本部

目の前に貴方達の偽者がいたらどうします?

岩岡志摩

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2015/12/04 18:34

掲示板

オープニング


 その日、とある銀行支店では、ATMが全て故障するという事態が発生していた。
 そのため、この日銀行に用事があった人達は全員窓口での対応を強いられていた。
 ATMが重宝されるのは、各手続きにかかる時間が窓口よりも短いためで、故障した今は全員番号札を持って、思い思いの場所で順番を待っていた。
 だがそこへ銃声と共に番号札も無視して割り込んでくる覆面姿の男達が現れた。
「金を出せ。てめえらも動くんじゃねえ」
 窓口越しに覆面姿の男達が銀行員へ銃をつきつけて金を要求したり、逃げようとする客達を人質に取ろうと動き出す。
 銃が偽物ではない事を示すかのように、覆面男の1人が店内で睨みをきかせている防犯カメラに向けて発砲し、次々とカメラを壊していった。
「見ての通りこれは本物だ。妙な真似はするな」
 銃をおろした覆面男の一人が腕章のようなものを取り出し、腕に付ける。
 その腕章を見るなり、銀行員と客達の顔色が変わった。
「俺達は『鼎会』。知らねえとは言わせねえぞ」
 男がかざした腕章には、この地域一帯で暴れまわるヴィラン組織『鼎会』の記章が記されていた。他の男達も次々と腕章を取り出して身につける。
 腕章が本物であるとすれば、目の前の覆面男達はヴィランという事になる。普通の人間では歯が立たない存在だ。
 客達が覆面男達の指示に従い、大人しく一か所に集められ、座らされる。
 巻き込まれ、人質になった客達の中には泣き出す者も現れた。
 しかし事態は思わぬ方向に進む。


 不意に一人の男が立ち上がると、銃で脅され泣きじゃくっている少女のもとへ近付き、拳で殴り飛ばした。
 殴られた少女は壁まで吹っ飛び、ぶつかって床に倒れるが、男が再び近づき胸ぐらを掴んで一喝する。
「泣くんじゃねえ! てめえはただ、周りがそうだからって安易に流れに乗ってるだけだ。軟弱だから、最後の最後で踏ん張れねェ。甘えてェから、一人で背負うのが怖ェから、泣いてるフリをしてるだけだ! その弱さ、ヘドの出そうな軟弱な気持ち、教育してやる!」
 こいつは何を言っているんだ?
 覆面男達も目の前の男が何の理由で少女を殴り、何を喚いているのかさっぱりわからず呆然とする中、拳を再び振り上げる男に、少女が倒れた先の近くにいた老人客が取りすがる。
「お、おい。その子が何をしたというんじゃ。お前さんが何を言ってるのかさっぱりわからんぞ?」
 すると男は少女から手を離すと、今度は老人の胸ぐらを掴んで老人の顔に拳を叩き込んだ。
「おいジジイ。てめえがこいつらをけしかけた黒幕だってことはお見通しだ。俺様は人質の命なんざ知ったこっちゃねーが、俺様の目の届くところでの悪事は見過ごせねえ。下らん綺麗事は言うなよ? さあ白状してもらおうじゃねぇか!」
「いや、そいつはただの人質で俺達の黒幕じゃないぞ? そもそもお前は何者だ?」
 覆面男達が目の前で客達に暴力を振るう男に銃を向けて問いただすと、男は胸を張って宣言した。
「俺様はH.O.P.E.のエージェント、来田菊だ!」
 その宣言と共に、来田へ覆面男達からの銃弾が襲いかかったが、いずれの弾も命中したにもかかわらず、来田と名乗る男が怪我を負った様子はない。
「ほ、本物だ!」
 覆面男達が怯えた様子を見せる。
 実はこの覆面男達は、ヴィランでもない普通の人間達で、ただ組織の名を借りた偽者だった。
 そして銃弾を受けても倒れない目の前の男は、明らかに普通の人間ではない。
 この後、来田菊と名乗った男は様々な台詞を吐いて覆面男達と対峙するのだが、どれも某特撮ヒーローものに出てきたキャラクター達の台詞を借用したものばかりだったので、ここでは省略する。
 人質にされていた人達はエージェントがいた事に内心安堵したが、同時に来田が発した言葉にも不審を抱いていた。
 人質の命なんてどうでもいいと叫び、一般人に因縁をつけて暴力を振るう目の前の男は、本当にH.O.P.E.のエージェントだろうか?
 その疑問は間もなく解決されることになる。
 なぜなら人質にされている人達の中に、『覆面男達の名乗る組織を、先日密かに潰してきた本物達』もいたのだから。
 『本物達』である貴方がたは、先日組織に潜入する為に貸与された組織員の制服や記章を未だに所持しており、同じく貸与されたハンズフリーの無線機と一緒に隠し持っている状態だ。
 『本物達の目の前で、偽者が本物を騙って暴れるとどうなるか』、偽者達に思い知らせてあげましょう。

