本部

菓子工場救出戦

真名木風由

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2015/11/06 14:21

掲示板

オープニング

 『あなた』達は、移動のバスに乗り込んだ。
 東京海上支部に研修に来ていたのだが、緊急事態発生として、任務に赴くことになったのだ。
 場所は、埼玉県内にあるお菓子工場。
 大手スーパーなどに洋菓子や和菓子を仕入れているこちらの工場の機械が従魔と化したという通報があったのだ。
 犠牲者も既に出ているらしいが、まだ、中には取り残された従業員がいるとのこと。
 この為、従魔の討伐と従業員救出を速やかに行う必要がある。
 無事に逃げ切ることが出来た工場関係者から既に工場の見取り図を転送して貰っており、状況を含め、それを資料として移動の最中に頭に叩き込まなければならない。
 工場、と言っても、そこまで大きなものではないらしく、1階と2階のエリアに分かれており、1階が洋菓子、2階が和菓子という区分なのだとか。
 従魔は1階、2階、共に作業エリアで暴れているらしく、従業員達も1階2階に取り残されている。
 どちらも資材置き場に立て篭もっているそうだが、取り残された従業員が攻撃されるのは時間の問題だろう。
「見た所、ギリギリのスペースに製造機械を配置し、従業員が作業していた為に犠牲者が発生、逃げ遅れも出たようですね」
 資料を見て、剣崎高音(az0014)が呟く。
 彼女の言う通り、作業場の広さに対して、製造機械の数が多い。
 人が通るだけでも不自由するような場所があるように見える。
 見解として、移動させる手間を省くことで効率性を求めたということのようだが、こうした騒ぎでなくとも、例えば火災とかであっても、逃げ遅れが発生する可能性はあったのではないかと思うレベルだ。
「ほぼ、従魔になっているやもしれません。立て篭もっている場所へ到達するには倒す必要があるようですが、集中し過ぎてはフリーの従魔が従業員の方を狙うでしょうし、かと言って、先に救出するには少々厳しいかもしれませんね」
 緊急事態であった為、人数もこの人数だ。
 考えながら動かなければ、従業員の命が危ない。
「……相手は従魔だけのようですが、注意しないと」
 自身へ言い聞かせるように呟く高音は、緊急事態もあってだいぶ緊張しているようだ。
 気遣うように夜神十架(az0014hero001)が、彼女へ手を重ねているのが見える。

 『あなた』も、任務に集中するかのように目を閉じる。
 間もなく、工場へ到着する……!

解説

●目的
・敵の全撃破
・これ以上の犠牲者を出さないこと

●場所
・埼玉県内にある菓子工場

2階建てで、1階洋菓子、2階和菓子をそれぞれ1フロアで製造している。
1階にも2階にも工場への入り口が存在、どちらからでも突入可能。
広さの割に製造機械が多く並んでおり、2人の人間が横に並んで歩けない場所も存在している。
どちらの階にも従魔(後述)がおり、犠牲者が出ている。取り残されたが、まだ生存している従業員はフロア奥にある資材置き場に立て篭もっているが、彼らを狙われるのは時間の問題。

●敵情報
・ミーレス級従魔『フラガリア』x6
1階洋菓子フロアに展開する従魔
ホースやコードを鞭のように振るって攻撃してくる。
生クリームやチョコレートの入ったボウルを投げつけて行動妨害を狙うことも。
※ボウルやその中身にライヴスが宿っている訳ではなく、当たった衝撃でよろめく可能性はあるが、共鳴していれば、ダメージはない。

・ミーレス級従魔『プエラリア』x6
2階和菓子フロアに展開する従魔。
ホースやコードを鞭のように振るって攻撃してくる。
黄な粉を散布し、視界妨害を図ったり、完成した和菓子を投擲してくるが、ライヴスを伴っている訳ではなく、共鳴していればダメージは発生しない。

