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【卓戯】連動シナリオ

【卓戯】いらっしゃいませ~!

一 一

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
9人 / 4~10人
英雄
8人 / 0~10人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/10/13 19:53

掲示板

オープニング

●ここを調べろと?
 世界と異世界の狭間にできた、テーブルトークRPGのルールブックを媒介として侵入可能なドロップゾーン。
 ゾーンの内部はまだまだ判明していないことが多く、H.O.P.E.には調査を目的とした依頼が数多く募集されていた。
 そして、VR-TTRPGシステムを用いてドロップゾーンに降り立ったエージェントたちは、出撃前の職員から聞いた説明を思い出していた。

「みなさんにはドロップゾーン内で見つかった、特殊なフィールドの調査をお願いしたいと思っております。実は、その場所は見るだけで敵の罠だと誰もが確信するフィールドで、現時点でも相当な危険が予想されています」
 とても深刻な職員の言葉に誰もが表情を険しくし、今回の調査がいかにリスキーなのかを理解した。
「しかし、今までどんな困難も打ち破ってきたみなさんなら、必ず無事に帰ってきてくれると信じています。私たちH.O.P.E.職員もシステム越しではありますが、全力でバックアップさせていただきます。どうか、今回の調査を引き受けてはいただけませんでしょうか?」
 エージェントたちは顔を見合わせ、大きく頷く。
 どんなに強大な敵も力を合わせて撃破してきた。
 こちらを飲み込もうとする謀略も真っ向からはねのけてきた。
 1人では不可能だったことも、仲間がいたから乗り越えることができた。
 たとえ命を落としかねない危険が待ち受けていたとしても、自分たちが臆する理由にはならない。
 エージェントたちの答えは、すでに決まっていた。

 ……のだが。
 たった数時間前の決意があっさり吹き飛びそうになる光景が、彼らを歓迎していた。
 まず、中央に両開きの扉が1つ、ぽつんと直立している。周囲を見渡してもそれ以外に何も見あたらず、どこまで続くかわからない闇が広がっている。
 そして、その扉が大問題だった。
『いらっしゃいませ~!』
 意識して視界から外していたが、エージェントたちは諦めてもう一度そちらを見る。
 まるで夜の店の客引きを彷彿とさせる来訪者への誘い文句が、増築に増築を重ねたド派手な電飾看板にデカデカと掲げられていた。親切なのか挑発しているのか、ありとあらゆる言語で書かれたそれらは、誰が訪れても意味が分かるようになっている。
 派手なのは看板だけではない。扉にもこれでもかというほどコードイルミネーションが巻き付けられ、ビッカビッカと自己主張を繰り返している。
 極めつけは、扉の前に墓石のようにつき立つ、古びた木製の立て看板。これだけやたら地味で、遠くからは何と書いてあるかはわからないが、決して愉快なことは記されていないだろう。
 エージェントたちは思った。
 ……あれ? 考えていた危険と違う。なんて言うか、上京したての地方出身者とか、お酒が飲めない未成年とかが入っちゃいけない感じの危険じゃね? と。
『いや~、みなさんが引き受けてくださって助かりました。最初は外観の写真付きで募集してたんですけど、誰も引き受けてくれなかったんですよ~』
 すると、さっきの職員の声が貸与された通信機越しに聞こえてきた。あまりにも軽い声音に、全員がイラっとする。
 とはいえ、ここが未知のドロップゾーンであり、どこに送られたところで危険だということに変わりはない。警戒しながらも扉に近づき、最初に立て看板を調べることにした。
『アトラクション型フィールド“どろっぷぞ~ん”へようこそ!』
 今すぐ帰りたくなってきた。
『入場料金は今なら、な、なんと!? 1時間でお1人様5,000Gポッキリ!!』
 時間制限付きで金取んのかよ。
『色んなアトラクションに挑戦して、この世界に迷い込んだ人間や高純度の霊石など、豪華賞品をゲットしちゃおう!』
 真面目なのかふざけてるのかどっちなんだよ。
 もう頭痛が痛い状態に陥ったエージェントたちの耳に、再度職員からの通信が入ってきた。
『みなさんもご確認の通り、もしこの看板の情報が確かであれば、この怪しさ爆発な扉の先にドロップゾーンにとらわれた被害者がいることになります。しかし、中がどのような世界に通じているのかもわからないため、危険度は未知数です。もしかしたら時間内に帰ろうとしても、チャージ料金やソフトドリンクだけでお会計が数十倍になっている可能性すらあります』
 もうそれただのぼったくりバーじゃねぇか。扉の雰囲気からして、間違ってなさそうなのが余計にたちが悪い。
『ですから、みなさんくれぐれも注意して探索に臨んでください。あ、エリア調査で実際にかかった費用は、申請してくださればH.O.P.E.が全額負担しますので、気兼ねなく突入しちゃってください。では、ご武運を~』
 ……まさか、看板にある『入場料金』の補填が全力のバックアップとか言うつもりじゃないだろうな?
 その後、何故か連絡がつかなくなってしまった通信機を見下ろし、エージェントたちは盛大なため息を漏らした。

