本部

【白刃】連動シナリオ

【白刃】ワンウェイ・トラフィック

昇竜

形態
イベント
難易度
難しい
オプション
参加費
500
参加制限
-
参加人数
能力者
25人 / 1~25人
英雄
21人 / 0~25人
報酬
普通
相談期間
7日
完成日
2016/01/14 18:29

掲示板

オープニング



 大規模作戦の戦場から姿を消したヴォジャッグ。彼が撤退を決断したのは、H.O.P.E.エージェントに想定以上の苦戦を強いられたからだ。だが、それはライヴスを喰らい、自らを強化せんが為……。

「これを放置すれば新たな被害が出るだろう。今なら、大規模作戦での消耗によって配下も少ない状況だ」

 プリセンサーの未来観測を駆使し、H.O.P.E.が総力を挙げて捕捉したヴォジャッグの未来……それは、

「奴は約46分49秒後、明石海峡大橋を通る。幸い俺たちには奴らにはない武器――ワープゲートを持っている。ヴォジャッグを確実に討つには『今』しかないんだ」

 オペレーターの語気は強い。だが消耗したのはH.O.P.E.も同じ……火急の件、人員を割くことは難しい。そこで、少数精鋭によるヴォジャッグ掃討作戦が始動した――。

●>>>一方通行>>>

 姿をくらますのなら、四国へ。その理由は定かではないが、何にせよH.O.P.E.も必死だ。ここで彼を取り逃せば、次に捕捉できるのがいつになるか分からない。

「チッ、奴ら……追跡部隊だけじゃなく待伏せまでしてやがったか」

 兵庫県は神戸市、明石海峡大橋。避難命令によって一台の車もない6車線道路で、巨大な改造バイクを一時停止させたヴォジャッグが行く先を見て忌々しげに吐き捨てた。橋の出口には装甲車両が展開され、H.O.P.E.の迎撃部隊が待ち構えているのが分かる。

「どこまでも……どこまでも愚神様の邪魔をしやがって……! こンのイヌゥゥ!」

 ヴォジャッグの表情は憤怒と憎悪そのものだ。彼は気付いていない、この場さえ凌ぎ切れば自身が逃げ遂せるという、あと一歩のところまで迫っていることに。

「落ち着けい、頭に血が上りやすいのは、お前の欠点だぞ」

 その声に、ヴォジャッグははたと括目した。顔を上げれば、瀬戸内海の空には炎の軌跡を描く巨大な戦牛車が浮かんでいる。鉄輪の慟哭も、魔牛の咆哮も、その主の名も、彼の知己のものだ。

「戦士ヴォジャッグが兄弟ヨウケル、窮地と聞いて馳せ参じた」

 ヴォジャッグにも劣らぬ巨躯を持つ野蛮なる愚神ヨウケル、彼は四国に縄張りを持つケントゥリオ級だ。これまでH.O.P.E.に対して表立った敵対行動を取ることはなかったが、愚神ヴォジャッグの死は彼にとって見過ごせないもののようだ。

「ヨウケル! まさか貴様の手を煩わせることになるとはな……」
「勘違いするなよヴォジャッグ、お前が将来有望だと思ってのことだ。なに、ことは容易い。そこな人間共を軽く蹴散らしてやればよいのだろう」
「ああ、そう、か。そォォだなァ。貴様が加勢したとなりゃ俺様の勝ちは決まったようなモンだ!」

 一時は我を忘れたヴォジャッグだが、弟分の登場で再び余裕を取り戻したようだ。彼は配下を振り返り、自信たっぷりに言い放つ。

「オイ、てめぇら! 俺様があのクサレ待ち伏せ部隊をミンチにする間、後ろのイヌ共と戯れて時間を稼ぎな!」

 足止めを命じられた朧族は次々にバイクを反転させ、橋を渡ってくるエージェントたちの方へ向かった。轟きをあげる戦牛車もそのあとを追う。

「すぐに追いついてやろうヴォジャッグ。10分とかかるまい」
「ク~~ッ、グアンナドリガの血飛沫繚乱コースかァ?! クソイヌ共がおったてられてピーーピー泣き叫ぶのが目に浮かぶゼァ!!!」

●>>>明石海峡大橋・中央径間>>>

 ヴォジャッグ挟撃が成功した! 奴を橋上に追い込み、前後にエージェントを配置することができたのだ。あなたたちが眼前の敵を追い詰めたことを確信した刹那、それは現れた。

「……追い詰めた、だと? ククク、笑わせる」

 炎と共に飛来した巨大な戦牛車はあなたたちの乗ったバイクより後方に降り立ち、現れた野性的な長髪の大男はエージェントを見渡して低く嗤う。気が付くと、行く先からは朧族が続々と集結していた。挟み撃ちにあったのはH.O.P.E.も同じということだ。

「うぬらの考えなど水鏡よ。あやつはこのヨウケルが兄弟と認めた男ヴォジャック。美しき戦闘狂、頭の軽い売女……どれも奴の実力を引き出すには役不足だったというだけのこと」

 ヨウケルは遠く生駒山の方向を見て鼻を鳴らす。なかなか面白いことを考える輩であった。だが、彼らは敗北した。やはり最も強いのは生に執着する者……ヨウケルとその兄貴分ヴォジャッグこそ最強の戦士なのだ。

「愚神の強さを証明してやろう。か弱き人間よ、ヴォジャッグの許には行かせぬ。我が戦牛車『朧車』の前に散るがよい」

解説

●20ラウンド以内により多くの敵を倒せ!
敵の目的は時間稼ぎです。残った従魔は連動シナリオに増援として合流します。

●状況は挟み撃ち
背後から朧車が迫り、前方では朧族が突破を阻みます。戦闘エリアは橋上(広さ200×6スクエア)と非常に狭いです。PCには一台ずつバイクが貸与され、+5の移動力ボーナスを受けます。

●敵構成
ケントゥリオ級愚神「ヨウケル」×1

・闘気を飛ばす2回攻撃「指弾」
 物理、射程~8、BS『衝撃』(特殊抵抗による抵抗ロール有)(各判定は2回行う)
・貫通攻撃「指突」
 直線2スクエアに効果、BS『減退』
・伸縮自在の頭髪「触手」
 カウンター攻撃、または防御で使用
解説
世紀末風のモンク。移動力は並なので朧車に乗って戦う。(朧車に防壁などはない)

デクリオ級従魔「朧車」(グアンナドリガ)×1

・移動中に接触した対象に魔法攻撃判定(ノックバック有)が発生する「炎輪」
・5ラウンドの間通過したスクエアを炎上させる「炎轍」
 炎上スクエアに侵入した対象にBS『減退(Xd6)』を付与する。Xには侵入回数が代入され、BS回復時に0に戻る。この効果による生命力減少は移動直後に発生する。この効果は他のBS『減退』より優先する。
・5ラウンドの間移動力が2倍になる「拍車」
解説
大型(2×2スクエア)。移動力が高い。
魔牛4頭引きの戦牛車。御者の代わりに付いている乱れ髪の巨大頭が制御を行う。魔牛の手綱は髪の毛製(切れてもすぐ再生する)。魔牛単体でもデクリオ級相当。小回りはきかない。

デクリオ級従魔「朧族」メイスタイプ(前衛/物理攻撃特化)×7
           クロスボウタイプ(後衛/物理攻撃特化)×7
           アーマータイプ(前衛/カバーリング特化)×7

・移動中に接触した対象に攻撃判定(ノックバック有)が発生する「ロードキラー」
解説
改造バイクに乗った首なし骸骨。バイクと骸骨で一体。

リプレイ

●>>>

 迫間 央(aa1445)の手に捕まっていた光の鷹が飛び立ち、羽ばたく度に水のゆらめきのような幻想が舞った。マイヤ サーア(aa1445hero001)は共鳴中の迫間の視界に全長210センチのオートバイに跨る彼自身を見て言う。

『央ってバイクの運転も出来たのね』
「盗まれちゃってから買い直してないだけだよ」

 そう苦笑する迫間は支給品のジェットヘルメットを取り去った。中型バイクを選んだ理由は免許の事情もあるが、状況は戦闘の可能性が濃厚。彼の獲物は日本刀だから、片手運転での戦闘を考えれば大型より取り回しがいいのだろう。

