本部

深夜の初詣を楽しむ

星くもゆき

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
7人 / 0~8人
報酬
少なめ
相談期間
5日
完成日
2016/01/12 19:59

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掲示板

オープニング

 深夜、エージェントたちは都内のそこそこ大きな神社に初詣に来ていた。
 前もって約束していたわけではなく、仕事の流れで何となくそうなってしまった。

 彼らは大晦日だというのに都内での従魔討伐の依頼に駆り出され、奔走の末にようやく仕事を片付けた。そしてその頃には0時を過ぎてとっくに新年を迎えていた。
 普段はそのまま解散してしまうのが常なのだが、この日はせっかくだしついでに神社に詣でようじゃないかと、いつの間にかそういう話になったのだ。
 体は疲れ切っていたが、大晦日に夜中まで働いて何もせずに帰るのは損ばかりだという感情が働いて、その足で近場の神社を訪れたのだ。

 境内に到着すると、すでにそれなりの人混みが出来上がっていた。巫女装束の女性たちが少しせわしなく動いている。
 エージェントらはひとまず参拝を済ませて境内を見渡す。


 おみくじ売り場では何人かの客が今年の運勢を喜んだり嘆いたりしている。

 絵馬掛に絵馬をかけている人たちの姿も見える。

 社務所には多くのお守りが並んでいる。いくらか見ていくのも良さそうだ。

 甘酒も無料で配られているようだ。戦い疲れた体には染み入るものだろう。


 さて、どうやって過ごしたものか。

解説

初詣にやってきたので楽しんでしまいましょう

神社ギミックは下記

・おみくじ
定番のおみくじです。結果は完全ランダムとなります。
競う喜ぶ落ち込む、リアクションは十人十色。

・絵馬
願い事や本年の目標を書き記しましょう。
見せるも隠すも自由です。無理やり他人の絵馬を見るのはやめましょう。
願い事を隠す保護シールもありますよ。

・お守り
色々な種類のお守りが売っています。
無病息災や合格祈願、恋愛成就などポピュラーなものは一通り。
中にはヘンテコな四字熟語のお守りもあるかも……?(四字熟語指定可能)

・甘酒
体が温まる甘酒が無料で供されています。飲みたい方はどうぞ。
何故か甘酒で酔っ払う(ような状態になる)こともあるかもしれませんね。


参拝は終えた後となります。
周囲に迷惑をかけないように行動しましょう。

リプレイ

●初、初詣

 本殿の脇に置かれたベンチの辺りで、参拝を終えた者たちは、参拝中の者を待ちながら何気ない会話をしていた。大体は初詣が初めてという英雄に、相棒が色々と教えてあげたり世話を焼いたりといった類のもの。
「何だかすごく賑わってるよ~。この間行ったお祭りみたい!」
「な、レイ! これ何? 白いのが木に括ってあったり、文字だらけの変な木の板がいっぱい……。何か不思議なトコに来た気分……あ、あのコ可愛い」
 フローラ メルクリィ(aa0118hero001)とカール シェーンハイド(aa0632hero001)は初めて目にする光景にしきりに興奮している様子だ。
「フローラは初詣は初めてなんだな。一年の最初にこうして神社にお参りに来るんだ」
「おいカール。お前……自分はヴァンパイアか何だかって言ってなかったか? 神社は大丈夫なのか……」
 黄昏ひりょ(aa0118)とレイ(aa0632)は騒ぐ相方たちの面倒を見ている。
 騒々しいところを横目に見ながら、迫間 央(aa1445)はマイヤ サーア(aa1445hero001)に静かに語りかける。
「初詣ってわかる?」
「年の概念くらいは……信仰の薄い国だと思ってたけれどそういう行事はあるのね」
 スーツにドレスの男女が並んで歩いているので多少の視線が集まってくるが、奇妙な格好をしている者が一行の中には多いので恐らくそういう集団だと思われていることだろう。
「初詣って新年に神頼みするあれよね? うふふっ、楽しみだわ!」
「初詣か……めんどくさくて俺はあんまり来たことないけど」
 ルナ(aa2142hero001)は境内の人々を眺めながら野々兎 天(aa2142)の顔を覗く。月の女神と称するだけあり、従魔の討伐任務時より幾分元気が良さそうだ。対する天も夜型ではあるが、昼寝も出来ず任務で動いていたため先程から何度もあくびをしていた。
「……寒い、眠い……眠い」
 これは天の言葉ではない。近くのベンチで横たわって体を丸めている天海 雨月(aa1738)のものだ。
「おぬしはいつも寝ておろうに。これも良い機会じゃ、ほれ寝とらんで少し境内を回ってみようぞ」
 相方の巳瑚姫(aa1738hero001)は雨月を引っ張り起こすが、完全に脱力した人間というのは重い。雨月を起こそうとする巳瑚姫の格闘はしばらく続く。
「そ、そんなに引っ張ったら骨が外れちゃいますよ!?」
 見かねた蔵餅 玄(aa1158)が巳瑚姫に助力し、雨月は“ベンチに寝る”から“ベンチに座る”へ状態移行させられた。とはいえうたた寝しているのは変わらないのだが。
「いつの間にか年、明けちゃってましたね」
「お前が見たがってた番組見逃したな……」
 参拝を終えて本殿を下りながら、真壁 久朗(aa0032)とセラフィナ(aa0032hero001)はそんな会話をする。新年を家で迎えられなかったのは少しばかり想定外だった。
「また来年がありますよ。クロさん、改めて明けましておめでとうございます!」
「……今年もよろしくな」
 新年最初の挨拶を済ませると、2人は大晦日を共にふいにした仲間たちとも年始の挨拶を交わすのだった。