●どろっぷぞ~ん・基本ルール(PL情報)
・全員参加です。拒否権はありません。
・入場は1回限りとさせていただきます。必ず全員そろっての入場をお願いします。複数回に分けてのご入場はお控えください。
・アトラクションは『にんげん射的』・『れいせきクレーンゲーム』・『じゅうまパニック!』の3つございます。
・アトラクションはランダムで出現し、連続で同じアトラクションとなることはございません。
・アトラクションは時間内であれば何度でも挑戦可能です。ただし、成否に関わらず現行アトラクションを終了させる必要がございます。
・参加アトラクションまたはクリア内容によって、報酬が変化・増減いたします。
・特定の参加者のみの挑戦は禁止しています。たとえば、アトラクションの参加権を譲渡するなどできません。
・入場料金以外の追加料金は発生しません。
・それでは、制限時間いっぱいまで、ごゆるりとアトラクションをお楽しみくださいませ。

解説

●ミッションタイプ
【エリア探索/一般人救助/霊石採掘/敵撃破】
 このシナリオはクリアと成功度に応じて様々なボーナスが発生します。詳細は特設ページから「ミッションについて」をご確認ください。

●目標
・メイン:怪しいエリアの探索
・サブ:一般人救出・霊石獲得・従魔討伐

(以下PL情報)

●『にんげん射的』
 1人にコルク銃と5発の弾が用意され、縁日の射的のような形で縛られ固定された人質に弾を当てれば救出可能。参加者が一巡すると終了。
 人質にはPCたちが人型の愚神、コルク銃が本物の武器として認識される。逆に、PCたちは人質の叫び声が拡大して聞こえて集中力が乱れ、弾が首や足に飛べば人質自ら避けることもある。

●『れいせきクレーンゲーム』
 ゲームセンターのそれより大きな筐体を操作し、クレーンのアームでむき出しの霊石を排出口まで運べれば霊石獲得。参加者が一巡すると終了。
 クレーン調整は上と左が1回ずつ。霊石は形も大きさもバラバラで、乱雑に配置されている。アームは先が丸くスプーンのようになっているが、作りが雑で上昇や移動でガッタガタ揺れる。

●『じゅうまパニック!』
 次々と増えていくイマーゴ級従魔を倒す。PCたちは体育館の半分ほどの広さを持つ室内の中央にたたされ、壁から無限に出現する従魔を討伐していくことになる。1体残らず全滅させればクリア。精神的ダメージ大。
 登場従魔『AKA』…生後1歳前後の人型従魔。移動はハイハイ。言葉は「あー」、「うー」などの喃語で意志疎通不可。好奇心旺盛で人懐っこく、PCたちへ満面の笑顔で群がる。攻撃能力皆無。ライヴス吸収能力もごくわずか。

●その他
 行動の成否は基本的にダイス判定で決定。1時間経過で強制的に扉の外に排出され、扉は消失。PCたちの周囲には各アトラクションで得られた成果(一般人・霊石・従魔討伐スコア)が出現。

