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公衆的エネミー
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破壊に抗え
最終発言2016/02/17 21:52:58 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2016/02/15 18:10:54
オープニング
●†哲学†
我思う……
この世の幸福と不幸はその絶対数を定められているのではないか?
つまり誰かの幸福は誰かの不幸で、誰かの不幸は誰かの幸福。
誰かが不幸になった分だけ、誰かが幸福になれるのでは。
思うに、幸福のみでこの世界が満ちたら、あれだ、幸福の有難味がなくなって結局は失われてしまうのではなかろうか。
で、あれば、だ。
不幸を量産すれば幸福を量産できるってことかな?
おっ、いいね。社会貢献だね! 生きてるって感じがする。
じゃあ私は全自動不幸量産マシーンになろう。
つまりは悪役。
――公衆的エネミーってことで、ひとつよろしく!
●正義と悪の大決戦
エージェントが緊急出動したのは夜の街、とある大型ナイトクラブ。
閉められたドアの向こう側、ズン、ズン、と聞こえてくるサウンド。
本来ならアッパーな心地になれる筈のそれに、感じるのは嫌な予感。
アイコンタクト。
突入。
開け放たれるドア。
光景。
血みどろ。
悲鳴とすすり泣く声。
簡潔に説明。
足を負傷した大量の一般人が表情に恐慌を貼り付けて床に這い蹲っている。
一面の人間。
一面の血液。
一面の呻き。
ナイトクラブの客が満員御礼に詰め込まれたそこはほぼ足の踏み場もない。
「マガツヒ構成員が、大型ナイトクラブを襲撃。エージェントは速やかにこれらを撃退せよ」
それがエージェントに下された任務だった。
かくして、『ターゲット』は正面のステージに。
「ようこそヒーロー」
マイクで増幅された声。
機械の顔面。スーツを着たヴィラン。その周囲には更に五人のヴィラン。
「どうもマガツヒです。私はエネミー。ここにいる罪もない一般人へいわれなき暴力を振るったクソ悪人です。しかもライヴスも現在進行形で啜ってます。悪いですねー。君達は私達を許さないでしょう。より許されないために動機も説明しておきましょうか。それは我々がマガツヒだからであります」
ミラーボールが回る。極彩色の光が踊る。機械顔のヴィランがグラスの酒を軽く煽った。スクリュードライバー。
「……され。それでは勝負をしましょうか。家族がいて平和な日常があって平凡ながらも幸せな人生を歩んでいるこの人達を不幸のドン底に叩き落した性悪クソ野郎共が恐れ多くも正義の味方の皆様を煽ってるんですから。当然YESですよね。許せないですか? さようでございますか。よいと思います。正しい反応です。健全です。さぁ、ヒーロータイムです。ヴィランはここに。やっつけてください。アニメのように格好良く」
親指で自分の首を掻ッ切る動作をして見せた。
そして、マガツヒヴィラン――エネミーは刃を抜き放つ。切っ先を、『正義の味方』に突きつける。
「ヒーロー。ヒントをあげましょう。私はここの人々からライヴスを貰っています。再生能力と能力強化してるんですよね。ので、私を効率的に倒したいなら……一生懸命彼らを運んで避難させるか……一思いに殺せばいいと思いますよ。ああ、避難用の別働隊? 要請してもいいですけれど、その場合は我々の行動は『殺戮』にシフトチェンジしますので、どうかお気をつけて」
片方の手にあったグラスを適当な場所に投げ捨てた。
重力に従う硝子が、落ちて、砕けて、破片になる。
「……ん? なんでこんなことをするのかって?
それは私が悪役だからですよ。適宜な悪役や適宜な差別は人間の間に団結を生むそうですよ。いいことですね。さぁ、レッツ社会貢献! レッツ世界平和! あなたが私を悪役にして下さるのならば! きっとそれは幸福なことなのでしょう!」
解説
●目標
マガツヒ構成員の撃退
●登場
マガツヒ上位構成員『エネミー』
アイアンパンク(生命適正)×ブレイブナイトめいた何か。
機械化部位は顔面。性別不詳。
使用AGWはマチェット。
能力未知数。憑依しているのは愚神(エネミーは愚神と親和しているタイプ)
愚神名『シャングリラ』。階級不明。機械仕掛けの人型めいた外見。チェーンソーめいた武装を持つ。
周囲の一般人のライヴスをじわじわ吸収しており、能力強化・生命のリジェネレートを行っている。
・裏表のない奴
常時発動。背面よりライヴスでできた愚神の上半身が突き出ている。
向けられる「不意打ち」の効果減少、一ラウンド二回攻撃の効果などなど。
マガツヒ構成員×5
バトルメディック(刃つき盾装備)、ソフィスビショップ(魔法書装備)、ドレッドノート(大剣装備)、ジャックポット(アサルトライフル装備)、シャドウルーカー(ナイフ装備)。
相応の実力。少なくとも一撃でくたばるようなザコではない。
一般人×130
全員、足を何らかの形で負傷しており、歩行走行不可能。同時に「動くな」と脅されている。
●場所
とある大型ナイトクラブ。広いが、フロア一面に一般人が蹲っている。
現場フロアは立地的には地下。
従業員スペースなどに一般人は居ない(一般人は全員フロアに集められている)
時間帯は夜。
現場周辺は封鎖されている(一般人の紛れ込みなどはない)
●状況
H.O.P.E.に増援要請を行い、マガツヒ側がそれを察知した場合、彼らは殺戮へ行動をシフトする。
(PL情報:ある程度劣勢を悟ればマガツヒ側は撤退する)
マスターより
リプレイ
●心置きなく
トランス。
ミラーボールにヘモグロビン。
「何よ、コレ――」
