本部

パーティーはこれにて終了です

電気石八生

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~6人
英雄
6人 / 0~6人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/02/09 14:51

掲示板

オープニング

●思いっきりやらかそう!
 HOPEのエージェントとして幾多の戦場を駆け抜けてきた、鈴木“MF”華。
 病院の正面玄関を背に、契約英雄であるキャサリン・ベックへひと言。
「追いつかれてもうた」
 カウガール衣装に身を包むキャサリンは、そばかすの浮く頬をびくりと引きつらせ、作り笑顔で震える言葉を絞り出した。
「そぉ。思ったより早かった感じぃ?」
 華はうなずいた。
「なんやったら、ウチのライヴス全部喰べてええよ?」
「ダムン! 今さら愚神やれるかってのぉ」
 元は愚神となるべくこちらの世界へ送り込まれたキャサリン。しかし、彼女は華と出逢い、英雄となる道を選んだ。
「アタシはアンタに誓約したし、アンタはアタシに誓約したでしょぉ?」
 誓約、それは「死ぬまで思いっきりパーティータイム!」。
 以来、ふたりは得物のショットガンを振り回し、爆薬をばらまいて数々の愚神や従魔を吹っ飛ばしてきた。その火薬特盛り、容赦も仁義もないオーバーキル上等の過激さからMF――ミズ・ヒューズ(導火線女)の称号をつけられるほどに。

 ――ふたりの出逢いは半年前。
 愚神となるべくこの世界に現われたキャサリンは、たまたま目の前にいた「おいしそう」な少女へと迫った。しかし、その少女は平らかな表情で、
『ウチ、導火線つきなんや。病気の火ぃがウチの命に届いたらドカンでサヨナラ』
 だから喰べたいんやったら好きに喰べえ。死ぬんやったら今日も明日もいっしょやろ。
 キャサリンは華のライヴスを奪えなかった。彼女の記憶はひどくあいまいで、自分がためらった理由もわからないのに、それだけは――華の心に押し詰まった虚無の重さだけは、なぜかわかってしまったから。
 もしかしたらキャサリンも、向こうの世界では同じような身の上だったのかもしれない。
 目の端にちらつく鬱々と白いばかりの天井と、鼻の奥をつつく消毒液の臭いを追い払い、キャサリンは手を差し伸べた。
『だったら……死ぬまで思いっきりパーティーやらかしてみない? クラッカーみたいにショットガン鳴らしてぇ、爆薬点火でみんな“に”ダンス!』
 華は、考える間もなくその手をとっていた。
 彼女はそれまで、なにひとつ「した」ことがなかった。今ある生から目を反らし、迫り来る死をただ待っているばかりで。
 死んでいないのに、生きてもいない。そんな「半生」を、覆したい。
 もうすぐ死ぬなら、それまでの間だけでも生きてみたい。だから。
「思いっきりやらかしたろか」
 そして、ふたりのパーティーは始まったのだ――

「最期まで」
 キャサリンは右手でサムズアップ。
「ふたりで思いっきりパーティーでしょぉ!?」
 華はあわてて――
 そんなん知るかボケぇ!
 ウチのことなんかパパっと忘れて、ぴっちぴちの相方見つけぇや。
 最期もふたりて、ウチとアンタは熟年らぶらぶカップルか! キモいわっ!
 ウチの銅像造ってHOPEの玄関に飾るんがアンタの使命やろがい。
 ――言おうとしたのだ。でも。言えなかった。
 心がどうしようもなくあたたかくて。覚悟が涙でぐずぐずにふやけて。
「……思いっきり、やらかしたろか」
 華がやっと紡いだひと言に、キャサリンは左手でもサムズアップ。
「お客様は誰にするぅ? どっかの愚神に招待状? それとも最近話題のヴィランズにサプライズぅ?」
「最期の最後のお相手やからね――」

