本部

愛し子のためのスナイパー

落花生

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
10人 / 4~10人
英雄
10人 / 0~10人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/07/11 18:26

掲示板

オープニング

●遊園地の狙撃手(現在)
 男は、ライフルをのぞいていた。
 男の視線の向こう側には、遊園地では太陽の下で休日を楽しむ親子の姿がある。ただの親子ではなくて、有名なミュージシャンとその息子だ。サングラスをしていても、キラキラと煌めいているのはスターであるからなのか。
「すまないな。これも有名税だと思ってあきらめてくれ」
 男は、かつてはヴィランであった。
 だが、今では改心してかつての仕事からは足を洗っている。
 そんな彼が、再び銃を握ったわけは――。
『お父さん!』
 彼の耳元のイヤホンからは、娘の声が聞こえていた。
 その声だけが、自分の娘が安全であるという証拠だとは思いたくはないというのに。
 男は、引き金を引いた。
 発砲音が響くが、狙っていた親子には当たらずに無意味なモニュメントに弾はあたる。それによって観客がパニックになり、男は思ったよりも鈍っている銃の腕に舌うちをした。このまま撃ち続ければ、いずれは榊親子か別の客に当たってしまう。だが、撃ち続けなければ自分の居場所をアピールすることもできない。遊園地の職員が客に避難を呼びかけるが、焼け石に水である。
「HOPE……はやく、俺を止めろ」
 黒幕の正体も、現在の居場所も、すでに分かっている。
 後は、この情報をHOPEのリンカーたちに渡すだけなのだ。
 真犯人にだけは、悟られないように。

●人質の娘(少し前)
「お父さん、あのね。今は、オジサンと一緒に遊園地にいるの」
 娘から電話が着たときに、幼い娘が誘拐されたのだと男は悟った。できるだけ娘に動揺を悟られないように「オジサンと変わってくれないか、アヤカ」と伝えた。娘の代わりに電話に出た男は、機械で声を変えていた。
「ムスメのイノチがオシケレバ。本日、シテイするユウエンチにアラワレル榊親子をコロセ」
「理由は……」
 問いながらも、男はミュージシャンの榊は国際的なスポーツ大会で国家を斉唱する役目を担うはずだったと思いだす。最も警護を弱いとことから、大会を壊したい組織がいるのか。そういえば、最近はそういう過激な組織が事件を起こしているとテレビで見た記憶があった。だとすれば、犯人は大規模な犯罪グループの一員――ではあるまい。
 この手の犯罪者は、成功したときの手柄の大きさをまず一番に考える。最も弱いところを責める奴らは堅実さがあるか、それぐらいの実力しかないかのどちらかだ。一度足を洗った自分を頼ったことを思うに、おそらくは後者であろう。
 考えた末に、男はHOPEに連絡をとった。
「津野アヤシというのだ。分かるものに伝えてくれ、数年ぶりに俺は人を殺すぞ」
 取引までして無罪になった男を、HOPEは捕まえたいんだろう。
「今日の午前十時。俺は、遊園地で狙撃をおこなう。ターゲットは明かせないが……くれば分かるだろう」
 これでいい。
 榊ほどの男ならば、遊園地にいるだけで目標であると分かるはずだ。
 そうなれば、自分とHOPEは一騎打ちとなり自分は負けるであろう。死んだふりなどするつもりはない。最後の力を振り絞って、接近してきたHOPEの奴ら黒幕の存在を明かしてやる。そうなれば、正義の味方であるHOPEは娘のために動かなければならなくなる。
 HOPEが動けば、娘は助けられる。
 自分は依頼された仕事をすればいい。
 勝つか負けるかまでは、依頼の範囲外だ。
 男は、数年ぶりに銃を取った。

