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仁義ある戦い!
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相談卓
最終発言2016/01/13 08:39:13 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2016/01/09 18:40:13
オープニング
●交渉決裂
「我々といたしましても、最大限の誠意は尽くしているつもりなのですよ」
薄手のスーツをすらりと着こなす優男がメガネを押し上げ、言った。
テーブルを挟んで対峙する和装の中年男性は、険しい顔をさらにしかめて。
「アンタ、イワタさんだっけか。ウチは先々代から3代分、このシマ(縄張り)預かってきた。アンタらがヴィランズだからって、カタギ(一般人)のみなさんが食いもんにされんのわかっててイモひく(怖じ気づく)わけにゃいかねぇんだよ」
中年男性の後ろに控えた男たちが半歩前へ。
しかし優男は、このあからさまなプレッシャーにそよとも揺らぐことなく、不敵に口の端を吊り上げた。
「なるほど、お得意の『渡世の義理』というやつですか」
もったいつけたしぐさでかぶりを振って。
「もう1度お訊きしますが、社長さん。この町を仕切る権限、我々に渡していただけませんか?」
「通じるかどうか知らねぇが、おととい来やがれタコ野郎」
優男はソファからゆらりと立ち上がった。
「では戦争――いや、あなたがたの言葉を借りるならば抗争ですね」
そして。
「あなたがたのヤッパ(刃物)もハジキ(銃)も、我々を傷つけることはできませんよ?」
●抗争直前
「ウチは祭りで出店だしたり、不動産の世話したり、町の困り事の相談に乗ったりね、細々したシノギ(仕事)を任せてもらってる小さい会社でして」
和装の中年男性――社長が、目の前に立つライヴスリンカーたちを見回した。
その顔にはところどころに新しい切り傷が刻みつけられており、着物の袖からのぞく両腕には白い包帯が巻かれている。
「まあ、町に寄ってくる害虫処理ってのも、自主的にさせてもらってるんですよ。なんで、話が通じねぇならゲンコツでって、思ってたんですがね……」
相手がヴィランである以上、通常の攻撃は無効だ。ケンカの強さでなんとかできるわけがない。まさにやられ放題だったことだろう。
「このまんまじゃアイツらにこのシマとられちまう。そしたら、ここに住んでるカタギのみなさんの暮らしが壊れちまう。オレらのメンツはどうだっていい。でもそいつだけは止めねぇとならねぇ」
話をHOPEに繋いだ町長の話によれば、社長はこの土地に町ができたときから人の暮らしを影から支えてきた、言うなれば『まっとうな裏稼業』の3代目だという。
それが、この町に目をつけたヴィランズから人々を守ろうとし、今、失敗しつつある。
ヴィランズの狙いは、この地域の再開発によってもたらされる金だ。それを得るためにジャマ者を排除し、速やかに地域住民を立ち退かせるつもりなのだ。
使い古された地上げの手。普通ならばできるわけがない。しかし、ヴィランの持つ能力を法のグレーゾーンで振るわれれば、なんの力も持たない人々は屈するしかないだろう。
「アイツらは今日明日にも動き出す。だからアンタらに、オレとカチコミ(殴り込み)かけてもらいてぇ」
社長が右手を握りしめた。
たったそれだけの負荷で包帯に血がにじみ、手に震えがはしる。
「アンタらからしたら、オレらもアイツらもおんなじようなもんでしょう。ただオレらにゃハンパもんなりの仁義がある。どうかそいつだけは信じてもらいてぇ」
満身創痍のその体に決意の炎をゆらめかせ、社長は「お頼み申します」と、深く頭を下げた。
解説
