本部

犬の王

五葉楓

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
10人 / 6~15人
英雄
10人 / 0~15人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2015/12/04 14:09

掲示板

オープニング

●犬達の強襲
「あ、わんちゃんだ!」
 小さな女の子が立ち止まったので母親が歩道から車道を見ると柴犬っぽい犬が一匹とことこと歩いていた。
「あら、本当。誰かのペットかしら?」
 しかし首輪は見当たらない。
 もしかしたら野良犬なのかもしれない。
 今時珍しい。
「わんちゃんー」
「ダメよ。あっちゃんのわんちゃんじゃないでしょ」
 犬のところに行きたがる女の子の腕を引いて再び歩き出すお母さん。
「あうー」
 女の子は名残惜しそうに犬を見つめ続けていた。
 そんな時だった。
「なんだあれ……!」
 道端に車を止めていたサラリーマンが窓から身を乗り出して叫んだ。
 すると間も無く走っていた車が次々止まって行き、人々の悲鳴に混じって犬の鳴き声が聞こえ始める。
 何が起こったのかと人々が戸惑っていると間も無く辺りは大量の犬に溢れ始めた。
 押し寄せる犬達に人々は大混乱になる。
 一体何が起こったのだろうか?
 あちこちで人々が犬に襲われ、阿鼻叫喚の光景が繰り広げられている。
 あまりの事に驚いて車を捨てて逃げる人が出る中、更なる混乱の種が姿を現した。
 乗用車と同じくらいの大きさの、青い炎を纏った犬が姿を現したのだ。

●居合わせた英雄達
 スマートフォンがコールしたので出てみるとHOPE東京海上支部からだった。
「緊急の通達だ。この連絡を受けてる人間には何の事かすぐ察してもらえると思うが、現在都内で犬の大群が人を襲っている。従魔の仕業と思われるので現場に近い人間は直ぐ対処と制圧に当たって欲しい。情報はメールで転送する」
 通話が切れて間も無くメールが着信する。

解説

 犬の従魔の制圧をお願いします。
 人間に取り付きそびれた従魔の群れが地域の犬達に取り付いて人間を襲っています。
 デクリオ級に取り憑かれた巨大犬が一匹、ミーレス級が5匹、イマーゴ級が15匹います。
 イマーゴ級は犬そのものの強さしかありませんがミーレス級からは肉体を強化して通常の5倍ほどの強さです。
 通常の噛み付き・突進攻撃をしてきます。
 炎の巨大犬はデクリオ級、戦闘時に乗用車サイズから路線バスサイズまで巨大化して噛み付き・突進に加えてカマイタチと空気の固まりを飛ばしてきます。
 連携プレーでの集団攻撃に注意しつつ制圧してください。
 従魔が居なくなれば犬は正気に戻ります。イマーゴ級は引き剥がすのは結構容易かと思われます。
 他、従魔に取り憑かれてなくても操られている犬が無数にいるのでこちらも助けてあげてください。
 周囲にいる一般人の救助もお願いします。
 巨大犬には核となるような犬はいません、ただの従魔です。

