本部

【甘想】連動シナリオ

【甘想】Give me!

影絵 企我

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
無し
相談期間
5日
完成日
2019/02/13 21:57

掲示板

オープニング

●女子力復活作戦
 とあるJD、澪河 青藍(az0063)は自宅のリビングで今まさに寛いでいた。椅子の上にちょこんと体育座りして、ゲームパッドを手にパソコンの画面に向かっていた。彼女のパートナーであるガイノイド、テラス(az0063hero002)はそんな彼女の背中にべたべたと張り付く。
『ねー。せーらーん』
「んあ? ちょ、あっ!」
 画面の中に立つ兵士が明後日の方向へと走っていく。溜め息をつく彼女の髪の毛をくるくると弄りながら、テラスは構わず話を始めた。
『もうすぐバレンタインだよね』
「……そうだね」
 少し不満げに青藍は頷く。すると、テラスはいきなり声を弾けさせた。
『義理チョコ配りたい!』
「やめろ、はっきり義理とか言うの。配れば良いじゃん、別に。作れるでしょ」
 それだけ言うと、青藍は再びゲーム画面に目を戻そうとする。しかし、テラスは目を真っ赤に光らせ、いきなり青藍の頬を万力のような力で摘まんだ。
『にぶちんが!』
「いったたたたたぁ! 何すんのよ!」
『青藍も一緒に作って配るの!』
 ぷんすこしながらテラスは叫ぶ。青藍は口を尖らせた。
「えー。めんどくさ。私は基本的に貰う専門だから」
『もー、そうやって女子力失くしに行くから昨日も中学生男子に間違われたりする――』
「うあーっ! 何で知ってんだそれ!」
 真っ赤になった青藍は慌ててテラスの口を塞ごうとする。しかしそもそもテラスには口が無い。顔を押さえつけられたままテラスは構わず言葉を続けた。
『見てたもん。とにかく! これは戦いばかりに慣れすぎた青藍が女子力を取り戻すためのイニシエーションだから! ね! チョコも一緒に作らなきゃダメ!」
 テラスのカメラアイがいよいよ深紅に輝く。その気迫に気圧され、青藍は縮こまったままこくりと頷いた。

「……うるっさいなぁ。わかったよ」

●シャーマンブルー!
 そんなわけで、青藍とテラスは手作りでトリュフチョコレートを大量に作り、バスケットに突っ込み持ってきたのだった。

「み、澪河さん。何でしょうか……?」
 青藍と一人の少女オペレーターが向き合っている。顔を赤くして、少女はそわそわしていた。青藍もバツが悪そうな顔をすると、バスケットからチョコレートを差し出す。
「こ、これ……去年はお返ししかしなかったので。良かったら受け取ってください」
「ありがとうございましゅ!」
 少女は興奮のあまり呂律が回らなくなり、そのまま回れ右して廊下を駆け抜けていった。それを見送ると、テラスは首を傾げる。
『青藍ってモテるの?』
「女の子には、多少……」
『ふーん……ま、中性的で結構イケメンに見えるもんねー。……じゃない!』
「ふえ?」
 いきなりテラスは青藍から幻想蝶をひったくり、青藍の胸元に押し付ける。その瞬間に二人は共鳴し、青の差し色が入った純白のアーマーを纏った青藍inテラスがその場に降り立つ。テラスはバスケットを両腕にぶら下げ素早く駆けると、ロビーのど真ん中で手をぶんぶん振ってアピールを始めた。
『いぇーい! 流しのアイドル、シャーマンブルーだよ! 今日は皆にチョコレートをプレゼント!』
 そんな事を言うと、男女構わずチョコレートを配り始める。胸に輝く幻想蝶の中から、青藍の声がガタガタと響いた。
「オマエー! お前、これがやりたかっただけだろうがぁあああ! やめろ、てめっ」
『だめー! 青藍はホントはとってもキュートだもん! これで女子力発揮せずにはいられない状況に持ち込んでやるんだから!』