●NPC情報
剣崎高音、夜神十架
指示があればそれを優先、ない場合は手が足りない所で皆様の邪魔にならないよう戦闘します。
基本、隙を作る援護担当。

●注意・補足事項
・到着時点で工場内部構造は判明しているものとし、突入時には全員共鳴しているものとします。
・従業員はいずれも従魔がいるフロアを通過しなければ到達出来ない資材置き場にいます。
・どちらも従業員の1名が作業リーダーで携帯電話を有していますが、従魔に狙われるのが時間の問題である為、詳細な情報収集をしている時間が命取りになる場合もあります。
・工場到着時点で従魔が従業員へ到達するのは、1階が2分、2階が3分となります。

リプレイ

●到着前にすべきことを
 エージェント達は配布されている資料の見取り図を見ていた。
 1階からは来客用出入り口、2階からは従業員用出入り口が存在している為、突入は分かれて対応が可能のようだ。
「え、資材置き場や製造エリアに窓ないの?」
 穂村 御園(aa1362)が、驚きの声を上げる。
 消防法の観点より一定間隔に窓が存在するのではと思ったが、所謂無窓階であり、消防設備自体は整えられているが、内部からの避難、消防隊員の突入が難しい造りであった。
 これは、食品を扱う工場という性質もあっただろう。
 品質管理、取り分け異物混入を恐れる為、外から見て窓はほぼない。必要最小限しかないそうだ。
 資材置き場には太陽光による資材の劣化の観点もあるが、それ以上に外部からの虫の侵入を防ぎ、明かりで誘引されるのを防ぐ為、侵入されてもリスクの少ない場所にある最小限の窓には暗幕も張られる徹底振りだ。
「構造的に従業員入り口から迅速に移動すれば2階の製造エリアへは到達可能ですわね」
「従業員を守るよう動いてくれるなら、敵は俺達が引き受けよう」
 ヴァルトラウテ(aa0090hero001)の見解に軽く頷いた赤城 龍哉(aa0090)が、御園を見る。
 隣に座っていたST-00342(aa1362hero001)が、資料を読む目線を御園へ遣った。
「ST-00342は、救出後戦闘合流を提案する」
「そっか。援護射撃は出来るよね」
 位置的に避難の為移動させるより構造を利用して排除まで待機させた方が安全である。
 幸い、御園はスナイパーライフルを有しており、遠距離攻撃が可能で守りながら戦える。
「品質管理の為とは言え、ここまでとはブラックなんでしょうか。ブラックなんでしょうね」
 都呂々 俊介(aa1364)が、そう呟く。
 タイタニア(aa1364hero001)辺りは、「比較対象がなければ定義しようもないじゃろ」と言うかもしれないが、まだ共鳴する時ではない為、彼女は幻想蝶の中にいる。
「時間勝負なら、到達までに時間を掛けない方がいい。俺も誘引に回ろう」
 御神 恭也(aa0127)も2階側へ回ることを表明する。
「窓がない以外は構造としてはシンプルだ。外壁を伝い数少ない窓からの侵入の必要はなさそうだが、それだけに誘引は重要なものとなるだろう」
 と、恭也は自分を疑わしい目で見る伊邪那美(aa0127hero001)に気づいた。
「元々は暗殺家業を担っていたからな。それに護衛をするにしても相手の手の内を熟知してなければ対処し難い」
