本部

【終極】連動シナリオ

【終極】虚空の庭園

紅玉

形態
ショート
難易度
難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~10人
英雄
8人 / 0~10人
報酬
多め
相談期間
5日
完成日
2018/12/14 20:33

掲示板

オープニング

●幻影
 あぁ、わたくしの美しい庭園よ

 そして、愛しい妹達よ

 何も聞こえぬ

 誰にも、邪魔されぬ

 何て、美しい白いキャンバスなのかしら?

 まるで、わたくしに彩って欲しいと言わんばかりの、静寂で何も無い世界。
『咲か、せ……ましょう……わたくしの、美しい庭園を』
 ノイズ混じりのラジオの音声の様に、アルノルディイは何も無い世界で声を上げた。
『ええ、お姉様』
 琥珀の様な金色の瞳を細め、夏の姫はアルノルディイに寄り添いながら頷いた。
『お姉様、お姉様、帰ってきてくれてありがとう』
 冬の皇女が無邪気にアルノルディイの手を取り、虚空の庭園をぐるぐると歩き回る。
『……お姉様……嬉しいけど、見てる世界が……ズレている』
 秋の式はオッドアイの瞳を細め、少し悲しげに呟いた。
『仕方がないじゃろう……アレは幻影じゃ。妾達と同じ位の強さしかない、劣化版の幻影』
 春の君が手にしているモノに念じると、虚空の庭園に花弁が舞い、ささやかではあるが春の花で地面を彩った。
『幻でも良いならば……』
 スッと腕を上げると、秋の式の着物の裾から色鮮やかな蝶が飛び立った。
『直ぐに見つかるじゃろうが、つかの間の幸せを少しでも……妹達に楽しんでもらいたいのう』
『流石、女王……懐が深いです。だけど……私は……遠慮します』
 春の君の言葉に、秋の式は目を丸くすると、姉妹とアルノルディイが遊ぶ光景から視線を反らした。

 あぁ、妹達

 姉の為に、彩ってくれたのですわね

 望んだ景色

 望んだ平和

 もう、壊されたくない

●全てを散らせ
「皆、来てくれてありがとうね」
 圓 冥人(az0039)がアナタ達を見つめる。
「今まで倒してきた愚神の影が出てきた事もあったよね。実はプリセンサーがアルノルディイの影を感知したよ。勿論、四人の姉妹を呼び集めてね……あの時よりも弱いのは確かだけど、四人の姉妹と同等だと考えて欲しい」
 冥人はこれまでのアルノルディイとの戦い、姉妹との交戦を纏めた資料をアナタ達の端末に送った。
「今は、女王との繋がりは切れてるから、俺が暴走することはないよ。だから、これが花の名を冠する姉妹との最後の戦いだよ。しっかりと準備をして挑もうね」
 もう、眼帯は必要無くなった冥人は、緋色の瞳でアナタ達を見つめると、優しく微笑んだ。

解説

【目標】
愚神の討伐

【場所】
北極地点
何も無いが、姉妹により簡易的にだが小さな庭園が作られている。
※注意
ただし、ライヴスの消費がやや激しいので、攻撃スキルの威力も上がるが、回数が1回減ります。
元から1回もしくは回復系は、威力や回復量に変動はありません。

【敵】
愚神『アルノルディイ』1体
ケントゥリオ級。
影。
弱体化しており、エージェントとの戦いの記憶は無く、本能的にエージェント達を敵だと知っている。
・関連シナリオ:
【共宴】咲き誇るのは小さな花
【狂宴】咲き乱れた花は統べる女王となった

愚神『春の君』1体
ケントゥリオ級。
椿姫に酷似した少女。
物理攻撃と素早さ、命中が高めである。
武器は薙刀と刀
・スキル:
桜竜【桜の花弁で出来た全長3m程の竜となり、春の君の意思で自由に動かせたり、乗る事も可能】
・関連シナリオ:
花の冠・詩

