本部

ゆきだるまを捕まえて!

gene

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
7人 / 4~8人
英雄
7人 / 0~8人
報酬
少なめ
相談期間
5日
完成日
2015/11/05 19:22

掲示板

オープニング

●H.O.P.E.仮眠室
「おい! 起きろ!!」
 体を揺さぶられ、九条は「なんだよ?」と仮眠室のベッドのなかで文句を言った。
「ゆきだるまが逃げた!」
「大きな声出すなよ……頭に響く」
 もぞもぞと起き上がり、九条はフィリップから言われた言葉を頭のなかで反芻する。
「ゆきだるまが逃げたって……」
 頭のなかだけでは足りず、口に出してみた途端、九条の頭は急速に目覚めた。
「逃げたってどういうことだ!?」
 仮眠室のカーテンを開き、そこから見えるはずの屋外実験場を見下ろす。
 外は一面の銀世界。まるで豪雪地帯のように、かるく一メートルは積もっているようだった。
「俺が遅めの昼食を買いにコンビニに行って、研究室でテレビを見ながら朝食を食べて、お腹がいっぱいになったからちょっと仮眠をとった二時間程度の間に屋外実験場はこのとおり、一面の銀世界になり、さらにゆきだるま達は姿を消していた」
「あれほど目を離すなと言ったのに、お前ってやつは……」
 二時間程度の間にこんなことになったということは、ここ二、三日ろくに寝ていない九条が午後二時頃に仮眠をとりはじめた直後にフィリップは実験中のAGW試作品から目を離したということになる。
 目の前の男のことを殴り飛ばしたいのをなんとかこらえ、九条はハンガーにかけてあった白衣をとり、すばやく着た。

 屋外実験場が一面の銀世界になっている原因は、九条が製作した溶けにくい雪をつくることができる移動式ゆきだるま型スノーマシンの実証実験である。
 そのスノーマシンを三体設置していたのだが、いまや一体も実験場には残っていない。
 本来は、一時間で五センチ程度の積雪になる予定だったものが、想定を遥かに超える結果を生んでしまっている。
「周辺住民からの電話によると、ゆきだるま達は東側と北側に進んでいるようだ」
 屋外実験場へ向かって走りながら、フィリップはそう報告した。それに対して、九条は「だろうな」と相づちを打つ。
「水が確保できる場所を進むように作ったからな。おそらく、川沿いに進んでいるんだろう」
 川が通っているのが東側と北側のエリアになる。
「それで、その住民からの電話っていうのは、苦情か?」
 面倒なことになった…… と、九条は思った。
「いまのところ、苦情と喜びの声が半々って感じだ」
「喜びの声?」
 どういうことか理解ができず、聞き返す。
「雪が積もって子供達はいたく喜んでいるらしい」
 時刻は午後四時過ぎ、保育園児や小学生の帰宅時間に重なったようだ。
「……なるほど」
 九条はため息をつく。子供達が雪を喜んでいる。つまり、雪で遊んでいる。つまり、現在進行形で街中にゆきだるま増加中。
「移動式になんてするんじゃなかった」
「でも、移動したほうが可愛かっただろ? 俺の言ったとおり」
「だ・か・ら!! フィルのそんな無意味な提案を聞き入れるんじゃなかったと言ってるんだ!!!」
 フィリップにいらだちながらも、なんとか自分を落ち着かせるために九条は言った。
「まぁ、でも、電池が切れてくれれば、その後は被害は広がらない」
 それを聞いて、フィリップは「あ〜」と気まずそうな声を出した。
「この実証実験が成功だったら、一部のエリアを貸し切って充電の実証実験をするって言ってただろう?」
「ああ。だから、なんだ?」
「いやー……だから、その……」
「お前、まさか……」
 九条はフィリップにギロリと厳しい視線を送った。
「電力会社からはもうOKもらってたからさ」
「設置したのか!? 特設屋外コンセントを!!?」
「へへ」と笑ったフィリップの横面に、九条はグーでパンチした。
 ほぼ無意識の攻撃だったそれは見事にヒットしたが、同時に、運動不足の九条の体にもダメージを与えた。
 拳の痛みに涙が出そうだったが、九条はフィルを睨みつけながらも指示を出した。
「俺は実験場でゆきだるまが逃げた経路を探すから、フィルは能力者を集めてくれ! あと一時間もすれば帰宅ラッシュの時間になってしまう。交通事故や電車が止まるような被害は避けたいからな。早急に街に積もった雪を溶かし、同時にゆきだるまを見つけてもらわなきゃいけない」
「溶かすって言っても、溶けないように作ったんだろ?」
 もう一度、この男を殴ってやろうかと思ったが、拳の痛みが治まっていないので、それはやめた。
 装置をつくっている間、何度も説明したはずなのに、フィリップの頭のなかには細かい情報が全く残っていないらしい。
「溶けないように作ったと説明したことはない。簡単には溶けないように作ったけど、溶けないわけじゃない。木が燃える程度の温度でなら溶ける」
「リョーカイ! リョーカイ! じゃ、俺は館内放送でビル内にいる能力者に呼びかけてみるわ!」
 フィリップが放送室へ向かう背を見送り、九条は実験場へ急いだ。