「考えが若くないよね」
「役立つならそれでいいだろう」
 年寄り方向と那美に言われたが、恭也は軽く肩を竦めた。
「……この工場は……」
「どうしたんだ?」
 宍影(aa1166hero001)の切り出しに骸 麟(aa1166)が眉を顰める。
 緊急事態とは言え、先日の任務の傷が癒えていない麟を宍影が何故か連れて来た。
 麟も人命救助もある為、戦闘要員として前に立てずとも救助要員にはなれると思っているが……。
「麟殿がよく買ってくるメーカーの工場でござるッ!」
「え、そうなのか?」
 麟が資料を改めて見ると、確かに見覚えのある目玉商品の写真が添付されている。
「ここの工場で作っていたのか……! これは、銀礫荘のお茶請けの危機だ!!」
「む、無理はいかんでござる……!」
 宍影が言わない方が良かったかと思った、その時だ。
「1階の誘引を担当するぜ。人命最優先だ」
 布野 橘(aa0064)がエージェント達を見回した。
 反対意見がないことを確認し、魔纏狼(aa0064hero001)を見る。
「文句は言わせねえぜ?」
「俺に指図するな。暴れさせて貰う」
 橘には喪失の過去があり、それ故に遺される者を他人事とは思えない。
 あの日の絶望は、忘れてはいない。
「犠牲者はこれ以上出せぬことに賛成じゃ。わらわも持ち得る最善で挑むつもりじゃが……1階の誘引がちと足らんな。頼めるかえ?」
 カグヤ・アトラクア(aa0535)が見た先には、剣崎高音(az0014)がいる。
 夜神十架(az0014hero001)がドレッドノートである為、橘同様純粋な前衛として機能するだろう。
「足止め食らわないようにお願いしたいな」
「そうですね。対応する者が必要でしょう。参ります」
「がんばる……」
 クー・ナンナ(aa0535hero001)に応じる高音の隣で十架がこくりと頷く。
「機械の型番が書いてあったのは助かったの。わらわの推測によれば……」
 カグヤが全員に自身が知る製造機械の情報について話し始める。
 この辺りは多くの分野の素晴らしい技術を信奉し、手広く万能の技術者を志すカグヤならではだろう。
「救出した後は職員を守りながら迎撃するけど、迅速に対応したいわね」
「誘引を無駄にしない為にも救出担当は構わず突っ切った方がいいだろう」
 蝶埜 月世(aa1384)が自分達が突入するであろう入り口から従業員が立て篭もっている資材置き場までの最短距離を見取り図から目算し呟けば、アイザック メイフィールド(aa1384hero001)も最初は到着を優先することが逆に誘引を成功させ、救出可能となるだろうと口にする。
「壁を壊すのは、どうだろう……」
「状況にもよるが、その傷でわらわ達到達前に従魔が接近した場合、厳しいじゃろうし、誘引前に到達すると、逆に誘引に応じない可能性はありそうじゃし、無理はしない方が良いと思うのじゃが」
 麟が時間短縮の案として出すと、カグヤが包帯も取れない麟の状態も踏まえてそう返す。
 橘の言う通り、人命救助が最優先……安全策を採りたい。
 その時、移動のバスが工場の前に到着した。
 警察の連携もあり、既に立ち入りが封鎖されている中、共鳴したエージェント達が分かれて突入していく。

