本部

愚神百人一首大会!

一 一

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
5人 / 4~10人
英雄
5人 / 0~10人
報酬
無し
相談期間
5日
完成日
2019/02/15 20:05

掲示板

オープニング

●難波津に 咲くやこの花 冬ごもり 今を春べと 咲くやこの花
『いつも依頼でお疲れの皆さん! こ~んに~ちは~ぁ!』
 …………。
『あれれ~? 返事がないぞ~? もういっかい! こ~んに~ちは~ぁ!』
 ……パチ、パチ。
『はい! お元気そうで何よりです!』
 今の本当に必要だったか?
『本日は冷え込む早朝からお集まりいただき、まことにありがとうございます! 司会はこの私、A.M.とP.M.を勘違いして集合時間を指定してしまったことに昨夜気づいたドジっ子職員・小雪です! 6:00じゃなくて18:00って表記しとけばよかったですね! この時間にレクリエーションとかあり得ませんもんね普通は!』
 堂々とミスっといてそのテンションおかしくない?
 何の説明も罪悪感もないまま、よくコールアンドレスポンスなんて要求できたな?
『それと、今回の企画に協力して下さった英雄の方もお呼びしております!』
『百敷(ももしき)という。皆、此度(こたび)は存分に励むがよい!』
 腕組んだムキムキの鬼っぽい人が高笑いしてるけど――協力者?
 確か今日って、『一月らしく百人一首でかるた遊びをしよう』って名目じゃなかったか?
『ちなみに、私の英雄ではございません! そもそも能力者でもない私は、まだ誰の者でもないですよ♪』
 聞いてねーし興味もねーよ。
『さて、今回行うのは『百人一首』というゲームです! 日本で生まれ育った方は、やったことがなくとも聞き覚えはあると思います! 中には『競技かるた』という形で参加した方もいるのではないでしょうか? 高度な瞬発力・記憶力・精神力で激しく札を取り合うさまから、『畳の上の格闘技』とも呼ばれていますね!』
『ルールは単純明快! 生け捕りにした100体の愚神を磔(はりつけ)にて野に晒(さら)し、審判が無作為に選んだ首を先に落とすだけの戯(たわむ)れよ! 無論、より多くの首を得た者が勝者だ!!』
『――速報です! ここで大幅なルール変更が発生しました! はい、かるたは撤収しま~す!!』
 待て待て速報じゃねぇよ、小雪(そっち)の方が折れんのかよ?!
 ただのカルタ取りのつもりできたのに、一気に殺伐としたヤベー遊び勧められても頷けるか!!
『……はい、……はい、なるほど! スタッフに改めて確認したところ、原因は単純なコミュニケーション不足でした! 完全に私の手違いですね! いや~、集合場所が『屋外』演習場だった時点で気づくべきでした! 反省しますね! も~、このあわてんぼさん!(頭コツン♪)』
 コイツ、職員としてマジで大丈夫か?
『おや~? 白い目の方々ばっかりだぞ~? ポジティブに考えましょう! これは訓練! OK?』
 もはや目的すらレクリエーションから変わってんじゃねぇか。
『とはいえ、百敷さん流『愚神百人一首』を用意してた人はいたので、そのままやっちゃいましょう! あ、愚神の代わりに訓練用のかかしで代用しますので、スプラッタなことにはなりませんよ! ……たぶん』
 最後小声でなんつった?
『不服か? ――ならばこの場で儂と『百人組手』はどうだ? 血湧き肉踊る催しならばよかろう?』
『あ、死人を出すとマズいので結構です……では皆さん、準備をお願いしま~す!!』
 おいアンタ今さらっととんでもないこと口走らなかったか!?
 ……こうして、拡声器を使う小雪と愚神に近い覇気を放つ百敷から逃げるようにして、訓練が始まった。

解説

●状況
 日本文化の交流会として『競技かるた』をやるつもりが、全く別競技の準備を進めていたことが発覚
 小倉百人一首も用意したが、予約会場が屋外訓練場であり屋内の会議室などは空室ゼロ
 検討の結果、遊びと訓練をかねた『愚神百人一首』という変則ルールで遊ぶ(?)ことに

