本部

Mini marguerite

秋雨

形態
ショート
難易度
やや易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
7人 / 4~8人
英雄
7人 / 0~8人
報酬
無し
相談期間
5日
完成日
2018/12/22 09:41

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秋雨
ゆきひら

掲示板

オープニング

●冬の足音
 東京某所。駅のホームには帰路に着く男女が多く、しかし日本人らしくキチンと並んで待っていた。

『まもなく、2番線に電車が参ります。黄色い線の内側に──』

 アナウンスが流れ、電車から人が次々と降車する。一体何人乗っていたのかと思うくらいの人混みが改札に殺到し、駅前の広場でようやくばらけていった。
 電車の中は暖かい──むしろ暑い気すらする──が、外へ出れば冷たい風がお出迎え。寒さをしのぐべく慌てて手袋やマフラーをするサラリーマンも見受けられる。

 そう、冬が訪れたのだ。

 11月も終わり、町は来たるクリスマスに向けてその様相をがらりと変えた。
 駅前の広場には大きなクリスマスツリー。
 駅周辺の店からは鈴の鳴る音楽が流れ、カフェなどにも季節限定メニューが登場している。
 駅に併設されたデパートも至る所がクリスマス仕様。勿論商品もクリスマスに由来する物や、プレゼントにと選ばれそうな品物が陳列されている。
 そして、何処にも共通することと言えば──カップルと思しき男女が多い事だろうか。

 偶然そこを通りがかっただけかもしれない。
 または友人と計画してパーティのグッズを集めに来たかもしれない。
 或いは恋人への贈り物をこっそり買い求めに来た、とか。

 理由はともあれ──あなた達は、どんな時間を過ごしているのだろうか。

解説

●できること
 駅周辺でひと時を過ごす

●内容
 割とフリーアタックなシナリオです。
 場所の指定は東京某所の駅周辺、なのでOPに描写がなくてもファミレス等もあると思います。よほどのものでなければあるでしょう。
 デパートで買い物をしても構いませんし、近くのカフェでほっと一息いれても大丈夫です。デートもばっちこい。
 時間帯はお任せ致します。OPだと夕方~夜ですが日中でも大丈夫です。未記載の場合は当方が良い感じに判断して描写します。

リプレイ

●クリスマスは戦いである
 子供は欲しいものに正直だ。そして感想も同様である。
「うし、では気合入れていくか!」
「……ん、考えることは……いっぱいだから、ね」
 駅前、玩具店入口。麻生 遊夜(aa0452)の声とユフォアリーヤ(aa0452hero001)のくすくす笑いが響く。
 彼らが送る相手は総勢30名。過去の誕生日やクリスマスとは異なり、かつ子供同士でも似たプレゼントにならないようにせねばならない。
 正直、毎日の服や献立どころの悩みっぷりではない。しかし早急に決めていかないと売り切れる玩具もあるかもしれないし、何より時間が足りないのだ。
 遊夜は商品の数々と睨めっこし、そのうちの1つに目を留める。
「これ、は前のと似てるか……」
『……ん、こっちの方が……良いかな?』
 かくりと小首を傾げながらユフォアリーヤが隣の商品を指差した。記憶にある中に似たものは思いつかない。
 それをカゴに入れ、2人は特撮コーナーへ。変身ベルトなどが並んでいるが──。
「特撮物は前買ったよな?」
「……ん、今回はロボが……いいかも」
 頷くユフォアリーヤに遊夜はそのコーナーをスルー。隣のスーパー戦隊コーナーへ移る。
 男子に圧倒的人気を誇るこれらは、1回で戦隊物がいくつも作ることができる。買う側としても数が多いのはとても助かるのだ。
 暫くは孤児院内でスーパー戦隊ごっこが流行りそうだ、と思いながら遊夜の視線はさらに先のお人形コーナーへ。おままごとセットなども所狭しと並べられているが、遊夜はそちらへ行かずにユフォアリーヤへ視線を向けた。
「リーヤ、女の子用は任せた」
「……ん、了解だよー」
 ふさふさな尻尾がゆるりと揺れる。
 ここからはそれぞれで分担しての買い物だ。その方が効率がいいし、何より。
「難しい年頃だからなぁ、おませさんもおるし」
 ここで下手なものを選び、『おとーさん嫌い!』なんて言われようものなら──大ショックである。
 深い溜息を吐く遊夜の姿に、ユフォアリーヤはくすくすと笑いながら女の子用玩具の置かれた棚へ向かった。
 子供1人1人の喜ぶ玩具を選び、あるいは取り合いになったりしないよう同じものを幾つかカゴに入れ。
「あとはゲーム系か……確かこれが欲しいって言ってたよな?」
「……ん、個人用と……パーティ系、あとは…そろそろスマホ?」
 遊夜とユフォアリーヤは互いに顔を見合わせた。
 連絡ツールでありながらゲームもできる電子機器。玩具に靡かなくなってきた年長組の中でもちらほらと「スマホ」という単語が出始めている。
「皆大きくなってきたしな、まぁ大丈夫だろ」
 遊夜は悩むユフォアリーヤに頷いた。
 ネットもアプリも節度をもって遊べば良い。その辺りのルールは皆で決めるだろうし、我が家には──最強の、頂点たる母がいる。
「……ん、そうだね……皆良い子だし……大丈夫、悪い子にはオシオキだから」
 ニッコリ。
 ユフォアリーヤの笑みに遊夜は思わず顔を引きつらせた。
(子供たちよ……頼むから、お母さんを怒らせないでくれ)
 まあやるなと言われたらやりたくなるのが子供であるが──お母さんの雷が落ちるかはまだ、わからない。