(こんなことでもなければマイヤとタンデムも楽しめただろうなァ……)

 迫間はやれやれと息を吐いた。目を瞑ると、上空の鷹の目から戦域全体が視野に入る。状況を意識しつつ、彼は前方の朧族に向き直った。その背後で設楽(aa2134)が黒い大型バイクを切り返し、同乗者に降車を促す。広い後部座席で彼に捕まっていた女子高生は小さく愚痴った。

「さ、三堂君。降りなさい」
「設楽先生。もーちょっとこのままがよかったのに……」
『藍佳、それどころじゃありません。行きますよっ!』

 幻想蝶の中からマリク・レイドル(aa1351hero001)に急かされ、三堂 藍佳(aa1351)は渋々路上へ。父親程に離れた男性とのタンデムは不思議な感じだったが、悪くなかった。しかし、このままでは戦えない。彼女がフルフェイスヘルメットを外してその場に投げ捨てると、外ハネの強い茶髪がハラリと腰のあたりまでを覆い隠した。

「よし……マリくん、気合い入れていくよ」

 シンクロドライブ――放たれる光が三堂を包むと、その髪は雛を思わせる淡い金色となる。橙の瞳がゆっくりと開き、額には英雄と同じ花緑青の水晶が光る。橋の向こうで、友達が戦ってる。あたしも、みんなの力になりたい。彼女を支えるのはそんな想いだ。三堂と別れた設楽が少しバイクを進めると、白銀の鎧を纏った赤城 龍哉(aa0090)の姿が見えた。

「君の獲物は……尋ねるまでも無い様だ」
「ああ、奴は俺らを罠に嵌めたつもりらしいが」
『それが勘違いだったと判るように、喰い破って見せるまでですわ!』
「良く言った。そうこなくっちゃなぁっ!」

 重量級デュアルパーパスタイプに跨った赤城はヴァルトラウテ(aa0090hero001)の声にそう応え、迫り来る愚神ヨウケルに備えた。設楽の黒いフロックコートは海風に靡くが、本来騎馬を想定して作られた襟高故か寒さは感じなかった。いや、少し若返った気がするせいだろうか。共鳴状態の彼の髪色は灰から黒に戻り、顔の傷も消えて実年齢通りの外見と言ったところだ。

(私の誓約は君たちの力になってこそ果たされるもの)

 設楽は友人より後方に陣取り、彼と同じ標的を見やる。

「彼らの登場はこの場限りとさせて貰おう」

 赤城と背中合わせの御神 恭也(aa0127)は奇襲に近いこの状況にも冷静だった。伊邪那美(aa0127hero001)は愚神たちが一枚岩でないことに気付いたようだ。

「まさか、此方が挟撃を仕掛けられるとはな」
『最後の悪あがきって感じじゃないね』
「だが、この一戦が終われば一息つける。片が付いたら祝杯でも挙げるか?」
「おっ、いいなそれ! なら、まずは勝たなくちゃな!」
「仲間の背を守り、守られか。負ける気がしないな」

 返事をしたのは赤城と、御神の横にいる流 雲(aa1555)。既にフローラ メイフィールド(aa1555hero001)との共鳴状態にある彼の口ぶりは普段聞くことのできないクールなものだ。どうして彼らはこんなにも落ち着いていられるのか、それはカグヤ・アトラクア(aa0535)が事前にこの状況を予見していたところが大きい。

「カグヤの知略が味方にある。それだけで不思議と不安はないな」
「ふん、追撃戦で敵の後攻めを警戒せぬ馬鹿がいるものか。この程度は想定内じゃ。連携という技術を持つ人の力を教えてやろう。雲、近う寄れ」

 彼らは大規模作戦で共に戦った仲間同士。前線へ出る流に、カグヤは黒い機械の義手を差し出した。

「戦車の突撃は防げぬ、まずは足を潰してからじゃ。誰も死なせぬように思考し支援しよう……好きなだけ戦うといい。信頼しているぞ」

 流の足元には光の魔法陣が浮かび上がる。その光は彼の身体を癒し続けるだろう。クー・ナンナ(aa0535hero001)はいつになく楽しそうに趣味全開の召喚者に辟易する。彼女の二輪車は日本刀をモチーフとしたエッジの利いたデザインで、見た目だけでなく基本性能の高さで伝説と言われた大型バイクだ。

「完全な挟撃となる前に前後に部隊を分けるのじゃ。わらわたちは後方愚神方面へ行くぞ」

 カグヤは即座に戦術を判断し、声を出して皆を指揮した。前に出る流の心中は、共鳴中のフローラに筒抜けだ。

(仲間は守る。それが知り合いなら尚更)
(腕と戦って重体になったばかりなのに。お願いだから自分の事も守って?)

 他人の事になると自身を顧みない流だから、フローラは彼を支え、守りたいと思う。彼らを結ぶ絆の深まりは既に最高潮だ。彼のバイクは迫間と同じ低重心で扱いやすい中型、背に浮かび上がる6枚羽根のオーラは白いバイクと彼の服と相まって天馬を思わせる。流は背を向ける御神と鋼野 明斗(aa0553)に声をかけた。

「今回は背中、任せてくれ。特に明斗は、大規模の時みたいな無茶はしないでくれ」

 ビッグスクーターに英雄と二人乗りする鋼野は手を振って応える程度だ。御神も同様。二人とも、多少の無茶を厭わないつもりでいるのだろう。流は苦笑して前方を向き直った。轟きをあげる戦牛車が迫っている。感覚が研ぎ澄まされ、高速化する思考処理が視界で捉える状況変化を凌駕する。そうなると、眼鏡は邪魔だ。彼はそれを外してジャケットの襟に掛けた。

「先に往く。一二三、キリル。後は任せる。……カトレヤも。お前の背中、預かった。俺の背中はお前に預けるせ」
「ああ、こっちは任せや。……頼んだで」

 弥刀 一二三(aa1048)はそれに応え、カトレヤ シェーン(aa0218)も深く頷く。彼らには作戦があり、協議も済みだ。弥刀は路面追従性・ハードブレーキング・コーナリング時の安定性スタビリティー等にこだわったバイクを使用している。

「奇襲あるてハッキリ分かっとったらキャブレターにリアサスとか改造して前後ろに足掛けて攻撃できるようフック付けたり、荷重分散用パーツ取付けて操作性に影響ないようしたりできたんやけどな。眼筋で操作可能パソコンの応用で体機械部とメットに無線の装置もええな」
『分からないから奇襲なんだろう』
「せやかて……」

 ツッコミを入れるのは共鳴するキリル ブラックモア(aa1048hero001)。彼女が辟易する様子に、弥刀はやる気を上げねばと市街地の方を見て言う。そうしなければたちまち魔法少女戦隊のレッドに変身してしまうからだ。

「あー、神戸て洋菓子で有名なんやてなぁ……美味い店、仰山あるんやて」
『む……それはいいな』

 彼はなんとか男の姿を保てそうだ。しかし、終了後誓約のために空の財布をさらに叩くことになるのは間違いないだろう。赤毛に英雄の銀髪が混じる彼の長い髪が、後部座席の三ッ也 槻右(aa1163)の頬をくすぐる。

『やれ、ちぃっとばかしキツイ状況じゃの』

 その心に語りかけるのは酉島 野乃(aa1163hero001)。対する三ッ也が狐耳をぴくぴくさせて少し楽しそうなのは、彼が不敵でポジティブな英雄の影響を色濃く受けるためだろう。作戦通り弥刀と反対向きにシートに座り直し、彼は袴の脚を相方の脚にがっちりホールドした。

「ええか槻右」
「ああ」

 彼の運転に全幅の信頼を置いていなければできない試みだったろう。三ッ也のふさふさの尾が弥刀に当たる。彼らは愚神方面担当だ。明るく振る舞っていても、弥刀の意思は強い。意地でも敵を全滅させる……その為の怪我は辞さない。彼は皆から集めたサンタ捕縛用ネットの袋を握りしめた。鶏冠井 玉子(aa0798)もどこから借りてきたのか出前仕様バイクを駆り、彼らと同じ方向を向く。