●狙撃手の見下ろす男(現在)
「うわぁ! オジサン、この部屋すっごいね。最上階なんだよね」
 幼い少女は、遊園地を一望できるホテルの部屋に興奮していた。はしゃぐ子供の隣には、この騒動の真犯人の中年男が一人。彼の望みはただ一つ、国際スポーツ大会を中止に追い込むこと。それだけであった。そのために、優れた暗殺者であった元ヴィランを利用する術を考えた。遊園地に建てられている唯一のホテルでは、園内の混乱ぶりがよく分かる。きっと元ヴィランは、ターゲットを逃がしはしないだろう。
「それでいい。それで……」
 ターゲットを殺したところで、捕まるのはアヤシ一人である。
 おそらくはアヤシは自分の居場所に気がついているだろうが、単騎で決してここに責め入らないだろう。なぜならば、アヤシ自信が一番自分の衰えに気がついているのだから。彼は、組織という敵と戦うには歳を取り過ぎていた。

 だが、男は知らなかった。
 アヤシが捨て身の覚悟で、HOPEの助けを呼んだことを。
 そして、HOPEのリンカーたちがすでに遊園地にまぎれていたことを。
 そう、彼らはアヤシの最初の発砲からすでに遊園地のなかにいたのだ。

●過去の電話(少し前)
「先輩……あの津野アヤシという方をご存じですか?」
 受付嬢は、支部で一番歳嵩の職員に訪ねた。そう名乗った電話がぶつりと切られてから、ずっと気になっていたのだ。電話口の声に若さは感じず、先輩の年代ならば知っているだろうかと思って声をかけたのである。
「ああ、今の若い子はしらないか……。どっかの組織に雇われてたスナイパーだよ。HOPEのリンカーと何度か戦ったこともあったが、最後はたしか警察と取引して無罪になったはずだ。職人気質で……嫌な奴だったよ」
「そのアヤシから、人を殺すと電話が」
 先輩職員は、思わず立ち上った。
「職人気質のアヤシが、殺す前に予告だと……そんなことはありえない。すぐにリンカーを現場に向かわせろ! 絶対に、裏があると言い含めろ!!」
「そんな……単に仕事に復帰しただけかもしれませんか」
 受付嬢の言葉に、先輩職員は大声を出す。
「そんなはずはない。津野アヤシは、不起訴が確定した日にHOPEに電話をかけてきたんだ!」

『――親戚の子を引き取ることになったよ。この子に誓って、俺は悪党を止めよう。俺に何かがあったときには、俺を殺してでもこの子を守って欲しい。図々しいとは思うが頼むよ。俺はもう、正義の味方になるチャンスはないんだ』

解説

・犯人の逮捕。
・アヤカの保護。
※●過去の電話以外はPL情報となります。


・遊園地……巨大な敷地面積を誇る遊園地。狙撃された場所はお化け屋敷のアトラクションがり、人気エリア。親子客で賑わっているが、現在はパニックが起きているため収拾がつかない。不気味なモニュメントが多く並ぶが、土産物屋など身を隠す場所は数多い。モニュメントはアヤシの手によって、次々壊されている。

・ホテル……遊園地内にある唯一ホテル。五階建・親子連れで賑わっている。各フロアに繋がる非常階段が、外に設置されている。狙撃があった場所から離れておらず、狙撃されたエリアを一望することはできるが、アヤシの姿を確認することはできない。

・アヤシ……不起訴になった元ヴィラン。娘を人質に取られたことによって遊園地を狙撃。狙撃はかつては百発百中であったが、引退していた時期が長いため腕が比較的錆ついている。攻撃を受けると、反撃してくる。狙撃が最も得意だが、接近戦になればナイフも使う。現在は狙撃スポットを見渡せる、お化け屋敷の屋根の上にいる。なお、屋根の上は足場が非常に悪い。交戦後に、娘や黒幕の存在を明かす。狙撃されているエリアには一般客にまぎれて真犯人の部下が三名まぎれているが、見つけ出すことは非常に困難である。

・アヤカ……アヤシの6歳の娘。自分が誘拐されたことにも気がついていない。父親が元ヴィランだとは知らず、自分をさらった男のことを父親の友人だと思っている。ホテルの最上階の部屋にいる。

