本部

派手にやろうぜ! 決戦前の新年会!!

睦月江介

形態
イベントEX
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
9人 / 1~25人
英雄
8人 / 0~25人
報酬
無し
相談期間
5日
完成日
2019/01/02 18:38

掲示板

オープニング

「新年会をしましょう」
「「「「はあ!?」」」」
 愚神との決戦も近いのに何を言うのか、と怪訝な視線を向けるエージェント達にHOPE職員はだからこそだ、と答える。
「皆さん知っての通り、愚神との決戦の時は近づいています。その決戦で、あるいは決戦を乗り越えたとして皆さんがどうなるかはわかりません。だからこそ、この機会に大いに結構食べて飲んで、英気を養ってほしいんです」
 しっかり休んで、力を蓄えるのも戦う人の大事な仕事ですよと職員は更にダメ押しする。
「お餅やおせち、お酒はもちろんこちらで準備します。新年会におあつらえ向きの余興や芸があれば、思い切って見せてくれれば盛り上がると思います。後悔の無いように、楽しい時間を過ごしてください」
 もし、自分と共に歩む英雄や大切な人とゆっくり話したい、と言う事があれば静かに過ごせる個室もあるという……最後になるかもしれないからこそ、出来る限り派手で、楽しい時間を過ごせる宴会にしようと職員が締める。
 決戦前最後になるかもしれない新年会……その時間はきっとかけがえのないものになるだろう。

解説

皆さんで決戦前最後の新年会をしましょう、と言うお話です。
以下の3つから参加するパートを選んで、プレイングに記載いただくようお願いします。
●飲めや歌えや、大宴会!
 新年会でお餅やおせち、お酒を楽しみます。料理やお酒の持ち込みも歓迎します。ただし、ゲテモノ料理等の危険物については描写しない、出来ない場合もあるので自己責任でお願いいたします。
●俺が、俺達が主役だ!
 会場の前方に用意されたステージで歌や宴会芸を披露します。思うままパフォーマンスを披露してください、その場での主役はあなたです。
●宴もたけなわ、静かな部屋で
 宴会の夜、個室で静かに大切な人と語り合います。決戦が迫る中、思うところはあるでしょう……この日ばかりはお酒のせいにして全部口に出してしまっても、構いません。今更出歯亀などと言う無粋な事をする人はいないと思います……多分。

リプレイ

●大宴会はお御籤とともに
 御節、蟹、しゃぶ小鍋、刺身……他にもここぞとばかりに気合の入った豪勢な料理の並ぶ中、荒木 拓海(aa1049)を中心に乾杯の声が響く。
「みんな~あけおめ! 今年も頼むぞー!」
「あけおめ!」
「あけまして、おめでと!」
『本年も宜しくの』
 皆月 若葉(aa0778)と相方のラドシアス(aa0778hero001)が拓海の声に合わせてビールの満たされたを上げる横で、烏龍茶とお屠蘇で乾杯する魂置 薙(aa1688)とエル・ル・アヴィシニア(aa1688hero001)。拓海の横にいるパートナー、リサ……メリッサ インガルズ(aa1049hero001)のコップに入っているのはノンアルコールビールだ。なお、余談だが昨今のノンアルコールビールは意外なほど普通のビールに近く美味しいので、もしかすると拓海が飲んでいる普通のビールと比較しても味だけならば遜色はない。
「おお賑やかだね! よいしょっと」
 その賑わいの中、拓海達の横にちゃっかり自分の分のお酒を確保しつつ座る三ッ也 槻右(aa1163)。彼の傍らにいる隠鬼 千(aa1163hero002)の視線はお酒よりも御節に注がれている。流石によだれが垂れていると言ったことはないが早く食べたい、と言う気持ちが丸わかりである。容姿はもちろんのことだが、こうした子供っぽい面が何とも愛らしい。
「御節豪華だぁ、いただきます」
『いただきます。このエビさん甘いです!』
 槻右と一緒に手を合わせて、早速エビに舌鼓を打つ千はリサと選び合った振袖姿だ。もちろん、リサも同様に千が選んだ着物姿でありそれに合わせて羽織袴で来たというのに拓海の顔はリサを見ると時折赤くなっているように見える……まだ一杯目なので恐らく酒のせいではないだろう。普段からあまりにも身近だと、こうした時の変化は一際美しく見えるものなのかもしれない。