 今は、最速で従業員の元へ。

●1階突入
 来客用入り口から工場内部へ入った1階担当のエージェント達は、製造エリアへすぐさま突入した。
 通常は幾つもの除菌エリアを通るらしいが、非常口は存在する為、そこを利用した形だ。
「緊急事態だったし、そこまで纏まった訳じゃないが……」
 自分のすべきことは、敵の目を引く為に暴れること。
 その間に救出担当のエージェントが従業員に到達すればいい。
 製造エリアに飛び込んだことで、広さに対して多い製造機械が突っ込んできた橘を敵として認識し、襲い掛かってくる。
「纏めて俺が相手してやる! かかってきやがれ!」
 コンユンクシオを手にした橘が発動させたのは、怒涛乱舞。
 文字通り、纏めて相手した形だが、そこでエージェント達も気づく。
「密集しているから、範囲攻撃の範囲に収めやすいということね」
(『それに移動に関しては制約を受ける。だから、到着が間に合ったのだろう』)
 月世の言葉に、アイザックが添える。
 通報が早く、研修で居合わせた自分達が急行しているとは言え、東京海上支部から埼玉県にあるこの工場まですぐに到着は出来ない。
 資材置き場への到達が時間の問題であったとは言え、その時間が、到着に何とか間に合えたのは逃げ遅れるだけの無理があるスペースであった為だろう。
「こういう強引な配置はよほどの大企業の食品工場でもないとよくある話だけれど……」
(『どんな社会にも物事を取り違える輩は多い』)
「取り方次第の部分もあるけれどね」
 月世はアスピスを構え、従魔、後の識別名『フラガリア』が投擲してくるチョコレートが入ったボウルを防ぎつつ、前へ進む。
 その隣にいるカグヤもライオットシールドで余波を防ぎつつ、速度重視で進んでいる。
「誘引は地味かもしれぬが、橘も高音も十分引きつけてくれておるの」
 複数の敵がおり、橘が主に引きつけ、高音が救出担当のエージェントへ目を向けるフラガリアを攻撃して誘引している。
 狭い箇所はあるが、カグヤは通路を通らなければならないという既成概念を解体し、高音を攻撃しているフラガリアの上に駆け上がって強行突破していく。
(『行儀悪い……』)
「行儀良くしている場合でもないのじゃ」
 ストッパーに回ろうとするクーの反論を聞き流し、何としても到着するのが先とカグヤが言うと、非常事態と判断した月世も倣う形で強行突破。
 ホースやコードが鞭のように2人へ襲い掛かるが、橘が容赦なくストレートブロウ。
 背後をフォローするように高音が立つと、フラガリアが生クリームが入ったボウルをぶん投げた。
「う、美味い……!」
「甘いですね……」
 頭上からぶちまけられた形の橘と高音は、ちょっと幸運かもしれないと思ったが、被る程食べたいかと言うとそういう訳でもない。
(『人命最優先ではなかったのか』)
 蠢くホースに対し、魔纏狼は不機嫌らしく、橘へ言い放つ。
 何とかしろ、という要望に対し、橘も出来たらとっくにやってると応戦しつつも対抗手段を考える。
 が、その前に言っておきたいことはある。
「食いモンは大事にしろって、教わらなかったのか? お仕置きだ!!」
「そうですね。食べ物は投げてはいけません」
 高音も橘に同調したので、魔纏狼は、『だから、人命最優先ではなかったのか』と橘にツッコミつつ、多分十架は高音にはツッコミしていないのだろうと思った。
「麟、突破しろ! ……お前らの相手、間違えんじゃねえぞ!」
(『やっとやる気を出したか。呑気なものだ』)
 魔纏狼のぼやきなど聞こえない麟は「生産ラインは破壊しないでくれよ!」と頼みながら、カグヤと月世と異なり駆け上がれなかった為走って資材置き場を目指す。
「この状況でそれ言うか!?」
「き、機械に罪は無い! 彼らも救ってやってくれ!!」
 橘が無理と叫ぶと、麟も必死に懇願する。
 このメーカーのお菓子はよく買うんだ……!
 どんな環境でも人は素晴らしい物を作ると麟は叫ぶようにして資材置き場に到着していたカグヤ、月世と合流した。
「……遅れましたが、助けに来ました……ここ……ちょっと危ないので……ううう」
「負傷はないようじゃ。逃げ遅れただけあり、いた場所が良かったのじゃろう」
(『外的な負傷がないなら、その分皆に回せるよね』……そうじゃの、それは良いことじゃ)
 麟が走った為の痛みに顔を歪めていると、カグヤが簡潔に状況を説明、クーとも見解を同じにする。
「範囲攻撃が有用なら、あたしも迎撃の為に動くわ。足場が良くないみたいだし、早期決着した方が良さそう」
「麟、従業員を頼むぞえ」
 月世が合流すべく駆けると、既に従業員達へ立て篭もるよう指示を出したカグヤが麟へ奥に行くよう依頼した。
「分かった。言葉だけでも安心になるからな。声援が必要なら言ってくれ。舌の剣は命も絶つ、効き目ありってな」
(『うむ、痛い目に遭った者だけが語れる言葉でござるな』)
 麟へ宍影がそう言うも、内の会話であった為、カグヤの耳には届かない。
「そうならぬようにするのがこちらの役目じゃ」
 カグヤがにぃっと笑う。
 フラガリアを立ち入らせず、護ること、それが大事。
「こちらにも譲れぬものがあるのでな、機械を冒涜する従魔共は殺して解体して並べて揃えて晒してやるのじゃ」
 倒すべきものなら、倒れるのを待っている必要もない。
「とは言え、誘引が優秀であったの」
 資材置き場から離れ過ぎるのも危険、と資材置き場を背にして立つカグヤはローゼンクイーンとブラッドオペレートの連続技を試みるには射程圏内のフラガリアが倒れていることに気づく。
 射程圏内をフォローできるのは、マビノギオンのみ。
「良い誤算と思うべきじゃの」
 カグヤの攻撃は、フラガリアのホースへ。