・真犯人の男(ボス)……園内にあるホテルの最上階にいる。アヤカと共におり、何者かがホテルの部屋に侵入にするとアヤカを人質に取る。

・手下……真犯人の男の手下。全員がヴィランであり、武器はナイフ。最上階のフロアでホテルマンの制服を着て立っている。
 配置場所は、エレベーターの前――二名。
 廊下――五名。
 部屋の前――二名。
 室内――五名。

リプレイ

●不自然な暗殺者
 アンジェリカ・カノーヴァ(aa0121)は、うーんと唸っていた。人で込み合う遊園地では彼女ぐらいの歳の子供が多く、彼女が悩んでいようといまいと誰も気にしない。だが、マルコ・マカーリオ(aa0121hero001)がアンジェリカの疑問に気がついた。
『どうした?』
 マルコの言葉に、アンジェリカは答える。
「娘さんの為に殺人を止めたアヤシがまた人を殺すとしたら、娘さん絡みしかないよ。きっと。もしかして人質に捕られてるんじゃ?」
 かつて暗殺者であったアヤシの不自然な言動に、アンジェリカはずっと引っかかるものを感じていたのである。アンジェリカと同じ気持ちだったレミア・ヴォルクシュタイン(aa3678hero001)は、うんうんと頷いた。
『人を殺したいなら黙って殺せば良いのに。態々連絡してくるってことは……止めて欲しい、はずよね』
 レミアの言葉に、狒村 緋十郎(aa3678)はHOPEの職員から聞いた話を思い出していた。親戚の子を引き取り、警察に情報提供することによって不起訴になった暗殺者。おそらく彼はそのとき、積み上げてきた裏社会での信用を全て失ったはずだ。そこまでの覚悟の更生が、なぜ今頃になって……。
「親戚の子を引き取って更生した筈の凄腕狙撃手からの殺人予告――」
 それが人質に取られた娘を助けるための手立てだとしたら、理屈は通る推理であった。
『自分が死んでも護りたいと願う子供に、何かあったと考えるべきですわ!』
 力強く言うヴァルトラウテ(aa0090hero001)に、赤城 龍哉(aa0090)はちょっとばかり面喰った。子供の未来を奪うような人間をヴォルは許せなかったのである。
「……『悪党を止める』という誓いを破る理由にはなるよな」
 龍哉は呟き、自分の両手の拳を突き合わせる。
 もしも推理が当たっていたとしたら、一発なぐりたいほどの悪党が黒幕にいることになるからだった。

