本部

【東嵐】連動シナリオ

【東嵐】古龍抱く紫荊花は狂気に染まるか

真名木風由

形態
イベントEX
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
25人 / 1~25人
英雄
23人 / 0~25人
報酬
多め
相談期間
6日
完成日
2016/03/21 22:05

みんなの思い出もっと見る

掲示板

オープニング

●仕上げのステージへ
 その男が研究室に入ると、研究室の主たる男が白衣を翻してこちらへ顔を向けた。
「ボス、何かご用ですか?」
「アシッド。上々だった実験結果を基にした新薬の状況はどうかな」
「より効果を上げています。データによれば──」
 ボスと呼ばれた男、マガツヒの首魁比良坂清十郎は、アシッドと呼んだ男の説明に耳を傾ける。
 説明によれば、従来の狂化薬の数倍強い新薬であるようだ。
 短期間であるが、実験結果を基により効果のある新薬を開発出来たのはこの男の尽力が大きく、この男なしでは語れない。
 それ故にこの男以上の適任者もいない。
「実は愚神商人より仕上げた脚本の主役に指名されている。最後の仕上げの舞台に立って貰えないか」
 清十郎は、愚神商人の脚本の詳細を伝えた。
「舞台の詳細は君に任せる」
 清十郎は微笑んで部屋を後にした。

 清十郎が去った研究室、アシッドは黙っていた最後の1人へ顔を向けた。
「どこにするか決まっているのですか?」
「ええ。あの街で生まれ育ちましたから、その構造は絵に描ける位覚えています」
 問われたアシッドはそう言い、事も無げに微笑んだ。
「九龍地区はスラム街……古龍幇の根拠です。地元住民でなければどの入り口がどこへ繋がっているかも判らない複雑な構造をしている場所。そして、彼らが勝手に引いた水道管は役人の誰もが全てを掌握し切れていません。いいえ、あの地に暮らしている者は自分の生活範囲でしか語れないでしょう。狙いはそこです」
 アシッドはこめかみを指でトントン叩く仕草をした。
「古き龍が最も使用する水場を抑える。極めてシンプルなことです。3P(スリーピー)、僕に力を貸してくれませんか?」
「ええ。いいでしょう。ワタシの力を貸してあげましょう。いい景色を見せてくださいね?」
「尽力しましょう」
 アシッドは3Pの優美な顔に微笑んだ。

 さぁ、古き龍の巣に乱の種を仕込もうか。

●予知した未来を阻止せよ
 エージェントは、緊張の面持ちで資料に目を落としていた。
 プリセンサーより未来が予知され、彼らは緊急召集されたのである。
「古龍幇の構成員の大量暴走が引き起こされ、多くの民間人がその巻き添えになるとのことでね、急ぎ対応が必要となった」
 ジャスティン・バートレット(az0005)がエージェントの顔を見渡す。
 資料には、プリセンサーが予知した暴走のビジョンよりバンコクを始めとしたアジア各地の暴走事件と同質のものと判断されている旨が記されてある。暴走の状況より、その威力を増している可能性がある、とも。
「過去の事件は飲料を介した形で意図しない服用が確認されている……。今回も同じ手口、水質汚染であると想定しているよ。君達にお願いしたい任務は調査と阻止となる」
 だが、プリセンサーが予知したのであれば間もないのではないか。
 エージェントから質問が挙がり、犯人に関する予知の質問が出た。
「犯人は、国際指名手配されている、通称アシッドと呼ばれる男で間違いないそうだ」
 ジャスティンの言葉に合わせ、ホログラムスクリーンへ男の姿が浮かび上がる。
 外見上は30代の中国人、といった所だろうか。
 真面目そうな顔に見えるが、眼鏡の奥の目は笑っているようで笑っていない。
「九龍のスラム街に生まれ育ち、独学で一流大学に合格、恵まれない国、地域での衛生環境改善を志して化学者になり、国立研究所へ入ったエリートだったそうだよ。だが、ある日、愚神の力を借りて研究所の者を皆殺しにし、姿を消し、その後マガツヒで存在を確認されている。どのような事情かは判らないが、今日に至るまで関係が続いているなら、何かあるかもしれないね」
 アシッドは世界各地において富裕層が暮らす国、地域、地区を中心に水質汚染テロを繰り返して行っている。
 ジャスティンの後方に控えていたアマデウス・ヴィシャス(az0005hero001)は「もしかしたら、この中にもその被害を受けた方がいるやもしれんが、今はその時ではない」と添える。
 繰り返されたテロの主犯として国際指名手配されたからこそ、アシッドの経歴もH.O.P.E.で把握出来たのだろう。
「H.O.P.E.の国際会議は目前に迫っている今だからこそ古龍幇を狙っているのだろうね。H.O.P.E.香港九龍支部全体が最終調整をしている。私も少々お願いすることが多くて負担を掛けている手前、今回任務の説明役を買って出た。何としても防ぐべきだが、問題点もあってね」
 問題点?
 エージェントが眉を顰めると、ジャスティンはその理由を明かした。
「古龍幇の本拠である九龍地区のスラム街は建て増しされた巨大な集合住宅のような複雑な構造だということ。内部は地元住民でないと把握は厳しいね。水道を始めとした公共インフラは古龍幇が独自整備を行っている箇所もあり、全体像を誰もが理解し切れていない。住民ですら生活範囲にプラスアルファがあるかないか程度だ」
 資料にある配管図も関係当局が把握している範囲であり、現実のものと大きく異なるであろうことが予想されるそうだ。
 正確さを出すには地元住民からの情報提供は必須であろう、と。
「が、場所柄、エージェントはいい顔はされないだろうね」
 それはそうだ。
 だが、そうは言ってられないのでは。
 エージェント達も困惑に顔を見合わせる。
「だが、動かない訳にもいかない。動かねば、構成員の暴走が引き起こされ、多くの民間人が犠牲となる。捨て置けるものではないのは承知の通りだ。会議前に動ける君達にお願いしたい」
 選択肢は2つある。

 ひとつ、身分を隠し彼らに悟られないよう任務を遂行する。
 ふたつ、信用を得られないリスクを覚悟で素性を明かし、協力を得て任務を遂行する。

 いずれにせよ、プリセンサーが予知した未来の阻止が重要であることは言うまでもない。

●古き龍への届け物
 よく知った場所だ。
 ここを出たら、僕のような思いをする子がないよう力を尽くしたいと思った。
 だが、僕は知った。
 勤勉なんてひとつの美徳もない。
 強く要領いい奴だけが欲しい物を手にしていく。
 屈服させられたのも、研究を転用されたのも僕が無知であったからだ。
 故に僕は力を、智を手にする。
 僕はもう、あの頃の弱者ではない。

 構造を知るアシッドは誰にも見つからないようスラム街を進んでいく。
 ここの配管の水は血気盛んな連中の居所に繋がっている。
「きっとお気に召しますよ……ククク」
 アシッドは時限装置をセットし、狂った笑みを浮かべる。
「あのどの位ですか?」
「これで10。ちょうど半分ですね」
 アシッドは念の為時限装置のタイマーを確認。
 会議当日の朝に作動するようになっており、会議開始の頃には暴走事件が多発するだろう。

 さぁ、何も知らず飲むがいい。
 古き龍が暴れる様を是非見たい。
 縋る弱者は食われてしまえ。
 抱く紫荊花よ、乱に染まれ───

解説

●目的
・時限装置全回収
・アシッド確保

●敵情報
・アシッド
九龍地区出身。この為街の構造に詳しく、逃亡ルートに事欠きません。
裏をかくには罠を張る等の策が必要。
その変遷は本人に聞かない限り明らかになりません。

・3P
アシッドと契約している青年型愚神。
その力で薬の成分を驚異的な濃度にまで圧縮可能。
※この能力に関しては開始当初PCは知りません。

●地区情報
・表通り
屋台、個人商店、食堂がひしめき合ってます。
その裏口に入るとどこがどう繋がっているのか住民以外は判りません。

・公共インフラ
勝手に整備されたものが多く、全体像は不明。
利用者及び古龍幇の構成員達それぞれが知っている範囲(主に生活範囲)でどうなっているか把握しているのみ。
水質汚染が想定されている為関係当局より配管図の提供はあるも正確性に欠き、情報補完が必要。

 上下水道について
 公的な上水道以外にも地下水・他所からの拝借したもの等ひしめき合っています。
 下水道は人が移動出来る程広いものの、環境は最悪。

●任務の動き
下記の選択肢がH.O.P.E.より提示されています。
・素性を伏せた極秘任務
・素性を明かして協力を呼びかける
※素性を明かす場合、信用を得られず失敗するリスクがあります。

●選択肢
ア:時限装置回収
イ:アシッド確保
※アシッドの裏をかく為の策を講じるのもこちら。
ウ:その他
※上記に該当しない場合。内容によってはア・イに編成されます。

●注意・補足事項
・「【東嵐】与人方便自己方便・包囲網からの脱出」よりも前の日の時間軸となります。情報の扱いにご注意ください。
・緊急事態につき一般品持込の場合、準備で調査開始が遅れます。
・同行者は共通タグで分別をお願いします。
・全員が任務の動きを同じにする必要はありません。ただし、同一行動者内部では統一してください。
・「●予知した未来を阻止せよ」以外の事情はPCは知りません。根拠なくプレイングへ書かれても採用しません。

リプレイ


 キュベレー(aa0526hero001)は言峰 estrela(aa0526)の隣に腰を下ろし、何気なさを装い周囲を見渡す。
 九龍地区へ歩いていける距離にあるカフェの一角に彼女達は陣取っていた。
 任務に携わるエージェント達の情報統括の為、九龍地区へ足を踏み入れていないが、誰が見ているかは判らない。レーラを集中させる為、キュベレーがこちらを確認する不審者がいないか確認しているのだ。
「始まったみたいね」
 レーラが薄く笑む。
 情報整理に使用するのは、2台のノートパソコンとスマートフォン……その内の1台は別窓で『それ』の状況を確認しているのだ。
「効果があると思うのか?」
「広範囲に見られることが大事なのよ」
 キュベレーの問いに微笑むレーラ。
 それは──木霊・C・リュカ(aa0068)の動きだ。
 彼は、紫 征四郎(aa0076)と行動を共にするオリヴィエ・オドラン(aa0068hero001)と別行動で九龍地区内の屋台の隅、腰を下ろせる場所にいる。
 そこで、スマートフォンを使い、九龍地区の地域スレッドへID変えつつ、情報通のやり取りを装って書き込みしているのだ。

『国際会議に合わせて騒ぎを起こそうとしている奴がいるって本当か?』
『本当らしい。他地域じゃ水に毒流し込む手口で、凄いらしい』
『水は高くても全部買った方が良さそうだな』

 何も知らない住民の反応がネットに出始めている。
 特に水の購入への食いつきが大きい。
 これは、鶏冠井 玉子(aa0798)より、飲料可能な水であるかどうかは別問題という指摘通りのことだ。
 リュカも生活を考えれば水を全て購入は高価で厳しいのではと判断を下していたが、反響を見るに玉子の指摘が正しかったと見ていいだろう。
 レーラは分析しつつ、ネットの現在の状況をリアルタイムで全員へ送る。
 上層部が目にすることも大事だが、情報提供に至る道を作るのも大事なことだ。
 レーラの連絡をキュベレーは見、それから周囲を見ているように見る。
 程近いとは言え九龍地区ではない為か、それ程不自然に映っておらず、違和感は感じない。
(私には退屈な時間になりそうだ)
 キュベレーは、心の中で呟いた。