愚神『夏の姫』1体
ケントゥリオ級。
月下美人に酷似した少女。
攻撃力は低いが、防御力と体力が多いと予想。
・関連シナリオ:
【狂宴】其の花は人の心を動かす

愚神『秋の式』1体
ケントゥリオ級。
彼岸に酷似した少女。
BS(主に毒、幻)、魔法攻撃に特化していると予想。

愚神『冬の皇女』1体
ケントゥリオ級。
柊に酷似した少女。
回復、後方支援に特化していると予想。


【NPC】
指示が無ければ皆さんの援護をしてます

リプレイ

●『花を統べる女王』再び
 北極の地にある虚空。
 そこへエージェント達が足を踏み入れようとしていた。
「女王が復活するとは」
 内心驚きを隠せない餅 望月(aa0843)は、仲間の顔をぐるりと見回した。
『あれが最後だとは思ってなかったよ』
 倒した愚神の幻影が現れていた話を聞いていた百薬(aa0843hero001)は、胸を張りながら言った。
「いやいや、結構きれいな最期だったよ」
 望月が首を振ると、アルノルディイが消え行く姿を思い出す。
『愚神は呼ばれたら何度でも生まれ変わっちゃうよ』
 パサッと背中の翼を羽ばたかせ、前のめりになった百薬は望月の鼻先に指を差した。
「なにそれ新説? そういえば生まれ変わるようなこともあるんだっけ。アルノルディイの少女としての幸せな来世、を迎えたわけじゃなさそうだね」
 先月、望月はとある少女が英雄としてさ迷っているのを見付け事を思い出すが、今この地に居るアルノルディイの幻影に視線を向けた。

『このタイミングでやられるとはね……』
 苦虫を噛んだような気持ちでマイヤ サーア(aa1445hero001)が仲間に視線を向けた。
「……皆、すまない。足を引っ張らないようサポートに注力させてもらう」
 その隣では他の依頼で怪我を負った迫間 央(aa1445)は、申し訳なさそうに言った。
「仕方がないよ。でも、央とマイヤさんのサポートなら安心して戦えるよ」
 優しく、暖炉の火の温かさの様な笑みで荒木 拓海(aa1049)は、拳を握りしめて力強く頷いた。
『ええ、これ以上に心強いサポートはないです』
 真剣な眼差しでメリッサ インガルズ(aa1049hero001)は、央とマイヤの手を握り締めながら言った。
「そうですよ。いざとなれば冥人さんやティリアさんが守ってくださいます」
 相変わらず、笑みを絶やさない花邑 咲(aa2346)が優しい声色で言った。
『出来る限りの事をしていただけるだけでも、心強いです』
 その隣でブラッドリー・クォーツ(aa2346hero001)は央と握手し、最後に『気を付けて』と言葉を付け加えた。

「……そういえば、彼女達に名前はあるのでしょうか?」
 以前倒した姉妹には似ているが、名乗ったのは『春の君』と『夏の君』だけだったのを思い出す。
「四季の花を総称した名前だろうね。ただ、夏の姫があの時に違う名前で言ってたのは……」
 圓 冥人(az0039)が咲の問いに答えようとすると、ブラッドリーがはっきりと答えた。
『存在が不明、もしくは隠しておきたかった、からでしょう』
 しかし、彼女達はプリセンサーの感知する力を侮ったのは、ある意味こちらにとっては都合が良かった。
「春の君、夏の~、秋の~、冬の~……という感じに名前があるのでしょうか?」
 咲が指折り数えながら、彼女達の名前を予測する。
『それはですね、真田 雪が吐いてくれました。父親の愚神化の報告ついでに、ね』
 真神 壱夜(az0039hero002)が3人の前に立つと、可愛くウィンクした。