●弾丸は当たらない
「――俺には、もう正義の味方になるチャンスはないんだ」
 引退を決めた日、アヤシはそうHOPEに電話をかけた。
 その言葉を心のなかで繰り返し、彼はライフルスコープをのぞく。悪人を止め、善人さえも止める自分への覚悟の言葉だった。混乱が続く遊園地のなかで、せめて人死がでないようにとできるかぎり狙いを定めるアヤシは再びスコープをのぞく。
 一人の英雄が、笑っていた。
『こんな時こそ、スマイルー』
 自分の頬に人差し指をあてて、にっかりと笑う女性の英雄――キャス・ライジングサン(aa0306hero001)。その英雄の隣で、職員から拡声器を奪った小柄な女性――鴉守 暁(aa0306)が叫ぶ。
「HOPEでーす。聴こえてるー? 我こそ正義の味方たらんとする若い衆らよー。女子供老人たちを連れて、このエリアから離れるんだー!!」
 暁たちは、遊園地の客を避難させようとしていた。
 H.C/11-11イレヴンズ(aa4111)も拡声器を持って、客やスタッフに呼びかけをおこなう。だが、彼の目は客よりも別のものを探そうと動いていた。
「狙撃手はプロだ……無防備にしておく筈はないだろう。狙撃手の状況が分かる位置に、仲間がいる筈だ」
 もし、人質をとってまでアヤシを利用しているならば、彼一人の暗殺を任せるとは考えにくい。イレヴンズは、アヤシを監視しているだろう黒幕の仲間を探そうとしていたのである。
『では、避難誘導しつつ、お仲間を見つけるとしましょう』
 U.B/77-001ルミナ (aa4111hero001)は、イレヴンズの言葉に頷いた。
「スタッフー。お客様を一人でもお守りするのが、君達に託された使命だぞー。私ら頑張るから、君達も頑張れー!」
 旗印のように、暁は全員にエールを送っていた。暁が派手な囮となっているなかで、一般人にまぎれて人塵を流れている者がいた。
「まちがいない……」
 イレヴンズは、小さく呟く。
 彼が、アヤシの見張り役だ。
「申し訳ありませんが、ここから先は危険です」
 イレヴンズは、進もうとする男の前にすっとたつ。いつ反撃されてもよいように、イレヴンズは目の前に立つ男を最大限に警戒していた。
 だが、突然男が前のめりに倒れる。
 男の後ろには、龍哉がいた。
「避難誘導がある状況下でも、それを気にせず動く奴……。怪しいだろうが」
 アヤシには見張りがつけられている、龍哉もそう考えてイレヴンズと同じように敵を探していたのであった。イレヴンズはほっとしつつも見張りが持っていた通信機を拾い上げ、それのスイッチを入れた。
「アヤシは自爆しました……HOPEのエージェントは撤退。すぐそちらに戻ります」
 通信機から「では、仲間を連れてすぐにもどれ」という声が聞こえている。こいつにも仲間がいたのかとレイヴンズは目を見開く。別の仲間が、遊園地のことを黒幕に知らせてしまう。だが、レイヴンズの心配は杞憂であった。
「あんた、何処の組のもんだ?」
 鬼子母神 焔織(aa2439)が、レイヴンズたちが気絶させた仲間の首を絞めていたからであった。パニックのために客が全て逃げだしてしまった建物に入った焔織と青色鬼 蓮日(aa2439hero001)は、そこで敵の口を割るために身につけた力を使っていた。
 それは、暴力であった。
「あんたこそ、なにもんだ」
 自分の力に恐怖を覚える相手に、焔織は圧倒的な強者の顔をする。
「俺か? アンタんトコが動くとウチに金が入らなくなる組だよ。人数、狙い、暗号を吐いて誤情報流せ……。断れば……」
 男の首に、焔織のナイフが喰いこむ。
 少しばかり焔織がナイフ動かせば、相手の喉の薄い皮膚は切り裂かれる。真っ赤な血が一面に溢れて、それらは咽かえるような芳香を放つであろう。それを予測してなお、焔織は心の中だけで祈る。
 ――お願いデス……刃を引かせナイで下さい。
 相手から情報を得た焔織は、相手を気絶させる。
 そして装備品などを奪い、敵になりすます。
「……コンな術、知らネバ良かったノニ」
『バカものがー! モノは使い様だ! とっとと行けッ!』
 蓮日に叱咤されながら、焔織は外に飛び出した。
 そこでは、拡声器を片手に暁がきょろきょろとしていた。
 人塵をときよりじっと眺めることもあれば、なにかを聞くために耳をすましているようにも見える。そして、ようやく暁は見つけてくれた。
「ミュージシャンの榊氏かな? 君は狙われているから、私とカゲリでガードするよ」
 こっちだよ、と暁が八朔 カゲリ(aa0098)とナラカ(aa0098hero001)を呼んだ。
「怪我は……ないようね」
 榊親子に怪我がないと確認したのは、榊原・沙耶(aa1188)と小鳥遊・沙羅(aa1188hero001)であった。HOPEに連絡をとった彼女たちは、援軍を要請する。
 その光景をスコープで見ていたアヤシは、ほっとしていた。
 榊がHOPEに守られたとなれば、自分の作戦が成功するにしても失敗するにしても時間稼ぎができるからである。
『クレアちゃん、とりあえず現状に思うことある?』
 人塵にまぎれながらリリアン・レッドフォード(aa1631hero001)は、クレア・マクミラン(aa1631)に訪ねる。すでに引退した暗殺者というが、さっきから弾丸はオブジェにしか当たっていない。もしも、あれが狙ってやっているのならば最盛期はどれだけの腕を持つ人間であったのだろうか。
