本部

緊急感欠如の緊急事態

gene

形態
ショート
難易度
やや易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
4人 / 4~8人
英雄
4人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2015/11/11 20:13

掲示板

オープニング

●バルにもふもふ
「カンパーイ!」
 カルメラとローサはバルをはしごし、この店で既に五軒目だった。
「ん〜! おいし〜!」
 夜空の見えるテラス席で、カルメラは塩味のきいたピンチョスを食べて、赤ワインを飲む。
「あんた、本当に美味しそうに食べるわね」
 一軒目からこの五軒目まで、どの料理も心の底から美味しいと思っているのがよくわかる反応を見せながら料理を食べるカルメラを見て、ローサは笑う。
「ローサ、生ハムも頼んでいい?」
「まだ食べるの?」
「このお店の生ハム、おいしいのよ〜」
「あー、はいはい。頼んできてあげるわよ」
 ローサは店内のカウンターにいる店主へと生ハムを注文する。お皿にすぐに盛り合わせてくれた生ハムを受け取り、カルメラのところへと戻ったローサは驚いた。
「ちょっ、なにそれ!? カルメラ!!?」
 カルメラは黄色いふわっふわっなデカいひよこのぬいぐるみのようなものを膝に抱えて満足げにしている。
「これ、可愛いでしょ〜?」
「可愛いけど……どうしたのよ? そんなもの?」
 ローサはひとまず生ハムをテーブルの上におくと、ほぼ無意識にワインを一口飲んだ。
「しかも、もふもふであったかいのよ〜」
「いや、だから、それを一体どうしたのよ?」
「んー? 空から飛んできたの〜」
「酔ってても冗談が言えるようになったの? 成長したわね」
 ローサはまた一口、ワインを口に注ぎ込む。
「えへへ。ありがとう〜。でも、本当だよー」
「冗談でないのなら、どっかのおっさんがくれたのを空から降ってきたって勘違いしてるのね」
「違うよ〜」
 そう言いながらカルメラは空を見上げ、「ほら、また」と言った。
 その言葉を信用してというよりは、カルメラの視線につられるようにして空を見上げたローサは、手に持っていたワイングラスを石畳に落とした。
「なっ!? なにあれ!!?」
 ぴよぴよと宙を行く黄色いふわふわの球体の姿は奇妙でありながら、なんとも可愛らしい姿だ。
「ねー? 本当だったでしょ〜? すっごい、ふわふわなんだから、ローサにも貸してあげる〜」
「いや、私は似合わないからいらないけど……どうしたの?」
 ひよこを抱えたままもぞもぞしているカルメラの様子にローサがそう聞くと、カルメラが困ったような表情を見せる。
「この子、全然離れない……」
「は?」
「手から全然離れてくれないよ〜」
 そのカルメラの手を見ると、もふもふに単にうまっているわけではなく、完全に取り込まれてしまっているように見える。
「どーいうことよ!?」
 ローサがもふもふを引っ張ろうとしたが、もふもふに触れた瞬間、ずぼっと手が入り込むような嫌な感じを受け、ローサは慌てて手を引き抜いた。
「なにこれ!?」
「ん〜?」と、カルメラは首を傾げ、それからにぱーっとだらしなく笑った。
「きもちーから、いっかー!」
 悠長なカルメラにローサは「よくない!!」と一喝した。

●H.O.P.E.会議室
 会議室に集められた能力者は、スクリーンを見ながら皆一様にきょとんっと間抜け面になっている。
「至急、バルが立ち並ぶこの地域へ行ってほしい」
 目的の場所に赤丸がつけられた地図が配られる。
「見た目があれだが……おそらく、従魔だと思われる」
 H.O.P.E.の職員もなんだか歯切れが悪い。
「この黄色いデカいぬいぐるみみたいなのが従魔ですか?」
「通報者のローサ・バルデスの話によると、友人が空から降りてきたひよこのような生物を抱きしめていると、ひよこのもふもふの腹に友人の腕がすっぽりと入り込み、まったく離すことができなくなってしまったということだ」
「実害は?」
「そのうち眠ってしまった友人を観察していると、体温は低下し、顔色は青白くなり、呼吸は浅く、起こしてもまったく起きず、まるで生気を奪われているような状態になってきたということだ」
 そこまで聞いて、その場にいた能力者達はやっと緊張感を持ちはじめた。
「この黄色いやつがライブスを吸い取ってるってことですか?」
「ああ」と職員は頷く。
「周辺にそうしてひよこを抱きしめた状態で倒れ込んでいる人物が数名いるらしい。攻撃をしてくるのではなく、その見た目の愛らしさを利用しての愚行……なかなかに手強そうだ。至急、救出に向かってくれ!」

