本部

【いつか】おいでませガリアナ帝国!

一 一

形態
イベント
難易度
易しい
オプション
参加費
500
参加制限
-
参加人数
能力者
11人 / 1~25人
英雄
11人 / 0~25人
報酬
少なめ
相談期間
5日
完成日
2019/03/30 13:06

掲示板

オープニング

※注意
 このシナリオは、リンクブレイブ世界の未来を扱うシナリオです。
 シナリオにおける展開は実際にこの世界の未来に存在する出来事として扱われます。
 参加するPCはシナリオで設定された年代相応の年齢として描写されます。

●マガツヒとの戦闘から5年後
『皆さん、今回は帝都の一般開放にご協力いただきまして、ありがとうございます』
 とある依頼で集まったエージェントたちは、スクリーンに映るガリアナ帝国の女帝・ヨイに視線を集める。
 なお、これはテレビ通話ではなく、あらかじめ録画された映像であるため会話は不可能だ。
『本来なら直接お話しできれば良かったのですが、現在はガリアナ帝国の独立を目標に活動しておりまして、まとまった時間がとれませんでした。画面越しにて説明をする無礼をお許しください』
 深々と頭を下げた後、ヨイは改めて口を開いた。
『すでに聞き及んでいるかもしれませんが、皆さんにお願いしたいのは観光客が流入する帝都の警備です……とはいえ、ヴィランの頻繁な襲撃がしばらく続いた5年前の警備とは、意味合いが少々異なりますが』
 マガツヒとの戦後復興のためエージェントが協力した際には、大勢の犯罪者が集まってきた。
 ただし、今回はそこまで物騒ではなく、いわば警備員や警察の延長のようなものだ。
『ガリアナ帝国の新事業として観光業に着目し、人々を受け入れるため年単位で準備を進めてきました。ただお恥ずかしながら、帝国民だけでは十分な警備体制を確保できなかったのです。人員的にも技術的にも』
 どうやら水晶から目覚めた帝国民の中に、元々警察に相当する仕事に就いていた者が少なかったらしい。
 そこで、やむを得ず足りなかった手をエージェントから借りることにしたのだそうだ。
『本当なら純粋に観光する側としてご招待したかったのですが、警備の欠陥を放置したまま帝都内で問題を起こすわけには参りませんから。何度も皆さんの力をお借りするのは心苦しいですが、よろしくお願いします』
 そこで映像は終わり――と思われたが、再び顔を上げたヨイは笑顔でなおも続けた。
『それと、もし業務の空き時間など余裕があるようでしたらで構いません。皆さんも是非、帝都観光をしていただきたいと思っております。なにぶんガリアナ帝国としては初めての取り組みですので、至らぬ点や不備などを指摘する声が多いとこちらも助かりますので』
 ともすれば仕事の延長にも思える誘いだが、ヨイの表情は『楽しんでもらえたら嬉しい』と語っている。
 エージェントたちにも見てもらいたいのだろう。
 自分たちが誇る故郷の、生まれ変わった姿を。
『後に申請してくだされば、依頼の契約期間中に帝都で利用した施設料金は経費として計上することも可能です。お仕事に関しては信頼しておりますので、帝都のサービスへの忌憚なき意見をいただければ幸いです』
 そう締めくくり、笑顔で手を振るヨイを最後に映像は途切れた。

解説

●登場
・ヨイ
 ガリアナ帝国の女帝
【界逼】後、H.O.P.E.の力を貸りつつ帝都の復旧に尽力
 現在はガリアナ帝国が一主権国家として世界からの承認を得るため、積極的に外交活動に勤しむ

・帝国民
 帝都ドーム在住のガリアナ帝国民
 現代の技術や生活にも徐々に理解が深まり、帝国文化を守りつつ環境に適応しつつある
 多くが洋服や電化製品の利用に抵抗がなくなっているが、中には帝国独自の生活様式を貫く者もいる

●帝都&観光内容
 マガツヒとの戦いで刻まれた破壊痕はすっかり消え、急速に観光地化が進む
 復興作業を理由に最近まで一般の立ち入りを禁止していたため、世界からの関心も高い

・帝都案内
 ツアー客に案内役が1人ついて帝国の歴史や文化を解説しながら帝都内を散策
 神殿前で解散となるが、一部区画や工房、神殿内は立ち入り禁止

・帝国式ファミレス
 現代でも再現可能な、帝国式の家庭料理を提供する飲食店

・お土産コーナー
 ガリアナ帝国の伝統的な衣服や装飾品、神殿を模した置物、恐竜グッズなどを販売(オーパーツは対象外)

・日用オーパーツの使用体験
 一般人でも扱える危険度の低いオーパーツコーナー
 簡易版物質生成台…工房の魔法陣を解析・縮小したろくろ風の台に材料を乗せ食器類を作成
 修復用懐中電灯…割れた煉瓦を用意し、職人の監督下で煉瓦の修復を行う
 高所作業用浮遊靴…足裏の力場で体を支えるため姿勢制御が難しい、安全マット&最大1mの出力制限あり

・キッズすわなりあ
 恐竜の幼体とのふれあい・餌やり体験コーナー(けが防止用の手袋着用)

●状況
 帝都ドームの一般開放に伴い、ヨイがエージェントへ警備役を募集
 観光への意見も求めており警備役の施設利用を推奨している(料金は経費として扱う)
 警備の勉強と案内役をかねて、帝都散策中は1組につき帝国民が1名同行
(PL情報:ヴィランとの戦闘なし、万引き・ひったくり・喧嘩の仲裁などの対処が中心)

リプレイ

●帝国の夜明け
 帝都警備依頼は、一部のエージェントに衝撃を与えた。
「こ、古代文明……!? 魔法じゃね!?」
 就職先が見つからず、現在魔法っぽいことを研究中の大学院生・ルカ マーシュ(aa5713)がその1人。
 自分の専攻分野にめっちゃ近いじゃん! 何で今まで知らなかったんだ!? と。
「でも、警備か……いつぞやの成人式で大変な目にあった記憶が……な、なにもありませんように……!」
 脳裏によぎったとある依頼の苦い思い出を振り払い、ルカは祈りながら参加を決めた。

