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最終発言2016/06/14 10:50:33 -
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最終発言2016/06/14 22:10:59
オープニング
今、思い出せますか?
あなたの人生が変わった日。
あるいは変わってしまった日のことを。
あなたはその日から戦果を知った。あなたはその日から真の孤独を知った。
あなたはその日から温もりを知った。
今隣にいる人に教えてもらった。
その、大切な、大切な日のことを。
あなたは覚えていますか?
『誓約の日』それはリンカー全てに共通する、リンカー誰もが通っている道。
今から語られるのは。そんなあなたの誓約をたどる物語。
なぜあなたが戦うことになり、英雄と共にいるのか。探す物語。
その物語の舞台は。白い壁紙のリビング。
小鳥の声と暖かな日差しと。甘い香りの心安らぐ一軒家。
そこにあなた達は集められた。皆で皆の誓約を呼び覚ますために。
そのリビングで、あなた達は等々に目覚めることになる。
目覚めてから皆、同じ挙動をたどる。
1 あなた達は目覚めて思った。ここはどこだろう。
2 あなた達は次に思った。自分が戦っていた者はどこだろう。
3 あなた達は最後に思った。敵とはなんだろう。
そして気が付くことになる。常に胸の中にあった温かいもの。英雄との確かな絆の証。
それがなくなっていることに。
「あ、テーブルに何か……」
そう誰ともなくつぶやいたその言葉に。全員の視線が誘導された。
大きなガラスのテーブルが部屋の中心にあり。そこにはノートが乗っていた。
中には誰もが読めるようなきれいな字で。
「扉をあけなさい。過去に行けます。
部屋に閉じこもりなさい。一人になれます。
食べ物を口にしないでください。定着してしまいます。
見たいものを見て、見たくないものから目を背けなさい。
ここにあるものはすべて意味のないものなのだから」
そう書いてあった。
そして、次のページも確認できる。
次のページには、ここにいる英雄の分だけ鍵が張られており、番号が振られている。
この鍵の番号……。
そうあなたがあたりを見渡すと、初めてそこにいくつかの扉が配置されていることに気が付いた。
そして。その扉の番号が一致していた。
なんなのだ、この部屋は。
そうあなた達は頭を悩ませると同時に、疑問は最初の物に戻る、ここはどこだろう。
とりあえずそれを知るために、あなた方は行動を開始した。
● 白い一軒家
このお家は一般的な家屋。一階に玄関。ダイニング、キッチン、トイレ。和室、客間。があり。二階には私室が小さい部屋二つ。大きい部屋一つと。あります。
そしてダイニングには扉が複数あり。冷蔵庫の中には食べ物がたくさん。
● 背景(PL情報)
PC達はとあるミッションで精神干渉系の愚神『ビジョナー』を追い詰めました。
しかし彼の最後の悪あがき、絶命する直前の反撃で論理迷宮に閉じ込められてしまったのです。
論理迷宮とは、一つの矛盾の前に行動目的を見失い。何度も思考が堂々巡りしてしまうという愚神の切り札。
今回の矛盾は『誓約のど忘れ』
あなた達は誓約があるおかげで戦えています。なのに誓約が思い出せなければリンクできないはずで。リンクできないならなぜここに。
そんな脳の誤作動が。あなた達に夢を見せています。
これはあなた達の脳内で繰り広げられている光景ですが、リンカーたちの脳は脳波の共鳴により微妙にリンクしています。
ちなみにこれができるのは今回の愚神の能力が、皆に同じ悪夢を見せることができる愚神だったためです。
この矛盾を解消するために、能力者と英雄はそれぞれの誓約を思い出さないといけません。
その思いだすためのカードとして与えられたのが。
1 扉
2 別のリンカーたちとの対話。
3 二階の開かずの部屋
まず扉について。この家のダイニングには、英雄の数だけ扉があります。
