本部

正月と珍味と退治?

紅玉

形態
ショート
難易度
やや易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
少なめ
相談期間
5日
完成日
2016/01/16 19:02

掲示板

オープニング

●正月3日の料理は飽きた。
「飽きた。ティリア姐のご飯も飽きた」
 圓 冥人(az0039)は炬燵で蜜柑をつまみながら呟いた。
「我儘。よくないよ」
 弩 静華(az0039hero001)は目の前に居る猫を見つめている。
 お正月の1日、2日はおせち料理は美味しく感じるが、3日になるとムードも無くなり自然と食が進まなくなる。
「珍味、なんてどう?」
 静華は冥人の方に顔だけ向けた。
「珍味?」
 ティリア・マーティスは目を丸くした。
「うん、昔はね。蜂を巣を取って、蜂や幼虫を使って料理してた」
「ふぉういふぇば(訳:そういえば)」
 蜜柑を頬張りながらティリアは言う。
「食べ終えてから言え……」
 冥人はそう言って炬燵の中に潜り込んだ。
「猫みたい、もしかして猫?」
 静華は冥人の頭を軽く叩いた。
「……ごっくん!そういえばね。山で鹿とイノシシと蜂が大量発生していますわ」
「そりゃ大変な事でー」
 ティリアの話に冥人は大きな欠伸を一つした。
「しかも、ありえない大きさらしくて討伐依頼がきましたわ」
「大変、正月3日目だけど、皆に知らせる」
 討伐後には美味しい鹿肉や猪肉を貰えるハズ、と静華は思った。

●肉を確保、する。
 お正月3日、エージェント達はH.O.P.E.会議室に呼ばれた。
「えー、皆様、あけましておめでとうございます。今年も宜しくお願いしますね」
 エージェント達に向かってティリアは大きな声で言った。
「お正月明けてから頼もうと思ってた依頼を直ぐに言ってもらいます」
「その名も、鹿肉、猪肉を貰ってウハウハ、作戦」
 棒読みで言った静華は小さく拳を上げた。
「人里から少し離れた山に大量の鹿、猪、何故かハチまで現れたのよ」
 ティリアは眉間にしわを寄せた。
「移動を観測している猟師達の話によれば、少しずつではあるけれども人里の方へ移動しているそうよ。しかも、通常の鹿、猪、ハチより大きいわ。従魔の可能性が高いので早めに退治してきてくれるかしら?」
 ティリアは首を傾げた。
「倒したら、お肉貰えるよ」
 静華はやる気満々に愛用の散弾銃を取り出した。
「鹿のステーキ……」
 想像したティリアの口から涎が出た。

解説

●登場人物
ティリア・マーティス(29歳)独身
料理は出来るが、冥人曰く「まだまだ」らしい。

・敵情報
従魔エルク(5匹)
ミーレス級。ヘラジカの従魔で通常より一回り大きい。
知性はケモノ並。

従魔ボア(10匹)
ミーレス級。イノシシの従魔で通常より一回り大きい。
知性はケモノ並。

従魔ワプス(10匹)
ミーレス級。蜂の従魔で30センチ位の大きさ。

・場所
山の開けた部分。お昼。

・貰ったお肉などで料理可能です。
ティリアも張り切っています。

リプレイ

●狩りの前には必ず準備を!
「セルヴァッジーナだね♪」
 と、アンジェリカ・カノーヴァ(aa0121)は笑顔で言った。
「何だそれは?」
「ジビエの方が通りがいいかな、イタリアではそう言うんだよ♪」
 マルコ・マカーリオ(aa0121hero001)の問いにアンジェリカは説明する。
「ご機嫌だな。だが依頼を忘れるなよ」
「分かってるよ。先ずは食材を確保しないとね」
 と、意気揚々と答えるアンジェリカ。
「それは依頼の後だ」
 マルコはため息を吐き、小さく呟いた。