 ユフォアリーヤが事務所の方にプレゼントを送る手続きをしている間に、遊夜はそっとその場を離れた。気づいているかもしれないが、手続きはまだ終わらないはずだ。
(こういう時でないと、奮発したサプライズはできないからな)
「……お、このレザーブレスレットは良いな」
 購入してラッピングをしてもらい、周囲の店をぶらぶらと見て回る。
 そろそろ戻らなければいけないだろうか──そう思った矢先、肉屋が目に入った。クリスマスが近いからか、パーティなどで出そうな良い肉が並んでいる。
(ローストビーフか……いいな)
 2人で食べるか、と遊夜は肉屋の店員へ声をかけたのだった。

●見るもの珍しき
「お祭りなのね? キラッキラなのね!」
 わーっと走っていき、広場をぐるぐると走り回る。そんな破魔鬼(aa4756hero002)の姿を見ながら、小宮 雅春(aa4756)は「元気だなぁ……」と呟いた。
 破魔鬼はあっという間に戻ってくるとあれ、と線路の上を走る電車を指差す。
「でっかい箱が滑ってるのね?」
「あれは電車。あれに乗って仕事に行ったり、遊びに行ったりするんだ」
 小さく人が出入りする様子が見え、破魔鬼は感心するように声を上げた。──が、続いた言葉は。
「ハバキが共鳴してぶつかりあったらどっちが強いのね?」
「どうしてきみはそう発想がバイオレンスなのさ!? 共鳴してもそんなこと試さないからね!」
 破魔鬼がえぇ、と不満げだがそんな強さ比べはしたくない。
 しかしそれはそれとして、破魔鬼は電車が気になって仕方ないようだった。
「乗ってみるかい?」
「良いのね? 乗ってみたいのね!」
 キラキラと瞳を輝かせる破魔鬼と共に、切符を買って雅春は電車に乗り込んだ。アナウンスが流れて扉が閉まり、ゆっくりと電車が動き始める。
 あっという間に速度を上げた電車に破魔鬼ははしゃいで窓の外を見た。
「速いのねっ! ハバキの足より速いのね~!」
「ほらほら、電車の中では行儀よくしないと駄目だよ」
 はーいなのね、と返事をしつつも破魔鬼はそわそわ。電車の電子掲示板を見上げたり、窓にべったり張り付いたり。
(……子供がいたら、こんな気持ちなのかな)
 雅春はふとそんなことを思って、心の内で苦笑した。
 自分の子供なんか想像もつかないというのに、破魔鬼を見ていると保護者のような心境になる。
「……破魔鬼さん、次の駅で降りようか」
「えぇー、もうちょっと見ていたかったのね」
 声をかければ、残念そうにしながらも破魔鬼は雅春についてきた。
 雅春もあまり降りたことのない駅だ。迷わないよう、駅の近くをぶらぶらと散歩していると破魔鬼が唐突に声を上げる。
「こみぽち、あれが気になるのね!」
「あれ……クリームソーダ?」
 ショーウィンドウに飾られたクリームソーダのサンプル。どうやら喫茶店のようだ。
 そういえばだいぶ歩いたかもしれない。ここらで少し一息つくのも良いだろう。
 喫茶店に入り、雅春はコーヒーを。破魔鬼はクリームソーダを注文する。
「すごいのね、アワアワなのね!」
「破魔鬼さん、大きな声を出すと他の人がビックリしちゃうよ」
 そう言えば破魔鬼は周りを見渡し、やや声量を落として雅春にすごいすごいとクリームソーダの感想を言い始めた。
 彼女の言葉を聞きながら、雅春は小さく目を細める。
 なんてことのない日常だ。けれど当たり前にあるこの景色も、王の侵攻を許せば全てが消えてしまうのだろう。
 雅春にとって、世界を救うなんて柄じゃない。──けれど。
「無視はやーなのねー!」
 的確な破魔鬼のチョップが雅春の鳩尾に入る。ぐえ、と思わず声が漏れた。
 見れば、すっかり拗ねた表情の破魔鬼がふんすと鼻を鳴らす。
「こみぽちはワキが甘いのね」
(……このなんでもない風景がいつまでも続いて欲しいと願うくらいは、いいよね)
 願いは口にしないけれど、胸の奥に。
 雅春は破魔鬼の機嫌を直すべく、1から彼女の言葉を聞き直すことにした。