 征四郎は、オリヴィエと共に子供達と日本の鬼ごっこをして遊んでいた。
 見える位置にリュカがいることで不審者ということもなく、彼らは旅行客の子供達として振舞っている。
 子供から情報を聞くにしても、子供から不信感を持たれない方がいい。
 オリヴィエはこの土地柄だからこそ、子供も余所者を警戒する可能性を疑ってなく、すぐに聞こうとした征四郎を諌めた。
(リュカの書き込みを親が見れば、まず俺達が警戒されることを忘れるな)
(わかってるのですよ)
 遊んでいる子供達は非能力者であるというのは会話から割り出している。
 が、その親も同じとは限らず、この中に幹部とはいかずともそれなりに立場がある者がいるやもしれない。
 もう少し信頼を得れば、と思ったその時だ。
 騒ぎの声が上がり、思わず子供たちと見ると、防人 正護(aa2336)とアイリス・サキモリ(aa2336hero001)の姿が見えた。
「なに、あのおじちゃん」
「わかんねーけど、あやしーよな。ゆうかいとかするかもしれないし、いえにかえるか」
「ああいう人、おおいんです?」
「なんかしらあるけど、あそこまでのはめずらしーな。じゃあなー」
 不審者と勘違いした子供達が帰ろうとするのを征四郎が慌てて呼び止めたが、子供達の回答はそうしたものだった。
 写真を見せたり、情報を聞いたりしている暇もない。
 と、正護とアイリスがじっと見ていたという名目でこちらへやってくる。
「もしかしてとは思うが……」
「もしかして、なのです」
 征四郎が重々しく頷いた。
 自分達は目立つだろうから素性を隠して伏せるエージェントの援護射撃にと敢えて派手に立ち回ったのが、特に征四郎達の捜査手法との相性がよろしくなかったようだ。
 正護もバイクなどで派手に動きをみせればより目立つと当初考えていたのを、話がややこしくなるというアイリスにより取りやめて、少し大人しくしたつもりであったが……。
「ジーチャンのやる気スイッチが入っておってなぁ、すまんのぅ」
「やる気なのは構わないが、不自然さが出ない方がいい。目立つ装いなのと、目立つ振る舞いをするでは意味が違う」
 アイリスが正護と一緒に謝りながら言うと、オリヴィエは年齢に似合わない冷静な見解を出す。
「特撮ヒーローって言えば大体は」
「なら、それをアピールして子供に接触した方が早かっただろう。子供の口添えがあれば親の口も多少軽い」
「その手があったか。最近遊園地のショーも子供より大人が多い事実に油断していたな」
 オリヴィエのツッコミを受けた正護、ここで征四郎とオリヴィエと合流し、別の場所で子供達相手に情報収集へ切り替えることにした。


 玉子は九龍地区の中でも食堂が集中している通りを闊歩していた。
「高級な店にばかり美味がある訳ではない。茶餐廳のメニューの幅広さは一見の価値がある。が、屋台も実に興味深い」
 そう言いながら中華饅頭を頬張る玉子へ、オーロックス(aa0798hero001)が真意を問うような目を向ける。
 玉子は必要経費で落としているが、それに意味はあるのか、という意味だ。
「料理もそうだが、何事も手際というものは重要になる」
 視線に気づいた玉子はそう言い、周囲の吟味を兼ねて見回す。
「相手は地理を熟知した単独の者……多数ではない。なら、手際よく行われるのが道理」
 効率性という観点は他のエージェントも焦点にしていた。
 更に玉子は見逃していなかった点を改めて口にする。
「上水だからと言って、それが飲料水に出来るかどうかは別問題だ。個々の住処でそれらの保障はない。が、こういう不特定多数の者が飲食する場において、飲料に使える水は不可欠。そのまま飲まずともスープなりお粥なり水は使用される。漠然と動くのではなく、絞るなら、飲料に耐えられる配管の出所を洗った方がいい」
 ここは多くの配管が整備され、全体像の把握が難しいと言われている。
 ならば、尚のこと飲める飲めないの水は選別されている。
「そういう配管は貴重だ。古龍幇の者が常連となっている店もあるだろう。怪しまれないというのはそういうことだ」
 絞る動きは全員に伝えてあるが、自身も味巡りをしつつ探すとしよう。
 玉子は最後の一口を食べ、呟いた。
「何が出るかは楽しみだが……やはり水は料理において重要だ」
 大きな期待はしていなかったが、水の所為か、味はそれなりといった所と美食家としての厳しい判断を下した。

 玉子が闊歩しているのを横目に、ヴィント・ロストハート(aa0473)は屋台に腰を下ろしていた、高齢の老人相手に言葉を交わしていた。
「道に迷っても困るからな。出来れば迷わないよう聞いておきたい」
「他所から来ると大変じゃからの」
 香港ガイドブックを片手に持つヴィントが不慣れな旅行客に映ったらしく、老人は注意した方がいい場所を教えていく。
 高齢であればある程長くこの地に住んでいる為に注意点が増えることで、地理に関する細かい情報を知っているというヴィントの推測通りで、旅行客相手に突っ込んだ地理こそ教えないものの、ヴィントはへーと興味を持つ素振りで注意をする理由なんか振って、範囲を狭めていく。
「そうだ、折角だからこの地区を一望してみたい。どこだろうか」
 ガイドブックを開き、詳しく聞く姿勢を見せると、老人はヴィントに迷わない道筋を教えてくれる。
「じゃ、これは今日の記念だ。実はさっきお土産に買ったんだが、相手が呑めないことを知って困っている」
「おお! 紹興酒「仲謀」とは……気前がいいの」
 気を良くした老人に別れを告げ、ヴィントは雑踏へ消える。
 歩きながらレーラへ情報連絡を忘れない。
『最初から用意してたのにね』
「道を聞いた礼にしては不自然だからな」
 ナハト・ロストハート(aa0473hero001)が幻想蝶の中からぽそりと呟くと、ヴィントは用意していない偶然を装ったと返す。
 最初から礼の品を持っていたとなると不自然さが残るが、そうした理由を添えておけば、不自然さもなく、旅行客のままでいられる、と。
『でも、どうして見渡せる場所を?』
「そいつが優秀だからだ」
 ヴィントはここに来るまでの間に資料を見、アシッドを推測していた。
 優秀ならば己の力を誇示したがる傾向は強い。
 富裕層を狙っているのは、社会的強者への憎悪及び自身の無力さを含む劣等感の裏返しではないか。
 ならば、その惨劇を観賞するだろう。
 プリセンサーの予知に正確な日付はなかったようだが、今日ではない、会議当日に装置が作動するものだとしても、優秀であるが故に惨劇前と観賞時の比較を行う為に立ち寄る。
 地理に通じているなら、後を追うより予測を立てて終点に向かった方がいい。
「飲料に耐えられる水の目星で動いている面々に回収は任せ、俺達は奴を逃さない手を打つ。根元をどうにかしなければ回収しても意味がないからな」
『配管の情報がスムーズに得られればいいんだけど……』
「こればかりは尽力に期待するとしか言えないな」
 ナハトの憂慮に応じたヴィントはガイドブックを見て、不自然なくその場所を目指していく。

 ヴィントから情報を受けたレーラはすぐさまその場所に関する情報を全員へ流しておく。
 まだ装置回収の段階である為、向かえるエージェントは少ないだろうが、向かう段階になって情報を流すのでは遅過ぎる。
 装置回収には情報が必要だが──
「思ったより難航してるわね」
 構築の魔女(aa0281hero001)から連絡を受けたレーラが軽く溜息を吐いた。
 情報収集に際し、身分を明かすか明かさないかはエージェント達の任意であったが、色々行き違いも生じているらしく、まだ有力情報に結びついていない。
 ともあれ、行き違いに至った理由については共有した方がいいだろうとレーラは情報を整理していく。


「うーん……今回の依頼は結構難しいな」
『まず信じて貰うことから始めなければならないからな』
 虎噛 千颯(aa0123)の難しい顔に白虎丸(aa0123hero001)が幻想蝶の中から応じる。
 実際に起こりえることでも、それを信じるか信じないかは話した者を聞いた者が信じられるかどうかが大きい、
 だから、征四郎とオリヴィエは子供という線を攻め、正護とアイリスも加えたヒーローごっこで今子供達側を攻めているのだろう。
(サイトの反応具合も上々……動いていてもおかしくはなくなったな)
 リュカの書き込みで少しずつ情報が広まり始めている。
 自分同様エージェントの何人かは古龍幇の構成員と詐称して住民との接触を考えている為、不自然に思われないことが大事だ。疑われるようなら正直に話すが、話さずに済むならその方がいい。
「最近、こいつ見かけてね? 縄張り荒らしてるって噂なんだけど」
「あれ、これって……」
 千颯がアシッドの写真を見せながら個人商店を巡ってみると、何人かが反応した。
 この地区出身であったアシッドは苦労して一流大学へ進学したという経歴と、それなのに犯罪者になったという経歴が住民達にとって頭いい連中にいいように使われたのかね、という栄光からの転落に関する何でもない噂話として知っている者は知っているようだ。
「こいつ水に毒投げるらしくてな」
「うちで引いているのだと飲めないから、あっちで聞いた方がいいかもしれないですよ。見かけてるかもしれないですしね」
 新入りでも構成員を名乗ったからか、好意的に言われた千颯は直後、店からクレア・マクミラン(aa1631)とリリアン・レッドフォード(aa1631hero001)が飛び出したのを見る。
 今は知り合いと判明しない方がいいと判断した千颯は、物陰に身を隠し、構成員達の会話を聞く。
「立て続けにくだらねぇことしやがって」
「奴ら、俺達が手出ししないのを理由に図に乗ってるんじゃねぇか」
「落ち着け。向こうも上の指示がある筈だ。何かあるだろう」
 最後に声を発した男の立場が最も上らしく、先に発言した男達はブツブツ文句を言いながら店の中へ入っていく。
「何だ?」
「まぁ、有体に言えば、マイナスに作用してしまったということかな」
「おわっ!?」
 千颯の隣にいつのまにか中華饅頭の皮をバンズにしたバーガーを食べる玉子がおり、千颯が飛び上がる。
 介入は悪影響と判断し、一部始終見ているだけにした玉子が立て続けに起こったことというのを話し始めた。

 御童 紗希(aa0339)とカイ アルブレヒツベルガー(aa0339hero001)は來燈澄 真赭(aa0646)と緋褪(aa0646hero001)の護衛役を兼ねて共に行動をしていた。
 ホログラムスクリーンのアシッドの画像データ自体はすぐに回せるもので、1枚2枚の準備ならそう手間もない為、千颯同様彼らはすぐに動くことが出来、時間帯を考慮して人が多く集まる茶餐廳を中心にアシッドの情報を集め、一帯の纏め役へ行き着くように動いていたのだ。
 それまで流れの能力者を名乗り、纏め役との接触で初めてエージェントと名乗った真赭が自身の情報を対価に協力を交渉、という流れまでは良かった。
「敵の敵は味方とも言いますし、H.O.P.E.を信頼してくれとは言いません。しかし、無辜の民への被害をなくしたいという我々の意思は信用してもらいたい。香港の象徴でもある紫荊花。その故事に倣い情報を共有していただけませんか?」
「あんたが嘘を言っているか真実を言っているかが問題だ。H.O.P.E.のエージェントであるかも含めて、な」
 図るように見る纏め役は、慎重な姿勢を見せた。
(普通はそうよね)
 共鳴を行えば能力者であるという証明自体は簡単に出来る。
 が、エージェントであるという証明が難しい。
 IDカードの提示は出来るが、それが本物だということをエージェントでない者が知るのは難易度が高い。
 紗希はそう思っていたのだが──
「ここのヤツらの命がかかってんだぞ! お前がここで今死ぬか、後でここの住民が皆死ぬか! どっちか選べ!」
 カイが纏め役に凄んでいた。
 彼の性格上それは仕方ない部分もあったが、この場面においては確実に出てはいけない言葉だった。
 彼らの空気が明らかに変わる。
「カイ! そんなこと言っていいと思ってるの!」
 即、紗希がきつく咎め、カイは言うのは止めるも──纏め役が店の入り口を指し示した。
 お代を払って帰れ、という意味らしい。
「待ってください、話を」
「お嬢さん、香港の故事を出したことに敬意を払い、ひとつ言おう」
 真赭が食い下がろうとしたが、纏め役は言葉を遮った。
「脅して信用を強要する者はいない。その男は我らに暴言の謝罪を口にしていない。咎められて黙っただけだからな。なら、信用しない方が安全という話だ」
「んだと!」
「カイ!」
 紗希が掴みかかろうとするカイを強く遮った。
 このまま事を起こせば、九龍地区全域からエージェントが追い出されかねない。
 彼らは結局、謝罪と共に店を出た。
「私達は情報収集を取り止めた方がいいだろう。纏め役と交渉が失敗したなら情報が回る可能性がある」
 緋褪の言葉もあり、彼らは九龍地区からの撤退を決める。
 纏め役との接触であった為、つけられている可能性もあり、九龍地区から完全に出て、安全が確認された場所で一息つく。
「すまねぇ、マリ」
「謝る相手が違うよ」
 謝罪するカイへ紗希が真赭を見た。
 纏め役に接触するということで、護衛役を買って出た為、彼女の言葉を何故信じないのかという思いが完全に裏目に出た事態だ。
「いえ。私がそれ以上を言えていなかったのでしょう。あのままでは、情報の証明などで不利な状況に追い込まれた可能性はあります。アルブレヒツベルガーさんのお陰で、無事に店を出られたかもしれませんから」
 真赭は敬意で教わったことをレーラに送り、情報収集の際に一層の注意を行うよう全員に連絡を依頼した。

