本部

たき火を囲んで

布川

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
10人 / 6~10人
英雄
10人 / 0~10人
報酬
少なめ
相談期間
5日
完成日
2015/11/17 20:09

掲示板

オープニング

●不寝番の傍ら
 時は、深夜を回ったころだろうか。ふくろうの声が木々にこだましている。
 今回の能力者たちに与えられた任務は、大規模作戦の前線で動く能力者たちへの補給隊の護衛であった。武器や医療品など備えた小隊が、すぐそばに控えている。
 とはいえ、戦線からは遠く、危険の少ない任務である。先発隊が、既にこのあたりを制圧しており、よほどのことがない限りは、この道の安全は確保されているといってもいいだろう。
 ときおりのふくろうの声以外、キャンプ地は、とても静かだ。
 これは、闘いの前の静けさといったものなのだろうか。それとも、平和のありかたなのか。いまのところ、何かに襲われるという気配もない。
 夜が明ければ、この任務は終わりだ。
 夜の闇は、能力者たちに何者であるかを問う。
 能力者たちの緊張が薄らいできたころだろうか。たき火を囲んだ能力者たちは、眠気覚ましに、と、ぽつらぽつらと話をし始めた。
 誰ともなしに話しているうち、気がつけば、話題は彼らが「能力者になったきっかけ」に移っていた。

解説

●目標
 雑談をしながら、不寝番をこなす。
 なお、奇跡的に全員が同時に眠ったりしなければクリア扱いである。

●登場
 とくになし。

●場所
 補給隊のキャンプ設営地。男女別のテントが張ってあり、近くに水を汲むための川などがある。
 レトルトなど、保存の利くような簡易なものではあるが、いくらかの食糧がある。もしも荷物をよく探せば、HOPEの職員が持ち込んだマシュマロや安酒などが発見できるかもしれない。職員がこっそり持ち出した私物であるため、持ち出しても苦笑いですむだろう。
 なお、これらの物品はその場限りのものである。

●状況
 たき火を囲みながら、ほかのメンバーと喋っているところである。
 能力者たちは補給隊を送り届けた後、厳しい作戦に合流するもの、そのまま帰るもの、事情により前線から後ろに一時的に回されたものなどさまざまで、それぞれの事情でここにいる。
 主な話題は、以下の二つ。

・能力者になったきっかけはなんだったか
・ヒーローの条件はなんだと考えるか

 である。
 どちらかでも両方でも構わない。流れに合致すればこれ以外のことを話すことも出来るが、メインは上記二つの話題になる。
 あまり羽目を外し過ぎると、HOPE職員に怒られ、報酬を減らされる……かもしれない。

リプレイ

●ここをキャンプ地とする!
 東海林聖(aa0203)は慣れた手つきで、たき火に枝を足していく。寄せて空気の通り道を作ってやると、たき火は大いに燃え上がった。
「ショウジはすごいです」
「おう、手伝ってくれてありがとな」
 紫 征四郎(aa0076)は、東海林の手本に従って、キャンプ設営の手伝いをしていた。彼女にとっては始めてのキャンプだ。東海林は、紫に簡単な作業を指示し、キャンプの設営を手伝ってもらっていたのだった。
(この辺から食べ物の匂いがする……)
 東海林の英雄、Le..(aa0203hero001)、通称ルゥは、たき火からやや離れたところで、じっと荷物の山を見ていた。HOPEの職員曰く、「関係のない荷物だからそのままにしておいていい荷物」である。
「ぴゃああ、虫! とってください!!」
 たき火に惹かれて集まってきた虫を、紫が慌てて振り払う。東海林は、紫にくっついた羽虫をぴんと払ってやった。
(まぁ、無理に馴れなくてもいいだろうしよ!)
 紫の虫嫌いを知っている東海林は、さりげなく気遣っていたのだった。
 紫がほっとしたのもつかの間、今度は前を横切る蛾に驚いて、ダンボールの箱にぶつかった。ぐらりと揺れた荷物の山から、大袋の何かが落ちてきた。『マシュマロ』と大書されている。これだ。ルゥはきらりと目を輝かせた。
「……」
 紫は袋を凝視する。
「あー……。まぁそれくらいなら拝借しても大丈夫じゃねぇか?」
 ガルー・A・A(aa0076hero001)が言った。