「ワタシのグルメ旅行は、ついに帝国への潜入を果たしたのです」
「百薬は何になったの?」
 到着早々、レポーター風な百薬(aa0843hero001)の台詞に餅 望月(aa0843)が素早く反応した。
「なるほど。確かにすっかり観光地に様変わりしてるな」
「わふっ!」
 かつての戦場の地を踏んだ赤城 龍哉(aa0090)は、印象が一変した帝都に目を細める。
 龍哉の左肩に乗るオーブ(aa0090hero002)は当時を知らないが、周囲を興味深く観察して一つ鳴いた。
「復興が進んでる! 嬉しい!」
「ここまで持ち直したのか……すごいな」
 以前、ボランティアとして復興を手伝った春月(aa4200)は、すっかり綺麗になった都市にはしゃぎ気味。
 隣で付き添うレイオン(aa4200hero001)も、感慨深そうに建物を見上げた。
「ようやくここまで来た感があるなぁ」
「……ん、ふふ――感無量だねぇ」
 春月たち同様、麻生 遊夜(aa0452)とユフォアリーヤ(aa0452hero001)も思い入れは一入(ひとしお)。
 ここ5年ほどは全く関われていないとはいえ、実際に復興した光景に自然とクスクスと笑みがこぼれた。
「こうしちゃいられない! 早く街を回ろう、レイオン!」
「春月……さすがに仕事は忘れてないよね?」
 歩みを急かされ苦笑を浮かべるレイオンの小言も何のその。
 前で手を引く春月は、意気揚々と駆けだした。
「何だろう……山の中とも、普通の人間の街とも違う、不思議な感じ」
「真白。珍しいのはわかるけど、ちゃんと前を見て歩かないと」
 少しだけ大人っぽくなっているが、根が子供のままな真白・クルール(aa3601)は帝都に興味津々。
 隣で同行するシャルボヌー・クルール(aa3601hero001)は、一見落ち着いて見えて内心気が気でない。
 真白の直感で選ばれた依頼は観光客――つまり人間の起こす問題の対処だ。
 見た目はともかく、中身が全然成長していない我が子につとまるのか……シャルボヌーの母心は複雑だ。
「ほら、あの時の街がこんなに綺麗になったんだよ」
「本当なのね! 今度は何をぶちこわ! するのね?」
「それはもういいから……」
 すっかり垢抜け、別の意味で「休日のお父さん」度が増した小宮 雅春(aa4756)。
 見た目がほぼ変わらない破魔鬼(aa4756hero002)との帝都再訪に、早速期待と不安が入り混じる。
 復興した都市をぶちこわ! されたらたまったもんじゃない。
「もしかして、ジアンも魔法が目当てだったり?」
「俺は……古代文明そのものに……興味があるだけ」
 現在は引きこもりを卒業し、ルカの通う大学の図書館でバイト中のヴィリジアン 橙(aa5713hero001)。
 5年間で出版されたガリアナ帝国関連の書籍を読み込むなど、ルカとは違う熱の入った参加である。
 ちなみに、距離は近いがすでにルカとは別の家に住んでおり、依頼も大学で遭遇した時に知った。
「もちろん警備はしっかりやるけど、観光もしっかりしたいよな!」
「……あ、恐竜の子供……見れるんだ」
 ルカが魔法っぽい街にテンションを上げ、ヴィリジアンはマイペースに観光パンフを読んで続いた。

●帝都ツアー開始
「何はともあれ、堂々とガリアナ帝国に入れるのがうれしいよ」
「お肉食べられるかな」
「もうちょっと控えめな表現しようよ」
 気を取り直して望月が準備中の街を見渡せば、食い気を貫き通す百薬へ再び呆れた視線を寄越す。
「外貨獲得は考えてるらしいから、特産の食用肉があったら輸出とかやってるでしょ。もしあっても実験段階だろうから、あんまり美味しくないんじゃないかな」
「なんだ。だったら、また数年後でもいいかも」
「そのお肉への強いこだわりは何なの?」
「お肉料理が一番地域の特色が出るんだよ」
 彼女たちの関係性は今も大きく変わらないようで、今日もボケとツッコミが飛び交っていた。
「へぇ、基本のツアーとは別に色々回れるんだね」
「若葉はどこに行きたいとか、もう決まったの?」
 案内役から各施設の説明を聞いた皆月 若葉(aa0778)に、ピピ・ストレッロ(aa0778hero002)が尋ねる。
 5年で若葉の変化はないが、ピピは性格が大分落ち着き身長も160cmに伸びて兄弟(または兄妹)のようだ。
「一応ね。でも、本命の警備も大事だから、気を抜かずにいこうか」
 そう笑ってから表情を引き締め、若葉は警備のルート確認や分担範囲の確認をしていく。
「ちゃんと国として機能してるんだな」
『前に来た時は、遺跡みたいな状態だったのにね』
 他方、迫間 央(aa1445)はすでにマイヤ 迫間 サーア(aa1445hero001)と共鳴していた。
 警備や指導が一段落するまで、観光へ意識を向けないようにしているらしい。
『仕事もあるから仕方ないけれど、もう少し落ち着いてみたいわね』
「後でゆっくり回れるように、面倒の種を早めに摘むんだよ」
 いや、むしろ前向きに観光を意識するが故の気合いだったようだ。
「転換期か……踏ん張りどころだな」
「みんな、忙しそう……でも、楽しそう」
「帝国の躍進が速い程に、内部整備も大変だろうからな」
 荒木 拓海(aa1049)とレミア・フォン・W(aa1049hero002)は、観光客が来訪する直前の街を歩いていた。
「犯罪を犯させない事が出来れば警備も不要だが……理想ですよね」
「帝都に限らず、モデルケースとして訪れた観光地も、何かしらの問題はありましたしね」
「準備も含め、お疲れ様です」
 案内役と雑談をしながら、拓海はキョロキョロと辺りを見回すレミアをつれて港へ向かう。
「よし、行くぞミーシャ」
「征人……いいの?」
 珍しく非共鳴で任務に臨む久兼 征人 (aa1690)に、ミーシャ(aa1690hero001)は戸惑いながら尋ねた。
「警備ってのはずっと気ぃ張るもんじゃないの。なんかあった時、すぐ動けるようにしとくのが大事なんだ」
「……わかったわ」
 笑顔の返答でもどこか引っかかりを覚えつつ、ミーシャはひとまず納得する。
(もう一回ここへ来るのに、5年もかかったからな。自由に見て回れた方が楽しめるだろ)
 別行動の理由をこっそり心中でつぶやき、征人も復興した帝都を嬉しそうに見ているミーシャに続いた。

