本部

眠れぬ山のNINJYA

雪虫

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
無し
相談期間
5日
完成日
2015/12/07 16:54

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掲示板

オープニング

●眠れぬ山のNINJYA
「眠れないでござる」
 ガイル・アードレッド (az0011) は瞼を持ち上げるとその場にむくりと起き上がった。NINJYA時計を見れば時刻は午前二時。起きるのには早過ぎる。しかし目が冴えてしまって全く眠れそうにもない。ガイルは簡易ベッドの上から降りると、同室のリンカー達を起こさないよう気をつけながらテントの外へと出ていった。何か飲み物でもと思い談話用テントに向かってみると、そこにはすでに数人のリンカー達が座っていた。
「ミナサマも眠れないのでござるか?」
 頷いたあなた方を見て、ガイルは「ぽん」と手を打った。そしてあなた方の顔を見渡し、名案とばかりに晴れやかな表情を浮かべてみせる。
「ミナサマ、もしよければ拙者にミナサマの、今までのボウケンの話を聞かせて欲しいでござる! 拙者、ハクシキなNINJYAを目指しているのでござるが、知らない事もメニ―でござるゆえ……よ、よろしければでいいのでござるが……」
 そう言って、自称NINJYAは伺うようにあなた方の事を見つめてきた。その表情は寝る前に大人に絵本をせがんでくる幼稚園児によく似ていた。

●眠れぬ山のASSASSIN
「眠れないわん」
 デランジェ・シンドラー(az0011hero001)は瞼を持ち上げるとその場にむくりと起き上がった。幻影蝶から抜け出してガイルの腕時計を見れば時刻は午前一時。起きるのには早過ぎる。しかし目が冴えてしまって全く眠れそうにもない。テントの外へ出て屋外に設置されている丸太ベンチへと歩いていくと、そこにはすでに数人のリンカー達が座っていた。
「あなた達も眠れないのん?」
 頷いたあなた方を見て、デランジェは「ぽん」と手を打った。そしてあなた方の顔を見渡し、名案とばかりににこやかな笑みを浮かべてみせる。
「良かったら何か……そうねん、あなた達の将来の夢についてデランジェちゃんに聞かせてくれないかしらん? 眠れない夜を楽しく過ごせるような、面白いお話を聞かせてくれると嬉しいわん」
 そう言って、忍ばぬアサシンは伺うようにあなた方の事を見つめてきた。その表情は寝る前に絵本に出てくるお姫様……を騙す悪い魔女か何かによく似ていた。

解説

●NPC情報
ガイル・アードレッド
 勘違いや早とちりも多いが、理想のNINJYAになるべく日々研鑽を続けている伊達男。回避適性。ハクシキ(博識)なNINJYAになるためにリンカー達の「冒険話」を聞きたがっている。
<PL情報>
・幼少期に見た時代劇が元で忍者に憧れている。
・日本文化が好きだが、SUSIは苦手、WASABIはもっと駄目。
・失敗続きでやや落ち込んでいる。
・仲間達の役に立つためにはどうすればいいのか悩んでいる。

デランジェ・シンドラー
 元殺し屋英雄。シャドウルーカ―。楽しい時間を過ごすためにリンカー達の「将来の夢」について聞きたがっている。
<PL情報>
・「アサシンが忍ばないといけないって誰が決めたワケ~?」が持論のゴーイングマイウェイ思考の目立ちたがり。
・暗殺スタイルは「真正面から銃で撃つ」「銃で撃って死なない奴はいない」「生き物は頭撃ったら大体死ぬ」。
・ガイルとは共に世界最強のNINJYAを目指して契約中。

●マップ情報
談話用テント
 テーブルと椅子が設置されている。ガスコンロ、ヤカン、ウォーターサーバー、インスタントコーヒー、紅茶と緑茶のティーパック、カップ入りミルク、スティックシュガー、紙コップ、ゴミ箱がテント東側の長机の上・周辺にある。