「それじゃ《何か起こった場合は》起こしてね。おやすみ」
 來燈澄 真赭(aa0646)は、緋褪(aa0646hero001)のふさふさとした尻尾を枕に、早々に明日に備えて眠りに落ちていた。緋褪はじっと來燈澄の横顔を見る。キャス・ライジングサン(aa0306hero001)もまた、簡易な寝床で、ぐっすりと眠っている。
「荒野世界の人だからねーどこでも寝られるのはいいことだよー」
 鴉守 暁(aa0306)はキャスを見て言った。
「明日の朝食を予め作れば、手間にならないと思いまして」
 月鏡 由利菜(aa0873)は、キャンプやトレッキングセットから大きな鍋等の調理器具と食器を手際よく調達していた。持ち込んだ材料で、ビーフシチューを作る算段だ。
「……ラシル、夜食でシチュー食べますか?」
 リーヴスラシル(aa0873hero001)は、愛称のラシルで呼ばれている。月鏡がラシルに尋ねると、彼女は「もちろん」と、嬉しそうに同意した。月鏡はシチューの量を考える。おそらく、エコー(aa0047hero001)やルゥなどはたくさん食べることだろう。他にも、希望者がいるかもしれない。
「ココアとかあるー? 牛乳もほしいかもー」
 鴉守は、その横で手際よく食料品を漁る。高級品とはいかないが、保存食の中に使えそうなものを見つける。
「こゆ戦場だからこそ嗜好品て大事なんだよー鍋あったー」
「牛乳、ありましたよ」
 丁度お互いに手ごろなサイズの調理器具を見つけて、月鏡と鴉守は手持ちの品物を交換した。
 大量のシチューを作るには、それなりに人手が必要だ。斉加 理夢琉(aa0783)も月鏡の様子を見ながら、材料を火の通りやすいサイズにカットしていく。東海林は火加減の調節や、材料の下ごしらえなど、手慣れた様子で手伝っていく。生い立ちのせいか、なかなかに手際は良いようだ。手が空くと薪割りにも精を出す。迫間 央(aa1445)は、水汲みなどの雑用を率先してこなしていた。
 鴉守は、牛乳を鍋に豪快に注ぎ、弱火で軽く沸かしていた。沸騰させる手前で火加減を調整し、そのままココアをおたまでゆっくり溶かしていく。細かい気泡を包んで、まろやかなココアができた。鴉守は満足げに味見をすると、シチューに先立って一足先に皆に振る舞う。こうして作業してるといつの間にか時間が経っているものだ。