●依頼
ヴィランズのアジトに突入、ヴィランズを殲滅してください。
●地形
・ヴィランズのアジトは町外れの3階建てビルです。
・このビルは全階ワンフロアで仕切りはありません。
・1階は事務所、2階は応接室、3階はボス部屋になっていて、それぞれにソファやクリスタル製の灰皿、電話等の、「その手の場所にありそうなもの」がそろっています。
・階の移動は人ひとりがギリギリ通れる幅の階段で行います。
●状況
・社長はみなさんといっしょに行動しますが、戦力にはなりません。
・1階の事務所にはチンピラ(非ヴィラン)が10人ほど詰めています。
・2階の応接室にはヴィランが5人おり、1階の騒ぎを感知すると階段前で待ち伏せをします。
・3階のボス部屋にはボスがおり、侵入者を悠然と待ち受けます。
●敵
1.チンピラ×10
バールや刃物で武装していますが、一般人なので特に危険はありません。
2.ヴィラン×5
・オートマチックとシルフィードで武装しています。
・強くはありませんが、「カシラ」と呼ばれる男は他の4人に指示を出して連携をとってきます。
3.イワタ(ボス)
・主にシルフィードを使い(オートマチックも装備)、回避能力に秀でています。
・戦いの中で彼が語る言葉は以下の3つ。
「保護すべき古きものは確かにある。しかし、抱えこむ価値のないガラクタは? 早々に処分し、価値のある新しきものに替えるべきでしょう」
「器の質を上げることで、そこに盛りつけられる人という具材もまた質の高いものとなる」
「私は金のために戦う。あなたがたはなんのために私と戦うのですか?」
リプレイ
●挽歌の序章
ヴィランズのアジト近くの裏道で、ツラナミ(aa1426)がぽつり。
「非常階段は見当たらねぇな。室外機は1、2、3階全部窓の下。窓はブラインドが降りてて中は見えねぇ。テカリ具合からして防弾仕様だろうなめんどくせぇ」
鷹の目で創りだした鷹を飛ばし、アジトの様子を探っていた彼は、報告に連ねて本音をこぼした。
「……でも、お仕事」
たしなめるのは彼の契約英雄38(aa1426hero001)だ。
ツラナミはタバコの箱を引っぱり出しかけて――やめた。酒もタバコも嫌いじゃないが、「義務」ほどの重さじゃない。
「2階から跳び込むのは無理かー」
小首を傾げた鴉守 暁(aa0306)の頭をぐりぐり、契約英雄のキャス・ライジングサン(aa0306hero001)が「ヨユーヨユー」と大きな胸を張って。
「あんなんダーってイってハァってヤってトォってネ!」
彼女の説明は、彼女以外の誰にも壊滅的に伝わらない。
「室外機があるならもうひとつの作戦はいけそうですね」
穏やかな口調で述べた晴海 嘉久也(aa0780)は、スマホを取り出して管轄の警察署へ一報を入れた。
「HOPEの晴海と申しますが。はい。これから作戦行動に入ります。後始末、よろしくお願いします――」
そのスマホを横からつまみあげ、
「相手はヴィランズです。周囲の封鎖を優先し、こちらが連絡するまで現場に近づかないでください」
スマホを嘉久也に返す、クレア・マクミラン(aa1631)。
「すみません。社長さ――ボスがいらっしゃいますから。制圧後に少々、空白の時間が欲しかったのです」
今の彼女、イメージプロジェクターの能力によってマフィア調の姿である。
「クレアちゃん、普通にしてるけどけっこう乗り気だよね」
のんびりと言う契約英雄のリリアン・レッドフォード(aa1631hero001)に、生真面目な顔で言い返した。
「ボスのメンツを考えれば、この格好がベストさ」
その言葉を聞いた小鉄(aa0213)は、自分の忍衣装に目を落とした。気配を読ませないのが忍のメンツ。しかし今回の依頼はカチコミで、小鉄は陽動担当だ。空気を読む必要、あったのではござらんか?