「……裏があるな。話に聞いた通りの男なら、こうも無駄弾を撃って場所は知らせない」
 クレアも、リリアンと同じことを考えていたらしい。
 二人とも、この射撃がアヤシの本気であるとは考えていなかった。
 周囲を観察しつつ、二人は弾丸がどこから飛んでくるかを推理していた。手にしたメモ帳に蓄積したデータ溜めて、そこから結果を導き出す。
「なるほど、目処はついた。あとは試すとしましょう」
『……幸運を』
 リリアンは、クレアにそう囁く。共鳴し、クレアの身体能力が圧倒的に跳ね上がるとしても今からやることにクレアはわずかに心配していた。
 クレアは自信にリジェネーションをかけて、わざと弾丸に撃たれにいく。正確には、銃の射線上に立ったのだ。彼女の腹に、アヤシが放った弾丸が当たる。
 本日初めて、この場に赤い血が流れた。
 すぐさま傷はリジェネーションで回復されるが、これにだって時間制限がある。あと一回は使えるとはいえ、時間をかけ過ぎるわけにはいかない。自分の体に当たった弾丸から、クレアはアヤシがいる場所や距離を割り出す。
「見つけた。お化け屋敷の屋根です!」
 仲間たちにそれを伝えて、クレアは走り出す。弾丸が彼女に向かって飛び、今度は腕を狙われる。すぐに傷が癒えるとはいえ、痛みは感じる。
 それでも、クレアにはアヤシが慎重にクレアが致命傷になるような攻撃を避けているように感じられた。足を狙わないのが、その証拠だ。最短ルートで近づかれているのに、アヤシはクレアから機動力を奪おうとはしない。
「くっ……」
 リジェネーションが切れた。
 撃たれた傷が回復しない。
 それでも、クレアは進む。
 アヤシのライフルスコープ越しの視線は、衛生兵に釘付けになっていた。痛みや傷を恐れずに突き進む自分に、恐怖さえも感じているのかもしれない。
「そこまでだよ!」
 声がした。
 まだまだ幼い少女の声だった。
 毬が弾むような勢いで現れたのは、アンジェリカである。彼女は電光石火でアヤシがいるお化け屋敷に駆けあがり、そこからは疾風怒濤を使用した。クレアに狙いを定めていたアヤシの反応が遅れる。あるいは、自分の娘ほどのアンジェリカを攻撃する事に躊躇したのかもしれない。
 そのアヤシの隙を突くように、Arcard Flawless(aa1024)がアンジェリカの背後から現れた。無限の影刀を持った彼女は、アヤシに向かってそれを振るう。
「きみ、しばらく死んでいてくれ」
 アヤシは、息を飲んだ。
 ――足場が崩れた。
 アヤシは咄嗟に銃を捨てて、ナイフに持ちかえる。落ちた拍子に気絶してくれるとは考えていなかったとはいえ、Arcardは舌うちしたい気分になった。
「なーんでこう、遊園地に来ると厄介事に巻き込まれるんですかぁ!」
『ぐー』
 Iria Hunter(aa1024hero001)に励まされながらも、Arcardは剣を握る。
『派手にやってくれてるわね……!』 
 レミアは、瘴気を纏った爪をアヤシに向ける。
 疾風怒濤をアヤシはなんとかナイフで防ごうとはするものの、やはり引退していた時期が長すぎたせいか彼はレミアに力負けしていた。このまま数分とやりあっても間違いなくレミアは勝っていたであろう。だが、アヤシは勝敗を急いだ。
 まるでナイフを捨てるかのように、力を抜いたのであった。レミアの攻撃が、アヤシの肩を貫く。狙撃を得意とするアヤシだが、これでは満足な狙撃はおこなえない。彼の負けは、決定した。
「HOPEの若者たち。……たのむ、娘を助けてくれ」
 アヤシは自分を殺すであろう、若者たちの顔を見て懇願する。
 自分の娘が人質に取られている――アヤシはようやく助けを求めることができた。
「あなたが死んだら、その娘が寂しい思いをするって分からないの?」
 レミアが、アヤシを睨みつける。
「格好付けて身勝手に死ぬだなんて許さないわ。“父親”として最後まで責任とりなさいよ。無様に生きのびてアヤカを迎えてやりなさい」
 彼女は、Arcardのほうを見る。Arcardは通信機を使って、HOPEに連絡をとっているようであった。
「先に伝えた情報リークのほうよろしく。『犯人は自爆した』とね。……え、そんな様子はない?」
 お化け屋敷は大破しているのに、と言ってArcardは電話を切った。
 屋根が壊されたお化け屋敷は酷いありさまで、遠くから見れば人が生き残ったとは思わないであろう。
「これで、きみは死んだことになった」
 娘を誘拐した相手も「アヤシは死んだ」と思うことであろう。
「……大丈夫。すぐに娘は取り戻してあげるわ」
 レミアは、外にいる仲間たちの元へと急ぐ。
 アンジェリカも華麗にスカートを膨らませてターンをし、外にいる仲間のもとへと行こうとした。だが、踵を返してアヤシの元へ戻ってくる。そして、彼の眼前に小さな指を突き出した。
「本当に死ぬつもりだったんでしょ!? ふざけないでよ! 貴方はアヤカちゃんにとってたった一人の父親でしょ!? 自分の為に父親が死んで、アヤカちゃんが幸せな筈がない。父親なら最後まで責任持って娘を幸せにしてよ!」
 ボクみたいに、親を亡くす子供を作らないでよ。
 アンジェリカの最後の言葉は、涙を含んでいるようにも聞こえた。