「じゃあ俺ちゃんのやるのを見ててな!」
 本殿では今まさに虎噛 千颯(aa0123)が、初詣初体験の白虎丸(aa0123hero001)に参拝のやり方を実演指導するところだった。
 賽銭、鈴を鳴らし、二礼二拍手一礼。千颯の動作を倣って、白虎丸もたどたどしく各工程を行う。
「白虎ちゃん、ここで願い事!」
「う、うむ」
 頭を下げて数秒、そして上体を起こす。
「白虎ちゃん、何願った~?」
「ん? 千颯たちがこれからも無事でありますようにとな、で千颯は?」
「息子が今年も元気に育ちますようにってね!」
「千颯らしいな」

●初おみくじ

 特に示し合わせたわけでもないが、皆何となくおみくじに惹かれて社務所へと寄ってきていた。
「ひりょ、どっちが運勢がいいか勝負だよっ。勝ったら帰りにぬいぐるみ1つ買って?」
「う~ん、これって勝負するもんじゃないんだけど……俺が勝ったら?」
「え……褒めてあげる」
「おい」
 ひりょたちの可愛らしいやりとりの中に『勝負』という言葉を聞きつけ、千颯やカールが反応する。
「今年の運試しだぜー! ひりょちゃん、俺が勝ったら俺ちゃんの息子にもプレゼントちょうだいな」
「レイー! 何か買ってくれんだって、オレたちもやらねェ?」
 悪ノリした男共が勝負の規模を大きくしていく。迫る、ひりょの財布の危機。
「ちょ、ちょっと! 何でそういうことになるの!? そんなに手持ちないし、そもそも俺が勝負するメリットないよね!?」
『勝ったら褒めてあげる☆』(千颯とカール)
「おい!」
 抗議するひりょを尻目に、2人は御籤箱を念じながら振り始める。白虎丸とレイは「俺たちは勝負に参加しないから」と優しいようで薄情とも取れることをひりょに伝えながら棒を引く。
「さぁ、ひりょ。観念して!」
 フローラがひりょの眼前に御籤箱を突きつけてくるので、渋々とひりょも棒を取る。
 おみくじの受付で棒と箋を交換してもらい、各々の手に結果が渡る。
「それじゃ一斉にオープン!」
 千颯の号で全員が箋を開く……。

