本部

息抜きは海水の香り

水藍

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 6~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
無し
相談期間
5日
完成日
2015/11/25 16:26

掲示板

オープニング

●上司から部下へ
「魚は好きかな?」
 ここはHOPEの本部、能力者達が休憩をする喫茶スペースである。
 近くの自動販売機にて売られている缶ジュースを購入したのち、まったりと椅子に座って己の英雄やほかの能力者と語り合っている時の事だった。
 HOPEの直属の上司であるとある男性に、声を掛けられた。
「本当は私が妻子とともに行く予定だったのだがね、今月はどうしても予定が付かなくなってしまって。私達の代わりに行ってくれないだろうか」
 そういいながら差し出された紙切れには、『水族館ご招待券』とある。
 差し出す上司の顔を見上げながら、いきなり話しかけられたことに呆気にとられているこちらの事など露知らず、彼は言葉を続けた。
「ああ、私の家族への埋め合わせ云々は気にしなくてよろしい。こう見えて、私の予定が付かなくなるのは初めての事ではないのだからね。……どうだろう、代わりに行ってくれないだろうか」
 そんなにこちらが心配しているように見えたのだろうか。
 上司は、異性ならば頬を染めるような見事なウインクをしながらこちらを見ている。
 この上司の存在を知ってはいたのだが、いかんせん話したこともないような関係である。戸惑うのは当然だ。
 それに、上司の持っているチケットにはよく見ると『本券1枚で8名様まで有効』とあるのが2枚だ。自分とその英雄だけで行くのはもったいない。
 そんな戸惑いを感じ取ったのか、上司は柔らかい笑みを浮かべて口を開いた。
「ああ、そうそう。仲のいい能力者や、今後仲を深めたい能力者を誘い合わせて行くのをお勧めするよ。……まあ、入ってしまえば別行動をするのも構わないが」
 どうやら思考を読まれていたようだ。
 ……当たり前か、どう考えても自分とその英雄だけでは行く筈がない。
「幸い、そこそこ広い水族館のようだしね。……嗚呼、掲示板を使って人員を募るのもいい手かもしれないね」
 それだけ言い残し、上司は部下へとチケットを押し付ける様に渡して去っていった。
 ……後だしで悪いのだが、自分は水族館が苦手なので、誰か好きな人に行って貰う事にしよう。

●とある日の掲示板
 上司から半ば押し付ける様にチケットを渡されてすぐ、掲示板へと足を進めたのは言うまでもない。
 掲示板の管理者に許可を取り、A4サイズの何の変哲もないコピー用紙に手書きで今回の水族館へ同行する人員を募集する事にした。
 因みに、文面はというと
『一緒に水族館へ行ってくださる方を募集します。能力者8名、英雄8名までです。詳しい日時はまた後程お伝えしますので、希望者は事務局まで申し出てください』
 というあたりさわりのない文面にした。
 さて、これで一体何人集まるだろうか。

解説

息抜きとして、水族館へ行ってくださる方を募集します。

●水族館
 地元のやや大き目な水族館です。
 目玉は巨大水槽にて展示されている世界の海にいる魚達の生活の様子になります。

●交通費
 歩いて行ける距離なので徒歩で現地集合、現地解散になります。

●行動時間
 水族館の開館時間は9:00~18:00(最終入館は17:00)になります。
 集合時間は8:50に水族館入り口、自由時間は17:30までです。(途中帰宅する場合は入口近くにいるHOPE職員に申し出る事)

●主な展示物・施設
 ・イルカ、アシカショー
 ・巨大水槽
 ・熱帯雨林を再現した展示
 ・しんかい館(深海に生息する大型の魚の剥製展示施設)
 ・水棲の首長竜の化石、模型
 ・約40種類のクラゲの水槽
 ・北極館(北欧・北極に住む生き物の展示施設)
 ・夜行性・発光性生物の展示
 ・売店(水族館限定商品の取り扱いあり)
 ・レストラン(水族館限定メニューあり)

