本部

土蔵のぼうけん

水藍

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2015/12/02 22:07

掲示板

オープニング

●呪われた土蔵
 とある旧家の、一番奥にある古びた土蔵には、大きな化け物が住んでいる。
 いつの時代からか、どこの誰が言いだしたのかは分からないが、そんな噂がこの土地には根付いている。
 いつだったか、その土蔵に忍び込んだ男は翌朝見るも無残な姿になって帰って来ただとか、土蔵に迷い込んだその旧家の飼い猫が変わり果てた姿で発見されただとか、いつの時代になっても住民の間に流れる噂はいつだって残酷なものだった。
 この噂を受け、何代か前の旧家の当主が自ら土蔵に入ろうとしたことがある。
 そんな不吉な噂をいつまでも流されている事は、この旧家にとっても恥ずかしいことであるし、現実主義者だったその当主は自らそんな噂をなかったことにしようとしたのだ。
 まだ太陽が真上にある昼。
 その当主が土蔵の扉を開けたときの事だった。
 当主は、土蔵の中から飛んできた鋭い鉤爪によって袈裟切りに引っかかれ、その3日後に傷口が化膿して命を落としたのだった。
 以来、その土蔵は旧家の住人からこう呼ばれている。『呪いの土蔵』、と――

●時代は変わる
「……と、言った伝承がある。君は、この現代日本において呪いと言うものを信じるかね?」
 HOPEの担当官は少し馬鹿にしたような声でそう言った。
 依頼内容の書かれた紙を机に投げ出し、彼はこちらを挑発するような顔でもって見下してくる。かなり嫌な感じだ。
「……まあ、現代世界と異世界が通じたのは20年前だからな。偶然伝承と合致する出来事が起きても……、まあ、おかしくは無い。伝承を信じるも信じないも君の自由だ。さて、今回の依頼なのだが」
 彼はそう言って、一度投げ捨てた資料を再度持ち上げた。
「とある旧家の古い土蔵に何か潜んでいるから調査、そして討伐をしてほしい、と言う依頼が来た」
 差し出された資料に目を通すと、そこにはここらで名の通った旧家の名前が表記されていた。
 依頼場所である土蔵もかなりの広さであるらしい。
「HOPEから既に先遣隊を出してある。先遣隊の調査の結果、その土蔵に潜んでいるのはねずみ型の巨大な従魔である、と判断された」
 従魔の正体が分かっているなら、その先遣隊が従魔を倒せばいいじゃあないか、と言う視線に気づいたのか、彼はこちらを鼻で笑った。
「相手はかなりの手練れで、少なくとも十数年は生きている。そんな相手に少人数で挑むわけにいかないだろう。先遣隊はあくまで相手の従魔の正体を探りに行っただけだ」
 こちらの考えている事などお見通しの様だった。今までの態度もそうだが、こちらの思考を見透かすような視線のせいで彼にはつくづく好感がもてそうにない。
「さあ、ねずみ退治だ。……嗚呼、ついでに土蔵の中に眠っている物品については好きな様にしていいらしい。君たちが好きなものを見繕って持って帰ってくれ。……もしも物品が余って居たら研究資料としてHOPEに持ち帰ってくれるとうれしいのだが」
 どう考えても彼が着服する気満々に見えるが、名目上はHOPEの研究資料らしい。
「ああ、そうだ。ついでに、村の老人連中はしきりに呪いだなんだと騒ぎ立てているそうだから、手が開いたらついでにそこらへんのアフターケアも頼みたい。……まったく、手のかかる連中だな」
 男は至極めんどくさそうに言い放った。どうやら老人達のしつこい主張におわれた経験があるようだ。
「――それでは、連絡事項は以上だ。早めにこの案件に取り掛かってくれ」
 そうして、彼はせかすようにこちらに背を向けて去っていった。