解説

●目標
 銀行内にいる人質達を救出し偽者達を退治する

 この依頼では皆様が先の依頼で組織を潰した報酬を受け取るため、銀行に立ち寄ったところ、強盗達が現れて事件に巻き込まれ、人質の中に紛れ込んでいるという特殊な状況からスタート。今回受け取る報酬はその時のもの。
 人々の救助の他、偽者達との戦闘の際は以下の選択が可能。
 1:身分証を見せた後『本物のH.O.P.E.のエージェントの凄さ』を思い知らせる
 2:密かに組織員の装備を使い悪役を演じ、『本物の悪人の怖さ』を思い知らせる
 3:両方をやってみる

●登場
 覆面男達
 ヴィラン組織『鼎会』を名乗る強盗達だが全員偽者の一般人。いずれも拳銃を所持しているがAGWではない。3人。

 来田菊
 H.O.P.E.のエージェントを名乗る男。女子供や老人等、弱そうな人々に因縁をつけ暴力を振るい、自分の強さと『正義』を誇示している。
(PL情報:こちらも偽者でヴィラン。来田は悪を倒す為なら人質ごとぶっ潰し、暴力で自分の主張を押し付けるのがH.O.P.E.の正義だと周囲の人々に思いこませようとしている)

 人質達
 銀行に勤める人達の他、銀行に来ていた客、そして皆様。皆様と一緒に総勢30名程度が一か所に集められている。

●状況
 とある銀行の支店。縦40m、横40mの建物。上半分がATMや銀行窓口をはさんで銀行員達がいた区画。
 下半分は大広間になっており、身を隠せるほどの柱の列が建物両脇から2mおいた位置に2m間隔で縦に並んでいる。
 人質達は大広間中央に集められているが、来田と覆面達は建物の左端あたりで睨みあい、誰も人質達の動きを気にしていない。
 出入口は建物右と下の正面、非常出口は銀行員達の区画に1つあり、頼めば銀行員達がいた区画内に入る事ができるので隠れて着替える事も可能。
 現在皆様からの極秘通報を受け、H.O.P.E.別働隊が周辺道路封鎖や人々の避難誘導を完了済み。