丸太ベンチ
 丸太100%で出来たベンチ。近くの籠に防寒用のブランケットが大量に入っている。

※談話用テント・丸太ベンチ間の移動はOKです。

●時系列
午前一時
 デランジェが起き出し丸太ベンチへと移動(この時ガイルは眠っている)
午前二時
 ガイルが起き出し談話用テントへと移動(この時デランジェは眠っている)

リプレイ


 午前零時五十分、月夜の丸太ベンチはすでに宴会場と化していた。酒飲み達が銘々実費で持ち寄った酒、つまみ、菓子、料理……木霊・C・リュカ(aa0068)は何本目か分からないアルコールを掲げると、瞳を上機嫌に細め何度目かの音頭を上げた。
「それじゃあ乾杯!」
「いえーい! 大人の夜はこれからだぜ!」
「皆が起きるだろ! 静かにしろ!」
 楽し気にビールを挙げた虎噛 千颯(aa0123)に、白虎丸(aa0123hero001)が慌てて声を投げ掛けた。今時の若者全開の千颯は常からテンションの高い男だが、酒の勢いの為せる技か、酔っていない状態にも関わらずテンションがさらに上がっている。リュカの方も、足元には少なくないアルコールの空が並んでいたが、化け物級の肝臓は酔いの二文字に見境なくボディブローを叩き込む。酒を水の様にきゃっきゃと消費していく二人の横で、もう一匹のうわばみ……ならぬ大狐がやはり酒を傾けていた。
「こんなに月光煌く夜なら、月見酒と洒落込むしかあるまいに。さぁ晩酌だ! 灯影、つまみだ。いつものお揚げとだし巻きを出せ」
 楓(aa0273hero001)は狐尾を揺らしながら子犬……ではなく(一応)主人である会津 灯影(aa0273)にびしりと指を突き付けた。灯影は面倒そうな顔をしながらも、用意したつまみの数々をベンチの上へと並べていく。
「貴様はどうにも抜けているが料理の方は絶品だな。やはりえーじぇんとより家政婦が似合いだぞ? 文句を言いつつ犬の様に仕える姿は凡俗ながら中々良い」
「犬じゃねーし! つまみ用意しといて正解だったな。酒飲み達は本当にもー」
 溜め息を吐きながら甲斐甲斐しくつまみを並べる灯影をよそに、楓は尾を揺らしつつ満足気に料理をつまむ。リュカと千颯もご相伴に預かりながら、持ち込んだアルコールを上機嫌で流し込む。
「結構寒いし熱燗とかの方が良かったね。あっ、お兄さんビール飲みたいからとってー!」
「いえーい! リュカちゃん、楓ちゃん、今日は朝までとことん飲むぞー!」
「オリヴィエ殿はホットココアでも飲まれるでござるか? 作るでござるよ」
「いや、俺は良い。気を遣ってもらいすまないな、白虎丸」
「恭也ちゃんがもう少し大人だったら一緒に飲んでいたのになー」
「伊邪那美殿は起きていて大丈夫でござるか?」
 白虎丸は銃の手入れをしているオリヴィエから顔を上げると、ちょこんとベンチに座っている伊邪那美(aa0127hero001)へと声を掛けた。林に視線を向けていた少女は白虎丸を見上げると、大量のブランケットの中から可愛らしく口を開く。
「うん、大丈夫。今日こそは終わるまで起きてるんだから」
 伊邪那美はしっかりした口調で言葉を返すと、再び林へ視線を向けた。林の中では御神 恭也(aa0127)が、日課の夜間修練に精を出している頃だ。ブランケットに包まりながら相棒を待つ伊邪那美の隣では、大崎 陸羽(aa1140)とショウゲン(aa1140hero001)が、頭上に広がる星空をベンチの上から眺めていた。なんとなく目が覚めてしまった陸羽と、陸羽が起きる気配に目を覚ましたショウゲンは、共に外に出て頭上に広がる満天の星空を視界に映した。街中で見るより遥かに素晴らしい星空を、陸羽は収めようとスマホを取り出し撮影したが、撮れたのはただの暗闇だけ……ならせめてこの目に焼き付けておこうとホットミルクを調達に行き、ベンチへ向かえば先客がおり……そして今に至っていた。
「山で見る夜空は街中で見るより綺麗ですね。スマホで撮れれば良かったんですけど……」
「カメラとは景色をそっくりそのまま映し出す道具だと思っていたが、万能でもないのだな」
「仕方ないですね。暫く眺める事にしましょう。なんだか目が覚めてしまったし……それに楽しそうですし」
「じゃあ救急車にお世話にならない程度の一気コールいこうか!」
 陸羽が星空から顔を横に向けると、リュカが新たな缶チューハイを宙高くへと掲げた。そこに一人の少女が現れ、一同は視線を向ける。
「あなた達も眠れないのん?」
 頷いたリンカー達を見て、デランジェ・シンドラー(az0011hero001)は「ぽん」と胸の前で手を打った。そして一同の顔を見渡し、名案とばかりににこやかな笑みを浮かべてみせる。
「良かったら何か……そうねん、あなた達の将来の夢についてデランジェちゃんに聞かせてくれないかしらん? 眠れない夜を楽しく過ごせるような、面白いお話を聞かせてくれると嬉しいわん」
 そう言って、忍ばぬアサシンは伺うようにリンカー達を見つめてきた。その表情は寝る前に絵本に出てくるお姫様……を騙す悪い魔女か何かによく似ていた。