「リサさんも千も似合ってる! 拓海もかっこいいよ!」
 という槻右の言葉もよりそれを意識させてしまったのかもしれない。その槻右はといえば、若葉や薙にも新年の挨拶をして回り、ラドに酒を注いでもらっているところだった。
「若葉! 薙さん! 皆もあけおめ!」
『今年もよろしくな』
「わわ、ありがとう! おっと」
 ラドは酒に弱いがちゃんと自分なりのペースを守って飲んでいるし、流石にこんな早くに酔う程ではない。うっかり零れそうになったのはただ場の雰囲気に押されて注ぎすぎただけだろう。槻右も流石と言うべきか、しっかりこぼさず酒を吸う。この光景が妙に微笑ましい。
「美味しいっ」
「すげえ宴会だな! エージェントでよかったなぁ、ヴィー!」
『大した活動してないのに……出て良かったの……?』
 この場の盛り上がりにすっかりテンションが上がるルカ マーシュ(aa5713)に対し、遠慮がちな態度でマナー的に必要ではないか、と持ってきた料理を出すヴィリジアン 橙(aa5713hero001)。
「なんでサラダ持ってきてんの!?」
『正月料理って……生野菜食いたくなるじゃん……」
「わかります、口直しにいいですよね!」
 白金 茶々子(aa5194)がもきゅもきゅ料理を食べつつその意見に同意し、更にヴィリジアンの遠慮した様子に対しても答えをすっぱりと告げる。この辺は子供故の素直さだろう。取り皿にあった料理を食べ終えるとしっかりヴィリジアンの用意したサラダも食べ始める。
「遠慮なんてしなくていいんです! みんな遠慮してないんですから、気にする方が変ですよ」
『そ、そういうものだろうか?』
「そういうものです!」
「ハハッ、その通りだな! ヴィー、せっかくの宴会なんだし楽しもうぜ!」
 結局、2人の勢いに飲まれてしまったがヴィリジアンはそれも悪くない、と思ってそっと目を伏せる。それからは下戸で寒がりということもあって温かいお茶を飲みながら、数の子・田作り・チョロギにハマって延々とポリポリかじっていたので実のところこれが肩の力が抜けた姿、なのかもしれない。傍目に見るとまるで小動物のようで、何とも言えない愛らしさがあった。一方のルカは味の餅に挑戦していた。
『喉に詰まらせるとかベタなボケはすんなよ……』
「あー、ヴィー詰まらせそうだよねー。飲んでるのもお茶ばっかだし……おじいちゃんかっ」
『余計なお世話だ』
 ノリノリ、というか宴会の空気に任せてはしゃぐルカをたしなめるヴィー。そんな一幕があったころ、薙達は初詣の話題に移っていた。きっかけは薙がさりげなく尋ねたところからだ。
「初詣は、どうする予定?」
『皆で行くのも有か』
「いいね、いつにしよう?」
 珍しくラドの提案し、若葉が乗った。そこでエルが具体的な日程の相談に移る。
『三が日の内が良いだろう』
 そんな話をするうちに、皆で出かけたいイベントは初詣だけではないと気付く。
『来月には椿祭りか……』
「また射的勝負したいね……今度は俺が勝つよ?」
『もうそんな時期か』
 若葉も薙も、以前の雪辱を思い出したのかあからさまに対抗心が燃え上がっている。
「次は、僕が勝つから……出かける予定、いっぱいだね。ね、エルル」
 そこで向けられた薙の視線を察し、苦笑するエル。
『ああ、わかっておる。大事に使うのだぞ』
「やった♪ ありがと!」
 渡されたポチ袋に喜ぶその姿は、まるで小さな子供のようだ。だが、そんな様子を馬鹿にするようなものはいない……むしろ微笑ましいものとしてにこやかな視線が注がれているのだが、本人はそんな事すら意に介していない。
「……ラド、俺には?」
『……あのな』
 残念ながら、お年玉はみんながみんなもらえるものではないのである。がっくりと膝を折る若葉を痛々しい、あるいは大人げないと見るべきか、呆れるラドに同情すべきかは意見が分かれるところだろう。また、同時にお年玉を渡すのも常に英雄側からと言うものでもない。
「はい、千。お年玉だよ、大事に使ってね」
『わー! 感謝です』
 受け取った袋を落さないように大事に仕舞うと、今度は千からお返しがあると言いだしてきた。そして出てきたのは1つの箱。丁度手を入れる穴が開いており、中にはいくつもの紙が見える。最早、説明の必要も無いのではないかと言った代物だ。