「流石にこの辺りは、静かですね」
 填島 真次(aa0047)は荷物の中に安酒を見つけたが、流石に作戦中に酒を飲むのはためらわれる。
(比較的安全とは言え、お仕事ですからきちんと見張りはしないとですね。とは言え、今度の戦いはかなりの規模ですし、体は休めておかないと)
「未成年が結構多いですけど……どうなんでしょうね、これ」
 迫間は、たき火で湯を沸かし、持参したコーヒーと糧食で、慎ましく宴会に参加するようだ。彼の英雄、マイヤ サーア(aa1445hero001)は、いつものように幻想蝶の中にいるようだ。
「ここなら、少しはゆっくり出来そうですね」
 填島もまた、簡単な保存食をエコーのために探し出すと、コーヒーを淹れた。自身の英雄エコーに目の届く範囲に居るように言いつける。仲間の視線を受けて、填島は頭を掻いた。
「心配というか、エコーが今、食べる事にすごく興味を持っていて。目を離すと何を拾い食いするか分らないんですよね」
「エコーは、ちゃんと食べて良いか、聞いてから食べる」
「火の傍だと冬でも流石に暖かいね」
「……そうだな」
 楽しそうに笑みをこぼす木霊・C・リュカ(aa0068)の傍で、オリヴィエ・オドラン(aa0068hero001)は武器の手入れをしていた。木霊は、ちゃっかりと持ち込んだ酒をちびちびと飲んでいるが、一向に酔う気配はない。かなり酒には強いようである。身体を暖めるには有効だ。
 そうこうしているうちに、シチューが出来上がった。傍らでココア、コーヒーなどの飲み物がよそわれていく。
「大変助かります。遠慮なく、ご相伴に与らせて頂きます」
 仲間たちが熟睡している來燈澄を起こそうかと迷うと、緋褪は笑った。
「うちの眠り姫は起こさない方がいい。投げ飛ばされるぞ?」
 すやすやと眠っている來燈澄の姿は、本当に幸せそうである。來燈澄が頭を預けているため、緋褪は動けない。無意識なのか、優しく頭を撫でていた。シチューも、もともと朝食用にと作ったものである。温め直せばあとから食べられるだろう。
「ん、マスターが作ったのより、美味しい」
 エコーが言った。
「ふむ……」
「なかなかに本格的だな」
 王 紅花(aa0218hero001)は出来栄えに唸る。
 カトレヤ シェーン(aa0218)は、素直に感嘆の声を漏らした。早々に皿を平らげ、おかわりするものもいる。
「ユリナが私に作ってくれる料理は、一日の大きな楽しみだ」
 ラシルは心底月鏡の料理が好きなようである。
「学園ではユリナが私に手作りの弁当を食べさせようとすることがあってな」
 ラシルは照れくさそうに笑った。
「少々気恥ずかしいが……私との時間を大切にしてくれるのだから、断る訳がない」
 月鏡もまた嬉しそうに微笑んでいる。
 あらかたシチューを平らげると、食欲をそそる匂いは、焼かれたマシュマロがとろけていく香ばしい匂いにとってかわった。ガルーが焼いたマシュマロを、紫は非常食のビスケットで挟む。出来上がったマシュマロサンドを、紫は仲間たちに配っていく。
「リュカ、熱いから気をつけて」
「おっ、せーちゃんありがとう」
「オリヴィエも食べてみたらいいのです。おいしーですよ」
 オリヴィエはこくりとうなずくと、マシュマロサンドを口に運ぶ。本来、英雄は食べずとも生きていけるものである。オリヴィエはまだ食の楽しみというものを理解してはいないようで、黙々と口にしていた。
「英雄の身なら夜食も問題ないか……貰おう」
 ラシルは珍しそうにマシュマロサンドを摘まむ。
「ありがとうございます。よろしければ、チョコレートはいかがですか?」
 斉加は、マシュマロとビスケットのサンドを口にしながら、携帯していたチョコレートを等分に折って、仲間たちに分け与えた。アリューテュス(aa0783hero001)がその様子をじっと見ている。チョコレートがとろけたマシュマロを包み込み、新たなハーモニーを紡ぎだす。
(おいしい)
「ん。おいしー」
 ルゥはマシュマロを一心に頬張る。鴉守もまた、嬉しそうにマシュマロを齧る。月鏡はほんのわずか、マシュマロは食べても良いものなのか判断に迷ったが、雰囲気に流されてマシュマロを頬張る。表面が炙られてとろけるマシュマロは言い訳のしようもないほど美味しいのだった。