 程なくして、観光船の一陣が到着。
「まず、どういったトラブルが懸念されますか?」
「一般の観光地で生じる問題の他には、帝国民と観光客での衝突が予想されます」
 央が案内役に話を聞くと難しい顔で返答する。
「あくまで外交を行うヨイ様の所感ですが……一部で我々を軽んじる意見があるらしくて」
 聞けば『ガリアナ帝国の文明は現代よりも劣っている』、と暗に言われたことがあるようだ。
 古代から現代まで時代を跳躍した彼らにとって、現代の文明はたった5年で把握するには難解にすぎる。
 唯一、帝国が優位を主張できただろうオーパーツも、知識や技術の大半を失ってしまっていた。
「結果、ガリアナ帝国はまるで『未開の少数部族』に近い扱いだったと……」
「なるほど……いい傾向とは言えませんね」
 ヨイが相対したのは各国の上層部であり、一般層にまで同じ認識とは限らない。
 だが争いの種にはなるだろうと、央は頭の中にとどめ置いた。
「まずは帝都の巡回だな。各種アトラクションは観光の目玉だが、土台を崩されちゃ意味がない」
「勉強させていただきます」
 ツアー客の上陸を確認した龍哉は、警備の指導をかねて案内役に説明しながら動く。
「不審な動きは慣れればひと目でわかるようになる。ツアーで回る観光客が居れば、それを狙おうとする不逞(ふてい)の輩も確実にいるだろうしな」
「ふむふむ……」
「それと立ち入り禁止区域だが、好奇心で入ろうとする客も出るだろうから、場合によっては体を張って止める必要もある。警備をやるなら、体は普段から鍛えておけよ」
「が、がんばります」
 まだ第一陣であるため余裕はあるが、二陣・三陣と人数が増えれば教える暇もないだろう。
 龍哉は今のうちに、口頭で教えられるだけのことを案内役に話しながらツアーに後続する。
 その間の警戒も、豆柴オーブがそれとなく周囲を観察して補っていた。
「お、ここら辺は変わってないな……うむ、問題ないようで何より」
「……ん、こっちは……ちょっと今風、かな?」
 遊夜とユフォアリーヤは前回の修繕箇所を確認しつつ、様変わりした街並みを巡っていた。
「家の玄関でよく見る独特な模様は、何か意味があるのか?」
「……ん、ほとんどの家に、彫られてる」
「一種の魔除けですね。オーパーツのような力はありませんが、災いから守護する祈りが込められています」
 たまに案内役から説明を聞きながら、2人は警備の合間にロマン溢れる未知の歴史や文化を楽しむ。
 そして、ツアーの終着点。
「おっと。ここは立ち入り禁止だ、悪いな」
「わん!」
 単なる興味本位か、神殿に入りそうになっていた観光客を止めたのは龍哉とオーブの一声。
「こちらの行動で騒ぎを大きくしたら意味がない。事態はできるだけ速やかに収めるようにな」
「はい!」
 残念そうに去っていく背中を見送り、龍哉からのアドバイスに案内役が頷いた。

●オーパーツは魔法?
「魔法! これはもう絶対魔法!」
 こちらオーパーツ体験コーナーでは、ルカが物質生成台で食器を作り大はしゃぎ。
 興奮さめやらぬまま、懐中電灯で割れた煉瓦をくっつければさらに熱狂した大声を上げる。
「へぇ……この光で、家の補修を? ……面白いですね」
 他方でヴィリジアンは特に懐中電灯型が気になったのか、監督役の職人から話を熱心に聞いていた。
「どれもこれもすごいけど……やっぱ浮遊靴が一番魔法っぽいよな!」
 そして、ルカは最後にもっとも人気なオーパーツの列に並ぶ。
「こちらの浮遊靴は、実際に神殿修復時にも使われたオーパーツの一部機能に制限をかけた物ですね」
「え? どうしてですか?」
「来場者の安全性が優先ですので。本来は高度制限もなく、足裏の大気を固定して歩く効果なんですよ」
「はいはい! 僕はエージェントなので、ジアンと共鳴すれば怪我しても平気です!」
「ダメです」
 待ち時間は案内役から解説を聞いて時間をつぶし、ついにルカへ順番が回ってきた。
「お、おぉ……!?」
 浮遊靴を履いてマットの上に立ち、足裏に意識を集中すると徐々に見えない手で押されるような感覚が。
 程なくしてマットから足が離れ、ルカの興奮がピークに達する。
「ま、まほ――う゛っ?!」
 直後、片足の制御に失敗。
 バナナの皮で滑ったようにバランスを崩し、見事に背中からぶっ倒れた。
「いてて――でもめっちゃ楽しい!」
 それでも笑顔のルカは、時間いっぱいまで浮遊靴による七転八倒を繰り返していた。
「わあ! これ、面白いよ、ママ!」
 また、警備そっちのけの真白も浮遊靴で遊びはしゃいでいた。
 ルカとの違いは……山育ちで培った運動神経のおかげか、オーパーツを完璧に乗りこなしているくらい。
「あ、危ないわ、気を付けて、真白!」
 他方、シャルボヌーは下がマットとはいえ空中を飛び跳ねる真白を心配してオロオロ。
 まるで山中に隆起する木の根を飛び越えるような動きで、障害のない空中散歩を満喫する姿は微笑ましい。
 が、マットの範囲をはみ出すなど挙動が自由すぎて、見守る側は落下の不安でハラハラが募る。
「すっごく楽しかったよ、ママ! ……あ、お仕事しなきゃ!」
「そ、そうね。違う場所にも行かないと」
 結局は怪我なく体験を終えた真白だが、つい夢中になって本気で仕事を忘れかけていたことに気づく。
 娘の心配でそれどころではなかったシャルボヌーも頷き、さりげなく真白の背を押し移動を促した。
 自分の手が届く分、他の場所の方がマシだと判断したらしい……頑張れ、お母さん。
「観光地で良くあることっつーと……万引きやひったくり、つまりは盗難だな」
「……賑やかな所には、必ずいるものね。本当に、なくならない」
 巡回で異常なしと判断した遊夜は、はふぅ、とため息をつくユフォアリーヤと体験コーナーを離れた。
「賑やかだからこそ標的が多く、紛れやすいしな……警備員の配置はどうなってる?」
「え、っと……事前の指摘通り、観光の邪魔にならないよう一定間隔で回ってもらっています」
「……ん、大通りや脇道、路地裏含めて……警備員ですぐ固めて、封鎖とか捕縛とかできたら、なおよし」
「同時多発的に問題が出た時の対処も考えて、状況終了後は素早く定位置に戻れるようにな」
 警備体制を確認しつつ、人混みに揉まれながら案内役へ警備に関する助言をしていく。
 そうして、遊夜とユフォアリーヤは次に大通り沿いの売店を見回りしていった。

●光に落ちる影
「――ひったくりだ!」
「オーブ!」
「わん!」
 そこへ突然、人混みから大声が聞こえて龍哉は素早く反応。
 オーブと共鳴して騒ぎの方へと走り、黒羽手裏剣を手にした。
「止まれ!」
「っ!? ――おおっ?!」
 観光客をかき分け逃走する男を見つけ、龍哉は犯人の足下へ牽制の手裏剣を放つ。
 男がひるんだ隙に、今度はハングドマンを投擲し両足を縛り上げた。
「見たところヴィランじゃねぇな。ま、話は向こうでゆっくりと、な?」
「ひぃっ!」
 龍哉は転倒して逃げようとした男の眼前を踏み抜き、笑顔でのぞき込んで反抗心をくじく。
 あっという間の逮捕劇に、案内役はポカーンとしていた。

