本部

秘密の日記

花梨 七菜

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
5人 / 4~6人
英雄
5人 / 0~6人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2019/02/13 20:21

掲示板

オープニング

 あなたは、テーブルの上にある小さいノートに目を留めた。何気なくそのノートを開くと、衝撃的な文章が目に飛び込んできた。

***

 開いたページを読み終わってページをめくろうとしたあなたは、ふと我に返った。
 あなたは、ノートを閉じた。これは相棒の日記だ。いくら信頼関係があっても、他人の日記をこっそり読むなんていけないことである。でも、日記の続きが気になる。でも、やっぱりいけないことだし……。
 あなたが煩悶していると、ドアが開いた。部屋に入ってきたのは、あなたの相棒。この日記を書いた当の本人である。
 相棒の視線が、あなたの持っているノートに注がれる。
 相棒とあなたの動きが止まった。
 どうしよう。
 まずは、うっかり日記を読んでしまったことを謝ろうか。
 それから、日記の続きを読ませてほしいと頼んでみようか。
 相棒は、日記の続きを読ませてくれるだろうか。それとも、恥ずかしがって読ませてくれないだろうか。
 読ませてくれるとしたら、日記の続きには何が書いてあるのだろう。あの時のあんな話やこんな話、未来への不安や希望、あなたの知らない相棒の秘密、とか?

解説

●目標
 日記をネタに相棒と仲良くお話する

●状況
 場所は、特に指定がなければ、「あなた」の部屋。
 「あなた」は能力者、英雄どちらでもOKです。
 「あなた」が最初に読んだ日記の文章は、かなり衝撃的。

リプレイ

●意外な一面
『あ~! それ、ボクの日記!』
 英雄の伊邪那美(aa0127hero001)は、御神 恭也(aa0127)の手からノートを取り上げた。
「良く長く続けられる物だな……」
『勝手に読むのは良くない事なんだけど~?』
 伊邪那美は、ノートを胸に抱き締めて恭也を睨んだ。
「……済まなかった」
『じゃ、お詫びの印にケーキ買ってきて』
 怒っている伊邪那美を宥めるために、恭也はケーキを買ってくるはめになった。
 恭也は、近所のケーキ屋でケーキを購入した。
 ケーキ屋の店員さんは恭也を見て、また妹さんにケーキを買ってあげるのね、優しいお兄さんだわ、と思っていたが、それは恭也の知るところではない。伊邪那美は神世七代の一柱と自分で主張しているが、見た目は無邪気な少女なので、店員さんからは恭也の妹と思われていたのだった。
 恭也は家に帰ると、買ってきたケーキをリビングのテーブルに並べ、お茶を用意した。
『いただきま~す』
 伊邪那美は、早速ケーキをぱくついている。
「要らん好奇心が随分と高く付いたな……」
 恭也の口から本音がぽろりとこぼれた。
『恭也~、愚痴を言う前に何か必要な事があるんじゃないかな?』
 伊邪那美がジト目で恭也を見る。
「そうだな、勝手に人の日記を覗いた事は済まなかった」
 恭也が素直に頭を下げると、伊邪那美は満足した様子でまたケーキを食べ始めた。
『まぁ、本当はそんなに怒ってないんだけどね。誰かに見られて困る事なんかは書いてないんだし』
「確かに日々の中で起きた事が中心だったからな……しかし、毎日付けているようだが書く事に困ったりしないのか?」
『うん? 何にも無い日なんて無いよ。毎日、誰かに会って何かをしているんだから似た内容の日はあっても書く事が無いなんて事は無いじゃん』
 伊邪那美はあっけらかんと言った。
「……」
 恭也は、まじまじと伊邪那美を見つめた。
『どうかしたの? 変な顔して』
「いや……純粋に驚いた。まさか伊邪那美に諭される日が来るとはな」
『失敬だよ。そんな事を言うけど、恭也だって毎日何かを書き留めてるじゃん』
 伊邪那美は、恭也が毎日ノートに何かを書いているのを見ていた。でも、今まで特に気にはしていなかったのだが。
『そうだ、ボクの日記を勝手に読んだんだから恭也が書いてる物を見せてよ』
「構わんが、面白い物ではないぞ」
『良いから、良いから』
 恭也は、二冊のノートを持ってきて伊邪那美に渡した。
 伊邪那美は、わくわくしながらノートを開いた。
 ぺらぺらとページをめくるごとに、伊邪那美は怪訝そうな表情になっていった。
『……何これ? 二冊とも項目と数字が書いてあるだけなんだけど』
「まぁな、家計簿とその日に行った鍛錬の種類と量を書いた物だからな」
『爺臭い……』
 恭也は祖父母に育てられたため、趣味趣向が年寄り方向に偏っているのだ。伊邪那美もそのことは知っているのだが、あきれてしまった。
 無味乾燥な恭也のノートを放り出して、伊邪那美はケーキに戻った。
「まて、少なくとも家庭的だとは表現できるだろう」
『家庭的というか……事務的。あ~あ、恭也の裏の顔が見られるかと思ってちょっと期待したのに、期待して損した』
 ぼやきつつ、伊邪那美はケーキをもぐもぐ。
 そんないつもと変わらない伊邪那美の姿を見ながら、恭也は先程の伊邪那美の言葉について考えていた。
 何も無い日なんて無い、か。毎日、同じことの繰り返しで何も起こっていないように思えても、昨日と今日は違う。そのことを忘れ、自分は惰性で鍛錬をしていなかっただろうか。もっと一瞬一瞬を大切にしなければ……。伊邪那美にそのことを気づかされるとは、何だか変な気分だ。悔しいような、嬉しいような。
『食べないの~? もらっていい?』
 伊邪那美のフォークが、恭也のケーキを襲った。
 恭也は、素早く皿を自分に引き寄せた。伊邪那美の攻撃をうまく防御できたのは、日頃の鍛錬の賜物と言っていいだろう。