●基本ルール
 近接部門と後衛部門があり、1試合最大4人まで同時参加可能
 競技者の自陣には互いに25体分の訓練用人型かかしが立ち、近距離・中距離・遠距離の3段で並ぶ
 AGWは最大射程距離を均等にするため訓練用の同一機種を使用(【SW】や『弾道思考』など射程延長はNG)
 対戦者への直接攻撃による妨害はNG(ただし、流れ弾など偶発的な事故によるペナルティはなし)

●対戦方法
 最初に100種類の『愚神の顔写真』を用意し、裏面の状態で競技者が25枚ずつランダムに選択
 スタッフが競技者から『愚神の顔写真』を受け取り、無作為にかかしの頭部へ張り付ける
 暗記時間として20分間が設けられ、自陣・敵陣の愚神の顔と位置を記憶
 その後、競技者同士で礼をしてから審判に礼をして競技スタート

 競技者は訓練場の中心で背中合わせになり、片膝立ちでしゃがむ(待機姿勢)
 位置関係は正面に自陣のかかし、背後や側面に対戦者と敵陣のかかしが並ぶ
 互いの足下には標的(取り札)の画像を映すスクリーンが設置

 最初はジャスティン会長が映り、2枚目以降でランダムに標的の写真が表示されていく
(表示される愚神の顔は『標的にない写真』も含む)

 標的の撃墜は審判の目視やカメラで判定し、最初に10体を撃墜させた方の勝利
 誤射(お手つき)した場合、誤射した数だけ撃墜目標が増加(例:2体誤射→12体撃墜で勝利)

●諸注意
 対戦者はプレで指名orランダムにて決定

 多数の誤射などで競技者全員が勝利条件未達成の場合
・撃墜数が最多→勝利
・撃墜数が同数→先に標的を撃墜していた者が勝利

リプレイ

●刺激的な食と生
「苺フェアの時期だぞ、フミ! 訓練よりも苺スイーツ巡りだ! 早くせねば終わってしまうぞ!」
 早速、聞き慣れたキリル ブラックモア(aa1048hero001)の癇癪にさらされる弥刀 一二三(aa1048)。
「そうどすか。優勝したらフェア巡りさそ思うとったんどすが、忙しいキリルには無理そうどすなあ」
「な、何? 私に出来ぬ事など無い!」
「ほう? 言わはりましたな」
 キリルから言質(げんち)を取り、ニヤリと悪い笑みの一二三が愚神画像データを渡す。
 今までの事件全てを集めた、訓練に使う『かもしれない』全画像を。
「か、数が多くないか? 100を軽く超えている気がするぞ?」
「――優勝したらクレカ5枚、限度額まで食べ放題旅行どすえ?」
「!」
 気後れするキリルへ、一二三はさらに盛大な勝利報酬を提示。
 無類のスイーツ好きな上、特に苺菓子に目がない相棒をその気にさせた。
(――おかしい、歌留多って死の危険が伴うものだった?)
 ワイルドブラッドの血か、雨宮 葵(aa4783)は敏感に『死』を感じ取り一歩後ずさる。
「逃がさないよ?」
「あ、これ逃げても死ぬやつだね」
 が、横にいた燐(aa4783hero001)のナイフが頸動脈と交差した瞬間すべてを諦めた。
「こういう競技だって分かってて連れてきたな、この『鬼教官』め!!」
「常在戦場は基本。それ以上の教育は死地が一番」
「今さらっと『死地』って言った!? あとナイフ突きつけるのやめてもらえないかなぁ!?」
 柔らかい声音と不穏なワードに震え上がる葵。
 ちなみに燐は数日前に交流会の存在を知り、参加者名簿を見てから参加表明している。
「普通の戦闘訓練だと、攻撃力の差で割りを食うことが多いけれど」
「技能を競う競技なら、本気で結果を出さないとね」
 ただ、迫間 央(aa1445)とマイヤ サーア(aa1445hero001)のようにルールを好意的に捉える者もいた。
「それにしても、ヘンな処で武道っぽいな。剣道部の稽古を思い出す」
「『百人一首』本来の公式ルールに寄せたんじゃないかしら?」
「なるほどな。何にせよ、形式がほとんど競技に近いんだ――真剣に好成績を目指そうか」
 配られた競技手順を熟読しつつ、央とマイヤは作戦を話し合う。
 日頃のストレス発散にと参加した交流会だが、訓練への変更でもモチベーションは変わらない。
「小雪さん関連だったか……次に彼女の名を見たら避けよう」
 雪かきや成人式を思い出す荒木 拓海(aa1049)に、レミア・フォン・W (aa1049hero002)は首を傾けた。
「タクミは、よろこんで、とつげきしてるのよ……って言ってたよ」
「アイツ……そんな事はないぞ。ネタは好きだけどね」
 互いにもう1人の英雄を思い浮かべながら、拓海はレミアの誤解をやんわり否定する。
「あ――やぁ、主催お疲れ様! 今回も楽しませて貰うね」
「おやおや荒木さん! 今日もレミアさんと仲良しですね!」
「……さける人――むぐ」
 噂をすれば影が差すもので、近くを通りかかった小雪に拓海は笑顔で挨拶。
 まあ、途中で小雪を指さし余計なことを口走ったレミアの口を塞ぎ、即時撤退したのだが。
「……ぐすっ」
「野乃、機嫌直してよ! まさかこんな早く開始なんてっ!」
 逃げた先では、チケットをギュッと握りしめる酉島 野乃(aa1163hero001)が何故か半ベソ。
 隣で三ッ也 槻右(aa1163)が必死になだめるも効果は薄い。
 実は今日、本当なら野乃は時間限定8時~10時スイーツバイキングに行く予定だった。
 が、百人一首と聞いて申込んだコレが6時開始と見事に時間がかぶり……後はお察しである。
「お、終わったらここのケーキ屋行こう! 好きなの一個買ってあg」
「食べ放題」
 何とか機嫌を直そうとスマホで店を調べた槻右に、野乃はジト目かつ食い気味に要求を上乗せ。
「う、うん。じゃあ、優勝したら……ご褒美に?」
「確かか?」
「……う、ん」
「忘れるなよ? ゲームには某が出る――待っておれケーキ!」
 声が低い野乃の圧力に冷や汗を流し、槻右は及び腰で財布を確認した。
「ケーキ……」
「レミアも同じ条件でどうじゃ?」
 さらにレミアのうらやましそうな視線に気づき、野乃は拓海にも条件を飛び火させた。
「う~ん、訓練のご褒美ってことなら。共鳴の主体も頑張れるか? ルールや人の話を良く聞くんだぞ」
「……がんばれる。ちゃんときくよ」
 ついでに初めて共鳴の主導権をもらえたレミアは、『勝つ=ケーキ』と覚えてさらに目を輝かせる。
(これでたとえ某が負けても、スイーツを食べられる可能性が残るの!)
 そして、こっそり笑みを深めた御狐様が1人。