ここに鍵をさしてひねると、英雄の過去、もしくは英雄が見たいと思っている能力者の過去が見れます。
ちなみに数字に意味はありません。ただわかりやすくするためだけにあります。
お気づきかと思いますが、今回の一件の主導権は英雄側が強めに持っています。
別のリンカーたちとの対話。は単純に話を聞いてもらうことによって、思い出しやすくなるという効果を狙ってです。
また別のリンカーの身の上話を聞くことで閃くこともあるかもしれません。
そして二階にはトイレと思わしき部屋がありますが、唯一この部屋だけ鍵がかかります。
そしてこの部屋に入って鍵を閉めた能力者の過去だけ。見えなくなるようです。
緊急回避用にどうぞ。
また、なぜかこの世界の食べ物を口にしすぎると、感情が暗黒面に引きずられるようです、食べ過ぎると精神的重傷もあり得ますので。
このギミックは、使いすぎないように注意です。
目的としては、無理やり精神をマイナス方向に引き込んで本音を引き出しやすくする目的ですかね、
ちなみに誓約を思い出すと、扉があき元の世界に帰ります。
元の世界に帰ると、そこには息絶えた愚神があるばかりです。
皆さんの帰りを待ちましょう。
解説
目標 誓約を思い出す。
今回は特に難しいことはありません。
ただ単純に、英雄や他のリンカーと対話して、誓約を思い出せばいいだけです。
基本的な流れとしては、英雄と契約した直後の記憶を呼び覚ますというのが一番簡単でしょうか。
そう言えばあんなことがあったよね、こんなことがあったよね。と徐々に過去を思い出していって。最終的に扉を開けるというのが一番簡単なルートでしょう。
ただ、他のドラマティックな演出も歓迎なので、たくさんのギミックを仕込んでみました。
活用できるようであれば活用してみてください。
リプレイ
そしてリンカーたちはそれぞれ。過去へと旅立った。
●《鈴音》
「うわぁ」
『早瀬 鈴音(aa0885)』は目を開く、そこには一面の麦畑が広がっていた。地平線の先まで続く畑。そこには建物も目印も何もないから、遠近感などまったくなく不安を掻き立てられる。
「ここは、いったいどこだろう」
その言葉に鈴音は振り返る、少し離れたところで『N・K(aa0885hero001)』が佇んでいた。
流れる美しい髪を手で押さえて、ただ真っ直ぐに鈴音を見つめていた。
「N・K?」
「わからない……。けれど、ひどく懐かしいような。切ないような……」
そうN.Kはあいまいに答えた。
二人はその麦畑を歩き出した。特に目指す場所もないので、ゆっくりと。
「風がきもちいいね」
そう鈴音が笑うとN.Kも笑いを返す。
「ねぇ、なにか聞こえない?」
その時だった、唐突に鈴音が歩みを止める。
誰かの歌声のような、それでいて耳ではなく、心で、脳で直接のその声を聴いているような。
(何故こんな事になっているかとかは良く解らないけれど、楽しそうな声)
鈴音は思った、そしてじっとN.Kを見つめる。
『今日は何の歌だい?』
その声に歌声は反応して、歌を変える。
しかも要求されるままにコロコロと、変える。
陽気な歌、童歌のような歌、恋歌もあるだろうか。
「N.Kの声だよね。て、ことはさ……」
「私のいた場所……たぶん?」
どこで知ったかも解らない歌を奏でる日々、そうやってどれだけ過ごしたのだろう
(もし本当にN.Kの昔だとしたら、彼女は幸せだったのかなって思う)
しかし、同時に思ってしまう。
(なら、彼女が私と一緒にいる理由はなんだろう)
自分が彼女に何を与えられただろう。
「あのさ、N.K……この歌」
(鈴音は気づいていないようだけれど、自分だから解ってしまう)
N.Kは微笑んだ、穏やかに、けれど何かを思い出したように目を伏せる。
鈴音がそっぽを向いて言いずらそうに、気を使って笑いながら。それでも真剣なまなざしで、何かを言ってくれているが。
それがN.Kの耳には届いていなかった。
胸の内を締めるのは、一つの疑問と、断片的に蘇る記憶の数々。
(沢山聞いてくれている人がいるみたいなのに、その誰の為にも歌ってない)
「鈴音……」
(まるで遠くにいる誰かの為の歌……誰の?)