リプレイ

●怪しい光景
 扉を前にエージェントたちの反応は様々だ。
「胡散臭いにも程があるだろう……。客引きの過剰な店に良店は無い、繁華街の鉄則だ」
「キラキラしてて楽しそうなの」
 まず反応したのは、鉄則を知る程度には繁華街に詳しい狒村 緋十郎(aa3678)。隣のリーゼロッテ・シュヴェルト(aa3678hero002)にも注意してあげて。
「なんじゃこりゃ、強面の兄ちゃんが奥から出てくる店じゃねえだろうなぁ?」
「……ぴかぴか眩しい」
「幻想蝶ん中に入っとけよ」
「やだ、あそこ嫌ーい」
 緋十郎と同じく、扉の怪しさに注目した高橋 直房(aa4286)。その光はレイキ(aa4286hero001)が目を細めるくらい強い。
「あっ、財布忘れた帰らなきゃ~」
「時間勿体無いし行こうか」
「帰りたいー!」
 こちらでは棒読みの台詞で会津 灯影(aa0273)が拒否反応を示すも、静寂(aa0273hero002)に肩を掴まれ逃げることができない。
「どんな罠であろうと正義に打ち破れぬものはなしっ! 悪は完全粉砕!」
「有象無象の区別なく、すべてを斬り捨てましょう」
 一方で、絶対正義を掲げるユーガ・アストレア(aa4363)とカルカ(aa4363hero001)に臆する様子はない。そして共鳴済みの呉 淑華(aa4437)たちが扉をくぐると、目の前には夜の繁華街。
『ご来場ありがとうございます!』
 瞬間、どこからともなく人の声が聞こえ、ここのルールと誘導用の矢印が示された。
「1種に最大10分位か……、制限時間にも気を付けて、どれだけ探れるかだな」
 得られた情報から御神 恭也(aa0127)は探索時間を逆算し、伊邪那美(aa0127hero001)はその後をついて行く。
「とりあえず、アトラクションはがんばった方がよさそうだね」
「一応、仕事だからね……」
 探索の目標が明確になり、基本方針を固めた廿枝 詩(aa0299)。隣の月(aa0299hero001)はやや面倒臭そうにしつつ、癖で周囲を見渡すも目に痛い光景ばかり。
「ぼったくりバーみたいなこの空間、バニーちゃんの1人や2人期待したいところだぜ!」
「え、ちょっと何考えてるのミントくん……」
 別の期待感を高めているのは藍那 明斗(aa4534)。クロセル(aa4534hero001)の反応など気にせず、店に目移りしては妄想を膨らませていく。
「アトラクション、か。いい予感はしないな」
 周囲をインスタントカメラで撮影しつつ、バルトロメイ(aa1695hero001)はスマホで動画を撮影するセレティア(aa1695)を庇いつつ歩みを進める。その不安は、すぐに現実の物となった。