●英雄になったきっかけは?
 英雄は、必ずしも睡眠をとる必要がない。それゆえに厳密に見張りの当番を決めていたわけではないが、自然と休むものも出てくる。ルゥはぐっすりと眠っていた。
「いや、ルゥ速攻寝てるだろ!?」
(すやー……いや、起きてるよ。ヒジリー疑い過ぎ)
 本当に寝てしまったのだろうか。じっと動かないルゥは傍から見れば起きているのかどうか、見分けがつかな
い。
「おかしいだろ、ガルーとか寝なくても平気って言ってんぞ!?」
(そう、英雄は寝なくてもヘーキ……ルゥは特別……すやー)
「英雄は寝なくてもいいんじゃないかって? 習慣て大事なんだよー」
 ホットココアをゆっくり飲みながら、鴉守は言う。彼女の英雄、キャスもまたぐっすりと眠っているのだった。
「死んだりはしないけど精神は削られる。不安定になる。食事の必要がないのに食べるのもそうー」
(不安定に……そういうもんか?)
 東海林は、少なからず日頃自身が目の当たりにしているルゥと言う英雄は普通ではないのではないかと疑っているのだが、果たして。当たり前のようにものを食べて眠る英雄もいれば、オリヴィエのように未だにそういう習慣がないものもいるようだ。こうやって話していると、ルゥの変わったところが浮き彫りになる予感がするのだが。それも経験と思いながら、東海林は他の仲間の話に耳を傾ける。
 あたたかい料理と飲み物が、リンカーたちを饒舌にするようだ。話は誰ともなしに、能力者になったきっかけに移っていた。
「能力者になった切っ掛けは、私は大した事はないですよ。勤め先が倒産して、ハロワに通っていた頃にエコーに会いまして。これ幸いと、日々の糧を得ようとエージェントになりました」
 填島はエコーに視線を移して、苦笑いを浮かべた。
「まぁ、エコーと契約しようと誓約など話し合っていたら、警官に職質されたのも、良い思い出ですね」
 エコーの外見年齢はとても幼い。ひょっとすると、同じ悩みを抱えるものがいるかもしれない。
「お、職探し。似てるかも」
 填島の話を受けて、鴉守が話し出す。
「私のきっかけなー何かでみた広告? みたいな。仕事と称してどこにでも行けるからなー能力者。『あ、いいなこれ』と思っただけだし。仕事は趣味のひとつかもー」
「うんうん。どこにでも行けるのは、能力者ならではかもね!」
 木霊がにっこりと相槌を打ち、話し出す。
「きっかけは。二人が出会ったこと。かなあ。今の誓約は【一番最初に結んだ誓約】が果たされた後なんだ。一カ月二人でやりとりをして……ようやく受け入れあった物だよ。エージェントとして依頼に出る様になったきっかけは誓約そのものと同じかな。ま、そんなとこ?」
 オリヴィエは、木霊の話を聞きながら、じっと黙っていた。二度目の誓約を受け入れた真意は、本人でさえもよくわかっていない。いつか、語れる日を来るのかもしれない。
「二人が出会ったこと、ですか。私もそうかもしれません。私が英雄になったのは、ずっと待ってたから。それと、彼女に一目惚れしたからですかね」
 一目惚れ、の言葉に辺りはにわかに活気づいた。迫間は構わずペースを保ち、コーヒーを飲みながら話し出す。
「自分と出逢う為に異世界から来た誰か。なんてのが、自分の所に来ないかなぁ……なんて子供の頃からずっと思ってたものです。毎日退屈に過ごしながらもう諦めかけてたところでやっと会えたのがマイヤでした」
 英雄との出会い。それは、時として運命的なものである。
「その時の彼女は本当に綺麗で。これから何かが始まるんだって。ドキドキしたんです」
 そこで迫間はふっと目を伏せた。
「でも、当時の彼女はそのまま消えたがってたんですね。必死に説得して、なんとか誓約に応じて貰えたんですけど。俺のエゴの為に彼女を引き止めて辛い思いをさせてしまっている。だから、せめて、リンカーとしての能力は彼女の為に使いたい。そう思ってます。彼女の契約者として、というか好きになった女性の為に」
 おおっ、と、誰ともなしにため息が漏れた。肝心の英雄の反応が気になるところではあるが、彼の英雄、マイヤは幻想蝶の中にいるようだが、話は聞いているようである。
「待ってたから……。私も、そうかもしれません」
 斉加がゆっくりと口を開く。
「これが本当の記憶かどうかはわかりませんが……幼い頃、自分にはもう一つの記憶がある事に気付いたんです。それは異世界で強い魔力を持つ魔導士としての記憶でした。巨大な邪竜退治とか、……迷宮に潜ったり自由に旅している世界の名前も国の名前も仲間の顔も、どことなく覚えている気がするんです」
 辛いことを思い出したのか、斉加の表情がわずかに陰る。
「家の者に話したら「絵本のお話ですか?」って相手にされませんでした。特別な力なんかがあればと、魔力の訓練とか魔法陣を描いてみたりしましたが、空想好きな子って言われるだけで。爺やだけが「前世は魔法使いかの?」って真剣に聞いてくれて嬉しかった」
 爺や、という言葉を口にする斉加の表情は、どこか懐かしそうな雰囲気を帯びる。
「でも成長するにつれその記憶は今の私を苦しめるようになったの。お嬢様って呼ばれて守られる自分が嫌で空しくて。「こんなものかな」ってただ日々を過ごすだけだった。そんな時、従魔に襲われたの。私を守ってくれる人達が次々と……! 私も怪我をして死ぬのかなって。意識が薄れた時、守られる側の自分は嫌だと思った。私を守ってくれる人達を守る為の力が欲しいって。そう、前世の私のように」
 斉加の手に、知らず力がこもり、アリューテュスを見てふっと和らぐ。
「そう思った時、光が現れて「俺に名前をつけろ。そしてずっと呼ぶ事を約束すれば、お前の望む魔力を与えよう」って。その暖かさに思いついた名を言ったの。「アリューテュス」……思い描いていた通りの、前世の姿で英雄化したのには驚いたけど」
 能力者たちが共鳴した時の姿は、非常にさまざまだ。
 次に話し始めたのは、月鏡だ。
「私は……様々な異世界と交流を深めようと奔走する両親へ憧れ、異界の学者を目指していました」
 記憶を確かめるように、月鏡はゆっくりと語り出していく。
「16の時、愚神に襲われたのをラシルに助けられ誓約し、能力者になりました。そして……契約後、異界の学者を目指してHOPE本部を目指して上京してきて、今の学園に入学したんです」