記憶の欠落、N.Kは英雄たちが軒並みそうであるように、前まで住んでいた世界でのことをほとんど忘れている。
それは仕方のないことだと理解していても、鈴音の表情を見ていると、それはとても悲しいことなのだと実感させられた。
「ねえ、知ってる?英雄は、たくさん記憶を無くしてしまうけれど、大事な事は忘れない」
「今それ何か関係あんの?」
面食らったようにN.Kを見つめる鈴音
「関係はないけれど、貴女にだけは言っておかなきゃいけないことよ」
私は、世界を超える前から貴女を知っていた
その言葉に鈴音は、戸惑うように答える。
「そういや、最初っから私の名前呼んでたっけ」
「一番大切にしていた記憶。それが鈴音……貴女の名前よ」
「いや私、割とノーマルだしそゆ趣味ないよ?」
「茶化さないの、真面目な話よ?」
そう二人は笑いあうと、いつしか手を紡ぎ何もない世界で触れ合えていた。
今は、ここには二人以外に誰も存在しない楽園で、それがとても貴重なことに二人は思えたのだ。
二人はたくさんの話をした。そのささやかな契約にたどり着くまで、時間は無限にある。
そう少女二人は笑いながら話をした。
●《ギシャ》
扉の向こうは、荒れ果てた荒野だった。
山というには粗末な、切り出された岩のようなものが並び、その天辺で羽をたたみ世界を見渡す龍がいる。
鱗は堅牢、爪は鉄よりも固く。その羽ばたきでさえ木々をなぎ倒し、海を割る。
そんな世界最強の生命体の足元に『ギシャ(aa3141)』はいた。
おそらく『彼』からはこちらが見えないのだろう。
だからこそ、その瞳の色に気が付くことができた。
「どらごん?」
巨大で雄々しき竜。星の守護者。世界の破壊者。絶対なる存在。
何者も寄せ付けず、何者も近寄れず、世界を見守る竜。
ただしそれは孤独な王者。
その愛されない姿はひどく孤独で。
(カミサマ? ……寂しそうだね)
ギシャはぬくもりすら分け与えられないと知りながら、その足元に寄り掛かった。
対して『どらごん(aa3141hero001)』が立っていたのは、人の波の中。
灰色の流れ、個性のない人々、その真ん中で、流れに逆らうように少女が立っていた。
その目は瞳孔が開き、爛々と輝いているのに、人々は彼女に気が付かない。
気配を殺し、息をひそめ。少女は奴が来るのを待っている。
「神の御名において……」
ギシャは、それを見つけると波の中をかき分けて進む。
「等しく死という平穏を」
何かにうなされたように殺戮の意志だけを言葉にして。
「与えよう……」
そしてある男の袖を引いた。
その男は振り返ると、相手が少女であることに安堵し、笑顔を向けて見せた。
なんて単純なんだろう。
「ねぇ。おじさん。落し物だよ」
男簡単に騙された。彼が屈んだところで、背伸びをしたギシャに。心臓を貫かれてしまう。
そして。ギシャは逃げ延びて巣へと戻る。
だが、そこで待っていたのは非情なる現実だった。
四肢を繋がれ冷たい床に投げ出されるギシャ。
それをどらごんは黙って見ている。
「お前は用済みだ」
その言葉がギシャの中に浸みこみ、現実を帯び始めると同時に、その瞳は恐怖に染まっていった。
(その壊れきった魂を持つ生き物は、それでも抗い、生きる意思だけはあった。その意思に俺が引きずり込まれた。理由は知らん。同じ竜種としての因果か、その魂に惹かれたか)
「いやだ! やだ!」
その時だった、今まで傍らに立つどらごんを、ギシャは全く無視していた。
それも当然だろう、過去の映像なのだから反応しようがない。
しかしそのとき、ギシャの目がどらごんと合った。
「助けて。助けて!」
歪な形で世界を越えて容姿は変化し、力も消失したがこの世界に立てた。
それはこの子が望んだからなのだと、どらごんは今理解した。
「見えるのか? ギシャ」
「うん……怖い、怖いよ。どらごん」
「ならば、あの時の再現だ。俺はあの時のセリフを思い出した。お前はどうだ?」
わずかな迷いのあとにギシャは頷いた。
「生きる為に手を貸してもいい。報酬は――」
「ギシャのすべてをあげる」
『 誓約――孤独にさせない―― 』
あの日確かに結んだ絆が今よみがえった。
●《エステル》
……嘘みたいです
何も変わっていないのに……どうしたんですか?