●闇討つ後衛
 ルールや訓練用AGWの説明を受けた後、参加人数が少ない後衛部門が集まった。
「……なんで、後衛?」
「それは――」
 ふと、レミアに理由を聞かれた拓海は視線を移す。
(拳銃型――これは都合がええどすな)
 近くでAGWを手に取り口角をつり上げる一二三は『ひきょうなおとな』。
「スイーツのためじゃ、誰が相手でも容赦はせん!」
「奇遇だな! 私が優勝すれば、スイーツ巡り旅行だぞ!」
「――その話、詳しく聞こう!」
『追跡者』たる野乃と盛り上がる『甘い理不尽』のキリル――両者とも、スイーツが絡むと加減がなくなる。
『今の央なら、後衛で射撃してもそれなりの結果は出せるとは思うけれど、ね』
「一二三に槻右、ついでに拓海と。この顔触れで揃うのは久し振りじゃないか。いつぞやの模擬戦を思い出すな。妖刀『華樂紅』の使い手である雨宮さんも参加となれば、刀使い同士みっともない姿は見せられないな」
「お、お手柔らかにー!」
 マイヤと共鳴し、静かに戦意を研ぎ澄ます『素戔嗚尊』の央。
 冷や汗ダラダラな葵の背後には『鬼教官』たる燐が控え、ナイフの切っ先を葵に押し当て無言の微笑み。
「……レミアにはまだ、『人外魔境』は早すぎるよ」
「???」
 遠い目でその一角を眺める拓海に、レミアはより首を傾げた。