解説

土蔵の中に潜んでいる、巨大なねずみ型従魔を討伐して倉庫に眠った物品を整理してください。

●従魔
 どうやら本人は蔵の中のお宝を守っているつもりのようです。
 なので、蔵に入って来た生物に対して見境なく攻撃をしかけ、被害が絶えないそうです。

●従魔の性質、攻撃スタイル
 蔵に侵入してきた者を襲い、根こそぎライヴスを奪って巨大化しています。HOPEの定めたランクでいうとデクリオ級になります。
 明かりのささない蔵の闇に潜んで襲い掛かってくるため、暗いままですとどこから相手が仕掛けてくるか定かではありません。
 攻撃方法としては、その巨体から繰り出される体当たり、噛みつく、特殊な毒を有している爪での引っかき、そして接触によるライヴス吸収です。

●土蔵
 2階建て、広さは20畳程です。
 内部には先祖が残した所謂お宝の類が豊富にあります。が、今回の依頼主にはどうでもいいものらしいので、気に入ったものがあれば持ち帰っても構わないそうです。

●収納物
 確認されているものだけでも
  ・骨董(焼き物、掛け軸、屏風 等)
  ・着物(振袖、浴衣などの年代物)
  ・食器類(ブランド物)
  ・刀剣類(火縄銃 等の武器)
  ・甲冑
  ・古銭
 等です。他にも探せば何かしら珍しいものが出てくる可能性は十分にあります。

