本部

呪われた女性首相

時鳥

形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/05/04 22:33

掲示板

オープニング


 イギリスの現首相である女性、キャロリン・サーチスは憂鬱な気持ちを逃がすようにため息をついた。ここ最近、とてもよくないことばかり起こる。しかも、一歩間違えば自分が死んでいたに違いない事故ばかり。
 いや、これは事故なのだろうか?
 元を辿ればあの日、副首相であるジェフ・ホワイティングが深刻な顔で彼女の家にやってきた時からこの恐怖は始まっていた。
 アジアでH.O.P.E.絡みの大規模な事件が発生し、欧州でも支援などの問題でごたごたが続いていた。その最中、どうしても個人的に話がしたい、とジェフがアポイントメントをとってきたのだ。
 副首相としてキャロリン自身が任命した相手だ。信頼は厚い。その彼が忙しいことは分かっていてもどうしても話がしたいと言う。そこまでであれば、キャロリンも話したい内容というのが気にかかってくる。無理やりその日のうちに時間を空け、夜も遅い時間に自宅で落ち合うこととした。
 夜23時頃、眉間に深い皺を刻んだ男性――ジェフとキャロリンはリビングのソファーにテーブルを挟んで対面していた。
「キャロリン、忙しいところすまない。どうしてもすぐに伝えておかなければならないことがあって……」
「いいのよ、ジェフ。忙しいのはお互い様だもの。それよりも、伝えておきたいことって何かしら?」
 ジェフの声は普段よりも少し暗い。それだけ、何か重大なことをキャロリンに伝えようとしているのだろう。キャロリンの問いかけに一度大きく息を逃がしてからジェフはゆっくりと口を開いた。
「君は……呪いというものを信じるかい?」
「何を言っているのジェフ?」
 唐突な予想をしていなかった問いかけにキャロリンは驚いた顔で問い返す。彼の口から呪い、という言葉が出てくるのは初めてだった。
「実は……キャロリン、落ち着いて聞いてくれ。話したことはなかったと思うが僕は元々そういうことに精通している集団と通じていて、ね。彼らがキャロリン、君にとてつもない呪いをかけようとしている相手がいることを教えてくれたんだ。そして、数日のうちにその呪いで君が命を落とす、ということも」
「……ジェフ……」
「分かるよ、キャロリン。にわかには信じられないんだろう? だから、これを……」
 困惑しているキャロリンにジェフは苦笑いを浮かべて小さな箱を自身のポケットから一つ、テーブルの上に出した。そしてキャロリンに開けるように目で示唆する。
 信頼の置けある相手から呪い、だのという話が飛び出て呑まれているキャロリンは大人しく箱を手に取った。恐る恐る開ける。中身は赤く綺麗に輝くルビーの指輪。
「これは……」
「キャロリン、今は僕の話を信じてくれなくていい。ただ、時間がないんだ。本当にここ数日のうちに君は命を落としてしまうんだよ。だから、その指輪をつけていてほしい。その指輪が君を、その呪いから辛うじて守ってくれるはずだから」
 ジェフの表情があまりにも真剣であったが故に、与太話、冷やかし、だという考えはキャロリンの中に生まれなかった。指輪を箱から取り出し、右手の人差し指にはめる。
「あら、サイズは丁度いいじゃない。ジェフ、私は貴方のことを信じるわ。それに何も起こらなければそれに越したことはないけど、念の為、ね」
 そう言ってキャロリンは指輪を見せるように右手を掲げて見せる。ジェフの表情がほんの少し和らいだ。