●送り人
「挑戦状が届きました」
 丸っこい字で『退職願』と書きつけられた白い封筒をテーブルに置いて、HOPEの新人女子職員がライヴスリンカーたちに告げた。
「送り主は鈴木華さん。みなさんと同じHOPEのエージェントです」
 封筒の中には2枚の便箋。1枚めには「一身上の都合で退職します!」。そして2枚めには「今日からヴィランになりました。HOPEに挑戦するので、エージェントのみなさんよろしくお願いします」。
 女子職員は目尻ににじんだ涙を小指の先でぐじぐじ散らして。
「鈴木さんは難病で、いつ倒れてもおかしくない体でした。昨日、病院のほうからも連絡がありまして……もう、彼女の体、機能が停止し始めてるそうです」
 ライヴスリンカーは英雄とリンクすることで人を超えた力を得る。しかし、その加護が及ばない領域というものもあるのだ。たとえばそう、病気による死。
 資料を見れば、華が短期間でどれだけ多くの戦場にのぞんできたかがわかる。死に追い立てられながら、どれだけ太い「生」を追いかけてきたかがわかる。
 そんな華だからこそ、最期の場所に戦場を選んだのか。それも敵ではなく、仲間に送られることを願って。
「鈴木さんの退職願は受理しないことになってます。ですから、みなさんにお願いするのは鈴木さんとの模擬戦です。彼女が望んでるとおり、思いっきり戦ってあげてください……最後まで」

解説

●依頼
 全力で鈴木華を撃破してください。

●戦場
・HOPEが所有する、5階建ての訓練用ビルです。
・各階ワンフロアでドアはなく、事務机やイス、スチール棚などのオフィス用品が置かれています(最近使われていなかったので埃っぽいです)。
・電源は華の手で復活しており、電灯も点けられます。
・階の移動にはエレベーターと階段、さらに屋外の非常階段が使えます。
・ビルの何カ所かに、華がブービートラップをしかけています。

●鈴木華(+キャサリン・ベック)
・ショットガン(射程1~3/単体物理攻撃)とプラスチック爆薬(範囲2×2スクエア/範囲物理攻撃)を使います。
・開戦当初は1階の正面玄関口におり、その後は各階を移動しながら、奇襲や待ち伏せ等を織り交ぜたダーティーな戦いを展開します。
・ずっと病気を抱えてきたことから、格闘戦には苦手意識を持っています。
・会話は自由。
・戦闘終了もしくは30ラウンドが経過すると死を迎えます。

●備考
・あなたは華と「知り合い」であることも、「見知らぬ元同僚」であることもできます。
・知り合いである場合、思い出等は自由に設定できます。
・戦いをしかける時刻は自由です。
・ブービートラップおよび華の爆薬は、起動のほかにリンカーもしくは華の攻撃によっても起爆します。
・華を見送るも見送らないも自由となります。

リプレイ

●挨拶
 沈みゆく夕日を見やり、コルト スティルツ(aa1741)はつぶやいた。
「綺麗な夕焼けですわね。まるで、燃えているかのような」
 いや。燃え落ちるかのような……か。力尽きた線香花火の玉が。
 人型をした「生存本能」であるコルトのいつにない感傷に、こちらは人型の虫と言うよりない契約英雄アルゴス(aa1741hero001)は無感動な声で「ギチギチ」、鳴いてみせた。
「……彼女が最期まで踊るなら、私はその手を取りますよ。彼女が火薬の花火を上げるのなら、こちらは魔力の輝きをもって花火を咲かせましょう」
 タキシードならぬ戦装束に身を包んだ東城 栄二(aa2852)が、花束ならぬ二丁の魔砲銃に手をやった。
『うん。栄二がそう決めたんなら、私も精いっぱい手伝うよ』
 栄二の指輪に宿りし契約英雄カノン(aa2852hero001)が、歯切れ悪くうなずいた。
 ふたりの誓約は「今を精いっぱい輝き、生きる」こと。それと正反対の結末が約束された依頼で、自分たちはなにを成せるのか。
「マガツ。パーティーの時間だよ」
 普段ネット語を垂れ流しているとは思えない真摯な口調で、比良坂 蛍(aa2114)が相棒を促した。
「遅れるもんかよ。生きる伝説との宴、骨の髄まで味わい尽くしてやるわ」
 黒鬼 マガツ(aa2114hero001)が先陣を切って歩き出す。
 主役が待ち受けるパーティー会場へ。

