本部

Let's クリエイト a 武器!

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2015/12/01 22:03

掲示板

オープニング

●とあるまおう様の憂鬱
「まおーさまー」
 呼び声に、見事な白い髭を蓄えた初老の老人は顔を上げた。ダークブラウンのスーツに身を包み、深い皺が刻まれた顔、瞳には厳しい光が浮かぶ。
「どうした、須頼よ」
「すみません、紫峰翁大學のリンカーたちがまたやらかしました」
「なに!? あやつらまたか!」
「……ワタシ、考えるんですが、もう学生リンカーでは限界に来ているのではないのでしょうか……」
 だだっ広い草原、頭上に広がる薄紫の雲。甘いとさえ感じる自然の恵みをたっぷりと含んだ風。どこからか波の音も聞こえる。
 そんな美しい世界の中で彼は静かに目を閉じた。
「……そうか、そうかもしれないな。やはりもう本職の方々に助けに来てもらう段階に来ているのかもしれん」

●ゲームはお好きですか?
 H.O.P.E.に今日もまた風変わりな依頼が舞い込んだ。
 今回は茨城県つくば市にあるH.O.P.E.技術開発研究紫峰翁センターのとある研究室での実験への協力だ。
「はあ? ゲーム?」
 依頼を受けた職員が素っ頓狂な声を上げたのも仕方のないことだろう。
「ハイ~。我が研究室では英雄世界調査の一環として、VR(バーチャルリアリティー)ゲームを作成しまして」
 そのゲーム『リング・ブレイク』は、英雄がその世界ゲームにログインすることによって失った記憶を思い出すための刺激を与えようという試みのもと開発されたものだと言う。まだまだ開発途中の作品ではあるり、その開発の協力にH.O.P.E.所属のリンカー……もとい、英雄の力を借りたいと言う。そして、研究室に集まり、VR機械を着けVR世界に入り、その世界で理想の武器を作ってほしい。

「……なんで武器……」
「英雄の方々が描く武器を元に英雄の方々のイメージにある彼らの世界を探そうという試みですー!」
「はあ、そうですか……報酬は出るんでしょうね?」
「もちろんです! 紫峰扇センターからの依頼ですから身元だって正確でしょ?」
「それはそうですが……」
 職員は完全に納得したわけではなかったが、紫峰扇センターからの依頼では受け付けないわけにはいかない。
「くれぐれも、英雄の方々にはご負担の無いようお願い致します」
「お約束しますよ!」
 元気な声で話を締めくくった須頼研究員は期待に満ちた顔で研究室に戻っていった。

「ほんま、酷い……」
 重いため息をついた真央室長は、紫峰翁大學の血の気の多いリンカーたちによって作られた武器リストを眺めていた。
 いわく『千の大地を統べる力を持つ破邪の剣』、いわく『総べてを灰にする究極の破壊兵器を動かすカギになる魔法のペンダントの石を組み込んだ銃(全てを焼き尽くす)』。
「矛盾の諺どころじゃない」
「三分間だけ変身する魔法の杖なんてのもありましたねー!」
 自慢の真央室長は見事な髭を撫ぜながら、思わず呟いた。
「ワシの研究は間違っていたのだろうか……」
「そんなことありません! 英雄をターゲットにしたゲームが完成してランキング入りするまで、ワタシはがんばりますよー!」
「ランキング……?」
「あっ、いえいえ!」
「それにしても、現役のH.O.P.E.リンカーと組んでいる現場の英雄ならば、こんな夢みたいな武器を発案したりはしないだろうな」
「たぶんー! 現場の方ですからー! こういうのって中二病って言うらしいですよ」
「ふむ……だが、なんか不安じゃなあ。そうじゃ、武器といえば」
「なんですかー!?」
 へらりと笑った須頼主任研究員の顔を見て、真央室長はぽんと手を打つ。
「試し斬り、じゃろ」
「はっ!?」
 ぽんと飛び出した物騒な言葉に須頼は顔をこわばらせた。