●イベントスケジュール
    ショー        イベント      講習・ふれあい
10:00 イルカ・アシカショー
10:30   記念撮影     ペンギンおやつタイム
11:00
11:30                       日本海に生息する生物
(休憩)
13:00   イルカショー               なでなでしてみよう
13:30             ペンギンのお散歩       ↓
14:00   アシカショー
14:30            カワウソおやつタイム
(休憩)
16:00 シャチ・イルカショー
16:30            ペンギンおやつタイム
17:00                       瀬戸内海に生息する生物
※おやつタイムには餌やり体験があります。(無料)
※「なでなでしてみよう」ではペンギン、カワウソ、エイ、サメと触れ合えます。

リプレイ

●水族館入り口にて
「……あ、皆さん、もうお集まりでしたか」
 HOPE職員の男性が、入り口付近で人待ち顔の一団に声を掛けた。
「俺、大勢でお出かけするの、めっちゃ憧れだったっすよ! さあ行きましょう! お魚たちとイルカショーとなでなでが待ってるっす!」
 威勢のいい声で期待に胸を膨らませている九重 陸(aa0422)が、職員の姿を見つけて早速水族館に入りたいと声を上げる。
「もうエリックったら……、はしゃぎすぎですよ」
 オペラ(aa0422hero001)が、はしゃぐエリックを微笑ましそうに見ながら軽く諫める。オペラも水族館を楽しみにしているようで、彼女もまたどこか落ち着きが無いように見える。
「九重さん、オペラさん、まだ水族館が開館してませんわ……」
 はしゃぐ2人の背中に、散夏 日和(aa1453)が呟く様に言った。隣ではライン・ブルーローゼン(aa1453hero001)が水族館の建物を物珍し気に見上げている。
 そわそわと目の前の水族館にはしゃいでいるのは、何も彼らだけではない。
 紫 征四郎(aa0076)は友人の木霊・C・リュカ(aa0068)の為に、一足先に手に入れたパンフレットを音読してどこの展示から回ろうか画策している。そんな2人に時々茶々を入れるガルー・A・A(aa0076hero001)と、ガルーの茶々を止めるべきか否か迷っているオリヴィエ・オドラン(aa0068hero001)。
 わくわくとしながらパンフレットを広げるルティス・クレール(aa0304hero001)の手に持ったパンフレットを覗きこみながら、レオン・ウォレス(aa0304)はルティスとの水族館巡りを楽しみにしているようだ。
 その斜め前で、中城 凱(aa0406)と礼野 智美(aa0406hero001)が離戸 薫(aa0416)と美森 あやか(aa0416hero001)の話ているのを黙って聞いている。
 薫の妹である、3歳と2歳の双子の妹たちが家を出る前に騒いでいたことを思い出す。
「連れて行くのはもうちょっと大きくなってからかなぁ。お土産は買って帰らないと」
「責任重大ね。お兄ちゃん?」
「もう、あやかさん!」
 まるで高校生の様にじゃれあう2人をしり目に、冬月 晶(aa1770)とアウローラ(aa1770hero001)は食い入るようにパンフレットに書かれた展示の内容を見ている。
 一団がにぎやかに開館を待っていると、いきなり水族館入り口が騒がしくなった。どうやら開館したようだ。
「さぁ、じゃあ入館しますよ。僕についてきてくださいね」
 HOPE職員は能力者と英雄たちに声を掛け、水族館へと続く列を進んだ。