惨劇。そうとしか呼べないグルーヴなフロア――鬼灯 佐千子(aa2526)は目を見開く。共鳴した赤い瞳に映る、血みどろの赤い光景。
『サチコ。――怒るのは構わない。だが、嘆くな。鈍るぞ』
その魂の内でリタ(aa2526hero001)が静かに語りかける。軍人然と、しかし決して冷淡ではない。佐千子こみ上げそうになる胃酸を堪え、その言葉に答えた。
「……珍しいわね。いつもなら怒りは冷静な思考を妨げる、とか言うじゃない?」
『時と場合による。今はその怒りを弾丸に込めればいい』
「そ。そりゃいいわ、私の得意分野ね」
握り締めるライヴスガンセイバー。過去に刻まれたヴィランズへの強い敵意。
強く、佐千子は前を見澄ました。
目を背けてはならない、この狂った空間からは。
『大丈夫か?』
金獅(aa0086hero001)は自らのリンカーである宇津木 明珠(aa0086)へと語りかける。とは言っても口頭ではない。二人は共鳴状態、そこにいるのは銀髪金眼の妖艶な美女だ。
『問題ありません……少しでも情報を残した方が賢明ですね』
金獅と同様の伝達手段、魂の内で明珠が答える。
『大丈夫じゃねーな』
英雄がフンと鼻を鳴らした。彼には分かる。冷静を繕っているが、明珠は明らかに動揺していた。
『……ライブスの吸収方法はドロップゾーン? 特殊スキル? しかし、増援要請をマガツヒ側が察知した場合、殺戮へシフト……ここがドロップゾーンだとするならゾーンルーラーはエネミー。そうなれば、ここにいる民間人は精神的支配下。それなら察知できるかもしれませんが、そうなるとエネミーの愚神は最低ケントゥリオ級。構成員などいなくても問題ないはず。それに、わざわざ組織名を、ヴィランだと名乗る必要はない……分りません。情報不足。しかし現状を放置も出来ない……』
まるで冷静であろうと自分自身に理屈を言い聞かせているかのよう。理性という防御手段を必死で護る。
これは流石に――……。金獅は相棒のただならぬ様子を察知する。ガラじゃあないが。思いつつも口を開く。
『しっかりしろよ。分んねーなら集中しやがれ。考えろ! おめぇは何だ!』
『……っ! ……。……金獅に説教されるなんて……そうですね。戦闘と情報収集を同時に行います。但し被害、戦闘時間を最小限に。敵は壊して構いません』
深呼吸一つ。内部情報を伝達するために帯に仕込んだ通信機を通話状態にして、フロアを油断なく見渡して従魔がいないかを見極めつつ。
やっと調子出てきたな? ――金獅は共鳴姿の口角を借りて笑みを一つ。答えた。
「……おぅ」
油断は出来ない――許されない。
『クレアちゃん』
身構えつつ、リリアン・レッドフォード(aa1631hero001)は共鳴中である自らのリンカー、クレア・マクミラン(aa1631)の名を呼んだ。
「あぁ、私たちの誓約に真っ向から敵対するような奴だ」
ライヴスの白衣を翻し、クレアはわずかに眉根を寄せる。
『万民に平等な救いの手を』
それが『衛生兵』と『軍医』が交わした誓約であった。二人の根底にある信念でもある。
敵対するような奴。そう、正に。
それは守矢 智生(aa0249)とフウ(aa0249hero001)にとっても同様。
(戦いをアニメだゲームだとか例えるような、ふざけた奴には絶対に負けない。……負けたくない)
智生、フウ、その戦いにおける心持は同じ方向を向いていない、そう自覚している二人であるが。それでも今回ばかりは、同意見だった。
(こういう悪い人、大嫌い、です!)
ぎり。奥歯を噛み締め、ゼノビア オルコット(aa0626)は心の中で呟いた。彼女の『声』に、その英雄であるレティシア ブランシェ(aa0626hero001)が返事のように独り言つ。
『悪趣味にも程があんだろ……』
「……同感。悪趣味な相手だねえ」
目を細め、志賀谷 京子(aa0150)。アレは、手段自体が目的になってるロクでもないタイプだ。自意識過剰なんじゃない? 思いつつ、共鳴したその姿――英雄であるアリッサ ラウティオラ(aa0150hero001)と瓜二つだ――で、ライヴスガンセイバーを構え。
「一つだけ言わせてもらうなら、貴方に相応しい評価軸は善悪じゃなくて品性だよ。ほんとに品性が下劣だよね」
『何を主張しようと構いません。わたしはこの銃で悪辣な行いを討つ、それだけです』
悪辣。
そう、悪。善悪の定義とは時に哲学めいてしまうけれども、この場においては断言できる。
マガツヒとは、悪だ。
「……マガツヒのエネミーどすか……裏に愚神出とると隙付くん難儀どすな……」
『うむ! 私は正義の味方だ! 悪役は滅するのみだ!』
弥刀 一二三(aa1048)は溜息を吐いた。正義。敵が放ったその言葉に、彼の英雄であるキリル ブラックモア(aa1048hero001)は高揚を禁じえないようで――癪だ、一二三はそう思いながらも、やる気は十二分。それを示すかのように共鳴したその姿は赤銀の髪をした男の姿に。
「マガツヒ……か、前のはなんか中途半端だったけど今回はどうかな?」
共鳴状態。英雄シルミルテ(aa0340hero001)の桃色の目をその目に半分宿し、佐倉 樹(aa0340)は『敵』を見やる。
前回のマガツヒ? との邂逅は心が躍った。今回は? 樹は平然とした顔の下、期待を密かに押し隠し。
『樹ぃ……やっパリ、だいジブ?』
「大丈夫だよ。私は 散らかすためじゃなくて、綺麗なままにするためなんだから」
そろりと問うてきた英雄に、樹はやはり平然としたままそう答えた。
「それでは」
身構えゆくエージェントを見やり――マガツヒヴィラン、エネミーがマチェット状AGWをその手に。始めましょうか。ゆったりとした声でそれは言った。
「アンタ……あー、エネミーだっけ?」
そんなヴィランに声をかけたのはレイ(aa0632)だ。英雄であるカール シェーンハイド(aa0632hero001)と共鳴した中性的その姿は、妖艶ですらある。