●遭遇
「「あ」」
「「あ……」」
 2人と2人がばったり出会う。前者は親友同士なエージェント2人で、後者はその英雄たちのものだ。
「若葉!」
 嬉しそうに声を上げた魂置 薙(aa1688)は皆月 若葉(aa0778)の隣にいるラドシアス(aa0778hero001)を見てハッとした。
(……ラドさんがいる、エルルも、いる……!)
「エルル、若葉と、遊びに行ってくる!」
「は、」
 思わず目を丸くするエル・ル・アヴィシニア(aa1688hero001)。一方の若葉も目を瞬かせたものの、薙の目配せににこりと笑いかけ、
「行ってくるよ!」
「おい、若葉、」
 ラドシアスの制止が入る前に2人はさっさと退散──ではなく、遊びに行ってしまう。
 残されたラドシアスとエルは、思わず顔を見合わせた。

●贈り物選び
「自分用にも欲しいのや気になるのが有れば言えよ?」
「……うん」
 荒木 拓海(aa1049)の言葉に頷いたレミア・フォン・W(aa1049hero002)は小さく微笑み、拓海の手を握った。
 今日の目的は贈り物を探すこと。
「何を……おくったら……よろこんでくれるかな」
 自分にとっては何もかもが珍しいけれど、相手──第1英雄は何を喜ぶのだろうか。
「レミアからなら何でも嬉しいよ。大好きって抱きつくだけで破顔だ」
 そう答える拓海にレミアが視線を送る。その視線はほんの僅か、冷たいような気がして──彼が嫁に送るのはそれだけなのかと問われ、拓海の笑顔が引きつった。
「……すまん、具体的に考えような!」
「うん……あっちから……さがしてみる……?」
 指差された方から順番に店を見ていく2人。レミアがたこ焼きの店を見て立ち止まった。
「たこやき……食べたい」
「よし、一緒に食べるか!」
 列に並んで1つ購入し、空いている席に座ってはふはふと食べる。
 小腹を満たせば買い物再開だ。
「靴下セットやカーディガンならサイズフリーだ」
「ん……」
 服はあまりピンとこなかったらしい。
「銀でカラーストーンならお手頃価格で洒落たのが」
「……うーん?」
 装飾品も何かが違う。
 贈り物を探すレミアの表情は真剣で、けれど見たことのない商品に目移りしてしまう様子は大変可愛らしい。
 不意に拓海は袖を引かれた。
「クレープ屋さん……かわいい」
 その視線はワゴンのクレープ屋に。しかし正確に言えば、その視線はクレープ屋の──メニューに注がれている。
 気づいた拓海はにこりと微笑んだ。
「判ったよ。レミアはどれが食べたい?」
「……これ」
 そうして買ったのは生クリームチョコバナナカスタードとシーチキンサラダのクレープ。傍のベンチに腰掛け、互いのクレープを食べさせてもらったり。
「次はどこに行こうか?」
「ふだん……つかうもの……見たいな」
「じゃあ日用雑貨の店に行こうか。そうだ、服は見たけど鞄とかまだ見てないな」
 クレープを食べ終わり、腹ごなしに歩いているとレミアがぴたりと寄り添ってきた。
 勿論嬉しくないわけがない──だが。
「レミア……珍しいな? 何かあったか?」