リプレイ


 ある銀行にヴィラン組織を名乗る強盗犯が来た。そこへ偽者のH.O.P.E.エージェントが名乗りを上げて暴れだした。
 現在その両方は銀行内の片隅で揉めていて、人質にした人達には一切注意を払っていない。
 ただし彼らは『ある事』に気付いていなかった。
「野乃……緊急事態」
『大丈夫じゃ。現状は把握しておるぞ』
 三ッ也 槻右(aa1163)は、自分の幻想蝶内で寛いでいた酉島 野乃(aa1163hero001)に向け、揉めている連中に聞こえない音量で警告を発したが、既に野乃は状況を把握していたようだ。
「報酬を受け取りに来て、こんな騒動に巻き込まれるとか、悪運につかれているな……」
 メガネとオールバックの金髪が似合うレオン・ウォレス(aa0304)は深くため息をついた。
「ここにあたし達が居合わせた事自体、何かの巡り合わせだと思うし『義を見てせざるは勇無きなり』だったかしら。放ってはおけないわよね」
 そばにいたレオンの英雄にして、艶やかな赤髪が映えるルティス・クレール(aa0304hero001)の言葉にレオンは頷いた。
「仕方ない。乗りかかった船だ。巻き込まれた人のために善処するとしよう」
 レオンとルティスは、未だ借用中だった無線機を手早く装備すると、仲間達との交信を密かに進める。
 それは人質にされた人達の中に『強盗犯達の名乗っていた組織を先日潰してきたばかりのH.O.P.E.エージェント達がいた』事だ。
 装備していたバイザーにディフェクティオ(aa1997)は『呆れた』という意味合いの文字を浮かべる。
「また運のない阿呆どもがいたもので……」
 ディフェクティオの事を『ディ坊』とも呼ぶ、ディーテの相棒である蘇芳(aa1997hero001)も呆れを込めたため息をつく。
 既に仲間達のうち、目にも綾な色彩を帯びた髪と、中性的な美貌をたたえたアヤネ・カミナギ(aa0100)と蒼い長髪に紫の瞳が特徴の『姫騎士』クリッサ・フィルスフィア(aa0100hero001)、確固たる矜持を持つヴィント・ロストハート(aa0473)、蒼のクリッサと並ぶと美しい対比をなす『真紅の剣姫』の二つ名通りの風貌を持つナハト・ロストハート(aa0473hero001)、そして槻右と野乃も加わり自分達と同じく人質にされた銀行員達に身分証を提示したうえで、自分達が本物である事やこれから銀行員たちを含め人質にされた人達を救うので指示に従ってほしい旨を伝えていた。
 それまで陰鬱な表情だった銀行員達やお客達の顔が、エージェント達の説明を受けて晴れ渡る。
「あいつは偽物です……。奴の凶行も止めます。ご協力をお願いします」
 槻右がそう銀行員達に告げ、ヴィントやアヤネも、偽者を自分達にひきつける意味も兼ねて必要な『準備』を行う為、普段銀行員達が使っている区画や非常出口の使用許可を求めると、銀行員達は快諾しエージェント達は普段自分達が入れない区画を使用する事ができるようになった。これで『準備』は滞りなくできる。
 その間にも既に装備済みの無線機を使い、密かに人質にされた人達を銀行の出入り口付近まで移動させていた不知火 轍(aa1641)と、傍らにいる雪道 イザード(aa1641hero001)は、目の前で未だ続いている『鼎会』と『H.O.P.E.所属のエージェント』を名乗る連中のいがみ合いに首を傾げていた。
「……鼎会。……アレって僕ら潰してきたんじゃなかったっけ?」
「そうですね、不思議な事もあるモノですね」
 確か先日、その組織構成員は自分達が全員を戦闘不能にしてH.O.P.E.へ身柄を引き渡している。
 今ごろ鼎会の組織構成員達は全員H.O.P.E.の厳しい取り調べを受けている筈だ。
 そして『自称』H.O.P.E.のエージェント、来田菊と名乗る男が銃弾を受けても無傷だった事に、強盗達が一瞬怯んだことを轍もイザードも見逃していなかった。
 そうなると強盗達の素性はおよそ見当がつく。組織を騙った偽者で、それも一般人だ。
 こちらについては無線を介し仲間達の間で見解が一致しているが、問題は来田菊を名乗った男だ。
「……ひどい。あの女の子もお爺さんも、何も悪くないのに」
「やーね、ああいう弱い者いじめで悦に入るバカは」