 結局、あの三日後、キャロリンはジェフの話の意味を実感する。議会に参加すべく階段を上っていた時、何者かに後ろ髪を強く引っ張られた。実際に引っ張られたのか、その時はよく分からなかった。ただ、自身の体が後ろに倒れ、味わったことのない浮遊感と一瞬見える天井。次には踊り場に仰向けで倒れていた。暫く自分に何が起こったのか、キャロリンは分からなかった。すぐに病院に運ばれることとなったが、幸運なことに軽い打ち身だけ、という診断だった。
 それだけではない、次の日には引っ張られたような感触がして車の前に飛び出しそうになった。ある日は包丁がドアを開けたら降ってくる。そんなことが毎日続き、キャロリンは命の危険をひしひしと感じていた。
 そんな日々に疲れ切り、憂鬱なため息ばかり出てしまう。誰にも見えない何かが確実にキャロリンを追いつめている。起きる事故も徐々に規模が大きくなっているように感じる。普通のボディーガードではもう何の役にも立っていない。
 いつもギリギリ、せいぜい軽い怪我で助かっているのはジェフがくれた指輪があるから。でも、それもいつ限界を迎えるか分からない。
 自室の電話をとるキャロリン。通話先はH.O.P.E.。
「ごめんなさい。そちらが忙しいことは分かっているのだけれど……えぇ……依頼をするわ。私のボディーガードを……」
 H.O.P.E.へ、自身のボディーガードを数名頼む依頼を取り付けた。


 H.O.P.E.へイギリスの首相キャロリン・サーチスより依頼が入りました。内容は彼女のボディーガードです。数日前から彼女の身に不可解な事故が多発しているそうです。
 誰の目に見えない何かに引っ張られたり押されたり、また、所謂ポルターガイスト現象の発生も確認されていることから一般人には対処できない域に達しているものと思われます。彼女は首相として仕事を休むわけにはいかないので、その仕事をしている間のボディーガードをお願いします。
 また、彼女からの依頼内容には入っていませんが、不可解な現象の究明も行ってください。このまま続けば遠からず彼女は命を落としてしまうでしょう。
 依頼人からの説明では原因が全くと言うほど分かっていない状態ですので気を付けて任務に当たって下さい。

解説

●目的
・イギリス女性首相のボディーガード
・首相に起こっている不可解な現象の究明

●当日簡易スケジュール
・朝、自宅から議事堂まで車で移動
・議会への参加
・議事堂から車で会食があるホテルへの移動
・メディア幹部との会食
・ホテルから自宅への移動
※車での移動の際に首相との会話をすることが可能です。
※車の最大乗車人数は運転手、首相を含め10人となります。その為、乗車最大人数を超える場合、首相とは別の車で移動する、英雄が幻想蝶の中に入る、共鳴状態になるなどで対応して下さい。
※すべてがスケジュール通りに行われる保証はありません。
※大きな事故が発生する可能性があります。
※原因究明の際、首相から離れる必要が出てくる場合、最低エージェント4人はボディーガードとして首相の元に残って下さい。

●会食が行われるホテルについて
 テムズ川に接している高層ビル。会食は最上階の夜景が楽しめる高級レストランで行われる。メインロビーはシャンデリアなど数々の装飾品で彩られ明るく広い。
 エレベーターは3つだがそのうちの2つは外を眺めることのできるガラス張り仕様。

●起こり得る事故について
・他の車との衝突事故
・走行中の車のブレーキの故障
・議事堂からテムズ川への転落
・ホテルにてシャンデリアの落下
・ホテルエレベーターの故障
・ホテル最上階での窓ガラスの破裂
・ホテル最上階からの転落
※全ての事故が起こる保証はありません。ボディーガードプレイングの参考程度にご利用ください。