「将来の夢……ねえ」
 一番手、リュカとオリヴィエは渋い顔で揃って顎に指を当てた。いざ面と向かって将来の夢と言われても、双方あまり思い浮かばなかった様である。
「夢というかは分からないけど、俺達の誓約は『物語を見つけにいこう』だよ! ある意味誓約がそのまま夢になるのかな」
「あら、素敵な夢ねん」
 デランジェは楽しそうに笑いながらただ短く言葉を返した。外見の幼さに見合わない表情で銃を磨くオリヴィエに、デランジェは何処か自分に近いものを感じたが、それに関して追及する事は野暮と考えての言葉だった。
「俺ちゃんの将来の夢~、そうだな~、まずは白虎ちゃんをH.O.P.E.公認ゆるキャラにすることだな!」
「待て! お前はまだそんな事を言っているのか!」
 続いて夢を語った千颯に、傍らで茶を嗜んでいた武人は驚きの声を上げた。相棒の愉快な反応ににやりと目を細めながら、千颯は筋肉質の相棒をつんつんと突いてみる。 
「非公認はもう申請してるから後は公認だけでしょ?」
「俺はゆるキャラではない!」
「それで白虎ちゃんを公認ゆるキャラにする為にデランジェちゃんも応援よろろな~」
「人の話を聞け! 俺はゆるキャラでは……」
「でも、素質はあると思うわよん」
 デランジェが指した先を見ると、いつの間にかシルミルテ(aa0340hero001)が、白虎丸の被り物をもふもふと触っていた。固まる白虎丸をよそに小さき魔女は小さな手でもふもふを遂行し続ける。
「ゆるキャラを目指スなラ、もットもフもフを多クシテもイイカもネ」
「俺はゆるキャラではないと言うに……」
 H.O.P.E.非公認ゆるキャラは呟き肩をガクリと落とした。続く伊邪那美はブランケットの中で首をことりと傾げてみせる。
「将来の夢? それってボクの? それとも恭也の?」
「恭也ちゃんのも気になるけど、今日は伊邪那美ちゃんの夢をお聞きしたいわん」
「夢かぁ……ボクはこのまま恭也との契約を続けて、これまで知らなかった事とかを知りたいな。恭也が結婚して、子供が出来たらその子と契約して見守り続けるのも良いかもね。その前に結婚出来るのかな? 恭也は」
「あら、何か心配事でも?」
「だってねえ……」
 伊邪那美は言い淀むと、林へと視線を向けた。沈黙して耳をすますと「ふん!」「はっ!」と剣を振るう青年の声が聞こえてくる。
「あれじゃあねえ……」
 伊邪那美の呟きに、デランジェはころころと笑みを零した。酒に弱いため茶を飲みながら一同の話を聞いていた灯影は、自分の番に回ってくると困ったように頬を掻いた。
「将来の夢なぁ……実はあんまり考えた事無いんだ。毎日を謳歌するのにいっぱいいっぱいというか、自分の未来の事考えるの苦手で。ただの逃避なのは分かってるんだけど」
 そう言うと灯影は自嘲気味に苦笑した。しかし次の瞬間には打って変わってさっぱりとした顔を見せる。
「ま、臆病でばかりもいられなさそうだし、もちっと強くはなりたいかな、精神的に! 将来の夢イコール仕事って訳じゃないけど、好きな事とかは追い続けるのがいいと思うぜ。となると俺は家事……?」
 呟いた瞬間、楓がにやにやしている事に気付き灯影は目を丸くした。そして何か言われる前に拳を握り立ち上がる。
「家政婦じゃないですー! こ、こういう話ってちょっと照れ臭いな。健全な青少年は寝る! 飲み過ぎんなよ!」
「契約者が斯くありたいと言うならば、我は見守るのみ。臆病風を祓うは小さくとも確かな一歩から。精進せよ、主……と、なんだ逃げてしまったか」
「照れ屋さんねん。そういう楓ちゃんの夢は?」
 水を向けられた楓は「ん?」とデランジェに瞳を向けた。それから少しつまらなそうな、達観した色を浮かべる。