 青藍のバレンタインデーは散々になりそうであった。君達のバレンタインデーはどうだろうか。

解説

目標 バレンタインデーを過ごそう

●シチュエーション
自由。絡みプレイは相談の上で。

●NPC
☆澪河 青藍
 テラスに色々されて傷心状態になっている。ちなみに彼女達に近づくと確実にチョコを貰える。義理の。

●TIPS
・別にチョコレートを登場させる必要も無いが、バレンタインデーにまつわるイベントを過ごすのがオススメ。
・基本的に自由行動だが羽目は外し過ぎないように。りんりの壁は厚いのだ。
・やりたい事を書けば書くほどそれぞれの描写が薄くなる。可能なら一つ、二つに絞ろう。

リプレイ

●森からお出かけ
『アイリスママにチョコ渡そうよ!』
「え?」
 森の中の小さなおうち。ルゥナスフィア(aa0124hero002)が勢いよく叫んだ。イリス・レイバルド(aa0124)は首を傾げる。渋い顔を見つめ、ルゥは首を傾げる。
『イリスママはアイリスママにチョコを渡したくないの?』
「いや別に、そういうわけじゃないんだけどね、ルゥ」
 戦場ではヒーローでも、日常では只の少女。しかも家事手伝いはろくにしてない。
「家事とかって大体お姉ちゃんがどうにかしてくれてたから……ボクらに作る知識も技術も無いんだよ?」
 事故率は火を見るより明らか。しかし、ルゥはそんなこと知らない。
『ん~、きっと何とかなるよね♪』
「そうかなぁ……」

 その後、都会から調達してきた板チョコと森から採取した果物を色々混ぜ合わせて色々していたら、何やらそれなりに美味しいものが出来た。見た目は彩色した石ころのようだが、とりあえず味は悪くなかった。
 ルゥには幸運の女神が付いているようである。

●アイドルバトル?
 昼下がり。プリンセス☆エデン(aa4913)はEzra(aa4913hero001)とH.O.P.E.のロビーを訪れていた。
「みんなー! ハッピーバレンタイーン♪」
 アイドルは皆の希望。バレンタインも皆にチョコをプレゼントし、その存在をアピールだ。……と思っていたのだが。眼にしたのは、ロビーのど真ん中で人だかりを作っている少女の姿。エデンは眼を白黒させた。
「な、何かいる! テーマカラーも同じだし!」
 しかしすぐに気を取り直す。エデンは闘志を燃やした。
「負けてらんないー! エズラ、あたし達も共鳴してキラキラさせるよ!」
 掴みかからんばかりにエデンは相棒に迫った。エズラは首を振る。
『お嬢様、アイドルとして一歩抜きんでるなら、ライバルと同じ事をしていてもダメです』
「じゃあどうするの!?」
 ライバル登場に焦り、食って掛かるエデン。しかし彼は首を傾げてしまう。
『それは……悩ましいところですね?』
「なによー! 何もアイデアないんじゃない!」
 エデンがカンカンになっている間にも、向こうではテラスが華麗なダンスを披露している。ここでまごついてはアイドルの名折れだ。エズラは眼鏡を整え、主を見下ろす。
『お嬢様、せっかく愛に溢れた愛を贈るイベントなのですし、ここは仲良くいきましょう』
「た、確かに。スマイル、スマイル」
 エデンは指で口角を持ち上げ、何とか笑顔を作る。そのまま、スキップしながらテラスの隣に歩み寄った。彼女はエデンを見て首を傾げる。
「ねえ、チョコ配り、ご一緒しても?」
『あなたもアイドルさんなんだ! もちろん!』
 二人は笑い合うと、チョコを配り始める。
「シャーマンって事は、巫女さん?」
『そだよー。みんなの暗い気持ちをお祓いするの!』
「お祓いプレイか~楽しそう!」
「プレイいうな!」
 二人のやり取りを聞いていた青藍が幻想蝶から抗議する。しかし二人は聞きやしない。

