本部

戦闘

黒い海のセイレーン

高庭ぺん銀

形態
ショート
難易度
普通
参加費
1,000
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2016/06/09 07:30
完成予定
2016/06/18 07:30

掲示板

オープニング

●黒の行進曲
 男はベランダに出てタバコを吸っていた。空が暗い。今日は一日、すっきりとしない天気だった。
(憂鬱なのは曇り空のせいだ)
 男の妻は先月、5歳になる娘を連れて出て行った。関係は冷え切っていた。時間の問題だとは思っていたが、やはり堪えた。
「……歌? 女、か」
 男の住むマンションは、駅からほど近かった。駅前で歌うストリートミュージシャンの声かもしれない。男自身も何人か贔屓にしている歌手がいる。姿を見たら立ち止まり、心ばかりのカンパをする。それは、この街ではさほど珍しいことではなかった。ストリートミュージシャンの数も他にないくらい多いし、わざわざ電車に乗って歌いに来る者もいるらしい。いわゆる『聖地』なのだ。
(こりゃ、素人じゃねぇな)
 風に乗って届いたソプラノに、一瞬別れた妻の顔がよぎったが、よく聞けばさほど似ていない。それにしても、美しい歌声だ。優しくて、優しすぎて、胸が痛んだ。
「痛……」
 片頭痛か。ぐずついていた空は、ようやく覚悟を決めて雨を降らす気らしい。
(今日は一段と痛いな)
 もしかしたら、精神的なことも原因かもしれない。男は自嘲の笑みを浮かべた。
 そのときだった。真っ黒な水たまりがこちらに向かって、地面を這いずって来るのに気付いたのは。
(生きてる、のか? ……化け物だ!)
 『化け物』は、歌のリズムに乗って行進してくるようにも見えた。だがすぐに気のせいだろう、と打ち消した。あんなものたちに我々と同じような芸術的センスが備わっているとは信じたくない。
 黒い異形たちは、ナメクジのように壁に張り付いて登ってきた。下の階のベランダに出ていた主婦が、室内に逃げ込み窓を閉めた。1匹が水の滴る曖昧な人型になって激しく扉を叩く。しかし、やがて諦めて上階への進軍を再開した。
 男はそれを見ていた。情けないことに、恐ろしくて体が動かないのだ。
(ああ、やっぱ女は逞しいよなぁ)
 そんなことを思った。澄んだ歌声は相変わらず聴こえた。柔らかな羽根布団に包み込まれているかのようだ。赤ん坊の匂いがする。幻覚にしたって、不思議だ。娘が赤ん坊だったのなんて、ずいぶん前なのに。
 自分は死ぬのだろう。別に構わないと思った。
 
 男は、死ななかった。あの悪夢のような体験のあと、普通に夕飯を食べて、風呂に入って、次の日には出勤した。体験のことは誰にも話さなかったが、家に帰ると訪問者があった。HOPEの職員だった。
「……もう終わりだ、と思ったとき、激しい夕立が降ってきた。すると、化け物たちが急に勢いをなくしちまったんだよ。しばらく呆然としててね、気づいたら雨が止んでいた。奴らの姿もなかった。よくわからんが、命拾いしたんだな」
 男は能力者ではないが、彼らに悪印象を持っている訳でもなかった。素直に見たままを話した。
「そういえば……夕立の音が消えれば、またあの歌が聞こえてくるかと思ったんだが、彼女も帰っちまったんだな。残念だった」
 男ははっとして、事件に関係ない話をしたことを詫びた。

●悪夢を流れる小夜曲
 小夜霧(さよぎり)音楽大学。古くから名だたる音楽家を輩出してきた名門校。
 周りの地域でも音楽が盛んで、日本のウィーンと呼ぶ者もいるという。この明るく平和な街で、恐ろしい事件が起こっている。HOPEの事前調査によって、愚神の関与が確定されている。
「では、説明を始めます」
 職員が言った。普段は朗らかな男だが、今日は表情が硬い。
 1件目の現場は大学の敷地内。レッスン中の教室に『化け物』が侵入し、多数の未来ある若者が犠牲になった。生き残った関係者に聞いたところ、不審な人物の目撃証言はなかったようだ。ただ、普段から卒業生やスカウトマンなど外部の者が訪れることは多いという。
 2件目は、響ヶ丘公園だ。普段は、ところどころで住人の歌声が聞こえる憩いの場である。凶行は白昼堂々行われ、歌声は悲鳴に変わった。
 襲ってきた『化け物』は、1件目と同じような姿であるという証言が取れている。というのも、この公園は先述した音大の学生たちが、歌や楽器の練習をするためによく利用しているのだ。そのため、不運にも再び現場に居合わせた学生たちがいたのである。彼らには気の毒だが、1件目と2件目のつながりが確信できたことは大きな進歩だった。
 目撃者によると『化け物』は真っ黒な粘液に覆われた人間のような姿をしており、足元は黒い水たまりになっている。まるでタールから生まれた泥水人形だという。被害者たちは、ドロドロの手のような部分で首を絞められたり、『化け物』の体内に取り込まれたりして、いずれもむごたらしい最期を迎えている。
 3件目の現場は、大学の最寄り駅近くのマンションだ。たまたまベランダに出ていた数人が襲われたが、大きな被害は出なかった。。激しい夕立を忌むかのように『化け物』たちが撤退したのだ。
「以上が、現在集まっているデータです」
 職員はスクリーン上の資料を閉じた。すでに犠牲者がいることに、心を痛めているのかもしれない。
 愛を歌う小夜曲の町は、今や魔性のものが棲む暗黒の海原だった。
「何か質問は……ないみたいですね。それでは、いってらっしゃい。お気をつけて」