「今回のお仕事は害獣駆除と言った所だね」
 依頼内容を聞き終えた伊邪那美(aa0127hero001)は言った。
「ふむ……肉を熟成させる為にも数日は寝かせたい所なのだがな」
 御神 恭也(aa0127)は依頼よりも肉の方が気になる様だ。
「賑やかで楽しそうな依頼だね♪……あ……もちろんっ仕事だから真面目にする……よ!」
 荒木 拓海(aa1049)は目を輝かせながら言う。
「美味しく食べれるようにチャッチャッと働いてね」
 そんな拓海を見てメリッサ インガルズ(aa1049hero001)は微笑んだ。

「一緒にやろうよ。その方がきっと美味しいよ?」
 と、三ッ也 槻右(aa1163)は圓 冥人(az0039)と弩 静華(az0039hero001)に声を掛けた。
「やる」
 静華は無表情のまま右腕を上げた。
「ま、半分そのつもりだったしね」
 冥人は微笑んだ。
「あと、香水はやめとくべきだね」
「え? 猪に誘因性ありと聞いたのですが」
 槻右は冥人の言葉に首を傾げた。
「それは違うね。香水や化粧などのニオイに敏感なのは蜂だよ」
 と、冥人は答えた。
「ハチ、まみれ回避」
 静華は槻右の手から香水を奪って逃走。
「そうなのですね。ボア討伐中に大変な事になるところでした」
「いこ、槻右君」
 静華は槻右の上着の裾を引っ張った。

「……なぁ、何で激戦終わった後なのに、僕は仕事に入ってるんだ?」
 不知火 轍(aa1641)は欠伸一つする。
「丁度良いかと思いまして、新年こそ仕事ですよ轍!」
 雪道 イザード(aa1641hero001)は轍を見て微笑む。
「チッ……サッサと終わらせて、布団の抱擁受ける」
「えぇ、是非そうして下さい……寝ないで下さいよ?」
「……分かってるよ」
 イザードから突き刺さる様な視線を浴びながら轍は答えた。

「俺は解体もやるぞ」
 バルトロメイ(aa1695hero001)はやる気満々だ……ただし、相棒の前だけだ。
「バルトさん、そういえば竜の巣でドラゴンを捌いて食べてました……よね?」
 セレティア・ピグマリオン(aa1695)は興味津々に問う。
「ドラゴン、食べれるの?」
 どこからともなく現れた静華はバルトロメイを見上げた。
 口を噤むバルトロメイは女性が苦手だ。
「じー」
「バルトさん、女性が苦手なのです」
 やや女性的な見た目の静華も「女性」の範囲なんだろうと、感じたセレティアは説明をした。
「コイツを女として見ても意味はないよ」
 冥人が肩を竦めた。
「ペットだ、ペット。気まぐれな猫として見たら良いと思うね」
「女性が苦手なのを直せるチャンスかもしれません」
 セレティアはバルトロメイを見上げて見つめた。
「今回は結構知り合いいるなー。セレティアちゃん、煤原さん、今日はよろしくな!」
 古賀 佐助(aa2087)が笑顔で知っている人達の名前を呼んだ。
「……頑張り、ましょう?」 
 リア=サイレンス(aa2087hero001)は白い髪を揺らし小さく首を横に傾げた。
「あ……よ、宜しくっ……お願いします」
 煤原 燃衣(aa2271)はおどおどした表情で挨拶をした。
「……スズ……狩り……の手法は……。「敵」を殺す、のに役立つ……殺るぞ……」
 ネイ=カースド(aa2271hero001)が良い意味でやる気を殺気として出している。
(あ、ネーさんが饒舌だ。ジビエ食いたいんだな)
 そんなネイを見て燃衣は小さく頷く。
「……今年の冬は暖かい……し、何時もならご近所さん……が獲ってた頃、かな……」
 と、燃衣は亡き故郷へ思いを馳せた。

「皆、連絡する為に番号を交換お願いします」
 槻右はスマートフォン片手に他のエージェント達に声を掛けた。
「あ、皆様、こちらの猟師2名が道案内などでお手伝いして下さいますわ」
 ティリアは毛皮を身に纏った猟師2人をエージェント達に紹介した。
「宜しくお願いします」
「あと処理などはお任せ下さい」
 2人の猟師はエージェント達にそう言ってお辞儀をした。
「いってらっしゃいませ、鹿ステーキ楽しみにしていますわ」
 準備を終えたエージェント達はティリアに見送られながら出発した。