リプレイ

●大きくて暗い蔵
「ダンジョン……というには少し狭いかしら?」
 所々黒ずんで汚れた箇所が目立つ、日本家屋特有の蔵を見上げながら言峰 estrela(aa0526)は自信満々に言った。
「……、……鼠の棲家なら相応だ」
 手慰みに自身の美しい茶髪に手櫛を通しているレーラの隣で、キュベレー(aa0526hero001)がそう評価を下した。
「けっこう年季入ってるみたいだし油断できないのよ?」
「……お前が油断しなければな、マスター?」
「あー、それちょっとひどくなーい? ワタシ一応あなたのマスターなんですけどー? ねー? アサシンー聞いてるー?」
 レーラの主張など一切気にした様子を見せず、キュベレーは依然蔵から目を離さない。
 きゃいきゃいと1人騒いでいるようにしか見えないレーラ達の後ろで、麻生 遊夜(aa0452)とユフォアリーヤ(aa0452hero001)が何やらコソコソとお互いにしか聞こえないような声で話をしているようだ。
「……ふむ、ちとやる気が起きなかったが……掘り出し物が見つかるとなると話は別だな」
「……ん、お土産探そう」
 こくり、と頷きながら至極楽しそうに笑い声を漏らすユフォアリーヤが微かにふさふさの尻尾を揺らした。
「大山鳴動して鼠一匹と言うが、今回はその鼠が問題な訳だな」
 立派な佇まいの蔵を見上げながら、御神 恭也(aa0127)がぽつりと漏らすように言った。
「てれびの人が言ってたけど、曰く付きの物はお宝の可能性が高いらしいよ」
 恭也のそばで同じように蔵を見上げている伊邪那美(aa0127hero001)がしっかりと恭也の独り言を拾い上げた。
 そんな2人の背後から、至極楽しそうな足取りをした男性と、精巧な虎の被り物をした英雄が近づいてきた。
「おったから~おったから~♪」
「……、不謹慎だぞ。あとその前に従魔退治が先だ」
 はしゃいでる虎噛 千颯(aa0123)を諫めるように、虎の被り物がしゃべった。――否、虎の被り物を被った白虎丸(aa0123hero001)が喋った。
「あっ! そこに見えるは恭也ちゃんと伊邪那美ちゃん! 恭也ちゃんもお宝に興味津々系~? 何貰う? 何貰う~?」
「こら! 千颯! 御神殿が困っているでござるから詮索するで無い!」
 見慣れた背中を見つけ、千颯が恭也の背中にタックルを食らわせるように飛びつき、恭也の首に腕を回した。
「まぁ……、そうだな、とりあえずは骨董の類が気になっている」
「ボクはそういうのさっぱりだから、恭也に任せようと思ってる!」
 律儀に返事をした恭也に向かって、白虎丸は千颯にばれない様に会釈でもって謝っておいた。
 仲の良い千颯と恭也が喋っているのをなんとなく耳に入れながら、赤城 龍哉(aa0090)は1人言葉を漏らす。
「またお化け扱いの従魔か」
 過去にも退治した経験があるのか、龍哉はどこか苦々しげだ。
「よかったですわね。透けた相手でなくて」
 相手はねずみですよ、と明るく声を掛けたのは、ヴァルトラウテ(aa0090hero001)だ。
「殴れるなら問題ない。ああ、問題無いとも」
 自分に言い聞かせる様に拳を握りながら、龍哉は蔵を見上げた。
「押し込みか? 腕が鳴るな」
 周りの仲間の顔つきから、何が起ころうとしているのかを察して雁間 恭一(aa1168)が口を開いた。
「確かに得意そうな面をしている……、と言うかそれ以外は出来なさそうだ」
 恭一の頭のてっぺんからつま先までを改めて眺めながら、マリオン(aa1168hero001)がどこか呆れた様に言い放った。
「何とでも言ってろ。刀の類は眺めるだけで愉しいんだ。マリオンお前もだろ?」
「馬鹿を言え。剣は敵を斬る道具だ。憎むべき奴の骨を断ち肉を切りさいなむのが楽しいだけだ。惰弱なこの世界の男と余は違うぞ」
 かわいらしい容姿からは想像のできないようなとげとげしい事を言ってのけたマリオンが胸を逸らした。
 そんな一行から、少し離れた場所にまるで隠れるかのように2つの影が現れた。
「やはり……髑髏桜の在り処はここでござる」
「タイミング良すぎだろ? HOPEの依頼と重なるなんて」
「骸一党の柩中十傑の一人鬼狂死兆斎の一幅、髑髏桜……長らく行方不明で有ったがこんな所に潜んでおったとは」
「俺たち一党の秘宝、取り戻してやるぜ!」
 宍影(aa1166hero001)の言葉に、骸 麟(aa1166)が意気込んだ。
 ざわざわと雑談を始めようとしている一向に向かって、早瀬 鈴音(aa0885)が手を挙げ、そしてN・K(aa0885hero001)が2、3度手拍子を打って注目を集めた。
「はいはい、ちゅうもーく。じゃ、早速私が皆にライトアイ掛けるから、掛けたら蔵に突入、って事でどう?」
 鈴音の提案に異を唱える者は出なかった。
 それに満足げに頷いて、鈴音は集まって来た一行にライトアイを掛ける為に意識を集中させるのだった。