「やったー! 今年は幸先いいぜ!」
「これはいいのでござるか?」
「うおー、白虎ちゃんも大吉! すげー!」
 千颯と白虎丸の手には大吉の御籤箋。
「ま、日頃の行いがイイからな、俺は。まぁ大吉は出来すぎだが」
「あああああっ!! ちょ……っ、コレ、何か禍々しいっ! すげェ禍々しいんですケド!」
 レイは大吉、カールは凶、笑えるほどに天国と地獄であった。
「俺は吉か。フローラは?」
「これだけど、どっちが良いの?」
 そう言って彼女がひりょに見せた箋には小吉の文字。
「小吉だから俺のほうかな。多分」
「えーっ! ぬいぐるみ……」
 意気消沈のフローラだが、そこに救いの主、現る。
「おっ、フローラちゃん負けちったか? しょうがない、俺ちゃんも息子にプレゼント買って欲しかったけど、その権利はフローラちゃんに譲るぜ」
「ほんとー!? やったー!」
 元々ふざけて要求しただけだった千颯がプレゼント要求権を譲渡し、フローラは歓喜の表情でひりょに向き直る。
「……わかったよ。でももう店は開いてないから、明日ね」
「ありがとー、ひりょー!」
 無邪気な彼女を見ていると、些細な勝負の結果などどうでもよく思えてくる。ただ今年一年が良い年になりますように、と心中で願うひりょであった。
「ひりょ、お前すげーぜ。イイ男じゃん!」
 カールが誉めそやしてくる。ひたすら持ち上げてくる。『勝ったら褒めてあげる』を実行している。
 千颯はふざけて言っただけだったが、カールはガチだった。

 御籤は勝負事に使われるのみではない。他のメンバーは静かに御籤箱を振り、静かに御籤箋を受け取る。
 お守りを買いに行ったセラフィナの分まで御籤を引いた久朗は2枚の箋をもらった。予め結果を確認して、良いほうをセラフィナに渡す気でいるが、果たして。
 そっと開く。
 手中には、末吉が2枚。
 まさかの被りである。しかも末吉である。
 久朗は速やかに箋をポケットに突っ込むと、黙って3度目の御籤に挑戦した。
「これで今年の運勢が決まるのね。いい結果であるに越したことはないけど、どんな結果でもワタシが貴方を見守り導くわ」
「そんなに気にするものじゃないと思うけど……でもやっぱり悪いとへこむかも」
 天とルナが同時に箋を開いて、自分と互いのを見比べる。
「一緒ね。この大吉ってどうなの?」
「大吉は一番良いんだ。最高の運勢ってことだよ」
「一番! やったわね天、今年は最高の一年ってことね!」
 天の腕に抱きついて喜ぶルナ。思わぬ幸運に天の表情も綻ぶ。
「お二人とも大吉ですかー。すごいです。こちらは中吉だったのですが……あ、迫間さんたちは?」
 天とルナの御籤箋を覗いた玄が、今度は央とマイヤの結果を聞きに行く。
 するとマイヤが央の肩に手を置いていて、何だか励ましているような様子だった。それを見れば玄にも何となく結果はわかる。
「よくわからないけれど、その凶って悪いのね……でも大丈夫よ。何も本当に悪いことが起きると決まったわけじゃないもの……」
「ありがとうマイヤ……俺も別に期待はしてなかったけど、まさか凶とはね。君が吉で良かったよ」
 そんな2人とすれ違い、巳瑚姫は御籤箱を手にする。雨月を連れ回して境内を歩いていた巳瑚姫も御籤の何ともいえない魔力に引き寄せられたようだった。
 カラカラと振って2人分の棒を取り、受付で御籤箋をもらう。
「これがこの世界の御籤とやらか。この紙切れに一喜一憂する価値があるのかのう……半信半疑くらいでちょうど良かろうに。それにしても一体何種類あるのか……のう雨月? ……ん?」
 振り返れば奴がいない。ついさっきまで手を引いていて、すぐ近くに置いたはずの雨月がいない。ずっと何もない空間に、いわば空気に語りかけていた巳瑚姫。
「あんっのうつけものが……!」
 ちょっとした羞恥心、そして怒り。地を踏み砕くような足取りでずんずん。巳瑚姫は境内を捜し歩く。
「新年早々迷子じゃと!? 子供か! このわらわに捜させるなど、ほんにあいつはいつもいつも……!」
 頭に血は上っているが、冬の深夜の空気は冷える。蛇の化身たる巳瑚姫はぶるっと身震い。
「それにしても寒いのう、蛇には応えるわ……」
 ちなみに巳瑚姫が引いた御籤では雨月は凶、巳瑚姫は末吉だったそうだ。