 そう語る月鏡には、なにか話しにくいことがあるようにも感じられる。事情を慮って、能力者たちは頷いた。話そうとする以上のことを聞きだそうとするようなものもいない。
(他のヤツの話ばっかり聞いて自分が話さねぇのは気が引けるしな)
 東海林もまた、自分なりの言葉を探しながら、ゆっくりと話し出す。
「自分がリンカーになった切っ掛けか、あんまり話したコトねぇけど」
 東海林はそこで言葉を切り、頭を掻いた。
「強くなりてぇって思ったからだけどよ……」
 かつて英雄と契約する前の東海林は、従魔と遭遇し、木刀で殴り掛かって倒そうとした。その時に「ルゥ」と出会い、英雄やリンカーの世界を知ったのだという。
「……いや、まぁ細かい話は忘れちまったんだけどよ!」
 東海林は苦笑いして、たき火のそばで眠るルゥを見る。
(……まぁその時に体感したルゥの強さに憧れて…何てのは本人の前じゃ言いたくねぇからな……)
「よく眠るのも強さの秘訣かな?」
 木霊はにっこりと笑って相槌を打つ。
 來燈澄も相変わらず幸せそうに寝ている。彼女が寝ているからこそ、英雄の口からの話が聞けるのかもしれない。次の語り手は、緋褪のようだった。英雄の口から語られるリンカーとは、と、聞き手の期待は一気に高まる。
「実家が古流を伝えているみたいでな、この子も修めているんだが父兄姉が困った性格でな。睡眠を邪魔された時の機嫌の悪いのを格好の稽古相手にされていたようだ」
 生い立ちの境遇に共感するところがあったのかもしれない。月鏡の表情が曇り、紫が少し心配そうな顔をする。
「それに嫌気がさして母親の協力の下、中学に上がった時に家を出たらしいんだが、最初は中学生の一人暮らしのうえ、どうも父親が雇ったらしい探偵まがいの連中がうろついていた様で、近所の噂話のネタにあがらないことがなかったようだ。あぁ、探偵連中の報告はすべて母親が受け取ってたようで未だに父親には所在が割れていないらしい……、未だにその手の連中を見かけることがあるからな……」
 心配そうな仲間たちの視線を受けて、緋褪は補足した。
「そんな環境で周囲との摩擦をなくすために感情殺して暮らしてればいろいろ溜まるからな、それらを発散するための趣味の散策をしてるところを愚神の事件に巻き込まれて、そこに私が顕現したというわけだ。ん? 私はまだこの世界に来て2年はたってないな」
 緋褪は笑って答えた。2年。緋褪に頭を預ける來燈澄は、とても信頼感を持っているように見える。
「そんな状況だったのもあって見ていられなくてな。【周囲に対する防波堤になってやるから感情を殺すな】と誓約を結んでいたよ」
 緋褪の尻尾が、ふわりと微かに揺れた。寝ているのではあろうが、契約者は幸せそうに笑った。
「まぁ、その誓約もあって睡眠の邪魔した相手を感情に従って投げ飛ばしたりしてるわけだが……この話をしたことは真赭には黙っておいてくれ。天邪鬼なのでばれたら投げ飛ばされる程度じゃおそらくすまないのでな」
 その光景が想像できたのだろうか。一行は和やかに笑った。
「家の事、ですか……」
 れっきとした女性でありながら、男性的な名をもつ紫。彼女もまた、生い立ちには複雑な事情を抱えている。
「2年前。実家に入り込んだヴィランが家に火をつけ、暴れて、征四郎も大きな怪我をしました。ガルーに会ったのはその時ですね。【決して恐れず、誰かの為に死ぬ覚悟はあるか?】覚悟があれば誓約を、ないなら共にここで死のう、と……」
 ガルーは黙って紫の言葉を聞いている。
「征四郎はずっと、今日と同じ明日を迎えるのが当たり前だと思っていました。でも違った。蓋を開けた『明日』は、痛くて、熱くて、とても辛いものでした。でも征四郎は、その次の『明日』を諦めたくなかったのですよ」
 紫の話は、とても重い。10にも満たないような少女が過去の断片を語り終えると、暫くの間、誰も口を開かなかった。
「それぞれ、色んな過去を背負っているものだ」
 過去を語るのは滅多にないと前置きしたうえで、聞き手に徹していたカトレヤは、これから自分や彼らに降りかかるであろう事を思ったのか、感傷にひたり語りだした。
「それは、ある作戦に参加した時の事だったな。作戦は失敗し、俺は敵に追われ手傷を負った。敵地を脱出することも出来ず、隠れ潜み、手傷の応急処置をしていた時だったな。いきなり、目前が光り輝き、人が現れやがった」
 そう言って、カトレヤは王を見る。
「手傷も酷く、意識も朦朧としていたからな、あ~、お迎えが来たかって思ったよ。でもな、やたらオドオドキョロキョロしてるし、姿がコレだからな」
 カトレヤは軽く笑った。王は、むすっとすねた様子を見せる。
「仕方ないじゃろ。いきなりこの世界に放り出されたんじゃから。記憶もさっぱりじゃったしのう」
 懐かしむように遠い目をして、王は当時のことの感想を漏らした。
「正直、誰でもよかったんじゃ。実際、お主、死掛けじゃったしのう。我が現状を抜出す事が出来れば、それでよかったんじゃ」
 カトレヤは笑って、王の言を受ける。
「俺もそうだったよ。今の現状を抜出す事が出来ればなって。だから、紅花の提案した誓約を無条件で受け入れたんだ。そうして、俺は能力者になったんだ。失ったものもあったがな」
 カトレヤの左手が、眼帯とロンググローブを触った。アイアンパンクである彼女は、自己の機械の身体に、あまり良い印象は持っていないのだ。カトレヤは、遠い目で失った仲間を思い出すように夜空を見上げる。つられて、一行は空を見上げた。木々の遥か彼方上空、星々が綺麗に瞬いている。
「得たものもあった」
 カトレヤは真っ直ぐに王を見た。
「お前達も、これからいろんなものを失うだろう。だがな、得るものもある。いいか、生きてこそ、失うことも得ることも、後悔することも喜ぶことも、こうして昔の事を話すことも出来るんだ。命を無駄にするな。生き残るんだぜ」
 過去に何かを失ったとしても、失ってばかりではないのだろう。リンカーたちの中には、これから死線に向かう者たちもいる。それでなくても、リンカーとしての仕事にはいつも危険がつきまとう。カトレヤの話に、リンカーたちはそれぞれ何か思うところがあったかもしれない。