痛ましいものを見るみたいに。
『エステル バルヴィノヴァ(aa1165)』の声が病室にひやりと響いた。
時は夕暮れ、茜色に染まる室内。
エステルはそのベットに腰掛けて、『泥眼(aa1165hero001)』を振り返った。
泥眼は扉の前にいて、無意識のうちに二人は、あの時であったままの構図で立っていた。
「……本当にこれで良かったのかしら?わたしの目的の為にエステルさんを利用する形になってしまった」
泥眼が言う。
「綺麗な空……」
エステルはこの景色を覚えている、長い間、目に焼き付けるように見つめた光景。
しかしそれを再び見て、綺麗だと思えるなんて思いもしなかった。
「つい、10分前には私、空を見る余裕なんて無かったです。それに……これで母さんも納得してくれます。ようやく能力者になったんですから」
「……でも誓約にはあなたの願いは何も反映していないわ」
エステルは苦笑いを浮かべる。
「別に……エージェントになれば愚神はいずれ倒さなければならないから邪魔にはならないです……違う、倒すだけじゃダメなんだ。デイ……ディタ?」
エステルは立ち上がり、真っ向から泥眼の瞳を見つめる。
「そうですよね? あいつらの望み自体を打ち砕かなきゃ誓約は果たされない。先回りして、意図を読んで、仕掛けをして……大丈夫です。誓約は完遂します」
泥眼は無言で言葉の続きを促した。
「ゲームみたいなものです。むしろしなければ成らない事が望みと違う方が良いです……だって汚れないから。私の気持ちはいつも中途半端で汚くて……世界の為にも私の望みを少しでも叶える様な物は叩き潰すべきです……冗談ですよ」
「わたし……」
泥眼はエステルにどんな言葉をかければいいのか、わからなかった。
「あの頃からエステルは笑えない冗談が多かったわね」
「だって、冗談じゃないから……攻撃を冗談にして誤魔化してるだけです。最低なのは変わって居ないと言う事ですね」
「わたしはエステルのお陰で変わったわ。この時は、本当ならエステルに感謝を伝えなければ成らなかったのに愚神への恐れと……それからエステルが怖くて何も言えなかったの」
「ディタが私を怖かった? ……いや、でもしょうがないですね。私は……」
ふと考えてエステルは思った。
「ではなくてディタ酷いです! そんな事思ってたんですか?」
エステルは泥眼と過ごしてきて、そんな感情一ミリも感じ取れなかったと戸惑う。
「ごめんなさい、エステル! 今はそんな事ないわ……丁度いい機会だから改めて言うわね」
そう泥眼はエステルの手を取った。
「エステル有難う、本当に……あなたと出会えた縁に感謝しています。三千世界に永遠は無いけど、出来るならずうっと友人で居たいと思うの」
「…」
二人は茜色の世界を見つめしばし無言で佇んだ。
●《藍》
「兄さん、見てほしいものが、あるんです」
そう『海神 藍(aa2518)』の袖を引く『禮(aa2518hero001)』の手は震えていた。
「たぶん、もう隠していけないことなんです。だから」
二人の目の前に広がっていたのは、無限に広がる赤。
これはとある、人魚姫の物語。
血に染まった海の上でただ一人、竪琴のかわりに武器を撫でる。
「兄さん、いえ、藍」
そう聞きなれない呼び方、それに影響されてか禮の声がいつもより大人びて聞こえる。
「……私は、才能が有ったから重用され、多くを殺した海の魔物。英雄と言えるかも怪しい存在なの」
その光景を藍は見つめていた。語る禮の淀んだ瞳を真っ向から見据えていた。
敵国より攻め寄せる者を、彼らの正義を殺し、海原を血で染めた物語。
「…ごめん、気づいてた」
そっと藍は禮の頭をなでる。
その手に撫でられるままうつむく禮。
「怖かったんだね」
彼女は。20歳だが、人魚としてはまだ子供で、戦士。
つまり、少年兵。
「守ったっていうのは、脅威を殺したってことだろ? 血に濡れて、子供で在れなかったことだろう?」
禮はおずおずとその手を伸ばした、水にぬれた手を伸ばし、藍の手のひらに重ねる。
「でも、禮。その冠は多くの物を守った証で誇り、なんだろう?」
「その背中の向こうで守られた人たちが居たからこそ、その希望であったからこそ、それを誇るからこそ、君は英雄で」
「私の敬愛する、黒き人魚なんだ」
その時、はじかれるように世界が変わった。
とある海岸、そこで行われた授与式。
黒い人魚姫は祝福されていた、感謝を受けていた、その輝く冠はその証。
「思い出しました、わたしは……」