「せめて夢の中では幸せに……って言いたいけど……」
 夢心地というのはこんな状態なのか、と思いながら藤咲 仁菜(aa3237)がアルノルディイの幻影を見据えた。
『そうもいかないんだよなぁ』
 瞳が冷たい光を点すとリオン クロフォード(aa3237hero001)は、彼女達が『愚神』だからで放ってしまったら今以上に力を持った愚神になり、更にこの世界を支配されかねない。
『迷ってる暇はない! いくぞ、この世界を守るために』
 仁菜の手を取ると、リオンは力強く言いながら共鳴する。
 滅んだ世界は王に支配され、更に他の世界に愚神を送り込んで支配する。
 そんな負のスパイラル、悲しい連鎖を断ち切る為に、なによりも仁菜が幸せに生きれる世界にする為にリオンは駆け出す。
『……こんかい、は、アリス……おやすみ……?』
 血のように赤い瞳でアリス(aa5349hero001)は見上げると、赤いフードの間から銀の髪が風に吹かれて溢れた。
「……余裕が出来たら出してやるから、それまでは大人しくしてな」
 相変わらず目付きの悪いリアン ベルシュタイン(aa5349)が、アリスのフードに溢れた髪を直しながら答えた。
『ん。……わかった』
 こくりと小さく頷くとアリスは静かに戦場へ視線を向けた。

「同じ能力と名前でも違う存在じゃないのかな? まだ何もしてないよね……倒さないと……ダメなのかな?」
 五十嵐 七海(aa3694)が海のような青い瞳を揺らしながら、アルノルディイが微笑みながら姉妹と一緒にいる光景を見つめている。
『先に王を倒せば変るかもな、だが見逃すには脅威過ぎる。他の選択肢は無いだろう』
 淡々と答えるジェフ 立川(aa3694hero001)は、彼女達が今までしてきた事が書かれた報告書を思い出す。
 きっと、このまま放っておいても王が彼女達を戦力として使うのは明白、そして今以上に強敵となって戦うよりは良いだろうとジェフは胸の中で思う。

「生まれてこのかた後ずさり」
 足を1歩後退させる廿枝 詩(aa0299)。
『其処まではしないからね……?』
 月(aa0299hero001)が視線を向けると、物語りに出てくるメドゥーサに睨まれて石化したかのように、詩はピタッと止まった。
「回復役から潰したい」
 詩が冬の皇女を指した。
『セオリーだね。向こうが従うかは置いといて』
 安直な考えだが、戦略的な意味では間違いない選択をしたものの、思い通りに事が運ぶかは定かではない。
 共鳴すると、エージェント達は小さな庭園に向かって駆け出した。
「姉妹達よ! 女王を守り抜け!」
 春の君が声を上げると、夏の姫が前線に立ち、冬の皇女はアルノルディイの傍らに移動して、秋の式が黒い揚羽蝶を飛ばして毒の粉をばら蒔いた。
「こう言う時に防御&火力馬鹿で良かったと思うよ」
 拓海がアルノルディイへ一直線に攻め込むと、冬の皇女と引き剥がすように二人の間に魔剣「ダーインスレイヴ」を降り下ろした。
『経験を積んで来たと言うのよ、後は確実に当てましょう』
 トホホと言わんばかりに呟く拓海に、メリッサが答えると冷静に判断する。
『迷いは?』
 確認するようにメリッサが問う。
「無い……届く全てを、守りに行こう」
 真っ直ぐに、アルノルディイを見つめると拓海は立ち上がった。
 拓海の頬を掠めたのは、アルノルディイの『アスフォデルスの槍』だ。
 威力も、命中も、あの時、庭園で戦った時よりも落ちていた。
「それも、そうだね。足止め……いや、倒すつもりでやるよ!」
 確信はない、けど……手にした魔剣「ダーインスレイヴ」を握り直すと、拓海は力強く振り上げた。