「人間の団結力とやらは……存外に正義ってワケでも無いんだぜ? 他から見りゃ、悪な時も在る。絶対的な正義と悪なんて存在しねーんだ。俺らも……お前らも然り」
「いけませんよ、いけません」
エネミーが首を振る。
「H.O.P.E.のエージェントともあろうお方が。いけませんよ、そんな曖昧なことを言っちゃあ。正義サイドにいるのならば堂々と胸を張って! 自らが正義であると、仰って頂かなければ!」
「正義だぁ? オレ達が正義の味方かどうかは知らねェがよ!!」
声を張り上げたのは東海林聖(aa0203)だった。
「テメー等全員、ぶっ飛ばしてやるぜッ!!」
突きつける血色大剣フルンティング。オペレーターより伝えられた情報以上に、彼が目にしたこの惨状。それは彼を激昂させるには余りにも十分すぎた。
『やられる前にやる……でも、敵と周りは良く見て……』
共鳴状態である聖の背後、ぼんやりとした影――Le..(aa0203hero001)は相棒の魂の内、冷静な声で語りかける。
「ゼッテェ助けるつもりだ……負けねェ……勝って全員助けてやる……」
ざわざわ。聖がその身に纏うライトグリーンの風が剣呑に渦巻く。頭が熱くなっている。ココまでムカつくのも久しいぜ――彼の手は、筋が浮かぶほどに強く剣を握り締めていた。
『……まぁ何て言っても熱く成るよね……』
Le..は肩を竦めた。
『ルゥもムカついてるし……止めはしないけど上手くやりなよ……ヒジリー只でさえ防御ヘタなんだから』
「当たり前だッ」
言下。ライヴスを活性化させ、身体のギアを極限に高め。
アッパーなミュージックと人々の呻き声啜り泣きに包まれて。
エージェントとヴィランの戦いが、幕を開ける。
●ジャッジメント01
「一つ、よろしい、ですか」
まさに一同が一斉に飛び出さんとした寸前、凛と声を放ったのはゼノビアだった。
「ん、どうしました」
片手をさっと上げて突撃寸前だった部下達を制し、エネミーが首を傾げる。ゼノビアの言葉を促す。
「――、」
深呼吸、一つ。
ゼノビアが語ったのは、交渉。
一対一で勝負をして、エージェント側が勝利するごとに人質を一定数解放する――そんなゲームをしないか、と。
「ゲーム?」
エネミーが反対側に首を傾げる。
同時に、一般人達もざわついた。ゲーム。ゲームだなんて、そんな。エージェントは私達の命を、ゲームの得点扱いするのか。そもそも、もしエージェントが負けたら……黙って殺されろ、諦めろ、救助は放棄する、ということなのか?
(……っ)
ゼノビアは奥歯を噛み締める。分かっている。自分だって。嫌だ。人の命をゲームにするようなことは。
『ゼノビア……』
彼女の魂の内、レティシアが気遣うように彼女を呼んだ。
(大丈夫、です)
彼女は答える。自らに言い聞かせる。時間稼ぎのため。相手の出方を見るため。今は守るべき者からすらも不信の目を向けられようが、その先の成功を掴むために。
「最近のアニメ、って絶対的な正義なんていません、よね。せっかくだから『アニメのようにかっこよく』、ちょっとゲーム、しませんか? ……命を懸けたゲーム、なんて悪役、っぽいですし敵さん的にはとってもおいしいんじゃない、ですか?」
「ふーーーむ……」
エネミーが考え込むような素振りを見せた。
さぁ、どう出る。
どう答える。
張り詰めた緊張、誰もの意識がエージェントの返答に向けられた。
「……や、別に良いとは思うんですけどね。こちらとしては、エージェントの皆様のご提案に――例えそれが、仮に罠だったとしても、賛同したいのですが」
ですが。煮え切らない言い方だった。
ならばとダメ押し、佐千子がズイと一歩前に出て。
「はァ? 勝負? こんな――こんな人がいっぱい倒れてる場所でダンスでもしようって? 無理でしょ、馬鹿じゃないの?」
「ああ、でっしょ? 酔狂でしょ。我ながらナイスなギミックができたなって」
それな、とエネミーが得意げに親指を立てた。
「……。で、『ですが』、なに?」
不快感を露に、エネミーを睨めつけた佐千子はヴィランの言葉を促した。
「ああ、はい。『ですが』、ね。……うーん。……うーん、どうしよ。まぁいいか。言っちゃえ」
かくしてヴィランはこう答えた。
「一対一、別にやってもいいんですけど、それってすっごい時間かかりますよね当たり前ですけど。だって一人ずつ戦うんですし。我々としては全く、問題はないんですが、……いいんですか? 時間がかかればかかるほど、私はここにおられるモブの方々のライヴスをガンガン食べますよ。時間がかかるほどモブは衰弱し、私は強くなる。下手したら食い尽くすかも。だけでなく、ルールに則って……もし私が『大将戦』に出たら? ライヴスを豊満に溜め込んだ愚神とタイマンですよ? 自分で言うのもなんですが私絶対勝ちますよ? そしたら人質解放できないってことですよね……」
一頻りそう喋り、最後にエネミーはこう締めくくった。
「なんだかんだで、こっちの有利になります。それじゃあ、あんまりにも、楽しくない。悪役はね、そういうストレート勝ちしちゃ駄目なんですよ。よって、できればNOと言いたいのですが、エージェントの皆様はどうですかね」
酔狂、とも形容できた。
理解もしたくないような謎美学。傲慢、ではない。真剣、なのだ。エネミーはエージェントを決して軽んじてはいない、むしろヒーローとして敬愛すらしている。だからこそ、だからこその、この、珍妙とも呼べる発言。
エネミーは、この場にいる一般人全員のライヴスを食い尽くすかもしれない。
その可能性を示された以上、エージェントはその交渉を推し進める訳にもいかず。
「……ンなにやりたきゃ、そっち行ってやるわよ、待ってなさい!」
そっち――エネミー達がいるステージを見やり。佐千子は戦闘態勢を。
どう足掻いても戦うしかないようだ。
この、一面に一般人が倒れている場所で!