●友人同士のデート
 リュカと征四郎は仲良く手を繋いでいた。
「リュカ、今日は征四郎がえすこーとしますよ」
「せーちゃんかっこいい! 是非お願いするよ!」
 うっとりとサングラスの奥で目を細めたリュカに、征四郎は7歳とは思えないしっかりした動作でリュカの手を引いた。
「あんまりはしゃいでまとめて転ぶんじゃねぇぞー」
「大丈夫ですー!」
 ガルーのまるで保護者の様な注意を軽く受け止めながら、征四郎はリュカと共に巨大水槽へと足を向けた。
 はしゃぐ征四郎とリュカの背後を一定の距離を保ちながら、ガルーとオリヴィエは進んでいく。
 水族館に入ってすぐ、その水槽は現れた。
 ごつごつとした岩が敷き詰められた水槽の中では、見たこともないような大きな魚や、エイやウミガメが悠々と泳いでいる。
「ぴゃああ……! 大きいのですよ!」
 征四郎は思わず声を漏らした。
 リュカとつないでいる手を握り込んで、リュカに興奮を伝える。
「せーちゃん、お兄さんに一体どんな魚が居るのか押してくれないかなー?」
 ぐいぐい引っ張られる手を微笑ましく思いつつ、リュカはのんびりと征四郎へと声を掛けた。
 リュカの声に、漸く我に返った征四郎は1つ咳ばらいをした後、目の前の水槽についてリュカに説明を始めた。
 目の前を横切ったエイの巨大さに、感動しているのは征四郎だけではない。征四郎の英雄であるガルーもまた、食い入るように巨大水槽に張り付いた。
「……すっげぇ」
 一体なんの研究所だよ、とこぼしながら見つめるガルーに、オリヴィエは別の事を危惧して居た。
「……水族館に来たことが無いのか」
 オリヴィエの問いかけに、ガルーは水槽から目を離さずに答えた。
「本では見た。泳いでるとこ見んのは初めてだな」
 オリヴィエは水族館に来るのが初めてではない。
 前に来たのが従魔に破壊された水族館だったため、硝子が割れたりしないのか、と気を付けないとわからない程度に不安に感じていた。
 心配するオリヴィエと全力で楽しむガルーをよそに、征四郎とリュカはどんどん先に進んでいく。説明文の所でいちいち足を止めるガルーに呆れ顔をしつつ、オリヴィエは適度にガルーの背中を押して先に進ませる。まったく、この英雄はリュカよりも手がかかる、とオリヴィエはため息を吐いた。
 次にやって来たのは水棲の首長竜の化石と模型の展示だった。
 ほわぁ、と何かの鳴き声のようなものを上げながら展示された化石を見ている征四郎を見て、ガルーはふと隣にいるオリヴィエを見た。
 そこには、心なしか目を輝かせながら化石を見るオリヴィエの姿があった。
「へえ、オリヴィエの坊主はああいうのが好きか」
 ガルーはにやにやとしながら化石を見るオリヴィエをからかう。
 視線をガルーへと移したオリヴィエに、ガルーは肘鉄を食らう。みぞおちを狙って繰り出された肘鉄は、見事ガルーのボディにヒットした。
「……悪かったな、ガキっぽくて」
 いじけた様に吐き捨てたオリヴィエに、ガルーは首を振った。
「違うんだよ、あんまそういうとこ見せねぇじゃんお前」
「ガルー? もういきますよー?」
 じゃれあう2人に、征四郎からお声がかかる。
 2人は慌てて征四郎とリュカの後を追った。
 暗い水族館特有の廊下を駆け抜けると、いきなり開けた場所に出た。
「かわうそさんもふもふしたいのです!」
 リュカとつないだ手を引きながら、征四郎は真ん中に設置されたカワウソプールへと足を進める。
 ここはふれあいゾーンだった。
「かわうそさん、こんにちわなのです! ほら、リュカ! かわうそさんが目の前にいるのですよ!」
「え、えぇ? こ、ここかな?」
 ふらふらと伸ばされるリュカの手に、人懐こいカワウソがリュカの手をそのちいさな手でもって握りしめてくる。
「わぁ! あくしゅなのです! リュカ、よかったですね!」
「うん! カワウソちゃん、手がちっちゃいねぇ」
 きゃっきゃっ、とはしゃぐ2人の隣で、1人のけぞる男の姿。ガルーだった。
「ガルーはもふもふ苦手なのですか?」
 カワウソと握手をしている征四郎が、目ざとくガルーの様子に気付いた。
「……こう小せぇと触るとこう、壊れそうだろ」
「だいじょうぶなのですよ! オリヴィエもどうですか。猫さんと一緒であったかいですよ」
「……ああ」
 この後、今世紀最大のオリヴィエの嬉しそうな笑顔を目の当たりにした征四郎だった。
 ふれあいゾーンでのふれあいの時間が終わり、征四郎はいきなり駆けだした。
「イルカとシャチのショーが始まるのですよ!」
「せーちゃん待ってー」
 駆ける征四郎に手を引かれ、リュカは喧騒の中へと向かっていく。
 ざわざわと少し騒がしい空間に、此処がショープールなのだと悟る。
「ガルー! ガルー肩車!」
「お前さん今日は容赦ねぇな、来いよ。……オリヴィエは大丈夫か? 見えるか?」
「大丈夫だ」
 時折黄色い声を上げて歓声を上げる征四郎達に、リュカは人知れず笑みをこぼすのだった。
「イルカさんすごかったのです! こう、びょーん、って!」
 興奮気味に語っていた征四郎が、ふと足を止めたのは、売店のショーケースの前だった。
「せーちゃん? 何か可愛い物でも見つけた?」
「……シャチさん、が」
 そこにあったのは、大きなシャチのぬいぐるみだった。
「何でも買っちゃうよ、デートにお付き合いしてくれたレディへの細やかなお礼です!」
「あ、え、いいのですか!」
 リュカが徐に財布をとりだし、オリヴィエへと渡した。
 オリヴィエは素早くリュカから財布を受け取ると、大きなシャチのぬいぐるみをもってレジへと並ぶ。
 会計の済んだシャチのぬいぐるみの値札を切り取ってもらい、征四郎へと差し出すと彼女が大事そうに抱え込んだ。
「……ありがとうございます、大事にしますね」