「こーちゃんはこーちゃんらしく! できることしたらいいのよ!」
と、契約英雄の稲穂(aa0213hero001)に背中をバシっとはたかれた小鉄は我に返り。
「社長殿! 切った張ったなら拙者たちに任せるでござるよ!」
「そうそう、こてんぱんにしちゃうんだから!」
意気を揚げる小鉄たちを見やり、天原 一真(aa0188)はただひと言。
「やることはひとつ」
人の暮らしを侵し、それを守ろうとあがいた男の仁義を侵すヴィランズを叩く。一真の思いを感じ取った契約英雄、ミアキス エヴォルツィオン(aa0188hero001)は、シッポをゆるゆると振って臨戦態勢。相棒の侠気に応えた。
「思いっきりね!」
そんな仲間たちへ、リンクずみの灰堂 焦一郎(aa0212)とストレイド(aa0212hero001)が告げる。
「任務を遂行します」
『セットアップ・完了。出動許可を待つ』
●計算ちがいの王道
嘉久也が言う「もうひとつの作戦」とは、1階の室外機からクレアにセーフティガスを流し込んでもらい、内のチンピラを眠らせるというものだったが……
「エアコンが動いてる」
気配を殺して室外機に近づいた嘉久也、ツラナミ、クレアの各コンビ――いわば『隠密侵入チーム』の面々に、38が淡々と告げた。
室外機から噴き出す冷たい風。それは内側で暖房をかけている証拠だ。季節を考えればしかたないのだが……作戦を決行すれば、こちらが眠るはめに陥るだろう。
「試してみますか?」
クレアの言葉に、嘉久也の契約英雄エスティア ヘレスティス(aa0780hero001)がくすりと笑みをこぼす。
「眠れない夜になら、ぜひ」
「ここは王道で活路を拓きましょう」
相棒の言葉を継いだ嘉久也は再びスマホを取り出して、正面玄関近くに待機する『カチコミチーム』へ連絡した。
「存分にやってください。その隙にわたしたちは2階へ侵入します」
「タノモー! 看板もらってくよー!」
暁のかけ声に合わせ、小鉄がストレートブロウで正面扉を吹き飛ばす。それとほぼ同時に暁はフラッシュバンを炸裂させ、ヴィランズ事務所内を閃光で塗りつぶした。
「お見事! これがいわゆる家庭訪問でござるかな」
暁の手際に感心する小鉄に、稲穂がため息まじりにツッコんだ。
『絶対ちがうと思うわよ……ううん、やっぱりいい』
不意をつかれたチンピラの多くが光に目を焼かれ、床へ転がった。
「灰堂殿、あとはお任せしたでござる!」
駆け抜けていく小鉄を見送り、焦一郎が動き出す。
「それではカチコませていただきます」
『? かしこまるときではなかろう』
「かしこまりではなくカチコミです」
『カチ・コミ。理解不能』
装甲に包まれた巨体が事務所内へ突っ込んだ。張り出した両肩部が入り口の枠に食い込み、建材を押し削り、へし折っていく。
その視覚効果満点の登場に悲鳴をあげるチンピラたち。その音階は、焦一郎の構えた16式60mm携行型速射砲によってさらに跳ね上がった。
『照準・固定。発射準備完了』
「斉射」
ギギギギギギギギ! 超高速で弾き出された弾が、甲高く濁った叫声をまき散らしてチンピラたちの足元に「一」の字を描いた。
パニックに陥るチンピラ。それでも何人かは言葉にならない奇声をあげて突っ込んできたが。
一真はチンピラの振り下ろしたバールを腕で巻き込んでもぎ取り、拳でアゴを突きぬいた。さらに踏み出していた足を軸に半回転、ナイフで突き込んできた別のチンピラの首筋にヒジを打ちつける。
「対等ではないからな。ステゴロ(素手のケンカ)で相手をしよう」
リンクによって金髪女性化した一真が吐き捨てた。ミアキスは『んー』と首を傾げて。
『なんだか一真のノリがいつもとちがうというか……手慣れてない? 僕、ヤクザの相手は初めてなんだけど……?』
「ヤロウ!」
ソファの向こうから、オートマチックを構えたチンピラが立ち上がった。一真に向けて引き金を引――く前に、暁のリボルバーが火を噴き、その脚を2ミリ削った。
「きみらが言っていいセリフは「ぎゃー」とか「おカネは全部差し上げますー!」くらいだよ」
「て、てめぇら、ナニモンだ!?」
脚を抱えてわめくチンピラを手早く拘束しつつ、暁は皮肉な笑みをつくった。