「我は妖狐故長きを生きる身、将来等と先を夢想するのもすでに飽きたな。ところで煙草はあるか? 灯影がいると吸えんからな」
「あら、ジェントルちゃんなのねん」
 揶揄るように笑うデランジェに、楓は少し目を見開いた。そして愉快そうに眼を細め、美味しそうに煙管をふかした。
「ワタシの夢ー? ウーん、たブン楽しクないヨー?」
 白虎丸の営む駄菓子屋や、コンビニ等で購入した菓子と粉ジュースで参戦していたシルミルテは、ブランケットに包まったままデランジェの膝をじっと見つめた。「よろしくてよん」とデランジェが手を広げると、我が意を得たりとばかりに膝の上にぴょこんと飛び乗る。
「聞かせて欲しいわん」
「ンー」
 シルミルテは首を傾げると『魔女』の微笑を作ってみせた。そしてデランジェだけに聞こえるようそっと耳に口を寄せる。
「樹ガネ、おバーチャんにナってモ一緒にイて、老衰デ死ヌのヲ看取ルコト」
「それはとっても素敵な夢ね」
 人差し指を唇に当て「樹にハ ナイショ ダヨ?」とクスクス笑うシルミルテに、デランジェもクスクス笑って頷いた。
「デランジェさん、お久しぶりです」
 陸羽は夢を語る前に、デランジェにぺこりと頭を下げた。デランジェも陸羽とショウゲンに柔らかく視線を向ける。
「この前はとってもお世話になったわん。陸羽ちゃんの夢は?」
「お恥ずかしい事に、まだ具体的な進路は決めていませんが……僕、目標にしている人がいるんです。その人はとても強くて真っ直ぐで大きくて……その人みたいに強くなって、家族や友達を守れるようになるのが夢ですかね。全然面白味のない話ですけど」
 陸羽は目標としている人物……ショウゲンにちらりと視線を向けた後、照れたように頭を掻いた。面と向かって名前を出した訳ではないが、気恥ずかしさは抑えきれない。
「な、なんだか真面目に語ったら恥ずかしくなってしまったので、一足先に戻ります。それではみなさん、おやすみなさい」
 陸羽は一同に別れを告げると、足早にテントの方へと歩いていった。夢を語る陸羽の目に頼もしさを覚え聞き役に徹していたショウゲンは、胸に去来した想いをたまらずに口にした。
「陸羽があれ程まで憧れる人間とは一体どのような者なのか……俺も会った事のある人物だろうか、いずれ対面したいものだな。俺もこれで失礼させて頂く。陸羽が気にかかるのでな」
 自分の事だとは気付かぬまま、ショウゲンもまた頭を下げ宴会の場を後にした。デランジェは最後の一人、蛇塚 連理(aa1708hero001)に視線を向けたが、連理は浮かない顔のまま土の上を眺めていた。彼もまた眠れずにこの場に座っていたのだが、以前任務で一緒になったシルミルテに「まダ痛イ? だいじょバナイ?」と飴を渡されても、気まずそうに顔を背ける事しか出来なかった。
「一つ聞きたいんだけど、あんたは、いつか消える事が怖くねーのか?」
 連理はぽつりと言葉を零すと痛ましげに目を伏せた。地面に視線を落としたまま、迷いと悩みを口にする。
「戦いが終わったら英雄は消えるだろ……多分。それなのに夢が必要なのか……?」
 寂しそうな連理の言葉は、その場の全員の胸を打った。それは誰しもの胸にある漠然とした不安だった。その澱のような不安に、しかしデランジェは口を開く。
「確かに、ずっとこの世界にいられる保証はないわねん。でも、それは命あるものみんなそうじゃないかしら。みんないつか消え行くもの……英雄もこの世界の生き物も、みんなそうだと思うわん。
 それでも、いつか消えるという事は、夢を持たない理由にはならないと思うわん。先の事は分からなくても、叶えたいと強く願う事があるから、それを夢と呼ぶんじゃないかしら……連理ちゃんは、こうなりたいって強く願う事はないの?」