●お守りをあなたに

 巳瑚姫以外の一行は社務所でお守りの物色を始めた。
「俺ちゃんから皆にだぜ! 無事を祈ってだぜ!」
 千颯の大盤振る舞い。仲間たちの今年一年の無事を祈り、全員に『開運除災』のお守りを買って渡していく。(巳瑚姫の分は何故かその場にいた雨月に渡した)
「では千颯には俺からだ」
 さりげない気遣い。千颯が皆を思うなら自分が千颯を思おうということだ。
「白虎ちゃん……」
 両目にうっすらと涙を浮かべながら、千颯は差し出されたお守りを手にして、付された『商売繁盛』の文字を見る。
「そうそうお守りといったら商売繁盛……って何でだよ! これは白虎ちゃんに必要でしょうが! ゆるキャラ公認ゲットして売り出していかなきゃなんだから!」
 ぺしーん、とお守りを地に投げ捨てる。渾身のノリツッコミが発動してしまった。
「お前が働けということでござる!」
 わーきゃー騒ぐ2人を放って、一行はそれぞれでお守りを吟味していく。
「厄除けの物を買おうと思ってたけど、その前に貰うことになるとはね……」
 央は厄除けのお守りを自分とマイヤ、2人分買おうと思っていたのだが、千颯に貰ったことでその必要がなくなってしまった。
「なら……私が選んでいいかしら?」
 マイヤが小さく挙手している。何を買うつもりかわからないが、央はとりあえず了承して財布を手渡す。財布を握って、並んだお守りを眺めるマイヤ。いやに挙動不審な感がある。慣れない買い物をしているせいなのだろうか。
 しばらくして、戻ってきたマイヤから財布と共にお守りを手渡される。
「はい、央にはこれ……ね」
 央の手にあるのは『恋愛成就』のお守り。どういう意味なのか見当がつかず央はマイヤの表情を探るが、彼女は微笑むばかりである。
 『恋愛成就』のお守りを購入したのはマイヤだけではない。可愛いピンク色に魅せられたルナも『恋愛成就』と書かれたお守りを選んでいた。
「何で恋愛って思ったけど、ルナらしいな」
 笑って語りかける天の手元には『無病息災』のお守りがある。
「だってピンクで可愛いじゃない? 月が人々を愛するように皆も月を愛してくれると女神様嬉しいわねっ」
 頭上にお守りを掲げてひらひらさせ、ルナはご満悦といったところだ。
 これらのような女性らしい愛嬌とは無縁のロッカー2人組、レイとカールも風貌にそぐわず、互いに渡すお守りを真剣に選んでいる。
「そうだな……カールなら、コレ……か」
 相棒を思って真面目に選んだお守り、それは『学業成就』。軽量化の限りを尽くされたカールの頭が少しは重たくなるように、との願いが込められている。
「ねー、おねーさん。コレってどういう意味のお守り?」
 レイにそんな風に思われているなどとは露知らず、カールは手に取ったお守りの効果がどのようなものか尋ねる。
「それは千客万来のお守りです。お客さんが沢山来ますように、というものですね」
「お客がいっぱい! コレにするわ、おねーさん。コレちょーだい!」
 ついでに連絡先とか教えてくれない、とか浮ついた調子でカールは『千客万来』のお守りを手に入れて、すぐさまレイに報告して手渡す。
「ほら、もっとさ~レイのライヴに人が来てくれたら嬉しいじゃん? レイの音楽、皆に聴いて欲しいし」
「そうか……」
 案外直球で厚意をぶつけられ、レイは『学業成就』を渡すのを少し戸惑ったが、それでもカールにとっては良い物だろうと信じて選んだお守りを彼に渡すのだった。
 玄は千颯にもらった物以外でも一応は何かを買っておこうかとじっくり探索中。目に留まったのは何故だか彼も『恋愛成就』のお守り。
「……これ、友情運とかにも効くかな……」
 学生時代にろくに友達作りが出来なかった玄。今年は友達を沢山作ろうという決意を込め、こっそりと『恋愛成就』のお守りを買い、懐へ仕舞い込んだ。