 気を取り直して。
「この愚神はこの部位から炎がボォォォ!」
「……ぼぉぉぉ」
 拓海は暗記時間で写真を指さし、レミアに身体的特徴やスキルなどの特筆点を絡めて説明する。
 写す角度・逆光・ピンボケなども指摘し1体1体の印象をより強め、最低限25体の位置は記憶させた。
『同じ標的を狙う以上、誰かとぶつかっても事故だ。敵の反撃と思えば可愛いものだし、射線の邪魔も被弾も気にせずいこう。今日の攻撃力は控えめだし……むしろ吹き飛ばされるかも? 飛ばす勢いでもいいと思う』
「……とばす、のね」
 礼の後に共鳴した拓海の助言に耳を貸しつつ、レミアは金髪を揺らして緑の目を伏せる。
 ティータイム中の会長(盗撮:小雪)から暗転し、画面に標的が表示された。
「ぜんぶ……わたしの!」
 つたない口調なれどレミアは迅速に動き、近距離は早撃ちで、遠距離は射程ギリギリで攻める。
 しかし、経験の差か序盤にリードを許したレミアは懸命に悩み……閃いた!
「……よし」
『スキル使わなかった?!』
『碧の髪』で吹っ飛ぶかかしをすかさず撃ち落としたレミアに、拓海は脳内でつっこむ。
 審議の結果反則は回避できたが、ルール上の正義を得たレミアは止まらない。
「てきの……はんげきと……おもえ……」
『違うーーっ』
 初動が出遅れれば、対戦相手をまとめて『碧の王』を纏う『碧の髪』で吹っ飛ばし。
「……とどかせない……」
『直接攻撃じゃなくてもダメだよっ!』
 己の射線が厳しければ、『金の掌』で対戦相手の射線を妨害し。
「? ……くんれん……だよね?」
『たぶん報復……いや、何でもない』
 レミアが対戦相手のスキルに狙われれば、『見えざる手』で無関係なかかしへ当て誤射判定を食らわせる。
『――というわけで、後衛部門トップはレミアさんでしたー!』
「……かてば……かんぐん……!」
「そんな言葉どこで覚えた!?」
 最後までレミアが試合をひっかき回し、拓海がツッコミながら共鳴を解除した。
「(どやぁ!)」
「判って、やってない?」
「……? 女は、なぞな位が……みりょくてき……って言ってたよ」
「『ミステリアス』と『予測不能』は違うんだよ!」
 瞳キラキラ上目遣いで誇らしげだったレミアが、キョトンと表情を変えると拓海は頭を抱える。
 とりあえず、レミアに妙なことを吹き込んだ元凶には文句を言おうと決意した。