●奪還作戦
「命を賭しても成し遂げんとする意志――素晴らしいぞ。オペレーターの裏があるとの言葉も頷ける」
 事情を知ったナラカは、喜んでいるようであった。おそらくは、命をかけるほどの覚悟を見たからであろう。そして、その意思を引き継ぐかのように行動する自分の仲間たちにも彼女は称賛を送っていた。
「覚者もそうは思わぬか?」
 ナラカの問いかけに、カゲリはしばし黙り込んだ。
 彼は、その性質故にアヤシを否定はしない。
 心変わりなくかけた願いを認め、カゲリは彼を自分なりに正面から向き合う。
「だが……戦いは相応しくないな」
 カゲリが相手を認めるとき――同等と思う時は、敵対者を滅ぼすことである。だが、仲間たちはアヤシを救うことを望んでいる。仲間のためにもカゲリは、あえて戦わないという選択をした。
「そうだよ。ボクたちは、戦わないよ」
 えっへん、とアンジェリカは胸をはる。
 遊園地のなかにあるホテルでは、やはり園内と同じように彼女の姿は目立たない。隣にマルコがいなければ、背の低い彼女はあっという間に人塵に埋没してしまっていただろう。
「だって、囮だよ!!」
 アンジェリカは、すうと息を吐いた。
 そして、大声で「誘拐犯はどこ!」と騒ぎたてる。
 親子づれたちはびっくりして、思わず彼女のほうを見ていた。
「隠れていたって無駄なんだならね!」
 ホテルのロビーの目を全て奪ったアンジェリカは、上に向かった仲間たちに祈る。
 上手くやってよねっ!