●闇に潜む
 ばたーん、と大きな音を立てて、その蔵の扉は開かれた。
「たのもーーーーーーーーんっ!!」
 一足先に共鳴を済ませたレーラが、威勢よく1人で蔵の中へと足を踏み入れた。
「逃げ場はないわっ! 大人しく年貢を納めなさいっ!!?」
 なんだかよくわからない事を並べながら、レーラはずんずん足を進め、蔵の暗闇の中へと消えて行ってしまった。
 あとに残された一行の耳に、レーラの声が微かに聞こえてくる。
「……行ってしまったな」
「……ん、困った?」
 かくり、と首を傾げながら、ユフォアリーヤが遊夜に向かって言葉を投げかける。
「まぁまぁ、大丈夫でしょ。念のため、俺ちゃんと白虎ちゃんが中衛として向かいまーす!」
「……俺も共に行こう。外から見た感じ、どうやら蔵の中に小窓がありそうだ。そこを開けて光を入れる事を優先する」
 千颯が声を上げたのに続き、恭也も声を上げた。2人とも、自身の英雄との共鳴は先ほど済んだばかりだ。
「では、俺はここで少し仕掛けを作ってから中に入ろう。リーヤ、手を貸してくれないか」
「……ん」
 どこから取り出したのか、木の棒と白いシーツと鏡を持った遊夜が鈴音と麟、そして恭一を振り返った。
「じゃあ、私はライトアイが切れたときの為に後衛でついてくわ。……念のため、共鳴はしたままの方がいいわよね?」
「……じゃあ、オレは囮作戦が終っても動きが無かった時に偵察として向かうから、体力温存?」
「それがいいでござるな」
「俺とマリオンは入る。……相手が物陰に隠れていて気付かなかった場合、これを使うからな」
 爆竹と水の入ったバケツを掲げた恭一の手元を見た後、遊夜がにっこりと笑った。
「では、先に千颯さん、恭也さんが入り、次に恭一さんが入り、その後に鈴音さん、と。……後は先行組の動向待ち、という事で」
 遊夜のまとめに頷いた出入り口待機組は、その場に残って各々の作業に取り掛かり始めた。
 そんな待機組を後にした潜入組は、暗闇へと一歩踏み出した。
 一方その頃、レーラはと言うと。
「痛ったーーーーーい!?」
 目の前を何かが通り過ぎたと思ったら、いつの間にかダメージを食らっていた。
「なになにいまのっ!? ……、クマー?」
『…………鼠だ』
 頭に響く冷静なキュベレーの声に、レーラは立ち上がって辺りを見渡した。
 何かが確実に近くにいる。
 持ち前の高い機動力と回避を生かし、レーラは軽い身のこなしで飛んでくる何か固いものをよけつつ、少しずつダメージを与えていく。
「っ、えいっ!」
 シルフィードを振り下ろし、見えない敵に攻撃を食らわす。
 確かな手ごたえと、耳障りな生き物の鳴き声を聞いて、レーラは勝ち誇ったように腰に手を当てた。
「もう降参なのかしら? ……案外あっけないわね」
『いや、一時撤退だろう。……、誰かくるな』
 振り返って暗闇に目を凝らしてみると、見慣れた能力者の輪郭を捉える事が出来て、レーラは持っていたシルフィードを下ろした。

●生き物は音と光に弱い
 ぱんぱんぱん、と破裂音が狭い蔵の中に響いた。
 炸裂する音と火花、そしてもうもうと立ち込める煙に、一同は口を覆った。
「っげほ! 何々!? 何事なのっ!?」
 レーラはいきなり鳴り響いた爆竹の音に驚いて頭を抑えてしゃがみこんだ。
『爆竹……、のようだな。大方、ねずみを誘き出すために放ったのだろう』
「もう! なんでそんなに冷静なのっ!」
 頭に響いたキュベレーの声が嫌に冷静であったため、レーラもあまり取り乱すことも無かったのだが、思わずキュベレーに当たってしまった。
 と、なにか生臭いものがすぐ隣を駆け抜け、入り口の方へと向かっていく気配を感じた。
「っ! 何か行ったわよ!」
 入り口近くにいる仲間に叫ぶと、返事の代わりになにか生き物の汚い悲鳴が響いた。
 どうやらレーラの呼びかけはちゃんと届いたらしい。
「レーラさん、大丈夫ですかっ?」
 いつの間にか目の前にやってきていた鈴音が、しゃがみこんだレーラの肩に両手を載せてレーラを揺さぶった。
「ぇ、ええ、平気よ」
「良かった……。皆さんは敵を追いかけて外の方へと移動しました。……立てますか?」
 鈴音が座り込んだままのレーラを見下ろして、伺うように言った。
「……ええ、ここで後れを取るような私じゃなくってよ?」
 レーラは自信満々に頷いて見せた。