 そんな所へやってくるのは、新たな依頼を探しに来た赤城 龍哉(aa0090)。ロビーの騒ぎを遠目に見つめて首を傾げる。
「ありゃあ青藍……じゃねぇな」
『ええ。あのハジケぶりを見るにテラスさんですわね。ほぼ確実に』
 ヴァルトラウテ(aa0090hero001)は溜め息をつく。並んで立ち尽くしていると、テラス達が二人に気付いた。
『イエーイ! 赤城さんもお祓いして欲しい? 本厄でしょー?』
 テラスがご機嫌に手を振る。それを見ていると、龍哉も少し祭りに乗りたくなった。彼は軽く回し受けの構えを取る。
「よし、其処まで言うならいっちょ祓ってもらおうか」
『まかせて! ちゃんと破魔矢持ってきたから』
 テラスは玩具の弓を取り出すと、破魔矢を番えて引き絞った。もうチョコがどうとか言う話ではない。二人を見比べ、ヴァルは溜め息を洩らす。
『悪ふざけが過ぎますわ……』
 放たれる矢。龍哉は軽く弾いた。矢はくるくると宙を舞う。
「この程度じゃねえだろ? 次だ、もういっちょ来い!」
『とうっ!』
 テラスはさらに一発撃ち込む。ふらふら飛んだ矢は、龍哉の早すぎる返しをすり抜け、胸元にぺちりと当たった。
「っと、こいつはやられたな。だが!」
『まだやるんですの?』
『ならこれでどうだ!』
 テラスは破魔矢の先にチョコレートの入った袋をぶら下げ、もう一発放った。龍哉は眼を光らせると、素早く手を振るって矢をキャッチする。
「どうだ。赤城の螺旋は鳴門の渦潮にも負けないぜ!」
『全く何を言っているやら……』
 ヴァルがほとほと呆れていると、テラスがすごすごと弓を仕舞う。矢が無くなったらしい。
『はい。これでお終い。どうだった?』
「中々いい鍛錬になったぜ。で、何でわざわざテラスが主導権取ってチョコばら撒いてんだ」
 龍哉は袋の中のチョコを指差す。テラスは得意げに胸を張って答えた。
『ずばり、青藍の女子力を鍛えるため! ほらどう? 可愛いでしょ?』
 テラスはスカートをひらひらさせる。ヴァルは肩を竦めた。
『まあ、確かに、可愛らしい、とは思いますが』
「それで青藍の女子力が鍛えられる要素は微塵もないだろ」
『これは下準備だからね。って事で、折角だし赤城さん達も食べて。ちゃんとレシピ見ながら作ったから、味はばっちりだよ?』
 テラスは両手を差し出す。ツッコミは入れたが、チョコが青藍手製なのは確か。二人は一つずつ摘まむと、口の中へと放り込んだ。チョコはふんわりと融け、二人は頬を緩めた。
「……お、これは中々うまく出来てるじゃねえか」
『美味しゅうございますわ。お礼申し上げます』
「ええ。それなら何よりです……」
 幻想蝶からぼそぼそと声が漏れてきた。龍哉はにっと歯を見せる。
「ま、気が向いたらでも構わんが、次は青藍が自分で配る方が皆嬉しいと思うぜ」
「ええ……わかってます……」
 颯爽と去る二人の背中に、彼女はぽつりと呟くのだった。

●初春の日和に
 天野 一羽(aa3515)が高校へ通う為に暮らしている下宿。彼はついにルナ(aa3515hero001)と恋人として結ばれ、将来の約束までしてしまった。当然バレンタインデーはラブラブで。
『はい、あーん』
「あ、あーん……」
 一羽の開いた口に、ルナはチョコを一欠片放り込む。もごもご口を動かす彼を、軽く舌なめずりしながらルナは首を傾げた。
『どーお? おいしい?』
「う、うん」
 どうにも艶っぽいその表情に、一羽は顔を赤くする。
『何か、チョコがいっぱい売ってたのよねー。ちょっといいの買ってきちゃった♪』
「あー、2月だから……」
 一羽は箱を手に取る。どう見てもガチのブランド物だ。一箱3000円は下るまい。道理でチョコが蕩けるわけだ。ルナはそっと一羽の手にチョコを渡し、上目遣いをする。
『ね、今度は一羽ちゃんが食べさせてよ』
「ええっ!?」
『ねーねー、あーん』
 エエ年頃のセクシャルなパツキンチャンネーがオクテのジャリガキに甘えている。ヤバい絵面だ。一羽も生唾を呑む。
(こんなとこ誰にも見せられない……)
『あーん♪』
 しかし魅力には勝てぬ。舌の上にそっとチョコを乗せてしまった。口の中でしっかり転がしながら、彼女は微笑む。
『ね、一羽ちゃん。んー♪』
 今度は棒状のチョコを咥え、顔を寄せてきた。もう一羽の心臓はバクバクだ。
「う、いや……誰も見ていないけどさ、これやるの……?」
『んー♪』
「う……」
 どぎまぎしながら渋っていたが、遂に一羽もチョコを咥える。舌の中でチョコを融かしながら二人は唇を寄せ合っていき……
「んんっ……!」
 唇が甘く触れ合う。二人は抱き合い、ますます深くキスを交わして……