「もめ事かー。お金の受け渡し方とか、だいたい国の文化の違いからくる誤解から発生するよね」
 別の場所で望月が通信機からの声を聞いていると、露店で何か買ってきた百薬が戻ってきた。
「何かあったらとりあえずガリアナまんを口に突っ込んで、落ち着いたら愛と癒しで会話だよ」
「ケンカになるのは良くないからね。匂いでお腹すかせてたら、ちょっとしたおやつあげれば収まるかもね」
「何なら甘栗でもいいよ」
「グルメ旅行者の意見とは思えないね」
 ガサゴソと紙袋から取り出された中華まんっぽいものを百薬から受け取り、望月も歩きながら一口パクリ。
「あ、これ美味しい」
「中身の餡がガリアナアレンジかな?」
 2人の買い食い巡回はモグモグと続く。

「警備しながら観光って、あんまりないから新鮮かも」
「確かに――あ、若葉! あれ何だろう?」
 同じく通信機で他メンバーと連絡をとりつつ、若葉とピピは案内役と大通りを散策していた。
「※&%#~!!」
 すると、何やら聞き取れない怒号が近くで上がり案内役が振り向く。
「っ! ひったくりだそうです!」
「えっ? わ、わかりました!」
 一瞬反応が遅れながら、若葉はピピと共鳴して長年愛用する黒猫の書を開く。
「お願い、タマさん!」
「……ぎゃっ!?」
 魔法猫・タマさんは追跡を開始して程なく、1人の男の背中へネコぱーんち!
 手加減をしてなお強い衝撃に、ひったくり犯はつんのめって転倒した。
「――これは、もしかして」
 逃げようとする犯人をネコぱんちでボコるタマさんに追いついた若葉は目を丸くする。
 盗まれた物が、ヨイの持つ物と同じスカラベ型オーパーツだったからだ。
「ありがとうございます。コレは我々が現代に生きるためには必要な物ですから」
 案内役によると、帝国民は全員水晶と一緒に保存されていたスカラベ型オーパーツで会話しているらしい。
 つまり現代語を習得しない限り、帝国民は貴重なオーパーツを常に携帯する必要があるのだ。
「ヨイ様も『オーパーツのひったくり被害』を強く懸念されていました」
「確かに、観光客を狙うより利益は大きいでしょうね」
 案内役へ神妙に頷いた若葉は、ボコボコにされた犯人と勝ち誇って尻尾を揺らすタマさんを見つめた。

「……そうか、帝国民のオーパーツが狙われるのか」
「すみません。本当なら我々が現代の言語を習得し、オーパーツに頼らない対話ができればいいのですが」
 通信機から流れてきた情報を頭でまとめ、拓海は納得すると同時にヨイの苦労を思う。
 案内役によるとガリアナ帝国の言語はかなり特殊で、現代には伝わらずに消えたものらしい。
 故にどの言語圏にも類似した点が見つからず、帝国民の言語習得において大きな壁となっているそうだ。
「他に、どんなトラブルを想定していますか?」
「それは――」
「拓海……あの人……」
 さらに疑問を重ねようとしたところ、拓海の袖がレミアに軽く引かれた。
 意識を切り替え視線を追えば、人混みに紛れて同じ場所を何度も往復する不審な人物が。
「――っ! あれ!」
「レミア!」
 そして、すれ違った帝国民の懐に手を入れた瞬間をレミアが指さした。
 拓海はその手を取って瞬時に共鳴し、逃げようとしたスリの腕を捕まえた。
「ふぅ……しかし、よく見つけたなレミア?」
『変な動き……見てたら、わかる』
 他の警備に身柄を引き渡した後、拓海の感心した言葉にレミアは事も無げに答えた。
『他にも……あっちとか、こっちとか』
 次いで主体である拓海の目線を誘導し、休憩中に見えて頻繁に視線を動かしている怪しい人物を伝える。
 拓海は意識内でレミアへ礼を述べ、案内役へ声をかけた。
「特に観光地では大事にしないよう、複数名で囲って静かに確保が理想ですよ」
「なるほど……」
 そうして他の警備へ連絡を取り、犯罪目的だった人々は捕縛された。

 一方、征人は迷子だった女性グループを見つけ、自ら道案内を勝って出ていた。
『ありがとうございました~!』
「観光、楽しんでってね~」
「……優しいのね、『女の子』には」
 別れ際に笑顔で手を振っていた征人は直後、背後から聞こえた声に固まる。
 振り返ればにっこり笑顔の少女に迎えられ、自然と口角がひきつった。
「――み、ミーシャさん?」
「……非共鳴にした理由って」
「違うって! これはただの親切で――」
 一瞬で表情が消えたミーシャに焦り、征人はとっさに言い訳じみた台詞を口にして。
「――なら、男の人にも声をかけないとね?」
「……ハイ」
 ミーシャから目が笑っていない微笑みのカウンターを食らう。
 二人の関係は5年前からさほど変わっていないが、少々強かになったミーシャに征人はタジタジだった。
「――喧嘩だぁ!! 誰かいねぇか!?」
「! ミーシャ!」
「ええ!」
 そこへタイミング良く、男性の焦った声が上がる。
 征人は即座に意識を切り替え、ミーシャも一言で察し身を預けて共鳴した。
「よ、よーし! 僕たちも行くぞ、ジアン!」
「……ん」
 たまたま近くにいたルカとヴィリジアンも共鳴し、ややビビりながら現場へ向かう。
 駆け付けてみると、周囲の制止を無視して殴り合う男性たちの姿が。
「やめろ! 落ち着け!」
 案内役にも手伝いを頼み、征人は興奮する1人を羽交い締めにしてなだめる。
「ちょ! 何があったか知らないけど、暴力はんたーい!!」
 そこへルカも果敢に乱入し、すでに殴り合っていた観光客と帝国民の間に割り込んだ。
「うるせぇ! すっこんでろ!!」
「祖国と仲間を侮辱されて、黙ってられるか!!」
「ひぃっ!!」
 が、運悪く相手はどちらも2m近い巨漢。
 恫喝に近い怒声と凄まじい剣幕に挟まれ、ルカの決意は一気にしぼんでいく。
『ルカ……これも仕事……』
「(ひ、他人事だと思って……っ!!)」
 最初は共鳴時にヴィリジアンと会話できなかったが、さすがに5年も活動すればできるようになる。
 けど独り言みたいでちょっと恥ずかしい、と返事はまだまだ小声になってしまうルカ。
「と、とにかくストーップ! 泣くぞ!? いい年したエージェントがビビって泣いちゃうぞ!?」
 結局、ルカは最終手段であり伝家の宝刀、『泣き落とし』で事態の収束をはかろうとした。