「何者か? 通りすがっただけの、たい焼き屋的な何者かさ」
『それってアフターオール、ナニモノよ?』
キャスの疑問はさておいて、暁は立ち上がりかけたチンピラの脚に弾丸をかすらせて転がしなおした。
「殺すなと言われてるわけじゃないけどねー。恨みの連鎖しょわされるのは重いしー、生け捕りにしたほうが金になる。きみらも好きだろう、金?」
自分たちを捕まえたところで金になるわけもないが、おとなしくすれば死なずにすむ。それを悟ったチンピラたちは床に這った。
『1階・制圧完了』
ストレイドが宣言した3秒後、2階から激しい銃声が降ってきた。
――時間は暁のフラッシュバンが炸裂した瞬間に巻き戻る。
「戦端が開きました。窓際に気配はありません。行くなら今です」
騎士として鍛え抜かれた五感と技術により、内部の状況を判断し終えたエスティアが嘉久也に告げた。
「手がかりと足がかりは1、2階の室外機が使えますか。問題は、わたしの重さですね」
アイアンパンクである嘉久也の体重は120キロ。これはリンク後も変わらない。
と。38とリンクしたツラナミが、ふわりと2階の室外機へ跳び、それを手がかりに、すぐ上の窓ではなく、さらに横方にあるトイレの窓枠へと貼りついた。そして嘉久也へ手を伸べて。
「支える」
嘉久也の視線を受けたエスティアはうなずき、嘉久也とリンク。道を逸れた貴公子然とした嘉久也が、身長2メートルの偉丈夫へと変化した。
「頼む」
余計な言葉はない。任務達成という義務を果たすツラナミ・38の「義」と、探偵として事件解決に尽力する嘉久也・エスティアの「義」。それが共鳴し、彼らを的確に行動させる。
――焦一郎の60mm弾が床をえぐり裂く音にまぎれこませ、嘉久也はトイレ窓へ、布でくるんだ石を叩きつけた。
ガリっ。くもぐった音とともに砕けるガラス。
「さすがに防弾仕様ではないか」
『いつも思っていたのですけれど、どこでこのような技術を?』
「過去に、少しばかりな」
エスティアへの嘉久也の返事は、秘められた過去のせいか、苦かった。
……カギを外し、内へと侵入した嘉久也は、ツラナミが入ってくるのを確認しつつスマホを取り出した。
●挟撃
――時間軸はストレイドの宣言時まで進む。
ヴヴッ。スマホのささやかな振動が、2階への階段を確保して待機中の小鉄に、侵入チームの準備が整ったことを告げた。
『やっぱり強襲?』
階段と応接室を区切る分厚い木の扉を指して稲穂が訊く。
「強襲は忍びの十八番でござる」
言い切って、小鉄は脚に力を込めた。それを。
「あれだけの騒ぎを起こした後です。確実に待ち構えていますよ」
社長をかばう形で追いついてきたクレアが止めた。
「承知してござる」
小鉄はクレアの赤い瞳を見つめ、うなずいた。
「しかしながら拙者、不器用でござるゆえ」
『うちの子が迷惑かけるけど……ごめんなさい』
小鉄の決意に、稲穂の覚悟が添えられる。
クレアは薄く笑み、うなずいた。
「では死なないでください。生きていてくだされば、けして死なせはしませんから」
『小鉄様の侠気、稲穂様だけに負わせませんよ』
医とは仁。義によって仁を成す――それだけを貫いてきたクレアとリリアンの言葉が、その場にいる全員の心を強く揺さぶった。
「拾うぞ、死中の活を」
小鉄の後ろへつく一真。ミアキスが熱っぽい声をあげる。
『燃えるね! ニンキョーキョーカク全開だ~!』
「では」
小鉄が跳んだ。
侵入班に知らせるため、扉を思いきり蹴り破って転がりこんだ小鉄に、5丁分のオートマチック弾が押し寄せる。
前転から側転へ切り替え、123と弾を回避する小鉄だったが、遅れて発射された4、5発目がその立体機動に食らいついた。
零距離回避――は使わない。2発の弾を喰らった小鉄の体が、大きく吹っ飛んだ。
「ぶち殺せ!」
カシラなのだろう、オールバックの中年が指示を飛ばす。5つの銃口が、再び小鉄に向けられた。
絶体絶命の小鉄。
しかし、その忍頭巾に隠された口元は苦痛に歪みながら、笑んでいた。
「こっちだ」
ヴィランどもが破られた戸口を振り向くと。
そこにはライトブラスターを構えた一真が待ち受けていた。
「くそ!」