 レーラが連絡を取る頃、クレアは欧州にあるヴィランズに属するヴィランとして大衆食堂にいた構成員らしき男達と話していた。
 声を掛けられること目的で食堂で情報収集をしていた結果、彼らから声を掛けられたのである。
「ビジネスの話をしに来ました。責任者とお会いしたい。ボスにはそちらの責任者とのみ話すようにと指示を受けています」
「責任者、というレベルが判らないな。そちらのボスとやらは接触方法もない、と?」
「まだ弱い組織ですから」
 クレアは男達にそう言いながら、承諾へ持っていくべく話をしていく。
 ここで責任者へ通じないと焦った様子を見せてはいけないという名目で煙草「麒麟」に火をつける。
「ビジネスの話を握り潰していいかどうかの判断は責任者がするべきでしょう。違いますか」
「ただのビジネスならそうだろうな」
 クレアの言葉に一見下っ端に見える男は目を細めた。
「と言うと?」
「あんたは確かに能力者だろう。が、もう1回聞くが、どこの所属だ? 能力者殿、問いに答えて貰おうか」
 クレアは男の問いにそのまま答えようとし、リリアンが咄嗟にクレアの手を抓った。
「クレアちゃん」
 我に返ったクレアはリリアンの一言で何をされたか理解し、男を見る。
「そう、俺は今、あんただけに支配者の言葉を使った。少なくとも能力者というのは合っているだろうな。だが、そちらの姉さんの対処が早過ぎる。英雄だろうが、即座に支配者の言葉を疑い、その対処をすぐに思いつけるだけの経験がある。少なくとも、ただの下っ端ではないな」
 クレアとリリアンは、古龍幇の構成員でも支配者の立場が使える程の腕を持った者、それなりの立場にいる者だと気づく。
 共鳴すれば、姿が変わる者もいる。
 構成員に声を掛けられる目的で動いていたが、接触の際に共鳴されている可能性は失念していた。
 下っ端の外見を利用し、カマを掛けられていたのだ。
「で、姉さん達、本当は何者だ? 約束もなく家に来た人間を素直に家に上げて身内に会わせる人間がいると思うかい?」
(最短を選び過ぎた)
 本能的に危険と判断したクレアはどうせ経費とお釣りなしで食堂に支払うと、リリアンと共に店を飛び出した。
 相手の正体を探りながら責任者へ案内するという言葉を引き出せていれば、また違った結果だっただろうが……。
 時期を問わず、アポなしで商談をしに来るヴィランズの使いはどの組織でも警戒対象だろうが、身内を大事に思う古龍幇なら尚のこと身内に危険が及ぶかもしれない可能性を考え、その傾向は強いものとなるだろう。
 振り返ることなく走り、追っ手が来ないと理解してから一息つく。
「ドクター……急ぎ過ぎてしまった。情報交換に至らなかった」
「クレアちゃん、物は考えよう」
 リリアンはクレアの手を取る。
「彼らはこちらへ過度に接触する動きに気づいた。ネットからも動きが出てる。何かが動いていることを気づけた。なら、信じる為の一手に至れる筈。治療に至る行為を、他の皆に任せましょう」
「……治療されるのは中々珍しい」
「それはそうと」
 クレアがやっと顔を綻ばせると、リリアンはにっこり笑った。
「今回は余裕を見せるのに必要だと言うので見逃したけど、次はないわ。禁煙しましょうね?」
 煙草は身体に毒!
 髪と服に臭いもつく!!
 リリアンの主張にクレアは「善処する」と短く言った。

「だが、あれで彼らは上に異常を報告しただろうね」
 玉子は最後にそう締め括り、レーラにも詳細を連絡したと話す。
 リュカの書き込みを一笑に付すのではなく、事実解明に本格的に動き出す一手になったと聞き耳を立てられる危険性もあるだろうことより、彼女らしい料理的な言い回しで説明した。
「何事もマイナスばかりではないということさ。一見食べ物には見えない食べ物も美味いということもある」
「なら、オレちゃんは引き続き、住民方面を攻めるか」
 鉢合わせにならないよう注意は必要になったが、逆に異常を確かめる動きが増えた為に紛れ易い。
 千颯は情報に感謝しながら、玉子とは親しさもないように見せて分かれた。


 八朔 カゲリ(aa0098)とナラカ(aa0098hero001)は上流に向かう途中で構成員と遭遇してしまい、古龍幇の名を騙ったことで怪しまれていた。
 見慣れない構成員に注意する情報が回っているかもしれない、とカゲリは思うが、敵の後手に回っている現状、それに対して話している場合ではない。
「信用出来ないならそれも良いが、此方も急を要している。多少強引な手段も許されているが――如何する?」
 暗に力尽くを匂わせ、恫喝とも言えるカゲリの言葉に対し、構成員の男は「どうぞ」と返してきた。
 完全な予想外の返しだろう。
 自身を英雄と名乗った粗野な女がカゲリとナラカを見る。
「そう言うということは、少なくとも幇じゃねぇな。仮にH.O.P.E.なら……全面戦争になる名義は出来るだろうな。H.O.P.E.は本心ではそれ希望なら、寧ろ話は早い。だよな? 我が能力者殿」
「だな。俺らバカだし、末端で弱いから、多少強引な手段とやらで死ぬかもしれないが、そちらの上は多少強引な手段の許可を出しているんだな?」
 英雄と誓約を交わす末端構成員らしい男の念を押す一言に、カゲリは話の方向性を間違えたことに気づく。
 幇を大切にする彼らから協力を得る手段として、脅しは最も避けなければならないものだった。
 そして、対等の相手に『恫喝』は用いない。
「乱暴な手段ですまない」
 これ以上はこの任務に携わるエージェント全員へ悪影響が出る。
 判断したカゲリは素早く謝罪するが、これ以上の調査は許されず、表に出るまで監視されることとなった。
「今から汲んで口にする水には、気をつけた方が良い。水質汚染を狙っている奴がいる」
 何とかそれだけ口にし、ひとまず九龍地区を出る。
 挽回する状況になれば回収と調査に復帰するが、今は離脱が最も面倒がない手段と彼は知っていた。
『コロコロ出来ないって面倒よねぇ。証拠隠滅しちゃえればいいけど、内部構造が完全に解ってないから、バレるリスクがあるし』
 報告連絡先のレーラは気に掛けているカゲリへそう言う。
「弱きを知り、それを逆手に取る。殺されてでも身内に近寄らせない。……そうした覚悟の示しもあるということか。奥が深い」
 ナラカは小さく呟きながら、九龍地区を出ても自分達が尾行されていないか気を配ることを忘れなかった。

(追跡者が増えましたね)
 構築の魔女はノートパソコンにメモをする振りをし、監視者が増えたことに気づく。
 辺是 落児(aa0281)と共に香港の行政から仕事を委託されたH.O.P.E.のエージェントとして公共の配管検査と称して調査をしている。
 追っ手は覚悟していたが、複数潜入するエージェントではなく、はっきりとエージェントを名乗る者が動いた方が目立つという思いもあり、立ち入り禁止となる区域がないか調べているが、現状配管が入り乱れているからか、監視がつくのみだった。
(どれが飲料に耐えうるものか判らないという確信もあるのでしょうが、事情が変化しつつあるのでしょう)
 とは言え、話には聞いていたものの、添付の配管図と実際が違い過ぎる。
(暴動が都合よく起きるなら、装置は時限式、ブイや錨のような水に流されないもの……それが、飲料に耐えられる水の配管、その大元にあると見ていいでしょう)
 頭の中で整理しつつ、配管図と照合し、公共の配管とそうでない配管を分類していく。
 裏道や裏口は監視が案内していることもあり(試しにドアを開けたら、店の軒先だった)迷いはしないが、制限は受けている。
 レーラと連絡を取りつつ、少しずつ内部の地図や配管図を補完させていくが、構築の魔女の監視が時間を追う毎に強いものとなっていく。
 これ以上レーラとノートパソコンで連絡取り合うのは厳しいと判断、ライヴス通信機「雫」での通信に切り替える。
 ただし、そのままだと外部連絡を疑われることより、それらしく動く落児をダミーにしているのだ。
(異常が知れた為構成員の目撃情報を探す必要はないようですが、凄く上の立場ではないようですしね)
 とは言え、慎重に動く箇所。
 波紋を更に与えつつ、他に潜り込んでいるエージェントが気づかれないようにしないと。
 構築の魔女が欲しがったアシッドの情報はジャスティン・バートレット(az0005)が口にした以上の情報は資料になく、特に研究成果部分は国家機密が絡むと中国政府の開示がないならば、出来ることから行わねば。

 構築の魔女が繋ぐ回線のひとつを持つ木陰 黎夜(aa0061)とアーテル・V・ノクス(aa0061hero001)は、道に迷った観光客の兄妹の振りをして内部を進んでいた。
 構築の魔女から注意情報とGPSでの情報で彼女の動きを知ることで鉢合わせがないよう注意を怠らない。
「狙われるとしたら、共有タンクや構成員の住処に使用される配管よね。爆破して飲ませるのではないか、という考えもあったけれど、どう思う?」
「うちにはよく判んねーけど……飲めない水は狙わないってのに賛成」
 アーテルが奈義 小菊(aa3350)の推測を小声で口にすれば、黎夜が短く応じる。
 その水が飲める水でなければ口にすること自体が現実的ではない。
 飲めない水を口にしたら即対処されてしまう為、その効果は薄い。
 玉子の指摘は基本とも言えるものであった。
「日本は水については安全だから、忘れそうになるわ」
 黎夜の意見を支持したアーテルが頷いていると、前方にGーYA(aa2289)の姿が見える。
 有事を考慮してまほらま(aa2289hero001)と共鳴しており、今回は彼が主導権を握るとは聞いていたが、様子がおかしい。
「どうも、こちらを騙して接近する連中がいるようでな。あんた、さるお方の指示と言っていたが、さるお方とは誰で、それを証明する手段はあるか?」
「疑うの?」
「後ろ暗くなければ話せると思うが?」
 まほらまが面倒だからと言い出しているのを押さえつつ、ジーヤはそんな疑いは自分の立場を悪くすると仄めかしても、その切り返しは逆に彼らの結束の強さを示すもので、返答によっては露見する。
(彼らに協力して貰ったのが拙かったかな)
(『ハイリターンには必ずハイリスクがあるものよ?』)
 街をうろついているような構成員相手の情報収集だけなら、不審者として報告されている間に対処出来たが、協力させる、つまり、自分へ同行させるのはリスクが高過ぎた。
 内部構造が不慣れである為、確実に飲料可能な配管の大元を調べられると思ったが、情報が動くということは、こういう状況もありえるということ。
「どうして答え──」
「すみません」
 アーテルがわざと声を掛ける。
「友人とはぐれてしまって……ここ、どこでしょう?」
「だから止めた……兄さん」
 男の数が多いと黎夜がアーテルの背中の後ろに隠れながらも意見する。
 身なりもあり、エージェントとは気づかれない為、黎夜もただの人見知りとして映るらしく、男達は不自然さを覚えていないようだ。
「ここ随分奥だぜ? と言っても、観光客が案内なしに出ることのは難しいか」
「こういう風景は見たことがなくてついフラフラと。レイには迷惑を掛けてしまって」
 ごめんなさいね、と黎夜に謝る姿は気遣う兄にしか見えない。
「ところで、凄い数のパイプですけど、どこにどう繋がっているんですか? 複雑な構造、故郷ではあまり見たことがなくて」
「表へ連れていってやる。そこのにもじっくり話聞く必要あるしな」
 アーテルへ男が応じると、先頭に立ち、表への道を歩き始める。
「パイプ、かっこいいですねー。このくねくね凄い」
「あ、おい、バカ!」
 アーテルがわざと男が開けなかったドアを開けると、むあっとした臭気が流れ出た。
 男達が鼻を押さえ、意識が逸れたのを見、ジーヤが素早く違う路地へ飛び込む。
「そこは下水道の入り口って、逃げたぞ!!」
 何人かが探しに行くと身を翻す。
「ったく、次は許可を取れ。臭いで死にたくないならな」
「兄さん、ひどい……」
「ごめんなさいね」
 黎夜もわざと男に便乗し抗議するもアーテルは微笑む。
 違う路地へ逃げようと思ったが、ジーヤの立場が相当危なかった。
 ならば、彼を逃す為に一旦表に出た方がいい。
 そう判断されたとも知らず、男は『迷った観光客の兄妹』を表へ連れ出すと、自身もジーヤの追っ手に加わった。
「さて、戻りましょうか」
「あそこ、行くの……」
 黎夜が嫌そうな顔をしたが、下水処理も確認が必要な箇所のひとつ。
 十分にいなくなってから、下水の中へ入っていった。