「ウチのパーティーにようこそ!」
 ビルの正面入口の前で、華がにこやかに両手を広げていた。
「センパーイ! パーティーのお誘いありがとー」
 とびきりの笑顔で手を振ったのは、ワイルドブラッドの龍娘ギシャ(aa3141)。
 ナイフでの暗殺術に特化していた彼女は、ある依頼でいっしょになった華のハデな銃撃戦に感じ入り、押しかけ弟子をしていた時期があるのだ。
「よう。お招きにあずかってやったぜ。ヴィランになったからよろしくとか、あいかわらず無茶苦茶でなによりだな」
 おもしろくもなさそうに、ヴィント・ロストハート(aa0473)が言った。
「踊ろうぜ、ミズ・ヒューズ。……約束どおり、ラストダンスをな」
「果たしにきましたよ。剣の誓いを」
 憂いの影を笑みに落とし、ヴィントの契約英雄ナハト・ロストハート(aa0473hero001)が続く。
 このふたりもまた、華とは幾度となく戦場を共にしてきた。そしてその中で約束したのだ。華の最期は、自分たちが締めくくると。
「なんや、アンタらかいなって、知ってる顔ばっかやん」
 ライヴスリンカーたちの顔を見回し、華が鼻白んだ。
『HOPEは悪趣味だわぁ。辞めてやってモスト・コレクトよぉ』
 これは華とリンクしているキャサリン。なかなか板についた悪役声である。
「せやな。人情なさすぎやんな。ドカンとおしおきしたろ」
 こちらも悪ぶった口調の華が、ショットガンのポンプアクションを作動させた。ダンスの準備は完了だ。
『ロックンロール!』
 華がビルの中へ消えた。
「パーティー、センパイといっしょに楽しむよ。最後の最後、最期まで」
 ギシャの言葉に、彼女の契約英雄・どらごん(aa3141hero001)が応えた。
「精いっぱい背伸びをして語り合ってこい。……銃口と銃声でな」
 着ぐるみめいたドラゴンが綴るセリフは、彼が着込んだ衣装と同じくハードボイルドだった。