解説

──真央研究室よりお知らせ──
 特別なVR機械によって英雄とリンカーと共にゲーム世界に入り、あなたの夢の武器を作ってください。剣はゲーム内世界でイメージすると現れますので名前と性能、外見などを詳しくプレイイングに描写をお願いします。
 そのあとに、その武器を使ったモンスターとの戦闘になります。武器を使えるのは基本的に英雄のみで、能力者にはデフォルト装備『はがねのけん』が与えられます。
 ゲーム世界なのでリンクする必要はなく、また実際の筋力などは関係ありません。武器の性能のみで戦ってもらいます。
 ただし、真央室長の判断で中二病ポイントが貯まると、モンスターが強化されます。
 このシナリオでは死亡、怪我判定はありませんので、ご自由に理想の武器について語ってくださいませ。
 状況により理想の対戦相手のモンスターも受け付けます。

・H.O.P.E.技術開発研究紫峰翁(しほうおう)センター
通称「紫峰翁センター」。HOPE東京海上支部所属。茨城県つくば市にあり、AWG研究開発から英雄世界についてまで広く研究を行っている。しかし、英雄世界の研究は遅々として進んではいない。また、峯山代表の方針で研究者の個々の研究を重んじており、それぞれに研究室を与えている。

・真央(まおう)研究室
室長、真央泰司率いるクリエイター集団……もとい、研究室。

リプレイ


●まおう様の理想
 オフィス机と寝袋の並ぶ広い部屋。それが真央研究室だった。その片隅、パーティションで区切られた応接間。須頼主任研究員によって案内されたリンカーたちは、やたら大きいソファとキャスター付きの折り畳みミーティングチェアに座らされた。
「ああ……」
「うう……」
 パーティションの向こうから漏れ聞こえる職員たちの声。先程、一瞬見えた職員たちの姿と言ったら……土気色の肌と光の無い瞳を思い出してアリューテュス(aa0783hero001)は眉を顰めた。
「理夢琉……何かおかしいぞココは。殺気はないが異常な視線を感じる」
「英雄がカッコいいからじゃないかな? 問題ないよ、うん!」
 斉加 理夢琉(aa0783)は警戒する自分の英雄を宥めるべく適当に相槌を打つ。実は理夢琉自身も研究員たちの異様な気配は感じていたが、彼女はここで出来る『ゲーム』に興味津々で、ここで妙に騒いでそれがふいになるのだけは避けたかった。
 ──最新のゲームを体験できるなんて面白そう。アリューも楽しめるといいな!
 笑うのが苦手な相棒が心から楽しめるといい──。しかし、彼女のそんな想いなど知らぬアリューテュスはなにやら上の空の理夢琉の様子を訝しんでいた。
 ──危険のない依頼らしいが、理夢琉のこの上機嫌は何だ? いつもの理夢琉じゃない。まさか!?
 やがて、そこに見事な白い髭を蓄えた男が現れた。一見、ダークブラウンのスーツをきちっと着込んだ初老の老人だ。だが、雑然とした室内で彼だけが違う雰囲気を纏っていることに、瞳に他とは違う厳しい光が浮かんでいることにアリューテュスは気付いた。
「あっ、まおーさま」
 須頼主任研究員の漏らした呟きに、彼の身体に衝撃が走った。
 ──『魔王』……だと?

