本部

好きと才能

gene

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~6人
英雄
6人 / 0~6人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2015/12/06 00:48

掲示板

オープニング

●高校体育館(土曜日午前)
 どんなに懸命に戦っても、レギュラー入りをすることはない。
 好きこそものの上手なれとは言うけれど、それが通用しない……それがスポーツだ。
 才能がある人間がいつだって中心にいる。そして、トップへの順位を作る。
 いくらそのスポーツが好きでも、才能がなければ、中心には行けない。トップになど、近づくことさえもできない。
「だから、僕は欲した。最高の、才能を……」
 まさか、こんな才能があったなんて、思いもしなかったけれど……と、久世古虎は笑った。
「トップレベルの選手達に簡単に追いつくことのできる能力を持った存在になれるなんて……」
 古虎は笑って、足元に転がっていた暗いオレンジ色のボールを両手で拾った。
「能力者だって……恵まれた才能のひとつだろう?」
 ダンッと体育館にボールが弾む音が響いた。
「お前には才能がない」と、散々、古虎を馬鹿にし続けてきたレギュラーメンバーは、古虎の蔑むような笑いにいら立ちを募らせ、ボールを奪うために走り出した。
 やっと、自分のことを相手にしてくれたメンバー達に、古虎は笑う。
「さぁ、楽しいゲームを始めようじゃないか?」

●H.O.P.E.
『もう三日なんです!』
 電話口の男は震える声でそう言った。
『もう、三日間連続で試合しているんです』
 依頼の電話を受け取ったつもりだったH.O.P.E.の職員は、だからどうした? と、眉をひそめる。
「試合って、なんですか? なにかの大会ですか? 三日間開かれることなんてそう珍しくもないでしょう」
 面倒な電話をとってしまったのかと、受話器を耳から離してため息をついた。
『大会じゃないんです。バスケットボールの部員同士で試合をしているんです。部員の一人が能力者になったようで……三日間連続……もう五十五時間以上、能力者である久世対レギュラーメンバー五人で試合をしているんです』
 その言葉で、ようやく職員は緊張感を抱いた。
「五十五時間!?」
『もう、生徒達の体力は限界だと思います……どうか、久世を止めてください!!』

解説

●目標
・久世古虎と英雄の能力を分析してください。
・その上で、傷つけないように捕獲してください。(試合をやめさせてください)

●登場
・久世古虎 十七歳
・バスケット部 部員
・小学校の頃からバスケットをしている
・足は速いが、それ以外の取り柄はなく、レギュラーメンバーに選ばれたことはない
・ボールを扱うセンスはないものの、無心にボールを追いかけるバスケットが好き
・一週間くらい前に英雄と誓約を結び、英雄と共鳴することによって運動能力が飛躍的にのびることに気づく
・種族:人間
・クラス:回避特性

●場所と時間
・高校の体育館
・夕方

●状況
・久世古虎は、バスケット部レギュラーメンバー五名と試合をしています。(一対五)
・古虎は英雄と共鳴しています。英雄のクラスはまだ不明です。
・試合は接戦のため、連続して続けられていますが、古虎が試合をコントロールしていることは明らかです。
・自分を馬鹿にしたレギュラーメンバーに屈辱を晴らそうとしているわけではありません。
・古虎はこの試合を楽しんでいます。