リプレイ

●居合わせたリンカー達
「これ、全部従魔じゃないよな」
 逃げ惑う人々と犬の群れを前にカトレヤ シェーン(aa0218)は息を呑む。
「おーおー凄い数じゃのう。みんな一緒に寝たら冬はヌクヌクじゃ」
 この混乱の最中、一人呑気に額に手をかざして遠見のポーズで周りを見渡す王 紅花(aa0218hero001)。
「ふざけている場合じゃないだろ、状況を把握してみんなを助けないと」
「わかっておる。犬は沢山居るが…今見たところ従魔や愚神の気配がするのはほんの一部だという事は把握したぞ?」
「じゃあ殆どは……」
「操られてるだけじゃから、可愛そうだが軽くはたけば正気に戻るじゃろうて」
「そうか、分かった」
 紅花の言葉にカトレヤは頷く。
「みんな、大丈夫?!」
 二人の元に伊邪那美(aa0127hero001)が駆け寄ってきて、追うように御神 恭也(aa0127)もやってくる。
「伊邪那美、御神。お前達も無事か?」
「うん!」
「大丈夫だ……」
 カトレヤの問いに二人は答える。
「この事態を早く収めないと……」
「頑張ろう」
「あの犬達は全て野良犬なのか?」
 どこからかき集めてきたのかわからないが、驚くばかりだ。
「うーん、なのかな? でも随分カッコイイ犬も混じってるよね、血統証付きかな?」
「どうだろう……従魔に率いらてる子達、首輪ないから野良犬に見えるんだけど……」
「やだ、しばわんこも居るわ!可愛い!」
 Nikolaus Wiren(aa0302hero001)が好みの犬を見つけてシナを作る。
「チッ、面倒だ……」
 事件に巻き込まれて殺気立つ羽柴 愛(aa0302)の顔をニコラウスが不安気に覗き込む。
「わんちゃん、殴っちゃうの?」
「……でも殺さないから安心しろ。犬に罪は無いからな」
 愛が無表情ながら覗き込む目を見つめ返してそう答えると、ニコラウスはパアっと笑った。
「うん♪」
『共鳴!』
 犬達を助けるべく、愛とニコラウスは共鳴した。
「やれやれ、避難誘導しながらイマーゴ達をかき集める……。やる事が多い……効率良く行くべきだな。任せたリーヤ!」
 麻生 遊夜(aa0452)がユフォアリーヤ(aa0452hero001)に声をかける。
「……ん、全力でやる」
「おぅ、守ってやんな。補助はしてやるからよ」
 遊夜とリーヤも共鳴すると飛び出していく。
「犬確保……ハルちゃんだいじょうぶ?」
《なにがじゃ?》
 暴れる中型の雑種犬を一匹抱き上げつつ、今宮 真琴(aa0573)が奈良 ハル(aa0573hero001)に語りかけると、ハルが首を傾げる。
「犬と狐……は仲が悪い……」
 バツが悪そうに答えるとハルはフッと笑った。
《好みではないが今回はワタシが言い出したことじゃしな》
「……めずらしい」
《ちとな、思うとこがあっての、見過ごせんのじゃよ》
(わかった、任せた……)
 ハルは頷くと動き出した。
「(普通の生活してた犬達をこんなふうに……許せない、です)」
 ゼノビア オルコット(aa0626) は厳しい表情でメモ帳に叫ぶように書きなぐる。
『ああ……とっとと解放させねぇとな。犬でもできれば殺したくねぇし』
 ゼノビアの言葉にレティシア ブランシェ(aa0626hero001)も頷いた。
「これはまた数が多いな。でかいのは従魔だとして、明らかに取り憑かれてるのが数匹ってとこか」
「あれは従魔、あれは従魔、あれは従魔、あれは従魔……」
 勢力を確認している緋褪(aa0646hero001)の横でしゃがんで頭を抱えてブツブツと自己暗示をかけているらしい來燈澄 真赭(aa0646)。
「おいおい、大丈夫か? 以前狼に似たタイプの従魔は遠慮なく殴っていただろう」
「あれは憑依タイプじゃなったからね……」
 緋褪の言葉に真赭はバツが悪そうに頬を膨らませる。
「じゃあ今回は何するつもりだ?」
 今回は残念ながら犬を殴るのが任務だ。
「ねえ、あの大きなワンコも憑依された従魔なのかな?」
 おずおずと上目遣いに訊ねてくる。
「うん? 大将か……見たところそういった生体反応は薄いが……もしかしたら本当は犬ではない何かなのかもしれない」
「じゃああの大きなワンコ倒そう!」
 犬じゃないかもと聞くなり元気になる。
「いきなり行くか?」
「うん、憑依されただけで異形にもなってない子を殴るのは無理。狙いはでかいの一択で」
 真赭は立ち上がると有無を言わさぬ笑みで拳を握った。
「笑顔で言い切る内容じゃないだろう、それ……」
 そんな真赭の様子に緋褪は口元を緩ませると、共鳴するために握られた拳に手を重ねた。
「うーん」
「どうしたの?」
 唸る荒木 拓海(aa1049)をメリッサ インガルズ(aa1049hero001)が不思議そうに見詰める。
「人を襲った犬は処分されてしまうかも……」
 拓海がそうボソリと呟くと、メリッサの顔色が一変する。
「暴れてるのは従魔のせいで犬が悪いわけじゃないのに? 冗談じゃないわよっ助けられないの?」
 メリッサが必死な表情で胸元に縋ると、拓海が困ったように言った。
「うーん、署名を集めて嘆願書を出すとか手は有るが厳しいかもね、ともかく先に民間人を助けに行こう」
「了解☆署名運動ね! 共鳴!」
「だから民間人……ああっ共鳴!」
 メリッサに引きずられて共鳴すると混乱の中に飛び込んでいった。