●ラブラブな二人
「……すまん」
 麻生 遊夜(aa0452)は、英雄のユフォアリーヤ(aa0452hero001)に向かって頭を下げた。親しい中にも礼儀あり。日記を読んでしまったことをちゃんと謝っておかなくては、と思ったのである。
『……ん、何が?』
 ユフォアリーヤは、かくりと首を傾げた。ユフォアリーヤは、遊夜が日記を読んだことを全然気にしていないようだ。
 遊夜は、孤児院を経営する青年である。ユフォアリーヤは、腰元近くまである長い黒髪と気だるげな瞳、ピンと立った狼耳とふさふさの尻尾が特徴的な半人半獣の少女である。二人は夫婦であり、男の子と女の子の双子の親でもある。
 遊夜は、日記を読まれたことを全然気にしないユフォアリーヤの反応に少し驚きながらも、もっと他に驚くことがあった。
 日記には、遊夜とユフォアリーヤの子供達が喋るようになったことが書かれていたのである。
「早い子は早いと聞くが……」
 子供達は生後8か月なので、平均より少し成長が早いようだ。
『……ん、ちょっと前から……うごうごうにうにしてたけど、はっきりとは……昨日から、かな?』
「……ちなみに、どっちが先だった?」
 遊夜は、ごくりと唾をのんだ。
 先に呼んで欲しいおとーさん心、である。ユフォアリーヤの方が早いと分かり切っていても、それでも希望は捨てない!
『……ん、気になる?』
 ユフォアリーヤはクスクスと笑うと、結果発表。
 結果は、おかーさんの勝利だった。
 喜ぶユフォアリーヤ。うなだれる遊夜。
 その場にいない人を呼ぶ確率は低いからしょうがない、と遊夜は自分に言い聞かせた。
 子供達は、【パパ・ママ】ではなく、【おと・おか】と言ったらしい。家では、自分達を含め皆【おとーさん・おかーさん】としか言わないので、仕方ないだろう。
 早く実際に呼んでもらいたいな、と遊夜は頬を緩ませつつ思った。
『……ん、日記、読む?』
 ユフォアリーヤが日記を読んでも良いと言うので、遊夜は日記を読ませてもらうことにした。
 ユフォアリーヤによると、二人が出会った頃からずっと書き続けているそうだ。
「そう言えば、俺が提案したんだったな」
『……ん、字の練習が……目的だった』
 ユフォアリーヤは、こくりと頷いた。
「あー……最初の頃は覚えさせるのに色々試行錯誤してたからなぁ」
 懐かしく思い出しながら、遊夜はページをめくった。
 最初の頃に比べると日毎に、字が達筆になっていく。そして、絵も追加されるようになっていき、ユフォアリーヤの成長を感じることができた。
 まあ、それは良いとして。
 日記には、遊夜のことばかり書かれていた。ユーヤの真剣な目がカッコイイ、失敗して落ち込むユーヤが可愛い……。
「……読んでる俺の方が恥ずかしいんだが」
『……そう? いつも言ってるのに』
 ユフォアリーヤは、愛情たっぷりの眼差しで遊夜を見つめた。
 遊夜は、照れながら日記を読み進めた。
 ユフォアリーヤは、初期はほとんど遊夜の事しか書いてないが、余裕が出来たのか次第に自分の事も書き始めたようだ。基本的に美味しかったものが中心だが、気になったことについても書いてあった。
『……ん、お肉美味しかったねぇ』
「あー、懐かしいな……あれが最初だったっけか」
 二人で従魔を倒してその肉に舌鼓を打った時のことを思い出して、遊夜は微笑んだ。
 あれが従魔ハンター誕生の瞬間であった。あの時以降、いろいろな従魔を賞味してきた。能力者で良かったと思うことの一つである。
 遊夜は、更に日記のページをめくった。
 子供達を筆頭にポツポツと特に気に入った個人や戦友たち、そして愚神や戦いの事も書き綴られるようになっていた。
『……ん、お気に入り』
 ユフォアリーヤは、ノートに描かれた絵を遊夜に見せてフンスと胸を張った。二人の子供達の絵である。ぷくぷくした頬っぺたがかわいくて、見ている人が思わず笑顔になってしまうような絵だった。おかーさんの愛は深いのだ。
「うまく描けたな」
 遊夜が褒めると、ユフォアリーヤのふさふさの尻尾が元気に揺れた。
 日記のどのページにも遊夜の事が書かれていたのは、愛ゆえか……。
「……やれやれ、本当うちの嫁は可愛いなぁ」
 遊夜は、ユフォアリーヤの頭を撫で撫でした。
『……やーん』
 ユフォアリーヤは照れ照れで頬を押さえた。赤くなった頬を隠すことはできても、ゆらゆら揺れる尻尾から嬉しさがダダ漏れであった。