リプレイ


「いくら好きとはいえ、三日ぶっ続けって……すごいな」
 H.O.P.E.で説明を受けた時にも同じ感想を抱いたが、実際に高校の体育館に来てみて、会津 灯影(aa0273)は改めてそう思った。
 重そうな足取り、反応の遅くなった目、目の下のクマ……一目見て、全員が限界に達していることはわかる。それは、今回の問題児、古虎も同じだ。
 けれど、それでも、ゴールに向かう一瞬、彼らは俊敏な選手に戻り、シュートを決める。
「おい、誰ぞるーるを教えよ」
 選手達の様子に、楓(aa0273hero001)は期待を膨らませる。
「三日休息なしで楽しめる遊戯なのだろう? 退屈はするまい」
 監督は選手の体のためにこの試合をはやく終わらせようと思っているようだが、他の部員はこの試合を楽しんでいるようだった。
 レギュラー選手を応援している部員もいるが、どちらかというと古虎を応援している部員のほうが多い。
「これは、ちょっと予想と違うかな?」
 耳から入ってくる部員達の声から、彼らの盛り上がりを察した木霊・C・リュカ(aa0068)は苦笑する。
「もっと、険悪なムードになってると思ったんだけど」
「……それだけ、好きってことだろ」
 この場にいる部員全員が、本当にバスケが好きなのだ。
「嬉しいのは解るが、入れ込むにも程があるだろ」
「悪いほうに転じてヴィランにならなかったのはいいことですわ」
 ため息をついた赤城 龍哉(aa0090)だったが、ヴァルトラウテ(aa0090hero001)の言葉に「まあな」と相槌をうつ。
「それに、すごく楽しそうですわね!」
 わくわくと、楽しそうにヴァルトラウテは試合を観戦しはじめた。
「まずは、メンバー交代で部員五人と俺達が順次入れ替わるとしよう」
 龍哉の提案にエージェント達は頷く。
「あなた達が来ることは久世にも伝え、選手交代をするタイミングは自由にしてもいいということになりましたので……」
 監督からそう聞いた龍哉はコート内に入り、「交代だ!」と大声で告げる。
 現在の点数は同点だ。
「楽しそうだな。俺達も入れてくれよ」
 ユニフォームを来たレギュラーメンバーのなかから、一番動きが鈍くなっていた選手を選んで交代した。
 龍哉が古虎を見ると、古虎の目は輝き、彼らの登場を喜んでいるのがわかる。
 交代させた選手をマットに寝かせ、リュカは彼の足を高くして主要な血管を冷やすようにする。
「あと、これ飲んでね」
 リュカの要望に応えて保険医が用意しておいてくれた経口補水液にストローをさして渡す。
「次は、オリちゃん行く?」
「オリヴィエ殿、もし行かれるなら木霊殿は俺に任せるといいでござるよ」
 虎噛 千颯(aa0123)と白虎丸(aa0123hero001)に頷きを返して、オリヴィエ・オドラン(aa0068hero001)が一歩前へ出る。
「背は低いが、シュートやパス、ドリブルカットくらいならできる」
 千颯が軽く手をあげて監督に合図すると、監督は選手達に声をかけた。
「交代だ!」
 オリヴィエと交代した選手に、灯影が「おつかれ!」と、タオルとスポーツドリンクを渡す。
 コート内では、武術に長けた龍哉がその応用で間合いをつめて古虎の動きを止めたところだった。
「共鳴ってのは、英雄がいて出来るもんだろ」
 そう龍哉は古虎に話しかける。
「つまり、お前は二人分の力で戦ってることになる……スポーツ的に言えば、ドーピングみたいなもんだ。それを、お前さんはフェアプレーだと言い切れるか?」
 龍哉の言葉に臆することもなく、古虎は笑って答える。
「言えませんね」
 龍哉が古虎の気をそらしている間にオリヴィエが古虎からボールを奪い、ドリブルで走り出す。
「負の感情は見られんな……純粋にバスケを楽しんでいるのか」
 コートの外で、御神 恭也(aa0127)は古虎の表情や動きを観察する。
「ところで」と、恭也は横にいる伊邪那美(aa0127hero001)を横目で確認した。
「その格好はなんだ?」
「え?」と、チアリーダの格好をした伊邪那美が恭也を仰ぎ見る。
「試合を応援する時はこれが正式な制服だって聞いたんだけど?」
 恭也はすっと視線を試合に戻した。
「そうか。すまんが、教えた人物を教えてもらえるか? 色々と話し合う必要がありそうだ」
 疲れきっているメンバーのなか、どのタイミングで誰にパスを回していいのかわからず、ひとりでゴール下まで来てしまったオリヴィエはそのままシュートする。しかし、ボールは惜しくもリングに弾かれる。
 リングを見つめ、オリヴィエは眉を寄せる。
「……銃弾なら、外さないのに」
 落ちてきたボールを、龍哉をかわしてきた古虎がキャッチする。古虎は敵陣のゴールまでドリブルし、レイアップシュートを決めた。
「……はやい」
 バスケをし慣れないオリヴィエにとってはドリブルをするだけでも集中力を必要とすることだったが、そんなドリブルをしながらの古虎の足の速さは目を見張るものがあった。
「ちょっと、あんたら……」
 レギュラーメンバーの一人が、龍哉とオリヴィエに不機嫌そうに声をかける。
「監督に言われてあいつを止めに来たのかもしれねーけど……俺達の邪魔すんなら、出てってくれ」
 確かに、いまのままではレギュラーメンバーのフォローどころか、古虎を満足させることなど無理のように思える。
「交代! 神崎!」
 文句を言ったメンバーは監督に呼ばれ、渋々とベンチへ向かった。
 千颯は紫 征四郎(aa0076)を送り出す。
「征四郎ちゃん、ガンバローねー!」
「応援してるでござる」
 千颯と白虎丸に、征四郎は負けん気の強い瞳で答える。
「頑張ってくるのです!」
 ベンチへ向かっていた神崎だったが、征四郎の姿に足を止めた。
「子供?」
 征四郎も神崎と目を合わせる。
「背番号四番……あなたが、PGですか?」
「バスケ、やってんのか?」
「皆さんほど上手くはないですよ」
「でも、」と、征四郎は微笑む。
「エージェントのPGをするなら、あなたにも負けないと思うのです」
 征四郎の強気の言葉に神崎は驚く。
「ベンチで、見ててください。私もオリヴィエも背は低いですが、小さいなら小さいなりの戦う方法がありますから」
 その言葉通り、征四郎は体のコンパクトさを十二分に利用して、ボールを奪おうとする古虎の手をかいくぐって進む。
 体のバネを使ってシュートするも、簡単に古虎に弾かれることを予想して、シュートと同時にオリヴィエに声をかけた。
「オリヴィエ! 弾かれたボールを取ってください!」
 予想通りにボールが古虎の右手に弾かれたのを確認しながら、次に龍哉に指示を出す。
「龍哉、ゴールに向かってジャンプです! オリヴィエ、龍哉の手を狙ってボールを放って!」
 征四郎の指示通りに動いた二人は、流れるようなパスからのシュートを決める。
「へぇ……」と、古虎の口角があがる。
「エージェントの皆さんには、いいPGがいるみたいだね」
「クゼも」と征四郎も笑ってみせる。
「なかなかいい動きですね。誓約から日が浅いとは思えないのです」