ピンポンパンポーン!
『緊急事態! 緊急事態!! 能力者は至急、屋外実験場へ集合せよ! AGW試作品のスノーマシンが逃走中!! 積雪量も多いため、街に実害が出る前に回収してもらいたい! 詳しいことは屋外実験場にて説明する!! いいかい? 至急だからね! 超緊急だからね! よろしく頼んだよ!!』

※屋外実験場で受けた詳細な説明は解説のとおり

解説

●目標
① 街のなかの雪を溶かしてください。自転車や車が通る場所、線路の上、歩道などへの対処が優先です。
② 移動式ゆきだるま型スノーマシン(三体)を見つけて、回収してください。

●登場
・移動式ゆきだるま型スノーマシン 三体
・移動しながら口から雪を排出しています。雪を排出する勢いが激しいので、排出時に正面に立たないように注意してください。
・移動の速度は時速三キロ程度。
・スイッチはゆきだるまの鼻の部分になります。
・水のあるところを拠点に移動します。
・充電時は、排出口である口の部分を閉じています。この時は一見してスノーマシンとはわかりにくいので、素通りしないように注意してください。
・特設屋外コンセントは電柱の下部に設置され、盗電防止の蓋があります。スノーマシンの背後下部につけられたバーコードからIDを認証し、蓋が開き、バーコード下にあるプラグをさします。
・充電後は三時間程度動きます。障害物等でスムーズに動けない場合、電力を激しく消耗します。
・排出された雪は、木が燃える程度の温度で溶けます。

●場所
・時間は午後四時過ぎ。
・屋外実験場より東側は商店街や学校、保育園、図書館などが多く、北側は住宅街です。

●状況
・実験場に残された移動跡を確認した結果、スノーマシンは屋外実験場をとりまくネットが裂けた場所から外へと出たことが推測できます。
・屋外実験場外部の監視カメラを確認した結果、スノーマシンが外に出てから四十分程度経過していることがわかりました。
・苦情等が寄せられている範囲から推測して、東側を二体のスノーマシン、北側を一体のスノーマシンが移動しているようです。
・リプレイは、皆さんが街に出たところからスタートします。