リプレイ


 首相の近くに粗野な前科持ちのアメリカ人がいたら困るだろうさ。そう判断したマック・ウィンドロイド(aa0942)は自身の英雄、灯永 礼(aa0942hero001)と御神 恭也(aa0127)、またその英雄、伊邪那美(aa0127hero001)と共に別行動をとっていた。
 護衛をしながらでは不可能な聞き込みや調査を行うわけだがマックは元々ハッカーであり、調べればそれなりのことを知ることができる。適材適所と言うわけだ。蝶埜 月世(aa1384)の提案を受け、元ボディーガードへのアポイントメントや榊原・沙耶(aa1188)から頼まれた防犯カメラの映像のチェックなど、やることは多岐にわたる。
 一方、恭也は複数用意したダミーの車に異変がないかどうかの監視を行っていた。この車のルート情報を別々に関係者に流し、内通者を炙り出そうという作戦だ。それぞれにカメラとマイクが仕掛けてある。もちろん情報共有の意味も兼ね、首相の乗った車にも同じものが仕掛けてあるわけだが。
「首相の防人役の人達を騙しているみたいで、いい気分じゃないね」
「外からの敵よりも内通者の方が恐ろしいんだ仕方が無い。だが、偽情報に一つも引っ掛からない時は何か目印になる物がある証明になる」
 那美が眉尻を下げ呟く言葉に複数のカメラの映像とマイクの音声を確認しながら冷静に答えを返す恭也。
「呪いだって? 人間の科学力程度じゃそういう解釈しか不可能なんだろうね。だが、ライヴスを利用したオカルトというものは、お前達人間の下等な科学が発見できていない物理法則にすぎないさ」
「呪いという名のライヴス犯罪だとすれば、そのライヴス犯罪の根源を追跡調査することは可能なはずだ」
 首相の車から流れてきた呪いの話に礼がやれやれ、と言いたげに零す。横で聞いていたマックが小さく笑い、那美は二人を見つめて首を不思議そうに傾けた。
「確かに根源の呪いの媒体が分かれば呪詛返しを行えるのにな~」
 礼の言っていることはよく分からないが、那美にとって呪いというものは割と普通にあるもの、という認識だ。自分の力を発揮できないことに口を尖らす。その時だった。タイヤが地面に急激に擦れる音が飛び込んでくる。
 首相の乗った車でトラブルが発生したようだった。
「ブレーキが利かなくなった! 囮に使ってた車の一つをこっちに回せるか?」
 少しして赤城 龍哉(aa0090)から通信が入った。車は月世の提案で直前に変えたし、全て真下からボンネットの中まで調べた。特に何の異常もなかったはずだ。それに、首相が乗っている車のルート情報はどこにも流していない。まさしく、呪い、としか言いようのない現状に恭也は深く眉間に皺を寄せた。