「神崎ちゃんはまだ体力ありそうだね」
 ベンチに座っている神崎にリュカが経口補水液と冷たいタオルを渡す。
 それを無言で受け取った神崎に、リュカは聞いた。
「試合中、古虎ちゃん、なんか言ってなかった?」
「……別に。試合を楽しんでるみたいだが、それ以外は特になにも」
「一般の人ではできないようなことをしたり、気になった動きは?」
「俺達ができないような何かをするようなことはないな」
「ただ、」と、神崎は言葉を続ける。
「あいつにしては、ボールの使い方がすげぇ上手くなってる」
「ボールの使い方?」
 他の選手に湿布を貼りながら、灯影は聞いた。
「あいつはもともと足は速いし、人をかわすのも上手い……でも、ボールを扱うセンスみたいなのが欠落してて、パスを出すのも下手だし、シュートもダメだった」
「それが、今回の試合では極端に上手くなってたってこと?」
 灯影の問いに、神崎は「いや」と首を横に振る。
「急に上手くなってたわけじゃなく、試合をしている間……あいつは着々と上手くなってるって感じだ。自分がやっと掴んだ才能を、あいつは、今、磨いてるんだと思う」
「……君は、怒ってないんだね?」
 リュカの言葉に、神崎は笑った。
「怒る? どうして? あいつがやっと、ここまで追いついてきたのに?」
 神崎に千颯は気になっていたことを尋ねる。
「トイレとか、ごはんはどうしてたの?」
「トイレはインターバルの時間をすこし延ばして。食事の時間は十五分くらいとってた」
「意外に」と、また神崎は笑う。
「古虎の応援するヤツが多くて、あいつの飯とかすげーいっぱい用意されるから、余ってるよ」
 神崎が視線を向けたベンチのほうを見ると、確かにおにぎりやパン、バナナなどが袋に入っておいてあった。
「なるほど」
 千颯は余っている食べ物を見て頷き、それからすこし腰をまわしたり、背中をのばしたりとストレッチをした。
「それじゃ、俺ちゃんもちょっくら行ってくるかな」
「俺ちゃんも混ぜて〜」っと、千颯は軽い調子でコートに入る。
 もう抜けたい……という空気を醸し出したのはレギュラーメンバー二名だった。このチームは神崎が支えていたため、神崎が抜けると気力も急激に低下するようだ。
 お互いに顔を見合わせたレギュラーメンバー二名に千颯は笑って、ガルー・A・A(aa0076hero001)を呼んだ。
「ガルーちゃん! はやく来てー! 二名、交代〜!」
 千颯が古虎に「いいよね?」と聞くと、古虎は機嫌良く笑って頷く。
「僕は楽しめれば、どちらでも」
 リスタートで千颯がボールにタップし、征四郎がボールを取ってドリブルで走り出す。
「確かに楽しいですが、征四郎は、クゼはもう少し、力の使い方について考えるべきだと思います」
 古虎が征四郎の前に回ってきたところで、征四郎はガルーにパスを回すフリをしながら、斜め後ろにいたオリヴィエへパスする。
 オリヴィエは千颯に向かってはやいパスを放ったが、古虎が取り難い低さで回されたパスを千颯は取り逃がす。
「やっべ……」
 千颯は慌ててボールを追いかけたが、転がったボールを先に拾ったのは古虎だ。
 古虎の動きを見ながら千颯は考える。
(攻撃的なプレーをするわけではない)
 横から千颯がボールを取ろうとするとそれを古虎はかわす。
(神崎ちゃんの言葉通り、かわすのは上手い)
 龍哉が追いついてきて、古虎の前にまわる。古虎の動作の無駄をついて間合いをつめる龍哉に、古虎の足は止まる。
(フェイントでは乗り切れず、力任せに突破するわけでもない……)
 さぁ、どうする? と、観察していると、そこから古虎はゴールへボールを放った。
 ボールの動きに気をそらした龍哉から逃れ、古虎は走る。
 古虎の放ったボールはバックボードの上方に当たり、跳ね返った。
 落ちてくるボールを古虎はジャンプして取ろうとする。しかし、ゴールを守っていたガルーが古虎より高く飛ぶ。
(当たりは弱い)
 空中でガルーの体に押され、古虎はボールをとれないまま地面に着地する。
「ガルー! 千颯です!!」
 征四郎から急に名前を呼ばれ、それまで古虎の観察をしていた千颯は驚いた。