やるしかない。
京子はその手にライヴスの閃光弾を作り出し――投擲する。生憎ヴィラン共は一箇所には固まっていなかったので、こっちへ突撃しようとしている一人、ドレッドノートしか巻き込めなさそうだが。
「ごめん、目をつぶってて!」
声を張るのは、どうしても巻き込んでしまう一般人達へと。眩い光。怯む者達。
悲鳴、それは驚いた一般人の口からほとばしったものだ。
さて、先ほどの交渉の間に樹はマジックアンロックを発動し周囲を探索していた。どうやら罠の類はないらしい。本当に、ガチンコで戦え、ということなのだろう。
樹は死者の書を開き、バトルメディックのヴィランへと狙いを定める。その唇は微笑みを形作っていた。
「……こっちやそっちとかじゃなくて……“ここ”の水が甘いのかな……?」
深くなる笑み。話『は』とても合いそうだ。
(許せない? いや、どうでもいい)
「君」の上に咲く「桜」は綺麗かな?それを「私」に見せて!
きっと「私」の「箱庭」に「君」の「桜」は良く似合う!
表には出さず。
けれど心は沸き立ち。
盾を持つバトルメディックのヴィランへと、白羽根のライヴスを射出した。
バトルメディックはそれを盾で防御する。そして盾を下ろし再び進撃し始めんとした、その、刹那の間隙、飛来した弾丸がヴィランのコメカミから即頭にかけてを切り裂いた。傷自体は深くはない、しかし場所が場所なだけに鮮血がパッと散る。
「命中、っと」
スナイパーライフルを構えたレイだった。躍る極彩色の照明に彼の銀髪が彩られる。サディスティックなスマイル。
「……時間はかけられないわね、さっさと終わらせるわよ」
それと同刻、佐千子も機械の腕に16式60mm携行型速射砲を装備していた。凡そ常人ならば扱えぬ全長2000mmの対愚神用支援火器、しかしリンカーである佐千子の鉄腕はそれを軽々と取り扱う。
速射砲は水平以上の射角。泣き叫びながらも、しかし足の負傷から動けぬ一般人へ、決して弾丸が当たらぬように。
「絶対に頭上げるんじゃないわよ……!!」
斉射。三連。火を噴くそれが、バトルメディック、ソフィスビショップ、ジャックポットへそれぞれ襲いかかる――放たれる弾丸、それは、ヴィランのソフィスビショップ、ジャックポットが放つ弾丸と魔法と交差して――各陣営に、着弾。
悲鳴。一般人のものだ。
「……っッ!」
爆風の中、佐千子は見る。見てしまう。ヴィランの、ソフィスビショップによるブルームフレア。あの野郎、一般人を平然と巻き込みやがった――!
ああ、しかも、だ。それだけじゃない。ドレッドノートにシャドウルーカー、そしてエネミーは、平然とうずくまる一般人を踏みつけ蹴り飛ばし突撃を仕掛けてきている。リンカーの膂力で足を体を踏み潰され蹴り飛ばされた者の、骨が折れる音と鋭い悲鳴。
『サチコ、冷静に。集中しろ』
「わかってるッ!」
絶叫。絶叫。パニックがパニックを呼び、伝染し、狂乱する。
飲み込まれるな――己を律する。けれど、目に、耳に、飛び込んでくる、人々の恐怖。
「脚の付け根からもがれたわけじゃなし、その程度で泣き言言ってんじゃないわよ……!
腕だって生えてンでしょ!? 黙って傷口押さえてなさい……! 勝手に諦めンな……!!」
思わず、だった。佐千子は声を張り上げる。
苛立っていた。自分の及ばなさにだ。
最善を。
でもどうすれば。
どうすればいい。
戦うしかない。
戦うしか、ない――!