 アリエティア スタージェス(aa1110)やリアン シュトライア(aa1110hero001)は、目の前で見せられた来田の所業に、内心不快どころでない感情を滾らせていたが、今は人質となった人達の安全確保のほうが先との優先順位を思い出し、轍たちの行う避難誘導へ加勢する。
 轍達の行う避難誘導に百日 紅美(aa0534)と『灼熱の魔女』の二つ名を持つアルテ・ローゼ(aa0534hero001)も内心に抱える感情を今は抑えて加わり、非常出口も含めた各出入口を使い、安全を確保しながら銀行内にいた人達を建物の外へと誘導していく。
 なお来田の暴力を受けた少女と老人は、紅美に頼まれたローゼが少女を抱え、イザードが『少々窮屈な思いをさせますが、運ばせて頂きます』と老人を背負って建物の外へと運びだし、既に外に出てルティスと共鳴したレオンの術で治療を受け、槻右の要請を受けたH.O.P.E.別働隊の手で既に病院に運ばれている。
 仮に来田がヴィランであったとしても、殴られた一般人達が無事であるはずもなく、病院へ運ばれる前に容体が急変しかねないとレオンやルティスは判断し、今後起こる来田との戦いでの仲間達への負傷治療より、目の前の一般人達の負傷治療を優先した結果だ。
 そして少女や老人はレオンのケアレイで怪我を癒され、少女や老人が運ばれた病院からは『検査が必要だが後遺症は残らない状態まで回復している』との連絡が無線を介し、レオンのもとへ届いた。
 レオンは直ちに自分達の行動も含め、病院からの連絡内容を無線で密かに仲間達に伝えると、怪我をした少女と老人の事が気がかりだったアリエティアや紅美をはじめとしたエージェント達は内心安堵すると共に、改めて来田への怒りをそれぞれ解放する。
「何処にも居るのね…こういう面倒事を平気でやる人」
「両方とも即時制圧するのは苦でもないだろうが、H.O.P.Eに悪い印象を植え付けられるのはいい迷惑だ。その部分を抑える為に少し手順を踏むとしよう」
 人質にされた人達全員の退避が完了したことを見届けた後、クリッサとアヤネはそう言い交して『本物のエージェント』として動く。
「それじゃあ誓約の下、あの最低の屑野郎に教えてやろう。剣の死を以って『本物の恐ろしさ』を……な」
「そもそも、あの様な者が正義の味方を騙る資格はありません。ヴィント、今回は私も貴方の考えに同意です。教えてあげましょう。私達の誓約の下に、正義の何たるかを」
 ヴィントとナハトはそう言い交し『準備』を始める。
「エージェントの名を騙って弱きをくじくのは許せない! あと、言ってることがしっちゃかめっちゃかでわけわかんない! あたし、ああいうの一番嫌いだわ!」
 ならば自分は『本物のエージェント』としてあの馬鹿(来田)を丸焼きにしてやろう。
「丸焼きだなんて、紅美も過激ね。ま、『アレ』にはあたしもムカついてきたから、やるなら喜んでやるわよ」
 常になく過激な紅美に軽く驚きの姿勢を示しつつも、ローゼもまた思いついた罵る言葉達すら来田を評するには控えめと、来田を『アレ』呼ばわりして賛意を示す。
 『悪人役になる準備』が必要な者達は既に使用許可の下りた銀行員達のいた区画へ入り『準備』を行い、その必要のないエージェント達も一度外へ出る。
 ヴィランを騙る連中も論外だが、自分達H.O.P.E.所属のエージェントを騙った来田なる男はさらに論外な存在だ。
 ゆえに本物のエージェント、そして『本物の悪人』として彼らにお灸をすえると共に、『本物の凄さや恐ろしさ』をその身の骨の髄まで思い知らせよう。
 幸いなことに『悪人』になるために必要な装備は手元にある。
 ヴィント、ディフェクティオ、槻右は装備を使い『悪人』としてその恐ろしさを偽者達に思い知らせる。
 そしてアリエティア、アヤネ、レオン、紅美は本物のH.O.P.E.所属のエージェントとしてその凄さを思い知らせる。
 避難誘導が完了した轍はイザードと共鳴し両方の動きを援護する。
 これが人質となってから今に至るまでにエージェント達が密かに無線を介して相談し合い決定した方針だった。
 そしてこの場にいるのは準備も終わった皆様という『本物』と、未だ舌戦の応酬を繰り広げている偽者達だけだ。
 今こそ『本物』の凄さや恐ろしさを、偽者達に思い知らせてあげましょう。