●英雄と水入らず
 シャツにズボン、そしてジャケットというラフな格好のレオンに、ルティスも同じくラフなパンツルックなおかげで周りの一般客に違和感なく紛れ込むことができている。
 水族館のショーをこっそりいい席で楽しんだり、イベントに参加して新しい知識を仕入れたり、と常とは違ってルティスにとってはかなり新鮮な事だった。
 大きな魚や、彼女の世界では想像だにしなかったであろう水族館と言う場所に、童女の様に目を輝かせて、感嘆の声を上げながら見て回り、興奮気味にレオンに対して自分が感じた事を熱っぽく語るルティスと、それを丁寧に相手をしてやつつ温かい目で見守るレオン。
(‥‥隔意を持っていたわけではないが、こうやって見ると、ルティスも普通の女の子なんだな。普段と違う顔を見られたのは、俺としても余禄かな)
 子を見つめる親の様な心境になって居た事は否定しない。
 2回目のイルカショーにて、目を輝かせて黄色い声を上げたルティスを見ていたレオンの視線に気づき、ルティスは自分が興奮していたことに気付き、照れくさそうに下を向いた。
「……子供みたいにはしゃいじゃって、格好悪いところ見せちゃったかな?」
 照れくさそうに言ったルティスに、レオンは目を剥いて否定する。
「いや、気にしていないが。普段と違うルティスを見られて、俺としては結構得した気分だが」
 慌ててフォローしたつもりが、なぜか女性を口説き落とすような言葉になってしまったことに、レオンは言った後で気づいた。
 しかし、行ってしまった言葉はやり直せない。レオンは気にせずルティスの顔色を窺った。
「……もうっ! 面と向かって女性に言う台詞じゃないわよ、それは」
 やはり指摘されたか、と内心で思いつつ、レオンは照れくさそうに頬を掻いた。
 一通り周り終った時、時刻は15時32分を指していた。
「……さて、もう少し余裕ができたな。これから近くの催し、というと……、16時からのシャチ、イルカショーか」
「イルカショーは先程の内容と同じものなのかしら? でも、シャチは個人的に気になるわね」
「じゃあ、少し時間を潰してショーを見学するか」
 そして、2人は売店へと足を運んだ。
「わぁー……、いろいろなものがあるのね! ここはぬいぐるみが充実しているのかしら?」
「さぁな。……まあ、確かに今まで俺が見てきた水族館よりはぬいぐるみの品ぞろえが多い気はするな」
「レオン! この子は一体!?」
「そりゃあウミガメだ。なんだ、ウミガメが気に入ったのか」
「可愛いわ! ……でも、流石にこの大きさだとお値段が張るわね」
 値札を見てしょんぼりするルティスに、レオンは豪快に笑ってルティスのもつぬいぐるみを取り上げてレジへと向かった。
「レ、レオン!? ちょ、そんなに高いもの……」
「気にするな。いいか、こういうのは思い出だ。値段なんか気にしてたらここで買い物はできねぇぜ」
「……レオン、ありがとう」
 ぎゅ、とレオンに買ってもらったぬいぐるみを抱きしめ、ルティスとレオンはショーエリアへと足を進めた。

