本部

瑠璃初めての依頼~スイーツ作り対決~

せあら

形態
ショート
難易度
やや易しい
オプション
  • duplication
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
7人 / 4~7人
英雄
7人 / 0~7人
報酬
少なめ
相談期間
5日
完成日
2016/06/30 22:17

掲示板

オープニング

 瑠璃(az0059)とマーガレット(az0059hero01)の二人は街の中を歩いていた。
 本日は休日と言うこともあり二人は街の中でショッピングを楽しんでいた。その為彼女達の両手には沢山の紙袋が握られていた。明らかに買い過ぎな紙袋を横目で見、マーガレットは隣を歩く瑠璃へと苦笑混じりに話しかけた。
「ねぇ、瑠璃買いすぎじゃない?」
「え? これぐらい普通よ普通」
 マーガレットの問い掛けに瑠璃はにっこりと微笑みながら答えた。
 その時、ドンと瑠璃は一人の少年とぶつかった。
 瑠璃と少年の二人はその場に尻餅をつき、地面には白い紙袋と果物、食材が散らばった。瑠璃は慌てて立ち上がると少年へと近寄り、心配そうな表情をしながら言った。
「すみません。大丈夫ですか?」
「ああ。大丈夫だ。こっちこそ悪かった、大量の食材を運んでいたからあまり前が見えていなかった。お前の方こそ大丈夫か?」
 コック服を身に着けた黒髪の少年は瑠璃にそう言った。瑠璃は頷きながら「大丈夫です」と短い返答をすると少年は安堵の表情を浮かべた。
「なら良かった」
 そして少年は散らばっていた食材を自分が手に持っていた紙袋の中へと入れていく。それを見、瑠璃は少年へと話しかけた。

「店まで運ぶの手伝わせて頂けませんか? ぶつかってしまったほんのお詫びです」


●お家騒動スイーツバトル
 瑠璃達はカフェの中にいた。
 店内はお洒落で落ち着いた雰囲気をしており、その為か若干女性客の出入りも多く感じられた。
 マーガレットは目の前のテーブルの上にあるチョコレートオレンジケーキへとフォークを入れ一口、口の中へと運んだ。
 そして思わず瞳を大きく見開く。
 口の中一杯にチョコレートの甘さと共にオレンジの甘酸っぱさが広がった。一言で述べれば絶品の一品だった。
「これ美味しい! 神様レベルに美味しい!」
「神様レベルって……でも光栄だな。そんな風に言ってもらえるなんって」
 あまりの美味しさに興奮するマーガレットに対して彼女の近くにいた黒髪の少年……健人は軽く笑った。

 あの後、食材を運んでくれた瑠璃達へと健人はお礼として、この店自慢のケーキと紅茶を振る舞っていた。
 瑠璃達は最初遠慮していたが、健人の行為を無下にする訳にはいかず、結果彼の行為に甘える事にしたのだった。彼は若くしてこのカフェの店長であり、目の前のチョコレートオレンジケーキは彼の自信作の一つだった。
 健斗が今経営しているカフェ自体は元々祖母が経営していたものであり、祖母が亡くなった後彼がその後を継いだ。
 祖母はこの店に訪れるお客さん達との小さな繋がりを大切にしていた。その祖母の想いと、思い出が詰まった店を守りたいと思い健人がこの店を引き継いだのだった。

「でもマーガレットじゃぁないけれど、このケーキ紅茶とも良く合うし本当に美味しいです」
「そりゃぁ良かった。喜んでもらえて俺としても嬉しいよ」
 そんな会話を交わしていたその時、カランとした鈴の音と共に扉が乱暴に開かれた。店の入口に一人の赤い髪の少女と二人のガタイの良い大柄な男達がいた。
 少女は大柄な男達を引き連れ、堂々とした足取りで店内に入り、健人の前で足を止めた。
 少女の顔を見て健人は思わず顔を歪める。
「菜々美何の用だ? 言っとくがこの店は絶対に渡さねーからな!」
「言うと思った。いつもの決まり文句だもんね。でもこれを見てもまだ同じ事が言えるかしら?」
 そう言いながら菜々美は自分のバッグの中からある一枚の紙を取り出すとそれを健人へと渡した。それは健人の祖母の遺言書だった。
 遺言書を見、彼は驚愕した。
 そこには遺産の全てを孫の菜々美へと相続すると記載されていた。
 あまりの事に言葉を失う。そんな彼へと彼女は憐憫のような視線を向け、言った。
「でも、それじゃぁ健人は納得出来ないでしょ? だから勝負しない?」
「勝負?」
「そう。私達の得意のスイーツで、ね。今の旬の果物夏みかん、ブドウをメインにしたオリジナルのスイーツ、またはデザートはどう? あなたが勝ったらもう私はこの店には手出しはしないし、店もあなたにあげるわ。私が勝ったらこの店は貰うってのはどうかしら?」
「面白い。受けてたってやるよ。お前その言葉絶対に忘れるんじゃねぇぞ」
 低く、ドスの聞いた声音で健人は静かに菜々美へと言い放つ。
 それに対して彼女は怯む事は無く余裕の態度で、そして彼に一言告げた。
「あっ、言い忘れていたけど勝負は団体戦よ。団体戦スイーツバトル」