ホテルのロビーが騒がしさを増していた頃、エレベーターで最上階にたどり着いたクレアたちは、静かに敵を気絶させていた。ロビーのホテルマンになかった服の不自然な膨らみは、間違いなく武器だ。クレアはそのことをそっと仲間に知らせ、Arcardは静かに敵を気絶させた。
「所詮は、小物。この程度なのかな」
 体の主導権を得たHunterも、少しばかり物足りなさそうであった。ヴァルと龍哉たちも廊下のヴィランを静かに沈めている。
『ヴィラン死すべし。慈悲はありませんわ』
 ヴァルは、冷たい目で床に沈んだヴィランを睨んでいた。
「また、判り易い小悪党もいたもんだ」
 龍哉が視線を移すと、怪しまれぬようにホテルマンの制服を着たイレヴンズも攻撃の最中であった。
「光線のルームサービスだ」
 部屋の外のヴィランズをあらかた片付けたリンカーたちは、互いに頷き合う。沙羅も、無言でうなずいた。その手は緊張で、冷たくなっている。
 ――おちついて、こんなの楽勝よ。
 心のなかで、沙羅は自分を励ます。
 だが、戦闘とは別種の緊張はまったくほぐれなかった。沙羅は、一つの役目を背負っていた。ウィランに怪しまれずに、ドアを開かせるという大役。
 すなわち、清掃員のふりをするという役目である。
 別に声色を変える必要はない。(相手に声は知られていない)
 変装もする必要はない。(すぐに戦闘に移る予定だ)
 おそらくは相手もさほど強くない。(現に部屋の外の見張りは、さほど強くなかった)
 なのに、沙羅は緊張で心臓が口から出てきてしまいそうだった。
 トントン、と沙羅は部屋をノックする。
「るっ、ルームサービスをお持ちしました!」
 つっかえながらの沙羅の言葉に、リンカーたちは冷や汗をかいた。
 沙羅も冷や汗を流す。
 作戦では、沙羅は清掃員を装ってドアを開かせる役目であった。だが、先ほどイレヴンズが「光線のルームサービス」などと言っていたから、うっかりしてしまったのだ。
 沙羅が内心で泡を食っていると、ドアが開かれる。
「ルームサービスなんて、頼んでないぞ」
「いいや。頼んだだろう。光線のをな!」
 イレヴィンズが、開いたドアをこじ開ける。その隙間から入りこんだのは、龍哉であった。彼は人質に近い敵――ボスには自信の拳がとどかないと判断し、ハングドマンを投擲する。ハングドマンは敵のボスの足を拘束し、人質であったアヤカは何が起こったのか分からぬような顔をしていた。
『抵抗しなければ生かしてやるネー』
 暁がハストゥルで、部下たちの足を狙う。
「やっぱり、手ごたえがない」
 Hunterに体を主導権を渡しながらも、Arcardは慎重に敵を観察していた。ウィランズはリンカーたちの攻撃に、ほとんど対応できていない。もはや、勝負は見えていた。
「動くな!」
 両足を拘束されてなお、ボスは人質を取ろうとしていた。
 自分を父親の友人であると信じるアヤカの足を掴み、なんとか人質にしようとしていたのである。動くことすらできなくなったボスのあがきの醜さを、レミアは憎悪した。
「無力な幼子を人質に取るだなんて……恥を知りなさい……!」
「何とでも言え、弱い組織が生き残るには知恵が必要なんだよ!」
 クレアは、考える。
 そして、出来る限り冷静にボスに声をかけた。
「……人質がいる以上はHOPEとしては、交渉するのが規則です。あなたが望むものはなんでしょうか?」
 そんな規則はない。
 全ては、時間稼ぎのための嘘の交渉であった。クレアはそれが知られぬように、一つ一つ言葉を選んだ。一秒一秒を、全ての人間が長く感じていた。時計を見たい、と誰もが思った。だれ、そんなことをすればこの交渉が時間稼ぎのための欺瞞であると相手に知られてしまう。
 がしゃんっ、と音がした。
 それは部屋の窓が割れる音であったが、誰もが一瞬だけ理解することができなかった。誰が窓を割ったのか――ということを。
『子供に手を出すな』
 窓から部屋に入った女の声が、場を支配する。
 彼女は怒っており、蓮日の髪はわずかに蒼く燃えていた。
 その姿は子を守ろうとする――鬼子母神そのものであった。