●ヒーローの条件とは?
 めいめいが思い思いにこれまでを語ると、次の話題は、ヒーローの条件とはどういったものかというものに移っていった。
「誰かにとって救いを与えられる存在じゃないかしら。誰もが誰も口を揃えて言う存在だけがヒーローじゃないわ」
 皆の話を聞いて気が向いたのか、迫間の話が終わった後、マイヤは幻想蝶から出てそっと話の輪に入ってきた。仲間たちも席を開け、歓迎の意を見せる。
「征四郎にはまだちょっとわからないですね。ただ、誰かの『明日』が奪われそうなら、それは守りたいと思うのです……ただ、出会った時のガルーはヒーローのようなものでしたか」
「ぶっ……」
 紫の言葉を聞いて、ガルーは思わず噴きだした。
「お前なぁ! もっと選べよ、誰がヒーローって柄か」
 ガルーは、思いがけない言葉に戸惑ったようだった。とても真剣だと悟ると、ガルーは言葉を付け加えた。
「ヒーローでもなんでもねぇよ。英雄ってのは此方ではその名の通りの力を持ってる。だからそれは、力を持たない者を守る為に使わなきゃならねぇ。これは責任だ。……多分条件よりもっとずっと手前の話だ」
 力の使い方。それもまた、ヒーローが考えるべきことなのだろう。ガルーは、それを責任だと現した。
「ヒーローの条件なー。やっぱりどんな状況でも最後に立っていることかなー」
 鴉守は明るく話し出す。
「死して語り継がれるヒーローというのは本人にとっては虚しいものだと思うよー死人に口無し。プロパガンダに使われたりだしー」
 生き延びること。それはやはり、リンカーたちにとって大切なものであるかもしれない。鴉守もまた、明日に戦場に赴く予定だ。
「私明日は狙撃の仕事だし仮眠するよーキャスー交代よー寝袋かせー」
 鴉守がテントに消えると、金髪の女性が、弾かれるようにして即座に寝袋から起き出してきた。
「グッモー☆ 目覚めバッチリネー」
 まだ朝というにはあまりに早い。
「オー美味しそうなモノ食べてますネーワタシにもチョーダイナーコーヒーくーださーい」
 キャスは、コーヒーやら残りのマシュマロやらをぐいぐいと食べる。うとうとさしかかった一同を見て、キャスは笑う。
「眠いときはガマンしちゃ駄目デース。適度な仮眠大事ヨーいい子には膝かしてあげマース。フフッ、敵は来たい時に来るもの。来ないうちに緊張してたら疲れるデスヨー」
(そう、ヒジリーが寝た時、ルゥが起きてる……大丈夫、問題ない)
 食べ物のにおいにつられたのか、ルゥは欠伸をする東海林を横目に、もぐもぐとマシュマロの残りを平らげると再びこてんと横になった。キャスは笑って頭を撫でる。
「ヒーロー……努力して力をつけて皆を守ろうとする人?」
 キャスの登場に、幾分か空気の流れが変わった気がする。斉加は自身のヒーロー像に思いを馳せ、言った。
「やりたい事やって人がついてきて、それが認められれば正義だろうと悪だろうとヒーローだろう」
 アリューテュスは、どうやら斉加とは少し方向性の違う考えを抱いているようである。それを受け、キャスはにっこりと笑う。
「ヒーローの条件デスカー? 『奇跡を起こす人』であることデース! 例えば誰かを助けた時、助けられた人にとってはその人がヒーロー。どんな理由であっても、誰もがヒーローになれるデース」
 シンプルなキャスの言葉は、非常にわかりやすい。
「ヒーロー。個人、または一定の集団に対して、障害を排除してくれる存在。或いは、他者では対応できない問題を、速やかに解決できる存在。纏めれば、誰かにとって、とても都合の良い者が、その人のヒーロー。極論すれば、便利屋」
 エコーは淡々とヒーローを定義する。
「誰かにとってヒーローでも、別の誰かには悪魔かもしれない。結局は観測者次第」
「あえて言うなら、信念を持ち、進む先がぶれない事でしょうか」
 填島がエコーの言葉を引き受け、補足する。なるほどな、と、仲間たちは思い思いに納得しているようだ。
「ん、ヒーローの条件。そうだな。やっぱり、現状を変えてくれる存在さ。むろん、いい方向にだぜ。紅花、あの時のおまえは、俺にとってはヒーローだったぜ」
 カトレヤは王を見る。
「カ、カトレヤ。お、お主こそ、あの時の、我にとってはヒーローじゃったのじゃ』
 王は頬を赤らめて、ソッポを向く。
「我はあの時、傍に居たのが、お主だったことを本当に感謝してるのじゃ」
 王は小さな声でぼそりと言った。お互いに、どうなるかなど考えていない状態での契約だった。しかし、心の声が聞こえていたら、同時にこう思っているのが聞こえたことだろう。
(今もおまえ(お主)が俺(我)のヒーローだよ(じゃ))
「んー、ん……かっこいいこと?」
 木霊が言うと、オリヴィエが補足する。
「……力があること」
 木霊は頷いた。
「確かに、強いことは必要条件だね。勿論、身体だけじゃなくて心も!」
「…………、……」
「……まだほかにもありそうな顔してるね」
 木霊は笑うと、オリヴィエにその先を促した。
「ほら、言ってみなよ」
「……お節介であること」
 木霊はにっこりと笑った。
「……いいね、確かに。それは必要だ。お節介で、自己犠牲をしてでも他人を助けに踏み出せる。それを綺麗ごとだと笑って片づけない。今の所、お兄さん達にとっての‘ヒーロー’って言うのはそういう物かな!」
「ヒーロー……両親やラシルのような人、でしょうか」
「私か?」
 月鏡に言われ、ラシルは嬉しそうに笑った。
「私にとっては、民と国の為に尽くす主君、だろうか」
「私たちにとっては、穏やかな日々の価値を知り、守る者、という感じですね」
 ラシルも頷く。月鏡も、もラシルも故郷の親しい者達に会えない立場である。二人で過ごす穏やかな日々はかけがえのないものだ。
 マイヤが仲間たちの輪に入る様子を見て安心したのだろうか。迫間は水汲を汲みに、ふと席を外していた。
「誰かにとって救いを与えられる存在……。私にとっては……央がそうだと思う」
 マイヤの発言に、辺りは再び感嘆してため息をつく。
(彼は名前以外何もなかった私に、この世界で生きる理由と命をくれた。とても大切な人。だから、私のどうしようもない悲しさや心の喪失感を央で埋めたくないの。顔も名前も存在すらも思い出せない誰かの代わりになんかしたくないから……)
 迫間がいるだろう茂みの奥を見つめ、マイヤは思う。
(いつか、ちゃんと向き合えるように……なりたい)
 迫間とマイヤは、お互いに遠慮から踏み込めないようである。そう単純にはいかないのだろうが、相思相愛の組み合わせのようだ。それも、お互いを大切に思うがゆえである。