 野乃との共鳴で、片隅に野乃の名残である水色がある狐耳と尻尾を生やし、袴姿の上に鼎会の制服と記章を纏った姿の槻右が銀行の正面入り口から堂々と銀行内へと入ってきた。もう一方の出入り口からも、ナハトとの共鳴で髪を銀に整え、瞳と異形化した左腕にナハトの真紅を纏ったヴィントや、ディフェクティオ、蘇芳も鼎会の装束を纏って入ってくる。
 一度非常出口から外に出て、それぞれの出入口から入り直し、『新手』と見せかける演出を3人はこなしている。
「随分勝手に動いたものですね……?」
 槻右の言葉と共に、静かだが有無を言わせぬ気迫が強盗達や来田へと向けられ、声をかけられた来田や強盗達も彼らの存在に気が付いた。
「何だてめえら。ん? こいつらと同じ服装……って事は」
「鼎会で、きな臭い事になってる様です。ここはいいですから、あなた達は早急に本部へ向かいなさい」
 槻右は来田と強盗達の間に割り込むような動きをとり、強盗達にそう告げる。
 『鼎会の本物』が来た。
 内心強盗達は震え上がったが、どうやら自分達の事を偽者とは知らず加勢に来てくれたのだと、安堵の気持ちも生まれた。
『邪魔』
 バイザーにそんな意味合いの文字を浮かべたディフェクティオが『救援』に安堵した強盗達をゲシゲシ蹴り倒していく。
「役立たずはすっこんでな」
 倒れた強盗達の襟首を蘇芳が掴んでは後方へ放り、強盗達に外へ出るよう促した。
 その間にも、ディフェクティオが来田を上から下まで値踏みするかのように眺めた後、顔にあるバイザーに『つまらない』という意味のような絵文字を浮かべる。
「よワそう……」
「てめぇもこいつらの同類か。今すぐ頭を床にこすりつけて俺様に詫びをいれやがれ! ガキだからって容赦しねえ。俺様が本気を出さねえうちにだ!」
 来田が機械的な音声を発したディフェクティオの胸ぐらを掴み、もう片方の手で拳を振り上げながら喚く。
「弱イわんこっテ……よク吠える」
 ディフェクティオは胸ぐらを掴まれながらも平然とそう呟くと共に、顔にあるバイザーに『馬鹿丸出し』のような意味あいの絵文字を浮かべる。
「随分な三下じゃないか……。あたしらが出るまでもないんじゃねェかい?」
 蘇芳がそう来田に告げるとディーテの胸ぐらを掴んでいる来田の腕を掴み、引きはがしにかかる。
 来田の注意が自分達から逸れた事に気付いた強盗達だったが、無骨な大剣を顕現させたヴィントの姿に『ひぃっ』と悲鳴を上げた。
 そんな強盗達に感情のともらない視線を送りながら、ヴィントは正面入り口の方に剣の切っ先を差し向ける。
「さっさと行け」
「「「は、はいぃっ!」」」
 グズグズしていたらあの大剣でミンチにされそうなヴィントの気迫に怯え、強盗達は慌てて正面入り口から逃げ出した。
 そして強盗達は外に出た途端、レオンの放ったセーフティガスをまともに受け、次々と意識を手放していく。
 無力化された強盗達は、既に共鳴化を終え、赤い瞳と忍び装束を纏った轍からの無線連絡を受けたH.O.P.E.別働隊によって連行されていく。
『強盗達の確保は完了した。ここからは本物のエージェントの出番だ』
 轍からの無線連絡を受け、アリエティア、アヤネ、レオン、紅美達も建物内に入り、轍も後に続く。
 続々とやってくるH.O.P.E.の身分証を掲げたエージェント達を見て、来田はディフェクティオから手を離し、表情に喜色を浮かべる。
「援軍とは気が利くな。よし。リーダーである俺様の指示に従ってこうど」
「……あまり手荒なことはしたくないです。降伏してください」