解説

【目的】 
愚神の討伐

【場所】
小夜霧(さよぎり)音楽大学周辺
 都心へは電車で1時間強。歌手や演奏家を目指して上京し、ここに住む若者も多い。レンガ造りの建物や石畳など、異国めいた景色が楽しめるのも魅力の一つ。
 楽器店やレコーディングスタジオ、コンサートホールなど音楽関係の施設が多いのは言わずもがな、公園やショッピングモールなどでもしばしばミニライブが行われる。駅前のストリートミュージシャンたちは皆ハイレベルであると評判。

【敵】※プレイヤー情報
愚神(ケントゥリオ級×1)
・外見は人間の女性に近いが、腕がない。また全身がどろどろとしたタール状のものに覆われている。
・歌で従魔たちの行動を操っている。
・従魔がいなくなると、攻撃手段がなくなる。ライブスの吸収、新しい従魔の作成は可能。耐久力も相応にある。
・非能力者は、歌に聴き惚れている間にライブスを奪われてしまう。洗脳ではなく、純粋に愚神の歌声が美しいため。自ら愚神(歌声)の方へ行く者すらいるが、正気なので説得は可能。
・ドロップゾーンなし。神出鬼没。音楽の聞こえる場所に現れると見られている。
・依代は、ストリートミュージシャンの女性。歌手デビューが決まらず、落ち込んでいたところ、行方不明に。死亡済み。

従魔(デクリオ級×10前後)
・『化け物』の正体
・不定形の人間型。どろどろとした黒い水でできている。
・首絞めや、体の中への取り込みを行う。ライブスを奪われると同時に窒息死の可能性もある。
・愚神の歌によって、行動を支配されている。

マスターより

高庭ぺん銀です。気味の悪い敵を出したくて、こんなお話になりました。おじさんの描写にやたら力が入っていますが、彼がカギを握っているということはありません。というか本編に登場予定はありません。刑事ドラマの見すぎで、奥さんに逃げられた中年に愛着があるだけです。

リプレイ公開中 納品日時 2016/06/14 20:03

参加者

  • Analyst
    宇津木 明珠aa0086
    機械|20才|女性|防御
  • ワイルドファイター
    金獅aa0086hero001
    英雄|19才|男性|ドレ
  • 『星』を追う者
    月影 飛翔aa0224
    人間|20才|男性|攻撃
  • 『星』を追う者
    ルビナス フローリアaa0224hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • 馬車泣かせ
    赤谷 鴇aa1578
    人間|13才|男性|攻撃
  • 馬車泣かせ
    アイザック ベルシュタインaa1578hero001
    英雄|18才|男性|ドレ
  • 薩摩芋を堪能する者
    楠葉 悠登aa1592
    人間|16才|男性|防御
  • もふりすたー
    ナインaa1592hero001
    英雄|25才|男性|バト
  • 銀光水晶の歌姫
    アルaa1730
    機械|13才|女性|命中
  • プロカメラマン
    雅・マルシア・丹菊aa1730hero001
    英雄|28才|?|シャド
  • マーメイドナイト
    海神 藍aa2518
    人間|22才|男性|防御
  • 白い渚のローレライ
    aa2518hero001
    英雄|11才|女性|ソフィ
  • 魅惑の踊り子
    新星 魅流沙aa2842
    人間|20才|女性|生命
  • 疾風迅雷
    『破壊神?』シリウスaa2842hero001
    英雄|21才|女性|ソフィ
  • Trifolium
    バルタサール・デル・レイaa4199
    人間|48才|男性|攻撃
  • Aster
    紫苑aa4199hero001
    英雄|24才|男性|ジャ

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