●狩り開始
 猟師の案内でエージェント達は順調に山道を歩き、目的地に到着した。
「……寝たい」
 轍は大きな欠伸をし瞼を閉じる。
「睡眠欲もそこまで行くと狂気ですって?!」
 イザードは声を上げた。
 共鳴後、イザードは鷹の目を使い周囲を見渡す。
「吹雪いていないので視界は良好です」
 イザードの鷹はやや曇り空に舞い上がり、高度を徐々に上げた。
「グルル……」
 猟師が連れている狩猟犬が唸り声を発した。
『鹿の群れ確認しました。位置は……』
「さて、作戦開始と行こうか。皆、よろしく頼んだよ。さて、こっちは煤原さんの所に誘導だね」
 イザードからの連絡を聞いて佐助は立ち上がり駈け出した。
「大きい……」
 ゆっくりと雪の中を歩くエルクを見て佐助は呟いた。
 左右に伸びている角は箆のように平たい、体長は佐助の2倍もあるその群れの姿は圧巻だ。
 佐助は蛇弓・ユルルングルの弦に矢をつがえ引く。
 矢先をエルクの群れに向けて威嚇射撃を放った。
 矢はエルクの巨体を掠めた。
 エルク達は静かに顔を上げ佐助の方を向いた。
「来るか?」
 佐助はエルク達を見つめた。
 少しの間。
 一番角が大きいエルクは一歩前へと進んだと同時に佐助は一歩下がった。
(意外と雪が積もっていて歩きにくい……でも、やるしかないね)
 エルクは雪を蹴りあげ佐助の方へと走り出した。
「よしっ」
 雪が宙に舞う中、佐助は燃衣が待つ場所へと走り出した。
「あーあ、あんな調子で大丈夫かねぇ」
 走る佐助のんきに遠くから眺めている冥人はため息を吐いた。
「いざとなれば、サポート役の人が助けますので安心して下さい」
 槻右が冥人に言った。
「助け、必要なら、言って」
「はい。ボアの群れが見つかったそうなので、そっちに行ってきます」
 少し雪に足を取られながらも槻右は走って行った。
「いってらっしゃい」
 静華は槻右とアンジェリカの背中を見送った。

 一方……下見を終えた燃衣は赤いスプレー缶を片手に周りを見回した。
 雪、しかもそれなりに積もっていた。
 そうまだ1月なので山の開けた部分であろうが積もっていれば地面は見えないのは当然だ。
(……ど、どうしよう)
 穴を掘っている暇はない、佐助がエルクの群れを引き連れてくるのだから。
(この雪なら跳躍出来ない、なら近付いてきた時に投げれば)
 徐々に近づいてくる影を見て燃衣は簡易地図に目をやった。