祝福を受けて禮は振り返る、そこにいたのはいつもの彼女だった、欲しいものをねだり、うれしいことがあれば藍に一番に報告する彼女。
まるで少女のように禮は笑い、その冠を嬉しそうに藍に見せた。
「黒い人魚なんてわたししか居なかったけれど。そんなわたしも同じように愛してくれた、故郷を、みんなを守ろうと誓ったんです
「そうか……。それだ」
思わず藍は笑ってしまう。そこにヒントがあったのだ、そして一度手がかりをつかんでしまえば、記憶というものは紐ずる式に浮上する。
「週1くらいでケーキ等お菓子をごちそうすること、だろう? 禮」
事故のように交わされた誓約だったが、今日まで変更しなかったのには理由がある。
「そっか……その意味は、週に一度お茶会が楽しめる程度、平穏な生活を守ること、ですね!」
正義や組織、ましてや世界の為でなく、自らの周囲の小さな幸せの為に。
「帰ったらお茶にしようか」
「ええ、美味しいケーキを買って帰りましょう」
きっと、人がきいたらそんな些細な願いと、笑うのだろう。
だが、二人は知っていたのだ、このささやかな幸せを得るために戦い。
死んでいった人あり、失われたものがある。
だから、今は感謝しよう。こうしてささやかだが一番大切な願いを、誓約をも出だせたこと。
そしてこの幸せのために全力で苦労を分かち合える兄妹の存在に。
●《フィアナ》
その扉をくぐった先で待っていた世界は、兄のいない世界だった。
「兄さん? 兄さんどこですか?」
その姿は見えないが、だが近くにいるのか温もりだけは感じる。
「それじゃあ行こうか、フィアナ」
「兄さん?」
『フィアナ(aa4210)』世界が反転していく、ざわめく胸の内、一瞬の浮遊感。そしてあの日にたどり着く。
二人が誓いを結んだあの日。
「ああ、そうだ、確かこの日にこっちの世界に来たんだったかな?」
『ルー(aa4210hero001)』は語る、そして彼の語りと同時に世界が再構成されていく。
「元いた世界には飽いていてね、何か面白いものを探していたんだよ」
「森の中だったね、十と少し位の歳の女の子がぼんやり座り込んでいてね」
「それが、君だったね、フィアナ」
呼ばれ慣れている筈の自分の名が、何故だか今はやけに引っかかった。
「兄さん?」
不安になって兄を呼ぶ、しかし兄は意も介さず。やがてたどり着いた小道の端に蹲る少女を見るように言った。
「記憶が無いらしいのだけど、そのせいだろう、抜け殻だとか人形だとか、そういうものに見えたんだよ」
その少女はフィアナは見上げる。
初めて見る過去の私、そして初めて向き合う過去の私。
「でもどういう訳か自分の名前を呼ぶ“兄さん”の存在を夢に見る、って事だけは憶えているらしくてね」
「抜け殻かと思えばその話をする時だけ目に光が灯るものだから、少し興味が出てね、聞いてみたんだよ」
「『君に望みはあるのかい?』って。
木々がざわめいた、怪しい魔王がすむかのように武器に蠢く森に、ただ一人少女がいることが異質だった。
「返ってきた言葉はこうだ」
その言葉をフィアナはなぞって見せた。
『私の望みはただ一つ。“兄さん”との約束を果たす事。何故なら私はフィアナ。希望と光を導く者の名』
「ああ、面白いものを見つけた。そう思ったね。それが僕等の始まりさ」
その言葉にフィアナは頷いた。
「そう、そうなの、大事な名前……どうして忘れてしまっていたんだろう…“兄さん”に貰った……大事な」
「……私はフィアナ。希望と光を導く者の名」
かみしめるようにフィアナは告げた。
「だから、私は、“兄さん”との約束を、果たすの。希望に、光になるの。それが私が、兄さんと……ルーと交わした、誓約」
振り返ればそこにルーがいた。いつもの穏やかな笑みを浮かべ、フィアナに手を差し出す。
その手を払ってフィアナはルーの胸へと顔をうずめた。
「折角だし、あの日の再現といこう。“ならば君は光に、希望になれるかい?”」
「“なれるかじゃないの”、“なるのよ”」
『“君がそうあらんと進むなら、僕は何時でも力を貸そう”…さて、それじゃあ帰ろうか、フィアナ」
「うんっ! 兄さん、大好き!」
暖かな光が二人を包んでいく。
●《恭也》
『御神 恭也(aa0127)』は燃え盛る陰炎を払って、瓦礫の山の上に立った。
それを見あげて『伊邪那美(aa0127hero001)』は問いかける。
「なに此処、周囲が炎で囲まれてるし爆発音が偶にするんだけど」
しかしその言葉は恭也の耳には入っていない。なぜなら。