●覚悟
 ビルの中は薄暗く、視界が悪かった。
『灯、つける?』
 契約英雄のフウ(aa0249hero001)の問いに、先行して進んでいた守矢 智生(aa0249)はかぶりを振った。
「見なくてもわかるだろ。華のやりかたも、考えることも」
 罠師のアクティブスキルにより、智生はあっさりと華のトラップを発見した。
「華、俺がいるんだ。この程度の罠なんざ引っかかるかよ」
 続けて解除にかかろうとした、そのとき。
「アンタらはなぁ。こういうんがお得意やもんなぁ」
 罠の反対側の壁掃に設置されていた除器具用ロッカー。その扉を吹っ飛ばした散弾が、智生の背を激しく打ち叩いた。
「くっ!」
 追撃を手近な事務デスクの影へ転がり込んでかわした智生へ、華がまた声をかけた。
「でもな、おひとりさまで前に出てもうたらアカンやん? 暗殺コンビ」
 過去、智生は幾度となく華と同じ戦場に立ってきた。
 敵のただ中へ突っ込んで散弾と爆炎をばらまく華と、それを目くらましにして敵の死角に潜り込む智生。相性がよかったのもあるのだが。
『ゴメン』
 そのころのフウが繰り返していた、言葉。
 自分が暗殺者だから……そのせいで、真っ向勝負の正道にあったはずの智生に薄暗い戦いを強いてしまう。それが苦しくて。辛くて。
 そんな彼女と、どう応えるべきか悩んでいた智生を救ったのが、華の言葉だったのだ。
『暗殺でも漫才でも、コンビでできることせぇや。悩んどるヒマなんかあるかい。人生、いつオシマイかわからんねやで』
 ――それから智生とフウは、ふたりでできることを重ねてきた。
「心配するなよ。教えはきっちり守ってる」
「は?」
「サプライズ」
 華の肩口を焼く、高圧力のレーザー光。
「なんや!?」
「押しかけ弟子の登場さ」
 潜伏を解除して現われたギシャが笑んだ。
『罠をはずそうとする瞬間、襲ってくるだろうと思ってな。智生と相談して潜伏していたのさ』
 どらごんの渋い解説を押しのけ、ギシャはライトブラスターを振り上げて。
「あれから練習したよ。華に当たるくらいはうまくなれただろう?」
 光線は弾より速い。抜き撃つのが相手より遅れても、その差で撃ち勝てる可能性がある。そうギシャに教えたのは華だったが。
「狙いもタイミングもダメダメや。不意撃ちじゃなきゃ当たらへんわニワカもん」
 言いながら、華は首筋に冷たい汗をかいていた。抜き撃ちや取り回しの技を磨くのではなく、暗殺術に光線を組み合わせてくるか……。
 言われたギシャは「そうか」と笑顔を傾げ。
「ではまた、次のサプライズで」
 跳び退くギシャに替わったのは、紅い軌跡を描く炎髪の輝き。
「誰よりも人を愛した人形は言った。戦いこそが人間の可能性だと」
 金に染まった瞳をクロスさせた2丁の魔砲銃で隠し、栄二が語る。
「その正否はともあれ、我々の可能性を測るには戦う以外にありえない。だから見せていただきますよ。戦いの中で輝く、あなたの生命を」
 左右の魔砲銃が、華の頭と胸を2発ずつ同時撃ち。俗にコロラド撃ちと呼ばれる敵を完殺するための銃技、その2丁拳銃版だ。
「ちっ」
 ターンで華がかわし、ショットガンを撃ち返そうとしたが、それを読んでいたコルトのファストショットと、それに続くライヴスリンカーたちの追撃に阻まれた。
『ダムン!』
 華の動きが止まり、思わずキャサリンが吐き捨てたその隙に、栄二が華との距離を詰めた。手を前に出せば届く距離にまで肉薄する。
「ウザいわ!」
 振りこまれたショットガンのストックを左の魔砲銃のグリップの底で弾き、栄二が右の魔砲銃を華の鼻先へ突きつけた。――発射。
「っ」
 顔を振って魔力弾をよけた華は、弾かれた反動を使ってショットガンを反転、今度は銃口で栄二のこめかみを殴りつけたが。
『前!』
 カノンの短い忠告を受け、栄二がダッキング。華の一撃を空振らせて、今度は左の魔砲銃を彼女の横腹へ撃ちこんだ。
 空振ったせいで体勢を崩していた華はこれをモロに食らい。
「痛った!」
『ホーリー・シット!』
 よろけながら後じさった。
「こんなもので終わりじゃないでしょう? パーティーは始まったばかりですよ」
 冷酷な栄二の言葉。その裏にあるものは覚悟だ。
 戦う力を持ち、戦うことを選んだ人間として「生きる」覚悟。
 そして、いくつかの戦場を共に駆け抜けた少女、その最期の輝きを見届ける、覚悟。
「心配いらんわ。終わらへんよ、あと何分かはな」
『栄二、ここってダメ――』
 カノンがうろたえた声をあげた。
「これは……やられましたね」
 いつの間にか誘導されていたのだ。華の爆弾トラップの有効範囲内に。
『サプライズ返しってやつぅ? じゃ、グッバイねぇ』
 キャサリンのセリフを合図に、華がトラップを起爆――
『あらぁ?』
 ――しなかった。
「言っただろ? 教えは守ってるって」
 智生だ。仲間が華の目を引き付けている間にトラップを解除していたのだ。
『暗殺術しか使えない私と、それを受け入れてくれた智生。ふたりでできることをただ全力で遂行する』
「ああ。卑怯未練に誰かを救う――俺たちの選んだやりかたで」
 フウと智生の言葉に華が返したのは、やさしい言葉だった。
「ええコンビ芸やんな。長ぅ続けられそうでなによりやわ」
 そして。
「キティ、このまんまやったら退治されてまう。転進すんで!」
『イエス! って、その愛称はノーよぉ!?』
 なぜかうれしそうに、華は逃げ出したのだった。