 ロンドンの街を朝の光が照らし出している。イギリスの首相、キャロリン・サーチスを乗せ議事堂へ向かい始めた黒いワゴンの中には5人の共鳴者と能力者1人、英雄1人が同乗していた。
「急な依頼なのに来ていただいて本当に助かるわ」
 6人の顔を順に確認してから首相はやつれきった顔の中に小さな笑みを浮かべた。
「わたしは吸血鬼の王女、レミア・ヴォルクシュタインよ。安心なさい、何が来ようとわたし達が護ってあげるわ」
 共鳴者の一人、狒村 緋十郎(aa3678)、いや今の意識は彼の英雄レミア・ヴォルクシュタイン(aa3678hero001)の方だからレミアとするのが妥当か。彼女が首相に不敵な笑みを浮かべそう言い切った。しかし、緋十郎は先の戦いで大きなダメージを負っており、共鳴している今の状態では身体がうまく動かせない状態で、ライヴスを纏った攻撃を食らえばひとたまりもない。けれども疲労感や痛覚は緋十郎が背負っている為、レミアは気にしないでいられる。
「呪いって話だけれどねぇ、もっと詳しい話を聞きたいわぁ」
 沙耶がそこへゆったりとした口調で口を挟む。首相は考え込むように顎に手を当てた後、依頼内容と殆ど同じことを繰り返した。
 首相と一部のエージェントがやり取りを交わす中、龍哉、月世、不知火 轍(aa1641)の三人はライヴスゴーグルを使いライヴスの流れを確認し、どこから来るか分からない何かの襲撃に神経を張り巡らせていた。ただライヴスの流れに不穏な点はない。
 また、残るもう一人クレア・マクミラン(aa1631)は唯一共鳴していない。緋十郎同様先の戦いで多大なダメージを負っている。その為、無茶無謀は避け、首相から情報を引き出すことを狙い英雄のリリアン・レッドフォード(aa1631hero001)と共に車に乗り込んだ。リリアンはクレアの体調を心配し隣に寄り添っている。
「首相、一つお聞きしたいのですが、その指輪はどうしたのですか?」
 クレアが口を開いた。日頃見ていたBBCニュースと違い、首相が変わった指輪をつけていることに気が付いたからだ。赤く赤く光るルビーの指輪。それを指摘され首相は明らかに戸惑いを示す。何か言いよどむ彼女に視線が集まった。クレアが更に問いを続けようとした瞬間――唐突に車体が大きく傾く。
「ぶ、ブレーキが!」
 運転手の悲鳴のような声に全員が身構えた。龍哉はすぐに状況を判断すると首相の体を抱え、車のドアを開け放ち飛び出して脱出を図る。轍は運転席を覗き込みブレーキがどうなっているのかライヴスゴーグルで確認した。僅かだがライヴス特有の煙が見える。
(ライヴス異常ですか? なら先に運転手さんと重体の方の脱出を図りましょう)
 轍の英雄、雪道 イザード(aa1641hero001)が心の中から指示を飛ばす。後方に残る仲間をちらりと見やり、ハンドルに手を掛け運転手を席から無理やりどかし一番近かった月世に任せて運転席に座る。
「……俺がやる。全員出ろ」
 短くそれだけ伝えるが、数々の修羅場を潜り抜けてきた他のエージェントには十分だった。月世が運転手を抱え、沙耶がクレア達を補佐する。レミアも脱出だけならば問題ない。轍以外の全員が素早く車からの脱出を成功させた。一人取り残される轍。バックミラーを見ると後続車が離れているとは言え、急に止めれば追突するであろう距離で続いている。縫止や女郎蜘蛛を使い車を急停車させるのは最善とは言えない。ブレーキはやはり利かない。どうするか。
(この先に確かテムズ川があります。そこへ車を落とすのが一番被害が少ないと思いますが……)
 イザードの提案に前方を見遣る。広くロンドンを象徴するテムズ川が光を反射し輝いていた。どんどんと近づいてくる。ハンドルを切り柵のない歩道へ乗り上げ、そして――ドボンッ。
 大きな水音と共にワゴンが川の中へ呑み込まれる。ギリギリのところでドアを開け飛び出した轍は車が跳ね上げる川の水を眺めていた。
 一方、建物の物陰、前後上空、見張っていれば敵の奇襲には即対応できる場所。そこまで龍哉達は首相を連れて避難をしていた。恭也に連絡をとり、囮に使っていた車を回してもらう手はずを整え、通りに面した人に比較的見られやすい場所はスーツに身を包んだ龍哉が見張り、路地裏、上空は他のものが身構えている。何が起こるか予測が出来ない現状だ。気を抜くことは出来ない。


 車が到着するまでは緊張の中、特に不審なことは起きなかった。轍を途中で拾い議事堂までの道を車でひた走る。余裕を持っていたとはいえ、やはり一つトラブルが発生するとスケジュールは押してしまう。
「本当にH.O.P.E.のエージェントは心強いわね」
 一息ついたところでエージェント達の手際の良さに安心からか首相の表情が最初より幾分和らいだ顔で全員を見渡す。
「首相、先程の指輪の件ですが……」
 そこへクレアが事故の起こる前の話を切り出すとすぐに彼女の顔は強張ったものに変わった。そして、暫くの無言。その瞳に迷いが揺れているのが見て取れる。
「首相、私はこの国の軍人でした。王室への忠誠と、この血に対する誇りにかけて、守秘義務は果たします」
 クレアは右手の甲を額に当てまっすぐと首相の目を見つめながらはっきりとした口調で言い放つ。そして首相は何か思い当ったかのように驚いたように口元を抑えた。
「貴女、名前は確か……」
「クレア・マクミランです。不躾な質問であることは分かっています。しかし、私のことを嫌っていただくのは構いません。それでも私はこの国を、貴女を守らねばならない」
「私からもお願いいたします。どうか、無駄な血を流さないためにも」
「……そう。だから無理をしてでも依頼を受けてここまで来てくれていたのね。その気持ちに応えなければならないわね。この誇り高き国の首相として」
 クレアの必死の願いと柔らかなリリアンの雰囲気が首相の心の迷いを晴らしたのだろう。首相は大きく頷いた。その必死さの裏付けを過去のクレアの功績と、H.O.P.E.から重体者の話で首相は確実なものだと判断したのだ。まっすぐとクレアを見返し彼女は微笑む。そして、不用意に口外はしないでほしい、とだけ付け足し、副首相ジェフ・ホワイティングとのやり取りをその場で話しだした。