『実は私からも用意したんです。リサ姉も協力下さいました』
「おお? なんだろ?」
『じゃーん、御神籤です!』
「ふふ、引いてもいい?」
『勿論です!御神籤の指令達成で景品をプレゼント!』
「へぇ、何が貰え……ぶはっ!」
 軽い気持ちで引いた籤の指令に思わず吹き出す槻右。書かれていた指令は【膝枕】。
「ちょ!? え?」
『相手は拓海で、ですよ? 拓海に判定をお願いします。景品はリサ姉秘蔵、子供拓海の写真1枚!』
「まじでっ!? 可愛い……」
 結局写真に釣られ、照れつつ拓海の膝で膝枕。それを見届けると、実にいい笑顔で写真を渡す千。
『はい。3枚あるので3回引けますよ? 拓海も引きません? 子供主の写真も完備です!』
「まったく新年早々……悪くない」
 そう言って惹かれた籤に記されてる【大吉】に笑みを見せる。そしてそこに書かれた指令は【プロポーズ再演】。楽しむ主義故に、ノリ良くはめを外し無駄にキリっとした表情で正座し槻右と向かい合い手を握る。
「結婚しよう……ってか、そろそろ受けてよー!」
 槻右は赤面し悶えてしまい、その姿には満足なのだが受けるどころでなくなってしまい都合4度もやる羽目になった。面白いので構わないと言えば構わないが、流石に4度も続くと周りが冷めてしまわないか不安ではある。しかし、実際はそんな心配は無用で引き続き惹かれた籤とその指令で大いに盛り上がっていたのだった。
「はい、ラドの分」
『……は?』
 早速1枚引きラドに押付ける若葉。そのお御籤に書かれていた指令は【ハグする】。薙のラドを見る目は明らかにわくわくしていた。
『……やればいいんだろ』
 場の雰囲気に負け、視線に堪えつつエルを優しく抱きしめるラド。見れば、耳が赤く鼓動も早いのがわかる。その抱擁に、エルはギュっと抱きしめ返し、嬉しさ余り余ってそのまま頬にキスをする。
『……っ!?』
『……きゃー』
 その様子を見て思わず声を上げるリサ。一方キスをされたラド本人はその驚きに言葉を失う。続けてエルも籤を引き、出たのは【膝枕】。
『……! 出たわね、2枚目の【膝枕】!』
『なっ……まだ続くのかっ!』
 もはや神のいたずらとしか思えないこの籤の続き方にリサが目を輝かせる。
『するかされるか、どちらが良い?』
 楽し気に笑みを見せるエルの問いに、ものすごく気恥ずかしいながらもする方を選択するラド。エルとしてはもうその照れる様子を見るだけでも大満足だ。照れるラドが見られるならどちらでも良かった、と言うのは言わぬが花だろうか。一方、槻右はといえば気が付けば3回拓海の膝に座て、拓海にあーんしたりしていた。ここまで来るとナニコレ怖い、と言いたくなる引きである。
『成功です!』
 と言ってリサとハイタッチする千を見ると意図的だった可能性はないでもない……と言うよりかなり高く十中八九確信犯だが、ともあれ楽しい時間が過ごせているのなら何も問題は無いだろう。ちなみにラドに押し付けるだけ押し付けておいて、若葉は自分は引かなかったためそう言った恥ずかしい思いをしていないのはちゃっかりしているといえばちゃっかりしているがそんな事が許されるはずもなく後でしっかりラドがお説教することになった。

●パフォーマンスだヨ! 全員集合!
 宴会が盛り上がりだしたころ、ステージでのパフォーマンスが始まった。まず出てきたのは麻生 遊夜(aa0452)とユフォアリーヤ(aa0452hero001)。
「派手に、ね……ならあれをやるか」
『……ん、訓練の成果を……見せる時』
 まずは丁寧に、揃って客席に礼、次いで互いに礼をすると距離を開けてガンファイトのように向かい合う。フンス、と鼻息も荒く気力を見せるユフォアリーヤはもとより、遊夜もまた実戦では使えないが故の全力をここに、この演武に注ぎ込むつもりであった。
「それじゃいつも通りにな」
『……ん、準備運動』
 ユフォアリーヤがこくりと頷き、コインを弾く。そのコインが地面に落ちたタイミングでペイント銃を撃ち合うと、早速その妙技が披露された。弾同士が衝突し続けることで、ペイントは互いに被らないようにしつつ真ん中で派手に弾けたのだ。準備運動、と言うには相当に派手で難易度も高く、これだけでも十分なパフォーマンスと言える出来だ。
(射撃の腕はリーヤの方が上だが俺だって負けてはいないのだ! おとーさんの意地である!)