●そして休息は終わる
 朝焼けが近づくと、一行の中にも、本格的に寝るものが多くなった。夜も更けてきた頃だ。木霊は少しうとうととしているようだ。かくかくとする相棒を、オリヴィエは肩で支えている。本人に寝る気配は無いようだ。
 斉加もまたうとうととまどろみ、アリューテュスにもたれかかる。ラシルが、冷えるだろうからとテントに運ぶ。斉加がいなくなると、アリューテュスは自らの存在に不安を覚えている事をポロリと漏らした。アリューテュスは、残留思念から英雄化した存在である。英雄について、未だにわかっていないことも多い。
 ガルーは、テントで寝ている征四郎に毛布をかける。
「本当にヒーローだったらよ、きっとお前さんを今戦地にやる必要もねぇんだぜ」
 独り言のように呟いた言葉だったが、紫は答えた。
「当たり前です。今はヒーローではなく、征四郎の相棒なのですから」
「……起きてたのかよ。あー、そうだな。今は相棒だ」
「……征四郎は、あなたの力をちゃんと、英雄に、する……」
 そう言いながら、紫は眠りに落ちて行った。
「はいはい、おやすみ」
 ガルーはゆっくりと息をついて、ぽんぽんと毛布を叩く。

 東海林は眠気覚ましに大剣を背負って素振りに精を出していた。起き出してきたHOPEの職員が、おやつを失くして悲鳴を上げたが、月鏡がシチューを差し出すと、あっさりと機嫌が戻る。現金なもので、むしろ得をしたと言わんばかりの上機嫌である。