「副首相のこと、随分と信頼しているのね。……これを言ったところで貴女は信じないのでしょうけれど……わたしには、その指輪と副首相、とってもうさんくさく感じられるわ。権力や名誉のために誰かを陥れようとする……そんな醜い輩が、人間の歴史にはごまんといたもの」
 首相の話がひと段落するとレミアはあまりの副首相の怪しさに何故疑わないのか、と怪訝な表情で言い放った。この指輪が守ってくれているの。と大分表情が柔らかくなっていた首相の顔が一変、険しくなる。
「副首相のことをもう少し詳しく教えてもらえませんか、首相」
「え、えぇ……あぁ、でも議事堂へもうすぐ着くわ」
 クレアが横から問いかけるが外に視線をそらした首相が目的地の到着に気が付く。議会が始まるまであまり時間がない。今回は何より彼女の仕事が優先だ。
 議事堂内には重体のクレアとレミアを除いた4人で向かうこととした。が、その前に月世が龍哉と轍に声を掛ける。
「二人に一つ聞きたいのだけど、ブレーキが利かなくなる直前、あの指輪に微かにライヴスの煙が纏わりついてなかった?」
「……それは俺も気になっていた」
「あぁ、気のせいかってくらいだったけどお前らにも見えてたのか!」
 そう、ブレーキが利かなくなる直前、クレアの一言で指輪に注目していた三人。彼らのライヴスゴーグルは確かに僅かな変化を捉えていた。
「なにか手掛かりになるかもしれないから、調査組に伝えておいた方がいいよね」
「……ならクレア、頼む」
「あぁ、轍。分かった」
 轍がクレアに声を掛ける。話は聞いていたクレアは一つ頷き、その後4人は首相と共に足早に議事堂の中へと歩を進めその場を去った。そこへ通信機がけたたましく鳴った。リリアンが通信機の通話に出る。
「タイミングが良さそうだからこっちから入れてみたよ」
「マック様っ」
「全部カメラ越しに聞いていたから説明は大丈夫。副首相の件はこっちで調べればある程度のことは分かるよ。情報の共有を始めようか」
 そこにまた別の通信機が鳴る。今度はクレアがその通話を取った。
「ボクも話にいれてよ!」
 その相手は那美。子供特有の元気いっぱいの声音にすこし空気が明るくなったような気がした。
「それでそっちは何か分かったの?」
 レミアが通信機越しにマックと那美に問いかけた。
「あぁ、先に僕からいいかな? 防犯カメラのチェックや聞き込みについては特筆する情報はないね。あるとすればボディーガードをしていた連中の話だけどさ、事故は最初は一日に一回程度だったけど段々日に日に増えていっていたらしいよ」
「ここから推測されることは物理法則に乗っ取ってそのオカルトというものが発動している可能性だね。つまり一回の呪いの後は多少なりともスパンができるということだよ。そしてそれは徐々に短くなっている。人間の科学力程度じゃそれを計算して打ち出すなんてことは――」
「とにかく、今は大分そのスパンも短いと思うよ、ってことかな」
 説明の途中から割り込んだ礼だったが、いつもの通り適当なことを言い始めたのでマックが通信機を礼から離し分りやすいようにまとめて伝える。
「後はこれから副首相のことと、その副首相が接触している魔法使い達について調べるつもりさ。こっちは以上だよ」
「じゃあ、次はボクたちの方だね。囮の車は特に何もなかったから内通者がいて事故が起こるように細工してるわけじゃないみたいだよ。それでこっちは議事堂に向かってる。議会なら副首相もきてるんじゃないかって、議会が終わった後に待ち伏せして副首相と話をするって恭也が言ってたよ」
「副首相と?」
「うん、だから、何か聞きたいことがあったら議会が終わるまでに連絡してね」
 マックの次に那美が恭也の代わりに集めた情報を説明する。副首相の件を聞き顔を見合わせるクレアとリリアン。これは、他の4組にも早急に伝えた方がいいだろう。
 そんな風に皆がやり取りをしている最中、レミアは心の中で緋十郎と会話をしていた。
(レミア、俺たちはこの後、副首相の経歴や身辺調査に加わった方がいいんじゃないか?)
(そうね、聞きたいことは聞けたと思うしそれがいいかな)
「わたしと緋十郎も副首相の調査の方に加わるわ」
 レミアは立ち上がりそう宣言した。