●武器を捨てた日
「怖い思いをさせて済まなかったな。怪我はないか?」
 龍哉の問いかけに、アヤカは無言で首を振った。戦闘を間近でみた幼子は、すっかり委縮してしまったようだった。
『子守歌を聞かせましょうか? きっと落ち着きます』
 ルミアのアイデアは最良というものには、程遠い。
 イレヴィンズも苦笑いを浮かべながら「俺は耳でも塞いでいようかね」と言った。おそらく、彼がそう言わなければルミナは本当に歌いだしていただろう。
「ねぇ、アヤカは、お父さんのこと、好き?」
 レミアの言葉に、アヤカは目を大きく見開いた。
 そして満面の笑みで「大好き!」と答える。
 その言葉を聞いたアンジェリカは、スカートを握りしめていた。子供が親を大好き、と思うのは当たり前の感情だ。なのに、アヤシは勝手に子供の前からいなくなろうとした。
「ボク、だって……」
 そんなアンジェリカの小さな頭を、マルコは無言で撫でていた。
「うっぐっ。うううっ……」
 こらえきれなかった涙がアンジェリカの瞳からこぼれ落ちて、マルコのスーツを濡らしていた。
 そんな光景を、こっそりと見ていた者がいた。
 アヤシであった。
 彼はリンカーたちに「こちらに来い」と引っ張ってこられたのである。そして、遠目に娘の無事を確認した。彼は小さく「よかった……」とだけ呟く。
『で? 死ぬ気だったのか?』
 蓮日が、ずいっとアヤシの自分の顔を近づける。
『そーか、お前あの子と別れろ! ボクが引き取るッ! 死にたがりと一緒じゃ、何時また一人ぼっちになるか分からんからな!』
 子供の幸せを切に願う英雄を、焔織がなんとかなだめる。蓮日が子供の事を真に思っていることが分かるが、焔織はそれ以上にアヤシの気持ちが分かってしまっていた。
「……先輩、ボクも元同業でス。咎は……生き抜いて雪ぐベシ。……ソウ思うのデス」
「そうね。ありふれた言葉だけど、犯した罪は消えるものじゃないわ。今まで殺してきた標的とその家族の為に、これから罪を償わなきゃいけない。だから、安易に自分が死ねばいいなんて考えないで。最愛の娘の心まで殺す事になるわよ。あなたがどんな罪の償いかたをしようと、H.O.P.Eがあんたの家族を見守っていくから」
 腰に手を当てた沙羅の言葉に、アヤシは娘を見た。
 そして、その方向に彼は歩きだす。
「せっかくだから、HOPEで働いてみない?」
 新人の射撃教官とかよさそう、という暁の言葉に、アヤシは首を振る。暁は、その断りを笑って受け止めた。おそらく彼は、最愛の娘が愚神にでも襲われない限りは武器を持たぬであろう。
 父が、娘に向かって歩む光景。
 それを、離れた位置で見守る者がいた。
 カゲリである。
『覚者も近くに行って、祝えばよかろう』
「俺は、ここがいい」
 仲間たちは、父の無償の愛を信じた。
 そして、自分も信じたいのだ――とはカゲリは誰にも言わなかった。
 ナラカだけが、全てを見通しているかのように笑っていた。

結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • ライヴスリンカー
    赤城 龍哉aa0090
    人間|25才|男性|攻撃
  • リライヴァー
    ヴァルトラウテaa0090hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • 燼滅の王
    八朔 カゲリaa0098
    人間|18才|男性|攻撃
  • 神々の王を滅ぼす者
    ナラカaa0098hero001
    英雄|12才|女性|ブレ
  • 希望を胸に
    アンジェリカ・カノーヴァaa0121
    人間|11才|女性|命中
  • コンメディア・デラルテ
    マルコ・マカーリオaa0121hero001
    英雄|38才|男性|ドレ
  • ようへいだもの
    鴉守 暁aa0306
    人間|14才|女性|命中
  • 無音の撹乱者
    キャス・ライジングサンaa0306hero001
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    人間|18才|男性|命中
  • 流血の慈母
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  • 緋色の猿王
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    獣人|37才|男性|防御
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  • アステレオンレスキュー
    H.C/11-11アインズaa4111
    機械|25才|男性|攻撃
  • エージェント
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