●近接の修羅たち
 次に、近接部門の初戦。
「敵と己のカカシ画像の顔と場所を全部記憶しておくれやす。似た顔は、違う所をよう記憶して誤射せんように。画像出たら、即攻撃。空愚神に要注意どす」
「――フッ。私を誰だと思っている?」
「愚問どしたな。主導はキリルに譲るさかい、歌留多に集中しておくれやす。実戦形式で訓練しますえ?」
 一二三とキリルは準備を整え男姿で共鳴、シャギーが入った赤と銀の髪を揺らす。
 近接部門は一部のガチ勢によるワンサイドゲームが続き、最終戦は案の定『人外魔境』の様相に。
(担当する間合いはいつも通り、サポートは任せた)
『ええ、全力で行きましょう』
 共鳴で思考を共有する央が近距離を、マイヤが中・遠距離の写真を1枚残らず覚えていく。
(会場はテーブル、案山子のある場所は皿、皿の上の愚神は……某の菓子を喰った相手(てき)じゃ!)
 また共鳴の主導となった野乃も、怒りに染まった目つきで写真を睨んでいる。
(お前が喰ったのはモンブラン! あやつは、プリン! くっ……、しらばっくれても無駄だ! 汝はショートケーキじゃ! ロの端の生クリームが証拠――おのれ、汝ら絶対に許さんっ!!)
『の、野乃さ~ん?』
(それがしの……ボクのスイーツ、ぐすっ)
 架空の設定と標的を紐づける記憶術のせいで涙目の野乃に、時間調整をミスった槻右は居心地が悪い。
『キリルは右手だけでいけるな? 今回は左、借りとくで』
(何をする気だ?)
『保険は掛けとかんと、やろ?』
 暗記後、一二三が左手を操作しイメージプロジェクターを起動。
 キリルは疑問を覚えつつ、待機位置で意識を集中させていく。
「汝らの顔も位置もばっちりじゃ――覚悟しておけ」
 隣には野乃が、熟成された憤激を口から漏らす……食べ物の恨みは怖い。
(流れ弾当たったら死にそうなメンバーでもう逃げ出したい)
『ダメ。実際に死にかけないと意味がない』
(スパルタにも程がある!)
 そして葵は、共鳴してから意識内で響く鬼の声にうなだれた。
(作戦は機動力を活かして、『ハイテンション』で序盤の流れを掴もうか)
『標的は的確に狙って。『見極めの目』が節穴じゃ笑えない』
 そろそろムチ教育にもアメが欲しいと切に願う葵は、燐の激励? に気合いを入れ直す。
 まず、会長の激レアうたた寝写真(盗撮:小雪)が画面にさらされた。
(考えてみれば、このスイーツ会場も彼の力故かも……それを、この愚神どもは!!)
 一種のルーティンだろう、会長=金色像=ケーキ一杯買えるヤツと連想しスイーツの恨みを募らせる野乃。
 次に最初の標的が判明した瞬間、身を低くしたままかかしの足下へ接近する。
「最初はお前か、タルトタタンッ!」
 そのまま他の追随を許さず、一刀でリンゴ菓子の仇を取った。
「ぬあぁ! 次は私が獲る!」
「初手は野乃さんか」
 先を越されてキリルが悔しがる中、央はマイヤが操る『鷹の目』で演習場全体を俯瞰する。
「……みんなの殺(ヤ)る気、すごくない?」
『葵は殺(ヤ)る気、ある?』
 わずかに出遅れた葵は口角をひきつらせ、3名がぶつける不可視の火花に燐が加わったため腰が引けた。
『8時、15歩、右よ』
「っ!!」
 次の画像は央が一瞥した瞬間に走り出し、2歩目でマイヤの指示から進路を変更。
 大まかな方向、全速力での移動距離、移動後の標的の位置を脳内でなぞり、見えた標的を撃墜する。
 思考・判断・行動のルーチンをワンテンポ早める作戦は、央とマイヤだからこそ実現できたのだろう。
「『負けるかぁ!!』」
 今度は画像が映される直前、葵が『臥謳』で牽制し3人の集中力を乱すことで1枚獲得。
「はあっ!」
 今度はキリルが位置的な優位を得て突出し、素早い身のこなしで頭を正確に破壊した。
『(やっぱ頭一つ抜けるんはキツいか……保険の切り方がキモやな)』
 全員1枚ずつの出だしから、一二三は注意深く対戦者の様子を探り思考を巡らせる。
「ガトーショコラァ!」
 首の取り合いはさらに加熱。
 野乃など標的1枚ごとにお菓子の名前を叫び、土や泥ごと標的を壊していた。
 おかげで中盤も過ぎれば、4人とも顔も服も泥だらけ。
 特に、顔を集中して狙われ続けた央は先ほど泥パックを食らい、やむを得ず眼鏡を外すことに。
「視界を塞いだつもりだろうが――」
『央の目は、眼鏡だけじゃないのよ?』
「……小癪な!」
『央、ごめーん!!』
 ただし、共鳴したマイヤの視界も『鷹の目』もあるため、央の余裕までは崩せない。
 反省の色がない野乃に代わり、槻右が大声で謝罪した。
「あっ! 写真が見づらくなってる!?」
 一方、葵は泥のせいで標的の写真が見えずに焦る。
 基本戦法が猪突猛進で暗記に力を入れなかったのだが、ここで燐から助言がもたらされた。
『ん。作戦変更』
(というと?)
『事故に見せかけ対戦相手を倒し、葵が生き残る。簡単な逆転の発想』
(致死率が跳ね上がってません!?!?)
 葵へのハードルは身の丈より高くするのが燐のやり方。