●痛み
 2階と3階では、華にやられっぱなしだった。
 奇襲をかけられ、気をとられた瞬間トラップが起爆、かと思えばそれがダミートラップによる足止め工作で……。
 智生が飛ばした鷹も早々に撃ち落とされ、役目を果たせないうちに消えた。
 唯一の救いは、華がヒット・アンド・アウェイに徹していることくらいだ。
 ――3階と4階を繋ぐ階段の途中、3階側からの奇襲を警戒していたヴィントがぽつり。
「数が同じなら一気に押し込まれてたな」
『おかしいですね』
 返事になっていないナハトの返事に、ヴィントが「なにがだ?」と聞き返す。ナハトはそこから少し考え込んで、
『奇襲には緩急が必要です。でも、華さんの奇襲は急に偏りすぎていました。そしてこの数分、奇襲は完全に止まっています。これでは緩急が成立しません』
「確かに。華さんの圧倒的火力のせいで気づけませんでしたが……」
 栄二がうなずいたとき。
「あそこか」
『焼いてやれ。サニーサイドアップでな』
 どらごんの言葉を受け、ギシャが階段途中のトラップをイグニスの炎で起爆させた。
 飛んできた火薬カスを髪から払い落とし、コルトが苦い顔で。
「まったく手間のかかる」
 ハデな突貫ばかりが目立つ華だが、実はこのような搦め手にこそ彼女の真価がある。そのことをコルトはよく知っていた。
(それだけいっしょにいたってことだ。あの導火線女とよ)
 そしてそれだけの間、互いに生き延びてきたということだ。
 コルトにとって、生きることこそが至上。生きたいからこそ戦場に立ち、生を追い求める。そこに覚悟はない。美学も矜持も理念も、なにひとつありはしない。死にゆく他人に対してだって、なにひとつ思うことはない。ない……はずだった。
(死ぬなら従魔の1匹でも道連れて逝けばいいものを)
 ノドの奥に吐き捨てた悪態が、心の表面を上滑り。その言葉は本心からのもののはずなのに、まるでコルト本人の心に染み入らず、納得させてもくれなかった。
「鈴木華……あなたの命の灯火の消え様、見届けさせていただきますわ」
 ちがう。こんな綺麗事を言いたくて、ここまで来たんじゃない。コルトは頭を強く振り、かぶっていた猫を剥ぎ落として。
「アルゴス、派手に行くぞ。真正面からだ」
 確かに華の奇襲はおかしかった。あの導火線女にしては、やり口が拙すぎる。
 だとすれば、華には急いだ理由があり、急げなくなった理由があるということだ。
 時間がない。1秒でも早く華へたどりつき、最後になにをするか……その瞬間に決める。
 契約主の葛藤と決意を知ってか知らずか、アルゴスはただ『ギチギチチッ』と応えた。