ヴィランのひとりがオートマチックを一真に向けたが、遅い。
力を持つ光がその手を焼き焦した。
「伊達や酔狂でコレを使っているわけじゃない」
『光は鉛弾より速いんだよ。もしかして、知らなかった?』
一真とミアキスが言葉を紡ぐ。それはただのムダ話などではない。
「ポビドンヨード(消毒薬)で消毒の後、鑷子(ピンセット)にて弾丸を除去。縫合する」
一真たちが敵の目を引き付けている間に、クレアが小鉄の治療にかかっていた。
『フルメタルジャケット弾ですから鉛毒の心配はいりませんね。クレアちゃん、ケアレイを』
「了解。……傷口の癒着を確認。ケアレイを維持しつつ抜糸」
医師であるリリアンの的確な指示と、衛生兵として数多の命を救い続けてきたクレアの技術が一体となり、神業を成す。
小鉄の傷――抜糸跡まで完璧に癒やし終えたクレアが、小鉄の背中をかるく押した。
「小鉄殿、治療完了です」
『私の所見でも完治。現場復帰をどうぞ』
「かたじけない!」
小鉄の強襲は、カチコミチームを2階へ引き込み、侵入チームへ合図するための囮。一真とミアキスの言葉は、傷ついた小鉄を癒やす間をクレアに与えるための囮。そして。
これらのアクションはすべて、侵入チームを呼び込むための囮。
「目に頼りすぎるからこそ見落とすのだ」
ヴィランどもの背後から踏み出した嘉久也のライヴスセーバーが、ヴィランのひとりを斬り倒した。
「ふざけんじゃねぇ!」
カシラの指示で、残るヴィランが銃を構えた。
「連携を止めるぞ」
一真を先頭に、ライヴスリンカーたちの反撃が開始された。
しかし意外にもヴィランの結束は固く、その連携を切り崩すには至らない。
「弾ぁ散らせ――」
「邪魔だ」
いつの間にか。
カシラの後ろに立っていたツラナミが、低くささやいた。
「ひ、え」
「前を向いたまま死ね」
そしてシルフィードの鋭い刃で、その首筋を引き切ろうとした、そのとき。
『ツラ、誓約』
38の声が、ツラナミの頭の奥を叩いた。
ツラナミにとって任務遂行は絶対だ。そのためになら人間であることをたやすく捨て去り、自らを「道具」に落としてしまう。
それを止める唯一の錨こそが、38の声。
「前を向いたまま、寝ろ」
ツラナミは刃ではなく柄頭をカシラの首筋に叩き込み、昏倒させた。
「あー、めんどくせぇ。俺が寝てぇ」
『依頼を果たしたら、いくらでも』
「ハイハイ、わかってますよっと」
もう大丈夫。ツラナミは人間に復帰した。38は小さく息をついた。
――カシラが倒れ、ヴィランは混乱する。どうする? どうすればいい? やる? やれる? やるしかねぇ!
ヴィランどもは闇雲に発砲を開始した。
『嘉久也君! 一旦下がりましょう!』
乱れ飛ぶ銃弾をかいくぐる嘉久也にエスティアが忠告した。ライヴスセーバーは実体のない光の刃。防御には使えない。
しかし。
「隙はもうじきにできる。それまでしのぎきる。……我らにはできぬ芸当か?」
嘉久也は不敵に言い放つ。
エスティアは1度言葉を押し詰めて。強く言い返した。
『こんな小雨にエスティアたちが当たるものですか!』
「その予言、我が実現してみせよう」
そして回避と攻撃を続行する嘉久也。
「――待たせた! 焦一郎がバンバン行くよー」
入り口から暁の声が飛んできた。
時間は予定よりもかかったが、彼女がチンピラたちを縛りあげてきたことで挟撃を受ける心配はなくなった。
あとは打ち合わせどおり。ライヴスリンカーたちは目をかばって顔を伏せた。
『複数の反応を感知。識別・ヴィラン。対閃光防御ON』
「失礼ですが、あなたがたにかまっている暇はありません」
暁が2階に到達したのを確認した焦一郎が、階段の壁を削りながら登場、フラッシュバンを放ってヴィランたちの目を眩ませた。
『武装変更・ディフェンダー』
「前進し、敵陣地を制圧する」
ストレイドのガイドを受け、ディフェンダーを押し立てた鉄壁の構えでヴィランを押し込む焦一郎。
『暁、ヤッチマイナー!』
「あせらないあせらない。コスパ重視で確実に削ってゴー」
焦一郎の体と階段を遮蔽物とし、暁がヒット&アウェイでヴィランを撃ち抜いていく。
そしてこの流れに乗り、応接室の真ん中で回避に徹していた嘉久也も動いた。