リプレイ


「こりゃまたえれぇ積もってやがるな」
 街へと出てきたガルー・A・A(aa0076hero001)は、積雪の状態を見て笑った。移動式ゆきだるま型スノーマシンは、どれだけの勢いでこの雪を作っているのだろう。
 ガルーの隣では、冬用のコートを着込み、マフラーをしっかりと巻いた紫 征四郎(aa0076)がその大きな瞳をキラキラと輝かせながら雪を見つめている。
「はやく片付けてあそ……じゃない。怪我する人が出る前になんとかするですよ!」
 言葉は言い直したものの、その瞳から本音がだだ漏れであることを本人は気づいていないらしい。
「へいへい。この量だからそれなりに遊べそうだなァ?」
 ガルーの言葉を、征四郎は慌てて「ちがうのですよ!」と否定する。
「征四郎は、オシゴトに来たのです!」
 その彼らの横で、白虎丸(aa0123hero001)と虎噛 千颯(aa0123)も雪を見つめていた。
「千颯……この白いのはなんだ?」
「え? 白虎ちゃん、雪知らないの?」
「見たことがないな……」
「マジか……うける」と、千颯は笑い、足下の雪をすくって雪玉を作ると、白虎丸の手の上にそれをおいた。
「なんだこれは!?」
 驚いて雪玉を地面に落とした白虎丸に、千颯は笑う。
「雪だよ。これが、雪!」
「これが……雪、でござるか」
 徐々に驚きが感動へと変化してきた白虎丸は、落とした雪玉を拾いあげて、しげしげと眺めた。
「雪だ〜! 何を作って遊ぼうかな〜」
 雪の中、飛び回っている伊邪那美(aa0127hero001)を、「仕事が先だぞ」と御神 恭也(aa0127)はいさめる。
「それにしても、溶け難い雪なぞ、子供以外、誰が喜ぶんだ?」
 子供以外では、きっと犬くらいしか喜ばない状況ではあるが、子供には大ウケである。
「雪だ! 雪であるぞーーーー!!」
 征四郎、伊邪那美に続き、泉興京 桜子(aa0936)もこの状況を喜んでいるひとりである。
「ベルベット! 雪であるーーー!!」
 無邪気に放たれる雪玉を避けながら、ベルベット・ボア・ジィ(aa0936hero001)は長靴を持って桜子を追いかける。
「あんた! そんな草履で足が水浸しになるでしょ!! 長靴はきなさい!! んでもって、滑んないように雪用スパイクもちゃんと着けなさいよ!!」
「ベルベットは心配しすぎなのであるー! はやく行くのである! はやくゆきだるまとあそ……」
 そこまで言って、桜子はベルベットの厳しい眼差しに気づく。
「は……はやく、ゆきだるまを捕まえるのである!!」
 慌てて言い直して、なんとかその場をおさめた。
「北の大地出身的には、雪作るって発想がわかんねーんだけど」
 目の前の雪を見ながらうんざりした表情を見せたのは、会津 灯影(aa0273)だ。
 その隣では、楓(aa0273hero001)が楽しげに雪を眺めている。
「秋の雪か。趣あって良いではないか」
「しかし……」と、楓は自分の尻尾をふわりと動かした。
「いくら我の尾が至上の触り心地だとしても、顔からもふるのはどうなのだ」
 もふもふの尻尾に顔をすりつけながら、灯影は言う。
「ちょっとこれ、貸してくんねーかな? 首巻きとして」
 依頼主である九条の研究室に立ち寄っていた木霊・C・リュカ(aa0068)がオリヴィエ・オドラン(aa0068hero001)と一緒に集合した。
「小学校に電話したところ、協力を得ることができそうだから、俺はこれから小学校に行ってくるよ」
 リュカの報告に、灯影が確認する。
「家庭科室も使わせてもらえそうですか?」
「火の扱いに注意してくれれば、OKだそうだ」
「それから」と、目の不自由なリュカは気配をたどってオリヴィエのほうへ顔を向ける。
「征四郎と千颯が要望していた通信機として、九条が個人のスマートフォンを貸してくれたよ。H.O.P.E.のだと、申請書類とかいろいろ面倒だから、自分のを使ってくれって」
 オリヴィエが持っていた袋のなかには七台のスマートフォンが入っていた。
「個人でこんなに持っているのか?」
 恭也が驚きの表情を見せる。
「なんか、機種によってそれぞれメリットとデメリットがあるらしいよ」
「フィリップってヤツもクセがありそうだったけど、九条って人もなかなかめんどくさそうだな」
 千颯の言葉にリュカが頷く。
「一斉にメールが送信できる設定がされてるっていう点は便利だけどね」
 能力者にスマートフォンを配っていたオリヴィエがカグヤ・アトラクア(aa0535)にも渡そうとしたが、カグヤは「大丈夫じゃ」と断った。
「わらわは自分のがあるからのう」
 オリヴィエは手元に残った一台のスマートフォンで、カグヤとアドレス交換をした。
「フィリップがメールでスノーマシンの写真とスノーマシンが移動しているであろうルートの地図を送ってくれたから、確認できるよ」
 リュカの言葉を聞いて、クー・ナンナ(aa0535hero001)がオリヴィエに「ボク達にも転送してくれる?」と頼む。
「わらわは北側に行くが、あと一組こちらに付き合ってもらえると助かるのじゃが」
 さっそく転送してもらった地図を確認しながら、カグヤが言った。
「それなら、ワシらが行くのである〜!」
 カグヤの言葉に、ぴょんぴょんっと飛び跳ねて桜子が応える。
「どうぞよしなに頼むのである!」