「というわけで、君たちには私たちの研究に協力願いたい」
 そう言うと、室長、真央泰司はリンカーたちに丁寧に頭を下げた。
 ソファに腰を下ろしたふたりの少女は真央の話を聞きながら互いの視線を交わした。
「秋姫……今回は……一人で……やらせて欲しい…………たまには……いいだろう?」
 どこか自分と似た姿の修羅姫(aa0501hero001)の言葉に秋姫・フローズン(aa0501)は微笑みを浮かべる。
「ふふ……構いませんよ…………と言うより……そのつもりでしたから……」
 そんなふたりのどこか物騒な会話を自分の英雄である小柄な少女越しに聞きながら、メイナード(aa0655)も口を開いた。
「自分の理想の武器か……イデアはどんな武器を考えてるんだい?」
「そうですね……折角ですし、元の世界の武器を再現してみようかと思います」
 淡々と答える長い三つ編みの少女は、いつもの姿よりやけに大人びて見えた。
「ふむ……そういえば、そこら辺の話はあまり聞いた事は無かったね。興味深いな」
「あら」
 大好きなメイナードの言葉に少女──Alice:IDEA(aa0655hero001)はいつもの冷めた表情を少し崩す。
「おじさんがわたしの事に食いついてくるなんて珍しい。これはハッスルしどころですね」
「……いや、元の規格通りに作ってくれればいいから」
 須頼が、英雄と能力者たちをゲーム世界へダイブするためのVRゴーグルを用意した別室へと案内する。
 真央はこれからの行われる実験へと思いを馳せた。
 ──正直……これが彼らの本当の世界なのかはわからない。もしかしたら、現世に召還され能力者との生活の中で育まれた彼らの精神世界なのかもしれない。
 それでも、と彼は思った。研究過程で様々な有益な副産物を生むために英雄世界への研究は認められてはいる。けれども、依然、本来の成果はほとんど得られてはいない。先の見えないこの研究の糧になるのならば……。真央は閉まりかけた扉の向こう、歴戦の勇士であるリンカーたちの逞しい背中に期待の眼差しを向けた。
 しかし、真央は知らない。閉まった扉の向こうで、その背中の主がこう呟いたのを。
「──僕の中の中二病を今こそ爆発させる時だね」
 長い銀髪を揺らして不敵に笑うシウ ベルアート(aa0722hero001)。彼のリンカーである桜木 黒絵(aa0722)はその姿に不安を覚えた。
「シウお兄さんが妙にハッスルしてるけど大丈夫かな?」

●そして、現実
 VRゴーグルを装着後、そこはファンタジー色溢れる平原だった。真新しいフィールド上に立つ興奮に、シエロ レミプリク(aa0575)は開いた右手を突き出し力強く叫んだ。
「ナトくん、君に決めた! ──なんちゃって!」
 大きな青い瞳でシエロを見上げたナト アマタ(aa0575hero001)はそれに応えるべく囁くような小さな声を出した。
「……ナットー」
「鳴き声かわいい!?」
 シエロの驚きに、無表情なナトの後ろにほんわりと小さな花が舞った気がした。
「さて! ここからなナトくんが主役だよ。さあ、すごい武器を作っちゃって!」
 シエロに促されてナトは小さくこくんと頷く。ナトが目を閉じ両手を広げるとフワフワとした青い光がその両手の間に集まって行く。
「これって……ピコハン?」
 それは、二メートル近いシエロが持っても違和感のないサイズのピコピコハンマーだった。しかも、猫をモチーフにした可愛らしい外観で、叩く部分には肉球をイメージしたぷにぷにとしたふくらみがある。
「確かにナトくんに似合ってるけど……ナトくんネコ好きだっけ?」
「……テレビでみたの」
「やーんかわいい! ……でもこれで戦えるのかなー?」
 シエロはぷにぷにっと肉球部分を押してみる。弾力のあるそれはとても……心がポワポワする。
「あまり……さわっちゃだめ……」
「えっ?」

 『リング・ブレイク』。開発途中のそのゲームの世界にはまだ広い平原とその向こうに設定された海しかまだ無い。けれども、そこはとても美しかった。
「さて……やってみるか?」
 天原 一真(aa0188)は隣に並び立つ英雄を見た。視線を受けてミアキス エヴォルツィオン(aa0188hero001)は瞳を閉じ両手を前に突き出した。すぐに空間が揺れて水のように風景を映した一振りの剣が浮かび上がる。
「静謐の……剣?」
 ミアキスがそれを手にしようとした瞬間、突然大地がひび割れ剣は落下し闇に飲まれた。ミアキスと天原が慌ててそれを追おうとした瞬間、ふたりの感覚は現実に戻された。
「スミマセン~! VRゴーグルの充電が切れてしまいましたっ! あっ、武器は召還できましたか?」
「もう、今、僕の武器が召還できたところなのよ。え? 名前? たしか、静謐の剣──」
「それを召還するなんてとんでもない!」
 ミアキスと天原の胡乱な視線に気づき、研究員は強引に二人のリクライニングシートを起こした。
「さあさあ、もうモニターは充分ですのでこちらでお茶でも! 超美味しいお菓子がありますよ!」
 静寂の剣、開発用アイテムであり、別名リセットの剣とも言う。