「いた……」
 ボアの群れを見つけた槻右は梓弓の弦に矢をつがえた。
 弦を引き、矢先を一頭のボアに向けた。
 弓から放たれた矢はボアの首に向かって一直線に飛んだ。
「プギィ!」
 ボアが声を上げた。
 倒れた仲間の周りにボア達は集まり周囲を見渡してる。
「さぁて御一行様、こちらですよ」
 弓で攻撃しながら槻右は後退する。
 仲間の血で興奮したボアは一直線に槻右へ向かって走る。
 その光景はまさに「猪突猛進」だ。
 猪は早い、時速45kmも速度が出る。
 彼らは能力者、英雄の力を借りれば常人よりも頑丈だ。
「おわっ!」
 ボアの体当たりにより槻右の体は中に舞い吹き飛ばされた。
「どうにかポイントに誘き出せたね」
 山にゴスロリという目立つ姿のアンジェリカはアサルトライフルを構えた。
 アサルトライフルの引き金を引くと、山に弾が射出される音が響いた。
 銃口から煙が立ち上がる。
「食材いただきだよ!」
 アンジェリカは身の丈よりも大きなエクスキューショナーを軽々と持ち上げた。
 ボアの群れにアンジェリカの怒涛乱舞が当たる。
「首を落とせば良いんだよね」
「そうだ」
 アンジェリカの言葉にマルコは答えた。
「たぁっ!」
 怒涛の勢いでエクスキューショナーを振るうアンジェリカは、ボアの首を確実に切り落とす。
「ハァッ!」
 槻右は孤月を鞘から抜き怒涛乱舞で攻撃をする。
 斬撃が消えた瞬間、ボアの頭だけが地面に音もなく落ちていた。
「お、おお。お見事です」
 猟師がボア討伐組の様子を見に来ていた。
「ありがとうございます。まだ撃ち残しがいないか周囲を見てきます」
 と、言って槻右はボアの群れが居た場所に向かった。
「じゃ、ボクはここで待ってるよ」
「一応、狩猟犬がいますので居たら吠えて知らせるでしょう」
 アンジェリカと猟師はそう言って槻右を見送った。
「お穣さん、この猪を解体してもよろしいでしょうか?」
「槻右さんとマルコさんがしてくれるよ」
 猟師の問いにアンジェリカは答えた。
「いえ、本来でしたら血抜きは動物の心臓が動いてる時にするモノなんです」
 そう、本来の血抜きは「動物が生きている」事が条件なのだ。
 生きている、つまり心臓が動いている状態を指す。
「とりあえず、祈らせていただきます」
 猟師はボアの体に手を当てて撫でた。
「祈る?」
「ええ、私たち人間……いえ生きるモノ全ての生き物は、食物連鎖で生きております。だから、奪った命に感謝をするのです」
 アンジェリカは猟師の言葉に小さく頷き両手を組んだ。
「ありがとうね」
 猟師は狩猟用ナイフを取り出し捌きだした。
「俺も手伝う」
 共鳴を解除した後、マルコは猟師にそう申し出た。
「数が多いからね。助かります」
 猟師はマルコに予備の狩猟用ナイフを渡した。
「まぁ、内臓を取るだけだから簡単ですよ」
 と、言って猟師はマルコに内蔵の取り方を丁寧に教えた。
「すみません。僕も解体します」
 見周りから戻ってきた槻右は猟師の元へ駆け寄った。
「じゃ、お願いします」
 猟師は狩猟用ナイフを槻右に渡した。
「首は落としているので内蔵ですね」
 槻右は、狩猟用ナイフを猪の首辺りから腰までに切れ目を入れた。
 内臓を傷付けないように考慮しながらだ。
 1時間後……
「あとは冷やすのか?」
「はい、数が多いので時間は掛かるかと思います」
 猪の山を見て槻右はため息を吐いた。
「川に持っていきましょう」
 猟師は猪を慣れた動作で木に縛った。
「なるほど」
 マルコと槻右は木の端を肩に乗せ立ち上がり、猟師の案内で近くの川へと運んだ。
「石を集め、洗い、それを猪の腹に詰めて、川に沈めて冷やす」
 猟師は二人に説明しながらやり方を教えた。
「マルコさん、槻右さん頑張ってね」
 と、アンジェリカは2人に言った。