●悲鳴切り裂くコルク銃
 5分ほど歩くと、突如視界から光が消え、すぐ新たな光が灯って視界が開ける。
『最初はにんげん射的です!』
 最初にルール説明の声が響くと、手元にコルク銃と5発の弾が出現した。
「縁日で屋台のおっさんを泣かせた俺に任せろ!」
「泣かせたの……」
 説明後に自信満々で宣言したのは明斗だ。射的が得意なのか、物理的に泣かせたのか、クロセルの微妙な表情は後者を疑っている。
『#*%&~っ!』
 直後、射的位置のカウンターと縛られた人間が光で照らされ、恐怖で染まった言葉にならない叫び声が室内に充満した。
「スゲー騒いでんな」
「本当に泣かせてる。君ってコは」
「まだ何もしてねーよ!?」
 必死に否定する明斗の姿に、クロセルは先ほどの武勇伝が物理であると半ば確信した。
『ではスタート!』
「おい、的に細工でもしてんじゃねえだろうなぁ? ちょっと裏見せてみろや」
 開始早々、繁華街の光も幻想蝶も嫌がったレイキと共鳴していた直房は、一方的に情報を伝えた相手に向けていちゃもんをつけた。
「疚しいことねえなら見せれんだろう、が?」
『@%&#*\~っ!!』
 気分はガサ入れ、と直房がカウンターを越えると人質の悲鳴が強まった。『精神統一』を用いてなお思考が乱れかけた大声に顔をしかめつつ確認すると、人質が丸太に縛られているだけだった。
「おそらく、的に当てりゃ成功だろう。後、悲鳴には気をつけろ」
 一通り調べてから戻り、直房はすれ違いざま一番手の月へと耳打ち。
「……確かに五月蝿い」
 そのまま指定位置に着いた月は、不自然に強く聞こえる悲鳴に眉をひそめる。
「がんばって」
 すると、背後から詩が月の耳を塞いでフォロー。小さく首を縦に振り、月は淡々と引き金を引く。結果、弾が当たった1人が消滅。直房の言葉通りとなり、月が仲間たちを振り返った。
「所感ですが、この銃は的までの距離に対してやや威力不足のようです。当てるには工夫が必要ですね。後、この場所に立つと悲鳴が何倍も強く聞こえました。耳を塞がれても同様だったので、これもルールの一部だと思われます」
 瞬間、月の手からコルク銃も消失する。これがゲーム終了の合図なのだろう。人質の反応といいこの仕掛けといい、実に底意地が悪い。
「う……ごめん。ボクちょっと気分が……」
「え、大丈夫? ……少し離れようか」
 一方で、脳を揺さぶる人質たちの絶叫に、伊邪那美は体調不良を訴えた。それに灯影が気づき、壁際目指して移動する。その際、2人は怪しい場所がないか周囲へ視線を向けるも、闇が広がるばかりで何も視認できない。
「……っ」
「くっ、なんだよ、これ」
 また、射的位置からいくら離れても悲鳴が耳から消えない。これには伊邪那美も灯影も表情に険が増す。どうやらこの声からは逃げられないらしく、結局元の場所に戻った。
 その間に挑戦したのは詩。月の助言を思い出しつつ弾を射出し、泣き叫ぶ声には表情を変えず2発を胴体に当てる。それから周囲を見渡し監視カメラなどを探すも、それらしいものは見つからない。
「コルク銃で狙うくらい楽勝アルよ!」
 次の淑華は余裕を見せていたが、人質の悲鳴に肝を冷やしたため当てたのは1発のみ。肩を落としてわかりやすく落ち込んでいる。
「正義アイはいつでも必中!」
 続くユーガはカルカと共鳴し、胴体めがけて躊躇なく射撃。悲鳴をガン無視して、宣言通り5発とも命中させた。
「クソッ、何か思い出しそうだ……」
 反対に、敏感に反応していたのはバルトロメイ。以前いた世界の記憶はないが、恐怖に歪む人質の表情を前にすると、かつてその日の食事のために、友の前で友を、親の前で子を、夫の前で妻を殺してきた己の過去が蘇る。
「悪く思うなッ! これが、俺の任務だ!」
 せめてひと思いにと、バルトロメイは彼らの脳や心臓を狙い、再び己の都合で人々へ武器を向けた!
「コルク弾でしょ? なんか妙ですねー」
 そんなバルトロメイの葛藤をぶった切るように、続くセレティアはカナル型イヤホンを耳栓代わりに淡々と撃っていく。結果、動揺が邪魔をしたバルトロメイが0人、耳栓の遮音効果はなかったが平静を保ったセレティアは2人に命中した。
「俺がやって正解だったな……」
 次の恭也は、主に胴体を狙って3人に命中。人質の反応は極力無視したものの、増幅した悲鳴に若干集中が乱れ、2発を外す。
『怪しい場所を調べるのが目的で気分が悪いって言ったけど、あの悲鳴を聞いてたら本当に気分が悪くなっちゃったよ』
 伊邪那美は恭也と共鳴しており、聴覚のリンクを切ってようやく休息を得ていた。その時、伊邪那美の手元にあったコルク銃と弾は使用前に消失。1人につき1セットと厳密に定めているのだろう。妙に細かい。
 次は緋十郎が、初めてだろうリーゼロッテに一通りやり方を教え、順番に弾を撃った。
「……おい猿、標的が動いて邪魔なの。斬り刻んで動かなくして良い?」
「そ、そいつはダメだ、勘弁してくれッ!」
 結果、リーゼロッテが2人、緋十郎は3人にヒット。緋十郎に負けて不服そうなリーゼロッテの物騒な発言に、緋十郎は違う悲鳴を上げる。
「んー、刀投げじゃ駄目?」
「普通に趣味悪いんですけど!」
「えー」
 続く静寂は童子切片手に真顔で問う。灯影の制止で少々の不満を表情に見せ、静寂は徹底した心臓狙いで3人に命中。灯影も挑戦するも、人質の反応を見ないよう目を閉じていたせいか、全弾あらぬ方向へ飛んでいった。
「黙れ! 助かりてぇならギャーギャー喚くな!」
 次の明斗は思いっきり人質を恫喝し、さらにギャン泣き。今日1番の絶叫で集中力は乱れに乱れ、明斗も次のクロセルも成果は2人だけ。
「今回はこれで勘弁してやらあ」
 最後は、監視者へクレームをつけ続けていた直房。『精神統一』に加え『トップギア』を用いたこともあり、全弾命中した。
 全員のコルク銃が消えた直後、真っ暗だった室内が歪み、再び繁華街のど真ん中へ移動した。ゲーム場所と繁華街を行き来する流れらしい。
「飲み物とか買っちゃおうかなー? って、売店も自販機もないや。サービスわるー」
「満喫してんなぁ……」
 道中、静寂は繁華街の中から売店を探すが、人の気配も自販機もない。そんな静寂に灯影はため息をこぼし、その後も足下の矢印に従って繁華街を進んだ。