●親友と英雄
凱と薫、智美とあやかは、水族館の展示を制覇するために効率的なルートを確立していた。
 館内の大々的な展示を回り、日本海に生息する生物の講習を受け、昼食を最短時間で平らげ、そして海獣とのふれあい、ペンギンの散歩、アシカショー、カワウソおやつタイム、そしてまた館内の回り損ねたところを制覇し、今は売店にてお土産を選んでいる薫待ちであった。
 待っている間、凱と智美は先ほどのふれあいゾーンにて感じた疑問を議論していた。
「ペンギン・カワウソはともかく…エイ?サメ?」
「エイは毒針持っているのは一部だし、サメの仲間には大人しくて基本人を襲わないのもいるぞ。地域によってさまざまだから…むしろ管理人の注意聞いてさわれよな。カワウソの歯は生魚食べる分鋭いしペンギンの翼パンチも結構強いからな」
「……何でそんな知識持ってるんだ、お前」
 自身の英雄の知らない一面を目の当たりにし、凱は驚きに目を見開いた。
 その間にも、薫達は相変わらずお土産を選んでいた。
「一番無難なのはクッキーとかだよね。キーホルダーは下の2人が口に入れそうだし」
「2人はぬいぐるみ好きだけど……、ある程度大きいのが好みだし」
 うーん、と2人で悩みながら、手は近くにあるペンギンのぬいぐるみを撫でている。
「うん、大きいのって予算オーバーだよね。場所も取るし……、凱の家の大きなぬいぐるみお気に入りだけどあれに匹敵するのは……無理、絶対無理」
 正確には凱の家、ではなくて診療所の待合室なのだが、まあ、細かいところは気にしないでおこう。
「上の妹さんにはハンドタオルが良いんじゃない?」
 あやかの差し出したハンドタオルに、薫は飛びつく様に視線を遣った。
(あ、このキャラクター妹好きだし……クッキー以外に3人に柄違いのタオルにしようかな)
 かわいらしくデフォルメされたキャラクターがこちゃこちゃとプリントされているハンドタオルを手に取り、薫は大きなクッキー缶を手に取ってレジへと持っていった。
「……お、終わったっぽいぞ」
 それを目ざとく見つけたのは、智美だった。
 売店の外のショーケースの間から少し見える薫の服に、薫がレジに並んだことがうかがえる。
「……んじゃ、次はショーか」
 売店からようやく出てきた2人に向かって手を上げて合図をよこし、凱と智美はショーが行われるプールへと向かった。
 ショープールには、既にかなりの観客が席についていた。
「……あれ、もしかして征四郎ちゃんとリュカさん?」
「ん、あっちにはレオンさんとルティスさんが居るな」
「やっぱりみんなショーは気になるんだね」
 かなり離れている場所に居る知り合いを見つけ、薫は立ち上がって手を振った。
「……薫君?君は何をしているのかな?」
「……はい、申し訳ありません……」
 きちんと座ってあやかに謝罪をした薫は、とても3人の妹がいる兄には見えない。
「薫の奴……、かなりテンション上がってるな」
「まあ、今日は息抜きに来たんだし。ちょっとくらい羽目を外すくらいいいんじゃないのか?」
 大人しく席に座りながら、凱と智美はわれ関せずで傍観を決め込んでいた。
「まぁ、この後もいろいろ回るつもりだから、体力は温存しといて欲しい事は確かだ」
「そうだな」
 いまだに薫を窘めているあやかに加勢するように、智美が口を開いたとき、すでに凱はショープールへと視線を遣っていた。