 一方。単独行動を選択した蛍は、非常階段から4階へ侵入していた。
『俺たちに罠を見破る力はない。引っかかれば華と逢う前に終わるぞ』
 マガツの警告にうなずいた蛍は足を止めた。そして。
「華さん! 僕はここから一歩も動けません! 逢いに来てくれませんか? ガチ撃ち合いのマジ勝負希望!」
 普通に考えれば受けてくれるはずがないのだが……
「オトコはいっつも勝手なことばっか言うやんな」
 華が現われた。ショットガンを杖にして。
『ちぃと見ぬうち、老けたな』
「うるさいわオッサン。アンズちゃん食べるか?」
 言った瞬間、散弾を発射。
 華の射線から身をかわしつつ、蛍は応戦を開始した。
『で、どうする?』
 マガツの問いに、蛍はなぜか横を向いて。
「時間稼ぎと華さんのスキル消費狙い? あと、僕が単独行動しちゃった答探しとか」
『おま、それも考えんでやらかしたのか!?』
「そういうこともあるよ、だって人間だもの!」
 蛍は装備と遮蔽物、そしてスキルを駆使してトリッキーな戦いを展開したが、華の圧倒的火力に押し込まれ、身動きを封じられていった。
「散弾は反則だよねー。よけても当たるし」
 遮蔽物に身を潜め、自分の穴だらけの体を見下ろす蛍が荒い息をついた。視界を塞ぐ硝煙が吹き散らされ、5センチの透明度を取り戻す。
『やらかすと決めたんだろうが。今回ばかりは根性入れろよ』
「おっけ」
 蛍が飛び出した。スキルも作戦も売り切れ。もう突撃あるのみ。
「あいかわらずしつこいわ」
 華がトリオを発動した。狙うは蛍ならぬ、そのまわりにしかけられていたトラップだ。
 連動した爆風が、出口を求めて窓へと殺到する。蛍はその熱圧に押されてガラスを突き破り、落ちていく。
 そんな彼が最後に見たものは。
 華が掲げたメロイックサインだった。
 以前、依頼でいっしょになった華にメタル音楽のことを熱苦しく語りあげ、どつかれながらもムリヤリ教え込んだハンドサイン。
(華さん。答、もらいましたよ)
 蛍はあのサインを忘れない。
 あの少女が、袖すり合っただけの自分を憶えていてくれたように。