「普通の大きさなら餌に喰い付かせて、目印を付けてからの追跡が出来るんだがな」
「スズメバチの駆除? 確かに危ないから退治しないとね」
「いや、食べるのが目的で駆除が目的じゃないぞ」
 と、恭也と那美が話していると遠くから羽音がした。
「巣発見」
 と、恭也が呟く後ろで声が上がった。
「オラァ蜂採るぞ!」
「つぁっ!蹴んな!……行くぞ……と話せよ……」
 と、バルトロメイが声を上げながら拓海を蹴った。
 そんな2人を横目で見ながら恭也は、ハチ駆除用の煙幕を焚いた。
 煙は風に乗ってワプスの群れに向かう。
「よし、行くぞ……?」
「だめ」
 ワプス班の様子を見に来た静華は呟いた。
「あれでは逃げられてしまうぞ?」
 巣の蔭から飛び出すワプスを見てバルトロメイは言った。
「ハチ、煙、気絶する」
 全てのハチに効くわけではないが、よくテレビでやっているシーンを見た事はないだろうか?
 ハチの巣に煙を纏わせている光景を。
 巣からハチを出すためではない、ハチを気絶させ無力化させるのが目的で煙を撒いているのだ。
 巨大なワプスが力無く地面に落ちていく。
「これなら退治は楽そうだな」
 捕縛用ネットを持ってバルトロメイは気絶して落ちるワプスを見て声を上げた。
「気絶しただけだからね。トドメはさしておいた方が良いかもね」
 那美の言葉に恭也は頷いた。
 恭也、バルトロメイ、拓海の3人は近接武器を片手にワプスの頭を切り落として歩いた。
 そして、眼の前に現るは巨大なワプスの巣だ。
「成虫がデカいだけあって巣もデカいな……」
 恭也は息を呑んだ。
 ワプスの巣を見たら普通の人は「デカイ」と思う程の大きさだった。
 少々歪だが、全長2m位のワプスの巣だ。
「蜂の巣蜂の巣♪」
 拓海はナイフでワプスの巣を切る。
 見た目はやや硬いが、ナイフの先が巣に刺さると刃を伝って蜜が流れ出る。
 甘い香りがその場にいるエージェント者達の鼻腔をくすぐる。
 拓海は巣の一部を剥ぎ取り中を見た。
 にゅっと大きな幼虫が顔をだし頭を上下に動かす姿はまるで拓海に挨拶をしているようだ。
「……コレ……食べるのか」
 拓海は複雑そうな表情でワプスの幼虫を見た。
「料理しがいはありそうだ」
「そうですね」
 バルトロメイと恭也はワプスの巣を捕縛用ネットで覆った。
「こんな大きな巣は皆見たらびっくりするだろうね!」
 捕縛用ネットに包まれた巨大な巣を見ながら拓海は言った。
「一部の虫嫌いは昏倒するほど驚くだろうな」
 バルトロメイは小さくため息を吐いた。

 ネイは高揚していた、エルクが全ての罠を潰し捕縛用ネットさえも破壊したその力に。
 思わず口元が吊り上がる。
 獲物は逃げず、向かってくるのだから……
「……居るね、サッサと終わらせようか」
 エルクと睨み合っているネイを見て轍は言った。
「……あー、面倒だなぁ……温泉行きたい、酒飲みたい」
 そんな轍の言葉を聞いてイザードはため息を吐いた。
「帰ったらお風呂が待っていますから、しっかりなさい。お酒は用意しておきますから」
 イザードの言葉を聞いて、「風呂と酒のためだ」と轍は言って重い腰を上げた。
 共鳴状態にし、轍は駈け出した。
「狩るのはワタシで、狩られるのはお前だ、って感じ? ま、相手が悪かったね」
 リアは轍の姿を確認し、息を蒸気機関車の煙の様に吐き出すエルクに向かって言った。
 白い雪に覆われた大地に赤い花が咲いた。
 巨体がゆっくりと横に倒れた。
「さっさと終わらせてようか」
 潜伏状態の轍の姿はエクル達からしたら見えない、透明人間の様だ。
 ネイは身の丈よりも長いザグナルを片手で持ちエルクを見据えた。
「……狩るっ!」
 ネイはザグナルをエルクの喉元に目掛けて突く。
 穂先がモノを刺した感覚がネイの手に伝わる。
「ゴボッ!」
 エルクの口から血が溢れ出し、横に傾き雪の上に倒れた。
「終わった、そっちは……聞くまでもないか」
 轍はネイに声を掛けようとしたが、雪の上に倒れているエルクを見て呟いた。
「罠は破られたけど、結果オーライね」
 白い髪を冷たい風に靡かせながらリアは小さく頷いた。

