魔法でも、武器でも通る」
そこで見せられたのはギャレットが持っていた武器だ。
武器よりも枝はを打ち払う鉈として使う方が多いらしいが、刃は濃い緑とも黒ともつかない体液で濡れている。
「あの体液……毒だ。口の部分……あと脚、全部に毒がある。他……他は、糸……あれは、分からない。見ただけで……」
「分かった。情報感謝する」
喋っているだけでも疲れが出たのを察してギャレットを止める。
「敵の目は我々が引きつける。救助班の面々、及び研究チームの諸君らは、安心して後退するが良い」
ライが力強く言うと、今か今かと痺れを切らしそうになっていたカグヤがやっとかと目を輝かせる。
「ではどこぞに隠れておる蜘蛛を狩りに行くとしようかの」
うきうきと小屋を出ようとするカグヤにライと統真も続く。
「陽動ではあるが、倒してしまっても構わんのだぞ。やってしまえ」
侠が陽動班の背中に向かって言えば、振り向いた陽動班が勿論だと言葉と表情で応える。
「よし、移動の準備をしよう。三人は歩けそうか?」
陽動班が先行するのを見送って、龍哉は準備してきた背負子を改めて組み立てギャレットを載せられるように調整する。体温保持のため寝袋にも入ってもらい、久朗がサンドエフェクトを掛ける。
更に佐知子が虫よけのためにギャレットを背負う龍哉に防虫電磁ブロックを付けた。
残る三人は着替えを済ませると顔色もだいぶまともになっていたが、立ち上がる際に足がもつれそうになる。
「俺たちが護衛する。辛いだろうが、ついてきてくれ」
「歩けなくなった時は私が背負って行く」
久朗が励ませば、侠はさして大きくもない体を仁王立ちにして任せろと胸を張って見せる。
『僕には応援することしか出来ませんが…!皆さん頑張ってください…!』
共鳴しているため彼らに声が届かないセルフィも、承知の上で精いっぱいのエールを送った。
「私が先行するわ。ついて来て」
佐知子が機械化した自分の体の硬度を確かめるように足を踏みしめる。
直後に通信機から雨のノイズが混じった声が聞こえて来た。
『従魔と接触! 近いぞ!』
陽動班と従魔の戦闘は小屋から少し離れた場所で始まっていた。
空を見上げれば日が傾き密林に夜が近付いている。
「日が沈む前に密林を突破する。頑張れよ」
龍哉が背負子に背負ったギャレットを励ます。
陽動班の仲間が従魔を抑える事を信じ、救助班は調査グループの身の安全を最優先に密林を突破して行く。
密林の木々の間に仲間と蜘蛛の従魔の姿を見ながら走り抜け、途中限界を迎えそうになった調査グループを侠と久朗が順番に背負い、励ましながら道を戻っていく。
どこをどう通ればいいかは行きにつけた印と先行する佐知子が持つ地図が大いに役立った。
●密林の蜘蛛
陽動班と戦っているのは苔に覆われた巨大蜘蛛。
従魔はそんな姿をしていた。
糸は吐くが巣を作るためではない。口は人間の体を簡単に破壊できるが、肉を喰らうためではない。
蜘蛛型従魔は獲物を求めてジャングルを彷徨っていた。
そこら中にいる小動物など目もくれず彷徨い、相応しい獲物を見付けた。
あと少しと言う所で手痛い反撃を喰らったために一度離れて様子を窺っていたら獲物が増えた。
だが多い。諦めるべきか迷っていると、獲物が一人群れから離れた。先ほどの獲物ととは違うが、負傷しているらしい。
先ほど受けた傷のせいで余計に飢えていた従魔ははぐれた一人を狙って飛び掛かる。
「こっちの水は甘いぞ、ですね」
『蛍って風情は無さそうだねえ』
深散が悪戯っぽく従魔を誘い出すため傷つけた手を掲げ、九郎は聞こえないのを承知で冗談に付き合う。
戸惑うと言う性質が従魔にあるかわからないが、少なくとも今従魔は無防備に身を晒していた。
「隙あり!」
デスマークが従魔に刻まれる。
「なんじゃ、ずいぶん鈍い蜘蛛じゃのう」
我に返った従魔の頭上に黒と赤の塊―――長い黒髪と赤い着物の裾を風にはためかせながら樹上から襲い掛かってきたカグヤの一撃に大きく傷つく。
緑の体表がばっくり割れて漸く従魔の頭でも状況が理解できた。
嵌められた? ただの獲物に?