●犬達を救え
「大変や! 犬が仰山集まっとるて!! はよ見に行かんと……! 1匹くらい拐えるんちゃうか?!」
 HOPEから連絡受けた弥刀 一二三(aa1048)は走りながらキリル ブラックモア(aa1048hero001)に喜々として語りかけた。
「……いや、違うだろう。従魔に憑かれ、暴れていると言われただろうが……」
 沢山の犬と聞いて喜々として現場へ向かう一二三と呆れて溜息を吐くキリル。
 急ぐ2人のその手には丈夫な網の付いた某付き網が携えられていた。
 HOPEから連絡受けてすぐペットショップに行って小型動物捕獲用の網を調達してきたのだ。
 きっと役に立つだろう。
 更に動物病院や犬の保護をやっているボランティアにも連絡を入れて捕獲した犬達を収容してもらえるように相談も済ませてきてあるので、安心して解決に取り組める。
「お、ホンマぎょうさんおるやないか! ほな行くでキリル!」
『共鳴!』
 犬の鳴き声や爆発音に気が付いて一二三とキリルは共鳴した。

「がぅーー♪(ボクに従えー♪)」
 犬達の目を覚まさせようとリーヤが雄叫びを上げると群れを率いていたリーダーの威厳が犬達の本能を刺激したのか、犬達は一瞬動きを止めて注目してくる。
「あおおおおおおおおおおおおおん!!」
 雄叫びは効果があると確信したリーヤは一際力強く咆吼すると、洗脳が解けた犬がその場にヘタリこんだ。
「みなさん、こっちですよ!」
「私達が何とかしていますから!」
 その隙を逃さず流 雲(aa1555)とフローラ メイフィールド(aa1555hero001)が人々に呼びかける。
 犬が人に近寄りそうになった時に気を引こうと肉屋から貰ってきた肉を投げるが、流石にこれは興奮した犬達は見向きもしないので流は舌打ちをする。
 自我を奪われているので食欲を感じる暇もないのだろう。
「くっ……やっぱりダメですか……」
「愚神の支配下だしね……」
 フローラが流の肩を持つ。
「犬はこっちに任せろ! お前は人々を!」
「分かりましたカトレヤさん!」
「あおーーーーーん!」
 リーヤが更に犬を惹きつけるよように群れの中に飛び込んで叫ぶと足を止める犬達。 
 釣られて一緒になって咆哮する犬も出始める。
 しかしその内数匹は明確な敵意を剥き出しに襲いかかってくるが、他の犬達とはどうも様子が違うのが見て取れる。
《こいつらが多分従魔だな?》
「うん。この様子ならいけそうだね!」
「リーヤが犬達を集めている……」
「ああ」
「よっしゃ! 回収やで!」
 一二三が用意しておいた棒つき網で犬を次々捕獲して放っていく。
 網から逃げて襲いかかってくる
 リーヤの雄叫びを持ってしても暴れる犬達のところにカトレヤと愛が突入してセーフティガスを噴射すると、犬達がバタバタ倒れていく。
 洗脳されているだけの普通の犬なのでリンカー達のスキルに抵抗できはずもない。
 しかし従魔に取り憑かれた個体は別なようで、以前として牙を剥いてくる。
《おお、バタバタ寝てくな》
 犬達の様子を見て遊夜が感心する。
「……ん、動きが素早いのが……15匹?」
《2人と連携しトリオ等で手早く数を減らしたい所だ……でかいのは当然元凶として、他より更に動きが良いのが5匹ほどいやがるな》
「……おかしいのはそれで全部……見分けがつかないのはもういない、あとは倒すだけ」
 リーヤは厳しい表情で眠った犬達のところに腰を下ろして身体を撫でる。
《おい、あそこ人が倒れてる……もしかしたらガスを吸ってしまったのかもしれない。ちょっと俺に変われ》