 ということでユフォアリーヤに負けないよう遊夜は内心嫌な汗をかいていたのは秘密だ。次いで用意されたのは無数の空き缶。これを会場の中を回りながら色々な場所に配置していくと今度はリーヤと共鳴してグラセウールに換装、と同時に缶に向けて発砲する。上に向けて弾き跳ぶように狙い撃ち、そのまま缶が地面に落ちないよう弾き続けるという見事な技を披露する。
「ゲームや映画を見て体得した業だが……やはり上手く行くと壮快だな」
『……ん、ロマンだねぇ』
 リーヤはくすくすと笑っているが、ロマンはとても大事なものである。動きが安定してきたところで、弾く缶を増やしていき、時にダンシングバレットやテレポートショットまで使って調整しつつミスなく続けていく。そのまま、弾丸の数を確認し弾き続けていられる限界が来たところで缶が地面に落ちる前にバレットストームで一掃して終了、とまさにエージェントだからこその派手な技を披露し終えるとわっと拍手が降り注ぐ。
「ふう、何とかうまくいったな」
『まだだよ……退場までが、パフォーマンス。次の人も、待ってるから』
「あっといかん、そうだった」
 リーヤの指摘にハッとして一歩遅れて礼をしたのは、まあご愛敬と言ったところか。そうして2人が退場したのだが、次のパフォーマンスを始めるには少々問題があった。何せ派手に撃ち合ったり射撃パフォーマンスを見せたりしたはいいが、弾丸は全てペイント弾である……つまり、ペイントでステージも外周も派手に汚れていたのだ。後始末までは考えていなかったツケではあるが、流石にこの状態で次にステージを渡すわけにもいかず一旦掃除タイムが取られた。そこに駆り出された職員達やリーヤの白い視線が痛い……パフォーマンスの出来は完璧と言っても良いほどだったが、新年早々、それも決戦を控える身で注がれるにはあまりにも悲しい視線を受けて下がると、酒を煽る遊夜。その後ろ姿は、何とも言えない哀愁が漂っていた……。
 そして、次に出てきたのは春月(aa4200)。実は彼女は新年会の前からパートナーのレイオン(aa4200hero001)を困惑させていた。
「新年会だって! 踊る! どんなダンスがいいかな? テクノ? ポップ? 最近流行のUSA?」
『新しい年に相応しいのがいいね』
「新年に相応しい!? めでたい踊りだね!」
『めでたい……?』
 そんなわけで大物俳優が金色の着物を着て踊るサンバを踊る事にした。春月はレイオンにスマホで動画を見せながらハイテンションで説明する。この段階からまるで当日ではないかと言うノリであった。
「うち腰元ダンサーズやるからさ! レイオンはこの金色の着物着てさ……!」
『……髪の色と被るから遠慮しておくよ』
「大丈夫だよ! ヅラも用意するからっ!