●凶器乱舞・血華繚乱
『次はじゅうまパニックです!』
 5分後、転移したのはある程度広い空間だ。内容は壁から出現する従魔の全滅で、壁から大量に這いだしたのは、肌が赤い1歳児。
『では、スタート!』
「うわっ、赤ん坊きたアル! ワーワー!」
 従魔出現と同時、淑華は中国語で『赤ん坊』を意味する娃娃(ワーワー)と声を上げた。
「あれと戦えと!?」
「ふふふふ、あれを全部斬り刻めば良いの? 任せて!」
 ルールを把握して真っ先に声を上げたのは緋十郎が慌てて振り返ると、リーゼロッテのとってもキラキラした瞳と視線が合う。
「悪の従魔はすべて倒す。正義の前に立ち塞がる者はすべて悪!」
 最初に飛び出したのはユーガだ。真っ直ぐで澄み切った瞳でゴルディアシスを手に取ると、何の躊躇もなく『ストームエッジ』を発動した。
『うふふ、硬い敵を斬り削るのもいいですが、柔い敵の肉を裂き骨を断つのは、私の刃の鋭さという本分を実感出来ていいものですわね』
 複製された剣とリンクするカルカの声は恍惚に満ち、血肉が破裂するごとに伝わる感触に心躍らせる。狂った正義と刃は止まらず、赤子を容赦なく切り刻んでいった。
「胸糞悪ぃアトラクションだぜ」
 一部のハッスルを横目に、足下に群がる赤子を見下ろしていた直房は、吸い終えた煙草の火を消す。
「レイキ、存分に暴れろ。乳児の皮を被った蟻共を踏み潰せ」
『はーい。……ねね、今日の晩御飯は?』
「わかった、わかった。ピザでも寿司でも好きに出前して食え」
『わーい! じゃあ、食事前の準備運動、だよ!』
 小声での交渉成立後、直房はレイキの動かす体に従い、神斬を薙ぎ払った。
「これを倒せって? 趣味が悪すぎる」
「確かにな。だが、仕事だぜ」
 こちらはクロセルが赤子従魔に戸惑いを見せるも、明斗はすぐに腹を決めて共鳴し、銃を乱射した。
『あれ、最初からつき?』
「ここまで条件が揃ってるとね」
『人目もあるんだからほどほどにね』
「勿論」
 次に共鳴した月は小声で詩と会話をし、薄ら笑いを浮かべてAGWを構えた。
「嫌がらせの為だけに作られた従魔か? いい趣味してやがるぜッ」
 バルトロメイはライヴスゴーグルで赤子が従魔であると確認し、セレティアと共鳴。相手は従魔だと己に言い聞かせ、フリーガーの『怒涛乱舞』で蹂躙していく。
 一方、伊邪那美を気遣いずっと共鳴状態だった恭也も、早々に『怒涛乱舞』で赤子を散らす。足下の赤子には加減抜きの蹴りや踏み潰しで頭を粉砕した。
『よ、容赦無いね……』
「どんな姿をしていようが敵は敵だ。容赦する理由がないだろ」
 ドン引きする伊邪那美とは対照的に、恭也は会話をしながらも手は休めない。淡々と刃を翻し鮮血の華を咲かせた。
「ウチは子だくさんじゃないし、物珍しいだけアル。いけるいける!」
 淑華もまた仲間の勢いに意気込むと、ライヴスの刃でブシャッ!
「……いけるとか言ってたやつ出てこいアル! 言ったの私だった!」
 が、予想以上のグロさに攻撃の手はあっさり鈍った。これが普通の反応だろう。
「精神的苦痛の賠償を要求するアル! 責任者ここアルか!」
 怒りの矛先は従魔以外に向けられた。淑華は赤子を生み出す壁を標的に攻撃。ほぼ同時、恭也が『一撃粉砕』で別の壁を破壊し、反対側の壁も直房が強引に粉砕。従魔出現の元を絶った、かに見えた。が、今度は赤子が天井や地面から出現。壁もすぐに再生し、出現スピードも上昇する。
「クロセ、気分が悪いなら眠っておけよ」
『……ちゃんと見てる。ちょっと怒ってるくらいのほうが手加減しなくて済むから』
 数を増やす赤子へ、明斗は『ウェポンズレイン』や『ストームエッジ』で吹き飛ばす。視覚を共有するクロセルは明斗の気遣いを拒否し、逆に敵の所業への怒りを力と変えて殲滅速度を上げた。
「ははっ」
 仲間と離れた場所では、月が『トリオ』でロケットの雨を降らせた。着弾とともに肉体が爆散し、みるみる壊れていく赤子の姿に、破裂音に紛れて愉悦の声を漏らす。
『倒したらすぐに次にいってね、遊んでないで』
「……うん」
『分かりやすくいやそう』
 すぐに冷静な詩の注意が飛び、月の目線は別の標的へ移る。次々と湧き出す敵を前に、月の笑みは絶えない。
「あはははは! 脆いの! リーゼ、こういうの、大好き! ふふふふ、楽しい!」
 誰よりも攻勢を見せたのはリーゼロッテだ。緋十郎が主導権を握ろうとしたが、あっさりリーゼロッテの意識が勝って暴走。黒い瘴気を放つ魔剣《闇夜の血華》を手元に召喚し、笑顔の赤子へ『ストームエッジ』を連続でぶち込む。
 さらに赤子の密度が高い場所へ飛び込み、『ウェポンズレイン』を発動。血色の刃をさらに血で染め、ロングドレスにも返り血を吸わせ、柔らかい肉と骨を断つ感触に喜悦で満ちた哄笑を上げ続けた。
「喋んないとつまんないなー」
 他方、目が死んだ灯影と共鳴した静寂は真逆のテンションで刃を振るう。
「魂の回収も出来ないし、死神的にも従魔は旨味0ですよー、もー」
 赤子の肉を、骨を、内蔵を斬る生々しい感触が手に伝わっても、躊躇や動揺など微塵もない。静寂は愚痴をこぼしつつ、無益な命を流れ作業で淡々と刈っていった。そうして、5分ほどですべての赤子が血だまりや肉片となり、景色は繁華街へ戻った。
「おい猿、リーゼ、もう一度やりたいの」
「こ、今回は終わりだ。ほら、次に進むぞ」
 リーゼロッテはリプレイを希望したが、共鳴中の惨劇を思い返してげっそりする緋十郎が何とかなだめる。
「灯影君終わったよー」
「共鳴解いたらもうふらふらだよ……、もう帰って寝る……」
「うんうん。その凡人的反応、灯影君らしくてとても良い。でも、残り時間はあと半分残ってるよ?」
 鼻をすすり上げる灯影へ、静寂は彼のほっぺたをむにむにしながら残酷な現実を口にする。あ、また落ち込んだ。灯影君、ガンバ!