 これ以上はマズい? カットだカット! とりあえずカット!

 という訳で、東京駅のホーム。泉 杏樹(aa0045)にクローソー(aa0045hero002)は、桜小路 國光(aa4046)にメテオバイザー(aa4046hero001)を待っていた。青藍に送るチョコを選ぼうという約束をしていたのだ。クロトの目的はそれだけではないが。
(2月14日は、杏樹の誕生日。忘れているなら、さぷらいずだぞ)
 最高のプレゼントを贈ろうと張り切っている間に、ホームから國光とメテオがやってくる。二人の姿を認めると、國光は歩み寄って手を差し伸べた。
「初めまして。桜小路です。こっちはメテオバイザー」
『ああ。杏樹達から話は聞いている。私がクロトだ。これからもよろしく頼むぞ』


 都内の百貨店。フードを目深に被ったイリスは、ルゥを連れて一階を歩いていた。大量に作った石ころチョコを街中で配り処分しようという魂胆である。
『森のお友達とかにはあげないの~?』
「うん、普通の動物にチョコってヤバいんじゃないかなと、ボクでも思うんだよ」
 イリスの慧眼によって森は守られていたのである。しかし、当のイリスはまだまだ人見知り。配りに来たはいいものの、隅で小さくなるばかりだった。そんな少女の手を、ルゥはぐいぐい引っ張る。
『ねー、イリスママ踊って?』
「いやボク、アイドルじゃなくてお手伝い……いや待って、ちょっと待って」
 アイドルではなくお手伝い。まるで自分に言い聞かせるかのようにイリスは言う。
「ホント待って? どうして踊ってほしいと思ったの、ルゥ」
『イリスママいつも踊ってるでしょ?』
「いや、それは森の皆と遊んでるからで……それにお手伝いもお姉ちゃんとコンビだし、ボク一人じゃちょっと……ってもう歌ってる!?」
 言い訳を繰り返している間に、ルゥはヒーローショーの終わったステージの上に飛び出し、イリス達の真似をして踊り出す。
『はぁい! ルゥだよー!』
 飛んだり跳ねたりしながら、ルゥは腕に下げた籠に手を突っ込み、袋に詰めたチョコと“幸運”をばら撒く。
『今日はルゥ達が皆にチョコを渡しに来たんだよー♪』
 精神構造は当に幼子なルゥ。珍しいものを見た好奇心を身体いっぱいに表現して歌っている。まさに天性のアイドルだった。
「あああ……もう、どうにでもなれ……」
 巻き込まれたイリスは堪ったものではないが。フードを被ったまま、腹を括ってイリスは駆け出した。


 その頃、杏樹は二階でチョコを見繕っていた。眼を皿のようにして、真剣に探している。
「青藍さんにあげるチョコ……あ、あれ、美味しそう! あっちも可愛いの」
 のだが、すっかり自分の目当てばかり手に取ってしまう。カラフルなチョコレートの収まった小物入れを手に取り、メテオに差し出す。
「メテオさん、このちょこ、宝石箱みたいで、可愛いの」
『本当なのです。此方も、小鳥さんが並んでいて可愛いのですよ』
「ほんと、なの」
 メテオと一緒に目移りさせながら、杏樹はさんざん悩んだ。その末に、彼女はクマのマスコットが付いた可愛らしいチョコを選ぶ。メテオに見せて、杏樹ははにかむ。
「青藍さんも、女の子なの。可愛いの、好き、です」
『杏樹さんはかわいいのですか……なら、メテオはこれにするのです』
 彼女が手に取ったのは、惑星を模した綺麗なチョコ。戦場では勇ましい青藍だって女の子。それを知っている二人は、自信ありげに微笑み合った。