 店を後にした菜々美達は商店街通りを歩いていた。
 そんな中彼女は傍らにいた茶髪のロン毛の男へと心配そうな表情で訊ねた。
「あれで良かったのかしら」
「ぜーんぜんバッチリですぜ。お嬢。これに勝てばあの店ぶっ潰して、レジャーランド建てて、その中であのガキに自分の店でも持たせてやればお嬢の優しさに気づいて惚れてしまいますぜ!」
「そうそう。大体あんな古くさいカフェなんってすぐ潰れるんだ。儲かりそうに無いしな」
「古くさいって言わないで! お婆様のカフェなのよ」
 下卑た笑いを浮かべる男達へと菜々美は叱りつけるような口調で強く言い放った。
 菜々美の側にいる男達の正体はヴィランだった。彼らは元々資産家である菜々美の祖母の土地を狙っており、祖母の死後落ち込んでいた菜々美へと彼らは近づいた。彼らは彼女に優しく接した。寂しさの為か菜々美は簡単に彼らの事を信用し、自分の想い人である健人の事を打ち明けた。すると彼らは菜々美へとこう提案をしたのだ。

「あの店を潰してあのガキに儲かりそうな場所で新しい店を持たせたらいい。そしたらあのガキはお嬢の事を好きになる」

 その言葉を彼女はあっさりと信じてしまったのだ――。

 ……これできっと大丈夫。彼は私に振り向いてくれる……

 そう彼女は心の中で呟く。
 だが彼女は知らなかった。男が唇の端を僅かに吊り上げた事に。
 そしてレジャーランドと言う言葉は男達が菜々美から遺産を全て騙しとる為の嘘だったと言う事に―――



「くそ……団体戦か」
 健人は頭を抱えながら一人テーブルの上に突っ伏す。
 先程菜々美に啖呵を切っていた彼の様子とは180度違う今の彼の姿に半ば躊躇いがちに、そしてある事に気づきながら瑠璃は彼へと話しかけた。
「健人さん、もしや一緒に出てくれる方がいないのですか?」
「ああ、そうだ。悲しい事に俺は友達が少ないんだ。あいつそれを知っててワザとけしかけてきやがった」
 瑠璃の言葉に健人は顔を上げ悔しそうに、まるで吐き捨てるかのように言った。その言葉にマーガレットはガタっと席から立ち上がり自信満々でドヤ顔で言った。


「健人さん安心して下さい。確かスイーツ対決でしょう? オリジナルの。でしたら私にいい考えがあります」
 そう言ってマーガレットはスカートのポケットから携帯電話を取り出すとH.O.P.E.へと連絡をした。

解説

健人と団体戦でチームを組み、オリジナルスイーツを作り菜々美に勝利して店を守る。ヴィラン達から菜々美を引き剥がすと同時に健人との関係を円満に納める依頼になります


登場人物

健人(18)カフェの店長
祖母からのカフェを引き継ぎ経営をしている。祖母と同じく人との繋がりを大切にしている


菜々美(17)健人の従妹
両親が幼い頃他界してしまった為、祖母から引き取られ育てられる。その為祖母の死後全ての遺産を相続する。健人に恋心を抱いている
スイーツバトルの時はダン達とチームを組んでいる
専門学生(パティシエ)


ヴィラン  ダン(35)
大柄な体格をした茶髪のロン毛の男
相手に奇襲をかけ、勝負に出れないように陰で襲いかかる

攻撃 スコーピオンの毒を塗った短剣で襲いかかる。毒の性質は麻痺であり動けなくなった相手へと短剣で刺し、攻撃する


ヴィラン  シラタキ(35)ダンと同じ体格をした禿げ頭の男
卑怯な手口を使い相手の料理に何かを仕込もうとする。ダンと共に菜々美から遺産を騙し取ろうと目論んでいる

食材
夏みかん、ブドウ。
夏みかん、ブドウの品種は自由。
必要な材料、食材(果物なども含む)飾り付けの物は何でも使っても良い

機材
冷蔵庫、オーブン、ミキサー

審査員
二人の祖母の友人プロのパテシエ
普段は優しいがスイーツ作りの事になるとスイーツの鬼と言われている。
審査は公平な審査をする

場所
健人の店。主に勝負は健人の店の厨房で行われる
食材などは業者の輸送、店の近くにスーパーなどがあるのでそこからも使用可能

状況
マーガレット、H.O.P.Eから連絡を受け健人の変わりにスイーツ対決に出ると言う設定

Pl情報
ダン達はどんな汚い手を使ってでもスイーツバトルに勝とうとする。その為手段を選ばない
スイーツは食べれるものでないと失敗してしまう
菜々美達はゼリー系を作ろうとしている