「あの日なのか? もし、そうなら向こうに……」
その山を滑り降りて、荒れ果てた町を駆ける。
「待ってよ! 恭也」
町の構造が手に取るようにわかる、なぜなら自分がかつて生きた街だから。
「やはり、か」
そう恭也は足を止める、その視線の先を追いついてきた伊邪那美が見つめた。
そこには痛ましい光景が広がっていた。
鮮血、それは瓦礫の挟まり事切れた男のもの。その傍らには満身創痍な女、そして幼い子供を見つける
「大丈夫!?」
伊邪那美はあわてて駆け寄り助けようとするが。瓦礫にかけようとした手はむなしく空を切る。
「過去は変えられないか……」
そう、その過去を体感した本人でさえ。一番変えたいと願っている本人でさえ。変えることはできないのだ。
「恭也が知ってる人? 子供の方は何処か恭也に似てる気が……」
「俺の両親だ……」
伊邪那美は目を見開いた。
「ここは二人を亡くした事故現場のようだな」
その時だった、今までにない特大の地響きによって、瓦礫の山が崩れ始めた。
泣いていた少年はそれへの反応が遅れ。女性は最後の力を振り絞って少年を突き飛ばした。
震える声、霞む視界。少年は母の手を取る。
冷たく、力なくなったそれ。母は言った。
かすれた声で少年に何かを伝えようとした。
「…………」
そして母は最後に一つ笑顔を浮かべて、そして。
世界が光に包まれる。伊邪那美は恭也の苦々しげな表情をただ、見上げていることしかできなかった。
二人は気が付けば元のリビングに戻っていた。
恭也は椅子に乱暴に腰を下ろして、テーブルの上に並んでいたケーキを食べ始める。
「恭也!」
伊邪那美がたしなめた、しかし、彼の様子はおかしい。
「どこの誰だがかは知らんが胸糞の悪い事をする」
「なにがあったの……」
恭也はその問いかけに答えない。
「いい加減それを食べるのやめてよ、言いたいことも隠して、すねてるだけなんて恭也らしくないよ」
伊邪那美は恭也の手を取った。
「教えて。何を思ったの?」
「思い出して来た、俺はあの時から力を求めた。力があれば二人は足手まといだった俺を護る必要は無かった……」
「本当にそれだけ? 初めて会った時、恭也は敵意と警戒心を向けて来たけど、その目の奥に悲しそうな光があったよ」
「愚神に襲われた直後だ。似た力を持ったお前に敵意等を向けるのは不思議じゃない。悲しみが見えたのは仕事を全う出来ないと思ったからだ」
それは違う、そう伊邪那美は首を振る。
「あの時感じたのは、約束を守れない悲しさだった。ねえ、御母さんは最後になんて言ったの?」
恭也は思い出していた、自分が俯瞰的に見た過去の光景ではなく、自分の目で見たその時の光景。
母の笑顔、そしてその言葉、唇の形、今でもそれは鮮明に思い出せる。
「……生きろ」
その時二人の出てきた扉に亀裂が入った。
「そうか、あの時に伊邪那美との契約を直ぐに結んだのは母親との約束と重なったからか」
「うん、死は全ての道を閉ざす。けど生きていれば過ちは正せるから」
行こう、生きるために、そう、二人が再び扉の中へ。
●《龍哉》
『赤城 龍哉(aa0090)』が扉を開けて見た光景は、自分の過去ではなかった
扉を開けた先に広がっていたのは、外国らしき場所。
西洋文化と言われるとなん得できるような建造物が立ち並び、重たい甲冑や大剣、冗談のように馬鹿でかい武装を身に着けている人々がいた。
そんな彼らはやがて列をなし、隊列を組み、国の端へ端へと進軍を開始する。
それが何に対してなのかは龍哉はわからなかった。あるいは彼女に問いかければわかるのかもしれないが。
「ヴァルトラウテ……」
いつも隣に立つ相棒の姿が戦場にあった。
彼女はまるでオーロラのような輝きを、ヴェールのように身に纏い、天馬に跨って戦士たちを見守っていた。
しかしその視線は龍哉に注がれることはない。
ここは彼女の世界なのだ。そう理解した。
戦は長きにわたって続いた。戦いが終わる頃、彼女は倒れた戦士たちの元へ降り立ち、幾人かの魂を天へと導く。
対して『ヴァルトラウテ(aa0090hero001)』が光から目を上げると日本にいた、人里をやや離れた場所にある道場らしき場所。
そこでは少年が一心不乱に修行に打ち込んでいる。
時代は明らかに現代。一見すれば時代錯誤とも見える鍛錬の数々。
しかしそれを、疲れも見せずにこなして見せる老人の姿に、少年は目を輝かせながら追いすがるようにして着いて行くのだ。
やがて時は流れ、少年は青年となり。反抗期なのか悪態をついては老人にしばかれるようになった。その光景を見て笑うヴァルトラウテ。