●誘き出された蔵のヌシ
「ぅわっ……、でかっ!」
 思わず口にしたのは誰だったのか。
 太陽の光に照らされた巨大なねずみ型の従魔が、蔵の出入り口から頭だけを出している。
 がつん、がつん、と出入り口の間口に従魔の体がぶつかっているような音がする。
『……なぜこちらに来ないのだ?』
 恭一の頭の中でマリオンが呟いた。
 ぎぃぎぃ、とどこか苦しそうな声を出しながら、巨大なねずみが出入り口でもがいている。
「……、これ……、引っかかってないか?」
「ぶっは! 間抜けっ!」
 恭也が疑惑の目を従魔に向けながらそう言うと、千颯が思わず噴き出した。
 地元住民に散々怖がられていた存在が、まさか驚いて逃げ出そうとした拍子に出入り口にて所謂『壁尻』状態になっているのだ。
「もしかして、被害が蔵の中のみだったのは、こいつが蔵から出られる大きさじゃあ無いから……、とか?」
『まあ……、この様子を見るとそのようでござるな』
 麟が呆れた目で見つつ、従魔に対して疑惑をぶつけると麟の頭の中で宍影があっさりと麟の疑惑を肯定した。
 そうなのだ。
 2メートル超えの巨体を持つこの従魔は蔵の出入り口の間口よりも遥かに体が大きく、蔵から出る事が出来ないようだった。
「デクリオ級も、こうなると形無しだな……」
 じたばたと相変わらず蔵から出ようともがいている従魔を冷静に見ながら、恭也が言った。
 と、従魔がふと動きを止める。
 そして、一生懸命出ようとしていた動きを止め、今度は後ろに下がろうと頭をひっこめる為に首を振り始めた。――蔵の中に戻る気のようだ。
「拙いな……、蔵の中にはレーラさんと鈴音さんがいらっしゃいます」
「2人で倒すのはさすがにきっついね! ……じゃ、俺ちゃん達が退治しますかっ!」
 そういって、千颯がトリアイナを握った。

●間抜けなねずみの末路とは?
 外から聞こえる攻撃音に、レーラと鈴音は攻撃の手を止めた。
 身動きの取れなくなった従魔に、少しでもダメージを与える為にレーラと鈴音は出来るだけの攻撃を相手に与えていたのだった。
 ばたばたと煩わしく左右に大きく揺れていた筋肉質な大きな尻尾から放たれる攻撃をよけるのは大変骨が折れた。
 相手からの攻撃をよけながら、こちらも攻撃を加える……、といっても、鈴音は後方支援を得意とする装備でこの任務に臨んでいたので、実質表立って攻撃を加えていたのはレーラだけだった。
「……きりがないね……」
「まあ、でも攻撃が一切効いていないわけではありませんし……? ……何の音ですの?」
「……え?」
 レーラが何かに気付いて攻撃の手を止めた。
 今までひっきりなしに響いていた従魔の絶叫の間から、外からの攻撃音が加わって内部で反響が始まった。どうやら、蔵の外に出た従魔の頭部辺りに向かって外に居る能力者達が攻撃を加えているようだった。
 なす術もなく、ただ呆然と事の成り行きを眺めているしかないレーラと鈴音は、呆然と蔵の中で立ち尽くしていた。
 ふと、どさり、と何か重たいものが落ちる音と同時に従魔の動きと絶叫、攻撃音等が完全に停止したのを確認した鈴音は、出入り口を塞ぐ従魔の隙間から外を覗いてみた。
 そこには、完全に首と胴が切り離されたねずみが力なく横たわっていた。
「……終わった、の?」
 鈴音の声に、出入り口の向こう側にいた他の能力者達が気付いた。
「あー……、大丈夫か? こっちは従魔の息の根を止めた。……これから、そのでかい胴体をどうにかするから下がっていてくれ」
「あ、はいっ」
 恭也に言われた通りに、鈴音は後ろに下がった。
 鈴音の後ろにいたレーラも恭也の声を聞いていたのか、いつの間にか蔵の端へと避難していた。
 こうして、巨大なねずみの従魔は無様にも自分の招いた失敗のせいで首から先を落とされて息絶えたのだった。