「――っ!」
 全員が順調に数を増やした終盤、央は『エマージェンシー』の感覚に従い速度を上げた。
 背後から半歩遅れ、負けじと追随する葵と野乃の『電光石火』が迫る。
『央』
「悪いが――譲らん!」
 すると、マイヤの意図を瞬時に読みとった央は標的を『追い越した』。
 すぐさま地面を削って勢いを殺し、反転した央は『ジェミニストライク』を発動。
 標的・葵・野乃へ向かう虚実の央が、殺意とともに武器を振るう。
「――ふべっ!?」
「っ、やりおったの!」
「妨害もスキルもお互い様だ、恨むなよ?」
 気づけば、葵は分身を貫いた勢いで転倒し、野乃は本能的に『零距離回避』で分身を躱していた。
 ライバルの速度が落ちた間に、本体の央は首を落としてほくそ笑む。
「おぉーっと『疾風怒濤』と間違えちゃったなぁー」
『ん。体に技が染みついてるから……しょうがないね』
 今度は明らかな棒読みの葵と燐から、流れ弾ならぬ流れ『怒涛乱舞』が飛んだ。
『戦闘の基本は?』
「やられる前にやれ!!」
 燐の方針通り、キリルが『クロスガード』、野乃と央が『攻撃予測』で対処した後に葵は標的を破壊する。
『ここや!』
「っ!?」
 次は位置的に央が優位だったが、一二三が左手に隠していた後衛部門の拳銃で標的の足を折った。
 つられてかかしの頭も倒れ、央の精確すぎる刃の軌跡が空を滑る。
「獲ったぁ!」
「――待て」
 生じた空白の間にキリルが頭を潰すも、一跳びで乱入した百敷に左手を掴まれた。
「な、何をする!?」
『対戦者はアカンけど武器はアカンとか、援護用武器禁止て聞いとらんし、競技には指定武器だけやろ!』
「武器を指定する意義は説いたはず。逸脱した『射程距離』を『近接』と申すか?」
『ちゃんと説明無いんが悪ないですか!』
 キリルと一二三の抗議を見下ろし、割と緩かった今までと違う厳しい態度の百敷は鷹揚に頷く。
「ならば選べ。銃、肩、首――どれを『外す』?」
「『首ぃ!?』」
「ほう? 見上げた度胸だ」
 2人が思わず同時に叫ぶと百敷に首を鷲掴みにされ、本気を悟ったキリルと一二三は大慌て。
「ま、待て待て!!」
『銃! 銃で堪忍してや!』
 銃をすぐに捨て、必死の懇願もあって何とか首は繋がった。
 そんな暴力コミコミ妨害合戦を経て、ついに全員がリーチ状態となる。
「次で決めるのじゃ!」
「『死にたくないっ!!』」
『トップギア』で構える野乃を始め、全員の目が勝利を見据える中で葵が再び『臥謳』を仕掛けた。
『2時、28歩、左!』
「っ――ここで遠距離か!」
 とっさに声から逃れた央は、マイヤが指示した標的までの距離に舌を打つ。
 体感的にだが、距離が長いほど『流れ弾』のリスクは跳ね上がっている。
「唸れ私の回避力!! 今こそ本気を見せるときー!!」
『……最終決戦じゃなく、今出すの?』
「今出さなきゃ死ぬ!」
 避けれなければ死あるのみ!
 葵は燐に何を言われようが標的よりも対戦相手への注意を強め、流れ弾を気合で避け――ぐきっ!!
「え゛っ――ぐへぁ?!」
「邪魔だっ!」
『(『怒濤乱舞』を優先したら負担が増えちゃったから、回避装備おいて来たのは内緒にしとこう)』
 足をくじいた代償は、背後から迫ったキリルの一撃。
 装備力超えちゃったからね、しょうがないね(棒読み)。
「待てっ!」
『奇襲は』
「きかない!」
 さらに、野乃も先に標的へ届く央の背中を『電光石火』で追うがマイヤに察知される。
 すぐに央は『影渡』で刃から逃れ、最後の写真を間合いへ入れた。
「スイーツッ!」
 しかし野乃は諦めず、『一気呵成』で標的ごと央へ切りかかる。
 それも『零距離回避』で回避した央は、改めて武器を振り抜き――瞠目した。
「――食べ放題っ!!」
 外れた野乃の攻撃がかかしの足を砕いた影響で、央の刃は首をかすめて終わる。
 そして、最後は野乃の追撃が倒れた頭へ先に届いた。

●勝利は甘く切なく
「何故だ! この試合はおかしい!!」
『ちょ、き、キリル?』
 勝敗が決してなおキリルは納得せず、声を荒らげる様子に一二三は焦る。
 あの鬼に聞かれれば、首が!
『近接部門トップは野乃さんでしたー!』
「――! の、野乃ならば仕方ないな……」
 が、小雪のアナウンスを聞いた途端に大人しくなり、一二三は疑問を覚えつつ安堵した。
「うぁ……泥だらけ」
 終了後、野乃がご満悦で主導権を離したため、槻右はくったりへたり込む。
「大丈夫か?」
「わわ///ありがとう」
 すると、微笑み混じりの拓海に素早くお姫様抱っこで抱えられ、槻右は赤面しながら運ばれていった。