NPC 瑠璃&マーガレット
バトルメディック
主に行動は皆さんのサポートになります

リプレイ

「お兄様、スイーツですって。たまにはこういうお仕事も素敵ですわねぇ」
『ふむ……、いつも買う菓子とは随分違うようだな。人の世は興味深い』
 ファリン(aa3137)とヤン・シーズィ(aa3137hero001)の二人は楽しそうにそんなやり取りをしていた。
 普段お嬢様であるファリンはスイーツは食べ慣れてはいるが作るのは始めてであり、ヤンは脳に糖分を送る為いつも懐に駄菓子を忍ばせている。その為今回の依頼は興味深かった。

 そんな中、狒村 緋十郎(aa3678)は瑠璃へと話しかけた。
「瑠璃、久しぶりだ! 元気そうだな、会いたかったぞ……! エージェント業、順調そうで何よりだ。いや、正直なところ……菓子作りでどれほど力に成れるか自信は無いが……本部で瑠璃の依頼を見掛けてな、瑠璃の顔が見たくって馳せ参じた次第だ……!」
 緋十郎は安堵と懐かしさから笑顔で言った。
 緋十郎と瑠璃は前回の依頼で面識があり、瑠璃自身がエージェントとしての道を歩む切っ掛けとなったのが彼ら達のおかげでもあった。瑠璃は緋十郎達へと嬉しそうな笑みを浮かべ、頭を下げた。

「お久しぶりです狒村さん! それに皆さんも来てくださって有り難うございます。本当に助かります!」
「あ、瑠璃さん始めまして。その、狒村さんと同じ、エージェントの、北里芽衣と言います」
「始めまして芽衣さん。瑠璃です。宜しくお願いします」
 北里芽衣(aa1416)と瑠璃が挨拶を交わしている中、後ろから芽衣を呼ぶ声がし、芽衣は後ろを振り向いた。
「めーいー! これすっごくおいしいわー! アリスと一緒にたべましょー!」
 そこにはアリス・ドリームイーター(aa1416hero001)が厨房にあるオレンジチョコレートケーキを勝手に取り出し食べていた。芽衣はそれを見、ぎょっとした様子でアリスへと駆け寄った。
「あ、アリス! かってに食べたら……あ、す、すみません瑠璃さん、またあとで。アリス、もう!」


「依頼を見てスイーツが楽しめると聞いてやってきたよ」
『夏のスイーツ祭りだね』
 楽しそうに言う百薬(aa0843hero001)の台詞を耳に、餅 望月(aa0843)は、
「健人君、どうして菜々美ちゃんはこのお店を潰そうとしているの?」
 健人にそう訊ねた。その言葉に健人は溜め息混じりで言った。
「菜々美も昔はあんな奴じゃなかったんだ……。本当に良い奴で菓子作りが大好きな女の子だったんだ。だけど、ばーさんが死んでアイツは変わってしまった。変な男達とつるむようになって、終いにはこの店を潰そうとしているんだ」
「ふむふむ、菜々美ちゃんの状況は怪しいね、健人君としては心配じゃない?」
『お馴染みだもの、本当は仲良くしたいよね』
「俺だって、昔みたいな関係に戻れるならば戻りたい……だけど」
 顔を曇らせ、諦めかけたように言う健人に望月は彼を気遣いながら言った。
「菜々美ちゃんの好きなものって覚えている? それをメインに作ってあげてよ。一緒に食べられる最後のデザートになるかも知れないしさ」
「そうだな……。じゃぁ少し考えてみるか」
 その言葉に健人は頷き、苦笑した。