解説

●目標
1.ライブスを奪われている酔っぱらいの救出
2.空飛ぶもふもふ従魔の退治

●登場
・もふもふした従魔(ミーレス級)
・人の腕や銅を取り込むようにして密着し、ライブスを徐々に奪う
・激しく攻撃してくることはないが、捕まるとやっかいである
・可愛さに気を取られないように要注意

●場所と時間
・夜十時から深夜一時頃までに発生するためか、主にバルに集まっている酔っぱらいが餌食となる(日中、被害に会った者も、見かけた者もいない)
・海のほうから飛んでくるとの目撃証言あり
・海で巨大な影を見たという証言あり

●状況
・被害者は十数名の酔っぱらい
・従魔にくっつかれてから三日程度で大人一人分のライブスが吸い尽くされる
・一度は従魔が腕にくっついてしまったものの、強風により黄色い羽毛のような毛が吹き飛ばされて、助かったとの証言あり

リプレイ


 夜九時半、バルが並ぶ通りを歩きながら、それぞれの英雄と共鳴した木霊・C・リュカ(aa0068)と御神 恭也(aa0127)は黄色いひよこのような従魔(以下、『ひよこ』)に襲われている被害者を捜していた。
 一軒のバルで、盛り上がっている男達を見つけると、リュカは人懐っこい笑顔を浮かべて近づいた。
「わー! おじさん達、できあがってるねぇ。あんま飲みすぎたら奥さんにしかられちゃうよ?」
 ご機嫌な男達は「兄ちゃんも飲むか?」と、お酒を勧めてきたので、リュカは遠慮なくタダ酒を頂戴する。
「美味しー!」
 楽しくお酒を飲み、男達がつまんでいた料理を一通り食べてから、「ところで」と、リュカは本題を話しはじめた。
「ひよこのぬいぐるみみたいなものを持った人とか見てない?」
「それなら」と、男達は店の奥へと視線を向ける。
「店のおやじが、昨夜から帰らない困った客がいるってぼやいてたぞ」
「あれは兄ちゃんのひよこか?」と聞いてきた男に、リュカはへらりと笑う。
「そーいうわけじゃないんだけど……野暮用があってね」
 楽しく飲んでいるところ、「あれは従魔なんだよ」なんてつまらないことは言わず、リュカは恭也と一緒に店の奥へと進む。
「あ、いたいた!」
 椅子を並べてその上に寝ている男は、その腕にしっかりとひよこを抱えている……というか、すっかりひよこに取り込まれている。
 黄色いもふもふに小さめの黒目がつき、おちょぼ口のようなくちばしがついているそれはなんとも可愛らしく見えた。
「可愛いひよこだ〜!」
 伊邪那美(aa0127hero001)は恭也の中でテンションをあげる。
「……可愛いのか? あれは」
 眉間に深い縦皺をつくった恭也は、じっと従魔を観察する。
「映像で見たとおり、可愛いね」
 オリヴィエ・オドラン(aa0068hero001)に語りかけたリュカに、オリヴィエはリュカの中で答える。
「よく燃えそうだな」
「うん、そうだ……えっ?」
「燃えそうだな」
「えっ?」
「燃えそうだな」
「えっ?」
 聞き返したところで同意も理解もできず、同じ会話を繰り返すことになる。
 その間に、恭也がコンユンクシオを鞘から抜こうとしたものだから、リュカは慌てた。
「御神ちゃん! ここ店内だから!!」
 だからなんだ? と、恭也の目が語る。
「剣を振り抜いた風で従魔を飛ばす……名案だな」
「なんで今の動作だけで解ったの!?」
 いたく感心しているオリヴィエに、リュカが叫ぶ。
 結果、剣を抜こうとした恭也よりも目立つことになったリュカは店主に声をかけられた。
「お前さん達、その男の知り合いか? はやく連れ帰ってくれよ」
 あからさまに迷惑そうな表情をする店主に、リュカは細かいことは語らずに聞いた。
「夏に使ってた扇風機ってまだある?」
「あるけど、なにすんだ?」
「こういうひよこ付き酔っぱらいの対処法を教えるから、ちょっと貸してもらえる?」
 店主がカウンターの奥から出してくれた扇風機を恭也が受け取る。
「扇風機! こんなに可愛いひよこに躊躇なしに剣を引き抜く非道な恭也とは違い、ないすあいであってやつだよ!」
 頭の中に響く伊邪那美の声に、恭也は再び眉間に皺を寄せる。
「これは敵だろうが。それに、ひよこがデカくなっただけで、可愛いとは思えんのだが」
 ひよこに扇風機の風をあてると、羽毛が徐々に飛び、ひよこ自体も宙へ舞うようにして男から離れた。羽毛はすこし宙を舞った後、跡形もなく消滅した。
 ひよこが他の客に取り憑かないように、リュカはそのひよこをむんずと掴んで回収する。
「もう少しすれば起きる筈だから、もうちょっとここで寝かしてやってよ。ああ、俺達は別に知り合いでもなんでもなくて、用事があるの、こっちだから」
 邪魔な客を追い出すことができずに残念がっている店主に、リュカは扇風機を指差して聞く。
「このコードレスの扇風機借りていきたいんだけど、いいかな?」
 店主は渋い顔をしたが、他の客が「持ってけ! 持ってけ!」と無責任に言った言葉に便乗して、「後で必ず返しにくるよ!」とリュカは早々に店を出た。
 その店からすこし離れた路地裏に入ると、リュカと恭也はすっかりリュカの前腕に巻き付いているひよこを見た。
 暗がりで見ても、その可愛さはゆるがないひよこ。
 それどころか、ひっついている前腕が温くて、心地よささえ感じる。
「一体、回収したのはいいけど、ちょっと倒しづらいね」
 そうリュカが言い終わるか終わらないうちに、オリヴィエが共鳴状態のその体を動かして、迷いなく竜玉杖を振るった。
「……」
 無惨にも飛び散ったひよこの黄色い羽毛が宙を舞い、そして消えていく様が、リュカにはスローモーションで見えた。
 これは従魔だということはわかっているが、一瞬にして奪われた前腕の温もりに、哀愁のようなものを抱いてしまう。
「どうした?」
 リュカの気持ちを感じ取ったオリヴィエが尋ねると、リュカは「いや、なにもないよ」と何かを諦めたように答えた。
 諦めのような気持ちになっている時点で、なにもないわけがないが、哀愁など従魔に対して抱く気持ちとしてはあまりにも不釣り合いで、オリヴィエにはリュカの気持ちが全く理解できず、かける言葉がわからない。
「ひどーい! オリヴィエちゃん、ひーどーいー!!」
 頭の中に直接響く伊邪那美の声にげんなりしつつ、恭也はリュカを促した。
「次に行こう」