「本当、ご迷惑をおかけしました」
 着替えた槻右は友人たちをカフェに集め、野乃の泥かけを謝罪しお詫びにとお茶を振る舞った。
「……いきてるってすばらしい」
「お疲れさま」
 最後にぶっ飛ばされた葵は、燐が向けた笑顔とテーブル下からのナイフを受け止め涙目で机に突っ伏す。
 いくら『鬼教官』といえど、公共の場でナイフを飛ばすような粗相はしない。
「幻想蝶から出るなんて珍しいな?」
「央の隣には、私が居ないと、でしょう?」
 一方、穏やかな微笑で寄り添い座るマイヤの手を握り、央は自然と緩む表情で見つめ返す。
 隣人の温度差が酷い。
「食べ放題じゃぞ、槻右!」
「服がドロドロだし、お店は別日がいいかな……皆もどう?」
「ホンマか?! おおきに槻右、かえって安く済むわ!」
 興奮気味な野乃に苦笑した槻右のお誘いに一二三が歓声を上げた。
「フミ、カードを出せ」
「は!? 約束と違うやろ!?」
 が、続くキリルの発言で笑顔が固まる。
「『優勝したらクレカ5枚、限度額まで食べ放題』だろう? 『野乃』が優勝したから問題あるまい!」
「うむ! その通りじゃな!!」
「そんなん詭弁や! ――ぁ!」
「問答無用! フミはモカの世話を頼む! 留守番の皆も呼んで甘味食べ放題だ!」
 鬼の首を取ったようなキリルと野乃が口裏を合わせ済みと気づいた時には遅く、カード奪われる一二三。
「やっぱり大人は違うねぇ! 太っ腹!」
「せっかくだから、私たちもご一緒しようか」
「やったぁー! お兄さんごちになりまーす!」
 さらに葵と燐も奢られる気満々で便乗し、正面から一二三の財布を殺しにかかってくる。
 さっきぶっ飛ばされた仕返しのつもりか、笑みはとても楽しそう。
「え……よう考えたら、ヤバない? 央! 拓海! 槻右! 助けてくれー!」
 瞬間、一二三は勝つ事だけを考えていた意識から戻り顔を青ざめた。
「その日は本業で行けないんだ。一度上げたキリルさんのご機嫌を損ねないよう、頑張ってくれ」
 だが、指定された平日昼間だと央は公務員の通常業務があり、そもそも助けようがない。
「拓海っ、割り勘しよっ!」
「レミアへのご褒美でもあるし、いいぞ」
「よかった! 一二三、自分の分出すよーっ!」
 まあ、キリルと野乃の巧みな連携に責任の一端を感じた槻右は、拓海とともに手を差し伸べたが。

 そして、約束の日。
「美味い!」
「~っ! 最高じゃ!」
 キリルと野乃は単価の高い順に苺スイーツを堪能。
 一二三が家で流す絶望の涙など、知ったこっちゃない。
「次は……みんなと……たたかう」
「やっぱりまだ早いよ……」
 ケーキのクリームを口元につけたレミアの発言に、近接部門を思い返した拓海は苦笑する。
「疲れた時には、やっぱり甘い物だね!」
「ん。美味しい」
 こちらも仲良く隣同士に座り、葵と燐は注文したスイーツをパクリ。
 甘酸っぱい味わいが鉄錆に変わらないよう、葵は死角と急所を狙う燐のナイフを避け続けるのだった。

結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

  • この称号は旅に出ました
    弥刀 一二三aa1048
  • 拓海の嫁///
    三ッ也 槻右aa1163

重体一覧

参加者

  • この称号は旅に出ました
    弥刀 一二三aa1048
    機械|23才|男性|攻撃
  • この称号は旅に出ました
    キリル ブラックモアaa1048hero001
    英雄|20才|女性|ブレ
  • 苦悩と覚悟に寄り添い前へ
    荒木 拓海aa1049
    人間|28才|男性|防御
  • 願い叶えて
    レミア・フォン・Waa1049hero002
    英雄|13才|女性|ブラ
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