「ぼくも朧車を狙おう。魔牛の味は如何なるものか――味わわなければなるまい。そのために仕留めなければなるまい。この鶏冠井玉子、未知なる食材を得るために存分に戦おうじゃないか!」
『……』

 彼女の目的も敵を倒すという点では皆と変わらない、共鳴するオーロックス(aa0798hero001)は相変わらず無口だ。後方対応は十分と判断した水瀬 雨月(aa0801)は彼女たちとは反対へ。

「それじゃ、私は前方のお相手に回るわ。挟み撃ちとは相手も知恵が回るのがいたのね。えーと……役者不足と言いたかったのかしら、役不足では意味が違うのだけど」

 そんなことでは敵の知恵とやらもたかが知れるというもの。鋼野とドロシー ジャスティス(aa0553hero001)も同じ考えだ。ドロシーはスケッチブックの使い古されたページを素早く開く。

「少々味方が現われたからと現金ですね」
『モヒカンだから!』
「まあ、頭の弱そうな方でしたし」
『モヒカンだから!!』
「では、そろそろ始めますか」
『モヒカンに死を!!!』

 高らかとスケッチブックを掲げたドロシーはそのまま共鳴状態に入る。光の風が過ぎ去ると、鋼野は英雄を思わせる長い金髪と碧眼に変化、普段のやる気のなさそうな雰囲気は消え去り冷静な表情を湛えていた。先端が嘴を思わせる長槍も召喚され、それを華麗に振るう。黒いTシャツの上に装着された胸あてとガントレットががしゃりと音をたてた。

『落ち着け理夢琉。状況が変わっても敵を倒せばいいんだ』
「……そうだね!」

 斉加 理夢琉(aa0783)にアリューテュス(aa0783hero001)が語りかける。彼女は前後の状況を知って動揺していたが、事前の予測や、先の依頼で再契約を交わした英雄の言葉を聞いて平静を取り戻した。戦うのはもう、独りではないのだ。一緒に戦い、互いを信じる。それが新しい誓約。

『あのでかいの、止めるぞ!』
「うん! 絆を信じて」
「『リンク!』」

●>>>スクランブル>>>

「日常を守るためにも……あなた達にこれ以上何も奪わせたりしません! 絶対にここは通さない!」

 葛井 千桂(aa1076)は四国方面のサポート役として参加していた。誰かの笑顔を守ること、それが彼女の誓約だ。バイクに乗れない彼女は三輪バイクを選択、後部座席に転変の魔女(aa1076hero001)を乗せて戦いに臨む。熱い想いを胸に秘める彼女と違い、灰川 斗輝(aa0016)はいつものように事務的に、魔法の本を召喚した。

「潰せばいいだけだろう」

 彼が依頼を受けて愚神や従魔を倒すのは、息をするように当たり前のことだ。彼らが相対するのは追っていたはずの朧族、だが今奴らは後方からの追撃を援護する障害と化している。メイナード(aa0655)の迷案に、喋る義手と化したAlice:IDEA(aa0655hero001)は呆れ顔。

「なに? 敵が進路を塞いでいる? 逆に考えるんだ。突っ込んじゃえばいいさと考えるんだ」
「まーたおじさんが頭おかしい事言い出しましたね……」
「上等だ! 燃えるシチュエーションだぜ!」
『望むところじゃ!』
「……え、冗談ですよね?」

 乗り気のカトレヤはツアラータイプの大型バイクを鋭く切り返してきて、メイナードに強化魔法を使った。そしてけたたましい爆音をあげる朧族を見る。無骨なバイクのシートに虎紋化粧の褐色の肌が直接触れている。共鳴する王 紅花(aa0218hero001)の趣向顕著な青い軍服、スカートの布地は申し訳程度だ。彼女が右手を振り上げ、朧族を振り示す。

「前方は、このまま突っ込むぜ! 我もと思うものは、付いて来な!」
『いくのじゃ、皆の衆!』
「っし! どうせやるなら……競争でもすっか! 行くぜメイナードのおっさん!」
「ハハハ、聖君。おじさんに勝てるかな?」

 東海林聖(aa0203)はそう言うが、実際は共闘が楽しみだ。例に漏れず子供に好かれるメイナードもそれが分かっていて笑顔で応える。超法規措置によって東海林が合法的に乗るバイクだが、勘で動かしているにしては運転は上出来だった。Le..(aa0203hero001)もその良きブレーキとなる。

「へっ、全滅させてやるぜ!」
『……ヒジリー囲まれない様に気を付けて……直ぐ油断するんだから』
「逃げる敵を倒すってのは性に合わないと思ったけど。なんだ、向かってくるのも居るじゃない。そうこなくちゃやる気がでないよ」

 彼と同い年くらいの鳴神 命(aa0020)もバイクを弄りながら言う。足が地につかないくらいの大型で、型落ちだがパワフルだ。共鳴するランドルフ ベルンシュタイン(aa0020hero001)は鳴神よりも狡猾な様子。

『一方的に狩り立てる方が楽なんだがな……』
「……これ、壊れたら弁償なのかなぁ……」
「後の被害を減らすためだ、そういう考えはゴミ箱に放り込んでおけ」

 心配無用、もともと戦闘用として貸し出されたバイクに弁償というリスクは起こり得ない。彼らよりずっと幼い獅子ヶ谷 七海(aa1568)が乗るのはビッグスクーター。バイクは彼女には乗りこなせそうもない。しかし、中身は五々六(aa1568hero001)だ。

「ハッ、この俺がチンケなマシンたぁな」

 強引ながらその運転は乗りこなしていると言っていいだろう。浮かべる笑みは少女のそれではなかった。そしてレヴィン(aa0049)の口上が始まる。マリナ・ユースティス(aa0049hero001)は遥か橋向こうにヴォジャッグを見ている。

『私達は断罪者……正義の名のもとに、あなた達の罪に終止符を打ちます。お覚悟はよろしいですか?』
「てめーらの悪事もここまでだぜ! 冥土の土産にこの俺の最ッ高にイカしたチェイスを見せてやっからよ、とくとごろうじなァ!! ……つーか、バイクに乗って戦う俺マジでカッコいいな!! こんなにバイクが似合うたぁ罪だなぁオイ! こいつぁいつも以上にやる気も出るってもんだぜ!」
『うるさいですよ! くだらないこと言ってないで集中してください!』

 アメリカ式を駆る銀髪イケメンまではいいのだが、残念至極だ。彼らがアクセルを全開にすると、小気味よいエンジン音が冬の明石海峡に響き渡った。カトレヤのバイクは凄まじい速さで飛び出し、追撃部隊の先頭へ躍り出る。王が叫ぶ。

『Go! Goじゃ!』

 さらにスピードを上げ、前傾姿勢をとり、朧族軍団に突っ込んだ! クロスボウを持った個体は射程内に入ったカトレヤを狙って矢を放つが、彼女は承知の上だった。過去に幾度と無く経験してる上、来ると分かっている攻撃だ。そんなものは恐くない。

「『ウォォォォォ!!』」

 衝突する! その瞬間、カトレヤは跳躍しバイクから離脱した。朧族は直前で回避行動を取り直撃を免れたが、後輪に衝撃を受けて派手にクラッシュ。後方回転で受身をとったカトレヤは見事に着地し、幻想蝶から素早く長槍を取り出した。獲物を高く掲げ、朧族を指し示す。戦の始まりだ。

「『ぶっ潰せ(じゃ)!』」
「よっ、と!!」

 鳴神もバイクをフルスロットルで朧族へ突撃、衝突の瞬間にジャンプ! ターンして横腹でぶつかった敵など、彼には止まって見えただろう。空中で大鎌を取り出し、落下の勢いもそのままにそれを薙ぎ払った。女性顔負けの艶やかな黒髪一つ結いが風に舞う。

「ははぁぁぁ」

 獅子ヶ谷も向かってくる敵に対し、速度を緩めず特攻。接触手前で飛び降り、倒れたバイクは凄まじい質量で朧族を襲った。横転した相手から先手を奪うなど造作もない。幻想蝶より引き出すは黄金の獅子を象った赤色の大剣。身長より巨大な剣を軽々と振るい、彼女はホッケーのパックように従魔を吹き飛ばした! 後続の朧族はそれに激突、盛大にクラッシュする。犬歯を剥き出し、狂的で獰猛な笑みを浮かべているが、その姿は愛くるしい二つおさげの少女だ。