「ケンカはダメなのねーっ!!」
 ――ドゴォッ!!
『おごぉっ!?』

 直後、別角度から現れた破魔鬼のチョップが、ルカに詰め寄っていた2人へ突き刺さった!
「ハバキ知ってるのね! ケンカは両成敗なのね!!」
「うわ……破魔鬼さん、ナチュラルに鳩尾をえぐったね」
 腕を組む破魔鬼がぷんすこ怒る中、観光ムードの和を乱した不届き者たちはお腹を押さえてうずくまる。
 非常に重く鈍い音といい、身長差から入った手刀の位置といい、雅春は戦慄を隠せない。
 大丈夫? 警備役でも傷害に問われない?
「――で? 何が喧嘩の原因だ?」
 ともかく、破魔鬼の強烈な一撃がきっかけで大人しくなった渦中の人々へ征人が話を聞く。
「コイツらが、我々帝国民を『原始人』だと侮辱したんだ!」
「レジもまともに使えない奴らなんだから当然だろ! どれだけ待たされたと思ってんだ!?」
 すると案の定、央が聞いた『現代人と帝国民にある溝』が表面化したトラブルと判明した。
「よーくわかったのね! みーんなハバキがお仕置きして、痛み分けすれば解決なのね!」
『ひぃっ!?!?』
「破魔鬼さん待って! もう殴っちゃダメ! ――というか、考えるの面倒くさくなってない!?」
 すると、大きく何度も頷いていた破魔鬼がぶちこわ! 理論を持ち出し肩を回しだす。
 殺(や)る気マンマンな鬼っ子に、暴れた者たち(とルカ)が悲鳴を上げる。
 結局、騒動の関係者たちは他の警備へと引き渡されていった。
 雅春が止めなければ、マジでやっていたかも。
「っと。遅かったか」
「わあ! 拓海お兄ちゃんだ!」
「――真白ちゃん? 久しぶりだなー!」
「お久しぶりです。拓海さんたちも同じ依頼を受けていたんですね」
 距離があって遅れた拓海だったが、同じタイミングで遭遇した真白に話しかけられた。
 真白の嬉しそうな表情に思わず相好を崩した拓海は、続けてシャルボヌーとも挨拶を交わす。
「相変わらずラブラブしてるの?」
「こ、こら。いきなり失礼ですよ真白」
「もちろん、ラブラブしてるぞ!」
「あ、お答えくださるんですね……」
 続く真白の不躾な発言に驚いたシャルボヌーだが、平然と返答した拓海にはもっと驚かされた。
 愛妻家にためらいなどない。
「破魔鬼……大きくなった……ね」
「みあみあ~! みあみあも大きくなったのね!」
 その間にレミアは破魔鬼に気づき、近づいて再会を喜び合う。
「えっと……どこが?」
「失礼なのね! ハバキはもう大人なのね!」
「角はね」
 その会話に拓海が首を傾げると、ふんす! と鼻息荒く破魔鬼が抗議する。
 雅春の苦笑で注目すれば、角が心なしか立派になった、ような?
「最近は手加減することを覚えたのね! だから、さっきのお仕置きでもみんな生きてるのね!」
「破魔鬼さん!?」
 破魔鬼の成長は知っていた雅春だが、さすがに看過できない台詞に度肝を抜かれた。
 鬼っ子ジョークと信じたい。
「相変わらずだな……あれ? 雅春、髪切ったのか?」
「え? ……ええ、区切りのついたことがあって」
 冗談と思って笑った拓海だが、ふと雅春の髪型に触れる。
 三十路を前にショートカットとなったのだが、それとなく理由を濁して追求を躱した。
「ここで出会ったのも何かのご縁ですし、よろしければ行動を共にしませんか?」
 そこで、シャルボヌーから同行の申し出があった。
 嬉しそうな真白の様子と、真白を気にかけてくれる人が増えればと考えたのだ。
「さんせー! 皆で回った方が楽しいよ、きっと!」
「真白……またお仕事を忘れてるわね?」
「――あ」
 そんな母の心など子は知らず。
 純粋に喜んだ真白はシャルボヌーの指摘で固まり、周囲の笑いを誘った。