『いや、僕は裏方をやるから……!』
 そんな攻防が数時間にも及んだ末に春月が折れ、当日の今日レイオンは裏方だ。
『あ、春月さんだぁ!』
 ステージに上がったその姿を千が噛り付くように見つめる。その視線に応えるように春月がウインクするとBGMが流れ始める。
「いいよねこの歌! 問答無用で楽しくてめでたくって! お父さん……是非この金色の衣装を!」
「オレ!?」
 まさかの巻き込みだがノリのままに衣装を上から羽織り踊る拓海。更に春月の暴走は止まらない。
「他の衣装も小物もいっぱいあるよ! 三ッ也お兄ちゃんは青……お父さんに合わせて銀!?」
 金以外にも青、ピンク、銀等のスパンコール衣装を色んな人に押し付け押し付け。こうなるともうステージ上、下関係なく会場それ自体がステージと言っても過言ではない。そんな勢いで次々と周囲を巻き込み、気が付けば右も左も眩しいスパンコール衣装を羽織って踊っており、その中心で楽しく踊る春月。リサと千も舞台下で手拍子を叩き、踊る……その楽しげな様子を、照明係のレイオンは苦笑しながら見届けるのだった。
 そうしてダンスが終われば、春月もまた腰元衣装のままメリッサにくっついて拓海達の宴会の輪へと入っていき、お御籤の景品である写真を嬉々として眺める。ちなみにお御籤の指令であったプロポーズ再演、膝枕はがっつり見ていたため輪に入るなり彼らに
「はあー、いいね、めでたいね!」
 なんて言って煽っているのかと怒られたのは玉に瑕だ。一方、拓海は槻右の写真幼稚園・ランドセル・学ラン姿の写真を見てご満悦。
「……面影残ってるなぁ」
 しかし、見ていて面白いのは例え身内であってもあくまで『他人だから』であり、自分のものとなれば話は大きく変わってくる。
『見る? まさに元気な悪戯っ子よ』
 なんてリサがスマホを取り出して春月に幼児・体操着・海パン・半被・叱られ正座といった画像を多数見せると即座に羞恥で声を上げる。
「ストーーップ!!」
 まるで共鳴して戦闘をしているのかと言わんばかりのスピードでスマホを没収……しようとしたがこちらも当然抵抗され、お互いに大人げないほどの喧嘩の末に新作バッグと交換で手打ちとなった。かかる費用を考えるとこれもある意味お年玉、と言えるかもしれない。だが、お財布の中身と事実上の羞恥プレイを天秤にかけた結果であるからして、これはこれで必要な出費なのである。断じて、喧嘩したお詫びまで含まれているがゆえにこうなったわけではない。これはこれで、必要な経費なのである……大事な事なので2回言いました。
「僕にもっと魔法の力があればステージも出たのに!」
『酒飲んでもないのに変なこと言うなよ……』
 そのあまりの勢いに自分もやればよかった、と悔しがるルカにヴィーが呆れた反応を返すが、幸いと言うべきかまだ時間はある。何かがあれば、まだ見せるだけの時間はあるだろう。
 こうして過ぎる楽しい時間、と言うのはあっという間に過ぎていく……日も傾いた頃、若葉の表情が僅かに陰ったのを、薙は見逃さなかった。若葉の陰りが顔に出るのは珍しい……そういえば、酒に強いのは知っているがそれにしてもややペースが早かったようにも感じる……こうして考えだしてしまうと気になって仕方がなかったため、彼を静かに過ごせる個室へと誘ったのだった。

●想い明かす新年会の夜
「何か、あった? 抱え込んでる事があるならと聞くよ」
「……参ったな」
 薙に指摘され力なく笑うと、若葉は胸の内に会った不安を打ち明けた。この新年会の話が上がった時、考えないようにしていた事を明言された。皆が無事戻れる保証はないし、もし『王』を倒したら英雄がどうなるかも分からない……何が正解か分からなくて、自分の無力さを痛感して、押しつぶされそうなほど不安になって……それでも、皆に心配はかけたくないと言う気持ちはあって。どうすれば良いのかと考えがまとまらなくなり、こんなに自分は弱かったのかと、更に落ち込んでしまう。そんなマイナスの思考のループに陥ってしまっている若葉を、薙は優しく抱きしめて落ち着かせる。
「……大丈夫。大丈夫だよ」
 薙もまた、ずっと考えていた事をぽつりぽつりと話す。薙の心の内には、かつて聞いた言葉があった。
 会議室で商人は言った……ライヴスは王のものではない。獅子将は言った……ライヴスは想いの影響を受けると。だから、英雄は絶対大丈夫だと。だから、薙はそう在れと望む事にした。
 でもきっと論なんかじゃ不安の全ては拭えなくて。これは若葉も薙も同じ事……だから少しでも不安が軽くなるようにと抱きしめる。
「……もう大丈夫、ありがとう」