「あのね……たくさん甘えなさい……タクミが喜ぶわって……」
 言う者は1人しか思いつかない。
(あいつ……)
 苦笑いを浮かべているうちに、2人は日用雑貨店へ到着。
 入浴剤やボディーソープを勧めてみるが、
「初めて……おくるから……残るのが」
 レミアは緩く頭を振る。鞄も見てみるが、毎日使うかと言えばそうではない。
「タクミ……アイス……」
 次にレミアが指差したのはアイスの店。
 先ほどのクレープといい、甘いものには惹かれてしまうらしい。拓海は思わず微笑み、3段重ねのアイスを買ってレミアに手渡す。
 ひと口食べたレミアは小さく目を見張った。
「さむい……のに、おいしい……」
 ぱくぱくと食べ始めるレミア。しかしやはり冷えるようで、小さくくしゃみをする。
 拓海は自分のマフラーをレミア掛けてやり、視線が合うよう腰を落とした。
「今日はここまでにしてまた来よう。見て回るのも楽しかったしな」
 だいぶ歩いたから、疲労も溜まっているだろう。レミアも素直に頷き、アイスを食べ終わると2人で帰路についた。
 ふと、寝具店の前で拓海の足が止まる。視界に入ったのは暖かそうな毛布。
 拓海の脳裏に多くの時間を寝て過ごす嫁の姿が映る。きっと枕と毛布が恋人に違いない──だが。
(……クリスマスに恋敵を贈ろうかな)
 くすりと笑った拓海に、レミアもその毛布を見る。
「あたたかそう……」
「レミアも欲しいか?」
 頷くレミア。第1英雄への贈り物もそれにすると言う。合わせて3枚か。
 嫁の英雄の分は? と問われて慌てる拓海。
「……っ! 忘れてないから、なっ!」
 結局自分の分も含めた6枚購入し、宅配サービスを頼む。
 セールをしているとは言え、やや痛い出費ではあるが──。
(──年越はTV前で茶色の塊が雑魚寝か?)
 なんて考えれば、不思議と財布も温かい気がした。

●協力戦
 さて、偶然出会った親友同士は。
「作戦成功だね♪」
「ね♪」
 なんて言い合いながらゲームセンターへ足を踏み入れていた。
「若葉、これは、どうやるの?」
「シューティングゲーム? 見ながらの方がわかりやすいだろうし、俺が1ゲームやってみるよ。これはね──」
 操作の説明をしながら画面に映る敵を倒す若葉。ノーミスで1ゲーム終わらせた彼に薙が瞳を輝かせる。
「……と、こんな感じ。次は二人でやってみよう♪」
 ほんの少し得意げな若葉はもう1台を指差した。これは協力プレイのできるゲームなのだ。
「うん……頑張る!」
 こうして始まった協力プレイ。薙は若葉のアシストにも頼りつつ、徐々に慣れていった。
(見てると、簡単そうだったけど、やってみると……難しい、ね)
 突然の敵に慌てながらもどうにか倒し、ゲームは進んでいく。
「こいつは同じ箇所を一緒に狙って……」
 若葉の言葉に照準を合わせる薙。やがて敵が倒れ、画面に『Game clear!!』の文字が躍り出た。
「よーし! クリアー♪」
「クリア、できた!」
 顔を見合わせ、微笑む2人。ハイタッチの音が小さく響いた。