『故人の想いが詰まったお店が争いの原因になるなんて悲しいね……』
「取り巻き連中だが食に関する者とは思えんな」
 健人達の話を聞き、伊邪那美(aa0127hero001)は悲しそうにポツリと言葉を溢す。それに対して御神 恭也(aa0127)は何処か引っ掛かりを覚えながら那美へとそう答えた。
 恭也と同じく赤城 龍哉(aa0090)とその英雄のヴァルトラウテ(aa0090hero001)も彼らと同じ思いでいた。
「この状況でわざわざ相手の道標に乗って来るかよ」
『脚を掬われる典型ですわね。それも自分の陣営に』
「ま、手段を選らばず勝負に臨むにせよ、無粋が過ぎるのは趣味じゃねぇ」
『備えがあれば憂いなしというところかしら』

「んー? んーお相手さん、なんか騙されてない? 所有権があるなら、一緒に住めばいいじゃない? オーナーとしてそのまま従業員として雇って、そのまま運営でいいんじゃない?」
 鴉守 暁(aa0306)はのんびりとした口調で彼女の英雄のキャス・ライジングサン(aa0306hero001)へと言った。
 その言葉にキャスは暁へとチッチと指を振りながら、まるで当然だと言うかのように答えた。
『照れ隠しヨー。ホントは勝負なんてタテマエネー』



 勝負開始30分前。
 スイーツ対決の会場は健人の店の厨房で開始される事となった。
 恭也は勝負が開始される前に審査員に事情を説明し、ついてもらい調理場にダン達が何か小細工をしてはいないか調べていた。結果調理場の方には何もなく、それに対して那美は恭也へと不思議そうな顔をしながら言った。
『気にし過ぎじゃないの? あの子からはそんなに嫌な気配は感じなかったよ?』
「彼女自身については同意だが、取り巻きの男達は要注意だな。嫌な笑みを浮かべていた」
 恭也は先程この店に到着していた菜々美達を目にした時ダン達は嫌らしい笑みを浮かべていた。
 何か企んでいる。そう彼は直感した。
 恭也は菜々美達がいる場所へとふっと目を向ける。そして眉をひそめた。そこにはダンの姿がなかった。


 健人は厨房の台の上に乗せた夏ミカンの数を数えながら思わず眉を寄せた。
「しまった……仕方ねぇ。庭から取ってくるか」
 そう言い、厨房から離れようとする健人に赤城は声をかけた。
「どこに行くんだ?」
「夏ミカンが足らねぇからさ、ちょっと取りに行こうかと思ってな。と、言っても庭先にある奴を取るだけだし」
「それなら俺も着いて行く。ま、念には念をだ。この勝負、万が一でも棄権とかしたくねぇだろ?」
「ああ。じゃぁ頼むよ」
 護衛を申し出た赤城を健人は受け入れ、二人はその場を後にした。

 暁はダンがいない事に気づき、不信に感じながら厨房から出て行く健人達の後を影から着いて行っていた。
 もし、仮に健人が怪我を負い出場出来なく不戦敗となってしまった場合はダン達の思うツボであり、きっと菜々美自身も納得はしないだろう……。

(菜々美ちゃんも殺されるかもね。この勝負が終わったら)

 彼女は内心そう感じていた。その時。
 暁は食材の買い出しから戻ってきた菜々美とバッタリと会った。
「あっ、あなたは健人の……」
 暁の顔を見、思わず言葉を漏らす菜々美に暁は話しかける。
「菜々美ちゃんはなんでこの店ほしいのー? なんか裏ないー?」
「なっ……あなたたちには関係ないでしょ! 私はただ……」
『言いたいことは言っちゃいナヨー。楽にナルヨー』
 菜々美へと暁達は彼女へと揺さぶりをかける。それに対して菜々美は戸惑いの色を露にした。そして一瞬だけ躊躇するかのように、それを振り払い、彼女は暁達へと強い瞳で言い放った。
「この店よりもっと環境が良い場所だったらお客さんだって沢山入るのよ! 健人自身の為にもなるのよ! だって彼は私より凄い人なんだから!」
 菜々美は健人の事が好きだった。
 パテシエである彼の事を心から尊敬していた。菜々美の言葉は本心からの言葉そのものだった。
「ここの店だから健人クンは居てくれるんじゃないのーここ潰したらキミ二度と会えなくなるよー」
 暁の台詞にキャスはにっこりと微笑みながら言葉を付け足した。
『押し付けられた善意は時に極上の害悪となる』
 二人は菜々美へと告げると静かにその場を後にした。その場に一人残された菜々美は戸惑い、乾いた声で、