●すでにボロボロ
『次はれいせきクレーンゲームです!』
 さらに5分後、飛ばされたのはかなり大きめのクレーンゲーム筐体がある部屋。今回は1人ずつアレを1プレイするだけ。
「がったがたじゃない」
「ぼったくり臭が此処で表に出てきたか」
「全体的にだめなかんじではあるけど」
 最初は詩と月が挑戦したものの、2人とも滅多にやらないためあえなく撃沈。次の人へ譲るためだけにゲームを終わらせ、さっさと周辺の探索へと向かう。今回は部屋の外に出入り口が設けられ、繁華街の調査が可能だった。
「この手の繁華街には、酒を呑んだりお姉ちゃんと遊んだりする店がつきもの……いや、決して邪念など無いぞ、俺はあくまでエージェントとして任務完遂の為……」
 次の緋十郎もやり方をリーゼロッテに教え、繁華街の探索へ向かった。誰かにブツブツ言い訳しつつ、緋十郎は目についた店へと入る。が、そこは仲間たちがいるゲーム筐体の部屋。別の店でも結果は同じ。違うのは外観だけで、出入り口は同じ場所へ繋がっていた。
「あ、落ちたの。このゲーム、難しいの。つまらないの……」
 ちなみに、緋十郎もリーゼロッテもクレーンゲームは成果なし。2人とも非常に残念そうだ。
「ふふ~ん。この前てれびでクレーンゲーム必勝法って内容をやってたのを、ちゃんと見てたんだから」
 次のチャレンジャーは伊邪那美。アームの位置を正面や側面から確認しつつ移動させ、排出口付近の霊石を狙う。
「……あっ!」
 伊邪那美はアームの開閉を利用して落とそうとしたが、霊石は排出口ギリギリで落下には至らず。
「え~!? なんでなんで!?」
「……周囲を見てくる」
 続く恭也は適当にアームを動かし、運良く4個を確保。抗議の声を上げる伊邪那美を見ないまま、恭也は周辺調査を名目に逃げるようにその場を離れた。
「……これ、筐体を壊してつかみ取りゲームにできないかなぁ」
「落ち着いてクロセちゃん出禁になっちゃう」
 次の明斗はクロセルの怒りをなだめるところから始まった。落ち着いてから2人は協力し、伊邪那美と同じくアームで排出口近くの霊石を落とす。結果は明斗が失敗、クロセルが2個獲得。
「これなら俺でも出来そう」
「これ蹴れば出てくるんじゃない?」
「自由かよ、駄目だよ普通」
 胸をなで下ろす灯影とは反対に、静寂はクロセルと同じく力業を提案した。
「灯影君頑張って! おっきいの狙おう」
「うーん、じゃあ大きいやつな」
 適当にやって失敗した静寂の声援を受け、灯影は慎重にアームを動かす。
「あ、すごーい」
「やった!」
 すると、拳大の霊石を4つ、ピラミッドみたいな形で持ち上げた。動く度にアームが揺れるも、絶妙なバランスですべて排出口へ落ちる。感心の声を上げた静寂の横で、灯影は探索中初めて笑顔を見せた。
「……チッ」
 次にバルトロメイが挑戦したが失敗。普段は得意な類のゲームではあるものの、鬱ゲー2連続の後では集中できなくて当然か。
「失敗するときもありますよ、バルトさん」
 一方のセレティアは小さな霊石4つの運搬に成功。精神ダメージが蓄積しまくり、気分も悪ければ運も悪いバルトロメイをぽんぽんと慰めた。
「全然思ったところにいかないアル!」
 次に淑華が挑戦したが、アームの揺れに翻弄され失敗。腹いせに筐体を揺すったり、排出口から直接取ろうとしたが、その度に入り口へ強制転移していた。
「んだよ、このアームは、景品取らせる気あんのか? おい! 店長出せや、店長!」
 最後はクレーマー担当の直房。他の面子のプレイでアームの揺れに目を付け因縁をつけていたが、いざ自分がやると4つも取れてしまった。ちょっと微妙な空気が流れる。
「皆、少し離れてて」
 ゲーム終了後、大きめの霊石を1つ確保していたユーガは筐体から仲間を下がらせた。瞬間、手にしたグングニルを大量に複製し、『ウェポンズレイン』で筐体を破壊した!
「たとえゲームだろうと、正義が悪のいいなりになってはならない! 霊石はすべて回収させてもらう!」
『流石ですわご主人様』
 唖然とする仲間をよそに、カルカの賞賛を浴びつつ筐体の残骸に近づいたユーガ。
「……何!?」
 しかし、そこに霊石はない。同時に『不正、ダメ、絶対』という声が聞こえた。淑華の例も含め、ルールは厳格らしい。見事に思惑をすかされてユーガが騒ぐ一面もあったが、制限時間を指摘した詩が止め、また元の繁華街を進むことに。
「おい、トイレどこだよ? 漏らしたらどうすんだ、こら!」
 移動中、突如直房が騒ぎ出した。ゲーム結果はともかく、探索が一向に進まない現状に焦れた直房が、少々強引に突破口を開こうとしたのだ。
「わざとじゃねえからな!」
 そして、繁華街の一角に向けて直房は『ストレートブロウ』を放ち、盛大に破壊。が、すぐに建物は修復されたため、敵の指定する場所を進むしかないらしい。