●集合・キッズすわなりあ
 一緒になった拓海・雅春・真白組だが、さらにもう1組と遭遇する。
「春月――っ!」
「はるはるーーっ!」
「レミアちゃん! ハバキちゃん!」
 レミアと破魔鬼が飛び出した先には、ウェルカム態勢万全で腕を広げた春月が。
『ぎゅーっ!』
「ふたりとも、変わらずかわいい……らぶ……」
 三者三様に全力で抱きつき、春月は感動の再会に打ち震えている。
「私もいるよ、春月さん!」
「真白ちゃん! わー久しぶり!」
 そこへもう1人のお子さま・真白も抱きつき、4人できゃっきゃと盛り上がった。
「久しぶりだね。拓海、雅春、シャルボヌー。それとごめんね、春月が興奮してて……」
「それはお互い様だろう」
「レイオンさんも、お変わりないようで何よりです」
「もしかして、レイオンさんたちの目的も恐竜ですか?」
「うん、そうだよ」
 一方、保護者同士でも集まって軽く挨拶を済ませる。
「せっかくだから、春月さんたちも一緒に行こうか」
「もちろん!」
 同じ行き先と知り、雅春が提案すれば春月が即答。
 観光気分の子供組は和気藹々と会話を弾ませ、傍から見れば子を見守る親そのものの保護者組が後に続く。
「はるはる! 恐竜なのね!」
「ちっちゃい恐竜だー。いや、ちっちゃくないかな?」
 キッズすわなりあへ到着すると、破魔鬼と手を繋ぐ春月は早速恐竜を見るため近づいた。
「ずいぶん人に慣れてるんだね」
「この子たちは卵から人工飼育されてますから。自然交配で誕生した恐竜は一度スワナリアから卵を回収し、孵化後にマイクロチップの管理タグを注射しています。恐竜の成育状況を管理するために必要なので」
「それは……絶滅危惧種の保護に近い処置なのかな?」
「ええ。本来この時代にはいない希少生物ですから、密漁の懸念もありますので」
「なるほど。彼らの餌はなにかな?」
「スワナリアが供給する餌を分析して幼体向けに調合した物が主ですが、現代の飼料も試験的に与えてます」
 実は結構な恐竜好きのレイオンも、飼育係へ興味深そうに質問を重ねている。
「何でだろ……恐竜も子供は可愛いんだな……」
「か、かわいいの? こいつら、結構デカくね?」
 餌やり体験では、動物好きな一面のあるヴィリジアンが手から餌を食べる恐竜に無表情で和んでいた。
 同行したルカは自分のイメージより大きい幼体に、かなり及び腰になっている。
「ほら……ルカも」
「よ、よし……!」
 購入した餌がなくなり、ヴィリジアンは中々近づけないルカを促す。
 そしてこっそり、その様子を動画で撮影。
「ほ、ほら~、餌だぞ~……うわっ!?」
 ビビりながら手ずから餌を差し出したルカは、直後手袋ごとぱっくりやられる。
 さすがルカさん、持っていらっしゃる。
「……保存、っと」
 さすがヴィリジアンさん、容赦ない。
「観光としては、ここしかない特色は推し出していきたいよなぁ」
「……ん、稀少価値は……大事」
 同じく、恐竜の幼体に餌やりをする遊夜の言葉に、ユフォアリーヤはこくりと首肯。
「次はぜひ子供達を連れて来たいが、肉食や雑食はさすがに幼体でも厳しいか?」
「……ん、男の子はたぶん、好き……でも、安全の確保が難しい」
 2人が手袋ごしで差し出した餌に集まる恐竜はすべて草食だ。
 聞けば、観光客への被害や帝国へのネガティブイメージを最小限に抑えるため、との配慮らしい。
 だが、やはり一般にイメージする『恐竜』とはやや違うため、どうしてもインパクトには欠ける。
 あったらいいな的な意見と安全性の両立に頭をフル回転させ、遊夜とユフォアリーヤは散策を続けた。
「さすがに、話せる恐竜の子供はいないか。とはいえ、小さくとも確かに恐竜だな」
 人語を話すトロオドンとの出会いから、龍哉も興味深い場所としてキッズすわなりあを訪れていた。
「……ふすふす」
 どうやらオーブも恐竜の幼体に興味津々のようで、しきりに尻尾を揺らして鼻をピクピク動かしている。
「一応言っとくが、怪我はさせるなよ?」
「わんっ!」
 あまりに熱心な様子から、龍哉は職員から許可を得てオーブを恐竜の檻へ入れた。
 中には大型犬と同じ大きさの幼体もいて、子犬のオーブからしたらかなり大きいはずだが全く臆さない。
 幼体にちょっかいをかけたり、追いかけっこをしたりしてじゃれ合う姿は何とも微笑ましい。
「食用か観賞用か――それが問題だよ」
「哲学っぽく言っても、恐竜のお肉は食べちゃダメでしょ」
 すると、平和なふれあいコーナーにあるまじき台詞がどこからか聞こえてきた。
 龍哉がそちらへ振り向くと、真剣な表情で恐竜へ熱い視線を送る百薬とツッコミが冴える望月がいた。
「観光の意見も必要だからな」
「そうね……ふふ、恐竜も幼体ならかわいらしいわね」
 さらに、央が共鳴を解除したマイヤと腕を絡ませ、いちゃいちゃしながら歩いてくる。
『――あ』
 おまけにひったくりの対処後に癒しを求めた若葉たちも登場したところで、ほぼ全員が互いに気づいた。
「わ、皆もここに来てたんだね」
「通信機で事務的な話はしましたが、こうして顔を合わせるのは久しぶりですね」
「……ん、勢ぞろい?」
「赤城さんに皆月さん、餅さんに迫間さん……これはまた、豪勢な同窓会だな」
 最初にピピと若葉が声をかけ、ユフォアリーヤと遊夜が答えたのをきっかけに5組が自然と挨拶を交わす。
 それから互いの警備範囲や時間を確認し、近況報告という名の世間話が始まった。
「少なくとも誰かには会うと思っていたが、ドンピシャだったな。そっちは最近どうなんだ?」
「見ての通りだよ。おかげさまで、マイヤとの結婚生活を楽しませてもらってる」
 龍哉が水を向ければ、央は隣のマイヤと視線を合わせて幸せオーラを形成する。
「……ん、らぶらぶなら、ボクとユーヤも……負けてない」
「あー、まあ、俺たちも相変わらずってところだ。子供たちともども、元気でやってる」
 即座にユフォアリーヤが謎の対抗心を燃やし、遊夜に引っ付いたところで全員から笑みが漏れた。
「ワタシは立派なグルメ旅行者になったよ。この後もファミレスに行く予定なんだ」
「あたしはさっき、百薬が恐竜を食べようとしたのを止めてたよ」
「食の探求に天井はないんだよ」
「最低限の節度は守ろうね」
 次に百薬が冗談か本気かわからないボケをかまし、望月がしっかり拾って漫才風を披露する。
 とはいえ雑談は短く、警備としての仕事に戻ることに。
「じゃあな。半分は仕事だが、お互いにいい観光にしようぜ」
 最後は龍哉の言葉にそれぞれ応じ、別々の場所へ分かれていった。

●ファミレスの攻防
 先ほど百薬の話を聞いて興味を引かれた若葉とピピはファミレスにいた。
「へぇ、ガリアナの家庭料理ですか……」
「どれにする?」
 メニューを興味深げに眺めた後、互いに違う料理を注文する。

「ふ~ん、家庭料理か。ヨイさんも作れんのかな?」
「作れたとしても、征人に振舞われることはないわ」
 違うテーブルでも、喧嘩騒ぎの後始末を終えた征人とミーシャがメニューを開いていた。
 そしてふと漏らした征人の言葉に、ミーシャの目が細められる。
「いやいや、もしかしたらワンチャン――」
「……(絶対零度の視線)……」
「――ないですよね!」
 見回り中に一度とがめられた手前、ミーシャの圧力にすぐ気づけた征人は即座に訂正した。
 もう少し判断が遅れたら、味のわからない昼食を食べていたことだろう。

「ご飯事情も、現地の人にオススメを教えてもらおうか」
「プリンはどんなのかな?」
「お肉へのこだわりはどうした」
 別のテーブルでメニューをチェックをしていた望月は、百薬の第一声に鋭く切り込む。
「だって美味しくないんでしょ?」
「えっと、輸入品ですが牛、豚、鶏、アヒル、ガチョウを使った肉料理がありますよ。プリンは我々に馴染みが薄く、材料がカスタードクリームに近いソースにメレンゲを乗せたデザートならありますけど」
「じゃ、それで」
 直球な百薬の問いに案内役が答えれば、パタンとメニューが閉じられた。
「美味しいね。詐欺にあった気分だよ」
「グルメ旅行者のコメントとは思えないね」
 そして料理が到着し、お肉を一口食べた百薬のコメントに望月は白い目を向けた。

「わ、これ美味しいよ! 若葉も食べてみる?」
「うん、交換しよう」
 魚料理を頼んだピピと自分の肉料理をシェアし、堪能した若葉はレシピに興味を抱いた。
「作ってみたいな……可能なら、作り方を教えてもらえませんか? 家で待つ大切な人にも食べて欲しくて」
「構いませんよ」
 控えめな申し出に頷いた案内役は、料理担当の主婦を呼びレシピの写しを依頼する。
「実はヨーロッパ内陸国にあったレシピの似た料理を参考にしたため、純粋な帝国料理ではないんですが」
「それでも、ありがたいです」
 オーパーツで作る加工食品の再現が不可能だった、という裏話とともに若葉はレシピを受け取った。