 雪で視覚障害者誘導用ブロックがわかりにくくなってしまった道があるため、オリヴィエに小学校まで案内してもらったリュカは、さっそく学校の先生にお願いしてプールへと水を溜める。
「うまく、ここにゆきだるまが水を求めて来てくれればいいけど……」
 そう呟いたリュカの隣で、「大丈夫よ!」と少女の声がした。
「おびき寄せることができなくても、みんながちゃんと誘導してくれるよ!」
 リュカは声がしたほうへ顔を向けて、すこし首を傾げてみせる。
「伊邪那美ちゃんも学校に来てたのかい?」
 その姿は見えなくとも、声で彼女が伊邪那美であることは認識できる。
「恭也が不機嫌そうだったから、私は別行動」
「次はどうしますか?」という教師の問いかけに、リュカはそちらへ顔を向けて答える。
「スノーマシンを回収したら、グラウンドに雪原を作りたいんですが、いいですか?」
「ええ。構いませんよ。子供達も喜びます」と、初老の教師は微笑む。
「では、私はグラウンドにボールなど落ちていないことを確認してきますね」
 そう言って歩きだそうとした教師の動きを、「待ってください」と、リュカが止める。
「グラウンドにボールや危険なものが落ちていないかの確認は、俺達でしますよ」
「いや、しかし……」と、リュカの目を心配した教師に、リュカは「大丈夫です」と答えて、伊邪那美のほうへと視線を向ける。
「俺の目の代わりになってくれる子がいますから」
 リュカに頼りにされたことが嬉しくて、伊邪那美はリュカの手を取って微笑んだ。
「先生には、子供達と保護者の方への連絡をお願いできますか?」
 教師は「わかりました」と頷いて、職員室へ戻っていった。
「それじゃ、伊邪那美ちゃん、よろしくね」
「任せておいて!」と、伊邪那美はリュカの手を引いて歩きだした。

 その頃、リュカから離れたオリヴィエは、川沿いにある商店街へ続く道で征四郎達と合流していた。
「……千颯達は別ルートか?」
「恭也達と一緒にもう一本の川が通る大通りのほうへ行ったですよ」
 オリヴィエの質問に答えながら、征四郎はきょろきょろとゆきだるまやその痕跡を探しながら歩く。
 その後ろをガルーが除雪していた。
「積雪は幅が五十センチ、高さ三、四センチって感じだな。普通の雪なら日の光だけで溶けそうだが、さすが、溶け難く作ったって言うだけあって、全然溶けてねーんだよ」
 まっすぐに一直線に進んでいる雪をスコップで道の脇にどかしながら、ガルーはオリヴィエにそう話したが、オリヴィエはその話に相づちを打つこともせず、道に残ったすこしの雪に塩をまいた。
 そして、しばしその場にしゃがみ込み、雪の状態を観察する。
「……オリヴィエ?」
 微動だにせず、雪を観察しつづけるオリヴィエにガルーが声をかけると、オリヴィエがすくっと立ち上がり、ささやかな実験の結果を伝えた。
「日光などによる温度上昇に伴って溶けることはないが、塩をまくことによって通常の雪と同様の化学反応を起こすことが確認できた」
「え!? 塩で溶けるってこと!!?」
 オリヴィエは頷く。
「じゃ、俺ちょっと戻って、さっき雪かきした踏切のところに塩まいてくるわ!」
 そう言うと、ガルーはもと来た道を走って引き返していく。
 その背を見送り、オリヴィエはスマートフォンを取り出し、「塩、融雪効果あり」と打って送信した。

 そのオリヴィエからのメールを見て、ゆきだるまが渡ったと思われる横断歩道の雪かきをしていた恭也は近くにあったホームセンターへと入る。
 塩化カルシウムの大袋を肩に担いで戻ってきたの恭也を見て、灯影は驚いた。
「それ、重くないですか?」
「重くはないが、どれくらいまいたらいいのかがわからん」
「テキトーでいいと思いますよ」
「適当と言われても……」
「この辺にしては大変な量の雪ですが、豪雪地帯並みに積もってるわけでもないので、とりあえず、こんくらいでしょう」
 ビニール手袋をした灯影は、小さなシャベルで塩化カルシウムをすくうと、それを雪の上にまいた。
「……慣れてるな」
「実家もこれまいてたんで」
「頼りになるな」
 どう見ても自分より恭也のほうが頼りがいがありそうだが、そんな恭也に頼りになるなどと言われて、灯影は照れくさく感じた。