 夜十時過ぎ、紫 征四郎(aa0076)とガルー・A・A(aa0076hero001)、会津 灯影(aa0273)と楓(aa0273hero001)の四人が一緒にバルが並ぶ通りを歩いていると、ひよこに取り憑かれて道に倒れている酔っぱらいを見つける。
「もふもふ、ね。狐の友達か?」
 ガルーの言葉に、楓が不機嫌そうに答える。
「こんな、ちんけで粗末な毛並みのものが我の友人なわけなかろう」
 そんな会話をしている英雄達の前をテンションが上がっている能力者の二人が行く。
「か、かわいいのですよ……!」
「めっちゃもふもふ……! ひよこかわい……」
 次の瞬間、扇子で殴られた灯影は「あいだっ!?」と、後頭部をおさえた。
 振り返ると、楓がじと目を向けてくる。
「扇子で殴ることなくねっ!? ってか、さっきから機嫌悪くない? どったの?」
「どうしただと……?」
 楓は深いため息をついてみせる。
「だから、貴様は駄犬なのだ」
「犬じゃないし! 俺は、もふもふふわふわしてないもん! うらやましい!!」
「灯影が犬だったら、征四郎が飼うのですよ! そして、毎日もふもふするのですよ!」
「毎日、トリミングも頼むな!」
 楓が本気で見下した眼差しを送ってきていることに気付き、灯影は征四郎の影に隠れた。もちろん、体格差から征四郎の影に隠れきれるわけはないが。
「いや、冗談だって。冗談。嫌だなー。楓ってば」
「兎にも角にも、患者の確認かね」と、ガルーはひよこがお腹のあたりに巻き付いている被害者へと近づく。
「強風で助かったって話があったからな。とりあえず、これで試してみるか」
 そう言うと、ガルーは背負っていたリュックをおろして、小型の扇風機を取り出した。
「すごい! 用意周到!」
 灯影が驚くと、征四郎が胸を張る。
「そうなのですよ! ガルーに抜かりはないのです!」
「貴様は抜かりっぱなしだな」と、楓がまだ灯影にじと目を向けている。
「で? どうする。あれは討伐対象だが……」
 楓はじと目をひよこに移す。
「今日は貴様が殺るか?」
 どうせできまいと、楓はふんっと鼻で笑った。
 しかし、もふもふに目を奪われている灯影は楓が馬鹿にしてくることなど気にならない。
「そんな怖いのはやだけど……もふもふはしたいから、俺が捕まえればいいんじゃね!?」
 名案を思い付いたと言わんばかりの顔で灯影は言う。
「扇風機で引き剥がしたのを俺がキャッチすれば、他に被害いかないし!! 俺天才か!」
 もふりたいがための灯影の提案に、さすがの征四郎も引き気味になる。
「アイヅがキャッチして捕まるのはひよこでなく、アイヅなのですよ……おさわりげんきんなのですよ!」
「えー、大丈夫だってー!」
 目の前の欲求に流されない子供と、欲求を全く抑えきれない大人。
「馬鹿極まったな……我が提示したとはいえ、面倒な駄犬と誓約を交わしたものだ」
 楓は再びため息をつきつつも、「ともかく、仕事よな」と、ガルーと視線を合わせた。
「んじゃ、いくぜ」
 ガルーが扇風機を回して風をひよこにあてると、ひよこが羽毛を飛ばしながら、被害者のお腹から離れた。
 ひよこが宙を浮いたところを、灯影がきらきらと輝く瞳でキャッチする。
「アイヅ!! 本当にやるのですか!?」