「うぅ、臭い……」
 今宮 真琴(aa0573)は、泣きそうな顔になっていた。
(『そう思うなら、何故ここに来たのじゃ。嫌な臭いで充満しているのじゃぞ?』)
 奈良 ハル(aa0573hero001)が呆れるのも無理はない。
 が、真琴は「だって」と口に中で呟く。
「頭良い人ってさ、最終的な目的よりも自分の目的を優先するんだよ? 暴走させるのが目的なんだろうけど、どっちかといえば装置が正常に動かなかったら見に来るんじゃないかなって」
 配管が複雑なら装置はひとつではない可能性が高い。
 それをひとつずつ見て回るより、水の汚染状況を見る可能性もある。
 ならば、ここの構造も知っておかなければ、有事の際に対応出来ない。
(『なるほどの』)
「上は皆がいるから大丈夫だと思うけど、念を入れておかないとね」
 ハルへそう言いながら、ボロボロの外套を直す真琴。
 イメージプロジェクターでも擬態しているが、念の為に実際のものも用意した。
 その為に下水道へ入る時間は多少遅れたが、遅れた為に情報がある程度揃っていた為、どこからなら人に見つからず下水道へ入れるかは判った為、助かったのはある。
「多分、装置回収だけじゃダメだろうから、アシッドも見つけないと」
(『装置回収最優先ではなく?』)
 真琴へハルが理解度の確認の為尋ねてみる。
「確かにアシッドは後日確保も可能と言えばそうだけど、装置回収だけでは大元を断ったことにはならないと思う。だ、だって、次の動きをプリセンサーがまた感知出来るとか、判らないし」
(『それもそうじゃな。プリセンサーではない者がそれらを正確にすることは出来んじゃろ。ならば、機を逃さぬことが重要じゃ。後でご褒美じゃな』)
 臭くて心が折れそうな真琴の心に光が射し込む。
 そこへ黎夜と千颯から連絡が入る。
 広域である為、下水道調査を手分けして行おうというものだ。
 酷い臭いを分かち合う仲間……帰ったら、皆で香港チョコレートで労い合おう。
 少し減っちゃうけど、ご褒美あるし。
 真琴はブレずに思って、調査続行。

 今頃、上はどうなっているだろうか?


「思ったより時間が掛かりましたね」
「でも、ネットの根拠を考えれば、仕方ないわ」
 笹山平介(aa0342)と柳京香(aa0342hero001)が九龍地区へ入ったのは、遅い部類だ。
 アシッドの情報を集める為、広範囲散らばれるようビラを作ったからだ。
 リュカがネット方面を担当してくれているが、ネットに詳しくない者もいる。
 スマートフォンユーザーが全てではないのと一緒で、ここの住民全てがネットを使いこなしているかどうかは別で、ビラというアナログの手段も取った方がいいという判断だ。
 準備に時間は掛かっても、急がば回れという言葉もある、慎重にいかなくては。
「だいぶ補完されてきているとは言え、地形全ての把握は難しい……ある程度目星をつけて絞らないと……」
「生活用水、取り分け、飲料に用いることが出来る水の大元を探さないとね」
 不審に思われないよう言葉を交わす程度に、九龍地区はやや緊張しているように見える。
 レーラからの情報で、古龍幇サイドに異変が広がりつつあることは知っており、それを受けて、住民達も余所者を構えてしまっている所があるのだろう。
 さて、この状況でどうやって──
「細けことは気にさねで飲むスベ! 大丈夫ッス、毒は入ってねぇッスよ!」
「ほう、これは彼の有名な密造酒「九龍仲謀」!」
 齶田 米衛門(aa1482)がスラムの一角に腰を下ろし、住民達を手招きしている。
 サクラを買っているのは、言うまでもなく玉子だ。
 子供達方面は正護主導でヒーローごっこに切り替えた征四郎とオリヴィエが上手く情報を集め、レーラに集めているが、大人は子供程簡単にはいかない。
 親の方面は素性を明かすのが少し厳しい状態になっている、と判断したガルー・A・A(aa0076hero001)が子供を迎えに来た親へ明かそうとした征四郎を制止し、大人は別方面でのアプローチが必要であると見解を添えたのだ。
 米衛門は現地自体に早く入ることも出来たが、構成員の動きなどもある為、情報がある程度揃ってからの方がいいだろうと言われ、少し待機していたが、状況的に小細工していられないと彼はスノー ヴェイツ(aa1482hero001)と共に九龍地区のスラムへ腰を下ろした。
「チョコレート買って来たからよ、ちみっこども食らえー、食って大きくなれよ!」
「一緒にいくのですよ!」
 チョコレートに釣られた振りをして、征四郎が子供達の手を引く。
 実は連絡を受けて、何気なく通りかかる振りをしてこちらへ来たのだが、子供達は気づけない。
 サクラ役の玉子に続き、正護も腰を下ろすと、住民が様子を伺い、近づいてきた。
「うめ酒っごガイドさんのお勧めで買って来たんで、うめッスよ! 呑むべ呑むべ!」
 住民の1人、高齢の老人が「仮に何かあっても年寄りなら」と勇気を出して口にし、その顔がぱっと変わる。
 それを見て興味を覚えた住民が呑んでみたいと言い出し、米衛門に求める一方、スノーが香港チョコレートを配り出す。
「喧嘩するなー旨いモンは平等だからな!」
 スノーは外見的に一目で英雄と見られてしまう分、距離を見誤らずに子供達へ接する。
 彼女と一緒である分、米衛門も能力者と見られ、異変の原因と気づかれ易いが、米衛門はまだ自分から素性を口にせず、彼らを手招きして次々と酒を酌み交わしていく。
 と、米衛門は平介と京香を手招きする。
「配管調査の仕事に来たので……」
「勤務中は……」
「細けぇこたぁいいんだよ」
 一旦断ることで逆に輪の中に入るよう動いた平介と京香、中年の男性に座らされ、酒かチョコかと選択肢を突きつけられる。
 友人のくれたチャンスだと平介と京香はチョコを選択し、ちょっとした宴会に加わった。
 酒にもチョコにも限りがあるとは言え、住民がその内屋台から買ってきたとか何だとかで持ち込みだし、徐々にその規模が大きくなっていく。
 中心にいるのは言うまでもなく、米衛門だ。
「……で、何が目的なん?」
「最近この辺りさ見掛けない、見慣れね奴とかって来ねがったスか?」
 米衛門が質問に対し、直球で切り返した。
 直球過ぎた余り、質問した恰幅のいい中年女性が思わず目を丸くする。
 それを見、米衛門は笑ったまま予想されている素性を明かした。
「わしらに叩き出されると思わんかったのか?」
「オイは嘘が付けねがらなぁ……直球勝負するしかねぇんスわ」
 最初に酒を口にした老人へ、「警戒を抱いたままってのはつまんねっスべ?」と笑ってみせる。
 高価な酒を呑ませたから、チョコを振舞ったから……それだけでは彼らも強かに受け取るだけ受け取って終わりだっただけだろう。これは現在緊張感走る状況に限ってのことではない。
 それは、彼らに下心と受け取られようとも、その直球で勝負しに行った。
 結果──
「見慣れない奴がさ、この地区に危ない薬を撒いてるんだってさ」
「心当たりとかねぇッスかね? 取っ捕まえるんで出来たらで良い、協力してけねッスか?」
「あ、本当だと思います。私達も上からこのビラを配るように言われてまして」
 スノーと米衛門が言葉を投げると、平介がたまたまの便乗を装い、住民達へビラを配る。京香もそれに倣って配り始める。
 米衛門が住民達の『聞く姿勢』を勝ち取らなければ、ビラは受け取られていたかどうか判らない。
「あれ、今日、見たかも」
 アシッドの経歴の所為か、老人に覚えがあるような者もいた。
 独学で一流大学にまで進学したなら、ここでもある程度知名度があったのだろう。
 知らない者も当然いるだろうが、やっとひとつ、目撃情報が出た。
「表通りを歩いてた。見たことあるって思ってる内に酒場の裏手へ歩いていったね。多分裏口に入ったと思うけど、かなり前の話だから今どこにいるかはちょっと判らない」
「いや、助かる。安心しろ。危害加える奴らはオレらが追っ払ってやるよ!」
 不安そうな店売りの青年へスノーが笑ってみせる。
 それを見計らい、平介と京香が場を離れた。
「齶田さんのお陰で空気の挽回が出来た……」
「下心って言い方も変だけど、それを隠そうとするのではなく、後ろ暗さもなく出したのが大きいでしょうね」
 平介へ京香が小さく答える。
「それはあるかな。齶田さんのシンプルさがここでは最大の武器だったってことだね」
 後は征四郎がここを守る為にと助力の一押しを願うだろうが、それも米衛門の空気の払拭で成功するだろう。
 自分達は、目撃情報と既に集まっている情報を照合して、装置を探しに行こう。