 一方、誘引担当のエージェントは合流した月世の怒涛乱舞、ヘヴィアタックもあり、効率良くダメージを与えていた。
「強さ自体は大したことないわね。ミーレス級位かしら」
 でも、と月世は顔を顰める。
「チョコと生クリームの匂い、ここまでだとちょっと嫌になりそう」
「さっきからボウル投げてくるからな。美味かったけど、特別甘いの好きじゃねぇし、全部食べたいって訳でもないぜ」
「甘いの好きな人もここまでは望まないんじゃない?」
 橘の言葉に月世は肩を竦めた。
「武器を奪えば後は終わらせるだけだろ」
 絡め取ろうとするコードをわざとコンユンクシオに絡ませ、力任せに引っ張り、断つが、絡め取らせる為に時間が掛かる欠点はある。
 が、カグヤのマビノギオンによる援護が始まった。
「なら、遠慮なく暴れりゃいいってだけか」
「資材置き場に近い従魔から優先して倒しましょ」
「ええ。ミーレス級なら、すぐに!」
 橘の笑みに月世が応じると、高音が頷く。
 怒涛乱舞で効率よくダメージを与えていた上、フラガリアは巨躯である為回避能力が高い訳ではない。
 投げてくるボウルに注意すればよろめく可能性もなく、橘の2回目のストレートブロウで間合いを取れば、月世が最後のヘヴィアタックで続いて沈める。
 カグヤが攻撃の隙を埋めるように援護し、オーガドライブ発動の橘、月世が高音が足止めしていた最後のフラガリアへ打って出れば、無事に制圧完了、安全確認で顔を出した麟へカグヤが笑う。
「機械に罪はないという話にわらわも賛成じゃ。出来る限りのことはするぞえ」
 それを聞いた麟は『そんなにほっとしなくても』と宍影に言われるレベルでほっとした表情を浮かべた。