「オレは……勉強してーな。もっとたくさんの事が知りたい。オレには名前しかねーからさ。それと、いつかちゃんと、あいつと話せるようになれたらって思うんだよな」
 苦笑しつつ、遠くを見るように、迷える英雄は呟いた。脳裏には今もベッドで寝ているはずの相棒の姿が浮かんでいる。
「あんたは? あんたの夢はなんなんだ?」
「夢いっぱいのNINJYAが夢を叶えられるよう応援する事。それがデランジェちゃんの夢よん」
 デランジェはそう返し、ふああと小さくあくびをした。そして、シルミルテを膝から下ろして立ち上がる。
「あらやだ、急に眠くなっちゃった。デランジェちゃんはお暇するわん。楽しい時間をありがとねん。皆さんちゃんも、いい夜を……ね」
 そう言って、デランジェは去っていった。まるで照れ隠しでもするように。デランジェが去ったのに合わせ、連理もベンチから腰を浮かせる。
「俺も帰るわ。シルミルテ、さっきはそっけなくして悪かったな」
「次はヤッツけヨーネ」
「……ああ」
 連理は笑みを浮かべると、自分のテントへと戻っていった。その背中が見えなくなった頃に、鍛錬を終えた恭也が一同の前に姿を見せる。
「伊邪那美、いるか」
「……眠い」
「無理をしないで先に床に着いて良かったのにな。しかし、英雄は風邪をひくのか?」
「一般的にはひかないらしいけど、流石にちょっと寒いねえ。テントの方に移動しようか」
 リュカの言葉に、一同は談話用テントに移動する事となった。酒飲み達は酒やつまみを、恭也は九割方眠っている伊邪那美を抱えて歩いていく。その途中、ガルー・A・A(aa0076hero001)が、自分の酒とつまみを両手に一同の前に現れた。
「おいおいなんだお前さん方、一体いつから飲んでんだ」
「ガルーちゃん、一緒に朝まで飲もうぜー! そのお酒とおつまみはつまりそういう事でしょー?」
「朝までって千颯、お前さんどんだけ飲む気だよ。リュカに狐に、このメンツで集まると大抵飲んでる気がすんな……」
「征四郎も混ぜてほしいのですよ」
 聞こえてきた紫 征四郎(aa0076)の声に、ガルーは驚き振り返った。見れば征四郎がいつの間にかちょこんと後ろに立っている。
「なんだ、てめぇまで起きてきたのか。子供は寝る時間だろ」
「こういう時だけ子供扱いずるいのです。征四郎はレディですから、ねー」
「これは皆さん、お揃いで」
 続いて佐倉 樹(aa0340)と蛇塚 悠理(aa1708)が、それぞれ別方向から一同の方に歩いてきた。悠理は自分以外のリンカーの姿に一時背を向けようとしたが、悠理に気付いた樹が気遣わしげに声を掛ける。
「悠理さん、ケガのお加減いかがですか?」 
「……あぁ、あの時の。世話をかけたね……」
「なんだ、まだ飲んでいたのか。喉が渇いたので来てみれば……」
 再び姿を見せたショウゲンに、先のメンツが手を挙げた。それでは改めて二次会を……と一同が席についた所で、さらに新たな人物がテント入口に現れた。
「ミナサマも眠れないのでござるか?」
 頷いたリンカー達を見て、ガイル・アードレッド(az0011)は「ぽん」と手を打った。そして一同の顔を見渡し、名案とばかりに晴れやかな表情を浮かべてみせる。
「ミナサマ、もしよければ拙者にミナサマの、今までのボウケンの話を聞かせて欲しいでござる! 拙者、ハクシキなNINJYAを目指しているのでござるが、知らない事もメニ―でござるゆえ……よ、よろしければでいいのでござるが……」
 そう言って、自称NINJYAは伺うようにリンカー達を見つめてきた。その表情は寝る前に大人に絵本をせがんでくる幼稚園児によく似ていた。