 一方、議事堂に向かった4人は議会の最中、常に辺りを警戒をしていた。ただ何も起こらない。暇と言えば暇だが議会の間、他と話すわけにもいかず先程の指輪の件をパートナーと心の中で相談する月世と龍哉。
(指輪を身に着けてから騒動が起り始めた訳ね)
(現象面では……しかし、この様な話には必ず何の為になのかと言う動機と利害が付きまとう。そうすると実は白でも黒でも何か事が起こればそれで目的を達成できる者達の存在が浮かび上がる事が多い)
(英国、と言うか倫敦は欧州最大のHOPEの根拠地だわ。不安定化すれば喜ぶ存在達は多い……と言うか、多すぎるわ。そっちの線から探るのも大変ね)
(いづれにせよ戦力は限られている。我々に出来る事をするのみだ)
 月世の英雄、アイザック メイフィールド(aa1384hero001)は現状を的確に把握していた。この期間にできることは決して多くない。調査は他のものに任せ手薄にしてはならない護衛をしっかりとやることが第一だ。
 龍哉のヴァルトラウテ(aa0090hero001)は先程のやりとりを思い出しながら出来ることなら首相の話が全てその通りであってほしいと純粋に願っていた。
(正直な所、指輪が怪しいのは確かなんだが)
(呪いと思しき現象をぎりぎり凌いで要因もまた指輪、ですわね)
(都合の良い考えかもしれないが)
(副首相が、首相を狙う組織と繋がっているのは本当。でも首相を見殺しにしたくない副首相が苦肉の策として身の安全を護れるよう渡したのがあの指輪)
(俺の台詞! ……まぁ、副首相が首相を殺したくないと思ってるならそうだろうって希望的観測だが)
 例え、希望的観測であろうとも。できることであれば。
 そして轍はこの海外に来たときのことをぼんやり思い出していた。
「……何で、海外来てまで……」
「さ、お仕事がんばりましょう!」
 イザードに引っ張られまさかの海外出張、inロンドン。
(終わったらクレア誘って酒飲みに行こう)
 それを支えに今の仕事を懸命にこなす。だが、気持ち的には早く終わってほしい、とも思っていた。
 残るもう一人、沙耶は何か考えている様子を見せている。そして、そんな彼らの元にクレアから通信が入り、調査組からの情報が伝えられた。沙耶は面白いことを何かを思いついたかのようにくすっと笑いを零した。
 議会が終わる頃、呪いのスパンにでも入り込んだのか特になにも起きることがなかった。移動の為、車へと戻っていく。その5人とは別場所、議事堂内、恭也は副首相と対峙していた。
「君は? アポイントメントがない方はお断りをしていますが……」
「首相のボディーガードです。H.O.P.Eへ依頼が来たので調べていましたが今までの経緯からみて貴方が渡した指輪が目印となって事故が起こっている様です。心当たりはありませんか?」
 怪訝そうに恭也を見遣る副首相。共鳴をし何が起きても対応できるようにしている。恭也の問いかけにただ副首相は黙ったままだ。
「呪術に詳しい集団と繋がりがあるとの事ですが、政治家として致命的なスキャンダルになると思いますが? ただ、正直に言えば、俺は貴方を疑っていません。どちらかと言うと利用されたのではと考えています。貴方の疑いを晴らす為にも呪術者集団について詳しく教えて貰えませんか?」
 更に恭也は追い打ちを掛けるように言葉を連ねる。副首相の顔に警戒の色が濃く見て取れた。
(……ねえ、そんな事を言って良いの? 状況的には副首相さんが一番怪しいだけど)
(彼が犯人なら迷推理をした俺を使って嘘の証言をして無実を証明する。だが、とっさの嘘はボロが出やすいから見破るのは楽だし、清廉潔白なら重要な手がかりを得られるさ)
 那美が不安そうに心の中でかけた問いに副首相の反応を何も逃すまいと見つめながら答えを返す恭也。副首相はポケットからスケジュール帳を取り出し何かさらさらと書いたかと思うとそれを恭也に手渡す。
「なんのことだか私にはさっぱりですね。誰か別の方と勘違いしているのではありませんか? 忙しいので失礼しますよ」
 それだけ一方的に言い放ち恭也の横を通って立ち去ろうとする。メモを見た恭也はそれを引き留めることはしなかった。書かれていたのは「夜23時に首相官邸へ」その文字。これは獲物が罠にかかったということだろうか。