●荒れた2射目
 大小ストレスを抱えたまま、また射的場へたどり着く。時間的にもこれがラスト。ルールはすでに把握済みなので、行動は早い。
「君達を救うには攻撃するしかないんだ! これも正義だ!」
 ユーガはさっきの屈辱もあって初回より力が入っている。銃弾はまたも全弾命中し、1発は人質の体から跳ねて別の人質の額に直撃する、2人抜きを達成した。
『射撃ではなく、藁斬りのように身動きできぬ罪人を斬りたかったのですが、役に立たないゾーンルーラーですわ』
 また、カルカもイラっとしていたのか、発言がさらに物騒になっている。
 次は直房が1度目と同じように撃ち、ユーガと同じく1発が跳弾し6人に命中。続く恭也は2人、緋十郎とリーゼロッテはそれぞれ1人ずつに当てた。
「黙って撃たれるよろし!」
 次の淑華は最初の反省から、開き直って威圧を試みる。が、逆に悲鳴が倍増して集中力が欠け、0人に終わった。残念。
 続く静寂は再度心臓狙いで行くも運悪く外れ。一方、灯影は目を瞑って撃ったにも関わらず、運良く3発が命中した。
「灯影君、ちょっと顔色悪いね。大丈夫?」
「大丈夫に見える?」
「ううん、見えない」
 が、額・心臓・肺に命中して盛大な悲鳴を聞き、灯影の表情は青白い。静寂は彼の頬をつつきつつ、微笑を浮かべて慰めていた。
「大声だしたってしょうがないのに」
 灯影で強まった悲鳴を前に、詩は早々にコルク銃を構える。実に冷めた意見をこぼして撃った結果は2人。続く月も2人に命中させた。
 次は明斗が銃を取った。恐喝の失敗を参考に、今回はフェイントを多用。
「5、4!」
 カウント途中で撃ち。
「あ、クロセ。弾そっちに」
 振り返りざまに撃ち。
「動くと大事な(ピー)に当たっちまうぜ?」
 静かになった瞬間に金的狙って撃ち、悲鳴レベルが加速度的に上がる。
「うちの子がすみません……」
 続くクロセルも、明斗の仲間と思われたのか悲鳴が止まない。結果、両方1人ずつとむしろ成績が落ちた。屋台泣かせの面目躍如だろう。終始泣いたのは的ですけどね!
「うるさい、黙れぇ!」
「わたしの耳栓使いますか?」
 最後は明斗の活躍(?)により、ストレスが許容量を超えたバルトロメイ。セレティアの差し出すイヤホンに構わず、怒鳴りながら人質を撃ちまくり2人に命中し、続くセレティアは3人を捉えた。