 三ッ也 槻右(aa1163)はダイブした仮想の大地に複雑な想いを抱いて立っていた。
 ──ついに……あれが。
 槻右の脳裏に依頼を受けた前日のやり取りが過る。
 武器を作って欲しい──その依頼を受けた酉島 野乃(aa1163hero001)は、家に帰るなりスケッチブックと色鉛筆を使いうんうんと唸りながら何かを描き始めた。
「完成じゃ!」
 野乃は描き上げた作品を満足げに眺めると、満面の笑みで槻右の方に走り寄った。気のせいか、彼の狐耳が喜んだ犬のようにぴんと直立しているように見えた。
「銘は子狐丸(こぎつねまる)だ」
 そこにはファンシーな絵柄で武器を持つ野乃の姿が描かれている。右手にはパペットの様な狐の頭が着いており、頭部から毛皮らしきものが伸びている。羽織るように野乃の首の後ろを通るそれは肩から前に回って左手の先まで垂れている。
「へぇ、上手いね。野乃と同じ色の毛並みで可愛いかな」
 少年の描いた絵と彼の薄いシアン色の髪と狐耳を見て素直に感想を述べた槻右に対して、野乃は得意満面の様子だった。
「そうであろう!」
「でも、なんだか、戦うの可哀そうだけど」
「子狐丸は勇士ぞ。その凄さを語ってやろう!」
「え……あ、うん」
「子狐丸の頭部は実にリアルな狐だの。生きているのだ。野生らしく常に威嚇し牽制を行う」
 野乃の手の赤い色鉛筆によって狐の目が鋭く描き直された。
「牙で噛みつく事で攻撃を行う。ライヴスを纏い、対象に噛みつき血を啜り肉を抉り骨を砕く」
 サラサラと色鉛筆が走る。狐の口に牙が生え血まで垂らし始めた。最早、最初の微笑ましさは消え失せている。野乃は続けた。
「相手のライヴスを奪って、少量ではあるが回復か防御力へ回せる。毛皮は防御力を備えているが、噛み付きによって更なる底上げが可能じゃ」
 むしろこれは従魔ではないのだろうか。
「近接戦闘専用……?」
「どちらかというと、単体を相手に使う武器だの。遠距離相手には毛皮を盾にしつつの特攻を行える。それにの、子狐丸はまだ牙を隠している」
 サラサラサラ。何事か描き足して少年はにやりと笑う。
「鎖分銅だ。中距離攻撃を可能とし、多角的な攻めと拘束、殴打等を行う事が可能じゃ。鎖分銅に気を取られれば、噛付きを受ける」
 これでは敵だ。決して主人公側ではない。
「これってさ……僕の出番ある?」
「『はがねのけん』は隅で大人しくして居れ」
「ですよね……」
「くーっ! はやくボクの可愛い子狐丸と共に戦ってみたいの!」
 念願の子狐丸を携えて楽し気に笑う野乃の姿、それが今、槻右の目の前に在る。

 研究室の壁にいくつも並んだモニタで研究者たちは英雄たちがダイブしたVR世界を見ていた。真央は机に両肘を立てそれに寄りかかるように、やや前のめりに座っている。表情は、口元の前で組まれた両手によって把握することは難しい。須頼は、なんとなく汗ばんだ手を思わず両手を背中で組み、須頼はモニタに視線を戻した。
 一つのモニタの中で美しい黒髪の女性が英雄の青年と何かを話している。残念ながら小声で交わされるその会話は彼らにはほとんど聞こえなかった。