「オレっ!?」
 動揺している間にも、ガルーからの素早いパスが飛んできた。
「千颯、逃げてください!」
 征四郎の言葉に従い、千颯はドリブルで逃げるが……
「古虎ちゃん、めちゃくちゃ足が速いんだけど!!!」
 レギュラーメンバーとやっていた時には見せなかった速さで古虎は千颯を追う。
「あれは、回避適性によるものですかね……」
 征四郎の呟きに、オリヴィエが答える。
「逃げ足の速さを追う側に応用してるのか」
 もう追いつかれるというところで、征四郎から指示が出る。
「右斜め後ろにパスです!」
 千颯は言われた通りに動いたものの、そのパスは古虎に阻まれる。
「大声で指示を出してくれるから、わかりやすくてありがたいよ」
 アイコンタクトや何かのサインだけで指示を伝えられればいいのだが、即席のチームはそんなわけにはいかない。
「交代!」
 そう叫んだのは、神崎だった。
「そこのPG! 俺と代われ!」
「いやです!!」
「いまの試合なんだよ! やっぱり俺じゃねーとダメだろ!」
「いいえ! エージェントのPGはあなたにはできません!!」
 言い合いになる二人をまぁまぁとリュカと灯影がおさめようとしている中、千颯は恭也と交代する。
「恭也ちゃん、頼りにしてるよ! 俺ちゃんあっちできゅうけ……」
「おいおい、まだ虎噛は体力低下が現れる年齢でもないだろう」
「働け馬鹿者! 御神殿に甘えるな!」
 千颯が恭也と白虎丸にツッコまれている間に、龍哉と楓はスムーズに交代する。
「何、玉遊びなど造作もない」
 結局、PGは征四郎のまま行うこととなり、恭也と楓が入って、試合は再開する。
「さっきの場面、どうしてスリーポイントシュートをしなかった?」
 ドリブルでゴールへ向かう古虎に恭也は質問を投げかける。
 探りを入れるつもりで聞いた質問に、意外にも古虎は素直に答えた。
「普通は、あんな距離でシュートはしません。終了時間ギリギリとかで奇跡でも期待していない限り」
(この回答……遠距離からのシュートができないのではなく、あえてしなかったということか……)
 ゴール下、古虎がシュートを放ったボールをガルーが叩き、恭也が取る。ドリブルで走り出すと、古虎が前に回る。
 恭也は左側へ走り出すと見せかけ、古虎がつられて左に動いたのを確認して、右側を抜ける。
 足の速い古虎に追いつかれる前に、恭也は前方にいたオリヴィエにパスを回す。
 すると、オリヴィエは意外にもその場でドリブルをして、古虎が来るのを待った。
 古虎が追いついてきたところで、オリヴィエは古虎の中の英雄に聞く。
「古虎の英雄……お前達が結んだ誓約はなんだ?」
 オリヴィエの言葉に反応したように、古虎の口元が弧を描き、艶っぽく笑う。
「地を這ってでもやり通す……それが、私と彼との誓約です」
「私欲によって、周囲に迷惑をかけてでもか?」
 古虎と共鳴した体を使って、英雄はゆったりと頷く。
「だから、地を這ってでも……と、誓約を結んでいるのです。己が掴みたいと思ったものがあるなら、周囲に迷惑をかけ、蔑まれ、孤独になろうとも、進まねばならない時がある」
 一瞬、ひどく冷たくなった英雄の眼差しに、オリヴィエは射抜かれるような感覚を覚え、反射的に銃を取り出そうとした。しかし、今日はそんな物騒なものは身につけていない。
 ドリブルが止まったことにより、ボールは転がる。
「我の主の読みが正しければ、貴様はジャックポットか?」
 楓の言葉に、古虎の中の英雄はただ笑みを返してボールを拾うと、そこからゴールに向かってボールを放ち、スリーポイントシュートを決めた。
「あーあ。彼女の手はできるだけ借りたくなかったのに……」
 英雄と入れ替わった古虎は苦笑する。
 ゴールの下でボールをキャッチしたガルーは、一旦、征四郎に視線を合わせ、征四郎が頷いたのを確認してオリヴィエにパスを回した。
 オリヴィエはパスを受け取ると、そこからゴールに向かってシュートを放ち、見事に決めた。
「へぇ……君は、彼女と同じクラスってこと?」
 古虎に真っ直ぐに視線を向けることで、彼の質問にオリヴィエは答える。