●創作か現実か
「ああ……又こんな散らかしおって……」
 弥刀 一二三(aa1048)はぼやきながら、英雄のキリル ブラックモア(aa1048hero001)の部屋を片付けていた。
 キリルの部屋は、ガレージ倉庫の隅に作ったワンルームのロフト部分で、高さがあるので2階とも言える場所である。カーテンで仕切ってはいるが、キリルは自分で掃除をしない為、いつも一二三が掃除をしている。一二三はチャラい格好をしているが、生活面においてはしっかりしているのだ。一方、キリルは冷静沈着文武両道才色兼備風クールビューティの見た目でありながら、身の回りのことは一二三に任せきりだった。
 今日も一二三は、床に散らばった服を畳んだり、雑誌をまとめたり甲斐甲斐しく働いていた。
「昔はうちにしがみついて離れんかったんに……いっちょ前に……ん? 日記、どすやろか?」
 一二三の視線がテーブルの上にあるノートに留まった。分厚くてノートと言うよりも本といったほうがよさそうだ。可愛らしい苺模様のカバーにタイトル『DIARY』の文字。鍵付きである。
「こないな本みたいな日記、あるんどすな」
 一二三は手際よく針金で鍵を開けた。機械いじりの得意な一二三にとって、鍵を開けることなど朝飯前である。
 少しドキドキしながら、一二三は日記を開いた。
 最初のページには、小学生のような下手な文字が並んでいた。だが、ページをめくっていくと、徐々に字が上手くなっていった。
「……ガキや思うとったら、いつの間に」
 一二三は、感慨深く呟いた。キリルの成長を感じることができて、何だか母親の気分になってしまった。何か違う気もするが。
「……ん? 最近どすな?」
 一二三は、最近の日付が書かれているページを読み進めた。