 来田の言葉を遮り、アリエティアが常にない意気込みで、来田へこれ以上の狼藉を止め、素直に投降するよう促す。
「何故こんな真似をした。大人しく捕縛されるならまだ話の余地はあるかもしれんが?」
 内心無駄と知りつつも、アヤネも同様の降伏勧告を告げる。
「なんだてめえら? 俺様が誰かわかって言ってんのか? 俺様はH.O.P.E.の」
「だったら見せなさいよ、身分証。あたし達みたいに」
 紅美が不快な感情を隠そうともせず、今すぐ丸焼きにしたい衝動を抑えて来田に身分証を提示するよう告げたが、来田は見当違いの言葉で反撃した。
「おいおいおい、最近のエージェントはヴィランと仲良しなのかい? なんでそいつら放っておいて俺様だけ責めるんだ?」
「改めまして。H.O.P.E.所属のエージェント、三ッ也 槻右です」
 槻右は鼎会の制服を脱ぎ捨てると、金色の装飾が施された袴姿と身分証を提示して来田の追及を封じた。温厚そうな雰囲気だが、目は嗤っていない。
 ヴィントやもまた本来の姿と身分証を示すと、来田が慌てだした。
「て、てめえら騙しやがったな! それでもH.O.P.E.のエージェントかよ!?」
「まぁ、最初にライセンスが出ない辺り頭の悪さが透けて見えるさね。刑事物でも身分証明の提示は当たり前だろうよ」
 『本物参上』のような意味合いの絵文字をバイザーに浮かべたディフェクティオと共に、本来の姿と身分証を示した蘇芳が来田の逃げ道を封じた。
「我々エージェントの評判を落とそうとはつまらない真似をしてくれたものだな。報いは受けて貰おう」
 これ以上降伏を促しても無駄と判断したレオンが来田に宣戦布告した。
「面白れえ。報いってやつを見せてもらおうじゃねえか」
 来田の言葉は降伏勧告を全面拒否するものだった。その場の空気が臨戦態勢へと切り替わる。
「「焼き穿つ(タスラム)」」
 紅美とローゼは同じ言葉を唱和し、共鳴すると、紅美はローゼの特徴を宿した姿に変わる。
 ディフェクティオは蘇芳との共鳴で黒髪を相棒の蘇芳の名そのままの深い赤色の鬣(たてがみ)のごとく伸ばす。
「『私達だけで助かろうとしない』。あのバカをさっさと捕まえてみんなを安心させるために。……やるわよアリィ」
 リアンより『誓約』を絡めた後押しを受けたアリエティアもまた共鳴し、瞳にリアンと同じ紅色を宿す。
「「護る為に、誓いを剣に」」
 アヤネとクリッサも唱和と共に共鳴し、アヤネの髪のグラデーションや瞳が蒼色も帯び、『騎士姫』とも称される姿へと変化する。 
「舐めるなよ、偽者ども。俺様は強くなるために、特訓を重ねてきたのさ」
 描写できない借り物の台詞ばかり並べていた来田だったが、この辺の発言なら皆様にお見せしても大丈夫だろう。
「腹筋、1日50回! 懸垂1日50回! 計算ドリル1日……10ページ! どーだ、びびったか!」
 そう言って胸を張る来田だったが、聞かされたエージェント達のほうは、思わず吹き出しそうになるのをこらえる。
「俺様はそんな死をもいとわぬ特訓を積んで、強さを手に入れた!」
『それのどこが命がけ?』と紅美はツッコミを入れたくなったが、来田はさらにある紙をエージェント達に振りかざした。
「俺様の数値は300以上! エリートって奴だな。そんじょそこらの雑魚たぁケタが違うぜ!」
 見せられた側のエージェント達は唖然とした顔になった。ディフェクティオのバイザーにもつかの間『ぽかーん』を意味する絵文字が浮かぶ。
 それを怯えと誤解した来田が腕に手甲のような武器を纏い、エージェント達へ疾駆する。
 そんな妙な感じで来田とエージェント達の戦いは始まった。