「私が間違えているって言うの……」

 小さく呟くかのように言った。だがその言葉は誰の耳にも届く事はなかった。


●幼い頃の約束
 カフェの庭先にある一際大きな夏ミカンの木が一本そびえ立っていた。健人は木から夏ミカンをもぎ取り、それを赤城は手伝っていた。
「なぁ、健人。あの菜々美って言う子とお前はどんな関係なんだ?」
「別に。ただの従妹だよ。だけど昔はこんなんじゃなかったんだけどな……」
「今は違うって言うのか?」
 赤城の言葉に健人は少しだけ沈黙し、そして再び口を開いた。
「ああ。違っていた。菜々美はああ見えてばーさん子でな。この店だって二人で一緒にやろうってガキだった頃に約束した事があったんだ……。だけどアイツはそんな昔の事なんって覚えちゃいねーかもしれねぇかもな」
 ふっと寂しそうに苦笑する健人の言葉を聞き幻想蝶の中で待機していたヴァルトラウテは赤城の脳内に話しかけた。
『妙ですわね。二人ともそのお婆様を尊敬しているようですわ。そして菜々美さんが遺産を託されたという事は、お婆様から人となりを認められての事でしょうし』
「まぁ、リスペクトしている祖母由来の店をわざわざ潰そうなんて発想、しねぇか。『誰かに唆されでもしない限りは』」
 その時、ギラリと光る刃が健人へと凄まじいスピードで襲い掛かって来た。それはダンだった。彼は茂みの中に隠れ、健人を狙っていたのだ。

 ――間に合わない――

 そう思った瞬間。
 ダンと同時に動いていた赤城は瞬時にヴァルトラウテと共鳴をし、ダンに電光石火で攻撃をした。
 圧倒的な速さの一撃を受け、ダンは動きを僅かに遅らせた。健人への攻撃は赤城から受けたダメージにより軌道が逸れた為当たらなかった。
 赤城はさらにダンへと一気呵成で攻撃を重ねようとするがダンはそれを何とか回避した。ダンと対峙するような形で赤城は低く、低い声音で鋭く睨むようにダンに言った。
「俺より結構年端のくせに、何も敬意を払えるところがねぇな、あんた。大方世間知らずのお嬢さんの後見人面して、色々掠め取ろうって手合いか」
 赤城達の言葉にダンは唇を三日月の形へと歪め、両手を広げ、失笑した。
「なーんだ俺らがヴィランだってバレてたのか。そうだあんたらの言うとおりだよ。あの世間知らずのお嬢を騙して、遺産を騙し取った後殺す予定だったんだよ」
『最低ですわね、ヴィラン』
「最低で結構! 勝負に勝ちゃ何だって良いんだよ!!」
 ダンはスコーピオンの毒を塗った短剣で赤城の腹部を狙い、攻撃を仕掛けようと駆け出した。赤城は瞬時にそれをシャープエッジで防ぐ。
 そこに駆けつけた暁達はダンの背後から干将・莫耶で武器を叩き落とした。武器を取り落としたダンは背後を振り向き、暁へと殴り掛かろうとするが暁はそれを回避し、剣でダンを峰打ちで攻撃した。それに続けてファリンはダンに白柳槍の柄で、こめかみなどの部位攻撃をする。
 ダンは回避に出来ずに、それらの攻撃を受け脳震盪を起こした。ダウンしたダンにファリンは彼の体に馬乗りの体制になると刃の刃先を顔に突きつけた。ダンの体から恐怖と冷や汗が一気に吹き出る。
 そんなダンにファリンは冷ややかな目をして言った。
「下劣ですこと。乙女の恋心を弄んでお金をせしめようなんて。古来より、汚物に塗れる夢はお金を獲る暗示と申します。あなた方はさしずめ、汚物にたかる糞虫ですのね。奇襲に搦め手……勝つためには手段を選ばない、合理的ですわ。ですけど、それをしてしまったら……これは戦争ですわ。あなた、戦場に立つ覚悟、なさってますの?」
「……上手くいっていたのによりによってこんな奴らに……」 
 ダンは恐怖を必死に押し殺し、強がりながら吐き捨てるかのように言った。
 瞬間。
 ドスっと自分の髪と頬を一本の槍が掠めた。「ひっ……」と短く呻いた。そしてファリン達へとシラタキの情報を自分の身の安全と引き換えに話した。
 だが、これで終わりではなかった。情報を提供した後、ダンはファリン達に半裸にさせられトイレに軟禁されたのだった。

●スイーツバトル
 昼の13時を回り、ついに調理が開始された。
 スイーツ団体戦と言う事もあり健人とエージェント達チームと菜々美チームは既に調理に入っていた。そんな中、望月と百薬の二人はドリンクを作っていた。
『スイーツの天使にお任せ』
 百薬はそう言いながら作っておいた夏ミカンと葡萄のジュースで上下二色のソフトカクテルをやってみる。だが、なかなか上手く色分けが出来ない。
『何でかな?』
 首を傾げる百薬に望月は「貸して」と言い、ジュースをシェイカーで綺麗に混ぜる。
 そして。
「輪切りのオレンジをグラスに差してビーチ気分かな」
『ワタシ、泳ぎに行きたい』
 完成したドリンクを見、百薬はテーションを上げながら笑顔で言った。それはまるでビーチとかに出て来そうな、夏にはピッタリなドリンクだった。
「また思いついた事をすぐ言う、わたしも行きたい」
 そんな時、望月の目に調理をしていたシラタキが不穏な動きを見せた。