 御代 つくし(aa0657)とメグル(aa0657hero001)がその一室に通された時、先客がいた。
「……!」
 つくしは悲鳴を上げそうになるが堪え、鹿島 和馬(aa3414)に駆け寄った。
 何かと目立つ俺氏(aa3414hero001)の姿もなく、ボコボコでもくまは綺麗さっぱりないから、共鳴しているのだろう。
 つまり、この場には確実に共鳴した能力者がいる。
 この部屋の中には10人──全員そうなのかも知れないが、聞いている場合ではない。
「大丈夫ですか!?」
「大丈夫。これから起きるかもしれないことを防ぐ為なら、な」
 つくしへ笑ってみせる和馬。
 目立つ俺氏と共鳴した彼はエージェントであることを隠さず行動していた。
 とは言え、お触れを垂れ流しながら歩いていた訳ではない為、先方からの接触に時間が掛かってしまったのだ。
 交渉に赴いた真赭達や接触を試みたクレア達が彼らを警戒させたからこそ、構成員が見慣れない和馬へ接触してきたので、その警戒がなければ和馬は接触されるのに時間が掛かったかもしれないし、つくし達もここへ連れてこれる構成員と接触出来るまで時間が掛かっただろう。
 彼らへ協力そのものを取り付けることは出来ずとも、彼らの行動は決して無駄になっていなかったのだ。
「……俺は、エージェントっつってもまだ新人で、H.O.P.E.と古龍幇の確執も良く知らねぇしな」
 和馬は、彼らへこの地区を襲う陰謀を訴え続けていたそうだ。
 武装をわざわざ目の前で外して見せ、敵意がないことを示した上で、だ。
 が、いきなり降って沸いた話を信じろと言われても中々出来ないのが人間というものでもある。
 俺氏はそれを指摘し、こちらの話を聞いてもいいと思う体制を整えなければ、情報をどんなに出した所で意味がない。
 提供された情報が本当にそうなのか確認する手段がない為、基準はその情報発信者を受信者が信じられるかどうか。信じていいと思えるかどうか、だ。
 和馬もそれを理解していたからこそ、無茶な手段に出たのだ。
 共鳴した能力者達に攻撃をどんなに食らっても無抵抗に受け続ける、という。
「あんたらは侠だって聞いた……信義に篤くて、男気があり……弱きを助ける、侠だって」
 つくしがチョコレートを探そうとするが、和馬はそれを制した。
 案じてくれる気持ちは嬉しいが、訴えたいことが残っている。
「沢山、力のねぇ連中が……このままじゃ犠牲になんだよ。頼む、今だけでもいい。協力してくれ……信用しろってんじゃねぇ、九龍地区の為に利用するってだけでいい」
 つくしは、和馬の隣に膝をつけた。
「つくし……!?」
 メグルの声が響く中、つくしはそのまま座して礼──土下座した。
「お願いします。どうか、どうか協力、ううん、利用してもいいから、今は情報をください」
「つくし、土下座なんて、あなた何を……」
「ここで棄てたら!」
 メグルがつくしを思い遣って声を掛けるが、つくしは強い声で遮った。
「ここで棄てたら、誰かが犠牲になる。組織がどうとかじゃない。私が嫌だ。知っているのに何もしない……やれることを諦めて『棄てる』なんて嫌だ。ここの人達は古龍幇を大切にしているのでしょう? そんな形で強制的に棄てさせるなんて、私は嫌だ」
 メグルがその言葉に息を呑んだ。
 現実を知ったつくしが、どれだけ『棄てる』ことと『棄てられる』ことに拘り、同時に強く恐怖しているか思い知った。
 棄てられた、また棄てられるかもしれないと恐怖するからこそ、強制的に棄てさせることに対して嫌がり、今突き動かされている。
「永平のようにスラム街の人々を大切にするのが古龍幇なら、その人達を争わせるなんて嫌だ。そんなの駄目だ。それから比べれば、私が土下座をすることなんて、ささやかなこと……そんなことで守られる誇りより、あなた達が棄てない未来を選ぶ」
 つくしは頭を上げない。
 が、横の景色が動いたことに気づく。
 メグルが隣で膝をつき、同じように土下座した。
「僕からもお願いします。僕達は武器を最初から持っていません。探索中は見張りをつけても構いませんし、こちらの彼が言うように利用してやる位の気持ちでも構いません。話を聞いていただけませんか」
 空間に沈黙が下りる。
 和馬がぼろぼろの身体で振り絞るように叫んだ。
「もう嫌なんだよ……助けられた筈なのに、手が届かねぇのは……っ!」
 自宅から強制的に叩き出された世界で目にした事件において、犠牲はあった。
 命は蘇らない。防ぐ手立てがあるなら、諦めたくない。
 和馬の魂の叫びだった。

 一室が静まり返ったその時だ。
 ドアが開く音がした。

 誰だろう、と彼らは思った。
『クロさん……』
 セラフィナ(aa0032hero001)の声が聞こえる。
 足音がしないから、幻想蝶の中にいるのだろう。
 ならば、この部屋に入ってきたのは、セラフィナの能力者である──
「大丈夫だ。──彼らの覚悟に免じて、聴いて貰えないだろうか」
 そう、真壁 久朗(aa0032)だ。
 セラフィナが僅かに声を漏らしたのは、到着までに仲間がいることを知らされており、彼らの無事を気遣ったからである。
 前半小さくセラフィナを安心させた久朗は、その後半から彼らへ言葉を投げ掛けた。
「ここに来るまでの間にこの男に証明したが、俺も丸腰だ。彼のようになるのも覚悟でここへ来た」
 久朗もどうやら構成員によってここへ連れて来られたらしい。
 見つかる為に敢えて男子儀礼服「香港」 を着用して動いていたが、九龍地区も狭くはない為、緊張が高まり、構成員が増員されるまで声が掛からなかったようだ。
 エージェントだと判る分、逃げずに着用してきた相手を逆に腕に覚えありと思ったのかもしれないが、その辺りは見過ごした者に聞かないと判らないだろう。
「これを、預かりました」
 久朗を連れて来たらしい男が動く気配がする。
「俺の通信機とエージェントのIDカードだ。こちらの話を聴き、信用に足ると思うまで返さなくていい」
「私も! 幻想蝶のある指輪を渡します。私がその手に戻したりしたら、その時は遠慮なく攻撃していいです、から……」
「俺も、(押入れにしまってある大学ノートの束以外)預けられるものは預けていい」
 久朗に続き、つくしと和馬が申し出る。
「幇としての矜持がそちらにもあるように、俺達はH.O.P.E.としての信念があるからここにいる」
「少し待て。確認を取る」
 久朗の最後の声に応じたのは、それまで黙っていた男の声だ。
 多少年長の声からして、末端の中でもある程度上なのだろう。
 どこかへ電話をし、会話からエージェントが交渉失敗した纏め役らしいと判断する。
 この纏め役に面会すれば、挽回のチャンスはあるだろう。
 が、確認に時間が必要なのか、その電話は一旦切れ、部屋に沈黙が落ちる。
『時間が掛かりますね』
「それだけ今は緊張ある状況なんだろうな」
 待っている間、セラフィナと久朗が言葉を交わす。
 それでも、つくしはまだその姿勢のまま、故にメグルもそのままだ。
 久朗とセラフィナ、和馬が気遣ってくれたが、つくしは譲らなかった。
「えっ!? ……判りました。では……はい。それでは、そのように動きます」
 言葉遣いが急変した電話が切れた後、「顔を上げていい」と声が響き、つくしとメグルはやっと顔を上げた。
「黒兵大隊長李永平さんからの直接の指示だ。話を聴き、九龍地区の為のものであれば一旦協力する」
「え」
 あの電話は、本人だったらしい。
 リュカのネットの情報を上層部が掴んだからこそ、纏め役からの報告が滞りなく上へ通っていた。
 纏め役も接触してくる不審者がいたから、報告をマメにした……そうした下地があって、永平へその情報が届き、電話という流れが出来たのだろう。
「あれがあって尚、IDカードを出すようなら、信用していいと。借りは返すとも」
 彼は、自らの過ちを認めた件を忘れていなかった。
 その忘れない一件の背景には、佐倉 樹(aa0340)が彼へ情報提供をしていたのもあっただろう。
 これでイーブンである、と彼なりの筋を通したといった所か。
 だが、その立場を考えれば、スムーズに情報が届いたこと自体が奇跡だ。
 久朗のIDカードが本物であるか末端の構成員は詳しく知っておらず、これが偽造だと握り潰そうと思えば出来た。
 それがなされず、久朗よりそうしたものが預けられた報告をすべきと彼らを動かしたのは、つくしと和馬の姿勢に他ならない。
 つくしと和馬がいなければ、永平まで報告が行かず、久朗のIDカードと通信機がなければ、彼(もしかしたら、彼のマイロード劉士文の意向があるかもしれないが)から指示は出なかった。
 誰が欠けても、得られなかった結果だ。

 提供されたのは、飲料可能な水の本流や重要な支流、タンクの情報。
 同時に古龍幇の信頼を失墜させ、弱体化も目論むアシッドの情報を提供し、協力を呼びかける。

 事態が、急速に動いた。
「無茶し過ぎだ」
 久朗は自身とつくしからのチョコレートを食べてもまだ癒えない和馬へ言うと、セラフィナと共鳴し、ケアレイでその傷を癒す。
「もう、痛くないだろう」
「サンキュ。無茶なことってのは、俺氏からも言われてる」
 つくしが来なければ、俺氏は和馬の意向を無視して主導権を奪って離脱しただろうと言っているそうだ。
(『和馬氏も犠牲にならなくていい存在だからね。俺氏は和馬氏が本当に為にならない引き際なら、動くよ』)
 そこまで好きにさせてくれたのは、信頼の証。
(つくし……)
 メグルは彼女の言葉の痛みを堪えるように一瞬目を閉じ、久朗へお礼を言うつくしを見た。
「行きましょう。今は人手が必要な筈です」
 そう、棄てさせない為に動く時だ。


 樹が不知火 轍(aa1641)と共に九龍地区へ到着したのは、任務参加のエージェントの中で最も遅かった。
 理由は、手続きに時間が掛かったから、である。
 調査する為、大学の研究を装って配管調査を行う方向で動き、まず大学の教授に確認を取る必要があった。
 これ自体は日本と香港の時差が然程ないこともあり、大した障害ではない。運良く講義もない時間で、教授はすぐに捕まり、話を通すことが出来たのだ、が。
 問題は、行政サイドであった。
 構築の魔女や平介はH.O.P.E.を経由して話を通した為、その手続きはスムーズなものであったが、樹は漏洩の危険を考え、H.O.P.E.を介さなかったのだ。
 この為、身分証明や手続きが煩雑なものとなり、到着が最も遅いものとなった。
「こういうご時世だから、窓口に行くまでの時間もあったのは仕方ないというか」
 香港は今緊張が高まっている上、元々人口も少なくない都市だ。
 行政サイドの、エージェントが携わらない仕事も増えているのだろう。
 そこに外国の学生という要素が加われば、手続きは単純ではない。
(H.O.P.E.登録のエージェントって確認されてからは早かったけど)
 大学生であるのも事実なので身元詐称はしていない為、言ってくだされば良かったのにとあちらに言われはしたが、拘束されるということはなかった。
 緊急事態として招集されていなければ、事前に準備を整えることも出来たが、プリセンサーの予知よりすぐに動く必要があると判断されて招集、動いた為、この辺りは仕方がない。あの状況ではビラや孤児を偽装するボロフードですら、差はあれど準備に時間が掛かったのだから。
「状況がだいぶ動いていますね」
「……いい方向になっていたのは、助かるけど」
 周囲を見回す雪道 イザード(aa1641hero001)へ轍がそう返す。
 ここに移動するまでの間、最新の情報は確認済みだ。
 と、樹は米衛門が住民達の信用を勝ち得て、内部情報を聞いている光景に気づく。
「ヨネさん、どう?」
 樹は差し入れ、と紹興酒「仲謀」を指し示す。
「楽しんでるッスよ!」
 周囲の様子を見、問題ないと判断した樹が米衛門の隣で呑む老人(彼の酒を最初に呑んだ老人だ)へ「聞きたいことがあるのですが」と声を掛けた。
「飲める水のタンクなんかはあると思いますが……古龍幇の方が常連にしている店は判りますか」
 玉子より飲める水の分類の話は聞いた。
 これで収集する情報の基準が出ている。
 そして、古龍幇より情報開示があり、住民達からも情報が出されている。
 が、樹は轍の『意見』を聞き、その優先順位を決めるべきと判断した。
「常連の店?」
「食堂ですね。朝食を食べるような店です」
 轍は移動中に、『構成員の暴動』についてこう漏らしたのだ。
 何故、構成員だけなのだろう、と。
 住民は被害を受けるのみであり、暴走したという未来ではない。
 ならば、能力者、英雄に作用するのだろう。
 そう、『狂化薬』が狂わせるものは理性ではなく、ライヴスなのではないか。
 理性であると断言出来ないなら、ライヴスへ異常を与え、狂わせる作用だったとしてもおかしくない。
 それならば、話の筋が通る。
(それも推測だけど、不知火さんに賭ける)
 樹がそう思っていると、老人だけでなく何人かから常連にしているであろう店の情報が出た。
「ありがとうございます」
 樹はそのお礼に密造酒「九龍仲謀」も贈り、立ち上がる。
「……連絡、しておいたから」
 轍がレーラへ常連の店の連絡をし、その店の配管の大元を優先的に調べるよう伝えていた。
 構成員の数も少なくない為、その店は少なくないことより、自分達も向かわねばならない。
「『次』の為への一手となれ」
「『我ら』はソノ為に在ルのダ」
 小さく呟く樹にシルミルテ(aa0340hero001)が続く。
 レーラ以外、信頼置けるレイヴンのメンバーにも流していると、久朗とセラフィナの声が聞こえてきた。
 少し先につくしとメグル、和馬と俺氏(共鳴を解除した途端凄まじい目立ちっぷり)がおり、彼らも装置探索と回収に回っているようだ。
「くろー」
「い……胸を偽装したのか」
 樹が声を掛けると、久朗は容姿を見て開口一番に言った。
 ポニーテールのウィッグでもなく、普段の身だしなみ程度と違うメイクでもなく、普段と違う服装でもなく。
 まっさきに胸パッドに言及するのは、やっぱりまな板とか平たい胸族とか思ってるからだろう。
「あ」
 皆の声が揃う中、樹はイイ笑顔で久朗の足を踏んだ。
 日常日常。