 迫る来田へアヤネは刃に柳葉の特徴を残す槍を繰り出すが、来田は空気を引き裂かれる音を感じながら、アヤネの刺突を手甲で横にずらしてかわし、懐に飛び込むと一本背負いの要領でアヤネを投げる。
「甘い」
 来田の常人離れした投げをアヤネは見切り、体を回転させられつつも、一切の躊躇なく来田の顔面に刃とは反対方向にある槍の石突を叩き込んだ。
 顔面にアヤネの一撃を喰らってのけぞった来田に、着地したアヤネと入れ替わるように、いつのまにか銀行内の天井を『蹴っていた』轍が2つに割れて来田の上から襲いかかり、1対のトンファーが2対の打撃となって来田の顔面へ喰らいつく。
 轍が狼狽する来田の顔を足場にして背面跳躍すると、アリエティアから放たれたライヴスの針が来田の術を封じる。
「さっさと丸焼きにして終わりにするわよ!」
 紅美より来田へ向けた業火が放たれて、炎が質量を持って来田に絡みつく。
 来田の体以外にはどこにも燃え広がらない紅美の炎に包まれた来田に、槻右の風切り音を置き去りにした斬撃が来田の右脇腹に襲いかかり、反対側からヴィントの無骨な大剣が来田の左脇腹へ叩きつけられ、正面からはレオンの水を纏った三叉槍の刺突が叩き込まれ、いつの間にか来田の背後に迫ったディフェクティオの短槍が無防備な来田の背中に喰らいつく。
 アリエティアと轍が交互に縫針とジェミニストライクを繰り出し、来田に意識や術を使う機会を取り戻させる間を与えない間に、紅美が魔力を収束させた銀の魔弾を来田に放ち、銀弾は来田の胸に吸い込まれて、来田を吹き飛ばした。
 仲間が稼いだ貴重な隙を生かし、アヤネがトップギアで全ての力を攻撃に振り向ける。
「エージェントを騙るなら、その責任もしっかり全うしろ。でなければいい迷惑だ」
 やや遅れ、ヴィントも同じくトップギアで殺意も含めて攻撃に向けたライヴスを滾らせる。
その間に槻右とディフェクティオは一撃離脱を繰り返して来田にダメージを蓄積させ続ける。
 不意にアリエティアと轍の連環が途絶えた。回数切れと判断したアリエティアは星の光を宿すグローブを構えて近接戦の用意をする。
 そしてレオンのトリアイナが来田の頭をしたたかに打ち据え、トップギアによる『装填』を終えたアヤネとヴィントが来田に必殺の一撃を放とうとして、援護すべく槻右が片刃の曲刀が来田へ繰り出されようとした時、来田はぼそりと呟いた。
「十討」
 次の瞬間、来田が人の形をとった暴風と化し、自分へ攻撃を殺到させていたレオン、アヤネ、ヴィント、槻右に手甲の嵐を叩き込んでまとめて吹き飛ばした。
 吹き飛ばされた4人の体は、後方にいた紅美、ディフェクティオ、常に仲間をフォローできる位置にいたアリエティア、轍がそれぞれ受け止めて衝撃を殺し、建物への衝突を防ぐ。
「ああ痛え……。ああ愉しィ。今まで見えなかったものが見えて来るぜぇ」
(ただの屑野郎と思っていたが、狂気も持ち合わせていたか)
 庇ってくれた事への御礼を後方の4人に短く述べる間も、訳の分からない事を当たり前のように呟く来田に、ある種の狂気を感じたヴィントが凄味のある笑みを来田に向ける。
(あの野郎、全弾心臓にぶちこみやがった)
 自分を含めた4人に来田が叩き込んだ攻撃の箇所を覚えていたアヤネが再び戦意を滾らせる。
(あいつ……バカだが強い)
 最もダメージが大きかった槻右をケアレイで治療しながらレオンは内心呟いた。
(あれは僕が使う怒涛乱舞に近い動きでしたね。ならばあの攻撃はあれで打ち止めでしょう)
 攻撃を受けながらも槻右は来田の動きをしっかり把握していた。
 その間にもアリエティアは来田との距離を詰め、最後まで温存していた術を発動した。
「終わりにしようよ、来田さん」
 アリエティアの体が二つに割れて、星の輝きや重い打撃音を纏った2つのグローブが来田の胸に叩き込まれ、来田は両膝を床に落とした。
「今度こそ丸焼きになるのよ!」
 紅美もまた温存していたブルームフレアを豪快な口調と共に来田のみを焼く業火として来田に纏わせ、仲間達の攻撃に繋ぐ。
 すでに近くまで接近していたディフェクティオが槍を短く構えて燃え盛る来田に一撃を叩き込み、来田の注意を自分に向けさせつつ離脱し、入れ替わるようにレオンが繰り出した三叉槍が、水の刺突と化して来田の体を貫く。
 レオンの反対側から槻右の斬撃が来田の脇腹に喰らいつき、異様な軌道で来田の頭上へ飛翔した轍が繰り出したトンファーが来田の顔面を殴打したところで、3人はトドメを残るアヤネとヴィントに託して距離をとる。
 仲間達が繋いだ機会を手繰り寄せ、右から防御を捨てて雷光の速さで繰りこまれたアヤネの槍が来田の右脇腹に激突する。
「今こそ貴様に剣の死を送ろう。騙り、暴力を振りかざした報いを受けろ、来田」
 質量と疾走を攻撃力に上乗せし、防御を攻撃に注ぎ込んだヴィントの大剣が横殴りの暴風と化して、来田の左脇腹に深々と叩き込まれ、ついに来田は力尽きて倒れ伏す。
 こうして来田菊という不届き者もまた、『本物達』の手でしっかり報いを受けた。