「まずはお近付きの印にー? いい夜だしよ、少し付き合え。そういえば名前似てるな」
 ガルーは述べつつガイルの手にそっと酒を差し出した。ここに来る前から飲んでいたのかやや酒の匂いが漂ってくる。ガイルが「ソ―リー、拙者は……」と戸惑っていると、リュカが横から現れてガイルに酒を握らせる。
「良く来たな新たな生贄よ! お兄さん達と一緒に飲もう!」
「ソ―リーでござる、拙者おサケは……以前おねえさん殿に飲まされてミステイクした事が……」
「え? それってもしかして恋バナかな? 冒険という名の恋愛話はお兄さん大得意だよ! ガイル君ももてそうだよねー」
「絡むなこの酔っ払い」
 リュカを諫めたオリヴィエは、「無理に飲まなくていいぞ」とガイルから酒を離してやった。それから、ガイルの要望に手帳を開き、たどたどしく本を読み上げる様にこれまでの冒険を話していく。従魔を倒して自ら捌いて料理した話、カーチェイス、太古の恐竜との戦闘、子を失った母にかける正解の言葉が未だに見つからない事……淡々と、しかし聞きやすいようゆっくりと話すオリヴィエに、ガイルは時に拳を握り、時に涙を浮かべ、最後に惜しみない拍手を送った。
「すごいでござる! 大ボウケンでござるね!」
「アードレッドは初めましてですね。冒険の話、です? じゃあ征四郎、苺にお味噌を付けて食べたお話をするのです」
 おつまみと白虎丸に入れてもらったココアを口にしていた少女の言葉には、一同が一斉に我が耳を疑った。「えーっと、今なんて?」と呟いた相棒をさて置いて、少女は静かに言葉を紡ぐ。
「苺にお味噌、なのです。お友達に勧められたのです、とっても美味しくなかったのですよ。美味しくなかったですが、やってみたから美味しくないと分かった。征四郎はひとつ学習しました、多分もう二度とやらないです。
 信じる以外の事も、たまには試してみていい。征四郎は今まで剣ばかりやってきましたが、ガルーの影響で戦闘の時は槍を使っているのです。結果、剣にも良い影響を与えている気がします。仲間の戦術を真似してみたりする事で、より理解が深まって連携がしやすくなる事もあるかもですね。冒険の話ってこういうのじゃないのです?」
「ベリーグッドなボウケンでござる! 拙者もたくさん学ぶでござる。ミソ味ストロベリーも食べてみるでござる!」
「いや、そこは冒険しなくていいぞ?」
「冒険話か……冒険らしい冒険と言えば、先のアンゼルム達との戦闘ぐらいか?」
「何だ、今度は忍者か。しかし冒険譚と来たか。我が傾国の軌跡とあらば幾らでも語ってやるが、貴様には刺激が強すぎるだろう、ふふ。此方に召喚されてからの話ならば……うむ、この優美で風雅な我はいつ何時も完璧だ! 華麗に舞い踊りながら蹂躙してやったわ」
「冒険……やはりドロップゾーン破壊の任務の時になりますかね。あの時は良く飛ばせました」
「冒険の話と言われて話せる面白い話はないが、共に戦った時の話をしようか」
 恭也、楓、樹、ショウゲンの話に、ガイルはいずれも身を乗り出し、目をキラキラと輝かせながら聞き入った。そして悠理の番が来たが、悠理は冒険話を語るというより、自分の傷を見せるような沈んだ口調で語り始めた。
「話せるようなものはあまり無いのだけど、人にも色々とあるように愚神にも色々とあるのだと思ったよ。誰かの嫌な記憶、思い出したくない記憶を見せつけてきたりとかね。……それに少しやられてしまって、無様に撤退してしまった。
 一つ聞きたいんだが、ガイルさんは何故理想のNINJYAになりたいんだ? 何故そんなに頑張れるのかな。辛いと思った事や、苦しいと思った事は?」
 悠理の言葉に、ガイルは戸惑いのようなものを見せた。それに対し、千颯は手のアルコールを置き真剣な表情で口を開く。
「ガイルちゃんは俺ちゃんの冒険譚を聞いてどうするの? ガイルちゃんが本当に聞きたい事は冒険譚なの? 何か悩みがあるのなら、反対に俺ちゃんに打ち明けるといいんじゃない? 悩みあるならゲロっちゃいなよ!」
 千颯のノリの軽い、しかし温かみのある言葉に、ガイルは言葉を詰まらせた。机の上に視線を落とし、零すように想いを吐露する。