●2階制圧
 1階突入のエージェントが戦闘に突入したのに少し遅れ、2階も戦闘に入っていた。
(『大剣を振り回すには少々狭いようですわね』)
「なら、間合いは狭くとも拳の方が融通は利くな。間に合ったが、寸前に近いのは間違いない。頼んだ」
 龍哉はヴァルトラウテの言に頷きながら、ポルックスグローブを構えた。
 発言の後半で御園、俊介を見ると、自分達を敵と認識した従魔へ向かっていく。
「引きつけるのはこちらへ任せておけ」
 迷路みたいと漏らす那美と注意事項を確認し合った恭也も向かっていき、龍哉に続いて、怒涛乱舞。
 後の識別名『プエラリア』となる従魔が龍哉と恭也へ攻撃開始したのを見、御園、俊介が製造フロアを駆ける。
「倒すまでいて貰った方がいいかな」
(『ST-00342は現時点での職員の退避を諦めるよう提案する。救援が来るまで職員の保護に徹すべきだ』)
 窓があった場合窓から……という選択肢も御園は考えていたが、打ち所が悪ければ2階の高さでも大怪我をする。
 この状態で冷静に自力で窓から脱出して貰うのは現実的ではないことより、外の救助が見込めないならやはり断念した方がいいだろう。
「広くないし、ここの工場で勤務命令されたら、御園1日で辞める自信あるよ」
(『こちらでも工場とはそれ程酷い環境なのか? ノルマを達成出来なければ懲罰房、休憩時間中に友人と話をしただけでも当局の尋問を受け、衛生環境は劣悪……多くの命が失われていった……』)
「でしょ? 最悪なの」
 記憶ユニットの内容が殆ど飛んでもそのことは覚えていたらしいST-00342の苦しみの声に御園はここもそうなのだとばかりに頷く。
「従魔一杯で、帰るのも大変そう」
(『帰る頃には味方が制圧しているじゃろ。帰れなくなる状況は問題じゃぞ?』)
 御園と共に進む俊介が零す呟きにタイタニアが応じる。
 洋菓子の甘さとは異なる甘さが空間に充満しており、タイタニアは『ここまで来ると結構なものじゃな』と感想を漏らした。
「誘引成功しないと、働く前に人生終了?」
(『何を言っとる』)
 それもいいのかというニュアンスで呟く俊介にタイタニアは呆れ果てるが、龍哉と恭也の怒涛乱舞で効率よくダメージを与えたのが上手く作用したのだろう、御園も俊介も無事に資材置き場へ到着することが出来た。
「後退して、それから資材で少しでも壁を作ってください。ホースやコード以外にも和菓子投げてるみたいなので」
 俊介は能力者でもない従業員達へ指示を出し、少しでも彼らが戦いの余波に晒されないよう注意を払う。
 目立った負傷者はいないようだが、制圧するまでは油断出来ない。
「威嚇射撃より、こっちに近い個体を確実に討っていくべきだよね」
 機を逃さないようスナイパーライフルを構える御園。
「1000クレジット以下のお菓子はお菓子として認めません! お菓子未満を作る機械さんは撃滅です!」
 見つけた機を逃さず、ストライク。
 ホースを狙った部位攻撃は無事に成功、その機を逃さない恭也がヘヴィアタックで仕留めた。
「上手くいった!」
(『御園、従業員達の視線が複雑そうだ。何かあったのだろうか』)
「あ」
 このメーカーのお菓子は基本1000クレジット以下であったことを思い出し、御園は自分の失言に気づいた。
「負傷者もいませんし、合流してきますね」
 従業員へ「ブラックなんですか」と思い切りストレートに聞いてしまい、タイタニアから『そんな場合か』と怒られた俊介もグリムリーパーを携え、攻撃に向かう。
「近づかせないよう頑張るよ!」
(『ST-00342は、それには御園は発言に注意すべきと考える』)
「分かってるよ!」
 御園がST-00342に応じながら、効率よくダメージを与える為、トリオを発動させた。