●秋の式
「女王の影、ねぇ……」
 共鳴したリアンは、アルノルディイの幻影に視線を向けた。
(劣化版とは言え、油断はしない方がいいだろうな……圓は大丈夫だとか言ってたが……念の為気にしておくか……警戒はしておいて損はないだろ)
 冥人に一瞬だけ視線を向け、目の前に居るオドッアイの少女に意識を向ける。
「私、秋の式と申します。女王様には、このまま幸せに居てもらいます」
 秋の式が黒い揚羽蝶を飛ばし突風を起こすと、リアンの視界がグニャリと歪んだ。
『それは毒よ、気を付けなさいなの』
 アラル・ファタ・モルガナ(az0053hero002)が『クリアレイ』で毒を取り除いた。
「……厄介な上に鬱陶しい能力だな」
 ふらつきながらもリアンは立ち上がり、ショットガン「イフティヤージュEX1」を『ロストモーメント』で周囲に展開した。
 あらかじめ『エクストラバラージ』で、展開する数も増やしておいてたので後は仲間に当てないように、撃つだけだ。
「お褒めの言葉、ありがとうございます」
 懐から杯を取り出すと、杯から黄金色の液体が湯水の様に湧き出した。
 ハチミツの様で花のような甘い匂いが、リアンの鼻腔を支配るすと夢の中に居るような感覚になる。
「幻……だろうな。痛みは……現実を見せるとはな。今は倒すことが優先だ」
 リアンは躊躇いなく、自身の頬を殴るとショットガン「イフティヤージュEX1」のトリガーを引いて、秋の式に向けて一斉に射撃を浴びせた。
「流石、お姉様」
 役目を終えた花びらの盾が地面に落ちると、秋の式は小さく微笑んだ。
「全て、では無いだろう?」
 コールブランドを抜くと、リアンは秋の式との距離を素早く縮める。
 全ての攻撃を防げるハズはない、この空間は愚神だけではなく能力者達にも恩恵はある。
 デメリットを気にしない位のメリットを。
 コールブランドが光を軌跡を描きながら、黒揚羽蝶を切り裂きーー秋の式の胸部を貫いた。
「もう一度、彼岸の子に……会いたかった……私達は……生け贄……」
 秋の式は弱々しく、手を伸ばすもののリアンに届く前に消えてしまい、そこに残ったのはボロボロになった彼岸花、竜胆、紅葉が静かに風に揺れた。

●冬の皇女
「さっさと、潰してしまおう」
 詩はAMR「ヴュールトーレンTR」を地面に固定すると、ストライクで精神を集中させて鋭い一射を放つ。
 花びらの盾で防がれ、ポロポロと花びらの盾は役目を果たして分解してゆく。
「今なら」
 咲は風魔の小太刀を手にすると、素早く冬の皇女との距離を縮めて斬りつけた。
「ムダ、です」
 咲によって付けられた傷が直ぐに修復され、冬の皇女は光の無い瞳に咲と詩の二人を映した。
「むー、ずるくない?」
 詩は『解せぬ』と言わんばかりに、不服そうな表情で冬の皇女を睨む。
「だが、万能でもないだろうね」
 能力者の反応に対し月は落ち着いた様子で言う。
「どういう事?」
 詩が再びAMR「ヴュールトーレンTR」のトリガーを引き、冬の皇女に向かって撃つとまた花びらの盾に阻まれた。
「見た目の傷は修復しても、内部のダメージまでは時間が掛かるのでは?」
 月の言葉に詩は、視線をスコープ越しに冬の皇女に向けた。
「ありえるね。花びらの盾があるのは、“打たれ弱い”んじゃなくて……“回復が追い付かない”」
 こちらは二人、詩の攻撃で花びらの盾を怖し、咲が近接で削ればスキは出来るだろうと、考えた。
「それに、女王を倒した人だから大丈夫だよ」
 そう言うと詩は、AMR「ヴュールトーレンTR」の銃口を冬の皇女に向けて、躊躇いもなくトリガーを引いた。