 さて、二人がチョコを買っている間に、一羽の下宿に眼を戻す。とりあえず変な事は起きていないようだが、相変わらず身を寄せ合っていた。
『はぁっ……ね、一羽ちゃん』
「ん?」
『大好きっ♪』
 自分をオオカミだなんだとのたまうルナであったが、こうなると猫のようだ。その姿が可愛らしくて、一羽はそっと彼女の髪を撫でる。
「う……その、ボクも、大好き……、うん。大好き」
『ありがとー♪ かーわいっ♪』
 ルナは一羽を抱き寄せ、その頭を撫で回す。彼もルナの背中に手を回し、じっと見つめる。
「ね、その……ルナ? ボクからも……」
『んっ……』
 そしてまた熱いキス。何だろう。爆発すればよいのではないだろうか。お熱い二人は二人きりにしておいて、健全な場所へ視点を戻そう。


『クマのチョコに、惑星のチョコか。彼女もきっと喜ぶだろう』
 クロトが包みを見比べて頷くと、杏樹は小さくガッツポーズを作る。青藍と会うのは久しぶりだからか、どこか張り切っている。
「じゃあ、早速、東京支部に行くの」
『待て。クロトも、杏樹に贈りたいものがあるのだ』
 そんな杏樹を呼び止め、クロトは懐から杏の髪飾りを取り出す。クロトはそっと手を伸ばし、杏樹の前髪に差し込んでやった。僅かに頬を赤らめ、杏樹は彼女を見上げる。
「クロト、さん?」
『クロトが杏を好きだから、桐一郎が杏樹と名付けてくれたのだ。離れていても、クロトと杏樹は名前で繋がっていたのだな』
 そっと前髪を撫でると、杏の花がふわりと揺れた。
「はい。……とっても、嬉しい、の」
 二人のやり取りを傍で見守っていた國光は、そっとクロトに耳打ちする。
(良かったですね)
(ああ。助かった)
 杏樹達がチョコに夢中の間、國光はクロトの相談に乗ってプレゼントを見繕っていたのである。彼は眉を開きつつ、そっと杏樹に小箱を手渡す。
「杏樹さん、ハッピーバレンタイン」
「わ、わ、これ……」
 先程手に取った宝石箱のようなチョコだ。杏樹は思わず頬を赤くする。
「う、嬉しいの……國光さん、ありがと、です。ずっと、これからも、一緒なの」
 戦い続きで、友人と出掛ける機会が減って寂しかった杏樹。ひとまず平和になったこの世界でも、ずっとこの絆を大切にしたい。そんな思いで口をついた言葉だったが。
『なるほど……國光とはそういう関係か。杏樹を任せた』
「違います! 友達です!」
 勘違いしたクロトに頭を下げられ、國光は慌てて首を振った。
『そうなのか』
「ええ、まあ……すみません」
 この辺は親子なのかと、國光は思わず納得してしまう。メテオはくすりと笑うと、二人に向かって紙袋を差し出した。
『クローソーさんにも、これ。親子でチョコ作り楽しんで欲しいのです』
 中に入っていたのは、手作りのチョコキット。
「わ、わ。ありがと、なの」
 杏樹は眼を輝かせたが、國光は青くなる。袖を引き、こそりと耳打ちした。
(メテオ……お前、チャレンジャーだな)
(クローソーさんはお母さんですよ! きっと大丈夫なのです!)
『まあ、事故は起こさぬよう善処する』