 龍哉と恭也は怒涛乱舞の後も連係し、プエラリアへ対応していた。
「食べ物を粗末に扱うんじゃねぇよ!」
 龍哉は和菓子を惜しげもなく投げるプエラリアへ吼え、ヘヴィアタックで黙らせる。
(『後背の安全は確保されているようですわね。後は、煉獄へと送って差し上げるまでのことですわ』)
 好き放題やった従魔達を許す理由などない。
 ヴァルトラウテの言葉には、龍哉も大いに頷きたい。
 時間を掛ければ掛ける程工場内が酷いことになる為、従業員の安全も確保した今、可及的速やかに殲滅する必要がある。
(『美味しそうなのに、本当にヒドイ! 勿体無い!』)
「今はそういう場合じゃないだろう」
 那美に応じる恭也は、どの個体を優先すべきか見極めて攻撃を行う。
 戦闘に支障が出ないようなものなら無視するつもりだが、そうではないものについてはこの限りではない為、投げてくる和菓子の種類を見ることを忘れない。
 そこへ、俊介が合流した。
「従業員の方に負傷はないみたいです。怪我はあります?」
「何よりだ。チョコレート食べてどうにかした後は何もない」
 御園と俊介が資材置き場到達する為オーガドライブを発動させたらしい龍哉が俊介に応じていると、俊介は「それも何よりです」と漏らし、グリムリーパーを振り翳す。
 合流したての俊介を狙おうと、プエラリアがホースを振るおうとするが、龍哉がヘヴィアタックを叩き込む。
「おら、喰らっとけ!!」
 その龍哉を狙おうとした個体も恭也がツヴァイハンダー を振り翳してヘヴィアタック、更に御園のスナイパーライフルで追撃した。
 抵抗するかのように黄な粉を振り撒くと、純粋に視界が悪いものとなる。
「風を起こせば、対処出来るか?」
(『でも、もうだいぶ数が減ってるから、効果自体薄くなってるよ?』)
 恭也が自身の案が現実的かどうか確認を取ると、妨害し切れていないことを指摘した。
 戦闘開始当初に行われていれば、それは面倒な妨害だったかもしれない。
 が、怒涛乱舞で効率よくダメージを与えた後、連係した対応を行い、速く倒すことを考えていた為に個別撃破という形で敵を減らしていた為、プエラリアがその攻撃を行う時には有効な個体数が揃っていなかったのだ。
(『隠し切れていないなら、気にする必要はないじゃろ』……気にするより、ゲームオーバーが先ってことで)
 タイタニアに応じつつ、俊介がグリムリーパーを翳せば、御園も援護する。
 龍哉、恭也がそれぞれ最後のヘヴィアタックを残る個体へ叩き込むと、全てのプエラリアは沈黙した。
「事前に聞いた数だとこれで全部の筈だが、見逃しはないか?」
(『問題ありませんわ。下の階はどうなっているのでしょう?』)
 龍哉の確認に応じたヴァルトラウテは1階の状況を気にした。
 戦闘が終了していないなら、そちらに取り残されている従業員達の為にも加勢する必要があるだろう。
 従業員入り口がある為、従業員達が工場から出る分には問題ないだろうが。
「無事みたい」
 御園が皆へ声を掛ける。
 作業リーダーが携帯電話を持っているなら、1階の作業リーダーへ状況確認が行えるのではと御園が依頼したのだ。
 突入前なら彼らへ電話している場合ではないが、エージェントが安全確保を行っているなら、その余力が出るだろうと判断してのことである。
「怪我人はどうだ? いる場合は手が足りるのか?」
「大丈夫だって」
 恭也が尋ねると、御園がそう笑う。
「ゲームオーバーにならなくて、何より……」
 俊介はそこで膝を着く。
 今まで我慢していたが、空間に満ちた和菓子の甘い匂いが凄過ぎて気持ち悪くなっていたらしい。

●救出の後
「気持ち悪くなっているのは俊介だけじゃが」
 タイタニアが俊介を介抱しながら、やれやれと溜め息を吐く。
「餡子も大量だと脅威、かなって……」
「それはあるかもしれないわ」
 バスに戻っている月世が会話に加わった。
「あたしも帰ったら、すぐにシャワー浴びるつもりだもの。クリームやチョコの匂い、ついていそうだし」
「私は、その匂いだけなら平和だと思うのだが」
 アイザックがそう言うと、月世がやれやれと溜め息を吐いた。
「チョコとクリームの絡みにあたしは要らないじゃない」
「貴公は、たまに意味不明なことを言う」
 アイザックは首を傾げるが、多分それは知らなくてもいい。