●解体
「皆様、おかえりなさいませ。調理室をお借りしましたので、そちらへ」
 獲物を担いだエージェント達は、ティリアに調理室へと案内された。
「ごくり」
 調理室に響く音。
 それは、ティリアが鹿を見て喉を鳴らした音だった。
 次々に調理室へ運ばれる鹿、猪、ハチ。
 猟師が解体用の台を用意してくれたが、調理室にあるテーブルというテーブルが埋まるほどの量だ。
「それじゃ、解体するよ」
 拓海はナイフを持ち猪を仰向けにした。
 マルコ、槻右、バルトロメイ、ネイもナイフを持ち解体を始めた。
 解体のやり方を知らないマルコと槻右は、拓海に説明を受けながらする事にした。
「まず、今の時期の猪は脂肪が多いから皮が剥ぎ難いよ」
 拓海は猪の後ろ足にナイフを入れる。
 そこから、皮を引っ張りながらナイフを入れ皮を剥がしていくのだ。
「注意して欲しいのは、脂肪の部分を肉側に残しながら剥ぐことだよ」
 拓海は慣れた手つきであっという間に猪の皮を剥いだ。
「はい、熱湯」
 静華は熱湯が入ったタライを拓海の近くに置いた。
「ありがとう。あと、刃に脂肪が付くと切れ味が落ちるからナイフを定期的にお湯に浸けて取ることだよ」
 と、言って拓海はナイフを熱湯に浸けた。
 あとは能力者として力を使えば猪を解体するのに時間は掛からないだろうと、猟師達は思い見守る事にした。

「スズ……ここ持ち上げろ……」
 ネイが鹿の部位を指す。
「ね、ネーさん、上手だね……ど、何処で覚えたの?」
 慣れた手つきで鹿の皮を剥ぐネイに燃衣は問う。
「……戦争……では……食料を現地調達……する時、もある……」
 保存食が無い時代で現地調達は生きる為に必要な事だ。
 ネイはそんな中で生きる術を学んだのであろう。
「へ、へぇ……」
 燃衣は、愚神が現れ平和とは言い難い世に生まれたが技術は発展しており、狩りとは無縁の暮らしをしているので理解は難しいであろう。
 そんな生返事の燃衣にネイは横目で睨む。
 驚いて燃衣は少し飛び上る。
「……テメェも……覚えろ……」
 ネイの言葉に燃衣は頷き解体作業を手伝った。

「このまま、ここに居ると食欲を無くしそうだから向うの解体現場に行ってるね」
 那美はワプスの巣から目を反らした。
「ああ、向こうに行くのならノミとかに気を付けろよ。ほぼ野生動物と言って問題が無いだろうから毛に大量に住み着いているだろうからな」
 ワプスの巣を小さく切り崩しながら恭也は言った。
「……今日は虫がついて回る厄日だね」
 那美は大きなため息を吐いた。

「そーいや、拓海……。あぶらあげで募集のあったアレ……。もしかして拓海も……?」
 と、槻右は解体作業をしながら拓海に聞く。
「……聞くな……いや、ちょっと後押しされたので開き直って……」
 拓海は片づけをしながら答えた。
「えっと。楽しみに……してる……ね?」
「そうよねー私も楽しみ♪」
 槻右に同意する様にメリッサは頷いた。
「背高いなそれだけあれば力仕事とか余裕かな?」
 と、拓海が冥人に声をかけた。
「どうだかね」
 冥人は肩を竦めた。
「って事で一緒によろしく~」
 笑顔で拓海はナイフを渡した。
「って、おーい……しゃーねぇなぁ」
 冥人はため息を吐き、慣れた手つきで解体する。

 合計15匹の解体が終わった。
 凄まじい量の肉、肉、肉!
 通常の解体で出る肉の量の2倍だ。
「血とか死体は無理です……お肉になってたら大丈夫……。でも、さっきまで生きてたんですよね」
 セレティアは肉の山を見て首を傾げた。
「あー、楽しみですわー」
 鹿肉を見て心を躍らせるティリアは歓喜の声を上げた。