「悪の親玉は最後と相場が決まってんだろ。さあせいぜい足掻けよ? 雑魚共」
明珠は嘲る。挑発をする。その視線はドレッドノートへ。その者目掛けて京子が放ったフラッシュバンは、しかし、ドレッドノートが一般人を引っ掴んで盾にしたことで阻まれてしまっていた。
その者は一般人を踏み荒らして、やって来る。……エージェントには出来ない戦法だ。一方のエージェントは接敵しようにも、この一面にいる一般人を踏み越えなければならない。彼らを踏まないよう蹴らないよう進むことは至難の業。
幸いにして従魔の類はいないようで――尤も警戒は怠らないが――それでも戦局は初っ端から混沌。
進みあぐねている明珠へドレッドノートが迫る。振りかぶられた大剣――上等。明珠は刃を握りなおし、同じくと剣を一閃に振りぬいた。
刃同士がぶつかる硬い音。一瞬の火花。拮抗。正面から見やる『敵』はヘラヘラ笑っている。ふざけるように。バカにするかのように。楽しむかのように。
(……笑っている、この状況で、こんなことをして)
『ああ、そうだな明珠。……気に食わねーか、こいつが』
(――、……“理解できません”)
『そーか。なら、潰すぞ。こんな“理解も出来ない奴”に負けるのはァ、癪だ』
(当然です。……力を貸して下さい、金獅)
「っハ! 俺を誰だと!!」
巧みに捌く刃。敵の刃を振り払い、その無防備な間隙へ。
「ぶッ散らかしてやるよッ!!」
叩きつける、重い、重い、一撃。獅子の咆哮めいた風切りの音。
『戦闘では……回復役から潰すのが常套』
「あー、それがよさそうだな」
Le..の言葉に聖は頷く。「でも」と眉根を寄せた。相手のバトルメディックは後衛位置、辿り着くにはこの一面の人々の中を渡らねばならないわけで……。
『……難しいね。回り込もうにも、多分…… ――ほら、来た』
英雄の冷静な声。彼女の言う通り、彼へと飛び込んできた敵。……エネミー。
「早速親玉のお出ましかよ」
「指咥えて見てますとは一言も申し上げておりませんよ?」
エネミーがライヴスを込めて振りぬいたマチェット。聖は咄嗟に剣を構えて刃で受け止める、が――刃を振りぬきながらエネミーはくるりと身を捻る。
愚神、シャングリラ。エネミーの背よりライヴス体として顕現しているそれが、チェーンソーめいた禍々しい武装で追撃を行う。受け止めきれない――聖の体から、鮮血がほとばしった。
「がッ……」
痛み。血液。揺らぐ聖の視界。そこにはっきりと映るのは、愚神が振り回したチェーンソーに巻き込まれて、舞い散る、一般人達の、パーツ。
「――――!!」
目の前。眼前で行われた殺害。
マガツヒヴィランは今のところ、一般人の殺戮をメインにこそしていない。
が。戦闘に巻き込まないように配慮するとも宣言していない。
巻き込むから、遠慮なく巻き込む。
盾にできるから、遠慮なく盾にする。
その度に、蹂躙される人々の、血が、命が。
(……全員救出……難しいだろうけど聞かないだろうな……ヒジリーバカだし……)
繋がった絆を通してLe..へ伝わる、聖の怒り。無限に湧き上がる灼熱。
「……へ……いいぜ、やられる前に……全力で叩き潰すッ!」
怒り。怒りだ。許さない。赦さない。こいつ。よくも。よくも。よくも。
(全く……視野広く持ってって何時も言ってるのに……)
エネミーへ躍りかかる相棒の姿。影である少女は目を細める。
でも。彼の気持ちは、理解できる。
(……こいつは流石に、ルゥもイラっとする)
構えなおす刃。
と、その横合いから。
エネミーを狙い襲いかかるは魔法の蝶の群れ。
「!」
動いたのはエネミー。先ほどシャングリラが切り裂いた一般人だったモノを引っ掴んで盾にして、蝶の群れによる脅威の一撃を防御する。
「あちゃ」『ガードさレた』
樹による魔法攻撃であった。
ヴィランは蝶の猛襲いだ『盾』を投げ捨てる。その背の愚神が、樹を見やる。がぱ、と開いた口。
「げ」
樹が顔を顰めた瞬間、シャングリラが吐き出したのは一閃の光。
『危ナッ!?』
咄嗟にしゃがんでかわす樹。その頭上、魔女帽子を光が貫通していった。見事に焼け焦げた帽子。
流石は愚神――攻撃手段も多彩なようだ。
半ば倒れこむように回避した樹、その周囲では足を負傷し立つことができない一般人が恐慌とした様子で彼女を見ている。
スカートをはたいて立ち上がる。
ヴィランのように一般人を盾にすることこそ倫理的に行わないけれども、かといって気遣いすぎることもまた――そんな余裕はない。自分の足場確保を第一に。
(結果的に、それが一番被害が少ない だろうし たぶん)
攻撃の為。魔法書に手を翳す――
幕を上げた戦い。
ぶつかり始めたエージェントとヴィラン。けれどエージェントの全員が最初から戦闘を選んだわけではない。
「しっかり……どうか落ち着いて」
「オレ達が助けますよって。敵さん注意ひかへんためにも、お静かに頼んますえ」
ゼノビアと一二三は、一面に蹲る一般人を一人でも多くフロアの隅へ、あるいはスタッフルームへと運ぶ。
「この手の輩はどんな罠を仕掛けてても可笑しくねぇからな」
『……だね。罠で人質を殺して、動かさなければ良かったのにとか普通に言いそうだもの』
そんな彼らを見守りつつ、あるいはいつでもカバーリングできる位置に陣取りつつ、智生はフウと共にフロア全体を見渡した。罠師。あらゆる物理的罠を見抜くその目に、しかし罠の類は見つからなかった。樹が行使したマジックアンロックと同様、この場に罠は仕掛けられていないようである。
そう――罠こそ、仕かけられてはいないが。
一般人を運ぶエージェントへとマガツヒヴィランが狙いを定める。ナイフを構えたシャドウルーカーが、一般人を抱えて無防備なエージェントへと飛び込んできて――狙いは、エージェント、ではない、嫌がらせだ、抱えられている一般人へ!
「させるかッ!!」
躍り出たのは京子だった。その身を盾に。腹部へ深々と突き刺さるナイフ。
「っぐ、――!」
こみ上げる高熱にも似た鋭い痛み。美妙のかんばせが激痛に歪む。
それでも京子は揺るがない。弱音も吐かない。鋭く、矢の如く眼前の敵を睨めつける。
一般人を守ることもできなくって、なにがエージェントだ。
それくらい出来なきゃ……求める自由に、価値がない!