 千颯と白虎丸は大通りの歩道に積もっている雪の跡を追って、ゆきだるまを探していた。
 途中、いくつか発見したゆきだるまの鼻を押してみたが、それらしい反応を得ることはできなかった。
 しかし、今、彼らの目の前にいるゆきだるまは明らかに普通のゆきだるまではなかった。
「雪は出してねーけど……あれだよな? たぶん」
「あれでござろうな……きっと」
 ウィーンウィーンと、電柱の前で虚しく前後運動を繰り返すゆきだるまの鼻をぽちっと押すと、ゆきだるまは動きを停止した。
「御神ちゃんが電力会社に電話して、IDの認証をしないようにしてもらってたから、特設屋外コンセントの蓋が開かずに困っていた……ってところかな」
「でござるな。きっと」
「んじゃ、とりあえず、学校に持っていくか」
 千颯は「一台確保」と、メールを送信した。
「俺はここから雪かきとやらをして、御神殿達と合流するでござるよ」
「じゃ、頼んだわ」
 ゆきだるまを抱えて、千颯は走り出した。
 その場に残った白虎丸は、雪玉を投げて遊んでいる子供達を見つけると、声をかけた。
「一緒に雪かきをするでござる! これも楽しいでござるよ! 雪かきが終わったら、一緒に小学校のグラウンドに行くでござる。そこで沢山遊べるでござるからな」
 表向きは落ち着いて子供達を雪かきに誘導している白虎丸だったが、尻尾が楽しげに横揺れしているのを、子供達は見逃さなかった。

 北側の住宅街では、カグヤと桜子が除雪をしながらゆきだるまを探していた。
 カグヤはクーと共鳴した状態で、ライオットシールドを除雪スコップ代わりにして、雪が積もっている川沿いの道を進んでいた。
 進みながら、カグヤはスマートフォンで市役所や鉄道会社等へと連絡する。
「H.O.P.E.の馬鹿がやらかしたことじゃからの」
 暴言を口にすると、「あんまり言うと、お仕事もらえなくなるよ」と、クーの注意する声が頭のなかに響く。
「では、よろしく頼むのじゃ」
 一通りの連絡を終えて、電話を切ったカグヤはオリヴィエからメールが来ていることに気がついた。
「塩、融雪効果あり……木が燃える程度の温度でなければ溶けないってことは、塩等との化学反応も視野に入れていただろうに……想定外の雪の量を作っていることにより、溶け難い雪を作るための薬剤の効果が薄まり、化学反応の部分においても想定外のことが起こっている……ということかの……?」
 オリヴィエの実験結果が何を表すのか、カグヤは答えを導き出そうと思考する。
 そうしながらも、何気なく桜子のほうを確認すると、桜子は除雪した雪山の前で泣きそうな顔をしていた。
「……どうしたのじゃ?」
「溶けないのである……全然、雪が溶けないのであるーーー!!」
 カグヤは桜子が両手で抱えているポットを見て、状況を飲み込む。
「塩なら溶けると、オリヴィエからメールがあったぞ」
 桜子はスマートフォンを預けてあったベルベットへと視線を向ける。
 ベルベットは慌ててスマートフォンを確認すると、「あー!」と叫んだ。
「ちょっと待ってなさい!! いま、塩を買ってくるわ!!」
 すごい勢いで走っていくベルベットの背を見送ってから、カグヤは桜子を誘導するために笑顔をつくる。
「塩が届くまでの間に、ゆきだるまを探すのじゃ」
「探すのであるーーー!!」