●ヴァイオリニストとお嬢様
「イルカのおでこの膨らみはメロンっていって、脂肪で出来てるっす。あそこを使って、人間には聴き取れないような超音波を操って、仲間と話したり、餌を採ったりしてるっすよ」
 イルカショーの本日の出演のパネルに描かれているイルカの絵を見て、陸が嬉しそうに言った。
「九重さんは博識なのですわね! お刺身が美味しいのはどれでしょう?」
「えっ、刺し身……?」
「水族館にいる魚を食べちゃだめっすよー!」
「エリック、貴方、再三言うけれどはしゃぎすぎですよ?」
 日和の食べる気満々の発言に戸惑っているラインをよそに、陸はマイペースに水族館を楽しみ、オペラは陸を窘めるのに忙しそうだ。
 先ほど見たイルカショーの興奮がまだ冷めていない陸を連れ、今度は海獣とのふれあいを求めて一行は水族館を進んでいる。
「ふふふー、サクラもヤマトも良い子だなー。今日もいっぱいお魚貰ったか?そっかそっか、良かったなー」
「なでなでができて良かったですね、エリック」
 カワウソとペンギンを撫でている陸を撫でるオペラは、そこはかとなく楽しそうだった。
「サメ!鮫肌が気になっていたのですわ」
「日和はサメを触りたいのか? しかしここで飼われている生き物とは戦えないと思うが……」
 少し離れたところで開催されている、サメとエイのふれあいを体験しながら、日和とラインは順番待ちの列に並んでいる。
「……いえ、急所突きはしませんわ普通」
「あ……すまないてっきり急所を突く鍛錬をするのかと……」
「貴方こそ狼なのですからうっかり食べてはいけませんわよ」
「僕は確かに人狼だがそれほど獰猛では無い、と思う」
 揶揄ったつもりで言った言葉を普通に返され、日和はやれやれ、と肩を落とした。
「全く……真面目なのも玉に瑕ですわね」
「すまない」
 なぜ呆れられたのか分からないままに、ラインが謝った。
 そうこうしているうちに、日和とラインの順番が回って来た。
「ざらざらですわ! エイはスベスベ! 面白いですわ!」
「うん、これはなかなか……、癖になりそうな手触りだ……」
「2人ともー! そろそろいいっすか? 次に行きましょうー!」
 後ろから駆けてきた陸が、日和とラインに声を掛ける。
 2人はエイとサメに別れを告げ、陸の声に従って素直にふれあい切り上げた。
「次は……とうとうベルーガ……、シロイルカっす!」
 わくわくしながら声を上げる陸に、日和が口を開いた。
「あら、シロイルカ…ですの? 実際観るのは初めてですわね」
「めちゃくちゃ人懐っこくて可愛いんっすよ!」
 急ぎ足で目的地へと向かう陸を追いかけて暗い道を進むと、そこにはいきなり大きな水槽が現れた。
 中では、悠々と白いイルカが泳いでいる。
「もう、何だよこいつら! めちゃめちゃ可愛いじゃねーか……! まぁるいメロン、のほほんとした顔、柔らかそうな白い体……クリオネの事を流氷の天使って言うけど、こいつらの方がよっぽど天使だぜ!」
 興奮してガラスに張り付く陸を、近くにいた小学生が驚いた顔をしてみている。
「エリック……」
「九重さんの好きな生き物が居てよかったですわ」
 興奮する陸を見学しながら、いくらか時間がたった頃。
「あ! シャチのショーの時間ですわ」
 日和が立ち上がった。
「私シャチは飼いたいほど好きですの」
「じゃあ、俺の好きなシロイルカに付き合ってくれた散夏さんの為に、俺もシャチショーに付き合うっす!」
「ありがとうございます! では、早速……、ライン、行きますわよ」
「シャチは可愛い姿だが獰猛なのか」
 パンフレットに書かれた文言を見つけて、ラインが呟いた。
 そして、日和の顔をじっと見つめる。
「……ラインは私を獰猛な獣とでも認識しているのかしら? まだまだ躾が足りませんわね」
「日和、ショーは御前試合では――いたっ」
 日和の脛蹴りをもろに食らったラインが、痛そうにしゃがみこんだ。