 そして、車内に戻り次の仕事場への移動が始まる。そこで沙耶は共鳴を解き、自身の英雄、小鳥遊・沙羅(aa1188hero001)と共に並んで座っていた。沙羅は何やら不服そうな顔をしている。
「ねぇ、提案なんだけれど首相さんの指輪を借りることはできないかしらねぇ?」
 唐突に切り出す沙耶。首相は驚いたように指輪を左手で守るように隠す。レミアとのやり取りで多少の疑惑が彼女の中にできたものの、やはりこれを手放せば大きな被害が降りかかるかもしれない、と思うと容易には手放せないのだろう。
「さっき言われてしまったこと、気になってない? それの証明に一回、ほんの少しだけ借りれないかしら? 私の相棒の小鳥遊ちゃんの指にその指輪を嵌めて離れて様子を見て首相さんに事故が起きれば間違いなくその指輪が助けてくれている、小鳥遊ちゃんに起きれば原因はその指輪。すごくはっきりすると思うんだけどねぇ」
 沙耶は首相から他の仲間に同意を求めるように視線を巡らす。
「首相、副首相の話の裏は取ってないんですよね? だとしたら、試す価値はあると思います」
 月世が賛同を示すと首相は困ったようにクレアに視線を向けた。同郷の彼女に自然と頼ってしまったのだろう。
「何があっても貴女を守ります。ですから、首相の思うように」
 力強い頷きを見せてクレアが促すと首相は分かったわ、と答えた。その時、クラクションの高音が響く。前方を見遣ると対向車線からはみ出した一台のトラックがこちらへ向かって突っ込んできていた。運転手は、いない。
 すぐさま月世が車から飛び出していく。龍哉いつでも首相を脱出させることが出来るよう彼女の腕を掴む。
(ストレートブロウの風圧でトラックの軌道を元の車線に戻せないか?)
 そんなアイザックの提案に月世はすぐ大剣を構える。勢いのある風圧がトラックを押し跨いでいた車線から向こうの車線に移動する。しかし、その勢いが強すぎたのかトラックの片側が浮き横倒しになりかける。月世はすぐに反対側へと飛んで歩道とトラックの間に身を挟み込んだ。そして盾でトラックを受け止める。滑るようにして倒れるトラックだが歩道と反対車線にはみ出ずに終わった。トラックに後続車がなかったことが救いだ。
(運転手はいなかったから、大丈夫よね)
(いや、荷台の方に万が一ということもあるだろう。確認をした方がいい)
 もしもの為、確認をする旨を通信機で皆に告げ後から合流することとした。
 そして、会食が行われるホテル。結局、クレアの交渉で業務用エレベーターに首相、人が近づかないようにしてもらったガラス張りのエレベーターの一つに指輪をはめた沙羅が乗り様子を伺うこととなった。同時に乗り、何もなければレストランで一度指輪を返す手筈だ。
 リビングで指輪を渡している最中、天井に飾られた大きなシャンデリアが揺らぎ――落ちる。クレアと轍がすぐに首相の体を引き、そして龍哉が直下で受け止めた。
(うまくいきましたわね)
(割と重いな、これ……)
(天井に飾ってあると、実物よりとても小さく見えるものですわね)
(暢気にそういう感想言ってる場合か!? いや、下ろそう……)
 そっと地面にガラスが割れないようにシャンデリアを横たえる龍哉。一息つくがさっきのトラックの件から考えると大分スパンが短い。
「本当にこれもって私がエレベーター乗るの?」
 沙羅がげんなりした顔で預かった指輪に視線を落とす。そんなことはお構いなしに沙羅の腕を引きエレベーターに向かう沙耶。元々エレベーターの実験の為人払いをしていたのが功をなしたのかシャンデリアが落ちたことで大騒ぎにはなっていない。
 不安そうな首相はエージェントに囲まれる形で業務用エレベーターに向かった。
「小鳥遊ちゃん大丈夫よぉ。調査組の3組にもここに集まってもらったし、何かあったら助けてくれるわぁ。だからいってらっしゃい」
 沙羅一人をエレベーターに放り込み笑顔で閉ボタンを押す沙耶。このエレベーター、いやここの電気系統は全て今、マックが監視している。事前に恭也がエレベーターに不都合がないかも捜査して特に異常がないことも判明している。何か起こるのだとすれば、呪いのせいか、指輪のせいか。レミアはエレベーター前で沙耶と待機している。
 20階、エレベーターのランプがその階を照らした時、沙羅が乗っているエレベーターがガクンッと揺れた。直後、沙羅を浮遊感が襲う。20階からの落下。いくら沙羅が丈夫とは言え、この感覚は気持ちいいものではない。フリーフォールよりずっと怖い。そこへ共鳴した恭也がエレベーターの天井を破り沙羅の体を掴んだ。そしてエレベーターの外へと救い出す。
 大きな音を立ててエレベーターが地上階に叩きつけられる。ガラス製の破片が飛び散り近くにいたレミア達に降り注ぐがレミアは沙耶を庇いエレベーターから距離を取った。
 一方、首相の乗った業務用エレベーターは無事、最上階に着いていた。この時、やっと原因が解明されたのだった。