「無理だと、思って下さい」
 冬の皇女は柊の葉を操り、咲に向かって飛ばすと風魔の小太刀で切り落とした。
「いやです。わたしは決めたのです。彼女達が望んだ未来も、抱いた想いも全て、忘れない、と」
 咲は首を振ると、意思が篭った瞳で冬の皇女を見つめた。
「……っ! 私は冬の皇女、癒しと守る想いを背負いしーー人柱」
 冬の皇女は自分自身に言い聞かせるように言うと、咲の足元から氷の壁が隆起する。
 しかし、詩はソレをAMR「ヴュールトーレンTR」で撃ち抜いて破壊した。
「どうか、私に託して下さい。忘れはしません、絶対に」
 咲の言葉に、冬の皇女は攻撃しようとする手を止めた瞬間ーー詩のAMR「ヴュールトーレンTR」が撃ち抜いた。
「……お兄様も……私達も……辛い、仕打ちを……されました……だから、穢れた……この身を……花の様に……き、れ、い……に……」
 咲が手を取ろうと、手を伸ばすが冬の皇女が消えるとその場に残ったのは柊、白百合、椿、3種の花だけだった。

●夏の姫
 鈴の音が響く、七海は虚空に溶け込むような彼女に視線を向けた。
「悪いけど、倒させてもらいましょう」
 七海は純白と漆黒の二対一組の双槍《白鷺》/《烏羽》を手にすると、素早く夏の姫の目の前に移動すると左手に握られた烏羽で貫こうとするが、盾が鈍い音を立てながら弾いた。
 距離を開けて、右手に握られた白鷺を投げるが、また盾で弾かれた。
「気を付けてよね。元々の月下美人は鉄壁を誇る愚神、盾も姉妹が変化した物だから」
 冥人が七海に駆け寄ると、夏の姫を見つめたまま話す。
「それ以外は驚異ではない、という事ですね」
 七海が言うと、冥人はこくりと頷いた。
 弱点看破で夏の姫の弱点を37mmAGC「メルカバ」の砲弾をテレポートショットで狙う。
「手に取る様に、分かります」
 夏の姫が花びらの盾を展開させ、砲弾を防ぐとワンピースの裾をはためかせると、黄色い粉が甘い香りと共に風に乗って七海の方へと来る。
「この感じ、春の君が邪魔をしているようだ」
「どうやってですか?」
 冥人の言葉に七海は目を丸くする。
「昼顔は夏の姫が持ってる盾……一人、足りない。厄介な姉妹が……多分、春の君の中にいる可能性があるね」
 冥人は不満そうに言うと、春の君に視線を向けた。
「予知能力とかでしょうか……でも、早く倒さなければなりません」
 黄色い粉から逃れた七海は、夏の君に視線を戻すと37mmAGC「メルカバ」の砲弾を射出する。
 着弾した瞬間、冥人が大太刀を手にしすると夏の姫との距離を縮めた。
「やりたくない手、だったけど……怒られる覚悟、てね」
 冥人は夏の姫を斬るフリをして、油断した瞬間に背後に回りがっしりと両腕を掴んだ。
「お兄様……っ!」
 困惑と焦りで夏の姫は、冥人と七海を交互に見る。
『撃て』
 ジェフが静かに言った。
「で、でも! 冥人さんに当たってしまいます!」
『彼女達にとって、兄に似た人物は大切だ。どう出るかは分かるだろう?』
 慌てる七海に反して、ジェフは落ち着いた声色で説明をする。
「守る……」
『そうだ。その時は無防備で、自身の守りより目を冥人を守る事に力を使うだろう』
 ぽつりと七海が呟くと、ジェフが攻撃した場合の予測を淡々と言葉にした。
 きっと、彼女達の中にまだ“何か”残っているならーー
 七海は胸元を握り締め、37mmAGC「メルカバ」を夏の姫に向けると砲弾を放った。
 ジェフの予測通りに、夏の姫は冥人を守る為に花びらを纏わせて自身の守る力を使い果たす。
 被弾すると夏の姫の白いワンピースは紅く染まり、がっくりと膝を折り地面に倒れた。
「わたくしは……守りたかった……守ってくれた、お兄様を……家族は、わたくしを、売り……“物”として、しか、見て、くれ……なかっ、た……」
 夏の姫は、冥人に手を伸ばし届く前に消え去った。
 居た場所には、月下美人、向日葵、昼顔がしわくちゃのまま風に揺れていた。