「……うん」
 遊夜は入れ替わると倒れた人を1人抱き起こして流に声をかける。
「流さん! 俺達は巻き込まれた人達を運んでおくから、誘導が終わったら手当を頼む!」
「分かりました!」
 遊夜は流の返事に頷くと人々の回収に専念する。
「これで、無関係な犬達も人も傷付けずに済むな」
 ガスを食らっても牙を剥くイマーゴやミーレス達を相手取る恭也やカトレヤのところに青炎で燃え上がる巨大な犬が突っ込んできたので、真赭が立ちふさがる。
《あれがボスか》
「行かせないよ!」
 巨犬の足元にストレートブロウを放つと巨犬は別の場所へと跳躍した。
「俺達はミーレス達を何とかしてるからそいつの動きを少しでも抑えていてくれ! すぐに合流する!」
 カトレヤが叫ぶと真赭は頷いて縫止のスキルを巨犬に放つ。
 捕まえられたら誰かが即攻撃してくれるだろう。
 だがなかなかその動きは捉えられない。
 そんな真赭のところにも動けるイマーゴやミーレスの犬達が迫り、それをゼノビアが叩き落としたり足払いで防ぐ。
「(痛かったら、ごめんなさい…っ)」
 叩き落とされる時にキャンと鳴く犬達の様子にゼノビアの胸が痛む。
「ありがとう、ゼノビアさん!」
 駆けつけてきてくれた彼女に真赭は表情を明るくする。
「……せなか、まかせて」
 ゼノビアは掻き消えそうな声ながらも一言そう答えた。
 だが次の瞬間ミーレスが一匹ゼノビアに襲いかかる。
 咄嗟に武器を構えるが犬がゼノビアに届く事はなかった。
「ボヤボヤしてるんじゃない」
 いつの間にかそばに居た愛が犬を叩き落としたのだ。
「……ぁ」
 お礼を言おうとするがちゃんと声が出ずにまごつくゼノビア。
「まだ戦いは終わってないぞ!」
 そう言って愛はゼノビアの頭の小突いて武器を構えた。
「……」
 ゼノビアもうなづいて武器を構え直した。
「ほーらこっちだよー。ってそっちに行くんじゃないの」
 動き回る巨犬に攻撃を次々放っていく。
「ガァァツッ!」
 しかし素早い動きのせいで攻撃は炎を掠るばかりだ。
 巨犬が走る度に地面に焼き焦げた跡が転々と残り、物凄い炎の熱が離れていても伝わって来る。
「っと、危ないなぁ。あなたたちを攻撃する気はないからおとなしくしていてくれないかな?」
 飛びかかってくる犬を優しくひょいと避ける。
《明らかに人に対してよりも犬の方が待遇いいのはどうなのだ?》
「やだなぁ、さすがに友人や同居人の方が待遇は上だよ?」
《そこで家族が出てこないところが対立の根が深いな……》
 緋褪は家族仲の良くない真赭の背景を思いを馳せた。
「ごめんな!」
「キャン!」
 一発で気絶するようにカトレヤは犬達をあしらっていく。
「でかいのは当然元凶として……他より動きが良いのが5匹ほどいやがるな」
 人を運び終えた遊夜が犬の処理に参加して犬達を見渡す。
《……ん、見分けがつかないのはもういない、あとは倒すだけ》
「そうか。早くこの子達の安全を確保して、あのでかい奴を倒そう」
《……ん、群れらしく連携……であれば、このまま分断が最適解》
「ガスのおかげで分断はほぼ出来ているから、あと少しだな」
《……ん》
 遊夜の言葉にリーヤが頷いた。
《恭也、遠慮は要らないから思いっきりやっちゃって》
 伊邪那美は残った犬達を片付けるべく、ある程度集めたところで怒涛乱舞を発動させて一網打尽にする。
 これで洗脳されたい犬もイマーゴはほぼ片付けた。
 後はミーレスを数匹と――青炎の巨犬を残すのみ。
 暴れまわるそれを前に誰もが武器を握り直す。