 落ち着いた若葉は、そう言って笑顔を返す。そうして会場に戻ると、ラドは戻った皆月の変化に気付いて微笑む。
『……薙、ありがとな。これからもアイツを頼む』
 ラドに笑みを返す薙を見て、エルはそっと目を伏せると会場へと戻っていく……無論、薙を心配しての事だがパートナーの様子を心配していたラドの事も、また心配だった。しかし、2人の表情を見る限りどちらも問題は無いだろうと思えた。直接聞いたところで答えてくれはしないだろうが、エルの中ではもはやこれは確信だった……だからこそ、あえて何も言わずただ新年会を楽しむ。わざわざ余計な事を言わないのもまた1つの美徳と言うものであり、彼女の大人の魅力の1つ、ともいえるだろう。
 2人のように不安を吐露する者もいれば、そうはせずただゆったりと新たな年の始まりを過ごす者もいる。リサと千、拓海と槻右がそうだ。拓海の手には酒とリサのスマホがあり、話に花が咲く。隣の個室からも、賑やかな声が聞こえてくる。女三人寄れば何とやら、という言葉があるが彼女達に関しては2人でも全く問題ないようだ。しかし、そんな賑やかさも外の喧騒も、こうして過ごしていると嘘のように静かでせいぜい少し大きめのBGM程度にしか感じない。
 今回の新年会は最後の晩餐、というつもりならば随分と悪趣味な事だ……拓海は、実のところそんな思いが無かったわけでもない。実際、そう思ったものも少なくないのか思いの外宴会の規模は小さく感じられないことも無かった。だが、実際に来てみればこの時間は良いものだとはっきり感じられる。決戦を控えて緊迫した状況にあって、これほど穏やかな時間を過ごせる機会などそうはない。宴会では少々調子に乗りすぎたのか酒が入っていたところに、春月に巻き込まれて踊ったためか酔いが一気に回ってしまっている……だがそれで火照った体に、夜風が心地良い。傍らにいる槻右のパートナーである千、そしてそれこそ長い時を一緒に歩んできて、妻と呼んでも差し支えないだろうメリッサ……隣の部屋ではしゃぐ2人は英雄であり『王』を倒した後どうなるか全くわからない。もしかしたら槻右も拓海も、その事を考えないためにこうした部屋割りで個室での時間を過ごしているのかもしれない。
「まったく、柄にもない……」
「そうだね、柄にもない」
 その考えが、顔に出ていたらしい。もしかしたら直接口にも出してしまっていたかもしれないが槻右は何も言わない。ただ、一緒にいるだけだ……それだけの事で、こんなにも安心できるというのは全くもって不思議だ。しかし、ともすれば不安と悪い考えの海に沈んでしまいそうな中でこれはありがたい。だからこそ拓海もただ何も言わず、静かに時を過ごすことを選んだ。隣の部屋にいる2人は、逆に目一杯騒いで、楽しむことを選んだのだろう……その声がやむことはなかった。
 迫間 央(aa1445)とマイヤ サーア(aa1445hero001)もまた、同じように静かな時間を過ごすことを選んだのだが彼らはもっとわかりやすかった。宴会の席では挨拶回りを済ませるとお茶と醤油の海苔巻きやきなこ餅といった各種お餅ををいただいて足早に別室へ向かったのだ。そうして一息つくとマイヤが央の隣に座り声をかける。
『……お疲れ様』
「あぁ、マイヤもな。騒がしいのは好きじゃなかったのに、付き合ってくれてありがとう」
『……2人揃ってH.O.P.E.のエージェントだもの。別に構わないわ。それに』
「……それに?」
『家に帰れば2人きりだもの。それを大事に感じられるのだから、少しなら、こういう時間も悪くないわ』
「……そうだな」
 央だって、挨拶回りなんて本当は苦手な事をマイヤは知っている。本当は家で寝ていたい筈なのに、マイヤ達の将来生きていく社会の為に、少し無理をしてこういう時間を作って顔を売ってくれていることを、知っている。
 央が自分のために、時間も手間も割いてくれている事に比べれば、多少の喧騒の中で彼のパートナーとして見られる事に不満などある筈もない。それでも……否、だからこそ、言葉をかけずにはいられない。
『御用納めの後でも、ずっと依頼やお仕事が続いていたんだもの。最低限の用事を済ませたら、帰って家で休みましょう』
「ん……ごめん。心配かけちゃったか」
『……来年は、ゆっくり出来るといいわね』
「うん、そうだな。今年も宜しく、マイヤ」
『……えぇ』