「おらァ!!」

 ゴガァ!!! 鈍い音がしてまた一体の朧族がクラッシュ、アスファルトにザザザと長い痕が付く。 レヴィンは本来両手持ちの大剣を片手で扱っている。少々動作緩慢だが、機動力の高い騎乗戦では大きな問題ではない。それに敵の武器よりもリーチが長く、彼はしばし無双状態だった。

「はああッ」

 ガシャア!! それはメイナードのバイクが敵の横腹に乗り上げた音だ。流石はヨーロッパに名高い軍用アメリカン・バイク、敵の勢いを殺し、それを越えていく。衝突の勢いを利用した跳躍は目を見張るものだった。敵集団を飛び越え、反対側へ着地していく。彼の行動は大いに敵の注意を引き、範囲内の朧族はメイナードに狙いを定めた。

「文明の利器とはな、こうやって使うんだ!」

 違います。しかし、彼は狙い通り一団に本隊から背を向けさせる事に成功した。あとは耐え忍ぶのみ。カトレヤが悔しげなので、王は彼女を宥めた。

「クソー! 背中はまかせな。って俺のカッコイイ台詞を奪いやがって!」
『ハッハッハッハ、よいではないか! 援護はドンっと任せるのじゃ!』
「ああ、そうだな! まずは弱体化だぜ!」

 彼女が長槍の柄で地面を小突くと、そこからぎゅるりと魔法陣が浮かび上がった。結界は橋全域を包み、この中で彼女に敵意を持つ者は特殊抵抗力が低下する。カトレヤは仲間の援護を重要視し、特に、早速朧族から集中攻撃を受けているメイナードへ回復魔法を切らさなかった。

「大丈夫かー!!」
「まだまだ! 回復、痛み入るよ!」
「ホントに、ホントにもう! おじさんもあのモヒカンに負けないくらいおバカさんですよ!」

 メイナードのロールは正にタンク、徹底した身体作りは10体以上の朧族の猛攻に耐え得るものだ。義手イデアは怒っているが、彼の言い出した神風特攻は攻撃の切り口を作る目的を十分に果たした。

「流石に頼もしい感じだぜッ!」

 彼らと同時に飛び出し、早い段階でバイクを捨てた東海林は近くにいた――カトレヤが転ばせた敵に的を絞る。手にするは2メートル近い長柄血色の大剣。彼が溜めに入ると、その周囲を萌葱に輝く光の風が舞う。力が最高潮に達した瞬間、東海林は斬りかかる!

「幅の狭い橋の上、進路も先読みしやすいな」

 灰川は特攻班が出た直後、魔法の詠唱を開始していた。味方の間を縫って迫りくる敵の動きなど予測も容易い。彼の放った魔法の風は道を塞ぐように発動し、急ブレーキを掛けた従魔は止まりきれず横転した。抜けてきた朧族も、灰川の火炎魔法を回避して期待通りの軌跡を描く。彼は味方に有利になるよう敵を誘導していたのだ。その先には小型バイクを停めた佐藤 咲雪(aa0040)が待つ。

『咲雪、骸骨には投擲ナイフでは効果が薄いわ。本体より、ホイールの隙間に狙いを定めて。バイクの構造上、うまく引っ掛かればタイヤがロックされて走れなくなるわ』
「……ん、わかっ、た」

 アリス(aa0040hero001)の助言に、佐藤は頷く。それは一瞬にも満たない時間で交わされる会話。処々途切れるくらい、彼女は会話が苦手のようだ。至って普通の巨乳美少女と見せかけて、実は極度のめんどくさがりである。

「でも、めんど……くさい」
『こら、咲雪!』

 佐藤が気だるげに半目だけ開けて無気力に言うので、苦労する姉よろしくアリスの説教が飛ぶ。印象的な紅蓮の瞳には、アリスによって示し出される敵の進路予測や投擲軌道が見える。彼女がかつて搭載された機動兵器のインターフェイスを、アリスの演算能力で疑似再現したものだ。行動補正はアリスが担い、佐藤のする事はタイミングを読むだけ。

「……ん、今」

 佐藤が投擲したナイフは、見事従魔の前輪ホイールに挟まった。瞬間、朧族はつんのめり、機体ごとでんぐりがってガシャアと倒れる。だが本来、只の女子中学生である佐藤に戦闘能力は欠片もない。ベテラン同様の能力を発揮できるのはアリスのサポートによる所が大きい。バイク車種に耐久性に優れた製品を選ぶあたりも彼女のチョイスだろう。それでも走行中のバイクのホイールの隙間を狙うことはまずもって不可能だが、灰川が従魔を誘導してくれたために今回はうまくいったようだ。転倒した朧族は灰川の魔法の剣によって倒される。

「やることやって金さえもらえれば、それでいい」

 彼は矜持に従い、乱戦を防止するため前に出すぎず後方支援に徹した。彼らが守るのが最終ライン、前線との間では御神が戦っている。彼は戦闘開始と同時にバイクで敵に接近、その後は足を捨てていた。素早い三連斬りで既に1体を屠っているが、期待したほど連鎖的には倒せていなかった。朧族はすばしこく、捉えるのが難しかったのだ。彼は逆に2体から囲まれつつある。

「意外に敵陣の層は厚いか……時間は掛けたく無いな」
『単純計算で此方の倍だもんね。簡単には突破出来ないよ』

 伊邪那美の言うように敵は20体以上。包囲しているのはアーマー型、それからメイス型だ。遠隔攻撃主体のクロスボウ型は前線を遠巻きにしている様子。御神はすれ違いざまに振り抜かれる棍を大剣で受け流し、カウンターで剣身を打ち付ける。敵はよろめいたが、こんなことでは次々に倒せない。御神は2体が挟撃に出たタイミングで、防御ではなく攻撃に走った。骸骨は武装ごと頭を砕かれ、操縦を失った身体は橋壁に激突して大破する。しかし、もう一体の唸る前輪が彼に迫る!

『恭也!!』

 伊邪那美は叫んだが、瞬きの間で朧族はウインカーからガスタンクを切り裂かれ、御神の背後でクラッシュののち粉微塵に爆発した。爆風を浴び、御神の黒いコートがばさばさとはためく。

『ちょっ、無理しすぎだよ!?』
「少しでも数を減らすにはこれ位はしないと不味い」

 それより前方では鳴神が3体の従魔を同時に鎌で横薙ぎにしたところだった。しかし倒しきれていない。鳴神は残敵へ飛び掛かり、体重を乗せた一撃で背後から襲う。ドゴォと金属同士がぶつかる音がして、朧族は横転。そこへ鳴神がとどめの一撃を放つ。

「あと2体……」

 まだ動いていたのがいたはずだ。彼が振り返ると、レヴィンが華麗なコーナリングと大剣捌きで従魔を仕留めていた。もう1体は傷が浅く、既に御神の方へ走り出している。

「そうはいくかよ!」

 バイクに乗るレヴィンは朧族の機動力とも渡り合うことができた。すぐに追い付き、背後から一撃。さらに音をあげて転がる従魔を追いかけ、車上から地を裂くように大剣で追い打ちをかける!