●ドラゴン系彼女と父親(仮)
「ペンギンか。南極に観測に行くと見るときは見るな。何となく癒されるな。こいつら呑気そうだし」
 ペンギンとのふれあいを目的とした催し物に参加している時だった。
(呑気そうと言えば……アウローラもな)
 本人に聞かれたら怒られそうなことを思いながら、晶はアウローラへと視線を遣った。
「へー、ペンギンってこうやって魚を飲み込んでるんですねー」
 ドラゴンの体だと、ペンギンなんて小さくてよくわかんないんですよね、小さな声で言った彼女の横顔は、とても楽しそうだ。
「……ん? アキラさん、どうしました? 私のことばっか見て」
 晶の視線に気づいたのか、アウローラがペンギンから晶へと視線を変えた。
「ずいぶんはしゃいでるな」
「それはもう! ペンギン、可愛いですし!」
(ドラゴンって言っても女の子そのものだよな)
 ペンギンとはしゃぐアウローラを見ながら、晶は目じりを和ませた。
「もー、お散歩もよちよち歩きで可愛い!! やーん、こっち見てるー! ……ね、ウチで飼ったりできませんか?」
「……いやいやいや、飼えん飼えん!!」
 思考が飛んでいた晶が、一瞬で我に返った瞬間であった。
「むー、いいじゃないですかー。可愛いのにー。ねー、ダメですかー? だーめーですーかー??」
「わかったわかった、後で売店でペンギンのぬいぐるみでも買ってやるから。それで我慢してくれ……」
「あっ、ホントですか? 約束ですよ!!」
 晶の提案に頷き、あっさりとペンギンへの執着を切ったアウローラに、晶はもしかしてこれが目的だったんじゃ、と見当違いな事を考えたのだった。
 ペンギンとのふれあいが終わり、次は首長竜の化石と模型が展示されている場所へと足を向けた。
「おー、海竜ですねー。人間目線で見るとおっきいですねー」
「なんだ、お前こういうのが好きなのか?」
 意外にも食いついてきたアウローラに、晶は思わずアウローラを見下ろした。普段ならアウローラの旋毛が見える筈の場所には、アウローラの青い瞳が輝いていた。
「はい。海竜は結構強くて、戦うと楽しいですし、肉もおいしいですからね!! 好きですよ!!」
「……いや、好きってそういうアレか」
 晶は思わず遠い目をした。
「なるほどなぁ、お前、こういうのと戦って生きてたのか」
(こいつの世界にも、こういうのがゴロゴロいる、って事だよな)
 そう考えると、自分のこの世界と彼女の世界がかなり違う事が改めて感じさせられる。
「さっ、アキラさん! 次は売店ですよー!」
「え、まだ展示あるだろ?」
「アキラさんが忘れないうちにペンギンを買ってもらうんです! 展示はその後! さぁ、早く!」 
「おぅ……」
 はしゃぐアウローラに引きずられて、晶は売店へと向かったのだった。