「──憂さんは自分のいた世界を覚えてますか?」
 艶やかな黒髪を仮想世界の風に靡かせた化野 燈花(aa0041)の問いに、七水 憂(aa0041hero001)は軽く目を瞑った。
「穴あき、だったりするけどね。沢山種族がいたこととかファンタジーっぽいとか覚えてる」
 いつもの憂鬱そうな表情で、憂は深紅の瞳を燈花に向ける。
「実に興味深いですね」。
 答える燈花もいつもの『表情筋がサボっている』無表情だったが、憂はそっと心の中で囁いた。
 ──燈花が楽しそうで何よりだよ。
 憂はその細い腕を一本、おもむろに虚空へと伸ばす。
 ──己の世界に武器は様々あったが、銃のような物は無かった、はずだ。基本的な情報は多少覚えているつもりだが、自分に関することはほとんど覚えていない。それゆえに、中々武器の想像は上手いかなかった。夢幻のように様々な武器が憂の手の中に現れては形を変えていく……。
「そういう変化武器だったんですか?」
 それを見て、燈花が尋ねた。
「……僕、自分が向こうで武器使ってたか、覚えてない」
「おや、そうでしたか」
「第一、アケディアの系譜はその名の通り、怠惰を基本としているんだよ。悪魔だけど、平和主義なんだ」
「なら武器を取って戦ったことがないかもしれないんですね」
「それは多分無い、かな。逃げる為にも護身術は大事」
 何か話そうと口を開きかけた燈花は、すぐにその唇を結んだ。目の前で憂が必死に武器を思い浮かべようとしているのがわかる。描こうとしているのは彼の中に漂うかけら。
 憂の瞼の裏にうっすらと浮かぶ、お世辞にも強そうには見えない痩せっぽちの子供。だが誰よりも強い怠惰の王の姿。
 不安定なかけらが形を作り出す。それは彼が忘れてしまったものなのか……だが、それは確かに彼の中の大切なものだった。憂の手の中で、武器は形を定めた。
 それは、黒銀色の小さな金属環の連続で出来たしなやかな二本の鎖。鎖の片端に十字架を模した小振りのダガーが、もう一方には手首に装着する革ベルトが付いている。ダガーの刃はしっかりと研がれ、鋭い切れ味を想像させた。
 憂が軽く手を振るだけで、持ち主の意図に従って鎖と刃は生き物のように動き、鎖の長さもするすると変わる。
「怠惰の王がふるいし鎖──動かずとも敵を刈取る、この兵仗の名は『怠惰の鎖』」

 メイナードは額に手を当てた。
「……あの、イデア君。作るのは確か武器だったと思うんだが」
「はい、そうですよ。我ながら素晴らしい再現性だと思います」
 イデアはソレを眺めた。もしかしたら、そこに存在する彼女のかけらを懐かしんでいるのかもしれない。
 ──だが、メイナードはどうしても黙ってはいられなかった。十歳ほどの少女の周りを彼女より遥かに大きな二枚の盾が浮遊しながら旋回している。
「盾じゃん。浮遊する障壁じゃん」
「果たして本当にそうですかねぇ」
 どこか慌てたメイナードとは対照的に、イデアは澄まし顔で盾を見る。
「どうやら、すぐにこのアナイア・モノリスの力をお見せできそうです」

「さて、と」
 VR世界に降り立ったシウは、不安げな黒絵の前で両手を動かす。それは本を開く動作に似ていた。途端に彼の手の中にソレは現れる。
「これは……ラジエルの書!?」
 驚く黒絵にシウは感慨深げにソレの表紙を撫でる。
「そう! これが、あのラジエルの書だよ。なかなか入手出来ない」
 語りながらシウは感極まって号泣した。
「シ、シウお兄さん!!」
 しかし、一通り泣くとシウはラジエルの書を名残惜しそうに足元へと置く。すると、それは風に溶けるように消えてしまった。
「ああ……。でも、いい。満足だよ」
 黒姫はほっと胸を撫でおろした。なにしろ、依頼内容は英雄世界の武器である。例え、シウの世界でラジエルの書がポピュラーな武器だったとしても、たぶん、これでは依頼達成にはならないような気がした。
「とりあえず、武器を作るコツは掴んだよ」
「ならいいんだけど」