 そんな微笑ましい(?)日常が繰り広げられている頃、小菊は青霧 カナエ(aa3350hero001)と共に樹から聞いた常連の店の天井にある配管を調べていた。
 当初素性を隠して行動していたが、古龍幇の構成員が試作品の爆弾を持ち込んだので回収したい説明とそのアジトを教えて欲しい説明は、内部の者ではないと怪しまれてしまい、一旦退却していたのだが、状況が変化した為、改めて戻ってきたクチだ。
「……ここは敵の本拠みたいなものなら、構成員を名乗った方が住民相手には良かったのかもね」
 身内の回収であるなら、その筋の者と名乗る必要はない。
 名乗れない時点で、怪しまれる。
 爆弾の回収とアジトの所在確認……何も知らなければ、自分達こそ爆弾魔だ。
 この為、誤解を思い切り受けた彼らは本格的に聞かれる前に確認を取る名目で切り上げ、影響を及ぼさなかった。
「構成員相手だと、構成員を名乗ると怪しまれることが多かったようだがな」
 カナエは言いながら、天井を見渡す。
 が、それらしいものは何も見つからない。
 小菊の予想では、水を飲むのを待っているのではなく、配管を爆破して降り注ぐ水を飲ませるのではというものであったが、仮に全ての配管の水が飲料可能な水であったとしても、爆破する時間、対象がそのエリアにいる必要がある。
 そして、轍が予想した『ライヴスに異常を与えることが狂うこと』という薬ならば、長期的な暴走の為にも量を飲んでほしい意図はあるのかもしれない。
「とは言え、確実に何もないことを調べるのも重要なこと。慎重に捜索すべきだ」
「そうね。料理に使用された形で飲むかも知れなくとも、その効果が的確に作用するかどうか私達には解らない。大丈夫と思わない位がいいけれど、混乱させる手にもなるから」
 カナエへ頷いた小菊は何もなかったと伝えることも、皆の負担を軽くし、役立てると信じて爆弾捜索を続ける。
 自分達が捜索している間も、多くのエージェントが動いているのだから、やれることをやらないと。
 その思いに応えるかのように、スマートフォンは状況の変化を逐次伝えてきている。


 ツラナミ(aa1426)は、38(aa1426hero001)と共に奥へ進んでいる。
 情報開示があるまで構成員を装い、彼らへ協力を呼びかけ、飲料可能な配管を中心に調べていたのだが、偽装して接触する不審者の情報が回り出したことに気づき、元々怪しまれていた為ツラナミとサヤは隙を見て身を隠していたのだが、状況は変わった。
「あちらが裏切られたと感じるようなことがない限り、ひとまず手出しはなしか」
「見えてきた」
 38に言われ、ツラナミは改めて前方を確認した。
「……これか」
 枝分かれする配管の先、タンクに不釣合いな装置があった。
 見ると、時計が刻まれていた。
 先程、先に見つけた轍が撮影した写真がレーラ経由で回ってきた為、そうだと断言出来る。
「発見した」
 ツラナミの回収を見、38が報告の連絡を入れる。
 レーラの話によると、現在一旦九龍地区から出たエージェントも復帰し、回収に回っている者もいるそうだ。アシッドの目撃情報が少ない為、アシッド関連で動いている者もいるそうだが。
「数は?」
「今、それで2個」
「残り急ぐぞ」
 ツラナミが幻想蝶へ収納すると、現在位置から最も効率よく進めるルートで次の装置を目指す。
 国際会議に纏わる動きの為、任務に携わるエージェントのみで動く必要があり、支援はないと言われている状況であったものの、考えてみれば用意出来た情報が不完全であり、情報を聞き込んでレーラが轍、構築の魔女のバックアップを受けながらリアルタイムで作成していたもので、ここから更に支援を依頼すると逆に効率性が落ちる。
(……小泉大老は朋を失望させるようなことはしないと言う。俺もその中に含まれるならば、朋として朋の危機を放っておくのは『人間』ではない……んだろうな)
 それに、手打ちを考えている彼と近々会談は行われる……危機を放置した者を朋と呼ばないだろう。
 ツラナミは動かないのは38との誓約の為でもある、と、今は装置の全回収の為動く。

「ニック、仕切り直しよ!」
「また、やるのか? しかも香港で?」
「当然よ! 変身! ミラクル☆トランスフォーム!」
 こんなやり取りと共に大宮 朝霞(aa0476)とニクノイーサ(aa0476hero001)は共鳴した。
 勿論、聖霊紫帝闘士ウラワンダーとしての決めポーズは忘れない。
 さて、彼ら内部に入るのは2度目だ。1度目は、住民に見つかった。
 積極的に素性を明かさない方がと考えていたが、装いからしてバレ易い為明かさざるを得ず、今受けている任務の為に飲料に使える配管の上流について尋ねたが、怪しまれてしまった訳だ。
 面識がある古龍幇上層部の人間である小泉孝蔵の名を出し、彼の友人である為助力したいと言ったものの、住民は小泉孝蔵を知らなかった。
 彼らは古龍幇という組織内部を詳しく知っている訳ではなく、構成員のように名前を出しても、日系組織を纏める彼に行き着かなかったのだ。顔だけはどこかで見掛けて知っている可能性がある為、そちらを見せたら反応したかもしれないが。
 進退窮まったかと思いきや、意外な方向に話が動く。
 朝霞の装いが装いだった為、道に迷ったコスプレの人と勘違いされ、何か質問攻めされてしまったのだ。
 何とか状況が変わって、奥に進めるようになったので、仕切り直しである。
(『薬を混入させるなら、上水の上流がセオリーと思うが、飲めるものであることが条件だからな。日本とは違うのか』)
「蛇口を捻った水が飲めるって感動する人もいるらしいわよ。それより、絶対阻止するわ! 小泉さんだってきっと困るだろうし!」
(『これも何かの縁だ。じいさんの目論見のために、ここでH.O.P.E.の点数を稼いでおくのも悪くない』)
 ニクノイーサに答える朝霞の決意は固く、ニクノイーサも反対しない。
「後々で名前使ったこと知ったら、迷惑に思わないかな」
(『今、朝霞は古龍幇の為に動いているんだ。あのじいさんが迷惑に思ったりするものか』)
「それでも……再会したら、正直に話して謝るね」
 笑う朝霞は、この後、装置を見つけ、回収し続けた。

 レーラは装置回収状況をひとつひとつ纏めていた。
 戻ってきたエージェントも探索に回り、次々と回収情報が入ってくる。
『こちらは監視していた構成員の方の助力もあり、だいぶ奥まで行けています』
「手前部分は任せて、奥頼んでいい?」
 構築の魔女に依頼したレーラは、カゲリ、クレア、真赭からそれぞれ回収報告を受ける。
 続き、ジーヤからも回収情報が入った。
 何とか逃げている内に状況が変わって動いていた彼は、平介のビラをきっかけに寄せられた情報を得、能力者が多く居住しているエリアの分岐点で装置を発見したらしい。
『大体細かく枝分かれする部分の所に仕掛けてるみたい』
「その方が装置の設置数が少なくなるもの。手際ってヤツかしらね」
 ジーヤに応じたレーラは38から新たな装置回収報告を受け、情報を整理して流す。
 効率性を考えるだけあり、ツラナミの動きに無駄はないようだ。
 そこへ、スマートフォンが鳴る。
 着信は、ヴィントだ。
『当たりだ』
「解ったわ。人を回す」
 ヴィントのそれだけで理解したレーラは即座に情報を流す。
『アシッド発見。場所は──』
 対応可能な位置にいる征四郎がすぐさま反応を返し、オリヴィエも同行と連絡してくる。
 轍も米衛門と現場に向かっている連絡を寄越し、黎夜、紗希、平介も対応可能と急いでいるそうだ。
 更に人手が必要なら救援を出す旨を告げたレーラは、ハンズフリーで会話を聞かせるヴィントの機転に感謝し、その会話に耳を傾けた。


 九龍地区を一望出来る場所。
 ヴィントが教わった場所に到着した時、まだ誰も来ていなかった。
 装置設置が完了されていないのだろうと思うが、その回収は他のエージェントに任せ、確実な場所でアシッドを待ち伏せした方がいいだろう。
『来ると思う?』
「ここが最も眺めがいいらしいからな」
 ナハトにそう答え、ヴィントは共鳴した。
 物陰に隠れ、息を潜めて待ちつつも、情報の確認は怠らない。
(先回りで正解だったか)
 挽回するだろうが、少々状況が悪い。
 一旦地区を出ざるを得なくなったエージェントもおり、追いつくということは難しそうだ。
 ヴィントは物陰から見えるその景色を見る。
 見晴らしは良さそうなその場所は、九龍のスラム街出身なら、当時は恐らく違う意味で景色を眺めただろう。
 ヴィントはアシッドの変遷に興味はないが、最初から『そう』ではないことは、何となく解る。
 自分が最初から『そう』だからではなく、知った範囲の経歴からして、だ。
 何となく想像はつくが──
「来たか」
 ヴィントは足音で本能的に彼と気づき、レーラへ連絡を取る。
 ハンズフリーにし、会話が聞こえるようにした上で物陰から出た。