●春の君
 何度、顔を合わせただろうか? と、望月は思いながらも春の君を見上げた。
 あの時より成長した望月は、今なら良い勝負が出来る気がした。
「もういきなり倒されたりはしません」
 望月は聖槍「エヴァンジェリン」が、白銀の軌跡を描きながら手の中でくるりと回した。
『相手が薙刀使いなら、こっちも薙刀でいってみようか!』
 リオンは薙刀「焔」を手にし、春の君に向かって駆け出した。
「この世界は、壊しはさせぬ」
 手の中で花びらが集まると、薙刀となり春の君はリオンと望月の攻撃を受け流す。
『また頼むよ。相棒』
 リオンが手にしている薙刀「焔」は、振るう度に炎の幻影が浮かぶ。
(攻撃を受け流す位は出来るけど……流石、一撃がとても重たいよ)
 少し武器を交わっただけなのに、望月は肩で息をしながら少し後ろに下がった。
『攻撃を仕掛けてきたときが一番の隙だ』
 リオンは春の君の攻撃を回避すると、薙刀「焔」で紅い残像を残しながら切り裂いた。
 その瞬間、花びらが春の君を中心にして、吸い込まれる様に集まって行くのを見て望月は目を見開いた。
「お、桜竜……っ!」
 桜で出来た竜は咆哮を上げ、虚空の庭園に響かせた。
「……加勢する」
 秋の式を倒した終えたリアンは桜竜を睨む。
「良いタイミングで手を貸せそうですね」
 七海が春の君に向けて37mmAGC「メルカバ」で砲弾を放った。
「喰らえ……その程度では、桜竜は止められぬよ」
 桜竜が大きな口を開けて、砲弾を丸のみすると爆発音と共に口から煙が吐き出された。
『春の君を倒すしかないっ!』
 リオンが駆け出すと、リアンが桜竜に向けてショットガン「イフティヤージュEX1」を放つ。
「……面倒だが、桜竜の相手をしておいてやる」
 不機嫌そうにリアンは桜竜を見上げる。
「援護します」
 七海が桜竜を睨む。
「迫間さんに比べたら止まって見えるくらいだよね」
 春の君の攻撃を受け流している光景を見て仁菜が呑気に言う。
『ニーナ、基準がおかしくなってるぞ……!』
 その言葉を聞いてリオンは驚きの声を上げると、春の君は薙刀を花びらに戻すと一直線に吹き飛ばす。
 リオンの体は易々と吹き飛ばされ、地面に叩きつけられると『アスフォデルスの槍』が頬を掠めて地面に突き刺さった。
「甘く見てはいけないです」
 望月がエマージェンシーケアをリオンに撃つと、春の君が再び薙刀を手にして目の前に素早く移動してきた。
「退きません! 終わったら、サンドリオンとした約束を叶えるのです」
 望月の聖槍「エヴァンジェリン」に光が満ちる。
 リオンとの戦闘で元々ボロボロになっていた体に、望月が聖槍「エヴァンジェリン」で貫いた。
「力が……欲しかった……家族も、お兄様も……大きな力の前に、負け……妾は……辱しめ、を……受け……た。力が……ある、者は……全てを、奪う、力……」
 春の君が消えると、桜竜も同時に消え去っており、黒ずみになった桜の枝、折られた梅の枝、花びらに沢山の穴が空いた蓮の花が落ちていた。