●大切に戴きましょう?
「しっかし、セレティアちゃんと肩並べて料理してると、あの時の調理実習思い出すよなー」
 しっかりとエプロンを着けた佐助は、隣でちゃっかりと一番良さそうな部位を皿に乗せているセレティアは頷く。
 バルトロメイは玉ねぎを細かく刻んだのを、猪脂を入れたフライパンに入れ炒める。
 味付けはワプスの巣から取れた蜂蜜とバルサミコ酢に醤油だ。
 ステーキに添えるメートルドテルバターの材料をバルトロメイは小さなボウルに入れた。
「……これ、何処置くの?」
 リアはミンサーを持って首を傾げた。
「それは、そこに置いといて直ぐ使うからな」
 佐助の言葉に従いリアはミンサーを置いた。
 ミンサーの肉を入れる部分のサイズに合わせて切った鹿肉を入れる。
 続いて猪肉も入れ、ボウルに移し、鹿のミンチと猪のミンチを混ぜた。
「さーて、軽く味見……おお! これかなりいい感じなんじゃね!?」
 セレティアが作ったソースを佐助が口にし声を上げた。
「よーし、沢山作るぜ!」
 佐助はハンバーグを次から次へと作っていった。
 フライパンの上で焼く肉の香りが調理室に充満する。
「ぐぅ~」
 自然とお腹の虫が鳴る。主にティリアの……
 そんな時、セレティアが肉の端を切り焼いて味見もといつまみ食いをする。
「思いつきました」
 セレティアはそう言うと材料を集めた。
 カボチャをまな板に乗せ、セレティアは包丁で切ろうとするがなかなか刃が入らない。
「バルトさん〜南瓜が切れません」
 ごんごんと、包丁の刃をカボチャに当てながらセレティアはバルトロメイに言った。
「リンカーの力で切れねェ訳ねェだろうが。力の入れ方が悪いんだ」
 と、言ってバルトロメイはセレティアの背後から手を取り捌き方を手を取り教えた。
「ろりこん?」
 そんな様子を見て静華が首を傾げた。
 バルトロメイ氏、ロリコン疑惑が深まった瞬間であった。
「ん……片づけた、これでいい?」
「おう、リアちゃんありがとうな」
 料理が出来ないリアは佐助が使った調理器具を洗い、片付ける事に専念をしていた。

「……蜂の子……かぁ……よく、人ん家の巣落として……刺されたっけ……」
 ワプスの巣から幼虫を慣れた手つきで取り出しながら燃衣は思い出していた。
「通は……薄い醤油で食べる、けど……初めての人も多いし……」
 味よりは、見た目がダメな人が多いのでそれを考慮しながらレシピを考える燃衣。
「うん……水気飛ばす感じで……カラッとパリッと……甘辛く濃い目に……」
 燃衣は鍋に、醤油、みりん、砂糖、生姜を入れ混ぜてその中にハチの子を入れた。
 ちりちりと音が鍋からすると、醤油の香ばしい匂いが漂ってきた。
「無理! さすがのボクでも虫は駄目だから」
 那美はうねうね動く幼虫と成虫をみて声を上げた。
「勿体ない、虫は栄養価も高く世界の多くの所で食べられているんだぞ」
 と、恭也は力を込めて言った。
 そう、虫を食べるのが当たり前な土地にとっては大切なたんぱく源だ。
「しかも、蜂の子なんて高級食材と言っても良いんだからな」
 熱く語る恭也に那美は両手で耳を塞いだ。

 アンジェリカはスマホ片手に材料を集めていた。
 持っているボウルの中には人参、玉ねぎ、セロリ、ニンニクが入っていた。
「あとは猪の肉だね」
 アンジェリカは柔らかそうな猪肉を取り、まな板の上に置いた。
 先ずは野菜を慣れた手つきでみじん切りにしていくアンジェリカ。
「君のような女性とお近づきになれて光栄だ。今日は美味い赤ワインを酌み交わそう」
 そんなアンジェリカの後ろでマルコは、ティリアの手を取り話す。
「えーと、アンジェリカだっけか、何を作っているんだ?」
 冥人は笑顔でアンジェリカに声をかけた。
「猪肉の赤ワイン煮だよ!」
 と、アンジェリカは笑顔で言った。
「ほう、その赤ワインを使うんだね」
「そうだよ。マルコさんの秘蔵の赤ワインだよ」
 アンジェリカはワイン瓶を掲げた。
「おい、それ!」
 アンジェリカが掲げたワイン瓶を見てマルコは慌てた。
「飲みすぎだから少しは控えないとね♪」
 アンジェリカはウィンクをした。
「ま、良いセンスしてるよ。アンジェリカ」
「でしょ」
 冥人とアンジェリカは顔を見合せて笑った。
「秘蔵の……ワイン」
 そんな2人の前でマルコはうな垂れていた。
 アンジェリカは、底の広い鍋で猪肉をソテーし始めた。
 そこに、秘蔵の赤ワインにブランデーを入れ煮詰め、その中に炒めたみじん切りの野菜、ローリエ、ブラックペッパーに水を加え煮込む。
 仕上げに炒めた角切り林檎と茹でた白インゲンを入れて完成だ。
「うん、上出来♪」
 上機嫌で味見をしているアンジェリカ。
「そりゃそうだろ……」
 まだ落ち込んでいるマルコ。
「まぁまぁ、お望み通りティリアさんと赤ワインを堪能できるじゃない♪」
 と、アンジェリカはマルコに耳元で言った。