***
□年△月☆日
 少しずつ、記憶が戻っている気がする
 フミと出会った時、デパートの柱に映った私の姿に妙な違和感を感じたのも当然の事だ
 私の本来の姿は、十代前半、白い肌に浮かぶそばかすと橙色の髪をおさげにした、村の少女だったのだ
 私がいた世界では、空間が突如割れ、愚神や従魔のような化け物が現れ、人々を食う敵がいた
 その敵と空間を塞ぐ役割が『イレイサー』と呼ばれる者達だった
 ある日、悪戯をよく仕掛けてくる少年を追い掛けていた私の目の前の空間が割れ、化け物が襲い掛かった
 食われると思った時に、『イレイサー』の一人が化け物を倒し、私を救ってくれたのだ
 その姿こそが、日に焼けたような肌に、銀の目と銀の髪をした、今の私と同じ姿をした女性だった
 目の前で助けられた私は、この女性への憧れでいっぱいになった

 ここへ来た時感じた自身の姿への違和感は、そのせいだろう
***

「……小説家でも目指しとるんどすやろか?」
 一二三は首をかしげた。
「見た目と中身が違うギャップを気にしとるのかもしれん」
 一二三はその文章をキリルの創作だと思ったが、創作なのか現実なのか本当のところはキリルしかわからない。
 その時、カーテンを開けてキリルが部屋に入ってきた。
『フミ! 勝手に入るなと言っただろう! ……あっ!』
 キリルが息をのんだ。一二三は、咄嗟にキリルに見えないようにして日記の鍵を掛けた。キリルには、一二三がちょうどテーブルから日記を取り上げた瞬間のように見えた筈だ。
「なあ、これ、見てもええどすやろか?」
 一二三は、平然とキリルに問いかけた。
『良いわけなかろうが!』
 キリルは、一二三から日記を奪い取った。
「なら、己の部屋くらい、掃除しとくれやす!」
 一二三が厳しく言うと、キリルはバタバタと部屋を片付け始めたが、物をあちらからこちらに移動させているだけで実際は全然片付いていない。
 一二三はやれやれと肩をすくめ、掃除を再開した。
(まあ、勝手に日記読んでしもたし、取り敢えず夕飯は、苺フェアしとるファミレスに連れてったろ)
 真面目な顔で片付けをしているキリルが喜ぶ姿を想像して、一二三は笑みを浮かべた。
(ついでに、何か悩みがないか聞いてやりまっか。メンタルケアも大事どす)
 いろいろとキリルに面倒をかけられても、キリルを放っておけない一二三だった。