 同日、夜23時に首相官邸に副首相が現れることはなかった。クレアの伝手やマックの情報で探してみるとどうやら議会の後から組まれた予定には無言で欠席しており、彼はそのまま行方不明となった。故に彼がどのような組織と繋がりがあり、何を思いどうしたかったのか、詳細は分からずじまいである。
 しかし、イギリス首相の命は守られ彼女に平穏が訪れたのは確かだ。副首相が首相の命を狙っていた、などというスキャンダルなニュースは関わった者以外には固く封印された。テレビで流れるのは副首相行方不明の報だけだ。故に勲章を与えることもできないが、首相は密やかに彼らに称号を与えることとした。古き言い伝えにちなんでロンドン塔の渡り烏、と。
 今回、恭也、レミアが方々から聞き込んだ情報をマックは自分の集めた情報も含めH.O.P.Eへ資料として渡すためにまとめいてた。関連組織もある程度絞り込めたものの決定打がない。そこでふと、一つ気にかかる。ライヴスゴーグルでは普段なんの反応もない鉱物である指輪。呪いを発動するときだけ微かにライヴスを帯びる、それはもしかしたらオーパーツなのではないかと。その情報を見たのは怪しい雑誌か何かだったか信憑性はない。だが、H.O.P.Eへオーパーツ絡みの騒動が別に持ち込まれていた、という情報を得た時、可能性を考慮して資料にその旨を付け加えておいた。指輪はもちろんH.O.P.Eが回収した。
 一方、クレアと轍はもちろんロンドンの酒場へと足を向ける。
「さて、せっかくのイギリスだ。行きつけの場所がある、行くぞ、轍。ドクターもたまには付きあえ」
「まったくもう……飲み過ぎは止めるからね、クレアちゃん。そこは覚悟してね」
 クレアに任せて後をついて行く轍。リリアンもイザードも一緒だ。
 こうして怪奇な事件は無事に幕を閉じたのだった。しかし、まだ不穏な空気は欧州を覆っている。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 未来へ手向ける守護の意志
    榊原・沙耶aa1188
  • 死を殺す者
    クレア・マクミランaa1631

重体一覧

参加者

  • ライヴスリンカー
    赤城 龍哉aa0090
    人間|25才|男性|攻撃
  • リライヴァー
    ヴァルトラウテaa0090hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • 太公望
    御神 恭也aa0127
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