●仕事が終わったら仕事だぜ?
「後は……、老人への説明、か……。見た目が若い奴が行ったらややこしい事になるかもしれないから、1人で行ってくる」
「本当? じゃあ任せちゃう! 説明よろしくね! ……あれ、でも宝物はどうするの?」
「それはユフォアリーヤに頼んだ。……では、俺はこれで」
 ずるずると首を引きずっていく遊夜を見送った後、千颯は改めて蔵の中を見た。
(いやぁ……、にしても、これはなかなかに溜め込んでたなぁ……)
 積み重なった収納物の数々に、千颯はため息を吐いた。
 すでに目を付けていたティーセットと西陣織と思われる着物、江戸小紋、そして帯を数点持っている。
 なかなかに趣味の良いものがあれば、なぜこんなものが此処にあるのか理解できないようなものも転がっていた。
「ねえ、壺とか掛け軸なんか貰って良し悪しが判るの?」
 近くで伊邪那美と恭也が物色しているのに気づいた。
「まさか、刀剣類なら目利きも効くだろうが、骨董品は専門外だ」
「なら、ガラクタを貰っちゃったかも知れないじゃん」
「あのな、こう言った物は値段では無く、俺が気に入ったか如何かが大切なんだ」
「なら、勝負!ボクが選んだ物と恭也の選んだ物どっちが高いかで勝敗を決めよっ! ボクが勝ったら一日好きな物を奢ってよ」
「あまり乗り気では無いが良いだろう。俺が勝ったら一人で家の掃除をして貰うぞ」
「恭也が年寄り趣味で骨董品に強くても、ボクの真贋を見極める眼力には敵わないよ」
 そんなやり取りをしながら、伊邪那美は骨董品が並んだ棚に駆け寄っていた。それを見送って、恭也は恭也で刀剣類を物色している。
 恭也の隣で同じように刀剣類を物色している恭一は、すでに太刀を3振りと大太刀を2振りもってほくほく顔だった。
「さすがに鎌倉物は無いが……結構なものだな」
「ふむ……、これは中々良いな。多くの血を啜った気配がある」
 可愛い顔をして何やら物騒なことをいうマリオンにはもう慣れてきた。
(いやぁ……、こういうのって性格出るよなぁ……)
 ユフォアリーヤは男女の浴衣を物色したり、そうかと思えば皿を物色している。
 彼女は結局、女性ものの浴衣を3着と男性ものの浴衣を2着、そして男性用甚平を1着と平皿を何枚か持っていた。
 視線を動かすと、龍哉とヴァルトラウテが刀剣類を見ていた。
「刀はやっぱロマンだな」
「鎧はさすがに嵩張るし止めとくか」
 そう言いながら、龍哉とヴァルトラウテはあれこれと刀剣類を物色している。
 龍哉が持っている刀の近くには、『三日月宗近(レプリカ)』、『乱藤四郎(レプリカ)』としっかり書いてある紙が置いてある。
 その後ろで、レーラが古銭を無造作に袋に詰め込んでいたし、麟と宍影が何やら巻物の辺りであーでもないこーでもないと言い合っている。
「どうも見当たらんでござるな……」
「骨折り損のくたびれもうけか……なんか調子が狂うな」
「……確かにおかしいでござる」
 どうやら、求めるものが見当たらないようだ。
 そんななか、鈴音とN・Kの2人だけは何も物色せずに蔵の外で待っていた。
 鈴音曰く、持っておくのが怖くなったから、らしい。
「よーし! これで決まりっ!」
 伊邪那美が何やら大皿3枚と茶碗を2個もって満足げにしている。
「こっちもこんなもんだろ」
 恭也も満足したのか、散々迷っていた刀剣の中から脇差を5口と短刀を4口選び出し、手に持っていた。
「んじゃ、終わったんなら遊夜さんが帰ってくるのを待っときましょー」
 千颯の声を聞いて、一行は蔵の外へと足を向けた。
 価値は無いに等しい物だろうが、彼らにとっては戦利品には違いなかった。