「あなたの相手は、わたしよ」
ごり。ゼロ距離で押し付ける銃。
引き金。神速の早撃ちは、シャドウルーカーだけでなく別のヴィランへも襲いかかる。
撃たれたシャドウルーカーが京子からナイフを引き抜き飛び下がった。どろっ、と京子の刺傷から血が溢れる。
「大丈夫」
京子は凛と言う。自らの英雄へ、周囲の一般人へ、仲間達へ。視線は飛び退いたばかりのシャドウルーカーから逸らさない。油断はしない。
(……主張のわりにはやってることがセコいから、ひょっとするともっと大々的にろくでもない“悪役の仕事”とかを考えてるのかな)
ただ、被害者にとっては今現在こそがろくでもない現実だ。銃を再び、構える。
「逃したくはないけど、それよりも……一人でも多く、を助け出さなきゃね!」
「全員」と言いかけた言葉は、「一人でも多く」に。そう……既に、もう、死者が、出て、しまって、いる。
(……っッ、)
一般人の数は百を超える。
対してエージェントの数は十。
流石に、……守りきれない。全員が盾となることに専念すれば或いは――だがそうすれば、攻撃のリソースがなくなる。マガツヒを撃退できない。結局はジリ貧の末に負け果てるだろう。
そして戦いを選べば……どうしても、どうしても、被害が、出る。
これだけの数。一方でエージェントは『たったこれだけ』。
増援という選択肢も取ることができない。
罠はなかった。
けれども。
この状況そのものが、仕込まれた毒のようなものだった。
おそらく――悲しいけれど――戦闘中に一般人全員を戦線離脱させるのは不可能だ。
それでも、一人でも多くを救うために。
全てを諦めたくはないが故に。
「全員救う」が無理だからといって、「全員の命」を諦める道理もまた間違っている。
少なくとも、クレアはそう思った。
戦場とて同じだ。
弾丸飛び交う戦場で、負傷した兵士を全員救うことなど不可能だ。世の中に「致命傷」という言葉があるように。全員救えるのなら、戦死などという概念など存在すらしないのだから。
けれど、だからといって救える命を諦めることは、違う。絶対に違う。
スタッフルーム。そこにクレアはいた。
運ばれてくるのは重傷を負った一般人。一般人はいずれも足を負傷しているが、その程度はかなりの差異があった。足を撃たれた者から、……切り落とされた者まで。
スタッフルームの容量もある。当然ながら一般人全員は運び込めない。故に、クレアは主に要治療な重傷者をスタッフルームへと一心に運んだ。足を止めず。手も止めず。もしここにヴィランが攻め込んできたのなら、その身を盾にする覚悟すらあった。
「諦めるな。絶対に助ける。助けてみせる。私は医者だ」
クレアは声をかけ続ける。とにかく落ち着かせる為、信頼を得る為に。
『消毒に必要な度数は六〇%。クレアちゃんのウイスキーで足りるわ』
「ならやることは一つだな。他に使えそうなものは転がってないか?」
一時も休まない。運搬も重要だが、今すぐ治療しなければ生死が危うい患者が目の前にいる。幻想蝶よりナース服を取り出し、スキットルに入ったウイスキーをかけ、それを切り裂き、作るのは簡易包帯。
「あ、あの」
おずおずと声をかけた者がいた。振り返れば、このクラブの従業員のようだ。彼は救急キットの場所、AEDの場所、そしてアルコール度数が高い酒の場所を教えてくれる。更に、上着やシャツを脱いで「包帯として使って下さい」と申し出る者もいた。運ばれた女性の中には、鞄に入れていた携帯裁縫セットを「これも使えませんか」と渡してくれる者もいた。偏に、クレアが信頼を得るべく奮闘した証である。
「ありがとう。……動かなくて良い、歩けないだろう?」
的確に処置していきながら、衛生兵は微笑んだ。
その近くには、樹から渡されたおせちが置いてある。
「たぶん、クレアさんの方が」『上手ク使えルかラ』
治療より攻撃がソフィスビショップの本分だから有効活用してくれと、託されたもの。
仲間に一般人の命を任されている。
医療従事者として、この場にいる全員から救いの目を向けられている。
責任――使命――矜持――譲れないモノ。
(スコットランド人としての誇りにかけて……一人でも多く、生きて帰す!)
「もうすこし、だけ我慢してください、です。…みんなで帰りましょう、ね」
一人、また一人、ゼノビアは人々を運ぶ。彼らの命を守るために運ぶ。向かってくる攻撃へは威嚇射撃を行い、あるいは庇い。
「大丈夫……大丈夫……」
繰り返す言葉は半ば自分に言い聞かせるようでもあった。
全員生還させる。そう思っている。のに。分かっている。全員は救えない。もう死んでしまった人がいる。手が足りない。血のにおい。悲鳴がやまない。助けてと叫ぶ声。
「っ、……!」
奥歯を噛み締める。
救助は刻一刻と進む。智生は盾を構え、人々を守るように立っている。運ばれる者を安心させるように、声をかける。
「貴方は動かない。俺達が勝手に動かすんだ。それに関しては禁止されてないから安心しろ」
時折飛んでくるソフィスビショップの範囲魔法や、救助者を狙う弾丸からは、智生と京子がその身を呈して皆を守っていた。特に京子は敵の気を引くべく牽制を主眼に行動し、被害を食い止めんと奮闘する。
「悪いなフウ。お前の戦い方の本領はこれじゃないし、むしろ防御とか不向きなのに」
『……あいつには不意打ちは効果が薄そうだし、仕方ないよ』
今は出来ることを。
深呼吸を一つ。
●ジャッジメント02
守るべき誓い。
敵の気を引くライヴスを放ち、一二三はスナイパーライフルを構える。狙う銃口の先にはバトルメディック――気付いた敵が盾を構える。銃声。弾丸は、――上へ。上。バトルメディックの頭上の照明だ。爆ぜる音、落ちる照明、驚いたバトルメディックが飛び下がる。