 征四郎は慌てたが、ひよこを捕まえた当の本人は満足げである。
「うっわー!! 超もふもふー! もふもふーーー!!」
 自分の手を飲み込んでいっているひよこに顔からもふりたいという衝動を抱いた次の瞬間、強制的に共鳴してきた楓により、手を覆っていたひよこに銀の魔弾が打ち込まれた。
「へ? あの、楓さん……?」
「無残に爆散するがよい」
 楓がにんまりと口角をあげる。
 銀の魔弾の威力により、ひよこを形作っていた羽毛のようなものは一瞬で吹き飛んで消えた。
「もふもふは堪能しただろう? 後は我の役目よ」
 ふわふわと飛んで来ている数体のひよこを上空に見つけると、楓はバルの壁を駆け上がり、屋根を蹴って、ひよこの前へと飛び上がる。
 そして、ブルームフレアを炸裂させた。
「ふぁ!? おま、ええええ!!!?」
 大好きなもふもふが瞬殺されたことに動揺して、灯影は悲痛な叫び声をあげる。
 征四郎はひよこ達が消え去っていくのを直視できず、両手で顔を覆った。
「さすが、狐。身のこなしが軽いなー! 俺達も行くか?」
 そうガルーが征四郎に声をかけたが、征四郎は両手で顔を覆ったまま首を横にブンブンッと振る。
「あ、あんな可愛いのに倒すなんて、無理なのですよ……!」
「馬鹿! こいつらは理由があって可愛くしてんだよ! 倒せ! 恐れるな! 勇気を出してサクッといけ!」
 サクッという表現により、征四郎の頭の中にはひよこがサクッと真っ二つにされる図が浮かぶ。
「いやあああああ!!!」
 征四郎の悲鳴は通りに響き渡り、歩行者の注目を集める。
「すごい悲鳴が聞こえたけど、大丈夫?」
 聞き慣れた声に征四郎が涙をためた瞳を向けると、オリヴィエと共鳴しているリュカの姿があった。
「リュカ〜!!」
 リュカに抱きつこうとしたところを、ガルーは征四郎の首根っこを掴んで止める。
「さっさと共鳴して、ひよこをぶっ飛ばせ! 一度やっちまえば、すぐに慣れる!」
 ガルーが征四郎と強制的に共鳴すると、リュカに代わりオリヴィエが「これ、殺るか?」と、腕につけて回収していたひよこを差し出す。
「おー! サンキュー!」と、ガルーはオートマチックで撃破した。
「うっうっ……征四郎の手は汚れてしまったのです」
 とうとう泣き出した征四郎の悲しみにくれた声をガルーは無視する。
「ところで、この人」と、リュカは道に倒れたままの男へ視線を向ける。
「お店に頼んで、保護してもらおうか。怪我されてもあれだし」
「ああ、狐達のやりとりが面白くて、すっかり忘れてた」
 ガルーはリュカと一緒に男をバルへと運びながら、「恭也達は?」と聞いた。
「あっちも大変そうだよ」
 そうリュカは苦笑する。
 スナイパーライフルで上空を飛んでくるひよこを狙撃する恭也だったが、頭の中では悲鳴と非難の声が響き続けていた。
「鬼〜! 悪魔〜〜〜!! きゃーー!! 冷血漢〜! むっつりスケベ〜!! 老け顔〜!!」
 集中力を途切れさせないようにライフルを打ち続けてはいるが、甲高い声で叫ばれると手元が狂うこともある。
「非道〜! 十六歳に見えない〜! 詐欺師〜!!」
 頭が痛くなってきた恭也は、苦痛に顔がゆがむ。
「……仕事が終わったら、話し合う必要があるようだな。特に、お前の躾について」
「きゃーーー! 短気〜!!」