 1D100、出目は97、ファンブル。おやまあ。

●芽生え
「ねえ、テラスさんが考えるキュートさって、どーゆーもの?」
 休憩室。スムージーを飲みながら、エデンはテラスに尋ねた。テラスはすぐさま応えた。
『恋! 恋しておしゃれしたりドキドキしてる女の子が一番可愛いと思うの!』
「確かに! あたしの歌も初恋の歌が多いしね。……でも、あの人も言ってたけど青藍さんの女子力増強計画とチョコを配るのって、あまり関係ない……」
『青藍は臆病すぎるんだもん。みんなに可愛いって思われたら、可愛くなるしかなくなるでしょ。そしたら青藍も恋する気になるかなって!』
「そっかー、テラスさんて、パートナー想いの子なんだね、あたしも協力する! 派手に華やかに、バレンタインイベント盛り上げていこっ!」
 少女達は意気込み、籠を手にしてロビーへ向かう。傍に従いつつ、エズラは肩を竦めた。
『随分とスパルタなやり方ですね……』
「ねぇもう勘弁して……」
 青藍の悲痛な断末魔に、彼は苦笑するしかなかった。

 そんなわけで戻ってきたテラスとエデン。ロビーには、ちょうど青藍を探しに来た日暮仙寿(aa4519)と不知火あけび(aa4519hero001)が居た。あけびは手を振りながら近寄っていく。
『あ、テラス! ちょうどよかった!』
「良かない!」
 幻想蝶から青藍が歯噛みする。仙寿は肩を竦めた。
「また何かされたのか」
「そうだよ。かくかくしかじかで」
 青藍はくどくどと文句を垂れ流す。あけびは腕組みしたまま、納得したように頷いた。
『テラスの気持ちも分かるなぁ……青藍は可愛いんだから、もっと女子力発揮していいと思うよ?』
「うむ……」
(あんまり女子らしい振る舞いが得意じゃないんだろうに)
 渋る青藍に、仙寿はこっそり同情を寄せる。
「まあ、青藍の良さを分かってくれる奴はいると思うぞ」
 剣客の勘が一つ心当たりを呼び寄せるが、無粋な真似はすまいと、黙って桜のボンボンショコラを差し出した。
「いい奴だし、間違いなくな」
 彼らがそんなやり取りをしている間に、今度はバルタサール・デル・レイ(aa4199)とLady-X(aa4199hero002)がやってきた。チョコを配るアイドル達を見て、レディは目を丸くする。
『そっかー、今日ってバレンタインだったんだね。バルちゃん、あたしにチョコは?』
 軽くねだるが、バルタサールは大量の紙袋をぶら下げ眉間に皺を寄せる。
「……この状態であると思うか?」
『まったく、気が利かないんだから~』
 口を尖らせた彼女は、しゃなりしゃなりと歩いて二人のアイドルの下へ行く。知り合いのエデンはさておき、彼女は見慣れぬアイドルの眼を見つめた。
『あたしにもチョコいただける?』
『もちろん! どーぞ!』
 受け取ると、レディはにっこり笑って口へと放り込んだ。
『ありがと。そこのむさ苦しいおっさんにはあげなくていいよ、もったいないから』
「確かにいらんが、その言い方は何なんだろうな」
 バルちゃんは白い目をしてみせるが、レディはどこ吹く風だ。テラスのつけたゴーグルを外し、その顔を覗き込んでいる。
『流しのアイドルって割には、化粧っ気が無いよね。よし、チョコもらったお礼に、あたしが可愛くメイクしたげる! ちょうど今、春の新色を買ってきたとこなんだ』
『イエーイ!』
「うぇ!?」
 ノリノリのテラス、呻く青藍。レディは首を傾げた。
『せっかく素材がいいんだから、それ活かさないと勿体ないって。ほら、遠慮しないで』
「いや、その」
『おねがーい♪ ここにイメプロもあるよ!』
 青藍が断る暇もない。テラスとレディはメイクとイメージプロジェクターで即席ファッションショーを始めてしまった。隣で見ているエデンも目を丸くする。
「おおー……強力なライバルが登場かも……」
 華やかに飾られていく青藍を前に、レディは首を傾げる。
『ふむ、素材を活かすなら、可愛いじゃなくて、キレイ系の方がいいかもしれないね』
「あのですね」
『ほらほら。遠慮しないで。一旦ファッションに興味を持ち始めたら、だんだんハマると思うよ~。少女っぽいのが悩みなら、自分から変わらなきゃ』
「う……」
 図星を突かれて青藍は黙り込む。いよいよ為すがままだ。レディは両手にメイク道具を構え、プロジェクターを調整しながら楽しそうに彼女を仕立て上げていた。