「手ごたえのねぇ連中だな、そんなもんじゃちっとも満足できねぇぜ!」

 ザシュッ――ドガン! 背後から吹き付ける爆風に白藤の瞳が得意げに笑う。鳴神はまだ車のことが気になるようだ

「なんとかひと段落だね? バイクの状況は……」
「あの勢いだ、ぶつかっていなくてもろくなことにはなってないだろうな」

 橋上は朧族の残骸も増え、どれが変わり果てた味方のバイクかも見分けがつかなくなってきた。東海林は2体の従魔が自身を轢き倒そうとしているのに気付く。

「んじゃ、ちょっとリミッター解除でもすっか……」
『ルゥ、それ知らない……変なコトしたらおこるよ……? 修業割増の刑……』
「それはやめろ! ……癪だが、爺の得意技だ」
『……アーマー型、くるよ……あっちが指揮してるみたい』

 彼は祖父と仲が悪いのだろうか。東海林はルゥに聞いて、まずアーマー型を狙った。彼女はいつも彼にそうした助言をくれる。東海林は突撃を敢えて避けず、大剣を斜めに構えて迎え打った。従魔は衝撃と共に剣に乗り上げ、飛び越えて反対に落下する。上手く受け身を取れず、数メートル先で横転する朧族。

「いくぜ!」

 東海林は気を練り、残されたメイス型を見た。大剣を換装、漆黒に金装飾の光る巨大な斧を召喚。朧族がその雷光の如きオーラに畏怖する感性すら持ち合わせていなかったのは憐れむべきことだ。いや、統率者がやられたせいか。

「くらいやがれッ! ――型……時雨!!」

 ライヴスを纏った全力の一撃は次々に2体の従魔に降り注ぎ、それらを粉砕した。ほぼ同時に、後方から水瀬が叫ぶ。

「東海林さん、避けてッ!」
「うおっ?!」
「おお悪い!!」

 ブンッブンッと彼の目の前を通り過ぎたのは朧族とチェイスを繰り広げるレヴィンだ。水瀬は自身が激突に注意して援護に徹していたので、危険を察知することができた。彼女がいなかったら東海林は2台にぶつかっていただろう。

「大事にならなくて良かったわ……それにしても、頭部に当てるのは難しいわね」

 彼女は火炎魔法で従魔の視界を奪うことを試していたが、風魔法を使って揺さぶりを掛けた従魔には命中したものの、その他は違う部位に当ててばかり。しかし、水瀬は大きな仕事を為している。それは早い段階で遠隔攻撃を止めたことだ。誰もが目先の近接型に気を取られる中、彼女は遠くの敵に狙いを定めていたのだ。これは全体の被害を著しく低く留めただろう。水瀬は残っているクロスボウ型を標的とし、黒鉄の杖を振りかざす。ライヴスを込めると、柄の刻印が闇月の光を放った。三叉の杖の先で羽根を広げたのは、黒羽の大きな蝶。

(今なら、当てられる)

 敵は他の味方を狙い、こちらに気付いてない。蝶はひらりと舞い上がり、ほの青いりんぷんを撒き散らして襲い掛かる。触れた瞬間、朧族は身体の自由を奪われてドサリと地に落ちた。これはライヴスを封じ、生命を奪う魔法の蝶。突然バイクが動かなくなり狼狽する従魔を、水瀬の放った魔法の光剣が次々に刺し貫いた!

(数だけは一人前ですね)

 前線右翼、後方。鋼野は水瀬や他の味方が弱らせた敵を優先して攻撃、確実に敵の数を減らしていた。彼の前方で戦う鳴神が1体の従魔に無傷で横を抜けられ、慌てて振り返る。そこへ葛井が三輪バイクで乗り付けた。

「ごめん、一匹行った!」
「構いませんよ。傷が無ければ作ればいいだけです」
「あと数体です! 鳴神さんは、チョコレートどうぞ!」
「わ、ありがとう……ちょっとくらくらしてた」

 鋼野は葛井が鳴神に対応するのを確認し、新しい敵に矛先を向ける。バイクを操り、正面を裂けて横をすれ違うように接近。騎馬戦よろしく、こういう時リーチの長い槍は使いやすい。彼の一撃は疾風の如く敵を貫き、朧族に多数の裂傷を与えた。この技で付けられた傷は癒えることなくその体力を奪い続ける。葛井もそれを抜きざまに、魔女に攻撃を呼びかける。

「今です!」
「えいっ!」

 斬り付けられた従魔は体勢を崩した。本来共鳴しない英雄の攻撃は従魔にまるで効果がない。しかし、魔女の薙刀は双方がバイク走行中ということもありそれなりの威力を発揮したようだ。

「技術は素人でも相手を信頼しているからこそできる戦い方があるのです。だから、私達は負けません」

 それが彼女の矜持。葛井は戦場を駆け回って全体の状況把握と支援に努め、魔女とは魔法を使うときだけ共鳴した。乱戦において戦況の如何を知ることができたのは心強いことだっただろう。カトレヤが展開した弱体化結界が消えれば、葛井がすぐに張り直した。

「このあたりは片付きましたね……では、あれを追いましょうか」

 鋼野は自分たちを無視して前線へ逃げる敵を追い、ハンドルを握り直す。そこへ、獅子ヶ谷が鬼神の如き勢いで突進してきた。彼女は腰を低く構えて地を這うように駆け、バイクの残骸の影から飛び出して従魔を襲う。

「アーーーハーーー!!」

 獅子ヶ谷は最前線、守りの要であるメイナードに近付く敵を優先して排除してきた。勢いの乗った一撃で朧族は体制を崩し、その隙に鋼野が彼らに追いつく。

「はっ!」

 背後より一閃。鋼野の戦法は水に流れる柳葉のように掴みどころのない戦い方だ。そして獅子ヶ谷が追い討ちをかける。彼女を、いや、彼を駆り立てるのは、愚神とそれに連なる者どもへの復讐心。その強さは彼を英雄たらしめるほどの。復讐鬼と化して、五々六は敵を屠ることを楽しむように剣を振るう。

「ヒーーーイャァァ!!」

●>>>3分前、本州方面>>>

 九字原 昂(aa0919)はまだ戦闘音の聞こえない後方と、炎と轟音を巻き上げる前方の戦牛車をちらと見た。その心中で、ベルフ(aa0919hero001)が飄々と言う。

「さて、追い詰めたと思ったら追い詰められたね。だが、向こうも追い込まれている事に変わりない。あとはどちらが先に音を上げるかだ」
『なに、教えた通りにやれば問題ないぜ』

 彼にとって英雄は密偵、あるいは暗殺術の先生だ。成果を発揮する機会がやってきた。なお、前後班分けは九字原の方針でもある。混戦状態になる前に綺麗に分かれられたのは彼の働きによるところもあった。少し前までエージェントとは縁遠かった九字原だが、そのよく回る頭を鑑みるに素質は十分だったのだろう。ベルフの安心した口ぶりからもそれは予想できる。耳ざとい愚神ヨウケルは九字原の言葉を拾ってせせら笑う。

「音をあげるもなにもない、我らは時間を稼ぎに来たのだ。うぬらの敗因を教えてやろうか」
「うるせぇ! 向こうにいる彼達の邪魔はさせない!」
『にゃ!』

 谷崎 祐二(aa1192)が叫ぶ。英雄プロセルピナ ゲイシャ(aa1192hero001)の言葉は彼にも理解できないが、そうだ! と言いたいらしい。彼らの友人は橋の先で戦っている。この場にいる者は、迎撃部隊25人の背中を預かる者だ。

「そ、その雄弁も手のうちですね……思い通りにはさせませんよ!」
『クワハハハ! 待ちに待った愚神の首、必ずや討ち取ろうぞ!』

 初の大人数作戦に緊張する比良坂 蛍(aa2114)だが、共鳴する黒鬼 マガツ(aa2114hero001)は高揚している。曰く、共鳴とは高揚・陶酔・カタルシスが一挙に迫ってくるような何とも言えない快感だそう。

「気の早いイヌ共よ……」

 ヨウケルが言い終わるより早く、流のバイクが群を飛び出す。深まるリンクに、右手は白いオーラに包まれる。その手に現れるのは聖剣魔剣双方の伝承を持つ両刃の剣。

「ヴォジャックにすら劣るお前達に用はない、どけ!!」

 振りかぶる流の右目は英雄の翡翠、自身の碧眼は紫のオーラを帯びて、倒すべき敵を前に闘志に燃える。しかし、剣の切っ先は愚神に届く寸でのところで止まった。剣身に絡みつくのは太くつやつやした触手――ヨウケルの髪の毛だ。愚神は動かない剣を力任せに振り切ろうとする流の、風に靡く黒い長髪を見て言う。

「いい髪だ……だが、きゅ~てぃくるでは負けんなぁ」

 ヨウケルは剣ごと流の身体を持ち上げ、それをブンと放り投げた。流は受け身を取り、すぐに立ち上がる。ねじ伏せ甲斐のある敵に、愚神は片眉を吊り上げた。これは挑発、流の企みは巧くいったようだ。彼に目配せされ、九字原と谷崎は頷く。