 ズタボロの状態で倒れ伏す来田を、共鳴を解いたディフェクティオがバイザーに『ねえどんな気持ち?』を意味する文字を浮かべながら、つんつんとつつく。
 悪運が強いのか、来田には辛うじて息はあるものの、答えられるわけがないとわかった上での質問だ。
 ぷーくすくす。
「あたしらも暇じゃないんでね。いい加減にしな」
 無論答えが返ってくることはないとわかってはいたが、蘇芳も一言来田へ言わなければ気が済まなかった。
 エージェント達より連絡を受けたH.O.P.E.別働隊の手で運ばれていく来田を横目に、アヤネと槻右が謎の会話をしていた。
「確かに300以上あったな。『赤血球』の数が」
「中性脂肪と白血球も300以上とありましたね」
「だが、今回の件で奴が受診する手間が省けたのは確かだろうな。あの『特定健康診査受診結果』にはD(受診推奨レベル)とあったから」
 レオンも会話に加わると、自分も確認できた内容を告げた。
 来田が見せたエージェント達を唖然とさせた紙とは、『来田菊の特定健康診査受診結果』が記された紙だった。
「あれを見せられた時、俺はどういう顔をすればいいのか悩んだぞ」
 ヴィントもまさかそんなものを来田が突き付けてくることは予想してなかったのだろう。
「……あれは私も予想していなかった内容でした」
 アリエティアもささやかな同意を仲間達に告げる。
 つまり皆様が唖然としたのは、紙に記された数字とその意味を皆様が瞬時に読み取ったから、という事です。
「赤血球や白血球とかの数値が強さでエリートって、あの馬鹿、何考えてんの」
 紅美は呆れた声でそう呟いたが、多分わかる人は本人以外いないだろう。
 何はともあれ、強盗犯や不埒な偽者には、たっぷりとエージェントや悪人の凄さや恐ろしさを思い知らせて始末できた。
 連行された先で、強盗犯達は待ち構えていたH.O.P.E.の担当官達の厳しい追及に再び震え上がり、来田の方は病院での治療の間も意味不明な言葉や借用だらけの台詞を並べ、取り調べ担当の人達を苦戦させるが、それは別の話。
 報酬を受け取ったエージェント達は、銀行員総出での見送りと安全が確認されたため戻ってきた客達の感謝の声を受けながら帰っていく。
「……寝る」
「今日は働きましたものね」
 既に眠りかかっている轍を支えながら、イザードは轍の健闘を讃えていた。
『またのお越しをお待ちしております』
 そう唱和して銀行員達は最敬礼でエージェント達に頭を下げる。
 今後も本物を騙る偽者達がいるだろうが、その方々にはその結果、相応の報いを受ける事も覚悟してもらいたい。
 どう誤魔化そうと結局は本物が現れて、偽者が纏う化けの皮をはがしていくのだから。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • エージェント
    アヤネ・カミナギaa0100
    人間|21才|?|攻撃
  • エージェント
    クリッサ・フィルスフィアaa0100hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • 屍狼狩り
    レオン・ウォレスaa0304
    人間|27才|男性|生命
  • 屍狼狩り
    ルティス・クレールaa0304hero001
    英雄|23才|女性|バト
  • 恐怖を刻む者
    ヴィント・ロストハートaa0473
    人間|18才|男性|命中
  • 願い叶えし者
    ナハト・ロストハートaa0473hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • ひとひらの想い
    百日 紅美aa0534
    人間|17才|女性|攻撃
  • サウィンの一夜
    アルテ・ローゼaa0534hero001
    英雄|27才|女性|ソフィ
  • おうちかえる
    アリエティア スタージェスaa1110
    人間|19才|女性|回避
  • あー楽しかった
    リアン シュトライアaa1110hero001
    英雄|16才|女性|シャド
  • 拓海の嫁///
    三ッ也 槻右aa1163
    機械|22才|男性|回避
  • 大切な人を見守るために
    酉島 野乃aa1163hero001
    英雄|10才|男性|ドレ
  • その血は酒で出来ている
    不知火 轍aa1641
    人間|21才|男性|生命
  • Survivor
    雪道 イザードaa1641hero001
    英雄|26才|男性|シャド
  • エージェント
    ディフェクティオaa1997
    機械|13才|男性|攻撃
  • エージェント
    蘇芳aa1997hero001
    英雄|28才|男性|ドレ
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