 境内のベンチに座って一息ついていた久朗の元へ、セラフィナが2人分のお守りを持ってやってきた。
「はい、これお守りです!」
 そう言うとセラフィナは携帯ストラップ型のお守りを久朗に授ける。
「クロさん、持ち物少ないからなるべくコンパクトな物が良いと思ったので!」
「ありがとな。ところでこの文字は……」
「社務所の巫女さんにすごく守ってくれそうな強いお守りをお願いします! って言ったらおすすめしてくれたんですよ」
 ニコニコとセラフィナは答え、久朗は改めてその小さなお守りに記された文字を確かめる。

『難攻不落』

 どういう意味だ。確かに強いけれども。
「おかしかったですか?」
 久朗の困ったような顔に気づき、不安そうにセラフィナが尋ねる。
「えーと……いやおかしくない。大丈夫」
 文字が何であれセラフィナが選んだお守りなのだ。「大事にするよ」と言って早速携帯に装着する。
「そういえば、これ。お御籤だ」
 ストラップと交換するように、久朗も(泣きの1回で出た中吉)御籤箋をセラフィナに渡す。
「中吉です! これ良いんですか?」
「まぁそこそこだな……」
 初めての御籤に満面の笑顔のセラフィナ、「本当は末吉なんだ」と思うと目を合わせられない久朗。セラフィナが丁寧に御籤を折り畳んで持ち帰りそうなのを見て、彼はちょっとした罪悪感に襲われるのだった。

●願い事

「絵馬って何ですか?」
「願い事を書いておく絵札みたいなものだな」
「願い事……皆が笑顔で健康でいられますように、でしょうか」
 絵馬に興味津々のセラフィナを見て、久朗が気を回す。
「……書いてみるか?」
「はい!」
 2枚の絵馬を貰って、願い事を書く。
「ええと、顔ってどんな字ですか?」
「その漢字は……」
 日本語を習得できていないセラフィナを指導しつつ、何とか記入。絵馬掛に並べる。
「この沢山の絵札全部が誰かの願い事なんですね」
 優しい表情で絵馬の一つひとつを見るセラフィナに、久朗も少し微笑んで。
 そこに『今年一年、沢山の笑顔と出会えますように』とこちらも笑顔と書かれた絵馬が久朗たちの目の前に掛けられた。ひりょが書いた絵馬である。
「素敵な願い事ですね」
 セラフィナが話しかける。
「ありがとう。そっちも良い絵馬だね、ヒヨコが良い感じ」
 互いに絵馬を見合っていると、遅れてフローラが合流して、絵馬を掛けた。
「フローラさんや、それは単なる希望じゃ……」
 ひりょが呆れるフローラの絵馬には『ご飯が一杯食べたい』とある。
「お願いなんだから良いでしょ。ひりょのほうのは……うん、相変わらずだね。でも自分も大事にしなきゃね?」
「うん、それはわかってる……つもりさ」
 少し自嘲気味に笑うひりょ。人のためも良いけれど、自分のことも考えて欲しいというのはフローラの切なる願いでもある。
 隣の絵馬掛には央とマイヤが共に絵馬を掛けていた。央は『マイヤの心の傷が癒えますように』と願い、マイヤは『自分の気持ちに整理がついて素直に前向きになれますように』と書いている。
 互いに相手の願いが気になるが、遠慮して見ることはない。互いに隠すでもなく見せるでもない中途半端な位置に絵馬を掛けているが見ない。結局そのまま、互いに見ることなく、その場を離れていってしまった。
「神様も神様に願ったりするんだ」
「あら、女神だってそう人と変わらないわ」
 たわいない会話をしながら願い事を書いているのは天とルナだ。ルナは鼻歌交じりで楽しそうである。
 書き終わるとルナが天の絵馬を覗き込む。
「テンは何を書いたの? ワタシに叶えられることなら言ってくれていいのよ、これでも月の女神ですから!」
 胸を張ってそう主張するルナに、天は少し考えた後、自分の絵馬を見せた。
「俺は夜空になれるようにって。月の輝ける曇りない夜空に。ルナにはお世話になってるから、今年は俺もルナの頼りになれるといいなって。ルナは――っぷ!」
 最後まで言い切る前に、ルナの熱い抱擁が天の顔を襲った。真正面から力の限り抱きしめられたようで、胸に埋まって息が苦しい。
「~~っ! もうテンったら! 可愛い! 愛してるぅ! ワタシのお願いも見て見て、テンとずっと一緒にいられますようにって書いたの。もう新月の日なくそうかしら? ってテン、聞いてる?」
 嬉々としてまくし立てたルナだったが、幾度ものタップを無視された天はもはや意識を失いかけていた。慌ててルナが蘇生して天が戻ってくるが、今度は無事で良かったと再びルナに抱きつかれ再び昇天。そんなやりとりを繰り返す。
 レイはしつこく願い事を暴こうとしてくるカールを制止しながら、無事に作業終了。
「ちょ、結局見せてくれねェし! 別にいいじゃんかそれぐらい!」
「願い事ってのはな、言うと叶わないんだ。だから秘密だ。人に見せびらかすとあんな風になるぞ」
 食い下がるカールにレイが指し示したのは、千颯と白虎丸だった。
「せっかく俺ちゃんが書いた絵馬をー!」
「こんな物を堂々と飾るとは……俺はゆるキャラではないとだな!」
 白虎丸が千颯が堂々と掛けておいた絵馬を回収しているところだった。