 アシッドは写真通りの男だった。
 一望出来る場所を確認するように見ていたが、ヴィントがわざと靴音鳴らして近づくと、アシッドが振り返る。
「随分内部が騒がしかったので、何事かと思ってました」
「任務だ。幾つ設置したかは知らないが、回収だけでは終わらない」
 ヴィントは愚神の助力があるアシッドを侮っていない。
 相手の過小評価で落命するのは、裏の世界では愚の骨頂だ。
「これはこれは……。20ばかり設置したとは言え、追いついてくる気配もないので、大したことないと思っていましたよ」
「土地勘はそちらが上だ。が、目的あって動いているなら、最後の目的地を推測し、先回りした方が早い」
「中々の名推理です。賢い方だ」
「それはどうも」
 ヴィントは挑発に応じず、アシッド捕縛のタイミングを窺う。
 先回りした為、ここから逃しさえしなければ逃げ道は落下するだけだ。
 が、この男がマガツヒなら、自ら死を選ぶ可能性がある。
「何故、ここを選んだ?」
「あの方の望み通り、古き龍が暴れ、乱を起こして欲しいのですよ。私の渾身の一滴を3Pに高めて貰えばそれらは可能でしたので」
 生まれ故郷への感慨はないらしいアシッドは、口振りからして崇拝する者がいるようだ。
「自分の為でもないのか。興を殺ぐ理由だな」
 ヴィントが鼻で笑うと、直後、アシッドの顔色が変わった。
「貴様に何が解る」
「解りたいとも思わない」
 ヴィントはそれだけ答えると、インスタントカメラのシャッター音に気づく。
 米衛門と共に来た轍がインスタントカメラで彼を撮影したようだ。
「……一応、聞く」
 轍はアシッドの隣に黙って立っている3Pを見、彼を見た。
「能力者にしか効かないということは、ライヴスに異常を与える薬で間違いないか」
「さて、どう思われます?」
「答える気なし、ま、いいけど」
 轍はその瞬間、デスマークを発動させた。
 元々前線で戦うヴィランではないのだろう、アシッドへマーキングがされる。
 同時にヴィントと米衛門が示し合わせていないのに動いた。
 ヴィントはアシッド、米衛門は3Pである。
「近寄らせねッスよ」
「く……!」
 電光石火の一撃を喰らい、3Pが思わず怯んだ。
 彼らを引き離さなければ、面倒なことにしかならない。
 ヴィントがアシッドを取り押さえると、即座に轍がハンカチを突っ込んだ。
(『自害だけは許されません』)
 イザードがそう言った時には、征四郎が飛び込んでいた。
(『征四郎、愚神は討伐。アシッドだけではダメだ』)
「取り逃がしは、笑える明日が来ないのです」
 征四郎は頷き、即座にブラッドオペレート。
 次いで到着した平介が更にアシッドから距離が離れるようストレートブロウ。
 吹っ飛ばされた3Pは元々等級もそこまで高くなく、その上戦闘向きの愚神ではないのだろう、戦闘を仕掛けるのではなく、離脱すべく動き出した。
「僕に構わずあの方の所へ」
「そうさせて──」
 最後まで言葉を言うことは出来なかった。
 弱点看破を発動させたオリヴィエが、3Pの足を狙って銃撃し、決めたからだ。
「逃すと思っているのか? 終わりだ」
「よく言った! お前らを野放しにする訳ねぇだろ!」
 オリヴィエの発言に紗希が意気揚々と烈風波。
 どうやらカイにかなり引き摺られているようだが、3Pには景気良く当たったし、いいとしよう。
 逃げられないと思った3Pが襲い掛かってくるが、エージェントは数でも圧倒している。
「ワタシにはまだ見たい景色が……」
 最終的に黎夜のリーサルダークで気絶し、その後米衛門の疾風怒濤を始めとした総攻撃でその意識を戻すことなく、倒れた。

 目を見開き、3Pが倒れる様を見たアシッドは糸が切れた人形のようである。
 そうした感想は捕縛したエージェントが共通して抱いたものであったが、同情すべき余地はない。
 いや、もしかしたら、彼の変遷の中に同情すべき余地があったのかもしれないが、それを理由に誰かを害していい理由はない。
「アシッド捕縛。護送車を回してくれ。念の為護送車に同乗する」
『了解』
 レーラの短い返答と装置の残りの数を聞いて、ヴィントは連絡を一旦切った。
「装置は何とかなりそうだ。回収の為に戻る必要はないだろう」
 ヴィントが短く伝える。
 これは轍の機転が大きい。
 罠師による効率重視の解除もそうだが、これにより安全に解除可能であった為、他のエージェントへ情報が回し易かった。
 写真撮影をしたのは複数のエージェントだが、インスタントカメラで角度を変えて撮影出来た為、今後類似ケースにも見落としがなく対応も出来るだろう。
 ともかく、アシッドは捕縛された。
 装置は20とヴィントが聞いていたことより、まず20を目指した回収が行われる。
 その頃にはアシッドの護送車も到着となるだろう。


 アシッドの確保の戦いが行われている頃もレーラの情報を受けて、エージェント達は装置回収に動いていた。
「これも、そうだな」
 ジーヤはそれを見つけると、装置を回収し、幻想蝶の中へ収納した。
「時間になったら薬が流れるかもしれないから、ここが安全なのよねぇ」
 自分の幻想蝶の中に避難させるというのも、あまり面白い気分ではないらしいまほらま。
「帰るまでだから」
 中の薬は能力者のライヴスに異常を来たす可能性があるもの、しかもアシッドの話によれば濃度が高くなっているもの。
 安全に回収するだけでなく、成分を理解しておいた方がいい。
 こうしたことより安全な回収という流れになったのだが、それと納得は別問題ということ。
「そっちはどうですか?」
「こちらも回収したのじゃ」
 ジーヤが歩いてきた正護とアイリスに気づいて声を掛けると、アイリスが幻想蝶の中と指し示す。
「場所的に行けなかったのがな……。折角、拒絶の風を身に纏い、颯爽と、必殺技を決めたかったんだがな。防人流雷堕脚、竜巻の型って」
 ちなみに、拒絶の風はライヴスの風を纏い、己の回避能力を上げる以上の力はないので、攻撃威力が上がるということはなかったりするので、ジーサンこと正護の気分的なものだろう、とはアイリスの言葉。
「男は拘る所だろう!?」
「え、いや、その」
 病弱で成人まで生きられないと言われていたジーヤ、健康になって磨きが掛かった巻き込まれ体質が遺憾なく発揮された。

「何だか楽しそうですね♪」
「……そういうことにしておくわね」
 論争が入口まで続いている正護とジーヤのやり取りを見て、平介はそう言った。
 京香はあんまりそう見えなかったが、そういうことにしておく。
 尚、彼が敬語なのは、近くに爆弾は見つからないと結論を出した小菊とカナエがいるからだ。
「回収は全て済んだ。アシッドが嘘を言っていなければ、爆弾への言及もなく、問題ない」
「とは言え、設置しそうな箇所だけ伝えておこうと思って」
 カナエに頷く小菊はメモを取り、各入口に待機し、エージェント全員退去を確認する構成員の誰かに渡しておくつもりらしい。
 平介が京香と共に配ったビラも全て捌けたので、注意喚起に一役買えることだろう。
 友人達の尽力のお陰によるもの、彼らに何も起きなくて良かったと平介は心から思う。
「ともかく、合流場所に行きましょうか♪」
「そうね。きっと待っている」
 楽しそうに言う平介へ京香は薄く微笑み、彼と共に外へ出た。

「一時はどうなるかと思ったけど、最終的に香港の象徴である紫荊花の故事の通りとなって良かった……」
「すまんかった。つい頭に血が上って。装置回収しなければヤバイってのを教えるにはと」
 安堵する真赭へはカイがぺこぺこ謝っている。
 ヴィント、オリヴィエ、征四郎がアシッドと共に護送車へ乗った為、紗希の意向もあって、こちらへ合流したらしい。
「話を信じて貰う前に、話を聞いてみようという気にさせないとダメな時で、相手が疑ってる時なんかはカイ、相性悪いみたいで……」
「対等は案外難しいということだろうな」
 紗希へ緋褪が落ち着いた声音で答えるが、その尻尾の動きで落ち込むことはないと労っているのがバレバレだった。
「って、マリ、おま、何話してんの」
「カイ?」
 会話に気づいたカイが顔を向けるが、紗希が彼の名を呼ぶと、本気で怒る前兆を感じ取ったカイが黙る。
 紗希を本気で怒らせたら、手がつけられない。
 けれど、これも、今は無事に任務終了したからこそやり取り出来るものだろう。

 真琴は下水道に入った全員に香港チョコレートを振舞っていた。
「ボクと同じ臭さを味わった同士として……!」
「何か嫌な同士……」
 真琴の言葉に黎夜がぽそりと呟いた。
 とは言え、下水道は精神的に色々持っていかれた上アシッド確保にも動いたので、労いは嬉しい。
「帰ったら、即! 風呂!」
「俺も気になるでござる……」
 千颯は臭いがしみついたら我が子へハグが出来ないと懇切丁寧に身体を洗っておきたいらしい。
 ついでに洗い終わったら完全開放でちゃんと乾かしておきたいそうだが、こちらは同じように白虎丸の尽力に期待したい。
「下水方面で影響はなかったが、入口もドアを開けたらだったし、本当に内部は住人でないと判らないかもしれない」
「それはありそうじゃの。また来ることがあっても、知らないつもり位でいた方がいいかもしれん」
 アーテルへ答えたハルはそう答え、香港チョコレートぽりぽり。
 曰く、香港チョコレートは食前酒みたいなものらしい。
「……食前酒、ね……」
 メインディッシュとやらにはご褒美だからいいのだろう。
 アーテルは深く追求しないことにした。

 さて、一方、アシッドの護送車。
 アシッドは身体検査等々行われ、所持していた薬や自害用と思われる爆薬や毒薬を全て回収されていた。
 これはマガツヒという集団が情報を残さない為に死を厭わないからだが、ガルーが毒薬を警戒すべきと主張したからだ。
(『でも、何か変じゃない?』)
(ナハトもそう思うか?)
 ナハトの問いにヴィントが応じる。
 アシッド捕縛に関し、ヴィントは経歴などから思想や行動を推測、先回りした最大の功労者である。
(もう生きていないのかもな)
 念の為、ここにいる全員共鳴解除していないが、アシッドは虚空を見つめたまま微動だにしない。
 ヴィントは、ひとつの可能性に気づいていた。
 その通りなら、アシッドは自害もしないが、その情報を何も口にしないだろう。
 彼の心は世界にないなら、全て遠い話だ。
(既に処置済みだったのでしょうか?)
(『いや。恐らく違う』)
 同じことを考えていたガルーは征四郎へこう言った。
(『話を総合するに、こいつは何かあって、愚神と手を組んだ。その後、あの方とやらに身を寄せた。崇拝だろうが。あの方とやらにもこういうのを任される程度に信用されていた。だが、愚神を失い、あの方とやらの元に戻れない。死ぬより辛く、物理的ではなく、精神的に死んだ』)
 明日がなくなったのではなく、明日を拒絶した。
 それは征四郎に理解出来ないことだった。
 目の前の人物に目を移す。
 戦闘の必要がなくなり、主導権をオリヴィエからリュカとしている今、ネットの確認を行っているようだ。
「……出来ることは大体したかな」
 上層部が直に情報を見る機会を作ったリュカは、ほっと一息。
 その書き込みがあったからこそ、全て道が繋がった。
「お疲れ様」
 リュカが征四郎に微笑む。
 これだから、この人は優しい。
「2人もお疲れ様です」
 リュカだけでなく、先程まで主導権を得ていたオリヴィエにも聞こえるよう征四郎は労った。

 この道中で、全ての装置回収と携わったエージェントの合流の連絡が届く。


 香港九龍支部へ戻ると、装置の提出となった。
 こちらは説明役を買って出ただけあり、ジャスティンが陣頭指揮を執るようだ。
「仕事は終わりだな。帰るぞ」
「……飲茶セット」
 タバコに火をつけ、身を翻したツラナミは、38にぽそりと呟かれる。
 これからの時間、最上階の夜景は美しいらしく、同時に飲茶セットは絶品……というツラナミ的には興味がない情報を38が提供する。
 ちなみに情報源は玉子らしい。
「さて、ここの味巡りがまだだ。ぼく達も任務の成功を労う為にも足を運ぼうじゃないか」
「……」
 任務中も味巡りしていたと言いたげなオーロックスを他所に玉子がエレベーターホールへ歩いていく。
 ブレていないが、彼女の飲食に関する拘りがあったから、飲料に耐えられる水、同時に手際重視ならばターゲットを絞るという探索条件の追加で装置を効率的に見つけ出すことが出来た。
 38が玉子を見、ツラナミを見る。
「……外の景色なんて、何が楽しいんだか」
 そう言いながらも、渋々という空気ながらもエレベーターホールへ歩いていくツラナミへ、表情は動かずとも目は輝いている38が追っていった。
 それを微笑ましく見送った構築の魔女がぽつりと呟く。
「これで一応終わり、ですか」
「ロロ……」
 落児がその呟きを耳に拾い、緩やかに頷く。
 霍凛雪(az0049)も小泉孝蔵との会談を控えており、多忙を極めているのか、この件はジャスティンへ全面的に任せているらしい。
「それだけ会談が重要なものなのでしょうね。尚のこと、装置が回収出来て良かったと思います」
 恐らく装置の保管場所は極秘に扱われ、何が原因で知られるか判らないことを警戒し、ダミー情報すら流すのだろうが、全ては推測の域。
 どのような判断が実際に下るかはジャスティンと凛雪の話し合いで行われるだろう。
 そうした会話を聞いていた朝霞は、ニクノイーサを見上げた。
「これで、目論見通りに動くかな」
「判らん。こればかりは当事者同士の歩み寄りだろうからな」
 ニクノイーサは緩く首を振る。
 会談が成立することがあれば、ご破算になりかねなかったこの件を食い止めたことは評価されるだろう。
 仮に成立しなくとも、起こったかもしれない未来を考えれば、悲劇は食い止められた。
 勿論、これだけで全ての悲劇が食い止められた、なんて断言は、未来は誰にも判らないから、出来ないのだが。