「ここで3分楽しくお喋りしても良かったのだが……気が変わった」

 ヨウケルがそう言うと、クアドリガの御者――従魔・朧車が頭をもたげる。手綱が操られ、4頭の魔牛グアンナが雄叫びをあげた。

「来い人間!」
「食らえ愚神!」

 流が正面から突っ込んできたので、愚神は彼に目を奪われた。ところが流は直前でタイヤを流し、鋭いコーナリングを決めて方向転換。

「なにッ?!」
「先手は貰った!」

 魔牛に奇襲を決めたのは九字原と谷崎だった。これにより魔牛は4頭のうち2頭が狼狽、朧車は大きく瞬発力を削がれる。流は作戦成功を確認、拳を振り上げて味方に合図した。

「誓い発動確認っ!」

 弥刀の背中で三ッ也が叫び、戦いの火蓋は切られた。二人はライフルを召喚し、魔牛を狙う。三堂もライフルを具現化、スコープを覗きつつチョコバーを口に咥える。橋の終わりで待つ友人の助言に倣い、気持ちを落ち着かせるためだ。

(うん、甘い)

 彼女は銃が慣れ浅い。共鳴中の能力者は身体能力向上に伴いエネルギー消費もマッハだろう、そういうとき甘いものを摂取するのは確かに効果的そうだ。設楽に背を支えにできれば、もっと心強かったのだが。

(……ここは行かせないから)

 流の単騎突入をきっかけに、魔牛に対する集中攻撃を行う作戦だ。流はその間囮となって愚神の陽動にあたり時間を稼ぐ。赤城もこの機を逃さない。

「弥刀、出るなら今だぜ!」

 弥刀は赤城の合図でライフルを槍へと換装し、朧車へ高速接近、バイクを横付け。三ッ也はハンドルを離す弥刀に代わり、腰から上で振り返るような体勢で運転を担う。車上の愚神ヨウケルに、敵のライヴスを乱す効果を持つ一撃を放つ!

「挨拶代わりだ、遠慮なく受け取れ!」

 弥刀がヨウケルの側面からスキルを叩き込むのに合わせ、赤城はウィリー&ジャンプでバイクごとヨウケルに体当たりを敢行した! これを命中させた赤城はバイクから飛び降りる。そのまま愚神を朧車から引き剥がせれば万々歳だ。しかし愚神は当たり所が良かったようで、ヨウケルは大型バイクを跳ね返し、ギリギリ車中に留まる。赤城は着地後に抜刀、愚神を見上げた。

「……なるほど、モヒカンの兄弟分を名乗るだけはあるかよ。だが、はいそうですかと通す訳にはいかねぇなぁっ!」
『行き先は煉獄のみですわ!』

 再び動き出そうとする朧車には、谷崎が斜め方向よりフルスロットルで接近し再度攻撃を仕掛ける。が、谷崎も反撃を受けクラッシュ、それを見た三堂はチョコバーを噛み砕く。

「祐二!」

 近くで戦う流も谷崎を気遣った。素早く盾に換装し、三堂は彼に駆け寄り抱き起して車から距離を取る。

「いま治しますね! 行けそうですか?」
「ああ、平気だよ。バイクも……まだ使えそうだね」

 転がっているバイクは壊れているが、乗るには問題ない。弥刀は朧車を斜めに見て攻撃に注意しつつ、三ッ也の射程スレスレを蛇行気味に走行していた。攻撃に参加しなければ牛が倒しきれないことは分かっていたが、いろいろやることがあって手が足りない。

「指弾くるよ! 飛ばして!」

 三ッ也の指示通り弥刀はスピードを上げ、愚神ヨウケルの攻撃を回避した。しかし続けて放たれた弾が彼の腕を掠める。呻きつつも、三ッ也はライフルに代わり雌雄一対の双剣を取り出す。

「大丈夫か?!」
「な、なんとか。罠は?」
「設置どしたさかい、あとは引っかかるんを待つだけや」
「追い付かれんよう走れると思ったが、そうもいかぬか。逃げるので精一杯じゃの」
『追い詰められてるにしては、楽しそうだね』

 ついに走り出したグアンナドリガは超速でエージェント達を追い詰める。さしものカグヤも朧車の機動力がこれほどとは予期できなかったようだが、クーによれば彼女は楽しげだそう。隙を見て前方から魔法の本による白刃攻撃を行い、牽引する魔牛を一体ずつ着実に潰そうとするが、意外と時間がかかっているようだ。弥刀も仕掛けた罠の横で顛末を見守りたかったが、それでは敵が罠を迂回してしまう可能性に気付き走行を続けた。今度は九字原が横から魔牛に追い縋り、その脚を地面に縫い留める!

「止まれッ」

 1体の魔牛が転倒し、バランスを崩した朧車はその速度を緩めた。追いつけているのはバイク組だけだったので、彼のおかげで徒歩組も少し距離を縮めることができた。さらに、牛車の去った後は炎が燃え盛って味方の体力を凄まじい速さで奪った。これによる被害を減らし、味方側に深く切り込まれない様に九字原は尽力した。斉加はその炎輪に触れぬよう注意して、魔法の弾丸で魔牛を狙う。

『図体がでかいだけあって効いてるのかどうかわかりずらいな』
「持ってる武器とスキル全弾ぶち込んじゃえ! アリュー!」
『ぶちこっ……ははっ、そうだな! 出し惜しみナシだ!』

 彼女らしからぬ軽い台詞は、一緒に戦う事への高揚感からか、失うかもしれない恐怖心の裏返しか。その両方を隠したいからと知って、英雄はそれに応酬で応えた。

「この戦場で速度を落とすことは、戦闘力の低下に直結する」

 鶏冠井は冷静だった。いや、普段と比べれば牛肉を前に些かハッスルし過ぎの気がしないでもないが。彼女も距離を取りつつライフルで味方と同じ魔牛を狙い、機動力を削ぐことに注力した。その背中で出前機が揺れる。朧車に並走し、敵を罠へと誘導するのは流だ。彼は逃げ回るように見せかけて、朧車に罠を踏ませる!

「――かかった!」

 道にばらまかれたのは大量の靴下、もといサンタ捕縛用ネット。魔牛たちはそれを踏み、次々と網で捉えられていく。戦牛車は急停止し、乗る愚神もよろめいた。しかしライヴスを介さない道具では数瞬の時間稼ぎが精いっぱい、このチャンスを逃す手はない。少しでもその時間を長くしようと、谷崎は朧車に正体不明のオイルを派手にぶちまけた。

「うらぁ!」
「食らえ!」

 流はライヴスを込めた鋭い斬撃を容赦なく朧車の御者に叩き込む! スキルを惜しまず、次々と連続で繰り出した。全員が本体を集中攻撃する。カグヤは目を狙いたかったが、流に当たる可能性を考慮して無難な部位を選んだ。

「はあッ!」

 斉加の魔法の蝶は美しい紫のオーラを撒き散らし、2体の魔牛と朧車を襲う。ライヴスを封じられ、朧車の噴き出す炎は瞬く間に掻き消えた。彼女はさらに三ッ也の攻撃も補助する。狼狽える魔牛2体は、首同士を投擲された鋼線で絡めとられていた。それは三ッ也の双剣を繋いでいたものだ。

「頭を固定されれば動きづらいでしょ?」

 流のサポートには谷崎が回り、魔牛のターゲットを分散した。流は誘引効果を持つライヴスを練り、スキルの構えを取る。谷崎は一旦後退し、魔牛から受けた傷を癒す。三ッ也は射程外から狙撃を行っていた比良坂が閃光弾使用ため接近するのを確認、叫ぶと同時に目を閉じた。

「いきますよ!」
「一二三、フラッシュバン来ますっ! 前を見て!」

 綿密に発動地点が調整された閃光は味方の誰も巻き込むことなく、流のスキル発動までの間を繋いだ。そこへ赤城と三堂が追い付いた。三堂は葛井の弱体化結界が消えたのを確認し、再び同じ結界を張る。ヴァルトラウテは呪歌を謳い、赤城を鼓舞した。

『難敵に抗う戦士たちに絶えぬ勇気を、燃える闘志を!』

 すると赤城のオーラは膨れ上がり、その剣は輝きを帯びた。三堂の援護射撃と連携しつつ、彼はヨウケルへ斬り込む。愚神は迎え撃ち、指突の構えを取った。そこへ比良坂の威嚇射撃、攻撃は赤城を掠めるに留まる。誰もが誰かの助けとなることを重んじていた。魔牛の掃討は中途切り上げ、弥刀と三ッ也はバイクを降りる。