●締めは甘酒

 一行は、本殿脇のベンチに再び集まっていた。各々の手には甘酒が1杯ずつ。
 雨月はぼーっとしながら甘酒を啜り、呑気に仲間と会話なんかしちゃっている。巳瑚姫が未だ彼を捜して境内を歩き回っていることなど知らず。
「あったまる……。あ、そうだ。俺菓子持ってんだわ、綿菓子。……いる?」
「おぬしは……何をのほほんと菓子なぞを配っておるんじゃ……? のう、雨月よ?」
 雨月が手持ちの菓子を適当にカールや玄などに配っていると、ようやく彼女が、怒り心頭な彼女がやってきた。
「おー、明けましておめでとさん。綿菓子いる? 甘酒は?」
「何故綿菓子持参なのじゃ! 要らぬわ!」
 何十分と捜索させられた巳瑚姫は物凄い剣幕で雨月を追及する。寒い中、無用な捜索を強いられたのだから無理もない。
「でもみこ寒いだろ。綿菓子要らないなら、せめて甘酒だけでも飲んだら?」
 幾ら怒鳴っても雨月は全くの平常運転。毎度のことであり、手応えがなさすぎて巳瑚姫も怒る気が失せてくる。
「……むぅ」
 何か温かい物を採りたいとは思っていたので、ふてくされながらも巳瑚姫は甘酒を受け取った。
「そういえば央、売り子さん見てたね。ああいう子が好きなの?」
 黙って甘酒を飲んでいたマイヤが急に央に質問してくる。
「巫女さんとメイドさんは好きかな……整った感じがしてて」
 売り子さんを気に入ったのは事実なので、央は正直に答える。マイヤは「ふぅん」と返すと――。
「一着持ってみてもいいかしら」
 唐突。甘酒が気管に流れ込み、盛大にむせる央。
「……何よ、悪い?」
「いや、全然いい。すごくいい」
 呼吸を何とか回復させながら央は応接し、続ける。
「それなら普通の服とかも買えば?」
 何かが気に入らなかったのか、マイヤはぷいとそっぽを向く。
「そんなことより、歩いてでも帰るんでしょう? 甘酒で暖かくなっている間だけは付き合ってあげるから。行きましょう?」
 マイヤが腕を引いて帰宅を急かすので、央は「それじゃ」と皆に挨拶してから彼女と共に家路についた。
「あー、女と2人で夜の街へ……。滅茶苦茶羨ましいんですケド!」
 2人を見送るとカールが嘆きの声をあげる。そして巫女さんに声をかけようとするのでレイは襟を引っつかんで止めた。
「俺たちもこの辺で別れさせてもらう。友人と約束があるんでな」
 久朗が座っていたベンチから立ち上がって、仲間たちとの別れを済ませる。
「ちょ、コレ? 久朗もコレってことか!?」
 小指を立ててカールが問う。そのサインはどこで覚えたんだ、とレイは呆れ果てた。
「ただの友人だ。初日の出を見る約束があってな。悪いがもう行くぞ」
「じゃあ皆さん、また今度!」
 笑いながら手を振って去るセラフィナに、カールは泣きながら手を振る。
「レイ……ワイン持ってない?」
「持ってるわけあるか……。甘酒ならあるが」
 呑まなきゃやっていられない、カールはレイから甘酒を受け取り、くいっと一献。
「……ワインには負けるケド、なかなか美味しいじゃん……」
「ワインと比べる物じゃないと思いますけど……」
 涙の甘酒を飲み干すカールの悲しい背中を見ながら、ひりょは苦笑いを浮かべる。だが彼には知らぬ間に面倒ごとが迫ってきていた。
「ひりょも飲も~。これおいひぃよ~」
 ぐでんぐでんの泥酔状態のようなフローラがひりょに絡んでくる。
「えっ、ちょっと待て。フローラ、もしかして酔った? 普通の甘酒だよな……?」
 ぐいぐいと迫るフローラを手で押し留めながら、ひりょは甘酒を飲んで確認する。普通の甘酒だ。酔うはずがない。
「あれ、ひりょって双子だったっけ?」
「……まぁ、少し大人しく休憩していなさい」
 何に酔ったのか原因不明だが、ひりょは酔っ払いもどきのフローラをなだめながら仕方なく介抱。
「お、俺ちゃんもそろそろ帰るぜ。明日、というか今日は息子と遊んでやりたいからな~」
 央や久朗に続いて、千颯も帰宅宣言。初詣も一通り楽しんで宴もたけなわ、そろそろ頃合ではある。
 レイはカールを慰めながら、天はルナと腕を組んで、雨月は巳瑚姫に抱えられてそれぞれ帰路につく。玄はフローラに水を買ってくる気遣いを見せてから帰っていった。
 ぽつんと残るひりょ。フローラはいつの間にか眠りこけていた。
「今年もよろしくね~ひりょ……」
 すやすやと寝息を立てながらも、彼女はぽつりと寝言を発する。
 今年もよろしく。
 その言葉を聞いて、ひりょは去年の1年を思い返す。彼女がいなければ1年をやり過ごすことなどできなかっただろう。彼女への感謝の念が、そして彼女と共にこれからも頑張っていこうという決意がこみ上げる。
「うん、こちらこそ……相棒」
 眠る彼女を起こさぬように静かに。今年も共に戦っていく相棒に束の間の休息を。
 帰りは背負って行かなければいけないけれど、それぐらいなら何てことない。
 フローラを背に抱え、ひりょは深夜の家路へと向かう。