「ひよこの親といえば鶏であろう。丸焼きにしてやろうぞ」
 一通りのひよこを散らした楓は、速度を上げて海へと向かっていた。
「えー! ひよこのでっかいのがいいなぁ! でっかいのぉー!」
 子供のようなことを言う灯影に、楓はチッと舌打ちをする。
「海にいるってことは鴎かな」
 巨大なものがどんな姿で現れるのか、すこし楽しみなリュカ。
「……黄色い雛はひよこじゃないのか?」
「でも、海に鶏って合わなくない……?」
 そんな会話をしている間に海が見えてくると、そこに証言通りの巨大な影が見えた。
 その影を見て、リュカは自分の予想が外れたことを知る。
「どうやら、巨大ってのは雛達の親の姿ってわけじゃないみたいだね」
 巨大すぎるその姿は月を背にし、顔は影になってよく見えないが、そのフォルムはバルで見たあの丸いフォルムと変わらなかった。
「一つ聞きたいのだが、あれだけ巨大な相手でも可愛いと思えるのか?」
 共鳴している伊邪那美のテンションが急上昇していることを感じて、恭也は聞いた。
「勿論だよ!」と、伊邪那美は即答する。
「あんなに可愛い子があんなにも大きいなんて、可愛すぎるよ!!」
「……まったくわからん。俺にはデカすぎて不気味に見えるんだがな」
 巨大なひよこは、ぽよ〜〜〜んっと形容することも可能だが、どーーーん! や、ず〜〜〜んっと表現することも可能であり、恭也にはず〜〜〜んにしか見えなかった。
「ガルー! 懐中電灯で照らすのです!」
 可愛いひよこを手にかけてしまったトラウマに沈んでいた征四郎のテンションも今やMAXまで高まっている。
 急に元気になった征四郎に戸惑いながらも、ガルーは懐中電灯で巨大なひよこを照らす。
「リュカも! 照らすのですよ!!」
 征四郎に言われ、リュカも慌てて懐中電灯の光をひよこに向ける。
 しかし、あまりのデカさに二つの懐中電灯だけでは全く光が足りず、その顔はまだはっきりとしない。
「こうなったら! ライトアイなのです!!」
「目的が変わってねーか!? 征四郎!!?」
 ガルーの声など無視して、征四郎はライトアイを使う。
「っ!」
 そうしてやっと見えた巨大ひよこの顔は、その巨大な体に比べるとずいぶんと小さい瞳とくちばしだった。
 比率が明らかにおかしく、可愛いというよりは間抜けな顔を、楓はふんっと鼻で笑った。
 しかし、灯影、伊邪那美、そして征四郎の反応は好評だ。
「可愛い〜〜〜っ!」
 それぞれのパートナーは表情を曇らせる。
「……あれは可愛いのか?」
「うん。まぁ、可愛い分類に入るかな」
 訝しむオリヴィエに、リュカは答える。
「とにかく、いこうか?」
 一般人よりも強いライヴスを感じてか、エージェント達のほうへ向かってきて、陸へ上がった巨大ひよこへ向かってリュカは跳躍した。
 跳躍の頂点は巨大ひよこの丁度中心部の辺りだ。その地点で、リュカは竜玉杖を振るう。
 軽やかに動くことのできないひよこにそれは命中したが、攻撃により巨大ひよこから毛玉が散り、その毛玉がバルで見たサイズのひよこに変化した。
「っえぇ!?」
 変化した数体のひよこはリュカへとしがみついてきた。
 それをガルーがオートマチックで打ち抜いて散らす。
「この子達は巨大ひよこの毛玉なのですか!?」
「やばいな。このまま攻撃すると、またバルのほうへ行っちまう……風さえあれば、この時間なら陸から海に吹く風があるんだが……」
 ガルーの呟きに恭也が動く。
「風を味方にすることができないならば……瞬殺するまでだ!」
 恭也はオーガドライブで巨大ひよこに突っ込んでいった。
 その勢いにより、巨大ひよこの体はぐらついたものの、攻撃した部分から大量の毛玉が飛び散り、ひよこが発生した。
「おかしな顔して、なかなかの強者だったか……?」
 突破口を考える楓だったが、灯影に思考を邪魔される。
「いいなぁ〜! もふもふ〜!!」
「貴様、もう取り込まれて窒息しろ!」
 内なる敵にいらだちを募らせた楓は、意外な行動に出た。
 巨大ひよこの中心めがけて跳躍すると、その体に体当たりして、そのまま取り込まれる。
「アイヅがもふもふに発狂したですか!?」
 征四郎が心配したが、「いや」と、ガルーが否定する。
「体を動かしてたのは楓だったみたいだが……とにかく、助けねーと!」
 ガルーがブラッドオペレートで斬りつけたその瞬間、ゴオッと巨大ひよこの内側から強い風の音が聞こえ、羽毛が一気に飛び散った。
 そして、巨大ひよこがいた辺りには、巨大ひよこの中でゴーストウィンドを起こした楓がいた。
「我以上のもふもふなどいらん! 死して詫びよ!」