「美味しい!」
 こちらは美味しければなんでもいい春月が、純粋に料理の味を楽しむ。
「この味は……」
「風味が独特ですが、異国情緒あって美味しいですね。レシピが気になりますが……自宅で作れるかな?」
 隣のレイオンは一口食べると雅春へ視線を向け、意図を察した雅春も料理に舌鼓を打ち所感を述べる。
 最初は春月のために始めたレシピ研究が、もはや趣味となって久しいレイオン。
 雅春も料理をするため興味を引かれ、その後は2人で原材料の分析に熱中する。
「ハバキは食べ盛りだから物足りないのね。それに、いろんなおかずも食べたいのね!」
「いいよ~。あ、お肉食べる?」
「食べるのね! はるはるにはこみぽちのお魚あげるのね!!」
「あ! このスープもすっごく美味しいよ、レミアさん!」
「このデザートも……美味しいよ……真白」
 一方、お子さま組(?)は平和におかず交換をしながら料理をモリモリ食べていた。
 そして、会計を済ませて店を出た雅春が心中でポツリ。
(あれ? あんまり食べた気がしないぞ?)
「いっぱい食べたのね!」
 答えは膨れた破魔鬼のお腹の中にある。

「腹も膨れたところで、次はどこ行く?」
 食事を済ませた征人は、大通りを歩きながら観光パンフをミーシャに渡す。
「……迷うわね。お土産は気になるわ」
「っし。んじゃ、そこ行くか!」
 雑踏の喧噪に紛れそうなミーシャの声を正確に聞き取り、征人は行き先を定めた。

●万引きは犯罪です
 帝都にいくつかあるお土産コーナーの1店舗。
 マイヤと再び共鳴した央が、万引き対策として店内を巡視していた。
『いいの? ずっとお店の中にいて』
(外は『鷹の目』で見張っているし、通信機もある。近くで騒ぎがあれば、すぐに対応できるだろう)
 マイヤの懸念に意識内で軽く答えると、カバンを持って挙動が怪しい人物が目に留まり息を潜める。
「(……今、鞄の中に入れましたよね?)」
「(若葉君も見たか。確定だな)」
 また、同じ店に来ていた若葉も注意を払っており、先ほど万引きの現行犯を確認。
 しばらく様子を見た後、万引き犯が店を出たところで央はその肩をつかんだ。
「……っ!?」
「――復興して外交を始めたばかりの他所の国で、自分の国の恥を広めるのは褒められないと思いますよ?」
 膨らんだカバンをポンと叩き、現行犯だと暗に伝えて央は耳元でささやく。
 逃げようとした万引き犯の体が力めば、肩へ置いた手の力を強めて牽制。
「では、こちらへ」
 無言のまま動きを封じ、央はバックヤードへと歩き出した。
「ふう、穏便に引き渡せてよかったよ」
「若葉、これどうかな?」
「いいね――あ、これも」
 その後、若葉はぬいぐるみを見ていたピピと合流して一緒に見て回る。
 他にも衣装や装飾を付けたり、変わったお菓子を見つけたりしてお土産選びを楽しんだ。
「喜んでもらえるといいな」
「うん!」
 互いに笑う若葉とピピの手には、中に鈴が入った小振りの可愛いらしいぬいぐるみがあった。
 若葉の大切な人へは、トリケラトプス。
 第一英雄の子である3歳の甥と1歳の姪へは、色違いのステゴサウルス。
 お菓子もいくつか購入し、2人は満足そうな表情で店を出て警備を続けた。

「…………」
 こちらはまた別の店内。
 同じように怪しい人物が商品を手に取り、周囲を確認していた。

 ――じー。

「っ!?」
 その時、棚の端に隠れたまま何かものすごく見てくる女性に気づく。

 ――じぃー。

「……(汗)」
 しばらく待っても、視線で刺されるんじゃないか? と錯覚を覚えるほど、そりゃもう見られ続けた。

 ――じぃ~っ!

「――っ」
 無言の威圧を受け続けた結果、その人物は商品を戻して足早に店を出ていった。
「よしっ! どう、レイオン? うちが勝ったよ!」
「確かに万引きは阻止したみたいだけど……春月、容疑者の段階で見過ぎじゃない?」
「やらないのが一番!」
 拳を握る春月はドヤ顔だが、穏便か不穏かわからないやり方にレイオンは苦笑いだった。
「ねえねえ、拓海お兄ちゃん! これどうやって使うんでしょーか?」
 一方、純粋に店内を見回っていた真白は気になったお土産を手に拓海へ説明を求める。
「どれどれ……え? ヨイさん、木刀なんて置いてるの?」
 差し出されたそれは、修学旅行土産の鉄板である立派な木刀。
 おそらく日本の観光地を参考にしたんだろうが、なぜこんな物を? と拓海は真剣に悩む。
 ちなみにポップを確認すると、『オーパーツで加工した逸品!』と書かれ独自色はアピールしていた。
「装着できるプテラ羽根は絶対ゲットだよ」
「百薬の羽根バリエーションって、そうやって地味に揃えてたのね」
 こちらは恐竜の羽根を模したジョークアイテムを手にした百薬。
 何気ない言葉で明かされた衝撃の事実に、望月は年々個数を増えていた羽根コレクションに納得し――
「何ならいっそ、羽根旅行者でもいいんじゃ――」
「ワタシはあくまでグルメ専門だよ」
 ――ふと口にした思いつきを百薬に食い気味で却下された。
 実態はどうあれ、肩書きへのこだわりは強いらしい。
「あんまりお仕事してる気がしないのだけど、いいのかしら」
 ふと、神殿を模した置物を手に取ったミーシャが独り言をこぼす。
「ミーシャ、楽しんでるか?」
「ええ。それはもちろん」
「それは良かった」
 そこへ、征人がぬいぐるみのティラノサウルスを持って現れた。
 同時に向けられた問いへ反射的に答えると、征人はにかっと笑ってぬいぐるみの口をパクパク動かす。
「サービスへの意見もこれで提出できる――デートコースとしては満点だ、ってな」
「ふ~ん? それは誰を想定した評価なのかしらね?」
「も、もちろんミーシャさんですとも!」
 ミーシャから今日何度目かわからない笑顔を返され、厚い信頼に涙が出そうな征人だった。