 甘味は神。邪魔はさせないからね。

 そう思い、望月はレミア・ヴォルクシュタイン(aa3678hero001)へと連絡した。


 その頃。
 緋十郎は瑠璃に「瑠璃も一緒に何か作らんか?」と提案をし、二人で葡萄の小さなカップケーキを作っていた。
 お菓子作りの経験が瑠璃には無い為、緋十郎は料理本で予習練習を終え、瑠璃には葡萄の皮を剥いてもらい、自分はボールの中にある生地を力を込めてかき混ぜていた。
「瑠璃、エージェントになった感想はどうだ?」
 突然の問い掛けに、瑠璃は始めキョトンとし、そして柔らかい笑みを浮かべた。
「エージェントになってわたしの世界が変わりました。誰かの為に使う力と、助けた人から笑顔を向けられた時心から嬉しく感じます。それも、あの時皆さんがわたしとわたしの友達を救ってくれた。だから今のわたしがあるんです。だから有り難うございます」
 瑠璃のその言葉を聞き緋十郎は唇の端を吊り上げ、短く「そうか」と言い彼女に笑みを返した。
 瑠璃との再開を喜ぶ緋十郎を横目に望月から連絡を受けたレミアは、
『相手はヴィラン、どんな汚い手を使ってくるか分からないわ。食材に変なもの入れられたりしないか……警戒が必要ね』
 真剣な面持ちで呟き、警戒をより強めた。

●隠し味は秘密の味。
 恭也は先程自分の英雄、芽依達と一緒に買ってきた食材を取り分けていく。
 シラタキ達が何か仕掛けてくる恐れがあった為、食材の近くの見つけ辛い場所に清潔な紙片を挟み込んでおり、誰かが触れた場合紙片が外れる仕掛けになっていた。
 紙片が外れた形跡は何処にもなく、恭也は食材の夏ミカンの皮と身に分け、皮は数回煮溢してから砂糖水で煮詰めて乾かし、オレンジピールにする。そして続けてミカンの薄皮を剥がし潰すと、薄力粉、ベーキングパウダー、バター、卵と先程作ったオレンジピールを混ぜていく。恭也が作っているのはパウンドケーキのようだ。それを見、那美は
『相変わらず、似合わないくせに妙に高い技術を持っているよね』
 恭也の料理に感心するかのように言う。それに対して彼は平然と少女に向けて言った。
「……一つ言っておくが、俺の菓子作りの技術が上がったのはお前が来てからなんだが」


 一方芽依は葡萄のコンポートを使ったタルトと夏ミカンのアイスを作り健人に試食をしてもらっていた。
 厨房の台の上に乗っていたタルトと夏ミカンのアイスは見た目は色鮮やかに出来ており、見事な出来映えとも言えた。
 アリスはと言うと「なんでもいいから芽依やひじゅーろー(アリスちゃんの手下☆)と楽しめればいいわー! あ、お菓子はアリスと芽依のためのもちゃんと作っておきなさいね!」と言い何処かに行ってしまっていた。
「葡萄をコンポートにすればその、葡萄の甘さを引き立ててくれるかなって思いました。生地はその、さっくりめにしてアイスとの食べた時の違いを楽しんで頂けるといいなって」
「それで、こっちの夏ミカンのアイスには、夏ミカンの他に、ミントのエキスが混ざった氷の粒を混ぜています。さっぱりとした味になるかなって」
 健人は「どれどれ」と言い、タルトと夏ミカンのアイスをそれぞれ一口食べる。芽依の言葉どおりにタルトは葡萄の甘さが引き立っており、アイスはミントのエキスが混ぜてある為さっぱりとした味が楽しめた。
「その、いかかでしょうか? 健人さん」
 心配そうに訊ねる芽依に健人は力強く頷いた。
「上手いよ。正直俺の店に置きたいくらいだ。芽依さんはお菓子作り上手だな」
「いえ、そんな……」
 健人の言葉に恥ずかしそうにする芽依。
 その隣で葡萄のカップケーキを作っていた緋十郎達は隠し味に砂糖を大量に入れようとしていた。発案者は瑠璃であり、砂糖を大量に入れればきっとスイーツだから美味しくなると思っての大いに間違った根拠だった。
「ダメです瑠璃さん、砂糖を大量に入れすぎればただ甘いだけになってしまいます」
 芽依はそう言い、隠し味に葡萄ジャムを提案し、二人はそれに従った。そして美味しそうに出来上がった葡萄のカップケーキを見、瑠璃達は感嘆な声を上げた。
「凄く美味しそうに出来ましたね」
「私はその、喫茶店で少し作っているだけですから、えばれるほどじゃないのですけど」
 瑠璃の言葉に芽依は照れながらも嬉しそうに微笑んだ。