「あー、やっぱいつものが良いわ。すげー落ち着く」
 灯影は楓の尻尾に顔を埋める。
「当然だ。我は傾国の妖狐だぞ。好きなだけ賛美し、もふるが良い!」
 傲慢なもの言いではあるが、そのゆらゆらした尻尾が楓の機嫌の良さを物語っている。
「巨大ひよこを倒したら、ほかのひよこも消えたみたいだね〜」
 バルの店の中を見て回りながら、リュカは言ったが、同じくバルを見て回るガルーが「そうだな」と答えただけで、オリヴィエの反応はない。
「オリヴィエ?」
 見えない目で気配をたどったが、近くにはいないことがわかる。
 征四郎が五メートルほど離れたところでオリヴィエの足が止まっていることに気付き、駆け寄る。
「……寝ているのですよ」
 オリヴィエの顔をのぞくと、彼は立ったまま寝ていた。
「共鳴している時は、アルコールは飲んじゃダメってことか」
 そう笑うリュカに、ガルーが驚く。
「えっ!? リュカ、飲んでたのか!?」
「いやー。おじさん達に誘われちゃって、ちょっとだけね」
「ずるいぞ!」
「まだお店開いてるから、一杯やっていく?」
「でも、子供を連れて行くのもな……」
 ガルーが征四郎とオリヴィエに視線を送ると、灯影が手を挙げた。
「俺、送り届けますよ!」
 のんべぇ達にはありがたい提案をした灯影の肩を叩いたのは、楓だ。
「では、頼んだぞ!」
「えっ!? 楓も飲むの!?」
「こんなところにいて、飲まない訳がなかろう!」