 そう、彼らは信じる。『王』を倒せば、全てが終わると……その次の年明けくらいは、ゆっくりと穏やかな時間を過ごせると。今も穏やかには違いないが、全てに安心できる時間ではない。これから先は、また厳しい戦いが待っていると考えればほんのわずかな休息にすぎない。それは本当の意味でゆっくりできているのかと言うと、疑わしい。だからこそ、来年こそはそうした煩わしさもなくゆっくりと過ごしたい……それは、切なる願いだった。その願いを胸に、今は静かに持ってきたお茶とお餅を楽しむ。このお餅はルカが薦めてくれたもので、海苔巻きは時間がたって少しパリパリ感が失われてしまったものの、鼻に抜ける海苔の香りは変わらず心地良い。きな粉餅はその優しい甘さが気持ちをほっと落ち着けてくれる。その香りと味わい、温かいお茶はこのつかの間の安息を、より心地良いものにしてくれた。
『お茶とお餅だけで、これほど穏やかな気分になるのですね』
「ああ、そうだな……」
 食べることは生きる事、と誰かが言った。美味しいものを食べれば、人は自然と笑顔になるものだ……それは、いつの時代も変わらない。そんな簡単な事も、もしかしたら忘れてしまっていたのかもしれない。そう考えると、2人の笑顔に思わず苦笑が混じる。難しく考える事などなかったのだと。ただ、2人で美味しいものを食べる……それだけでも驚くほど満たされる時間がやってくるのだ。そう考えると、不思議と空腹感も湧いてくる。
『せっかくですし、もう少し何かいただいてきましょうか』
「ああ、せっかくの新年会だし御節からいくつかもらってこようか」
 そんな事を話して、笑い合う2人……それは普段から真面目な雰囲気を漂わせている彼らからは想像もできない微笑ましい光景だった。
 茶々子もまた、個室で美味しいお料理を静かに食べながら最後の戦いへの想いを整理していた。央とマイヤがふとしたきっかけで思い出したようなことをほとんど意識せず実行しているあたり、将来意外と大物になるかもしれない。
 それにしても、HOPEに来て色々なことがあった……最初は弱い従魔相手にも泣いてしまっていた。でも、最近では仲間と協力しながら中堅クラスの強さの愚神相手であってもにほぼほぼサポートメインながら頑張って戦っている。そう考えると、色々とあったけど自分は成長できたかなという感慨深い思いが湧いてくる。そして、『王』への決死隊「夢」で戦っている自分の従兄弟に対する憧憬も、同じだけ強くなってくる。自分の強さを信じて、ここまで頑張って来たけど後もう少し。もう少しだから、この新年会を企画してくれた職員達のこの機会を目一杯楽しんで頑張ってほしい、という思いを料理と一緒にかみしめる。新年会に盛り上がる皆は、やはり楽しそうだ。皆も、同じような思いなのだろうか。
「戦いが終わったら、パパとママのところに帰れるかな……?」
 その言葉に答える者は、誰もいない。でも、その静けさがかえって気を引き締めてくれるようで、小さな両手にぐっと力が入る。。パパとママのところに、無事に帰るためにも負けられない……怖いのは今更だ。だからこそ『王』がなんだ、と力強く拳を掲げる。自分の幼さも、力の弱さも知っている……直接『王』を倒すことはもちろん、対峙する事すら難しいだろう。だが、それでもできる事はある。エージェントは皆、一人じゃないしできることは違うというのも、良く知っている。だから、出来る事を全力でやる……それだけでいい。それだけの事を、後わずかな間頑張ればパパとママのところに帰れるのだ。今のこの場には来ていないけれど、いざと言う時一緒にいてくれる英雄はいる……彼女と一緒なら、それくらいはできると茶々子は信じる。
 迫る決戦に対して抱く思いはみんなそれぞれだ。不安と恐怖に潰されそうになる者もいれば、そうでないと信じる者もいる。かとおもえば、悪い考えを振り払うためにも考えないようにして静かに過ごしたり、逆に明るく振舞ってみたり。
 楽しい思い出を作る時間も、これで終わりではない。初詣もあれば椿祭りもある。2月にはバレンタインデーが待っているし、3月には雛祭り、春になれば花見もできるしゴールデンウィークの長期休暇もどこへ行こうかと考えると思わず迷うそうなくらい取れるだろう。夏になれば海で泳ぐ機会もあるだろうし、秋には月見やハロウィン、季節がもう一巡りすればクリスマスも大事な思い出になるだろう。今年の新年会はこれで終わりだが、人の時間は終わりではない……だから、今を楽しむのだ。お酒に食事、恋愛、そして静かに過ごす時間……それら全てがこれからに続く。続かせるために、『王』との決戦は避けられない。それがわかっているからこその、この新年会なのだ。