●犬の王の正体
 巨犬はリンカー達を前に怯む様子はなく青炎を撒き散らしながら手当たり次第に襲いかかっている。
「ガアァッ!!」
「カトレヤさん!」
 真赭の攻撃を避けて跳躍する巨犬はカトレヤ噛み付こうとしているのか開いた口は身体ごと裂けてさらに巨大な顎(あぎと)となって襲うが、それを寸前で横に飛んで避ける。
 カトレヤの居た場所が顎の形に大きく抉れ、その断面は黒く焦げていた。
 巨犬の周辺で俄然牙を剥く残り少ないミーレスの処理にはハル、恭弥が当たっていた。
 残り3匹……出来るだけ無傷で片付けたい。
「悪いが、お前達を合流させる訳にはいかん」
《そうそう。頑張って引き離したんだからね。簡単には一つにさせないよ》
 ミーレス達の進路上にストレートブロウを打ち込んで表情を険しくする御神。
「急急如律令……白螺の舞……犬……とても痛そうな声……辛い……」
《後でいっぱい撫でてやるが良い。今はこれが一番楽にしてやれる方法……》
 一匹仕留めて辛そうにする真琴をハルが諌める。
「誰かが押さえつけられたらいいんだけど……」
 気が付けばほとんどの犬が正気に戻りへたりこんでいる。
 エージェントは捕まらない巨犬の動きに苛立ちを募らせる。
 戦力が足りないのだ。
 そんな時だった。
「すまない、遅くなった」
 洗脳犬や別場所のミーレス・イマーゴ処理に当たっていた恭也、愛、拓海、ゼノビア、一二三と一緒に合流する。
「愛君……みんな!」
 真琴は少し胸を撫で下ろす。
「此方は終了したが、他所はどうなっているんだ?」
「あー! みんな! 大きい犬の処理手伝って!!」
 真赭がレッド・フンガ・ムンガを振り回しつつ声をかける。
「よっしゃ! 大詰めっちゅーやつやな!」
 
 一二三が手にしていた棒付き網をフラメアに持ち替えてポーズを決める。
《カッコつけてる暇は無い、さっさと行け》
「わかってるって」
 キリルに小突かれて一二三が跳躍するとそのままフラメアで巨犬を貫く。
(何やこの手応え……?)
 全く手応えを感じない感触に一二三は首を傾げる。
 一二三が攻撃して怯んだ巨犬の足元に真赭の縫い止めが直撃し、ようやく捉える事に成功する。
 だが攻撃された部分の炎が千切れるように分断されて逃げてしまった。
 続けるように愛がユンユンクシオで首を切り落とすもすぐに炎で再生してしまう。
「一体どういうことだ?」
「……援護します」
 真琴も射撃するが、やっぱり手応えは感じなかった。
 全く攻撃が通じない様子に一同が顔を見合わせてる間にも巨犬は青炎を滾らせリンカー達を喰らい尽くそうとする。
 そんな時だった。
 拓海の目に炎の中に揺らめく黒い塊を発見する。
 良く見れば巨犬の身体は青い炎を纏っているのではなく、あの黒い塊を中心に炎で象られていることに気が付いた。
 手応えがな無かったのも納得。本体はあんなに小さかったのだ。
「みんな! あいつの身体を良く見て! 胴体に何か見える!」
 拓海が叫んだ。
「何かちっこいのが見えるで?」
 その言葉に即座にリーヤが反応し、グリムリーパーを振り上げた。
 動き回られて何度か鎌が身体をすり抜けるだけになってしまったが、核を何とか攻撃範囲内に持って行き一閃する。
「《さようなら、良い旅を……》」
 グリムリーパーが巨犬を胴から真っ二つにしてトドメを刺すと、青炎が掻き消えて地面に犬のぬいぐるみが転がった。
「これが核だったのか……」
「良かった……デクリオ級に憑依された犬なんて居なかったんだ」
 共鳴を解いた真琴が、転がったぬいぐるみを無言で拾い上げた。