「あ、さっきはありがとな」
 つくしは和馬に声を掛けられ振り返った。
「何言ってるんですか。お礼を言うのは私の方ですよっ」
「お互い様でいいんじゃない?」
 あの場、どうなっていたか解らないという思いらしいのを見越し、俺氏が案を出す。
 優れた白き牡鹿(俺氏談)はそういう所、抜かりないのだ。
「最初部屋に入ったら、鹿島さんがボロボロでビックリしました」
「あそこで抵抗したら、絶対話聞いてもらえないと思ったからな」
「和馬氏無茶したよね。つくし氏も和馬氏並に無茶したと思うけどね」
 両者、信念あってのこと。
 和馬は状況で自分の信念を変えず、つくしもそれを選ぶことで誇りを示した。
 とは言え、俺氏の目から見て無茶に映ったらしい。
「俺氏も心配したように、メグル氏も心配したと思うから、無茶は程ほどにね」
 俺氏に話を振られたメグルはびくっとなった。
「そうですよ。驚きました」
 そう言い、メグルは微笑んだが、自分が今上手く内心を隠しているか自信がない。
 つくしの叫びの全てが込められたあの言葉が、耳から離れていないから。

「ご存知ですか。ウイスキーとは命の水という意味なのです」
「………酒は百薬の長。呑んだら全て終わり……そして寝る」
 轍は親友で戦友で酒友のクレアへ頷いた。
「んだなぁ、オイも振舞うの優先したし、少し……」
 ノーアルコール、ノーライフ勢力に米衛門が同意しようとしたその時だ。
 スノーとイザードが腕を組み、首を横に振る。
 ……禁酒勢力だ。
「寝るのはこの際諦めますが、轍は呑み過ぎです」
「これから帰るだろうが」
 轍は薬の推測、装置の速やかな処置、撮影と多岐に渡る活躍、米衛門は住民から直球勝負で聞く姿勢を勝ち得たと任務上大変貢献したのだが、それとこれは何か違うらしい。
 装置回収にも加わり、異変を気づかせる道筋、言わば交渉成功に必要な道を拓いたとは言え、支配者の言葉の対応に掛かってしまったという点を反省したいクレアとしては、彼らと呑みたい気分なのだが。
 すると、リリアンが動いた。
「呑み過ぎなければ、いいと思いますよ。終わった後に酌み交わすのもいいものです」
 リリアンの口添えがあって、彼らも呑む為に最上階へ移動することになる。
「ドクター……」
「こういう時間も、必要ですよ」
 見逃していないリリアンはクレアにそう微笑んだ。

 その彼らとは異なる方向へ歩き出した者もいる。
「退屈だった」
 欠伸が出そうだったらしいキュベレーが結局何もなかったとコーヒーを啜る。
「安心なさい?本番はこれからよ」
 呟くレーラは情報整理している間も思考していた。
 これで、今後古龍幇はどう動くか。
 またも関与していたマガツヒはその目的が見えない。
 が、3Pという愚神が助力していたなら、愚神も噛んでいるだろう。
「……面白くなってきたわね」
 レーラの笑みを見、キュベレーも彼女と同種の笑みを浮かべた。
 と、別方向からカゲリとナラカから声を掛けられ、顔を向ける。
「情報、助かった」
 一旦は地区から出て待機していたものの、状況変化で装置探索に戻ったカゲリは、レーラがどれだけ情報共有の為に尽力したか気づいていた。
 スマートフォンのGPS機能活用による各員の位置把握は、情報収集や探索範囲を決める上で重要なものであったし、それらを判り易く共有出来るようにしていた。限られた時間で準備する必要があった為、本人的にはもっと時間があればと思った部分があるかもしれないが、あれがなければ成功に至れなかっただろうと思う。
「装置方面はね。けど、目撃情報が殆どなくてそっちは貢献出来なかったわ」
 アシッドの目撃情報がほぼなく、逃走経路の予測は困難だった。
 最終的にヴィントがアシッドを読み勝ち、追い詰めたが、それは背中を追いかけるではなく、ゴール地点の待ち伏せという形、外れていたら逃げられていたリスクはある。
「見つからないよう動いていたのだろう。聞けば、愚神討伐後廃人のようになったらしいが」
「ふぅん、舞台退場って所かしらね。ま、どうでもいいわ」
 レーラはナラカへ興味なさそうに答えた。


「ワー綺麗!」
「夜は本当に綺麗ですね。100万ドルの夜景でしたよね、クロさん」
 シルミルテと共に夜景を見ていたセラフィナが振り返ると、樹に足を踏まれていた。
 任務も終わり、着替えることにしたらしい樹、少し遅れてカフェに来たのだ。
「戻った」
 久朗は正直過ぎる意見により、樹から制裁を喰らった模様。
「恒例行事ダかラ、イイノ。形式美?」
「そういうものでしょうか」
「ウン!」
 シルミルテはセラフィナに頷くと、ちょうど来た工芸茶に目を瞬かせる。
「お花が咲くお茶ってあるんですねー」
「綺麗ダヨネー」
 のほほんとした会話をしているが、隣では久朗と樹が餡は粒餡がいいか漉し餡がいいかという本人達的には重要な論争をしている。
 それも、最悪の事態の回避を希求し、守護に動いたから出来るのだけど……今は工芸茶が綺麗だし、飲茶美味しい。
 香港の夜景は綺麗で、そこで何が起きているか全て知ることなんて出来ないから、自分達は自分達の時を過ごすしかないのだ。

 香港の夜の片隅、『彼』はその報告を聞いた。
「アシッドは残念だったね」
 『彼』はそれだけ言った。
「紫荊花が彼によって狂気に染まることはないが……我々によって乱に乱れて貰わないとな」
 その為に、老人達には退場して貰おうか。
 『彼』の最後の呟きと共に、何かが海に落ちた音が辺りに響いた。
 けれど、香港の夜の輝きは、昏い闇にまで届くことはなく、音はただ、静かに闇の中に消えていく。

みんなの思い出もっと見る

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 此処から"物語"を紡ぐ
    真壁 久朗aa0032
  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
  • 恐怖を刻む者
    ヴィント・ロストハートaa0473
  • エージェント
    言峰 estrelaaa0526
  • 花咲く想い
    御代 つくしaa0657
  • 炎の料理人
    鶏冠井 玉子aa0798
  • 我が身仲間の為に『有る』
    齶田 米衛門aa1482
  • その血は酒で出来ている
    不知火 轍aa1641
  • 初心者彼氏
    鹿島 和馬aa3414

重体一覧

参加者

  • 此処から"物語"を紡ぐ
    真壁 久朗aa0032
    機械|24才|男性|防御
  • 告解の聴罪者
    セラフィナaa0032hero001
    英雄|14才|?|バト
  • 薄明を共に歩いて
    木陰 黎夜aa0061
    人間|16才|?|回避
  • 薄明を共に歩いて
    アーテル・V・ノクスaa0061hero001
    英雄|23才|男性|ソフィ
  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
    人間|31才|男性|攻撃
  • 仄かに咲く『桂花』
    オリヴィエ・オドランaa0068hero001
    英雄|13才|男性|ジャ
  • 『硝子の羽』を持つ貴方と
    紫 征四郎aa0076
    人間|10才|女性|攻撃
  • 優しき『毒』
    ガルー・A・Aaa0076hero001
    英雄|33才|男性|バト
  • 燼滅の王
    八朔 カゲリaa0098
    人間|18才|男性|攻撃
  • 神々の王を滅ぼす者
    ナラカaa0098hero001
    英雄|12才|女性|ブレ
  • 雄っぱいハンター
    虎噛 千颯aa0123
    人間|24才|男性|生命
  • ゆるキャラ白虎ちゃん
    白虎丸aa0123hero001
    英雄|45才|男性|バト
  • 誓約のはらから
    辺是 落児aa0281
    機械|24才|男性|命中
  • 共鳴する弾丸
    構築の魔女aa0281hero001
    英雄|26才|女性|ジャ
  • 革めゆく少女
    御童 紗希aa0339
    人間|16才|女性|命中
  • アサルト
    カイ アルブレヒツベルガーaa0339hero001
    英雄|35才|男性|ドレ
  • 深淵を見る者
    佐倉 樹aa0340
    人間|19才|女性|命中
  • 深淵を識る者
    シルミルテaa0340hero001
    英雄|9才|?|ソフィ
  • 分かち合う幸せ
    笹山平介aa0342
    人間|25才|男性|命中
  • 薫風ゆらめく花の色
    柳京香aa0342hero001
    英雄|24才|女性|ドレ
  • 恐怖を刻む者
    ヴィント・ロストハートaa0473
    人間|18才|男性|命中
  • 願い叶えし者
    ナハト・ロストハートaa0473hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • コスプレイヤー
    大宮 朝霞aa0476
    人間|22才|女性|防御
  • 聖霊紫帝闘士
    ニクノイーサaa0476hero001
    英雄|26才|男性|バト
  • エージェント
    言峰 estrelaaa0526
    人間|14才|女性|回避
  • 契約者
    キュベレーaa0526hero001
    英雄|26才|女性|シャド
  • 撃ち貫くは二槍
    今宮 真琴aa0573
    人間|15才|女性|回避
  • あなたを守る一矢に
    奈良 ハルaa0573hero001
    英雄|23才|女性|ジャ
  • もふもふの求道者
    來燈澄 真赭aa0646
    人間|16才|女性|攻撃
  • 罪深きモフモフ
    緋褪aa0646hero001
    英雄|24才|男性|シャド
  • 花咲く想い
    御代 つくしaa0657
    人間|18才|女性|防御
  • 共に在る『誓い』を抱いて
    メグルaa0657hero001
    英雄|24才|?|ソフィ
  • 炎の料理人
    鶏冠井 玉子aa0798
    人間|20才|女性|攻撃
  • 食の守護神
    オーロックスaa0798hero001
    英雄|36才|男性|ドレ
  • エージェント
    ツラナミaa1426
    機械|47才|男性|攻撃
  • そこに在るのは当たり前
    38aa1426hero001
    英雄|19才|女性|シャド
  • 我が身仲間の為に『有る』
    齶田 米衛門aa1482
    機械|21才|男性|防御
  • 飴のお姉さん
    スノー ヴェイツaa1482hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • 死を殺す者
    クレア・マクミランaa1631
    人間|28才|女性|生命
  • ドクターノーブル
    リリアン・レッドフォードaa1631hero001
    英雄|29才|女性|バト
  • その血は酒で出来ている
    不知火 轍aa1641
    人間|21才|男性|生命
  • Survivor
    雪道 イザードaa1641hero001
    英雄|26才|男性|シャド
  • ハートを君に
    GーYAaa2289
    機械|18才|男性|攻撃
  • ハートを貴方に
    まほらまaa2289hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • グロリア社名誉社員
    防人 正護aa2336
    人間|20才|男性|回避
  • 家を護る狐
    古賀 菖蒲(旧姓:サキモリaa2336hero001
    英雄|18才|女性|ソフィ
  • 心頭滅却、人生平穏無事
    奈義 小菊aa3350
    人間|13才|女性|命中
  • 共に見つけてゆく
    青霧 カナエaa3350hero001
    英雄|25才|男性|ジャ
  • 初心者彼氏
    鹿島 和馬aa3414
    獣人|22才|男性|回避
  • 巡らす純白の策士
    俺氏aa3414hero001
    英雄|22才|男性|シャド
前に戻る
ページトップへ戻る