「……隙だらけどすえ」
発砲。ライヴスの流れを乱す弾丸がバトルメディックを貫き、その意識を一時的に両断する。
先程よりも隙だらけな相手。冷静に冷酷に一二三は引き金を引いた。ここは戦場、使えるものは何だって使う。ミラーボールの光の反射から、その場にあるものまで。
弾丸がバトルメディックを貫く。エージェントが集中して狙い続けていた敵側の回復役が、遂に倒れこんだ。
「殺しはしまへんえ。……聴かなあかんこと、ようさんあるさかい」
一方で明珠はドレッドノートと激しい剣戟を繰り広げていた。どちらもドレッドノート、弩級戦艦の名を冠した彼らに相応しい、正に火力と火力のぶつけ合い。
互いの体中に刃によってつけられた傷。弾む息。しかし明珠は、ゾッとするような美しくも妖しい笑みを浮かべてみせる。
「この程度か。悲鳴の一つくらい上げさせろ? つまんねーだろ?」
不遜なる態度は変えない。嘲笑し、見下し、挑発する。
一見してパワープレイ、しかし明珠は周囲への観察を片時も怠ってはいなかった。
ヴィラン共はエネミー――彼が宿す愚神シャングリラにライヴスを食われてはいないか。観察結果、どうやらヴィラン達のライヴスは喰らっていないようだ。
「……そろそろ、引導を渡してやるよ」
冷たく射抜く眼差し。明珠は刃を構える。
そんな彼女へドレッドノートが幾度目か、踏み込もうとして――
唐突な白。
「ははっ……真っ白だな♪」
横合いからレイが消火器をぶちまけたのだ。飛び退いたドレッドノートが噎せて咳き込む。
その隙を縫って。
明珠はヴィランへ鮮烈な一撃を。
レイはスナイパーライフルでドレッドノート、ソフィスビショップ、ジャックポットへ弾丸を放った。狙うは急所、もしくは傷口。――とはいえ無効もザコではない、思うように急所にこそ当たらなかったが、手傷になったことは確か。
「heterophonyは時として良い方向に動く。単調で綺麗なメロディーだけじゃ、アンタ達も楽しくないだろ?」
お互いアシッド・ハウスなノリで行こうぜ? 歌うように言葉を紡ぎ、レイは休む間もなく一般人の合間を縫ってステージ上へ。銃口を、今度はエネミーへと。
(あー……後ろにも顔が在るワケね)
ならば仲間の攻撃の間隙に合わせて。注意力を殺ぐように。agogicに。射手の矜持をその胸に、集中力を研ぎ澄ませる。
「くらいやがれッ! 双拍子!」
一気呵成、聖の刃が閃いた。転倒させんとする激しい一撃、だが、エネミーの刃がそれを受け止める。返す刃が、彼の体に手痛い傷を刻み込む。
「っ……!」
相手は、愚神――半ば人間とはいえ。だがただの人間ではない。そしてエネミーは時間が経つほどにその強さを増してゆく。半端な傷は再生してしまう。周囲の人々のライヴスを啜って、だ。
聖は傷だらけだった。至る所から血が滲み、流れている。それでも粘れているのは、時間を稼ぐような戦い方を展開したからだ。これがもし、防御を省みない戦法を取っていたら……エネミーを相手取っているのは一人だけだったら……。
「どんどん」『いくヨ!』
離れた場所からは樹が、ウィザードセンスによって高めた魔力で魔法攻撃を放つ。それを喰らった愚神が、反撃に口から光線を放つ。薙ぎ払うようなそれが樹の体を強烈に焼く。更に、一般人をも容赦なく巻き込んでゆく。
『う~~~ピンチってヤツ?』
苦々しげに呟いたシルミルテの言葉通りだった。聖と樹は苦戦している。物凄く、だ。いい一発を貰えば戦闘不能になってもおかしくない。
「盛り上がってきましたねぇ」
エネミーは、その表情こそ機械によって分からないものの。笑っているのだろう。けれど先ほどから一貫してそうなのだが、決してそこにエージェントへの嘲りはない。むしろ敬愛、いやそれを通り越して崇拝めいてすらいる。
そんな眼差しで聖と樹を見て。
エネミーが、幾度目か、迫る。
銃声が響いた。重なった
激化し続ける戦いの渦中。
京子のライヴスガンセイバーが。佐千子の速射砲が。
「がはっ――」
二つの精確な弾丸に打ち抜かれ、ヴィランのソフィスビショップがたたらを踏んだ。範囲魔法で容赦なく一般人を巻き込んでくるそれを、これ以上放置することは出来ない。
「手加減するわけにはいかないわ。覚悟なさい」
「ええ――精々後悔することね」
二人の射手の眼差しが、ヴィランを射抜く。
ソフィスビショップの耐久は高くはない。血反吐を吐いたヴィランは、それでも呪文を詠唱し始め……
銃声。
「ええかげんお眠りやす」
一二三の弾丸が。
「雑魚はすっこんでろ!」
飛びかかる明珠の剣閃が。
怒涛。沈黙させる。
「これで三匹――」
剣を振るって刃の血を飛ばす明珠。その後方、肩越しに、彼女に切り伏せられ既に戦闘不能となったドレッドノートが転がっていた。
「次は、……お前だ」
駆け出した。先ほどから救助班へちょっかいばかりかけている小賢しいシャドウルーカーのヴィランへと。
残りはジャックポット、シャドウルーカー、そしてエネミーのみ。
持てる回復アイテムを惜しみなく使い、エージェントは戦闘を継続する。
「はぁッ――はあっ、」
聖は息を弾ませる。眼前にはヴィランと愚神。
少年は血みどろだ。それでも、まだ、戦える。
『ヒジリー。……でかいの、叩き込むよ……』
「おう!」
『……いくよ』
英雄とリンカー。互いの力を増幅させて――今一度、聖はその身のギアを極限に高めた。その手には怪物の名を冠した雷光斧。込める膂力。足。バネの如く、エネミーへ吶喊する!