 ふたりの少女は手を合わせた。紫の交じった銀髪の少女と赤紫の交じった銀髪の少女の間でそれは緩やかに形を作っていった。
 それは、鎖で刃が繋がっている双斧(ハンドアックス)であった。そして、ライヴスを纏った貫通力のある、または広範囲に炸裂する矢を放つ長弓でもあった。それから、重さと刃が変化する重斧(へビィアックス)でもあった。
「変形弓・朧」
 秋姫はそっと指を解いて、もう一人の自分と思う修羅姫から離れた。
「楽しんで……下さいね」
「今回は……楽しませて貰う……」

 アリューテュスは焦っていた。なぜか理夢琉は職員たちの言いなりで自分の言うことをまともに取り合ってはくれない。その結果、わけのわからない装置を着けられてこんな世界まで来てしまっていた──。
 ──とにかく、理夢琉は守らなくては。
 アリューテュスが片手を翻すと、そこには一対の剣が現れた。彼はそれを掴むと同時に自分の腰に装着された鞘付きベルトにそれを通す。それは白く輝く美しい双剣だった。剣を腰に差し、理夢琉の手を引こうとして、アリューテュスはわずかにつんのめる。理夢琉は手を引かれたことなど気づかずに、ただ、目を輝かせながら英雄が召還した剣を見ていた。
「すごい、それがアリューの武器なの? VRってすごいねー!」
「どうしたんだ? 理夢琉。あの魔王に操られているのか?」
「何? ゲームの話?」
「ならば。あの魔王を倒し、必ずや俺が助ける」
 アリューテュスが真剣に理夢琉を見つめる。それを見て、理夢琉ははっとした。
 ──そっか、アリューは初めてのゲームだもの、緊張しているのね。
 盛大な勘違いである。

●実地試験のお時間です
 ヴン……。重い音を立てながら、システムが激しく稼働していることを端末のパソコンが知らせる。
「あれ、武器が揃ったからかな? 『試し斬りモード』のスイッチが入ってしまったみたいですね~」
 須頼が声を上げたと同時にモニタの中に『奴ら』は現れた。ソレを見た真央はついにうめき声を上げて、組んだ掌に顔を埋めた。

「出たな! 魔王!!」
 アリューテュスの叫びに、メイナードが顔を上げる。
「さて、お手並み拝見だな」
 敵影を確認したメイナードの顔が一瞬強張る。
「よーし、わたしの雄姿を見て惚れ直して下さいね!」
「得物が盾だけどね……」
 ツッコミを入れつつも、その敵影……数メートルはあろうかという巨大な、無数の顔の無い白衣姿の研究員たちにメイナードは複雑な想いを抱いた。
「まあ、武器が思いつかないくらいだし、敵キャラもまだ未開発なのかな? でも、だからって」
 シエロは巨大な肉球ピコピコハンマーを構えた英雄の後ろで呟いた。ふたりの登場に、イデアが少し場所を空ける。
「それじゃ、いきますよ……Alice-42,Engage.」
 通称、アナイア・モノリス。イデアの周りを浮遊しながら旋回していた二枚の盾が、突如彼女を護るように並んで地面に突き刺さった。
「Run:Annihilation.exe」
 盾の中央部が展開する。すると、中にはめ込まれた水晶体が露わになった。そして、そこから極太レーザーが放たれ、縦に並んでいたスタッフ姿型モンスターをたやすく薙ぎ払った。
「ふぅ……上手く言えませんけど、懐かしい感触ですね。おじさん、どうでしたか?」
 その声に、思わず呆然と目を剥いていたメイナードは我に返った。
「いや……驚いたな。コイツは凄い……だが、白兵戦は少しやりにくそうじゃないか?」
「その時は殴ります」
「えっ」
「直接コレで殴ります」
 今度こそ、メイナードは沈黙した。
 そして、イデアの攻撃が一段落ついたことを察すると、ナトは巨大ピコピコハンマーを掲げて飛び出した。
 ピコッ! 可愛らしい音を出しながら、肉球ハンマーは次々に顔の無いのスタッフを沈めていく。
 しかし、何も知らないシエロから見れば敵に力なく無意味なピコピコハンマーを当てているようにしか見えない。けれども、力を込めないぶん、ナトは軽々と空を舞い、敵の無様な攻撃を避け続けた。
「ニャーン!」
 ハンマーがピコッと音を立てる度に、叩いた場所から弾けるようにネコスライムが出現する。デフォルメされたスライムの身体に耳と尻尾が付いたファンシーな生き物である。それらは別に攻撃するわけでもない。ただ、ニャーンと鳴きながら可愛らしくじゃれあっているのだ。だが、増える。どんどん増える。
「ちょっ……これはいったい……」
 シエロが口を開いたのと同時に、ネコスライムの数が一定数に到達した。
「……いま……」
 ナトが一言、ぽそりと呟いた瞬間、ネコスライムたちが一斉に突撃した。増えに増えたネコスライムたちは敵が見えなくなるほどにまとわりついた。
「雷を」
 ナトの言葉に反応したネコスライムたちは水風船のように次々に弾け飛んだ。それは爆風を生む威力のある爆弾たちだった。その情景は詳しくは述べられないが、爆発する姿は決して可愛いものではなかった……。唖然と言葉を失ったシエロの耳に恥ずかしそうなナトの声が聞こえた。
「……二本立てだったの」
「どんな番組!?」
 反射的に叫んでしまったシエロを誰が責められよう。