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結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 此処から"物語"を紡ぐ
    真壁 久朗aa0032
    機械|24才|男性|防御
  • 告解の聴罪者
    セラフィナaa0032hero001
    英雄|14才|?|バト
  • ほつれた愛と絆の結び手
    黄昏ひりょaa0118
    人間|18才|男性|回避
  • 闇に光の道標を
    フローラ メルクリィaa0118hero001
    英雄|18才|女性|バト
  • 雄っぱいハンター
    虎噛 千颯aa0123
    人間|24才|男性|生命
  • ゆるキャラ白虎ちゃん
    白虎丸aa0123hero001
    英雄|45才|男性|バト
  • Sound Holic
    レイaa0632
    人間|20才|男性|回避
  • 本領発揮
    カール シェーンハイドaa0632hero001
    英雄|23才|男性|ジャ
  • エージェント
    蔵餅 玄aa1158
    人間|18才|男性|命中



  • 素戔嗚尊
    迫間 央aa1445
    人間|25才|男性|回避
  • 奇稲田姫
    マイヤ 迫間 サーアaa1445hero001
    英雄|26才|女性|シャド
  • 綿菓子系男子
    天海 雨月aa1738
    人間|23才|男性|生命
  • 能面と舞う
    巳瑚姫aa1738hero001
    英雄|23才|女性|ソフィ
  • 夜空色の夜更かし兎
    野々兎 天aa2142
    人間|18才|男性|攻撃
  • 夜空色の天のお月様
    ルナaa2142hero001
    英雄|24才|女性|シャド
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