「あーっ、今の惜しい!」
「もうちょっと、なのに……!」
 次に2人が赴いたのはクレーンゲームのコーナー。ケースの中には動物パーカーが並べられている。
「もう少し右……ストップ!」
 若葉の声にぴたり、とクレーンを止める薙。クレーンが下へ伸び、パーカーを軽く引っ掛けて戻っていく。
「もう少し、って感じだね」
「うん。まだ、頑張るよ」
 再び挑戦する薙。その執念が功を奏したというべきか、何度目かの挑戦でようやくパーカーが落っこちた。
「取れた!」
「やった!」
 景品を取り出して嬉しそうな薙。若葉はゲームの回数が残っているのを見て視線をケースへ送る。
「まだできるね。次はエルさんの取ろうよ」
「うん。エルルは、どれがいいかな」
 さらにパーカーをゲットし、お菓子のクレーンでも遊び。
 ぱんぱんになった景品袋は彼らの楽しんだ証であった。

●取り残されし恋人たち
 一方、作戦にかかってしまった恋人2名。
「……置いて行かれたの」
「まったく、あいつ等は……」
 ラドシアスが深いため息を吐く。
 実のところ、2人きりは初めてである。折角の機会ではあるのだが、どんな距離感でいれば良いのか。まずこういう時は何をしたらいいのか。
 何も思いつかない2人は、一先ずと相談のためにカフェへ入ることにした。

「ずっと気になっていたことがある」
 片や珈琲、片や紅茶。
 一息ついたところで話を切り出したのはエルだった。ラドシアスの瞳がその先を促す。
「いつからだ?」
 好きになったのは、そのきっかけがあったのは。
 ラドシアスは小さく2度瞬きをして、ゆっくりと口を開いた。
「……以前、呼び方が変わったと言っていただろう?」
 6月の、エルが傘を忘れた日の後だった。無意識に呼び方が変わっていたことを指摘されなければ、きっとこの想いには気づかずにいただろう。
「些細な事だが……それがきっかけだ。……好意を抱いたのは、椿祭りの時だろうか」
 ぽつ、ぽつと思い出しながら言葉をこぼすラドシアス。
 あれはエルにとって初めての祭りだった。その時のはしゃいだ様子を可愛らしく微笑ましいなどと言われてしまい、エルはもぞもぞと落ち着かない。
(聞いたのは私だが……恥ずかしいものだの)
 視線を思わず彷徨わせていると「エルは?」と聞き返される。
「気付いたのは、去年の忘年会の時だ」
 そう、もう1年も前になろうとしている。
 温かい人柄に好感は持っていたし、行動に心が表れるのも微笑ましく思っていた。
 けれど、抱きしめたいという感情に気付かされたのだ。これはただの好意ではない。触れたい、そういう好きなのだと。
「叶うとは思っていなかったが……今は、幸せだの」
「それも、あのお節介共のおかげか」
 視線を合わせ、お節介たちの顔を思い浮かべて同時に笑みを浮かべた。
「この後は……どこか行きたい場所はあるか?」
「では、恋人らしくツリーでも見に行くか」
 会計をして店を出るば、外は一段と冷えていた。もしかしたら雪が降るかもしれない。
 皆早く帰りたいのか、ツリー前のベンチも空いていた。そこへ2人は腰かけてツリーを仰ぎ見る。
「……寒くはないか?」
「……少し冷える」
 エルは勇気を出して──しかしそうとは気づかれないように──ラドシアスへ軽くもたれた。
「今年もツリーを飾るのか?」
「ああ。エル達もまた来るといい」
 第2英雄が張り切っている、と告げればエルは想像したのかくすりと笑みを浮かべて。
 そこでラドシアスはふと、今思い出したかのように小箱を取り出した。
「エル。似合うと思ったのだが……受け取ってもらえるか?」
「私に……?」
 小箱の中身はシルバーイヤリング。イルミネーションの光にキラリと反射する。
(……ああ、いつの間に用意していたのか)
 こんなの、嬉しくないわけがない。
「ありがとう。……付けてもらっても良いか?」
 あぁ、と頷いたラドシアスは躊躇いがちにイヤリングを手に取り、そっとエルの耳へ触れる。
 彼女の耳で揺れる銀色に、ラドシアスは笑みを溢した。
「やはりよく似合う……綺麗だ」
 その言葉にエルは恋人へ、幸せに溢れた笑みを浮かべる。
 外は寒いけれど、隣り合った体温はこんなにも──暖かい。