「牛1撃破確認! 一二三、僕はヨウケルに行くよ!」
「うちも行く!」

 三ッ也は月光の輝きを放つ刀に全力のライヴスを込め、愚神に斬りかかる。絆を結んだ仲間の攻めに合わせ、赤城は怒涛の連続攻撃を繰り出す。

「あんまり嘗めないで下さい。絶対に先には行かせませんっ」
「おらぁッ!」
「ぐっ……まだまだア」

 三ッ也が気を引けば鮮烈な一撃を。倒れたならばすかさず三ッ也が切り結ぶ。赤城のスキルが尽きたあとは、彼が代わって大技を連打した。ヨウケルもまだ諦めない。ズルズルッと触手が現れ、三ッ也の腹を貫こうと狙った。彼は素早く後ろへ飛びのき、事なきを得る。弥刀と設楽、そして鶏冠井が彼らを援護した。

「あの男はいかにも肉を食べそうな容貌をしているからな。ぼくの取り分であるべき魔牛を持っていかれてはたまらない」

 何が何でも食べる気満々の彼女は朧車が戦力外と判断し、狙いをヨウケルへと切り替えた。ライフルを換装し、赤黒い槍を引き出す。バイクより跳躍し、牛車上へ飛び移りつつ槍撃を繰り出す!

「吹っ飛ばすで!」

 弥刀の放った弾丸は着弾と同時に爆発、ヨウケルに大きなダメージを与えた。味方は風圧に怯んだが怪我はしなかっただろう。彼と鶏冠井の連携によって愚神は投げ出され、アスファルトの上に落ちた。彼らは見事連撃の土台を作り上げたのだ。主戦場はヨウケルの方へ移った。設楽も愚神戦に向かい赤城や三ッ也の傷を癒すと共に、三堂の弱体化結界を切らさぬよう繋げて魔法を使用した。

「雲、目が覚めたか?」
「何をしてる。俺はいいから、敵を」
「……ああ」

 流はカグヤに介抱されていた。目的に忠実な流に微笑み、カグヤは彼を置いて愚神戦へ向かう。流は全力を賭して朧車を止め、ついに力尽きたのだ。カグヤは傷の深い者を優先して治癒し死者なきよう務めていたが、タンクが沈んだ今は話が違う。最前線で怪物鱗の盾を構える妖艶な美女にはヨウケルも驚きだ。しかし彼は知らない、そのタフネスボディの強靭さを。

「わらわが相手をしてやろう」
「正気か?」
「試してみよ」

 挑発的なカグヤに、愚神は少し笑い、次の瞬間指突を繰り出してきた。だが、彼女の武器は目に見える盾だけではなかった。攻撃が彼女を掠めると同時に腕を燃えるような痛みが刺し貫く。ヨウケルは最後までその正体が分からなかっただろう。それはカグヤがどこかに隠し持っている魔法の巻物の能力だ。狼狽える愚神の脇腹を、谷崎のライヴスの刃が抉る。

「ムゥッ……?! ぐっ」
「がら空きだぜ!」

 その刃に塗られた毒はヨウケルの体力をじわじわと奪う。隙を見て襲い掛かる斉加を紙一重で躱し、愚神は彼女の腹部に手刀を叩き入れようとした。斉加は逃げ腰になりそうになったが、アリューの声がそれを食い止める。

『大丈夫だ理夢琉、風がついてる』
「うん!!」

 びゅうと吹く魔法の風はヨウケルの一撃の軌道を逸らし、拳は斉加すれすれをすり抜けた。彼女は桜の描かれた双鉄扇を開き、風を巻き起こす。すぐさま迎撃してくる触手は九字原が剣でぶった斬り、桜色の風は鋭いかまいたちとなってヨウケルを切り刻んだ!

 状況は勝ち越しだ。しかし、九字原は気がかりがあった。牛を倒しきれていないことだ。彼が使った毒や味方の攻撃もあり、残る3体は満身創痍。だが愚神を触手で受け切れないだけの飽和攻撃で襲うためには、どこにも人手は割けなかった。そして彼の不安は現実となる。斉加の攻撃で朧車の近くへ吹き飛ばされたヨウケルは、その御者席へ乗り込んだのだ。

「……貴様! 逃げる気か?!」
「待てヨウケル!!」

 すぐにその考えに気付いたカグヤと九字原だが、愚神が指弾を打ち出して牽制する。

「ヌゥハハハハ!! さらばだ諸君!」

 愚神が手綱を引き、魔牛は最後の力を振り絞って走り出す。まるでロケットのような速さに、牛車の本気の走りがこれほどとは予想していなかったカグヤたちは唖然とする。しかし次の瞬間、愚神の腕をライフル弾が打ち抜いた!

「?! 何ィ?!」
「高機動戦で俺の捕捉に一瞬遅れるのは命取りだったな……」

 弾丸は誰もいないはずの前方から発射されている。ヨウケルがまさか、と目を凝らせば、ライヴスに秘匿された人影が見えた。それはここまで常に潜伏状態を保ち続けた迫間だ。彼は常に先頭を走り、味方への援護射撃を行いながら最後のストッパーとして動いていたのだ。彼は鷹の目によって、前方での朧族対応が成功していることも知っている。

「だがその速さでは抜かれかねん。悪いが容赦はせん!」

 刀に持ち替えていては間に合わない。迫間はバイクを運転しつつ片手で器用にアサルトライフルを操り、素早く愚神を狙った。フルオート射撃に見舞われ、ヨウケルは咄嗟に撃たれた腕で頭を庇う。

「ぐうううっ!!」

 左腕は蜂の巣だ、もう使い物にならないだろう。仕留めるのは無理か……迫間は舌打ち交じりに三ッ也も使用した双剣を取り出す。ライヴスの針で縫い留めてもたいして時間は稼げまい。超スピードで目前を通り過ぎる牛車、射程内にいるうちに命中させたい。迫間は瞬時に狙いを定め、それを投擲した。

「間に合ったか!?」

 ワイヤは見事愚神を捉え、遠心力でその腕を拘束していた。

「くっ……こんなもので捉えたつもりか?!」

 愚神は負け惜しみを行って走り去る。もちろん迫間もそんなつもりはない。しかし、橋向こうで奴と対峙する味方たちのための一瞬の隙にはなるかもしれない。

●>>>仲間へ

「危ねえぞ!! 避けろ!!!」

 迫間の叫びに、前方にいた仲間たちが振り返る。見れば凄まじい勢いでボロボロの戦牛車が迫っていた。これを止める術はない……鋼野と獅子ヶ谷は回避を選択した。

「チッ……逃げられましたか」
「まだ戦いたかったがなぁ……!」
「オイコラァ! もっとてめぇらの力を見せてみろよ!」

 レヴィンはヨウケルの背中に叫ぶが、愚神が振り返ることはない。しかし見たところ空を飛ぶ余力は残されていない。あの全力疾走が最後の力だろう。この先に待つ仲間が必ず倒してくれるはずだ。残っていた僅かな朧族はヨウケルを追ってすぐさま逃げ出した。灰川はそのうちの1体に横からバイクを衝突させ、それを転倒させる。東海林がそれにとどめをさした。しかし逃げられた従魔もいる。悔しげな東海林に灰川が言う。

「クソッ! あとちょっとだったってのに!」
「できるだけのことはやったさ」
「ああ、これだけ戦力を削ったんだ」
「私を反対側に通した時点で……奴達の負けさ」
「し、死ぬかと思いました……」
『……もう、お腹空いた……』

 傷を庇いつつカトレヤに肩を支えられるメイナードも、少し笑って東海林を宥める。義手イデアは緊張がほどけたようにぐったりとした声を発した。東海林の心中では、ルゥが今日5回目の決まり文句を言う。