 桜子が改めて勢い込んだ頃、征四郎はおかしなゆきだるまを見たという少年達と一緒にゆきだるまを追っていた。
「そのゆきだるまは動いていたのですね?」
 征四郎の確認の言葉に、少年達は肯定を示す。
「すごい勢いで雪を吐き出してたぞ」
「スノーマシンで、間違いないみたいですね」
「家にランドセルをおいてから、みんなで雪で遊ぶつもりだったんだけど……あいつ、捕まえちゃうの?」
 残念そうな少年に征四郎は「捕まえますけど、遊べるですよ」と話した。
「小学校のグラウンドで雪を沢山作る予定なんです。だから、ゆきだるまを捕まえたいのです」
 ゆきだるまを捕まえる理由が、依頼内容とはずれてきてはいるが、それを訂正する者は今はいない。
「いたよ!」と、少年のひとりが前方を指差した。
 ゆきだるまの前に回ると、征四郎はひとりの少年に紐の片側を持たせて、紐をピンッと張った状態で、しゃがみ込んだ。
 その紐がゆきだるまの下の部分にあたり、前進を妨害する。
 そして、一本の紐によりバランスを崩したゆきだるまは、前方へと倒れた。
 地面に顔から倒れたゆきだるまは鼻を打ち付け、スイッチが切れる。
「協力、感謝です! ガルーを呼んで、小学校まで運んでもらいますですよ!」
 少年達にお礼を言って、征四郎はスマートフォンを取り出した。

「これ、結構楽しいである! ゲームのようであるな!!」
 ゆきだるまを見つけた桜子は、進行方向に雪山をつくり、ゆきだるまを公園へと誘導していた。
「よかったわね」
 高速で道に塩をまいてきたベルベットが、桜子の頭をぽんぽんっと撫でる。
 ゆきだるまを無事に公園へと追い込み、公園の出入り口を塞ぐと、カグヤは桜子に言った。
「後は電池が切れるまで私が見ているから、小学校に行ってもいいわよ。雪遊びするんでしょう?」
 桜子は瞳を輝かせて、「ありがとうである!」とカグヤに抱きついた。
「急いで行くのである!!」
 駆けていく桜子を見送りながら、カグヤは共鳴を解除すると、クーに尋ねた。
「そういえば、クーもまだ雪遊びが楽しい年齢かしら? 遊びに行きたかったら、行ってもいいわよ」
「ボクは雪遊びよりも、温かいこたつで寝ているほうがいいな」
「それは残念」と、カグヤは意地の悪い笑顔を見せる。
「まだすぐには帰れないわよ。これからここに開発者を呼び出してお説教するから」
「それなら、幻想蝶のなかで寒さを凌いでるよ」
 そう言うと、クーは早々に幻想蝶のなかへと入り込んでしまった。


 小学校に運ばれたゆきだるまはプールの水を給水しながら、順調にグラウンドに雪を積もらせていく。
 充電が必要だったゆきだるまには、学校のコンセントを使わせてもらって充電を行ってからスイッチを入れた。
 積もった雪でさっそく作ったかまくらで一杯やりはじめたリュカと千颯、ガルーの三名を尻目に、オリヴィエと白虎丸は他の人達も使えるように、二つ目のかまくらを作っていた。
 その時、せっせと雪を積み上げているオリヴィエの頭にひとつの雪玉が命中した。
「……」
 雪玉が飛んできたほうを見ると、征四郎が挑むような笑顔を見せている。
 雪合戦に誘っているのはわかったが、かまくらを作ることを優先させて、オリヴィエはすぐに作業を再開した。
 しかし、またしても雪玉が後頭部を直撃する。
 無防備な状態で、一度ならずも二度までも攻撃を受けたオリヴィエのスイッチがONになり、オリヴィエは雪玉を征四郎へと投げた。
「ゆいしょ正しい雪合戦でしょーぶです!」
 オリヴィエと征四郎が他の子供達も巻き込んで雪合戦を始めたのを、白虎丸は優しい眼差しで見つめる。
「やはり、子供は、子供らしいのが良いでござる」
 そんな白虎丸の背中にどーーーんっと衝撃があった。何事かと振り返れば、自分の背中に桜子が張り付いていることがわかった。
「白虎殿ーーー!! 手伝いに来たのであるーーー!」
「桜子。そちらも無事にゆきだるまを捕まえたのでござるか?」
「公園に追いやったのである! 電池が切れるまではカグヤ殿が見ててくれるのである!」
「そうか。桜子は頑張ったのでござるな」
「白虎殿はかまくらを作っているのであるな!? 桜子も手伝うのである!」
「それもいいが……」と、白虎丸は征四郎達を指差した。
「オリヴィエと征四郎と一緒に雪合戦はどうでござるか?」
 桜子は白虎丸の背中からぴょんっと飛び降りると、「行ってくるのである!!」と、嬉しそうに駆け出した。
「それじゃ、あたしはかまくら作りを手伝おうかしら?」
 ベルベットの申し出に白虎丸は頷く。
「お願いするでござる」