「あの子達、酔っ払いを狙ってたみたいだったね」
 伊邪那美が恭也の顔を見ずに言う。
「もしかして、酒気を目印に襲ってたんじゃないかな?」
 沈黙が気まずくて、伊邪那美はしゃべり続ける。
「だ、だから、バルに出没して、あんなかわい……こちらを油断させるような装いで来てたのよ!」
「……伊邪那美」
 名前を呼ばれて、伊邪那美はさらに緊張する。
「そうに違いないわ! よかったわねー! 早めに退治できて!」
「伊邪那美」
「な、何かな!? 恭也!?」
 思わず声が上擦る。
「ボ、ボクの考察に間違いがあったかな?」
「そんなに心配するな。俺は怒ってはいない」
 冷静な声でそう淡々と恭也は言った。
 恭也の心の広さに伊邪那美は感動を覚えたが、それは一瞬のことだった。
「俺はもう十六だ」
 急に話が見えなくなる。
「江戸時代では十五で元服の儀式を行い、成人となる。だから、十六の俺はもう大人だ」
「……」
「大人だから、あんな些細な暴言で怒ったりはしない」
 伊邪那美は状況を理解した。
「……怒ってるわね?」
「大人だから、老け顔でも仕方がない」
「すごく怒ってるよね?」
「しかし、相互理解を深める為に、腹を割ってとことん話し合う必要はあると思う」
 眼差しが嘘くさく優しくなり、その口は弧を作る。
「絶対怒ってるよね!?」
 作った笑顔に、伊邪那美は涙が溢れる。
「普段見せない笑顔がすごく怖いから!!」
「笑顔を見せる精神的余裕だってある」
 笑顔が深まる。
「大人だからな」

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
  • 美食を捧げし主夫
    会津 灯影aa0273

重体一覧

参加者

  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
    人間|31才|男性|攻撃
  • 仄かに咲く『桂花』
    オリヴィエ・オドランaa0068hero001
    英雄|13才|男性|ジャ
  • 『硝子の羽』を持つ貴方と
    紫 征四郎aa0076
    人間|10才|女性|攻撃
  • 優しき『毒』
    ガルー・A・Aaa0076hero001
    英雄|33才|男性|バト
  • 太公望
    御神 恭也aa0127
    人間|19才|男性|攻撃
  • 非リアの神様
    伊邪那美aa0127hero001
    英雄|8才|女性|ドレ
  • 美食を捧げし主夫
    会津 灯影aa0273
    人間|24才|男性|回避
  • 極上もふもふ
    aa0273hero001
    英雄|24才|?|ソフィ
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