「拙者、何度もミナサマと一緒にニンムさせて頂いたでござるが、ミステイクばかりで……もっとミナサマのお役に立ちたいでござるが、どうすればよいのか……」
「仲間の為にの前に、ガイルちゃんはどう有りたいの? まずは其処を押さえないと。
 俺ちゃんは子供は絶対に守るっていう信念がある。で、白虎ちゃんは人を助けたいという願望がある。俺ちゃん達の行動は『守る事』だ。だから守る為なら自分を犠牲にする事も厭わないぜ。ガイルちゃんにはそういう想いってある? それがあるなら後はその想いを信じて行動あるのみだぜ! 失敗大いに結構! 次に繋げられるじゃん!」
「千颯がまともな事を言っているでござる……これで酒盛りしてなければ見直したでござるが」
「それはそうとガイルちゃん、口調が白虎ちゃんと被ってるんですけど? 」
「被っ……千颯! こちらの世界では武士は語尾に『ござる』をつけると教えたのはお前だろうが!」
 千颯を見つめるガイルの前に、一杯の紅茶が差し出された。恭也は紅茶を机に置くと、物静かに語り掛ける。
「体が冷えると良くない事ばかり頭に浮かぶ。一杯飲んで温まると良い。
 失敗なんて誰でもするさ。大事なのはそこから何を学ぶか、そしてどう取り返すかだ。少なくとも失敗を悔やみ、同じ過ちを繰り返さない様に注意しているのなら、後は自分の出来る事を出来る範囲で行えば自然と仲間の役に立っているさ。……どうにも、似合わない事を語ったな。他に飲み物がいる者はいるか? 用意する」
「恭也殿……」
「貴様は何やら思い悩んでいるようだが、経験の無い内は無理に色々手を付けることはない。闇雲に手を伸ばすも悪くはないが、出来ることから着実に、先ずは自信を付けよ。それから範囲を広げるが良い」
「楓殿……」
 白湯を飲みながら黙っていた樹は立ち上がると、ガイルの額にペタリとシールを貼り付けた。目を丸くするガイルの前に、樹はガイルに貼ったのと同じ「たいへんよくできましたシール」を見せてやる。
「カレーの時に忍者の仕事をお願いしたでしょう? ちゃんとその偵察の任務をこなそうと頑張ってくれていたと聞きました。なので……まぁ、ささやかですがご褒美というヤツです」
「ガイルサンのたメに準備しタご褒美なンダヨー」
「ガイル殿は落ち込んでいるようだったが、失敗を経験し、それを反省出来る真面目さとひたむきさは間違いなくガイル殿を強くする。いつまでもそんなガイル殿でいて欲しいものだ。まあ、思慮深さはもう少し必要かもしれんがな」
「役に立ちたいとは思わずに、自分に出来る事をすればいいんじゃないかな。1しか出来ないとしても、2や3を目指さずに1を一生懸命やれば、それはきっと誰かの為になると思う」
 続いたシルミルテ、ショウゲン、悠理の言葉に、ガイルは目を潤ませた。目を拭い、元気いっぱいに立ち上がる。
「サンキューベリーマッチでござる。拙者、理想のNINJYAとなるべくセイイッパイ頑張るでござる! それがミーの夢でござるから! そうと決まればタンレンを頑張らねば。早起きのためにスリープでござる!」
「俺達もそろそろ帰るとしよう。伊邪那美も眠ってしまったようだし。良い夢を、な」
「征四郎、俺達も戻るぞ。お前達もさっさと寝ろよ」
「ロマンティックにおねがいしますよ! あ……お姫様抱っこ……そう! それでいいのです!」
「俺も楽しい時間を過ごさせてもらった。本当に暇をもらうとしよう」
 ガイル、伊邪那美を抱えた恭也、征四郎をお姫様抱っこしたオリヴィエ、そしてショウゲンが宴会場から去っていった。同じく立ち上がった樹とシルミルテに、悠理が苦笑気味に声を掛ける。
「先程は、気遣ってくれてありがとう」
「次はこちらが抉りに行きましょう」
「……ああ」
 そして、テントには白虎丸とうわばみ達と大狐が残された。時刻は午前三時に近いが、楽しい時はまだまだ続く。
「よし、それじゃあ改めて」
「本当に朝まで飲む気なのか」
「当たり前じゃーん」
「程々にな」
「それでは、素晴らしき月夜と夢と冒険に」