「一気に押し切るぞ!」
嘉久也とエスティアの磨きあげられた技が、正確にヴィランの急所を打ち、その意識を奪った。
さらにそこへ他のライヴスリンカーたちの攻撃が重ねられ、ヴィランどもはあっけなく制圧されたのだった。
と、全員がそう思っていた。しかし。
「死ねぇ!」
カシラが跳ね起き、オートマチックの引き金を引き絞った。
狙いは、入り口付近で待機していた社長。
ただ一矢を報いるために部下を見捨て、時を待っていたカシラの銃弾が、社長を貫く――
「ボスを亡くすわけにはいきません」
クレアが、社長をその背にかばった。そして。
クレアを、跳びこんできた一真がかばった。
どん。銃弾が、一真の腹に食い込んだ。
「なぜです?」
よろめく一真の体を受け止めたクレアが眉をしかめた。
「社長を守るついでだ。――女が撃たれるよりは、悪くないがな」
「今の一真殿は女性に見えますが」
一真は自分の豊かな胸を見下ろし、言葉を失った。
『心はね! オトコノコだもんね!』
ミアキスの斜め上なフォローが空しく響き渡る。
かくしてライヴスリンカーたちは、3階を目ざす。
●カチコミ・クライマックス
3階の内装は意外なほどに質素で、調度品も最低限のものしか置かれていなかった。
部屋の奥に置かれた、灰色の事務机。5本脚のワークチェアから立ち上がり、優男――イワタが言った。
「理解できないのですよ。あなたがたが騒いでくれた理由がね。社長の願いをきいた? 町を守るため? ナンセンスだ」
イワタはメガネを押し上げ、続ける。
「確かに保護すべき古きものはあります。しかし、抱え込む価値のないガラクタは? 早々に処分し、価値ある新しきものとすげ替えるべきでしょう」
「ガラクタ」
ぽつり。イワタの言葉を止めたのは小鉄だった。
「お主にはこの町が、人の暮らしがそう見えるのでござるか。ならばその眼、機械化することをお勧めするでござるよ。さすればこの世界がはっきり見えるでござろう」
「価値を決めるのは地元の人間だ。外来種が強要するものじゃない」
続く一真の言葉を、壁にかけてあったシルフィードを白鞘から引き抜いたイワタが嘲笑った。
「同じ外来種がわかったような口をきく。地域とは器です。その器の質を上げることで、そこに盛りつけられる人という具材もまた質の高いものとなるのですよ」
「……結論を言おう。趣味が合わない。故に、徹底的にやらせてもらうぞ」
「食器のセンスはあるが、そこに盛りつけられる料理がどうにもならない女王国があるんだ。あなたの言う器と人の関係は、まさにそれだとしか思えないがね」
一真の言葉を継いだスコットランド出身のクレアが、いけすかない近隣国を例にあげて顔をしかめた。背に社長をかばい、ライトブラスターでイワタを狙い撃つ。
「もし、汝自身の器の質が高いのなら、この『愚かなプライド』の前に立つこともなかった……そうは思わないか?」
クレアの射撃に合わせ、応接用のソファを盾にした嘉久也の二丁拳銃Pride of foolsが火を噴いた。狙いはイワタの腕。剣を取り落とさせることに加え、仲間の攻撃と併せた包囲陣形成を目的とした攻撃だ。
光線と銃弾の隙間をすり抜けたイワタは「ふん」と鼻を鳴らし、
「思いますよ。あなたがたは愚かだ。その安いプライドを、私という現実が打ち砕く!」
『識別名・イワタ。回避力・SSランクと判断』
「一斉攻撃が有用ですが、タイミングを合わせるための隙を作らねば」
ストレイドの報告に、焦一郎が思考をめぐらせる。
と。ツラナミが前へ進み出た。
「理念。理想。ごくろうなこったな……だが、こちとらあんたがどんな主義主張を掲げようが、仕事を果たせればそれでいいんだわ」
イワタの袈裟斬りをシルフィードのハバキで受け止め、ツラナミは語る。そしてイワタの刃と自らの刃の接点を支点にして体を翻し、イワタの側面へと回り込んだ。
「だもんで、さっさとくたばって――寝てくれると助かるねぇ」
『依頼を果たす。それが義務』
38の言葉を合図に、ツラナミの刃が閃いた。
イワタはそれを大きく下がってかわすが。
「話はもうちょい続くみたいだぜ?」
「!」
足元に転がってきたなにかに、体勢を崩しかけた。