●人生の戦いは続く
 日が落ち始め、観光客もまばらになった頃。
「ずっと思ってたけど、ここって踊るのにちょうどいい広さだよね!」
 神殿前まで戻ってきた春月が、言うが早いか1人駆け出し創作ダンスを即興で踊り出した。
「さあ♪ 皆も踊ろうよ♪」
「はるはる楽しそうなのね! ハバキも踊るのね!」
「私も踊るー♪」
 くるくると踊りながら春月が手を差し出せば、破魔鬼と真白もダンサーに加わった。
 破魔鬼は見様見真似のダンスで、真白は感じるままにどこか野性的なダンスでついていく。
(……変わる景色もあれば、変わらない仲間がいる。僕は、どうなんだろう……?)
 徐々に人が集まりだした囲いの外で、雅春は春月たちの様子をしみじみと見ていた。
 すると、無自覚に短くなった髪をなでていた自分に気づく。
「踊るって楽しいのね! こみぽちも一緒に踊るのね!」
「いや、無理です」
 が、気づけばブレイクダンス風に激しく踊る破魔鬼の言葉で我に返った。
 片手で逆立ちし自重を支えながら移動するなんて、素人にはまず不可能です。
「春月も……破魔鬼も……真白も……皆、楽しそう」
(オレも転換期か……)
 言葉が円滑になり、外見も成長し始めたレミアの笑顔を眺める拓海もまた、物思いにふける。
『王』との戦いを終えた後、エージェント業の他に妻達と協力して里親も始めていた。
 波瀾曲折ありながら円満な家庭を築く中、1人の里子を引き取った。
 特にレミアが親密となり、先日相談されたのだ。
『その子の英雄になりたい』
 ……と。
『絆は運命だ。互いに惹かれ合うならいいとは思うが、まだ時間が必要だ。まだ下地が不安だから、な?』
 その時は返答を保留にした拓海だが、今は嘆息したくなる。
(まさか、『下地』って言葉を『レミアの未熟』と捉えてたかもしれないなんて……)
 拓海は『里子側の環境が不安』と言ったつもりだった。
 だが警備時の観察力と行動力、そして常ならぬ積極性からレミアには違う意味で伝わっていたと察した。
(帰ったら、もう一度話し合うか)
 相手の里子の顔を思い浮かべ、拓海は踊り終わった春月たちに拍手を送るレミアの笑顔を見守った。
「来れてよかったね」
「うん!」
 微笑で迎えたレイオンは、いつも通り春月へタオルを渡す。
「皆にお土産も買えたし――そうだ! レイオンにもあげるね!」
「いつの間に……でも、ありがとう」
 代わりに小さな恐竜グッズをプレゼントされ、レイオンの笑みはより深まった。
「ふれあいにグルメにダンスと、何だかんだで楽しい観光旅行になったね」
「これはますます、数年後のガリアナ産お肉に期待だね」
「え? 本気で恐竜食べるの?」
 ――望月と百薬のグルメ旅行は、これからも続く。



 後日、ヨイは部下から帝都観光の報告を聞いていた。
「家庭料理ですか……そういえば肩書き上、厨房に立つ機会は今までありませんでしたね」
 中には征人の失言も含まれており、「今度挑戦してみましょうか」と前向きにつぶやく。
 ワンチャンあるかも?
「……なるほど、大使の名目で子どもの交換留学ですか」
 続けて警備の概要を聞いていたヨイは、拓海から挙げられた提案に頷く。
「他国と帝国……双方へ抱くわだかまりを、純粋で素直な感性でほぐすのは効果的かもしれませんね」
 今の世代にはどれほどの効果があるかはわからないが、長い目で見れば相互理解の一助となるだろう。
 多様な価値観を取り入れれば、帝国民の生活環境や考え方への固執から脱却できるかもしれない。
「そして……やはり我々が現代に受け入れられるには、時間がかかりそうですね」
 次にヨイは央がまとめた資料に目を落とす。
 短い警備期間で起きたトラブルの傾向が示された統計データには、帝国民が関わった割合も小さくない。
「世界から見れば発展途上国でも、我々の認識は文明先進国のまま……そのズレを埋めるのが今後の課題」
 帝国民は決して短気ではない……かつてオーパーツ技術で栄華を極めたというプライドがあるだけだ。
 加えて帝国総人口の大幅な減少が国民の団結力を強め、他者の悪意に対して敏感かつ排他的になっている。
「女帝としては彼らの愛国心はありがたいですが、外国との折衝を考えると頭が痛いですね」
 ヨイがわずかに視線をそらせば、外国人の窃盗や強盗未遂の報告がずらっと並ぶ。
 思わずため息が出るが、続く央たちがまとめた帝国の警備体制や人員配置の助言に気を引き締める。
「とはいえ、女帝の責務は果たさねば。まだ見ぬ未来の国民のためにも」
 そうして、ヨイは各外国語で書かれた書類に目を通し始めた。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 来世でも誓う“愛”
    麻生 遊夜aa0452
  • 苦悩と覚悟に寄り添い前へ
    荒木 拓海aa1049
  • 素戔嗚尊
    迫間 央aa1445

重体一覧

参加者

  • ライヴスリンカー
    赤城 龍哉aa0090
    人間|25才|男性|攻撃
  • エージェント
    オーブaa0090hero002
    英雄|6才|?|ブラ
  • 来世でも誓う“愛”
    麻生 遊夜aa0452
    機械|34才|男性|命中
  • 来世でも誓う“愛”
    ユフォアリーヤaa0452hero001
    英雄|18才|女性|ジャ
  • 共に歩みだす
    皆月 若葉aa0778
    人間|20才|男性|命中
  • 大切がいっぱい
    ピピ・ストレッロaa0778hero002
    英雄|10才|?|バト
  • まだまだ踊りは終わらない
    餅 望月aa0843
    人間|19才|女性|生命
  • さすらいのグルメ旅行者
    百薬aa0843hero001
    英雄|18才|女性|バト
  • 苦悩と覚悟に寄り添い前へ
    荒木 拓海aa1049
    人間|28才|男性|防御
  • 願い叶えて
    レミア・フォン・Waa1049hero002
    英雄|13才|女性|ブラ
  • 素戔嗚尊
    迫間 央aa1445
    人間|25才|男性|回避
  • 奇稲田姫
    マイヤ 迫間 サーアaa1445hero001
    英雄|26才|女性|シャド
  • 難局を覆す者
    久兼 征人aa1690
    人間|25才|男性|回避
  • 癒すための手
    ミーシャaa1690hero001
    英雄|19才|女性|バト
  • お母さんと一緒
    真白・クルールaa3601
    獣人|17才|女性|防御
  • 娘と一緒
    シャルボヌー・クルールaa3601hero001
    英雄|28才|女性|ドレ
  • そうだよ、楽しくやるよ!
    春月aa4200
    人間|19才|女性|生命
  • 変わらない保護者
    レイオンaa4200hero001
    英雄|28才|男性|バト
  • やさしさの光
    小宮 雅春aa4756
    人間|24才|男性|生命
  • 魔を破る鬼
    破魔鬼aa4756hero002
    英雄|6才|女性|ドレ
  • 魔法マニア
    ルカ マーシュaa5713
    人間|19才|男性|防御
  • 自己責任こそ大人の証
    ヴィリジアン 橙aa5713hero001
    英雄|25才|男性|カオ
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