「また遊び始めたか……」
 呆れたように呟くバルタサール。しかし、レディの興味がうら若き乙女へ移った事で彼は一先ず解放されたのだった。彼は遠巻きに様子を見つめながら一服を始める。女っ気は最早ゼロである。
 このおじさん、バレンタインなどとはとんと無縁な男であった。


「はい、これが最後の一個!」
 即席ファッションショーが終わった頃、テラスを國光とメテオが訪ねていた。テラスは籠に残った最後の一包みを二人に差し出す。受け取った國光は、柔らかく眼を細めた。
「ありがとうテラスちゃん」
『……青藍さんの手作りチョコ!』
 メテオは眼を輝かせる。テラスは得意げだ。
『ふふん♪ 美味しいから、味わって食べ――』
「NO!」
 しかしその時、不意に共鳴が解けた。テラスを撥ね飛ばし、トレンチコート姿に戻った青藍は荒い息のまま鞄を探る。
「待って……サクラコさん達に、そんな十把一絡げで作ったもの渡せない」
 二人に突き出したのは、手作りのブラウニー。決然とした眼に、思わず國光はたじろぐ。
「あ、あり、がとう……そうだ。ちょっと相談したい事があるから、場所変えようか……?」
「え? はいはい! もちろん!」
 國光の背中を追い、青藍は走り出す。その背中を見るテラスはご機嫌斜めだ。
『あー、またそんな渡し方して……』
『テラスちゃん、女の子は好きな人にしか見せない表情っていうのがあるんですよ』
 メテオは訳知り顔で微笑む。首を傾げるテラスの手を引き、こっそり後をつけ始めた。

「セーラさん、これ……」
 屋上にやってきた國光。青藍にホワイトクッキーを差し出す。彼女は目を丸くした。
「義理じゃないよ」
 彼女は頬を赤らめた。その顔を見て、思わず國光も緊張する。
「オレの知ってるセーラは明るくて、ノリもいいけどどこか抜けてて、苦労性で、いっつもこっちを振り回すくせに自分も一緒に振り回されてて……でも、いつも誰かを思ってて、いつも誰かを心配してて……オレはそんなセーラだから好きになったんだと思う」
 振り返れば、二年以上共に居た。気付けば、特別な存在になっていた。その想いを、彼は余さず打ち明ける。
「今までも一緒にいたけど、まだお互いに知らない事が多いと思う。きっと、近づけば近づくほど受け入れられない部分も見えると思う。けど、全てわかり合えなくても、互いをわかり合おうとする気持ちでこれからも繋がっていられたら……って」

「だから青藍……これからも、一緒にいよう?」

「……國光、さん」
 赤い顔を俯いて隠したまま、青藍はそっと右手を國光の目の前に差し出す。右人差し指にはナインライヴスが嵌まっていた。
「私も大好きです。クールに振る舞ってるくせに、誰よりも仲間や友達の無事を願っている貴方のことが。貴方が居てくれたから、私は此処まで頑張れた」
 彼女は顔を上げた。潤んだ眼のまま、満面に笑みを浮かべている。
「でも……そうですね。お互い会うのは任務の時ばっかりで、実はお互いのこと、良く知らないんですよね。だから、國光さんのこともっと知りたいです。よろしくお願いします」
「……うん。よろしく」
 屋上に立ち、ビルの狭間に沈む夕日を並んで見つめる國光と青藍。ドアの陰から、メテオとテラスがそんな背中を覗いていた。
『ほら』
『あれま、ほんとだ……』
 そこへ、紙袋を抱えた杏樹がやってくる。何も知らない彼女は、そのまま歩み寄っていく。
「國光さん、青藍さん。やっと見つけた、です」
 メテオ達も顔を見合わせると、杏樹の後について二人へと歩み寄る。杏樹は微笑むと、そっと包みを差し出す。
「青藍さん。はっぴーばれんたいん、なの。今まで、たくさん、お世話になって。これからも、ずっと仲良しで、いてください、です」
 青藍は國光と顔を見合わせると、杏樹にこくりと頷いた。
「うん。よろしくね」

 バレンタインデー。友の絆も、恋も愛も、新たに深まろうとしていた。

 Give me Love! END





●日暮家の本編
 夜の日暮邸。仙寿は少しそわそわしていた。今日中にはあけびがチョコをくれると確信していたが、問題は出来だ。
(今年は……期待していいよな?)