『乾杯!』

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結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
    人間|31才|男性|攻撃
  • 仄かに咲く『桂花』
    オリヴィエ・オドランaa0068hero001
    英雄|13才|男性|ジャ
  • 『硝子の羽』を持つ貴方と
    紫 征四郎aa0076
    人間|10才|女性|攻撃
  • 優しき『毒』
    ガルー・A・Aaa0076hero001
    英雄|33才|男性|バト
  • 雄っぱいハンター
    虎噛 千颯aa0123
    人間|24才|男性|生命
  • ゆるキャラ白虎ちゃん
    白虎丸aa0123hero001
    英雄|45才|男性|バト
  • 太公望
    御神 恭也aa0127
    人間|19才|男性|攻撃
  • 非リアの神様
    伊邪那美aa0127hero001
    英雄|8才|女性|ドレ
  • 美食を捧げし主夫
    会津 灯影aa0273
    人間|24才|男性|回避
  • 極上もふもふ
    aa0273hero001
    英雄|24才|?|ソフィ
  • 深淵を見る者
    佐倉 樹aa0340
    人間|19才|女性|命中
  • 深淵を識る者
    シルミルテaa0340hero001
    英雄|9才|?|ソフィ
  • エージェント
    大崎 陸羽aa1140
    機械|16才|男性|命中
  • エージェント
    ショウゲンaa1140hero001
    英雄|37才|男性|ドレ
  • 聖夜の女装男子
    蛇塚 悠理aa1708
    人間|26才|男性|攻撃
  • 聖夜の女装男子
    蛇塚 連理aa1708hero001
    英雄|18才|男性|ブレ
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