「お兄さん! もう敵が居るのに武器がまだ!」
「ふふ、何を言っているんだ。僕は全身が武器だよ」
 黒姫の叫びにシウは不敵に笑う。
「こいつを倒すには両手の封印を解き放つしか無いか……」
 彼は呟き、両手のグローブを外した。
「僕はかつて異世界で真央を自らの身体に封印して、御しがたい強大な魔力を手に入れたんだよ。その封印を今解く……!」
「お兄さん!」
「……と言うのが今考えた設定なんだけど、どうかな?」
 黒姫の顔が強張り、中二病ポイントが貯まって敵のレベルアップのベル音が聞こえた気がした。そう、この世界の片隅で、仲間のはずのリンカーが黙々と敵を強化しているなどと、誰が思うだろうか。
「形あるモノだけが武器じゃない。僕の武器は魔術……その魔術を生み出す想いの力。血の代償を得て奇跡を起こす魔術。その名は『血威(ケツイ)』!」
 彼の両手に光の聖痕が刻まれ魔術が発動した。勝利を想い、魔を打ち消す力。それがシウの武器。まばゆい光が辺りに満ちる。与えすぎた栄養は草木を枯らす。光の中、強化されすぎた敵はぼこぼこと膨らみその身体を崩した。
「あれだけのパワーを受け入れる器が育ってない。早すぎたんだ」と須頼の声が聞こえた気がした。
「お兄さん、なんてことを!」
 光の中、真っ白になって立ち尽くすシウに黒姫が抗議する。それに、シウは力強い笑みを浮かべて言った。
「最強の敵に自分の考えた最強の武器で勝つのが最高の中二病じゃないか」
 中二病を極めるお仕事じゃないんだよ……、という黒姫の言葉は、満足しきったシウにはもちろん届かなかった。