●過去と現在
 荒木 拓海(aa1049)が、家計簿かなと思って開いたノートには、英雄のメリッサ インガルズ(aa1049hero001)の前世が綴られていた。

***
 また聞こえる……胸に刺さる……初めは夢と思ってたのに
 消すなら全部にしてよ……断片で残す位なら全部残してよ……断片だから苦しい
 その前は? ……続きは? 半端な記憶なんて要らない

 ……嘘……全てが大切な事
***

 思い出された順に記された前世の記憶は、短編小説のようだった。組み合わせて一つの物語にするには、余りに半端な日常と唐突な死。
 初めて知るメリッサの過去に、拓海は心を奪われた。
『感想は?』
 突然背後から声を掛けられ、拓海は飛び上がる勢いで驚いた。拓海が振り返ると、メリッサが微笑みを浮かべて立っていた。
「すまない」
 拓海は、焦ってメリッサに謝罪した。
『良いわよ……置きっ放しにした私の責任』
 メリッサは淡々と話し始めた。
 剣と鎧の世界で、共に戦場に立つその人は。
 恐らく親が決めた婚約者……どんな付き合いを経た結果、本気で好きになったのかも思い出せない。
『何処までが記憶でどこから創作か判らないの……でも、亡くなった瞬間の苦しさは本物だと思う。獣のように叫び狂い、振り抜く剣、伝わる生き物の重さ……生々しい感覚が来るの……』
 メリッサは、記憶を振り払うかのように窓の外に目をやった。
 拓海は、言葉を選びつつ言った。
「キツイな……せめてその人がくれた言葉や望んでた事を思い出せたら、リサの生きる目的に成ってくれるかも知れないのに……」
 メリッサは、拓海を振り返りきょとんとした。
 拓海は、きょとん顔になったメリッサに気付かず続けた。
「新しい記憶を増やしても前世を思い出す度に苦しいだろうが……潰れる前に教えてよ。オレ達ともっと多くの……えと、楽しい事、幸せな事で、埋めて欲しい」
 メリッサに辛い思いをさせたくない、幸せでいてほしい、と拓海は強く思った。
 メリッサはぽつりと呟いた。
『お馬鹿ね……』
 予想外のメリッサの言葉に、拓海はメリッサの顔を見つめた。
『大切な人との記憶だから思い出したいだけで今が辛い訳じゃないわ、寧ろ幸せよ。拓海と出会った時、似てる……死なせないって、迷わず誓約したの。でも中身は全然違った……みたい? ……ハラハラするし、腹立たしかったり。ただ、この世界で生き残れる子にしなきゃ、もう失わない……と、知ってる限りを教えてきたつもりよ』
 メリッサは心から微笑んだ。
 誓約した日から、メリッサは拓海にとって姉で母で師だった。
 少年だった拓海がメリッサに恋心を抱いたこともあった。年月を重ね、それは身内的愛情へと変化し、今はお互いにかけがえのない相棒になった。
 いつも迷いや苦しみを感じさせない飄々とした風体で過ごしていたメリッサ。
 拓海は、メリッサの日記を読んで初めて、メリッサが隠していた痛みを知ることができた。メリッサは前世の記憶に苦しみながらもそれを見せずに、ずっと拓海と共に戦ってくれた。
 メリッサがいたからここまで来られたのだと思うと、拓海の口から自然と感謝の言葉が溢れ出た。
「オレを生かしてくれてありがとう……出会わなかったらとっくに死んでたな」
 メリッサは、また、きょとん顔になった。それから、笑みを浮かべて言った。
『ほんとお馬鹿、拓海が私を生かしてくれてるのよ、だからもっと……幸せに成ってね』
「……」
 拓海は胸がいっぱいになり、何も言えなかった。
 拓海がメリッサに感謝しているのと同じくらい、メリッサも拓海に感謝していたのだった。
 以前は姉と弟のようだった二人が、今は完璧に対等な存在として向き合っていた。
 拓海は右手を差し出した。
 メリッサは拓海の手を握り、二人は固い握手を交わした。