●挽歌
「追いつきましたよ。さあ、盛り上がりましょうか」
 大穴の開いた窓を背に立つ華へ、両の魔砲銃に手をかけた栄二が言った。
「せやな。もう、ウチもしんどなってきたしな。みんなで盛り上げてんか?」
 華が事務デスクをライヴスリンカーたちへと蹴り飛ばした。
『栄二、あれ』
 栄二がデスクを撃ち抜くと、大爆発。案の定の爆薬つきだ。
「まだ元気じゃねぇか」
 コルトがフラッシュバンを放った。
「今ですわ、みなさん!」
 目を覆って立ち尽くす華に、ヴィントが3歩で詰め寄って。
「食らってなんかないだろう? 動きがどれだけ鈍ろうと、ミズ・ヒューズが魂まで鈍らせるかよ」
「バレバレか。じゃ、ご褒美や」
 あっさりと顔を上げた華の左手がヴィントの胸を叩いた。いや。貼りつけたのだ、爆薬を。
 ボゴン! 鈍い炸裂音とともに、ヴィントの体がくの字に曲がる。しかし。
 ヴィントは踏みとどまった。口の端をギチギチ吊り上げた、羅刹の笑顔で。
「お手をどうぞ子猫ちゃん。おまえの最期のステップ、もっと俺に刻み込んでくれよミズ・ヒューズ!」
 ヴィントの内に封じられていた破壊衝動と殺戮衝動が、壊れた笑声と化して噴きあがる。
「お手はどーなったんや。ウチに恐怖刻みたいんやったら全身タイツでも着てきぃや」
 剣の腹を靴底で蹴りのけ、華はショットガンの銃口をヴィントの傷口へ突っ込んだ。そして引き金を引――
「センパイ。ギシャのサプライズ、忘れてもらっちゃ困る」
 華の肩口からのぞきこむ、ギシャの笑顔。
 ギシャは待っていたのだ。ヴィントが突っ込むのに合わせて潜伏し、静かに。華を確実に捕えられる瞬間を。
「やっぱ自分、銃よかこういうのが向いてんな。やりぃや」
「こんな痛みでは、センパイの死を飾るにはまるで足りないよ。だから」
 まだ動く脚をもらう。
 ギシャの指が、華の脚にライヴスの針を突き立てた。
「っ!」
「パーティーを盛り上げる。センパイの期待は裏切らないから」
 華から距離をとり、ギシャは物陰に体をすべり込ませた。次のサプライズを成功させるためと、華に自分の影を意識させ、味方を援護するために。
『銃は使わんのか? まだ存分に語り合っていないだろう』
 どらごんに、ギシャは淡々と答えた。
「センパイと語りたい連中が順番待ちしている。独り占めは野暮ってもんさ」
「ヒューズ!」
 呼ばわったコルトが礼装剣・蒼華を構えて華へ。
「近づくなっちゅうの」
 華はショットガンを振りまわしたが、間合を離そうとするあまり、かえってコルトを呼び込んでしまう。
「接近戦、苦手なままだったんだな。嫌いな食べものも残すタイプだろ、おまえ」
 殺し合いの場にまるでそぐわないコルトのセリフに、華も思わず苦笑を漏らし、
「食制限のせいでな、食べてええもんのほうが少なかったわ」
 少なかった。すでに、過去形。こみ上げる万感を噛み殺し、コルトは刃を返して華の脚を薙いだ。
「あぅ!」
 その華の延髄に、レーヴァテインの切っ先が迫り――
「今度は暗殺コンビかいな!」
 前のめりに倒れ込んでかわした華だったが、背に深い刃の軌跡を刻まれた。
『智生。今回だけは、正面から行ってもいいんだよ』
 フウの遠慮がちな声に、智生は強くかぶりを振った。
「だからこそ死角を攻める。俺たちの全力を見せるんだ。華に――俺たちの先生に」
『……うん。覚悟は決めたのに、ごめん。もう迷わないから』
 続いて栄二の魔砲銃が華を撃ち据え、ギシャの爪が華を斬り裂く。
「こらあかんわ」
 血まみれの華が、ショットガンにすがって立ち上がった。
『華、そろそろクライマックスよぉ』
 今まで口を閉ざしていたキャサリンがやさしく語りかける。
「楽しい時間は……やなぁ」
 華はショットガンのポンプアクションを作動させ、迫り来るライヴスリンカーたちへ笑みかけた。
「最後に花火見物してもらおか」
 足元へ、散弾を発射。床には華のぶちまけた血と壊れた事務用品、そして、華が倒れるたび塗りつけてきた爆薬が――一気に誘爆した。
「散開!」
 トラップを警戒していたコルトの指示で、ライヴスリンカーたちが大きく飛び退いた。が、それでも回避しきれず、彼らは壁に叩きつけられ、床に落ちた。華もまた爆風に押されてヒザをつくが。
「……お手を、いただくぜ」
 爆発のただ中で不動を保ち、肌も衣装もすべて己の血で赤く染めあげたヴィントが、震える右手で華の左手をつかみ、引き上げた。
『私たちの手で剣の死(すくい)を贈りましょう。あなたが笑って逝けるように』
 ナハトの声を受け、ヴィントが左手ひとつで大剣を振り上げた。
 がら空きになった彼の懐。そこへ華が散弾を叩き込む。
 50の散弾に肉を裂かれ、骨を砕かれたヴィントが、笑った。
「手向けだ。俺の命を半分持っていけ」
 先ほどの爆破攻撃が華の奥の手なら、これがヴィントの奥の手だった。トップギアを発動しておき、わざと隙を作って華の攻撃を誘う。
『誓約にかけて全力であなたを討ちます!』
 そして。
「……約束は守ったぜ、俺の壊れた同胞」

●パーティーはこれにて終了です
『さすがねぇ。悪者は無事退治されたわぁ』
 横たわる華の内からキャサリンが言った。
「せやな。お見事、や」
 音にならない声で、華も言う。
「最後のパーティーは楽しかったか?」
 リンクを解いた智生が華に語りかけた。
「ぼちぼち、でんな」
「じゃあ景品をくれないか。ホストを楽しませたゲストにご褒美」
 智生は形見をくれと言えなくて、だから茶化してみた。茶化すしか、なかった。
「アホ。ウチに、勝った思い出、プライスレス、や」
「天国は平和で退屈だ。地獄で派手にやらかしてろ。俺が逝ったら話を聞いてやる」
 コルトの言葉に、目を閉じた華がかすかにうなずいて。
「……あとは、後始末。やね」
「苦しくも痛くもない死、あげられるよ?」
 リンクを解いたギシャが笑顔で訊いた。
「お断り、しとくわ。キティと、決めとってん」
 華の胸の上に爆薬が生成された。今の華をオーバーキルするに充分な量の。
『導火線にファイア・スタートしたら1分でサヨナラ。その間にゴー・ホームしてくれるぅ?』
 爆薬から伸びる導火線。それはまさに導火線女の名と最期を象徴するものだった。
「余計な口は挟まないつもりでしたが」
 その導火線を華から取り上げたのは栄二だ。
「綺麗になんか終わらせませんよ。それはあまりに傲慢です」
『そうよ。普通はイシをソンチョーするかもしれないけど、私は世間知らずの指輪の魔女だし! ソンチョーなんか知らないし!』
 栄二にしか聞こえない声をなんとか華に届けようと、指輪の中からカノンが必死で言いつのる。
『アンタたち――』
「……じゃ、頼むわ。悪が自爆、したら、そりゃ、オチつかん、しな」
 華の顔は、やわらかく笑んでいた。