 古虎がドリブルで運ぶボールを、恭也が叩き、弾き出されたボールをオリヴィエが掴む。
 ドリブルをしながらオリヴィエは征四郎を確認して、征四郎の視線の流れを追う。
 そして、オリヴィエはガルーへロングパスを放つ。
「……視線だけで指示を出せるようになったようだね」
 ちらりと征四郎に視線を向けた古虎は、ボールを追って走る。
「僕にとっては、ゴールが近くなってラッキーだけど……何を企んでいるのかな?」
 古虎はガルーがすぐに他へパスをするだろうと読んで、パスを出しそうな恭也の位置を把握する。しかし、予想に反してガルーは真っ直ぐに古虎に向かってドリブルしてくる。
 古虎は走る速度を緩め、ガルーが左右どちらに行ってもいいように足の動きに注意する。だが、その予想も裏切り、ガルーはその場でジャンプしてボールを放った。
 慌てて後ろを振り返ったが、飛距離が足りなくて、ボールはゴールの手前に落ちる。
 しかし、そこには征四郎がいた。
 ゲームクロックを確認して、古虎はやっと気がついた。PGである征四郎の目論見に。
 ガルーからのパスを受け取った征四郎は、敵陣のゴール下にいてくれるように頼んでおいた楓にパスを回すのと同時に指示を出した。
「華麗に飛んで、輪っかのとこに入れるのです!」
 征四郎の指示通り、軽やかに飛び上がった楓はダンクとは思えない華麗な動きでダンクを決めた。楓本人はそれが誰もが憧れる技であるとは知らずに。
 次の瞬間、タイムアップを知らせるブザーが鳴った。