 自分で用意したコートと、学校から借りた毛布でぐるぐる巻きになり、リュカはお酒を飲む。
「本当にかまくらのなかってあったかいんだねー!」
「俺ちゃん一回かまくらで酒盛りしてみたかったんだよな! ガルーちゃんもリュカちゃんも楽しもー!」
 千颯は場の楽しい空気に既に酔っている。お酒には強いのに、場の空気だけでテンションMAXになる楽しい体質である。
 ガルーはかまくらを作ったスコップを見ながら、「スコップとシャベルって何が違うんだろうな?」とふと湧いた疑問を口にした。
「あー、あれね……確か、東日本では、大きいのがスコップで、小さいのがシャベル」
「さすが、リュカ! よく知ってんなー!」
「東日本ではってことは、西日本では違うのか?」
 ふらふらと体を揺らしながらお酒を飲んでいる千颯の質問に、リュカは答える。
「西日本では逆らしいよ。JIS規格では、足をかける部分があるのがシャベル、ないのがスコップ。ちなみに、シャベルは英語、スコップはオランダ語が語源らしい」
「へー!」と、ガルーが感心したところにいい匂いが流れてきた。
「皆さん、お鍋ですよー!」
 家庭科室にこもって鍋やつまみを作っていた灯影が、料理を運んで来てくれた。
「おー! 灯影! ありがとう!!」
 ガルーが楓から卓上コンロを受け取り、雪で作った台の上に乗せる。
「灯影ちゃんも飲もー!」
 卓上コンロの上に土鍋をおいた途端、千颯にからまれ、灯影は苦笑する。
「いや、俺は酒弱いんで。それに、まだ他のかまくらに鍋とか持っていかないとだし、子供達にはマシュマロ焼いてやりたいんで」
 そう言って忙しそうにかまくらを後にする灯影に代わり、楓はぐいぐいと千颯とリュカの間に割り込んで座る。その手には、こんがりと焼いた油揚げがあった。
「ノリの悪い灯影なんぞほうっといて、飲もう!」
「おー! 飲もう! 飲もう!!」と、千颯がはしゃぐ。
「ガルーちゃん、お鍋よそって〜!」
 飲み会が開かれているかまくらはますますにぎやかになる。

 その隣のかまくらでは、伊邪那美が七輪で餅を焼いていた。
「ねぇ、恭也。今回は不機嫌ぽかったけど、雪は嫌いなの?」
「そうだな」と、恭也が渋い表情を見せる。
「雪が降ると直ぐに交通関係に影響が出て行動が制限されたり、変更しないといけなくなるだろ……全く持って忌々しい」
 鬱憤を吐き出すようにため息をついた恭也に、伊邪那美は呆れた眼差しを向ける。
「前から思ってたけど、恭也って純真さっていうか……若さが足りないよね」
「……放っとけ」
 そこに、恭也の拗ねた空気など読まずに、灯影が鍋を運んで来た。
「お鍋でーす!」
「お鍋、ありがとう〜!! 灯影ちゃんもお餅食べる?」
「七輪!! いいね〜!! マシュマロもあるから、マシュマロも焼こう!」
「いま持ってくるわー!」と、灯影は走って家庭科室へ戻る。