●ストレスの果てに
 射的後、エージェントたちは全員怪しい扉の前に戻ってきた。すると、ユーガが突如跳躍し、『ウェポンズレイン』を扉へ放った。
「ゾーンルーラーが見当たらなかったから、扉ごと倒す! ここで滅びろ悪の愚神めっ!」
 元々ユーガは愚神討伐を優先するも肝心の愚神が見つからず、エリアの破壊で正義の行使としたようだ。
『ご主人様の刃でいられることは、私にとって至上の喜びですわ』
 扉が粉微塵となった様を見ながら、カルカはユーガへの敬愛をより強くする。残骸が消滅すると近くに大勢の人間と袋が出現した。ゲームの報酬だろうが、袋の中身にほとんどが顔をしかめる。
「……此処を創った奴は、相当心が捻じ曲がってるな」
「外面は楽しそうだったのに中身は最悪だよ……」
 そこにあったのは、殺した赤子従魔の写真が添付されたスコア表。恭也は呆れて握り潰し、伊邪那美は盛大なため息を漏らした。
「なんだったんだここは……」
「よくわかんないですけど、おうち帰ったらアニメのDVD見ながら松前漬け食べましょうね」
 こちらでは、精神疲労が酷いバルトロメイの背中をさするセレティアの姿が。強く生きてください。
「愚神は悪趣味だと相場が決まってるようで」
「えっと、なんでやねん?」
「えっ」
 結局、ゲーム以外に探索の成果がなく月が肩をすくめると、詩が突然突っ込みをぶち込んできた。不意を突かれた月は喉を詰まらせ、微妙な空気だけが流れる。
「あ! バニーちゃんが出るゲームだけやってねぇぞ! コラァ愚神!」
「そんなのあるなんて誰も言ってないからね!?」
 帰り際、ふと未遂のゲームを思い出した明斗が虚空に叫ぶが、クロセルの言う通りそんなものはない。少しだけ空気が和み、エージェントたちは被害者とともに帰還した。

 後日、同じ場所の継続監視やセレティアの提出した写真や動画データの解析を行い、ある事実が判明した。
「あの場所はおそらく、我々への嫌がらせですね」
 帰還以降、扉があった場所には何の変化もなく、写真や動画は真っ黒で何もわからない。しかし、1枚だけ『撮影NGだぞ! ぷんぷん!』という文字が写っていたそうだ。なるほど、嫌がらせ以外の何物でもない。
「ふざけんな!! 愚神の嫌がらせでどんだけ出前されたと思ってんだ!!」
 H.O.P.E.の調査結果で唯一、直房はここでもクレーマーを装い、レイキの出前料金も経費として認めさせた。もはやプロである。
 こうして、エージェントたちに精神的疲労だけを残し、愚神の遊技場は姿を消した。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 黒の歴史を紡ぐ者
    セレティアaa1695

重体一覧

参加者

  • 太公望
    御神 恭也aa0127
    人間|19才|男性|攻撃
  • 非リアの神様
    伊邪那美aa0127hero001
    英雄|8才|女性|ドレ
  • 美食を捧げし主夫
    会津 灯影aa0273
    人間|24才|男性|回避
  • マイペース
    静寂aa0273hero002
    英雄|26才|男性|シャド
  • マイペース
    廿枝 詩aa0299
    人間|14才|女性|攻撃
  • 呼ばれること無き名を抱え
    aa0299hero001
    英雄|19才|男性|ジャ
  • 黒の歴史を紡ぐ者
    セレティアaa1695
    人間|11才|女性|攻撃
  • 過保護な英雄
    バルトロメイaa1695hero001
    英雄|32才|男性|ドレ
  • 緋色の猿王
    狒村 緋十郎aa3678
    獣人|37才|男性|防御
  • カタストロフィリア
    リーゼロッテ・シュヴェルトaa3678hero002
    英雄|10才|女性|カオ
  • 悪事を知悉る(しる)男
    高橋 直房aa4286
    人間|43才|男性|命中
  • エージェント
    レイキaa4286hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • 絶狂正義
    ユーガ・アストレアaa4363
    獣人|16才|女性|攻撃
  • カタストロフィリア
    カルカaa4363hero001
    英雄|22才|女性|カオ
  • 武芸者
    呉 淑華aa4437
    機械|18才|女性|回避



  • 飛込みイベントプランナー
    藍那 明斗aa4534
    人間|26才|男性|命中
  • アホ毛も武器
    クロセルaa4534hero001
    英雄|16才|?|カオ
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