「さすがだ」
「よせよ。愚神を仕留めたわけじゃない」
「だが君と三ッ也君の活躍が無ければ、あれほどのダメージは与えられなかった」

 設楽は愚神と至近距離で戦った赤城たちを治療しつつ、その功績を称える。弥刀と三ッ也が一緒に弁当を食べているところには、谷崎と九字原、比良坂の姿。

「罠、すごかったよ! うまくいったね!」
「いや、あれだけじゃ一瞬で抜けられていましたよ」
「せやな。やっぱ谷崎はんのオイルもあって、あんなけ時間が稼げたんや」
「自分の役割をわきまえつつ周りと調和を取るって、ヒューマンスキルが必要とされるところで加減が難しいですね。みんなのやりとり色々見せてもらって勉強になりました」
「比良坂さんのフラッシュバンのタイミングは完璧だったよ」
「そんな! 九字原さんこそ……初手の奇襲のおかげで、攻撃の糸口が見えました」

 御神は横たわる流を見つけ、声を掛けに行く。鋼野はその傍でボウガンの傷をカグヤに看てもらっていた。

「……終わったぞ」
「そうか……鋼野は?」
「ここにいますよ。どうやら流さんより軽症のようです」
「雲、まだ安静にしておけ。玉子もじゃ、どこへ行く? そなたたちの傷は浅くないぞ」
「だが、魔牛の肉が……」
「……」

 流の横で鶏冠井は悔しそうだ。オーロックスが無言でその頭を叩く。1体は討伐できたのだから、肉は後ほど無事に彼女の手に入るだろう。葛井も負傷者の手当てに当たる。今は水瀬の対応だ。近接型の朧族に杖で対抗し、手ひどくやられたらしい。

「痛……悪いわね、」
「いえ……」
「……そんな顔、しないで?」

 スキルを使い切ってすぐには治せないので、葛井は少し悲しそうに見えたようだ。水瀬がそう言ってほんの少し微笑んだので、葛井は複雑そうに笑顔を返した。彼女はより傷の深い獅子ヶ谷や鳴神に魔法を使っていた。それでも彼らの傷も痛々しいものだ。彼らは橋のへりに腰かけて傷を庇っている。

「イテテ……でも、こんなもんで済んで良かったな……」
「まだだ……まだ殺り足りねぇのに……!」
「アリス、右大腿部の神経回路が変だよ」
『分かってるわよ。咲雪は寝ていればいいの』

 その傍には佐藤の姿。イエロー基調のぴっちりとしたパイロットスーツはそのボディラインを強調するだけでなく、今は脚部が破損して肌が露出している。これも機械なのだろうから驚きだ。同じように暮れゆく夕日に臨むのは斉加と迫間。

「……この景色、アリューと二人で見れて良かった」
『そうだな……』
「マイヤ。綺麗だね」
「……ええ……」

 迫間が具現化していた鷹をライヴスに帰すと、それは青い光の雨となって消えた。三堂は緊張から解放され、長い溜息のあとにその場にへたり込んでしまった。もう長い間そのままなので、マリクは共鳴を解き彼女を気遣う。そこへ設楽が歩み寄った。

「藍佳……」
「三堂君。君もよくやった」

 設楽に褒められ、三堂ははにかむ。橋の先を見やる三堂に、マリクは言う。

「後はあっちの皆だね……」
「皆さんなら、大丈夫です」

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 果てなき欲望
    カグヤ・アトラクアaa0535
  • 語り得ぬ闇の使い手
    水瀬 雨月aa0801

  • 九字原 昂aa0919
  • この称号は旅に出ました
    弥刀 一二三aa1048
  • 拓海の嫁///
    三ッ也 槻右aa1163
  • Foe
    谷崎 祐二aa1192
  • 素戔嗚尊
    迫間 央aa1445
  • 温かい手
    流 雲aa1555
  • オールラウンドスナイパー
    比良坂 蛍aa2114

重体一覧

参加者

  • Loose cannon
    灰川 斗輝aa0016
    人間|23才|?|防御



  • エージェント
    鳴神 命aa0020
    人間|15才|男性|攻撃
  • エージェント
    ランドルフ ベルンシュタインaa0020hero001
    英雄|18才|男性|ドレ
  • 魅惑のパイスラ
    佐藤 咲雪aa0040
    機械|15才|女性|回避
  • 貴腐人
    アリスaa0040hero001
    英雄|18才|女性|シャド
  • 世界蝕の寵児
    レヴィンaa0049
    人間|23才|男性|攻撃
  • 物騒な一角兎
    マリナ・ユースティスaa0049hero001
    英雄|19才|女性|ドレ
  • ライヴスリンカー
    赤城 龍哉aa0090
    人間|25才|男性|攻撃
  • リライヴァー
    ヴァルトラウテaa0090hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • 太公望
    御神 恭也aa0127
    人間|19才|男性|攻撃
  • 非リアの神様
    伊邪那美aa0127hero001
    英雄|8才|女性|ドレ
  • Run&斬
    東海林聖aa0203
    人間|19才|男性|攻撃
  • The Hunger
    Le..aa0203hero001
    英雄|23才|女性|ドレ
  • エンプレス・ルージュ
    カトレヤ シェーンaa0218
    機械|27才|女性|生命
  • 暁光の鷹
    王 紅花aa0218hero001
    英雄|27才|女性|バト
  • 果てなき欲望
    カグヤ・アトラクアaa0535
    機械|24才|女性|生命
  • おうちかえる
    クー・ナンナaa0535hero001
    英雄|12才|男性|バト
  • 沈着の判断者
    鋼野 明斗aa0553
    人間|19才|男性|防御
  • 見えた希望を守りし者
    ドロシー ジャスティスaa0553hero001
    英雄|7才|女性|バト
  • 危険人物
    メイナードaa0655
    機械|46才|男性|防御
  • 筋肉好きだヨ!
    Alice:IDEAaa0655hero001
    英雄|9才|女性|ブレ
  • 希望を歌うアイドル
    斉加 理夢琉aa0783
    人間|14才|女性|生命
  • 分かち合う幸せ
    アリューテュスaa0783hero001
    英雄|20才|男性|ソフィ
  • 炎の料理人
    鶏冠井 玉子aa0798
    人間|20才|女性|攻撃
  • 食の守護神
    オーロックスaa0798hero001
    英雄|36才|男性|ドレ
  • 語り得ぬ闇の使い手
    水瀬 雨月aa0801
    人間|18才|女性|生命




  • 九字原 昂aa0919
    人間|20才|男性|回避

  • ベルフaa0919hero001
    英雄|25才|男性|シャド
  • この称号は旅に出ました
    弥刀 一二三aa1048
    機械|23才|男性|攻撃
  • この称号は旅に出ました
    キリル ブラックモアaa1048hero001
    英雄|20才|女性|ブレ
  • 非リアを滅す策謀料理人
    葛井 千桂aa1076
    人間|24才|女性|生命
  • 非リアを滅す策謀料理人
    転変の魔女aa1076hero001
    英雄|24才|女性|バト
  • 拓海の嫁///
    三ッ也 槻右aa1163
    機械|22才|男性|回避
  • 大切な人を見守るために
    酉島 野乃aa1163hero001
    英雄|10才|男性|ドレ
  • Foe
    谷崎 祐二aa1192
    人間|32才|男性|回避
  • ドラ食え
    プロセルピナ ゲイシャaa1192hero001
    英雄|6才|女性|シャド
  • エージェント
    三堂 藍佳aa1351
    人間|17才|女性|回避
  • エージェント
    マリク・レイドルaa1351hero001
    英雄|15才|?|バト
  • 素戔嗚尊
    迫間 央aa1445
    人間|25才|男性|回避
  • 奇稲田姫
    マイヤ 迫間 サーアaa1445hero001
    英雄|26才|女性|シャド
  • 温かい手
    流 雲aa1555
    人間|19才|男性|回避
  • 雲といっしょ
    フローラ メイフィールドaa1555hero001
    英雄|18才|女性|ブレ
  • エージェント
    獅子ヶ谷 七海aa1568
    人間|9才|女性|防御
  • エージェント
    五々六aa1568hero001
    英雄|42才|男性|ドレ
  • オールラウンドスナイパー
    比良坂 蛍aa2114
    人間|18才|男性|命中
  • オールラウンドスナイパー
    黒鬼 マガツaa2114hero001
    英雄|26才|男性|ジャ
  • エージェント
    設楽aa2134
    機械|50才|男性|攻撃



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