「ガラクタかどうかは見る者しだい。宝の価値は人それぞれ。器と人は孫と衣装の関係に似てるかもなー。でも一流の着物があったとて中身が三流ではなぁ」
事務棚の影に潜り込み、棚の中身をひょいひょい投げる暁。当然、ダメージ狙いではない。しかし、足の踏みどころ目がけて投げ入れられるそれらの物は、イワタにとって、無視するにはあまりに危険すぎた。
「小賢しい!」
イワタが吐き捨てたと同時に、ぴたり。暁の投擲が止まった。代わりに暁が言葉を投げつけ始める。
「ま、今のは戯言だ。君も自分が信じる正義を持ってやってきたのだろう? じゃあ真実はひとつだ。正義とは勝つこと。ただ、どうやって勝つかが大事。というわけで」
暁がふふんと笑い、
「実はこれも戯言なんだ。――ツラナミと私の、時間稼ぎさ」
「!?」
動揺したイワタが、それを振り払うために攻撃へ転じようとした瞬間。
「イワタが左へ踏み出します。フォローを」
繰り返された暁の投擲。それをかわすイワタの動きから、そのクセの一部を見て取ったクレアが仲間に告げた。病症を見抜く医療従事者の目を活かしたサポートに、ライヴスリンカーたちが即応する。
『おとなしくお縄につくデース!』
キャスの言葉ごと暁を斬り払い、イワタが吠えた。
「ごめんですね! 私は金のために戦う。あなたがたは、なんのために私と戦うのですか!?」
「自分も昔はヴィランでした。かつての行いは消えず、罪滅ぼしや償いなどと語る資格もない。ゆえに勝手ながら、自分を救い、新たな生きかたを教えてくださった方のために戦うのみです」
クレアの指示を標に、60ミリ砲弾がイワタの足場を削っていく。そこへ他のライヴスリンカーたちの援護射撃が加わり、イワタの動きを確実に押さえ込んだ。
そして。
「推して参る」
小鉄がイワタの前に立った。
強く腰を落として筋肉のバネをたわめ、より強い反発力を生み出した小鉄が、愛刀・孤月を斬りあげ――ない。
「偽りでござる」
さらに体を反転させ、横薙ぎにし――ない。
「これも」
続けて上へと跳ねて唐竹割――らない。
「こちらも」
フェイク。すべてが虚でありながら、込められた斬気だけは実。
「くっ!」
小鉄のフェイントに反応せざるをえないイワタが、焦りにつられてシルフィードで小鉄の刃を弾き飛ばしたが。
「……刃物ばかりに気を取られる。未熟の証でござるな」
刃を自ら放し、大きく開いたイワタの懐へ踏み込んだ小鉄の瞳が、凄絶な金光を放つ。
果たして炸裂する、疾風怒濤の3連撃。
イワタは意識を刈り取られ、崩れ落ちた。
●カチコミより日常へ
「後は任せます」
「お願いしますね」
現場に到着した警察官たちに、嘉久也とエスティアがかるく頭を下げた。
「事情聴取等が必要ならば、後日出頭する」
「今は自分たちも感情が高ぶっておりますので」
並んで立つストレイドと焦一郎が、平坦な声音で警察官に語った。
そのふたりを盾役に、クレアとリリアンに付き添われた社長が現場を離れていく。
「ずっとクレアちゃんといっしょにいるけど、なんか意外な一面を見た気がする……」
「気にするな。さぁ、帰ろう。家でスコッチウイスキーが待ってる。――ボスは家で、清酒がお待ちでしょう?」
「もしもしHOPEー? 私だ私ー。ギャラの振り込みは明日? 明後日?」
「暁んちにはお腹ベリー・グーグーなワタシがステイ!」
暁とキャスはHOPEへの報告(?)でいそがしい。
「ツラナミ、寝るのは帰ってから」
「ぐぅ」
道路の端に腰かけて船をこぐツラナミを、38が淡々と揺すり続けている。
「守る戦は大変でござるな。叩き斬るだけの任務ばかりだとよいのでござるがなぁ」
連行されるヴィランズを見送りながら、小鉄がグチをたれた。
「ヴィランや愚神が出る任務ばっかりじゃないでしょ? そもそも忍ってのは――」
稲穂のお説教が開始。邪魔しないよう離れながら、ミアキスは一真に尋ねる。
「なんのために戦うのか、かぁ。一真は?」
「語るまでもない。感じて理解しろ。わからないなら、それで構わん。……人はみなそれぞれだ。理解できなくても、互いに尊重すればいい」
無口な相棒が言葉を尽くして語った思いに、ミアキスは大きくうなずいた。