「変わりませんわね……」
それでも青年は修行に打ち込む事を止めはしなかった。一方、学校などでその腕前を披露する事も殆どなく。
僅かな例外はクラスメイトを他校の不良から護った事くらいか。それが原因で学校の裏番扱いされていたのを彼は知らない。
そして、青年は成人し、ある時愚神と出会う。
「よう、ヴァル」
「あなた、いつの間に……」
ヴァルトラウテは突如隣に出現した龍哉を見て驚きの声を上げた。
「あの時は参ったぜ。殴っても蹴っても効きゃしねぇんだからな」
しかし恐れを知らず立ち向かっていく青年、龍哉。
彼は目の前に立つ、初めての圧倒的存在に笑みすら浮かべていた。
「驚きましたわ。ライヴスを吸われながら、勝てぬと知って尚闘いを諦めない姿に」
逃げる事は叶わない。
ならば闘って道を切り拓くしかない。
しかしむざむざ死ぬつもりなど毛頭ない。
彼女が青年の元へ導かれたのは正にその時だったのだ。
「あの時の約束覚えてるんか?」
そして過去の世界で自分たちがであった。
ただひたすらに力を求める青年と。戦乙女。
運命の歯車が回り出す。
「『折れる事なく戦士として高みを目指すこと』」
●《杏奈》
『世良 杏奈(aa3447)』はその空間に入った時、五感を縛りつけらるような感覚に襲われたという。
まるで体全体が小さくなってしまったような感覚、そして耳元で聞こえる。
口論。
「何だこの出来損ないは!『娘そのものにしてくれ』と言っただろう!」
男性の厳しい声
「そうよ!この子、私達の事が分からないって言うのよ!どういう事なのよ!?」
女性のヒステリックな声。
「そう言われましても…… 姿形はいくらでも似せられますが、記憶は再現の仕様がありません。人形に魂を入れている訳では無いのですから」
そして商売口調の男は困ったように言葉を濁した。
「それでは意味が無いんだよ!! これでは娘が蘇ったとはいえない!」
その言葉が胸に突き刺さる。
自然と涙が出た、しかし、それは杏奈の感情ではない。ではだれの、
啜り泣きが耳に響いた。
「……お言葉ですが、死者を蘇らせる方法などありません。娘さんはお亡くなりになりました。それは受け入れる他無いのです」
「黙れ!! 知った様な口を利くな! 娘を失った悲しみが貴様に分かるか!」
この時杏奈は理解した。
自分は望まれて生まれてきた存在ではないんだ。
「とにかく、この人形はいらん。連れて行ってくれ。」
そして杏奈は見る、鏡に映るその姿。ルナの姿を。
「……!」
「本当に宜しいのですか?」
「……ああ」
世界がひび割れ、気が付けば杏奈は逃げ出す『ルナ(aa3447hero001)』を追っていた。
その手を取って抱き留め、その世界を脱出する。
二人はリビングに戻ってきた、その震える体は小さく頼りなく、その手は支えを探してさまよっていた。
「もう、いやだ! あたし、もうやだ!!」
まるでいつもの気丈さを失い泣きわめくルナ。
「だれも、だれもあたしを……」
「違うわ、ルナ。私はあなたの味方よ」
「嘘よ! 杏奈も杏奈もいつか私をすてるのよ、きっとそうに決まってる」
杏奈はもがくルナを抱き留め、優しく、優しく語りかける。
「違うわ、ルナ。誓ったじゃない、私達。あの日、あなたにあった時に」
そうだ、自分は誓ったのだ。
そう思い出し始めていた。この震える少女のために、できることそれを
「思い出したよ。ルナ」
「え?」
「誓約は、家族になる事だ。私はルナと出会った時、この子の母になると決めたんだ……!」
「アンナ」
そうやっと微笑んだルナを杏奈は抱きしめ笑った。
●《緋十郎》
『狒村 緋十郎(aa3678)』は『レミア・ヴォルクシュタイン(aa3678hero001)』を振り返る、他のリンカーたちは相棒と連れ立って扉の向こうに行くようだが、緋十郎は一人のようだった。
レミアはその手のグラスを飲み干して、次を注ぐ。
渇きは増すばかりのようで、ペースはどんどん早くなっていった。
「早く、行ってきなさいよ」
緋十郎は受け取った鍵を扉に差し込んだ。そして。
緋十郎が観たのは彼女の半生だった。
〈13歳の誕生日〉
そうレミアのやけに単調な声が響く。
「レミア?」
玉座の上に佇む白いドレスの王女レミア。
しかし彼女の最初の一生は、幼くして終わりを迎えた。
<その日が蒼い空を見上げた最後の日>
青く澄んだ瞳を湛え、高い空を見つめる。風を感じながら高い木の上の枝に座る。
しかし少女は重力の手に引かれ、滑り落ち命を落とした。