●彼らの行方
 事件の収拾後、施設への回収を待つ間犬達ドッグサークルに集められてをリンカー達が持ち回りで面倒見ていた。
 その数ざっと100匹以上。
 先に到着した迎えの車の対応は一二三や流が中心になって対応している。
「こんな大人しい子達が人間に牙剥いていたなんて……こうやって見てると想像つかない」
「ふん。従魔に集められたとはいえ野良がこんなにいるなんて身勝手な人間達に対する犬達の蜂起かもな」
 そう言ってカトレヤは切なげにそう溜息を吐いた。
「ふふ、ぬくぬく……最高じゃのう……」
 ふと後ろを見やると紅花がドッグサークルの中で犬にまみれてるのを見てもう一回溜息を吐く。
「首輪が付いてる子も居るかもね。あっ、もしかしたら首輪に飼われてる家の住所があるかも」
 伊邪那美は首輪が付いている犬を一匹抱え上げて恭也の方を見る。
「だったら、飼い主探せばいいだろう……」
「うん!」
 恭也が口元緩めつつ提案すると伊邪那美は嬉しそうに頷く。
「はう~それにしても家にいる子達に比べて懐っこいね……ジャーキー食べるかな?」
 バッグの中からウキウキとジャーキーの袋を取り出すも恭也に手を掴まれてしまう。
「それは、人用だから止めて置け塩分が多すぎる」
「え~? 少しだけもダメ?」
 可愛子ぶって頬を膨らませてみる。
「駄目だ」
 首を振る恭也を前に伊邪那美はジャーキーを仕舞うと、再び犬を一匹抱き上げて訊ねた。
「ねえ、引き取り先が無い子はボク達で引き取らない?」
「まあ、番犬用に訓練を受ける事になるが構わないと思うぞ」
 恭弥も犬は好きなのでこっちは特に止める気はないらしい。
「やった。訓練を受けても恭也みたいな不愛想な子にならないでね」
「一言多い」
 伊邪那美の頭にチョップが突っ込まれた。
「この子飼う……」
 選別を手伝っていたリーヤが黒い子犬を一匹抱きしめて祐也に懇願の眼差しを向ける。
「また増えるのか……」
 毎度の事と言わんばかりに軽く溜息を吐く遊夜。
「……ん、ボクの群れ、群れは守るものだもの」
 許可をもらえて嬉しそうに子犬に頬擦りする。
「そうだな、もっと強くならんとな、俺達の手が届く範囲を拡げる為に」
「……ん、リサの署名活動にもしっかり参加しておくかね」
「そうだな」
 遊夜は目を細めて、犬に頬を寄せるリーヤの頭を優しくぽんぽんした。
「なぁリサ、この子達の引き取り手が見つかるまで保護団体のボランティアを手伝いに行こうか?」
 犬を抱えながら拓海がリサの方を見る。
 しかし隣に居たはずのリサの姿は無く、見回すと道行く人や他のリンカーに声をかけている姿があった。
「みなさーーんっワンちゃんが処分されないよう嘆願書に署名お願いします☆判りますよね!」
「え、ええ……」
 リサの勢いにたじろぐ道行くおばさん。
「この子達に罪は無いの。悪いのは従魔! 皆で書いてね~」
「お願いしまーす!」
 リサはノートを掲げてさらに声高に叫んだ。
 一緒になってフローラもはしゃいでいる。流との買い物の事は今のところ忘れてしまっているらしい。
「オレの話……聞いて無いな……」
 拓海はそんなリサの様子に止める気力も起きずに肩を竦めると、横で肩を落としている流に犬を一匹手渡した。
「気になるの?」
 ハルが子犬を見つめたまま立ち尽くしているので真琴が話しかける。
「……子犬もおるのか……雑種だと引き受け先もなかなか見つけられなそうじゃな」
 考え込むようにずっと見つめている。
「貰い手みつからなかったらまた野良なのかな……?」
「そうはさせん……そうはさせんよ真琴……すまぬが我儘じゃ、この子を持って帰らせてもらいたい」
 真琴の言葉を聞いてハルが血相を変える。
「……うん」
「ワタシにこやつを育てさせてはくれまいか……?」
「……うん」
「ただの憑霊が何を言っているかとは思うが……ん? 良いのか!?」