 その後、拓海とメリッサは何時もの生活に戻った。
 これまでと同じ、でも、知る前より幸せな日常。

●魅惑のレシピ集
「……これは! レシピ集!」
 春月(aa4200)は、ノートを開いて驚いた。英雄のレイオン(aa4200hero001)の日記かと思いきや、そのノートにはレシピがぎっしりと書かれていた。
 春月は、ダンサーを夢見る元気な女の子である。レイオンは、春月の保護者のような優しいお兄さんだ。
 春月がノートのページをめくっていると、レイオンが部屋に入ってきた。
『ああ、そこにあったんだね』
 レイオンは、春月がノートを見たことを知っても、特に気にせずに言った。
 ノートは、レイオンの料理メモだった。今まで作ったもの、これから作りたいもの、春月が食べた時の反応まで書いてある。
「細かい! なんか怖い!」
『でも春月は何食べても美味しいって言うからね』
 春月の言葉だけでは判断できないので、レイオンは春月の表情、咀嚼回数、食べる速度などを記録していたのだった。その精密さには、春月も舌を巻くしかない。
『座ってゆっくり見ようか』
 レイオンに促されて春月は椅子に座った。レイオンも隣に腰を下ろし、二人で一緒にノートを見ることにした。
「……? 同じ料理だけど、レシピ2種類あるねぇ」
『こっちは、春月が作りやすいかなって』
 同じ料理なのに、レシピが2種類あるのはなぜかというと。
 春月の料理は、かなり大雑把なのだ。下手すると、パスタ(オリーブオイルと塩のみ)やら納豆ご飯だけが食卓に出されることになる。
「納豆食べておけば何とかなると思うよ」
『ならないと思う』
 そんな会話が交わされることも、しばしばある。
 その為、普段は出来る限りレイオンが料理を作っているのだが、春月でも簡単な料理なら作れるだろうと、レイオンは春月専用のレシピを書いておいたのである。同じ料理でも、通常のレシピと手間を省いて簡単にしたレシピと2種類あるのは、そういうわけだった。
『ほら、包丁は使わないで、できるだけ電子レンジでできるようにしているから。ハンバーグもパン粉と卵を抜いてもできるやつを……やる気になった時のために、普通の作り方もあったほうがいいだろう? まだ途中だから文字だけだけれど、ちゃんと写真入りで分かりやすいのを渡すからね』
 まさに至れり尽くせり。
「こだわりがすごい! そんでやっぱちょっと怖い! もうネットとかに上げて色んな人に作ってもらいなよ……」
『ああ、アドバイスをもらうのにも便利だよね』
「もうやってた!」
 レイオンの如才なさに春月は驚いた。以前からレイオンがしっかりしていることは知っていたものの、これほどまでとは。
 レイオンは、春月に向かってにっこりすると言った。
『さあ、せっかくだから今日は一緒に料理しようか』
「よっしゃ、マグロ丼で行こう!」
 春月は、元気に拳を突き上げた。
「マグロを切って、ご飯に乗せて……」
 レイオンは、マグロを白米に乗せるだけでマグロ丼を作ろうとしている春月を止めた。
『マグロを漬けダレに漬けるんだよ』
 レイオンは、春月に拘りの漬けダレを教え込んだ。
「混ぜるだけならうちでもできる!」
 春月は、ボールに入れた漬けダレの材料を菜箸で混ぜ始めた。
 楽しそうな春月の横顔を眺めながら、レイオンは微笑んだ。
 レイオンは、春月が二十歳になるまでは春月と共にいようと考えている。でも、エージェントを続けると、春月の夢の足枷になるかもしれない。春月の踊りが好きだから、春月には夢を叶えてほしい。笑顔で踊っていてほしい。
 リンカーでなくなることが解決法であるなら、春月の元から自分が去ればいい。
 その時に、少しでも困ることがないようにしておきたい。
 そう思って、レイオンはノートにレシピを記していたのだった。
(……先のことはまだ分からないけれど)

 春月とレイオンは、完成したマグロ丼を頂いた。
「美味しい!」
 春月が笑顔で言い、レイオンのノートに新しい記述が増えた。

●秘密の日記をのぞいてみたら
 秘密の日記を読んだあなたは、相棒について以前より深く知ることができた。ちょっと笑顔が増えたり、とても愛情が深まったりした。
 でも、日記を読まれたらすごく怒る人もいるかもしれない。ケーキ100個を要求されるかもしれない。
 見知らぬノートを見つけた時は、気を付けたほうがいい。

結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 太公望
    御神 恭也aa0127
    人間|19才|男性|攻撃
  • 非リアの神様
    伊邪那美aa0127hero001
    英雄|8才|女性|ドレ
  • 来世でも誓う“愛”
    麻生 遊夜aa0452
    機械|34才|男性|命中
  • 来世でも誓う“愛”
    ユフォアリーヤaa0452hero001
    英雄|18才|女性|ジャ
  • この称号は旅に出ました
    弥刀 一二三aa1048
    機械|23才|男性|攻撃
  • この称号は旅に出ました
    キリル ブラックモアaa1048hero001
    英雄|20才|女性|ブレ
  • 苦悩と覚悟に寄り添い前へ
    荒木 拓海aa1049
    人間|28才|男性|防御
  • 未来を導き得る者
    メリッサ インガルズaa1049hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • そうだよ、楽しくやるよ!
    春月aa4200
    人間|19才|女性|生命
  • 変わらない保護者
    レイオンaa4200hero001
    英雄|28才|男性|バト
前に戻る
ページトップへ戻る