「俺ちゃんの息子が超可愛いの! ほら、これ見て!!」
 そう自慢するのは、千颯である。
「千颯そっくりじゃねぇか、将来有望だな!」
 写真には、千颯と可愛い男の子が写っていた。
「今ね、三歳なんだけど、もう舌っ足らずなしゃべり方で本当に超可愛いの! パパーとか言うのよ! もうマジべりーきゅーとなの!! ってガルーちゃん、聞いてる?」
「聞いてるって! 本当に、いい父親なんだな」
 一瞬、征四郎の父親もこうだったなら……なんてことを考えたが、場の空気を壊さないように、ガルーは明るく笑う。
「楓ちゃんも聞いてるー? よたよた歩きとかもう本当に可愛くてしかたないのよ!」
「うむ。千颯のお子は可愛いのう」
 楓は油揚げを食べながら同意を示す。
「リュカちゃんも聞いてー! うちの子、本当に天使っていうか、エンジェルな!」
「ちーちゃんの子だから、エンジェル度ハンパないだろうねー」
 リュカは多めの頷きを返す。
「リュカ。お前、素面だな?」
 リュカの細い肩にガルーが腕を回し、お酒を勧める。
「飲め。もっと飲めー!」
「飲めー!」と、ガルーの言葉に楓も乗る。
「そうだ! 飲めー!!」と叫んだ千颯の頭上で声がした。
「千颯! お前は飲み過ぎだ!」
 かまくらの外から首だけ差し込んで千颯を見下ろす白虎丸に、千颯は機嫌良くにぱーっと笑う。
 ガルーの手からお酒を奪い、リュカは白虎丸に勧める。
「白虎ちゃんも飲もー!」
「俺はいいから……というか、俺が飲んだら、誰が最終的にこの場をおさめるんだ?」
「それもそっかー!」と、リュカは笑った。

 その頃、北側では、恐怖のお説教タイムが訪れていた……フィリップ、一名に対して。
「九条って男は何なのじゃ!? こんな事態になったのも、あの男の所為なのじゃろ!?」
 大方の説教は終わり、内容は九条に大しての文句になっていた。
 最初、九条に電話したカグヤだったが、馬鹿正直に「説教をしてやるから、公園まで急いで来るのじゃ!」と伝えたところ、電話を切られ、着信拒否された。
 その後、フィリップにゆきだるまを回収しに来るように伝えると、彼はのこのことやってきて、現在に至る。
「あー」と、フィリップは何かをごまかすように笑う。
「ゆきだるまを逃がしちゃったのは、俺に責任があるんだよね」
「でも、わざわざ移動式にしたのは九条じゃろう!?」
「それは、俺の案なんだよねー」
「でも、フィリップは助手ではないか! 助手に責任を押し付けるとは、どういうことじゃ!」
「……俺、助手じゃないよ?」
 フィリップを九条の助手だとばかり思っていたカグヤは、「は?」と聞き返す。
「俺はあいつの共同開発者。ほとんどあいつが作ってくれるし、報告書とかの面倒なのもあいつがしてくれるけど、役職も給料もおんなじ」
 にんまりと微笑んだフィリップの顔面に、カグヤは思いっきり雪玉を投げつけた。
「仕事をしろ!! そして、九条に謝るのじゃ!」

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
  • 『硝子の羽』を持つ貴方と
    紫 征四郎aa0076
  • 太公望
    御神 恭也aa0127

重体一覧

参加者

  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
    人間|31才|男性|攻撃
  • 仄かに咲く『桂花』
    オリヴィエ・オドランaa0068hero001
    英雄|13才|男性|ジャ
  • 『硝子の羽』を持つ貴方と
    紫 征四郎aa0076
    人間|10才|女性|攻撃
  • 優しき『毒』
    ガルー・A・Aaa0076hero001
    英雄|33才|男性|バト
  • 雄っぱいハンター
    虎噛 千颯aa0123
    人間|24才|男性|生命
  • ゆるキャラ白虎ちゃん
    白虎丸aa0123hero001
    英雄|45才|男性|バト
  • 太公望
    御神 恭也aa0127
    人間|19才|男性|攻撃
  • 非リアの神様
    伊邪那美aa0127hero001
    英雄|8才|女性|ドレ
  • 美食を捧げし主夫
    会津 灯影aa0273
    人間|24才|男性|回避
  • 極上もふもふ
    aa0273hero001
    英雄|24才|?|ソフィ
  • 果てなき欲望
    カグヤ・アトラクアaa0535
    機械|24才|女性|生命
  • おうちかえる
    クー・ナンナaa0535hero001
    英雄|12才|男性|バト
  • もふもふは正義
    泉興京 桜子aa0936
    人間|7才|女性|攻撃
  • 美の匠
    ベルベット・ボア・ジィaa0936hero001
    英雄|26才|?|ブレ
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