「負けたー!」
 そう言って古虎はその場で仰向けに倒れた。しかし、言葉とは裏腹に、清々しい表情をしている。
「いい試合でしたわね」
 タオルで古虎の額の汗を拭いてくれたヴァルトラウテの優しい微笑みに、古虎の頬がすこし染まる。
 そんな古虎の顔を次に覗き込んだのは、さっきまで勇ましく指示を出していた征四郎だ。
「卑怯な手を使ってすみません。こちらのほうが人数が多いのに、こうでもしなければ、クゼを止められなかったのです」
 試合相手に敬意を示す征四郎に、古虎は今日何度も見せた機嫌のいい笑顔を見せる。
「バスケには計算も必要だ。卑怯だなんて思ってないよ」
「征四郎には、古虎の体力もレギュラーメンバー同様、限界に見えたのです。だから、ここで勝負が決まらなければ、スキルを使ってでも止めようと思っていたのですが、そうはならなくてよかったです」
 征四郎の言葉に、古虎は「ははっ」と笑った。
「心配かけてたみたいだね。ごめんね」
「笑い事じゃねぇ!」と、ガルーは古虎の額をペチッと叩いた。
「共鳴したリンカーの力は絶大だ。そんなお前さんに付き合わされた奴らはどうなる?」
 ガルーに言われてコートの外を見ると、神崎以外の選手はマットの上で横になっている。
「長時間の運動による負荷で膝を故障したっておかしくねぇ。お前さんだって危なかったろ。強い力には、それだけの責任が伴うんだ」
「誰かの力を借りることは努力することか? それは才能じゃない。ただのズルだ」
 千颯はあえて苦言を呈する。
「今までずっと頑張ってきたんだろ? それをそんなズルで全部無駄にする気か? 好きだからと言って才能に恵まれるわけじゃない。でも、好きだからこそどんなに辛くても頑張れるんだろ? それもある意味才能だと思うぜ」
「能力者になることが才能だとは考えたこともなかったな」
 レギュラーメンバーへの一通りの処置を終えて、灯影がコートに入ってきた。
「才能、呪い、祝福……解釈は色々だ。けど、これは久世の求めてる才能とは違うんじゃねーかなぁ」
 楓も古虎に言葉をかける。
「才能がないのは悪いことではない。ないだけの努力を重ねたならば後は自信をつけよ。自らを信じないで、誰が評価するか。上を目指すならば胸を張れ」
「……そうだね」と、古虎はどこか寂しそうに笑う。
「古虎、部活辞めんなよ」
 いつの間にかそばに来ていた神崎が言った。
「お前、こういうことしちゃう割には真面目だから、能力者になった瞬間、もう俺達とはプレーできないとか思ったんだろ?」
 古虎は上半身を起こして、神崎と真っ直ぐに視線を合わせる。
「だから、せめて、最後に俺達から技を盗もうとしたんじゃないか? お前の英雄ってやつのセンスを借りて、ボールの使い方を覚えようとしたんだろ? でも、それが一回の試合でできるわけねーだろ!」
 神崎はガルー以上の強さで古虎の頭を叩く。
「これからも、試合やろうぜ? お前のレベルが上がれば、いい練習相手にもなるしな」
 それだけ言うと、神崎はコートから出て、そのまま体育館の出口へ向かった。
「クゼさえよければ、全員共鳴状態での3on3をしてみませんか?」
 どこにそんな気力が残っているのか、征四郎の言葉に古虎はその瞳を輝かせる。
「マジで? それ、超楽しそうじゃん!」
「純粋に楽しみたいなら、俺ちゃん達が満足するまで相手してやるよ」
 千颯も笑顔を見せる。
「能力者としての力を使って楽しむなら同じ土俵でやったほうがいいだろ?」
 龍哉は手を差し伸べ、古虎を立ち上がらせる。
 オリヴィエはベンチに座るリュカのもとへ行くと、「交代だ」と告げた。
「……お兄さん、動き方とか全然わかんないよ?」
「共鳴も俺達も、あんたら能力者の才能じゃないが、あんたらの想いに呼ばれてきたものだ。下手でもいい。やってみろ」
 最初、困ったような笑顔を見せたリュカだったが、オリヴィエの言葉にその目をすこし見開き、それから嬉しそうに笑って共鳴した。
「千颯ちゃん! 頑張って恭也をコテンパンに負かしちゃってね!」
 白虎丸を呼びに来た千颯にそう言ったのは伊邪那美だ。
「今度は共鳴状態での試合だから、恭也ちゃんをコテンパンにするとなると、伊邪那美ちゃんもコテンパンにしなきゃいけなくなるよ?」
「えっ!?」と、動揺する伊邪那美と、恭也は半強制的に共鳴する。
「我はどちらの側でも構わん!」と、試合を楽しみにしている楓を引っ張り、灯影はちらほらと帰りはじめた部員達の代わりに審判をすることにした。
「さぁ! 楽しい第二回戦なのです!!」