 談話室では、あけびが椅子に腰掛け桜の形をしたデザインシュガーを振っていた。
(そういえば、これどうしようかな)
 惚れ薬なんて言われて貰った時には動揺もしたが、結局は使わずにいた。効果があるとも思えなかったし、効果があったとしても、やらしいアレだと困る。
(いやいや、あの子からの贈り物に限ってそんな。そもそも昔はチョコレートだって媚薬って言われてたんだし)
 瓶は一先ず傍に置き、あけびは深呼吸する。
(よし、落ち着こう。仙寿なら『その時』まできっと待ってくれるし)
 苺トリュフをテーブルの真ん中に据える。知人にアドバイスをもらいながら、きっちりレシピを見て作った完璧な品だ。後は渡すだけである……

「あけび、寝てるのか?」
 十分後、仙寿が談話室にやってきた。あけびは椅子に腰掛けうつらうつらしていた。その横顔を眺めつつ、仙寿は温かい紅茶を二つのカップに注ぐ。
(ん……? 桜の砂糖か……)
 普段はストレートで飲む仙寿も、二人の絆の証とも言えるソレには心惹かれる。彼は瓶から花弁を一つまみすると、カップ二つに放り込んだ。ふわりと砂糖が溶けていく。仙寿は薄ら微笑み、一口飲んだ。
 あけびは全くうとうとしていて、そんな仙寿に気付かない。彼はあけびの頬を摘まんだ。
『ふえっ』
「……何か用があるんじゃないのか?」
『あ、ええと……これを』
 あけびはトリュフの乗った皿を手に取り、改めて彼に渡す。
「お、今年はちゃんと出来てるんだな」
『それは……』
 真っ当に喜んでいる仙寿の傍で、あけびは瓶の砂糖が少し減っている事に気付く。
(ええっ?)
 驚いている間に、仙寿は急に眼を細め、あけびの傍に身を乗り出してきた。
「ウバはチョコレートによく合うな……あけび?」
 トリュフを口に放り込むと、甘い口のままで仙寿はあけびの唇を塞いだ。二人の口に甘みがとろりと――

 おおっと、カットです! この先はご想像にお任せだ!



 こんどこそおしまい☆

結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 藤の華
    泉 杏樹aa0045
    人間|18才|女性|生命
  • 大切な人へ
    クローソーaa0045hero002
    英雄|29才|女性|ブラ
  • ライヴスリンカー
    赤城 龍哉aa0090
    人間|25才|男性|攻撃
  • リライヴァー
    ヴァルトラウテaa0090hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • 深森の歌姫
    イリス・レイバルドaa0124
    人間|6才|女性|攻撃
  • エージェント
    ルゥナスフィアaa0124hero002
    英雄|8才|女性|ソフィ
  • 夢魔の花婿
    天野 一羽aa3515
    人間|16才|男性|防御
  • 夢魔の花嫁
    ルナaa3515hero001
    英雄|26才|女性|バト
  • きっと同じものを見て
    桜小路 國光aa4046
    人間|25才|男性|防御
  • サクラコの剣
    メテオバイザーaa4046hero001
    英雄|18才|女性|ブレ
  • Trifolium
    バルタサール・デル・レイaa4199
    人間|48才|男性|攻撃
  • エターナル・ニクヤキマス
    Lady-Xaa4199hero002
    英雄|24才|女性|カオ
  • かわたれどきから共に居て
    日暮仙寿aa4519
    人間|18才|男性|回避
  • たそがれどきにも離れない
    不知火あけびaa4519hero001
    英雄|20才|女性|シャド
  • Peachblossom
    プリンセス☆エデンaa4913
    人間|16才|女性|攻撃
  • Silver lace
    Ezraaa4913hero001
    英雄|27才|男性|ソフィ
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