嘆き悲しむ父親たる国王。共に涙する緋十郎。
そしてここからが過ちの始まり。
次の満月の夜。王はレミアの亡骸の前で。国中から集めた、レミアと同い年の少女百人を生贄に。反魂の儀。
百の悲鳴と、王の絶叫。そして。
目覚めたレミアの瞳は禍々しい赤。
目覚めた吸血鬼の始祖は緋色の爪で父親の胸を貫き心臓をえぐり出した。
鮮血は甘く香り、その瞳には何の感情も見て取れなかった。そして心臓を握りつぶす。
そしてレミアは。一夜で国中の人間を殺しつくした。
殺された幾人かはレミアの眷属に、意志亡き死体となり果てた。
レミアは不死の軍勢を引き連れ、近隣諸国をその列に加えていく。
<百年後>
レミアは孤独の中にいた。冷たい玉座、城。
退屈が彼女を覆っていた。
暇つぶしに眷属達に自分の誕生会を命じるが
眷属達は呻き声をあげるばかり
レミアは苛立ちの声を上げ、癇癪にまかせて死体たちを壊していった。
<さらに、数百年後>
人類は反旗を翻した、残った希望を全て集め。人類軍はレミアの居城に進軍。
結果的にレミアはすべての兵士を殺し切り、見せしめに老若男女皆殺し串刺しにして晒す。
<緋十郎……>
その時だった、グラスの割れた音で緋十郎は元の世界に帰る。
緋十郎はレミアに駆け寄る。
「一体何が?」
緋十郎はレミアを優しく抱き上げ。青ざめた唇を、首元に近づけた。
冷たい唇が首筋をなぞる。
レミアは貪るように緋十郎の首に口をつけた。
血の味と牙の痛みで二人は完全に記憶を取り戻す。
「緋十郎!」
レミアはそのまま緋十郎の首に抱き着いた。
「ねぇ緋十郎……わたし。千年の間……ずっと、寂しかったの……。お願い……もう一人にしないで」
緋十郎は彼女の口からきいた始めての弱音に、涙を流し、その体を抱きしめた。
自分はこんなにか弱い少女を、何度も何度も不安にさせていたのか。
そう思うと、ふがいなさに自分を壊してしまいたくなるほどに。
「すまない、レミア。すまない……」
●《芽衣》
レミアと緋十郎はそのまま抱き合って光の中に消えていく。
その光景を『北里芽衣(aa1416)』と『アリス・ドリームイーター(aa1416hero001)』は見つめていた。
これで二人を除くすべてのリンカーはこの世界から消えてしまったことになる。
先ほどまで騒がしかったリビングにはもう、二人しかいなくなっていた。
「アリス、いい加減私たちも」
そうふりかえったアリスは信じられない者を見る。
アリスが、自分の扉の鍵を地面に叩きつけて破壊していた。
「何をしているの! アリス!」
「だーかーらー。ここにいるの、ずーっとアリスと一緒! ね、芽衣、ずっとよ! 二人でいっぱい遊ぶの!」
「アリス、それはできないのよ、だって」
そう口を開いた芽衣にテーブルの上にあったお菓子を手づかみで救い、口の中に押し込んだ。
「てーちゃくってこれでするかしら。芽衣、もっと食べなさい、食べなさいよ!」
なぜ、そう芽衣は思うが言葉にできない
「芽衣はアリスのこといらないんでしょ」
そうアリスは言うと、悲しそうに両手を下ろした。
「アリス、いのちのこともちっともわからないもの。芽衣がダメっていうから壊してないだけだもの。芽衣はそんなアリスのこと、だ、だいっきらいでしょ?だからあんなに怖い顔して怒るんでしょ?」
「違うわ、アリス」
「で、でもね、アリスはずっと芽衣といたいの。芽衣がいないとやなの!芽衣がどこかいっちゃったらすごくいやなの!だからずっとここにいて!アリスといて!」
「アリス、私変わったの。っ、こんな気持ちになってもね、アリスとまた、一緒に外にいきたい!」
「今の芽衣はだいっきらい!なんでアリスがいないで平気になっちゃったの!?芽衣はアリスのお友達なのに!」
両手で芽衣はアリスの頬を包み込む。
「私がアリスを怒るのはね、アリスが大切だからなの。わからなくてもいい。でもアリス、私はアリスを見捨てたりしない、嫌ったりしない」
「誓約を忘れても、何もわからなくても、アリスは大切な、私の一番の友達だから」
「今の私がいるのはアリスがいたからだよ、だから私にはずっとアリスが必要なの」
「私はやっと光を見つけられた。だからね、アリスにもその光を見せてあげたい、一緒に見たいの」
「行こうよアリス。私達は昔じゃなくて未来を見よう」
「二人で一緒に前に進むの。それがね、私達の新しい誓約」
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