●形になる想い
 はぁ、と息を吐くと白く染まる。空を見上げれば、夕焼けは西に追いやられていた。
 仕事帰りだった迫間 央(aa1445)はスマホを見て時間を確認する。この後はH.O.P.E.での依頼があるが、その間にやや時間がありそうだ。
(いい機会だ、作りそびれていた婚約指輪を作りに行こう)
 央はスマホのロックを解除し、記念日の石や星座を検索し始めた。

 作りそびれていたのには訳がある。いや、作りそびれていた、という言い方もやや語弊があるかもしれない。
 本当はマイヤ サーア(aa1445hero001)と婚約した時に作りたかったし、贈りたかった。しかし。
『本当に結婚したら指輪を買うのだから、婚約指輪にお金は使わなくていい』
 それがマイヤから央に告げられた言葉である。正確には『無理をしてまで買わなくていい』に近いのだが、当時の央にとってはとてもショックだった。
(でも、口数が少ないなりに心配してくれてるんだよな)
 マイヤの思いを知った時を思い出せば、思わず笑みがこぼれ落ちる。
 エージェントである以上、装備が壊れてしまうことや消耗品の使用も少なくない。当然修理や強化、補充をしなくてはいけないし、そこにはお金がかかるのも事実。マイヤはそれを疎かにして央が怪我をしないよう止めたのだった。
 なので、婚約指輪を作るといっても冬のボーナスで頑張れる程度。決してマイヤに心配をかけてはいけない。その分、想いは十分に込めさせてもらうが。
 ジュエリー店を見つけた央は入店し、店員に声をかけて婚約指輪を作りたい旨を話す。
「モチーフに星座の蠍座を。宝石はトパーズかシトリンを入れたいのですが……」
 ここはマイヤの誕生石や星座を取り入れたかったのだが、誕生日はわからない。ならばと代わりに選んだのは11月5日。央とマイヤの出会った日であり、同時に2人の『始まった日』である。
 誕生石となるトパーズもシトリンも、マイヤの瞳と似た色だったのは偶然か──けれどちょうど良かったな、なんて。
 以前の指輪を参考にマイヤの指のサイズを伝え、デザインについても軽く話し合う。納期を伝えられて外に出た頃には辺りが真っ暗になっていた。
 ふぅ、と小さく息を吐く。思った以上に気を張っていたようだ。
(慣れない店は疲れるからね)
 この疲れはどこかで甘いコーヒーを飲んで癒すとしよう。もう少ししたら依頼が待っている。
『エージェントとして万全でいられるよう、活動資金をちゃんと用意しておくべきよ』
 心配してくれたマイヤの言葉が脳裏をよぎり、央は小さく微笑む。
 ……と同時に、マイヤの様子が気になった。
(気がついているのか……?)
 歩きながらポケットから幻想蝶を出す。すぐに出てきたマイヤは央へ困惑の表情を見せる。
「もう依頼の時間だったかしら……?」
 どうやら気づいていなかったようだ。央はマイヤを安心させるようににこりと微笑を浮かべる。
「いや、もう少し時間があるかな? よかったらお茶に付き合ってよ」
「……まぁ、いいけれど。戦う前なのだから、程々にね」
 マイヤは小さく肩を竦めるものの、央と連れ立ってカフェを探し始めた。