●断言する若人、信じる老爺
「仕事は終わった。……これでもう呪いとやらが起きる事はないだろう」
 開口一番にそう口にした遊夜に向かって、老人たちは口々に嘘だ、ありえない、と否定した。
 十数年悩まされ続けてきた呪いが、一夜にしてあっさりと終ってしまったことにどうやら納得がいかないようだった。
「呪いが起こらないというのであれば、その呪いの原因は一体何だったんだ!」
 口々に信じられない、と騒ぐ老人たちの中、白いひげが特徴的な老人が遊夜を責め立てる様に声を上げた。
 遊夜はその老人を視線で捉え、すっと目を細めて口を開いた。
「原因は従魔だった。……2メートルはある巨大なねずみ型の従魔だ。先代が袈裟切りに切られ、その傷口が化膿して命を落としてしまったのは、その従魔のもつ鋭い爪のせいだろうな。その前の男性や飼い猫も恐らくその爪の餌食になってしまったのだろう」
 淡々と過去にあった出来事の分析を口にした遊夜を、なおも老人達は信じられないような面持ちで見ている。
 相変わらずざわざわとざわついている老人達に気付かれない様に小さくため息を吐いた遊夜には、老人たちのこのざわつきが自然に収まるのを待つしかなかった。
 一頻りざわついた後、老人たちのざわつきが収まったのはそれから15分程経ってからだった。
 遊夜の目の前に座っている、この中で一番高齢の老爺が顎に生えた白い髭を撫でながら口を開いた。
「若人。お前さんが呪いが終わったというのを証明できる何かはあるか?」
 老爺の問いかけに、遊夜は閉じていた目を開いた。
「……明日の朝、呪いが消えた事を信じられない人間全員で蔵を見に行ったら、俺の言っている事は証明されるでしょう」
 静かに、しかし自信のこもった声でそう言うと、老爺は満足そうに頷いた。
「では、明日の朝、全員で蔵を見に行こう。若人……、いやエージェントよ。今回は大変世話になったな」
 そう言った老爺の目には、遊夜達エージェントへの信頼に満ちていた。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • ライヴスリンカー
    赤城 龍哉aa0090
  • 来世でも誓う“愛”
    麻生 遊夜aa0452
  • 高校生ヒロイン
    早瀬 鈴音aa0885

重体一覧

参加者

  • ライヴスリンカー
    赤城 龍哉aa0090
    人間|25才|男性|攻撃
  • リライヴァー
    ヴァルトラウテaa0090hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • 雄っぱいハンター
    虎噛 千颯aa0123
    人間|24才|男性|生命
  • ゆるキャラ白虎ちゃん
    白虎丸aa0123hero001
    英雄|45才|男性|バト
  • 太公望
    御神 恭也aa0127
    人間|19才|男性|攻撃
  • 非リアの神様
    伊邪那美aa0127hero001
    英雄|8才|女性|ドレ
  • 来世でも誓う“愛”
    麻生 遊夜aa0452
    機械|34才|男性|命中
  • 来世でも誓う“愛”
    ユフォアリーヤaa0452hero001
    英雄|18才|女性|ジャ
  • エージェント
    言峰 estrelaaa0526
    人間|14才|女性|回避
  • 契約者
    キュベレーaa0526hero001
    英雄|26才|女性|シャド
  • 高校生ヒロイン
    早瀬 鈴音aa0885
    人間|18才|女性|生命
  • ふわふわお姉さん
    N・Kaa0885hero001
    英雄|24才|女性|バト
  • 捕獲せし者
    骸 麟aa1166
    人間|19才|女性|回避
  • 迷名マスター
    宍影aa1166hero001
    英雄|40才|男性|シャド
  • ヴィランズ・チェイサー
    雁間 恭一aa1168
    機械|32才|男性|生命
  • 桜の花弁に触れし者
    マリオンaa1168hero001
    英雄|12才|男性|ブレ
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