 その後…… 神崎含めたレギュラーメンバーと古虎が数日間寝込むこととなったが、回復後、古虎は神崎のいい練習相手となっている。

結果

シナリオ成功度 普通

MVP一覧

  • 『硝子の羽』を持つ貴方と
    紫 征四郎aa0076
  • 美食を捧げし主夫
    会津 灯影aa0273

重体一覧

参加者

  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
    人間|31才|男性|攻撃
  • 仄かに咲く『桂花』
    オリヴィエ・オドランaa0068hero001
    英雄|13才|男性|ジャ
  • 『硝子の羽』を持つ貴方と
    紫 征四郎aa0076
    人間|10才|女性|攻撃
  • 優しき『毒』
    ガルー・A・Aaa0076hero001
    英雄|33才|男性|バト
  • ライヴスリンカー
    赤城 龍哉aa0090
    人間|25才|男性|攻撃
  • リライヴァー
    ヴァルトラウテaa0090hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • 雄っぱいハンター
    虎噛 千颯aa0123
    人間|24才|男性|生命
  • ゆるキャラ白虎ちゃん
    白虎丸aa0123hero001
    英雄|45才|男性|バト
  • 太公望
    御神 恭也aa0127
    人間|19才|男性|攻撃
  • 非リアの神様
    伊邪那美aa0127hero001
    英雄|8才|女性|ドレ
  • 美食を捧げし主夫
    会津 灯影aa0273
    人間|24才|男性|回避
  • 極上もふもふ
    aa0273hero001
    英雄|24才|?|ソフィ
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