 導火線は、4階から3階まで届くほどの長さがあった。
「あのふたりは今、なにを語り合っているのでしょうね」
 上階を透かし見るように目を細めたナハトへ、ヴィントは無言でかぶりを振って見せた。
「点火する」
 再びリンクしたギシャがイグニスを構え、導火線の端に火を点した。
 導火線を伝い、華へと向かう小さな火を見やりながら、フウが傍らの智生を見上げた。
「……こういうときにすら悲しいと思えない自分が嫌になるね」
 智生はフウの目尻を親指の腹でぬぐってやりながら、「ああ」と答えた。
「なんだろうな、これは――先に旅立つ者を見送るだけだというのに」
 笑みの貼りついた頬を闇雲に触るギシャから、リンクを解いてどらごんが離れた。
 と。
 ギシャの目からあふれ出す、涙。それをわけがわからないまま拭い続ける彼女へ、どらごんが背中ごしに言葉を投げる。
「送り火を見送る者は、いつだってやりきれないものさ。憶えておけ。いつか送られるその日までな」
 栄二はカノンが封じられている指輪を抱き、遠ざかる送り火を見つめていた。
 そして、1分後。
 激震がビルを揺るがした。
「Rest In Peace……Ms.Fuse」
 ライオンハートを突き立て、ヴィントがささやいた。ナハトもまた頭を垂れて。
「いつかまた、戦いの野で逢いましょう」
「……帰るぞアルゴス! 手向けはすんだ」
 仲間たちを置き去り、コルトが踵を返した。
 最期に華の見せた笑顔が目の端から離れない。
 ――なんであんな顔できんだよ。すりぃよ。わかんねぇよ。死なねぇとわかんねぇのかよ。だったら俺は……。
「ギチギチギチ」
 コルトの思考をアルゴスの抑揚のない言葉が遮った。まるでそう、生きることに迷うなととがめるように。
「黙れ」
 言いながら、コルトは1度だけ振り向いた。
 なぁヒューズ。次に逢うのは大分、先になりそうだぜ。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 信じる者の剣
    守矢 智生aa0249

重体一覧

参加者

  • 信じる者の剣
    守矢 智生aa0249
    人間|20才|男性|攻撃
  • エージェント
    フウaa0249hero001
    英雄|18才|女性|シャド
  • 恐怖を刻む者
    ヴィント・ロストハートaa0473
    人間|18才|男性|命中
  • 願い叶えし者
    ナハト・ロストハートaa0473hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • 木漏れ日落ちる潺のひととき
    コルト スティルツaa1741
    人間|9才|?|命中
  • ギチギチ!
    アルゴスaa1741hero001
    英雄|30才|?|ジャ
  • オールラウンドスナイパー
    比良坂 蛍aa2114
    人間|18才|男性|命中
  • オールラウンドスナイパー
    黒鬼 マガツaa2114hero001
    英雄|26才|男性|ジャ
  • 守護する魔導士
    東城 栄二aa2852
    人間|21才|男性|命中
  • 引き籠りマスター
    カノンaa2852hero001
    英雄|10才|女性|ソフィ
  • ぴゅあパール
    ギシャaa3141
    獣人|10才|女性|命中
  • えんだーグリーン
    どらごんaa3141hero001
    英雄|40才|?|シャド
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