 修羅姫が振るう双斧の鎖分銅が複数の敵に巻き付く。鎖に顔の無い敵たちが絡め取られ、その身体が他の身体に激しく叩きつけられ潰される。そうかと思えば、修羅姫の手には弓が握られ、手へと射られた矢が地面へとライヴスの衝撃となって降り注ぐ。
「もっとだ……妾を楽しませろ……!」
 舞い踊るように、敵の間をはしる修羅姫の姿を、秋姫は離れた場所に生えた樹の上から微笑みさえ浮かべて見守る。
「ふふ……楽しんでますね……」
 と、そこに一際大きな敵が現れた。それは、他とは違う姿をしていた。冷たい冷気を纏った輝く透明な人形。
 ──絶対零度の氷の女王。それは、修羅姫を表す時に用いられる二つ名。瞬時にそれを理解した彼女の赤い瞳が細められる。
 瞬時に双斧の鎖分銅を鞭の様に唸らせ、その身体に叩きつける。同時にふたつの斧の刃から斬撃を叩き込む。
「挨拶代わりだ……受け取れ……!」
 スピードが乗った鎖分銅が敵を絡め取り、その巨体を空中高くに投げ飛ばす。浮いたその身体を弓へと変化した朧から弾かれたライブスを纏った貫通矢が貫く。
「食らえ……!」
 巨体と矢によって砕かれた氷の塊が空から降り注ぐ。だが、それらが地面に届く前に、彼女の手の中で朧は重斧へと姿を変えた。それを地面に突き立てると、修羅姫は自身を空へと高く押し上げた。
「終わり……だ!」
 中空で氷の巨体と並ぶと、修羅姫は吐き捨てた。重量を増した重斧を両手で掴み、回転で勢いをつけた一撃が氷の巨体を砕いた。

 アリューテュスが双剣を振るう。それは風や水の刃となって敵を斬る。更に魔力を込めると刀身に煌めく魔法文字が流れ、目の前に大きな魔法陣が展開された。それはそのまま敵に打ち出されるよう前に進むと敵を拘束、あるいは魔法の無効化を行った。「魔呪・音(マジュ・オン)」
 アリューテュスの声と共に音速で剣が魔法陣に突き刺さり共鳴を起した。途端に炎・氷・雷の形を借りた力の渦がそこから迸る。更にふたつの剣をクロスすとシールドになり、攻撃を受ければ同じ効果を跳ね返す。それは正に攻防一体の最強の剣。
「お前ごときの攻撃が通ると思うな! 今度こそ、守り抜く!」
 アリューテュスは迫り狂う巨人たちに叫ぶ。
「この光景、なんかデジャヴ!?」
 理夢琉にあるもう一つの記憶と見ている光景が重なって見えた。
 その時、大地を震わせ、最後の敵……ダークブラウンのスーツを着た巨大な『魔王』が現れた。
「ゆけ、子狐丸!」
 野乃の声にイメージよりだいぶリアルな動きをする狐が牙を剥いた。怠惰の鎖を下げた憂が追う。
 最後の一撃で魔王姿の室長は崩れ落ちてった。それを確認したアリューテュスはそっと理夢琉を抱きしめる。
 ──偽物の英雄でも今、感じる温かさは本物だ。
「……守る事ができてよかった」
 ゲームの話かな? と見上げる理夢琉が見たのは柔らかく微笑むアリューの顔だった。
「あ……それが笑うって事だよ、アリューテュス初めて笑えたね!」
 理夢琉はアリューテュスを強く抱きしめ返した。

●ひとまず、Fin or End
 VRゴーグルを外した一行の前に、先程頭を抱えて医務室へ向かった真央の代わりに、須頼が立って研究の協力への礼を述べた。
 ──正直、開発はしばらく中止になるかもしれないなあ。
 そんな想いを抱えた須頼に憂は言った。
「この依頼、出してくれてありがとう。お陰で憧れた背中、思い出せたよ」
「……こちらこそありがとう。製品化はしばらく先になりそうだけど、今回の記念に携帯端末用アプリとこのカードを差し上げるよ。アプリではまだ今日作った武器を呼び出して模擬戦を行うことしかできないけど」
 コホンと小さく咳をして、ゲーム開発者が夢だった須頼はこう締めくくった。
「いつか……必ず、ゲームは完成させてみせるから楽しみに待ってね」

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 泣かせ演技の女優
    化野 燈花aa0041
  • 危険人物
    メイナードaa0655
  • 希望を歌うアイドル
    斉加 理夢琉aa0783

重体一覧

参加者

  • 泣かせ演技の女優
    化野 燈花aa0041
    人間|17才|女性|攻撃
  • エージェント
    七水 憂aa0041hero001
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