とりあえずこの攻撃から身を隠そうとした従魔はまたもや気付かなかった。
密林の緑や薄暗さと同化しやすい体が不自然に明るい蛍光塗料に塗れていた。
「ライ・シャムロック、BA-03 シャードで出る……!」
薄暗い中でも不自然な色は十分に目立った。
蔓草と大きな木の葉の間に潜もうとした従魔をライのストライクが捉える。
「ここまで来て逃がすわけないでしょう!」
統真の周囲に幻想蝶が舞う。
一日一度しか効力のないとっておきの技が従魔にあらゆる状態異常を引き起こす。
「糸を吐いて来ます!」
「可能な限り避けろ!」
従魔が吐き出したのは粘性の高い蜘蛛の糸のような物。
先端が鎌のように尖った足は毒を持っていたが、この糸はダメージを受けない代わりに触れた者を拘束する能力が高い。
「糸、か。これを攻撃に用いる種は聞いたことがないな。これではまるで魔物だ
そこまで呟いたライはふと自分の言った言葉を頭の中で反芻し苦笑する。
「……あぁ、従魔も似たようなものだったな。しかし厄介な」
「なに、触れなければいいだけじゃ」
忌避蟲殺之書手にしたカグヤが事も無げに言い放つ。
青白く輝く火球は容易く糸を焼き払い、絡め捕られた仲間を解き放つ。
毒は浸透が早く鋭い脚先に斬り付けられればほぼ確実に毒が回り解毒も追いつかなくなってくる。
「それもあと少しです」
蜘蛛の従魔が深散の言葉を理解したかどうかはわからない。
従魔は今や自分の方こそが捕食者の巣に捕らわれた獲物だと最後まで気付かなかった。
何度目かの激突の末、従魔の脚が一本千切れ飛ぶ。
八本ある内の一本だったが、自分の体が欠損したことで従魔の食欲よりも危機感が上回った。
「遅い遅い。もっと早くに逃げるべきだったね」
統真の余裕たっぷりの声も無視して逃げようとした従魔だったが、それは叶わなかった。
「糸持つ蜘蛛よ。わらわの糸の味はどうじゃ?」
従魔の体ですら切り裂く糸に絡め取られた足がもう一本切り飛ばされた。
もがく体の動きも鈍い。
「蜘蛛が糸に捕らわれた感想は?」
深散が張り巡らせた女郎蜘蛛はじわじわと確実に従魔の動きを鈍らせていたのだ。
更にライヴスの針が従魔の体を縫い止める。その有様はまるでピンで留められた蜘蛛の標本である。
「そこだ、沈めィ!」
自由を奪われた従魔にライのストライクがとどめを刺す。
蜘蛛の従魔は残った足をばたつかせたが、その場から動く自由を奪われた体はすぐに力を無くし崩れ去った。
●救われた命
陽動班が密林を抜けると、救助班から連絡を受けていた医療機関が保護された調査グループを病院へ運ぼうとしている所だった。
「ああ、無事だったんだな!
救助班の手助けを受けて無事密林を抜けた調査グループの顔は明るい。
無理を強いた体はもう限界だろうに、救助班と陽動班に惜しみない感謝を示す。感極まったあまりのハグには流石に何人かが苦笑したり戸惑ったりと言う反応をしたが。
暖かい食料や体温を保つための対処、毒と傷の処置に対しては医療機関の人間からも感謝された。
まだまだ感謝し足りないと言った様子の調査グループだったが、彼らの体力と何より深手を負っていたギャレットの治療のために名残惜しくても病院に向かわなければならない。
「本当に……助かった……アンタらが、いなかったら……今頃従魔の餌だったよ」
ストレッチャーに載せられたギャレットの笑みに、見送る体勢だったライがそれは違うと言う。
「キミの働きがあったおかげで、少なくとも我々が到着するまでの時間を稼ぐことができたのだ。誇ってもいいことだ。その力の意味、今一度考えるといいだろう」
ライは伝えるべき事は伝えたとストレッチャーから離れた。
すぐに搬送の準備は完了し、調査グループは後日治療とリハビリを経てまた以前のようにアマゾンの密林に分け入り調査を行えるまでに回復する。
ギャレットもまた調査グループの仲間達と共に研究と調査に勤しむ日々に戻ったが、あまり交流が深くなかった英雄との距離が少し縮まり、リンカーとして一皮剥けたようだと言われるようになったとか。
結果
シナリオ成功度 | 普通 |
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