「そろそろ、時間」
 エコーの言葉に、填島は頷く。
「そうですね。補給部隊の方も起きて来たようですし。さて軽く体操でもしますか」
「今後の予定は?」
「このまま前線に合流して、愚神討伐ですね」
「ん、了解した」
「期待してますよ」
 エコーは頷いた。もうすぐ、夜が明ける。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 魔王の救い手
    填島 真次aa0047
    人間|32才|男性|命中
  • 肉食系女子
    エコーaa0047hero001
    英雄|8才|女性|ジャ
  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
    人間|31才|男性|攻撃
  • 仄かに咲く『桂花』
    オリヴィエ・オドランaa0068hero001
    英雄|13才|男性|ジャ
  • 『硝子の羽』を持つ貴方と
    紫 征四郎aa0076
    人間|10才|女性|攻撃
  • 優しき『毒』
    ガルー・A・Aaa0076hero001
    英雄|33才|男性|バト
  • Run&斬
    東海林聖aa0203
    人間|19才|男性|攻撃
  • The Hunger
    Le..aa0203hero001
    英雄|23才|女性|ドレ
  • エンプレス・ルージュ
    カトレヤ シェーンaa0218
    機械|27才|女性|生命
  • 暁光の鷹
    王 紅花aa0218hero001
    英雄|27才|女性|バト
  • ようへいだもの
    鴉守 暁aa0306
    人間|14才|女性|命中
  • 無音の撹乱者
    キャス・ライジングサンaa0306hero001
    英雄|20才|女性|ジャ
  • もふもふの求道者
    來燈澄 真赭aa0646
    人間|16才|女性|攻撃
  • 罪深きモフモフ
    緋褪aa0646hero001
    英雄|24才|男性|シャド
  • 希望を歌うアイドル
    斉加 理夢琉aa0783
    人間|14才|女性|生命
  • 分かち合う幸せ
    アリューテュスaa0783hero001
    英雄|20才|男性|ソフィ
  • 永遠に共に
    月鏡 由利菜aa0873
    人間|18才|女性|攻撃
  • 永遠に共に
    リーヴスラシルaa0873hero001
    英雄|24才|女性|ブレ
  • 素戔嗚尊
    迫間 央aa1445
    人間|25才|男性|回避
  • 奇稲田姫
    マイヤ 迫間 サーアaa1445hero001
    英雄|26才|女性|シャド
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