 最初に言われた通り、そして誰もが感じている通り、戦いの後で英雄達がどうなるかはわからない。この新年会の本当の意味は、ただ英気を養うというだけではなくそれも踏まえた思い出作りの一環でもあるのだ。それがわかっている者が何人いるかはわからないが、確実にいるのは確かだ……あるいは、皆知っていて口に出さないだけかもしれない。ただ、その機会は尊重するべきだろう。だからこそ、知っていても言わない。それが正しいと信じて……。
 最初は耳が痛くなるほどの喧騒に包まれていた新年会も、こうして夜を迎えると驚くほど静かなものだ。そして、静かだからこそ皆大事な人と個室で静かに語り合う……ただ騒ぐだけが新年会ではないのだ。思えば、全員空気は読んでいただろう……普段ならば悪ノリしてあからさまにおかしい量の料理や変わった食材を持ってきたり、サンバだけでなく派手なロックがステージで披露されたりしてもっとやかましいことになっても珍しくはない。だが、そんな事もなくむしろ静かに過ごす時間も大事にされているあたりはそう考えた方が自然だ。別段、気を使う必要などは無かったのだがそれは各々の気の持ちようもあっただろう。もしかすると、単にこれから先を思うととてもはしゃいでいられない、と言う部分も少なからずあったのかもしれないがそれらを踏まえても今こうしてエージェント達は新年会を大いに楽しみ、大事な思い出を作る時間としてくれた……それだけでも、送り出す職員達の思いのいくらかは報われるというものだ。
 ともあれ、後は日が昇って後片付けをしてしまえば楽しい時間も終わり……後にはもはや想像もできないほどの過酷な戦いが待っているだろう。限られた時間の中での、束の間の平穏がエージェント達にとってどれだけの励みになったかはわからないが、こうした配慮もまた、戦いの1つである……先行きがわからない以上、出来る限り元気づけたいと思うのは当然。その機会を作る、こうして派手に祝うのも当然。願わくば、次の祝いは最後の戦いを勝利で飾っての祝勝会であってほしい……もしそうであるならば、もっと人を集めよう。もっと大きなステージを用意しよう……そんな思いもある。その時はきっと、御節やお餅ではなく大きなケーキで祝うだろう……『結婚式か!』なんてツッコミが入っても面白い。とにかく夢が広がっていく……今はただ、その夢が現実になり、エージェント達が英雄達と共に戻ってきて次の盛大なパーティーの機会となることを祈るばかりである。

結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 来世でも誓う“愛”
    麻生 遊夜aa0452
    機械|34才|男性|命中
  • 来世でも誓う“愛”
    ユフォアリーヤaa0452hero001
    英雄|18才|女性|ジャ
  • 共に歩みだす
    皆月 若葉aa0778
    人間|20才|男性|命中
  • 温もりはそばに
    ラドシアス・ル・アヴィシニアaa0778hero001
    英雄|24才|男性|ジャ
  • 苦悩と覚悟に寄り添い前へ
    荒木 拓海aa1049
    人間|28才|男性|防御
  • 未来を導き得る者
    メリッサ インガルズaa1049hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • 拓海の嫁///
    三ッ也 槻右aa1163
    機械|22才|男性|回避
  • 分かち合う幸せ
    隠鬼 千aa1163hero002
    英雄|15才|女性|カオ
  • 素戔嗚尊
    迫間 央aa1445
    人間|25才|男性|回避
  • 奇稲田姫
    マイヤ 迫間 サーアaa1445hero001
    英雄|26才|女性|シャド
  • 共に歩みだす
    魂置 薙aa1688
    機械|18才|男性|生命
  • 温もりはそばに
    エル・ル・アヴィシニアaa1688hero001
    英雄|25才|女性|ドレ
  • そうだよ、楽しくやるよ!
    春月aa4200
    人間|19才|女性|生命
  • 変わらない保護者
    レイオンaa4200hero001
    英雄|28才|男性|バト
  • 希望の守り人
    白金 茶々子aa5194
    人間|8才|女性|生命



  • 魔法マニア
    ルカ マーシュaa5713
    人間|19才|男性|防御
  • 自己責任こそ大人の証
    ヴィリジアン 橙aa5713hero001
    英雄|25才|男性|カオ
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