 許可が出るとは思っていなかったのか、驚きと喜びで目を大きくする。
「……うん、ハルちゃんが決めたんだもんね」
 真琴は特に止める気はないし、むしろ歓迎だった。
「すまぬ……」
「じゃあハルちゃんがこの子の名前考えなきゃね……」
「そうか…じゃあお前は今から……」
「まるで……子供みたいね」
 嬉しそうに子犬に話しかけるハルの様子に真琴は口元を緩めた。
(生きててくれてありがとう……)
 犬の世話をしながらゼノビアは救える命を救える喜びを噛み締める。
 だから自分は戦っているのだと再確認する。
 「お疲れさん」
 そこに愛の声と共に何かが飛んできて慌てて受け止める。
「……!」
 手の中には溶けかけてるのか柔らかい感触のするキャンディチョコレートが。
 チョコと声の主を交互に見詰めてきょとんとする頭を愛はクシャリと撫でて立ち去った。
「人もわんこも無事で安心したわ」
 少し離れた場所に居たニコラウスが愛の傍にトトトと駆け寄って付いていく。
 愚神によって起こされた犬達の反乱は、1人1匹の犠牲も出さずに解決したのだ。
 犬達の幸せな出会いを祈る冬の空だった。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 太公望
    御神 恭也aa0127
    人間|19才|男性|攻撃
  • 非リアの神様
    伊邪那美aa0127hero001
    英雄|8才|女性|ドレ
  • エンプレス・ルージュ
    カトレヤ シェーンaa0218
    機械|27才|女性|生命
  • 暁光の鷹
    王 紅花aa0218hero001
    英雄|27才|女性|バト
  • 想い深き不器用者
    羽柴 愛aa0302
    人間|26才|男性|防御
  • 朝焼けヒーローズ
    Nikolaus Wirenaa0302hero001
    英雄|23才|男性|バト
  • 来世でも誓う“愛”
    麻生 遊夜aa0452
    機械|34才|男性|命中
  • 来世でも誓う“愛”
    ユフォアリーヤaa0452hero001
    英雄|18才|女性|ジャ
  • 撃ち貫くは二槍
    今宮 真琴aa0573
    人間|15才|女性|回避
  • あなたを守る一矢に
    奈良 ハルaa0573hero001
    英雄|23才|女性|ジャ
  • シャーウッドのスナイパー
    ゼノビア オルコットaa0626
    人間|19才|女性|命中
  • 妙策の兵
    レティシア ブランシェaa0626hero001
    英雄|27才|男性|ジャ
  • もふもふの求道者
    來燈澄 真赭aa0646
    人間|16才|女性|攻撃
  • 罪深きモフモフ
    緋褪aa0646hero001
    英雄|24才|男性|シャド
  • この称号は旅に出ました
    弥刀 一二三aa1048
    機械|23才|男性|攻撃
  • この称号は旅に出ました
    キリル ブラックモアaa1048hero001
    英雄|20才|女性|ブレ
  • 苦悩と覚悟に寄り添い前へ
    荒木 拓海aa1049
    人間|28才|男性|防御
  • 未来を導き得る者
    メリッサ インガルズaa1049hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • 温かい手
    流 雲aa1555
    人間|19才|男性|回避
  • 雲といっしょ
    フローラ メイフィールドaa1555hero001
    英雄|18才|女性|ブレ
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