 調理が行われている最中。
 シラタキはファリン達の隙を見て、彼女達が作った葡萄大福へと近づいた。皮ごと食べられる葡萄を白あんと球肥で包んだスイーツだ。
 シラタキはニヤリと笑い、注射器に入れたハバネロソースを葡萄大福へと異物混入させようとした。
 同時に――。

『あら……隠し味なら間に合ってるわよ。どういうつもりかしら?』

 声と共にシラタキは一瞬でレミアから腕を掴み、取り押さえられた。
「クソッ! お前最初から見ていたのか!」
 顔を歪め、吼えるように言うシラタキにレミアは邪悪な瞳でシラタキを見据え、自虐的な笑みを浮かべると掴んだ腕を離さずトイレへと連行をした。
 シラタキの言うとおり、レミアは葡萄大福に近付くシラタキに一瞬余所見する振りをし、隙を見せ、異物混入をする直前現行犯で捕まえたのだった。シラタキはレミアの腕を乱暴に振りほどくとレミアに殴り掛かろうとした。たが、すぐに駆けつけたアリスと即座に共鳴をしていた芽依はミラクルスタックでシラタキを攻撃する。
 杖での攻撃を受け、シラタキは左腕に鋭い痛みを強く感じ、それでも尚彼は顔をしかめ、
「腐れエージェント共!! お前らがいなければ全て上手くいっていた筈だったんだぞ! どうしてくれやがるんだぁぁ」
 絶叫のような叫び声を上げながら芽依の体を蹴り飛ばそうとした。
 芽依は即座にそれを回避し、そこに共鳴をした恭也が駆けつけシラタキの顔面を左ストレートで殴り飛ばした。殴り飛ばされたシラタキは床に倒れ、身を起こそうとするがダメージが予想以上に大きい為体を起こす事が出来ない。
 目線を動かすと、目の前に腰に手を当てながらシラタキを蔑むレミアの姿があった。
「真剣勝負を汚そうとした罪は重いわ。お仕置きが必要ね?」
 そう言い彼女はシラタキの体を容赦なく蹴り、たまは拷問した。
 緋十郎はそれを見、思わず羨ましく感じていた。

 その後。ファリンはダン同様シタラキも半裸にし、トイレに軟禁をする。
 それを見ヤンは、
『ふむ……ファリン、これが君の正義か』
 苦笑いをした。
 それもその筈、トイレにマッチョの男達が半裸でギュウギュウになっており、旗から見たらそれは恐ろしい絵面にほかならなかった。
「そうですわ。お兄様」
 彼女はにっこりとした笑みでそう答えた。