「コレでも食らって往生しやがれッ!」
負けるわけにはいかないのだ。こんな相手に。こんな悪逆に。
「前後纏めて叩きブッ飛ばす!!」
疾風怒濤。
アステリオスの刃が稲光の如く煌いた。
一閃、二閃、最後は大きく上段切り上げ。これでどうだ。渾身の一撃を!
「ぐおッ……」
凄まじい重圧、凄まじい勢いに、エネミーが押しやられる。
その刹那、ほんの一刹那を――見逃さない者がいた。
潜り込むように、影のように、這い寄るように、エネミーへ即座に間合いをつめたのは智生。手にした刃は「傷つける枝」の意を冠した陽炎剣。真横から。突き立てる。毒の刃。
「背中からそんなもんが生えてたら不意打ちは効果が薄いけどな、だったら効果が出るように工夫するだけだ」
『……暗殺者から意識をそらす怖さを教えてあげる』
「また俺を意識から外したら同じ攻撃が行くから気をつけろよ?」
反撃に警戒し、智生はすぐに飛び下がる。
と、同時にだ。入れ替わるように。
二つの弾丸がエネミーを貫く。
レイのファストショット、一二三のライヴスブロー。
「あれ? scherzandoだった余裕が見えなくなって来てねぇ?」
注意力散漫、ご用心だぜ? レイは笑ってみせる。一気に接近、するには些か遠い上に『障害物』が多い。
「鉛弾のお味は如何どす?」
油断なくスナイパーライフルを構えた一二三はエネミーを見据える。
「いい連携ですね、グレートです」
が――エネミーは平然と立っていた。じわじわと傷を治しながら。
そもそも被弾数が少ないのだ。
最初からエージェントがエネミーに狙いを絞ってはいなかったこと、エネミーがその辺の一般人を盾にすること、食い散らかすライヴスで傷を癒し続けること。
「東海林殿、佐倉殿、一旦下がって」
傷だらけの二人に声をかけたのは、スタッフルームから現れたクレアだった。捕縛用ネットをエネミーへ投擲する、が、それは空中でジャックポットに撃ち抜かれて破れてしまった。その間に、クレアは治癒の光をその手に灯す。仲間の傷を癒すために。
それまでエージェントへ満遍なく被害をばら撒いていたヴィランのシャドウルーカー、ジャックポットがエネミーの付近に集まる。陣を組んで身構える。
「いやはや」
エネミーがぐるりとエージェントを見渡した。それから、討ち取られた仲間三人も視界に納めた。
「強いですね。流石です。一~二人は落とせるかと思ったんですがね。想像以上にしぶとい。……ふむ」
『持久戦? まだやるかエネミー?』
「いや。……今日はここまでにしましょう、シャングリラ」
背中の愚神にそう答え――エネミーは手の中でマチェットをくるんと回した。
「それに。今、立ち去った方が……皆様、私のこと、憎んで下さいますでしょう? お見事です、ヒーローの皆様。救えなかった命もあるけど、救えた命もある!」
「何を、」
クレアの治療を受ける聖が聞き返そうとした、刹那だった。
徐に。
愚神シャングリラが天井へとライヴスの光を吐く。
一瞬だった。
このフロアは地下。
轟音。
天井が崩れる。
土煙。
瓦礫。
悲鳴。
覆い隠す。
――リンカーはライヴスを介さぬ攻撃で傷を負わない。
けれど。
一般人は、そうではない。
そして土煙が晴れたそこに、『敵(enemy)』の姿は……なかった。
●禍
ヴィランが去った今、増援の制限もない。
すぐさま駆けつけた部隊が、瓦礫の処理と生存者の搬送、治療を行ってゆく――
「クレアちゃん、そっちお願い」
「あぁ、わかってる」
クレアはリリアンと共に負傷者治療の手伝いを。天井が崩れたことで多くが犠牲となったが……それでも生存者はいる。特にスタッフルームの者は全員無傷だった。
「私も手伝います!」
「何か出来ることはあるか?」
佐千子とリタは共鳴を解除し、救助活動の協力を。聖、Le..、智生、フウもそこに加わった。
レイは念の為と共鳴状態のまま、周囲にヴィランや従魔がいないか警戒にあたる。明珠は瓦礫の下から討ち取ったヴィランを捕縛・拘束し、尋問のためとH.O.P.E.本部へ引き渡した。
(マガツヒ……、)
明珠は眉根を寄せる。この任務から帰還したら、報告書やネットで個人的にもマガツヒについて情報を集めねば。
「……なぁんだ。サルの方が」『マダ気が合イソ』
言下、樹とシルミルテは共鳴を解除する。ここの水は甘くなかったか。瓦礫に腰かけ、一息を吐く。
「……マガツヒの目的て何なんどすやろ……? ただ悪役やりたなった訳ちゃうやろし」
『正義は必ず勝つのだ! それ以外は認めん!』
一二三はレイと同様、警戒のために共鳴状態のままで周囲を見やる。呟いた一二三の言葉に、キリルは堂々と言ってのけた。
「こんなことして、何になるんですか。なにがしたいんですか……」
同じく共鳴姿。ゼノビアは天を仰ぎ、表情を曇らせる。こみ上げる怒りはかつてなく……それをどう心の中で処理したらいいのかわからない。それほどまでに。
『……、ああ、全くだ……』
レティシアはそんな相棒を柔らかくなだめる。だがその心の中も、静かに――けれど確かに、怒りを滲ませていた。
救急車のサイレンが響く。
夜間。冷たい空気。
共鳴状態の京子は、静かに彼方を見澄ましていた。
「次の機会があればブチ殺すけどね。善悪じゃない、わたしがそうしたいから」
むしろ、こっちから見つけ出してお返ししなきゃ。
言葉は白い吐息となり、黒い夜空に溶けていった。
『了』
結果
シナリオ成功度 | 普通 |
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