「もう、御園お菓子は食べない!」
「ST-00342はこれを非現実的な宣言と判断する」
 御園の宣言をST-00342があっさり言い放つ。
「ヒドイ……って、カグヤさん! どこに行ってたんですかっ!」
 御園がカグヤを見つけ、声を弾ませる。
「タオルを借りていたのじゃ。クリームを被っては気持ち悪いじゃろう?」
「助かりました」
 カグヤが視線を移した先には、高音が微笑んでいる。
「クリームは甘いと思いましたが、あそこまではと思いました。適切な量を美味しく食べるのがいいですね」
「話が分かる!」
 御園が高音と十架へ友達宣言を行っている。
「仲良しが増えるのはいいことじゃ」
 カグヤが十架へ餌付け用のクリーム大福を渡している。
 こくこく頷いて十架が食べ始めるのを見たカグヤは「わらわは機械の修理に行ってくるの」と工場内へ戻っていく。
「カグヤは……がんばりやさん、ね……」
「でも、ああなっちゃだめだよ?」
「?」
 クーの言葉を、十架はよく理解していない。

「食えねぇヤツが、食えそうなヤツに……プックク」
「黙れ」
 橘が指差して笑うのを魔纏狼は遮ろうとする。
 しかし、仮面に生クリームがべっとり状態がおかしいらしく、橘はツボに入っている。
「……黙れ!」
 頑なに仮面を外さない魔纏狼は明らかに苛立っている。
 先程まで救助された従業員達へ詫びていた人物と同一と思えない。
 命があっただけありがたいと思えというこちらの内の声に対し、この後の仕事もあるだろと橘は死んでいれば何も残らないと主張する自分をスルーして、カグヤがどこまで直せるか分からないが機械を壊したことを謝罪したのだ。
「こちらは更衣室やお化粧室もしっかりしているのですね」
「着替えが必要な奴に教えてもいいかもな」
 ヴァルトラウテから借りてきたタオルを受け取る龍哉がそう応じている。
 橘の相手もしていられないと呆れた気持ちの魔纏狼が誰かが来る前に素顔を見られないようトイレに篭って仮面を洗ったのは言うまでもない。

「お菓子って手で作る物だけじゃなかったんだね……」
 那美はそのことが衝撃的だったらしく、工場直売店にあったお菓子の数々を見て回る。
「工場の人が好きなものをどうぞと言っていたから、何か好きな物を選ぶと良い」
「そうなの? それなら、う~ん、やっぱり和菓子かな……でも、洋菓子も捨て難いな」
 那美がうんうん悩んでいると、その隣では麟がうんうん悩んでいる。
「暫く工場は稼動しない……。暫くの間どうすれば……」
「他にも工場はあるでござるが、今回の件で見直しが入るようでござるからなぁ」
 悩みは人それぞれかと恭也が思っていると、那美は感謝で好きなだけ貰えるのをいいことに沢山選んでいる。
「そんなに大量に選んで食べきれるのか?」
「知らないの恭也? 女の子はお砂糖とスパイスと素敵な何かで出来ているんだよ。それに、皆で分ければいいし」
「そうか」
 那美に応じつつ、恭也はちょっとだけ思った。
(神を名乗っているんだから女の子って齢ではないのでは?)
 尚、それを口にしなかったのは、彼の配慮ということにしておこう。
 上機嫌の那美が、またひとつ、チョコレートパイの箱を積み上げた。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 信念を抱く者
    布野 橘aa0064
    人間|20才|男性|攻撃
  • 血に染まりし黒狼
    魔纏狼aa0064hero001
    英雄|22才|男性|ドレ
  • ライヴスリンカー
    赤城 龍哉aa0090
    人間|25才|男性|攻撃
  • リライヴァー
    ヴァルトラウテaa0090hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • 太公望
    御神 恭也aa0127
    人間|19才|男性|攻撃
  • 非リアの神様
    伊邪那美aa0127hero001
    英雄|8才|女性|ドレ
  • 果てなき欲望
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