●置き去りの思い出
 制限時間が終了し、審査員の前に二つのドリンクと、スイーツが目の前に置かれていた。
 一つは望月達が作ったドリンクで、もう一つは暁とキャスの二人が作った生搾りオレンジジュースだった。
 暁はあの後、マーガレットと一緒にこっそりと調節をし、H.O.P.Eの護送車を呼んでヴィランを処理した。その後急いで、
「容器に氷をつめてー、キャスー力仕事だー」
『マカセロー』
 とのやり取りをしながら道具を使い、ぐしゃあとオレンジを潰し、砂糖で酸っぱさを調節してオレンジジュースを作っていた。
 対して菜々美チームは夏ミカンのタルトだった。おそらくシラタキが作ったものだろう……
 見た目の華やかさが見る人の心を楽しませているような一品だった。それを審査員……莉菜はフォークで一口に切り、口へと運んだ。
 瞬間。
 目を大きく見開き、近くにあった紅茶の入ったティーカップを直ぐ様に掴むと、それを一気に煽り、全て飲み干して一言叫ぶように言い放った。
「マズッ!! 何ですかこれは、タルトの中に隠し味として納豆をねじ込むなどとなん足るスイーツに対しての冒涜許せません!!」
「あの莉菜ばーさん落ち着けって……今審査中だから、な?」
 憤りを露にする莉菜に対して健人は彼女を宥めるように落ち着かせる。それに対して莉菜は今の現状を思い出し、審査を続行した。
 結果望月のドリンクと暁達のオレンジジュースが勝ち、いよいよ健人と菜々美のスイーツの一騎打ちとなった。
 健人は莉菜の前に夏ミカンと葡萄の二層のゼリーを置き、同じく菜々美はその隣側に夏ミカンのジェルをそっと置いた。莉菜はそれぞれのスイーツを一口ずつ試食し、そして暫しの沈黙をした後、健人の顔を見て柔らかな表情と共に唇を動かした。
「健人君の勝ちです」
 その言葉を聞きショックのあまり菜々美は悲しそうな表情で俯き、項垂れた。恭也はそんな菜々美から今までの事情を聞き呆れ、そして彼女が騙されていた事を告げた。
「思春期の男子と同じだな……」
『あのさ、健人ちゃんにとって大切なのは想い出のあるお店であって、売れ行きが良いお店じゃ無いと思うよ』
「それ以前にレジャーランドなんて、個人遺産で作れる物では無いだろう。見た所、経営やレジャー施設運営に詳しい人間も居ない。ひと昔前の地方自治体と同じように失敗するぞ」
 恭也達に続き赤城達は菜々美へと続けて言った。
「本気で取り組む夢を奪われた奴が、奪った相手に好意を持てるかどうか考えてみろ」
『あなたがすべきは彼の夢を応援する。それだけで良かったのですわ』
「騙されていたのはショックかもしれんが……なぁ、自分の気持ちに正直になってみてはどうだ?」
『わたしは菜々美の素直になれない気持ちは良くわかるけど……ね』
 緋十郎の言葉にレミアは緋十郎を一瞬チラっと見、ポソリと何処か寂しそうに小さく呟いた。そんな彼女の様子に緋十郎は気付いてはいなかった。
 そんな中健人は菜々美へと近づき話かけた。
「これ、食ってみろ」
 差し出されたのは先程健人が作ったゼリーだった。それを見、菜々美は迷いながらも健人から受け取りゼリーを口にした。
 その瞬間。心に温かいものが溢れ、彼女は涙ぐんだ。
「これ……」
「そうだよ。ばーさんが昔作ってくれたゼリーを俺が手を加えたんだ。なぁ、俺と一緒にこの店で菓子を作らないか? 今度こそ二人で昔みたいに楽しみながらさ」
 その言葉に菜々美は小さく何度も何度も頷いた。その光景を見ながら望月達は心から安堵した。
『一番甘いのは二人の想い?』
「上手い事言うね、でもそういうの、憧れるよね」


●心の笑顔
 スイーツ勝負が終了した後、皆で作ったスイーツでパーティーをする事となった。
 テーブルの上には沢山のスイーツが並べられていた。
「さて、勝負の事はおいといてあたしも両方食べるよー」
『望月だけずるい、ワタシもー』
「任務完了、だな。よし瑠璃このままレミアとマーガレットも一緒に健人達がいる席でお茶でもしょう。積もる話を聞かせてくれ……!」
 緋十郎の言葉に瑠璃は「はい」と短く笑顔で返事をし、席ではヤンがお茶を淹れていた。
『お茶の時間だ……』
 そこには沢山の笑顔が溢れかえっていた。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • ライヴスリンカー
    赤城 龍哉aa0090
    人間|25才|男性|攻撃
  • リライヴァー
    ヴァルトラウテaa0090hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • 太公望
    御神 恭也aa0127
    人間|19才|男性|攻撃
  • 非リアの神様
    伊邪那美aa0127hero001
    英雄|8才|女性|ドレ
  • ようへいだもの
    鴉守 暁aa0306
    人間|14才|女性|命中
  • 無音の撹乱者
    キャス・ライジングサンaa0306hero001
    英雄|20才|女性|ジャ
  • まだまだ踊りは終わらない
    餅 望月aa0843
    人間|19才|女性|生命
  • さすらいのグルメ旅行者
    百薬aa0843hero001
    英雄|18才|女性|バト
  • 痛みをぬぐう少女
    北里芽衣aa1416
    人間|11才|女性|命中
  • 遊ぶの大好き
    アリス・ドリームイーターaa1416hero001
    英雄|11才|女性|ソフィ
  • 危急存亡を断つ女神
    ファリンaa3137
    獣人|18才|女性|回避
  • 君がそう望むなら
    ヤン・シーズィaa3137hero001
    英雄|25才|男性|バト
  • 緋色の猿王
    狒村 緋十郎aa3678
    獣人|37才|男性|防御
  • 血華の吸血姫 
    レミア・ヴォルクシュタインaa3678hero001
    英雄|13才|女性|ドレ
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