●“家族”
「クリスマス……二千年以上前に現れた救い主の生誕日を、今でも人々がこうして祝っておるのか」
 かつて神であったオールギン・マルケス(aa4969hero002)は感心した様子で賑わう街並みを眺めていた。
 信心深いものだな、と呟かれた言葉に氷鏡 六花(aa4969)は小さく頷いてから『でも』というように小首を傾げる。
「……ん。日本では……何となくの、お祭り騒ぎ……みたいな感じ、かも」
 生誕祭だなんて思いながら祝っている人は、きっとそんなに多いわけではなくて。皆、楽しく何かを祝いたいだけかもしれないとも思うのだ。
「けど……みんな、賑やかで、楽しそう……だよね」
 ゆっくりと歩く六花の脇を子供がはしゃいで通り抜けていく。子供は先にいた男性へ飛びつき、女性が後から追って2人のそばで笑いかけて。
 そんな姿や、プレゼントを手に帰路へ着くであろう人々の嬉しそうな表情が──六花の心を締め付ける。
(もし、2人が生きてたら……六花も……)
 俯いた六花に、オールギンの表情は見えない。

 ──見えないからこそ。その言葉は、唐突に降りかかってきたように思えた。
「我らも……手を繋がぬか?」
「……え?」
 思わず顔を上げれば、海のような青の瞳と視線が交錯する。
「貴公と、かの美しき冬の女神と、我と。血こそ繋がっては居らぬが……“家族”であると、我は……思っている」
 それに、と勿体ぶるように言葉を途切らせたオールギン。不意に冗談めかした笑みを浮かべる。
「……こうした都会に、我は未だ慣れぬ。我がはぐれて迷子になってしまわぬように……手を握っていてはくれぬか、六花よ」
 確かにオールギンは南極で顕現し、以後も南極で過ごしていることが多い。不慣れなことは事実だが──大柄な彼を見失うなんて、あるだろうか?
(……きっと……見失うなんて、ない……)
 その心遣いに、六花の口元が緩む。
「……ん。解った。じゃあ……」
 そう告げて差し出された手に自らのそれを重ねると、オールギンも小さく微笑んでみせた。
「おかーさん、手!」
 人々の雑踏に混じって聞こえたそんな声も、手から伝わる温もりでさして気にならない。
 あのね、と六花は小さく口を開いた。
「この近くにね、ケーキ屋さんが、ある……の。おみやげに、買って帰って……3人で、一緒に、食べ……よう?」
 第1英雄が気にしていたのだと告げれば、オールギンは大きく頷く。
「うむ、是非も無い。それに……この世界の人々は、鳥肉でクリスマスを祝うのであったな。ならば良き肉も見繕うとしよう」
「……うん。3人で、南極で……クリスマスパーティ、しよう……ね」
 2人は顔を見合わせて、優しく微笑み合う。

 ちらほらと、人々へ淡い白が舞い降りる。
 ──ほら、冬の足音はすぐそこに。

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秋雨
ゆきひら

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 来世でも誓う“愛”
    麻生 遊夜aa0452
    機械|34才|男性|命中
  • 来世でも誓う“愛”
    ユフォアリーヤaa0452hero001
    英雄|18才|女性|ジャ
  • 共に歩みだす
    皆月 若葉aa0778
    人間|20才|男性|命中
  • 温もりはそばに
    ラドシアス・ル・アヴィシニアaa0778hero001
    英雄|24才|男性|ジャ
  • 苦悩と覚悟に寄り添い前へ
    荒木 拓海aa1049
    人間|28才|男性|防御
  • 願い叶えて
    レミア・フォン・Waa1049hero002
    英雄|13才|女性|ブラ
  • 素戔嗚尊
    迫間 央aa1445
    人間|25才|男性|回避
  • 奇稲田姫
    マイヤ 迫間 サーアaa1445hero001
    英雄|26才|女性|シャド
  • 共に歩みだす
    魂置 薙aa1688
    機械|18才|男性|生命
  • 温もりはそばに
    エル・ル・アヴィシニアaa1688hero001
    英雄|25才|女性|ドレ
  • やさしさの光
    小宮 雅春aa4756
    人間|24才|男性|生命
  • 魔を破る鬼
    破魔鬼aa4756hero002
    英雄|6才|女性|ドレ
  • 絶対零度の氷雪華
    氷鏡 六花aa4969
    獣人|11才|女性|攻撃
  • 南氷洋の白鯨王
    オールギン・マルケスaa4969hero002
    英雄|72才|男性|バト
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