●1日が終わる
 水族館の出口で1人待機していたHOPE職員が見たものは、オリヴィエに背負われる征四郎の姿だった。その後ろで、ガルーが大きなシャチのぬいぐるみを抱えている。
「おやおや、お疲れですか」
「大はしゃぎだったからな」
 淡々と答えたオリヴィエの顔は、発言とは裏腹にとても柔らかい。
 眠る征四郎の頬をぷにぷにとつつくリュカを見ていると、その後ろから見慣れた金髪と赤髪の2人がやって来た。レオンとルティスだ。
「……楽しい一日を過ごせたわ。ねえ、レオン。この世界にはあたしが知らないいろんな楽しいところがあるんでしょ? 時間がある時にいろんな所に連れて行ってくれると嬉しいかな」
「確かにそうだな。この世界の楽しいところをまだまだルティスには見せてやれていないからな。時間が出来たのなら、いろんな所を見ても回るのも悪くないな。……とりあえず、このまま何処か旨いものでも食べに行くことにしようか」
「賛成! こちらの世界にはいろいろ美味しいものが多いものね」
 どうやらこの2人も今回の水族館を満喫できたようだった。
「講習、どうせならここは都内なんだし、日本海より東京湾付近の講習やった方が良いと思うんだが」
 レオン達の話に耳を傾けていると、どこからか聞きなれた声が聞こえてきた。凱と薫達のようだ。
「夏休みなんかの長期休みに子供向けの講習の可能性はあるかもな…正直、講習も日本海の講習は珍しかったが、瀬戸内海の事は何か覚えのある事多かったな……」
「そういえば薫が『料理の事は生活知識だからあやかさん覚えてるみたい』って……。こいつらの出身地域って中国四国付近か?」
 何やら難しそうに独り言をつぶやいている凱の後ろから、大きなベルーガのぬいぐるみがやってきた。……いや、ベルーガのぬいぐるみを持った陸だ。
「今日はありがとうございました。すげー楽しかったっす」
 デカメロンちゃん、と名付けられたそのぬいぐるみを抱えた陸は、日和たちに礼を言った後HOPE職員にも言った。HOPE職員は思わず陸に笑顔を返す。
 そして最後に、晶とアウローラが水族館から出てきた。
「はーっ、楽しかったですねー!! えへへ、約束通りペンギンちゃんも買ってもらえましたし」
 ご機嫌なアウローラに、晶はため息を吐く。
「でも、なんで若い女の人と男の人のふたり連れが多かったんでしょう? そういうものなんですか?」
「うん?まぁ、男女で来ることは多いだろうな。」
(……昔、学生時代に別れた彼女と来て以来か)
 ここで、HOPE職員は察する。……嗚呼、昔のデートも水族館だったんだな、と。
「むっ、もしかしてアキラさんもそういう経験あるんですか!!」
「いや待て待て待て、なぜジト目になる!?」
 じと、と晶を見つめたあと、アウローラはそっぽを向いた。
 まあ、ともかく今日の水族館は一団にとって忘れられない思い出になったようで、HOPE職員は満足げに満面の笑みを浮かべた。

結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
    人間|31才|男性|攻撃
  • 仄かに咲く『桂花』
    オリヴィエ・オドランaa0068hero001
    英雄|13才|男性|ジャ
  • 『硝子の羽』を持つ貴方と
    紫 征四郎aa0076
    人間|10才|女性|攻撃
  • 優しき『毒』
    ガルー・A・Aaa0076hero001
    英雄|33才|男性|バト
  • 屍狼狩り
    レオン・ウォレスaa0304
    人間|27才|男性|生命
  • 屍狼狩り
    ルティス・クレールaa0304hero001
    英雄|23才|女性|バト
  • エージェント
    中城 凱aa0406
    人間|14才|男性|命中
  • エージェント
    礼野 智美aa0406hero001
    英雄|14才|男性|ドレ
  • 癒やし系男子
    離戸 薫aa0416
    人間|13才|男性|防御
  • 保母さん
    美森 あやかaa0416hero001
    英雄|13才|女性|バト
  • 無名の脚本家
    九重 陸aa0422
    機械|15才|男性|回避
  • 穏やかな日の小夜曲
    オペラaa0422hero001
    英雄|18才|女性|ソフィ
  • 自称・巴御前
    散夏 日和aa1453
    人間|24才|女性|命中
  • ブルームーン
    ライン・ブルーローゼンaa1453hero001
    英雄|25才|男性|ドレ
  • YOU+ME=?
    冬月 晶aa1770
    人間|30才|男性|攻撃
  • Ms.Swallow
    アウローラaa1770hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
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