「もうすぐ食事だの! 食器は足りるかの?」
 野乃は淡い水色の耳を揺らしながら食器を運ぶ。
「楽しみだね、あ、こっちに一枚」
 そんな野乃を見て槻右は口元を綻ばせる。
 次々と運ばれてくる料理を目で追う野乃。
「まぁ……美味しそうですわ」
 ティリアは笑顔で椅子に座る。
「そんじゃ、いただきます」
 両手を合わせて言う者、神に祈りを捧げる者、それぞれのやり方で命に感謝の言葉を言う。
「料理は良いですね、暖かいものを皆で囲めるのは幸せ、と言うものなのでしょうね」
 しみじみしながら、イザードは料理を口にする。その隣では轍は酒を飲んでいる。
「旨い、むっちゃ旨い……やばい顔が緩む」
 ハンバーグを口に頬張る拓海は満面の笑みだ。
「拓海はこう言うのが好きなのね……」
 と、リサは言った。
「鹿肉とは斯様美味いのか!」
 鹿のステーキを食べながら野乃は声を上げた。
「凄い……ワインの香り凄く良い」
 槻右は料理に舌鼓うつ。
 燃衣は作ったハチの子料理が、亡き母親の味にそっくりで一筋の涙が頬を伝う。
 セレティアは食べながら思い出す。
 「鹿の角が欲しい」と言ったが、猟師にこう言われた。
『お穣さん、返すべき場所に返してあげてください。私達は命に感謝するだけで良いのです』

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 拓海の嫁///
    三ッ也 槻右aa1163
  • 黒の歴史を紡ぐ者
    セレティアaa1695
  • 紅蓮の兵長
    煤原 燃衣aa2271

重体一覧

参加者

  • 希望を胸に
    アンジェリカ・カノーヴァaa0121
    人間|11才|女性|命中
  • コンメディア・デラルテ
    マルコ・マカーリオaa0121hero001
    英雄|38才|男性|ドレ
  • 太公望
    御神 恭也aa0127
    人間|19才|男性|攻撃
  • 非リアの神様
    伊邪那美aa0127hero001
    英雄|8才|女性|ドレ
  • 苦悩と覚悟に寄り添い前へ
    荒木 拓海aa1049
    人間|28才|男性|防御
  • 未来を導き得る者
    メリッサ インガルズaa1049hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • 拓海の嫁///
    三ッ也 槻右aa1163
    機械|22才|男性|回避
  • 大切な人を見守るために
    酉島 野乃aa1163hero001
    英雄|10才|男性|ドレ
  • その血は酒で出来ている
    不知火 轍aa1641
    人間|21才|男性|生命
  • Survivor
    雪道 イザードaa1641hero001
    英雄|26才|男性|シャド
  • 黒の歴史を紡ぐ者
    セレティアaa1695
    人間|11才|女性|攻撃
  • 過保護な英雄
    バルトロメイaa1695hero001
    英雄|32才|男性|ドレ
  • 厄払いヒーロー!
    古賀 佐助aa2087
    人間|17才|男性|回避
  • エルクハンター
    リア=サイレンスaa2087hero001
    英雄|13才|女性|ジャ
  • 紅蓮の兵長
    煤原 燃衣aa2271
    人間|20才|男性|命中
  • エクス・マキナ
    ネイ=カースドaa2271hero001
    英雄|22才|女性|ドレ
前に戻る
ページトップへ戻る