●幻影の女王
 四人の姉妹は死んだ、とマイヤが知らせた。
「はぁ、はぁ……後はアルノルディイ……君だけだ」
 拓海はスキルを使い果たし、仲間の支援もありながら何とか互いに消耗するまでに至った。
『ならば、皆の力を借りるよ』
 ライヴスの消耗が激しいのは、エージェントだけではなく愚神にも影響が出ていたようだ。
 拓海は覚悟を決めた表情で頷くとリンクバーストをした。
「今の俺でもこれくらいはな……拓海、頼んだぞ!」
 重傷の身である央が声を上げるとクロスリンクをした。
『任せました! 拓海さん』
 リオンもクロスリンクする。
「お待たせしました。私の力をお使い下さい」
 急いで駆けつけた七海もクロスリンクさせる。
「この、戦いを終わらせてください」
 咲が凛とした声で言うと、拓海に4組のエージェントがクロスリンクしてレートを増やす。
「生きる事を……つかの間の夢すら許せず……すまない。王を倒す。その後にこそ5人で生きてくれ」
 魔剣「ダーインスレイヴ」を強く握り締め、拓海は疾風怒濤でアルノルディイに向けて息も吐かせぬ連続攻撃で斬りつけた。
 アルノルディイは何も言わず、消えると同時に何か光る物が空に向かって消えた。
「これで、本当に“さようなら”」
 2度も見届けた咲は小さく呟いた。
(今度こそ、彼女達が安らかに眠れることを願って)
 虚空の庭園が消え行くのを拓海は、ただ静かに見つめた。

『討たれる事自体が王の狙いだった13騎。神無月もそうだったけれど、それがまた現れるなんて……』
 マイヤが央から飲み物を受け取ると、視線を遠くに向けると呟いた。
「本当に駒としてしか考えていないという事なのか……何にせよ気に入らんな」
 仲間に飲み物を配り終え、H.O.P.E.の支部に連絡を入れながら央は不服そうな表情になる。

「サンドリオンみたいな子が幸せに憂いなく過ごせる世界じゃないと。圓くんも、前に進んでね」
 ぽんと冥人の肩に手を置くと、望月は笑顔で言った。
「言われなくとも進んでるよ。望月は、サンドリオンをどうするのかな? アレは英雄みたいな様子だったけど」
 冥人は望月に視線を向ける。
「悩んでる……かな?」
「まぁ、決断は早めにね」
 望月がうつ向くと、冥人はくしゃりと頭を撫でると優しく言った。
 ふと、空に視線を向けると、雪がしんしんと降りだした。
「踏み荒らされた白いキャンバス……せめて新しい雪で綺麗に飾ってあげて」
 争いの跡を雪は無かったかの様に積もる様子を見て、七海はもう誰も居ない虚空の庭園に向かって言った。
 また、再び彼女達が彩れる様にーー……

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • マイペース
    廿枝 詩aa0299
    人間|14才|女性|攻撃
  • 呼ばれること無き名を抱え
    aa0299hero001
    英雄|19才|男性|ジャ
  • まだまだ踊りは終わらない
    餅 望月aa0843
    人間|19才|女性|生命
  • さすらいのグルメ旅行者
    百薬aa0843hero001
    英雄|18才|女性|バト
  • 苦悩と覚悟に寄り添い前へ
    荒木 拓海aa1049
    人間|28才|男性|防御
  • 未来を導き得る者
    メリッサ インガルズaa1049hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • 素戔嗚尊
    迫間 央aa1445
    人間|25才|男性|回避
  • 奇稲田姫
    マイヤ 迫間 サーアaa1445hero001
    英雄|26才|女性|シャド
  • 幽霊花の想いを託され
    花邑 咲aa2346
    人間|20才|女性|命中
  • 守るのは手の中の宝石
    ブラッドリー・クォーツaa2346hero001
    英雄|27才|男性|ジャ
  • その背に【暁】を刻みて
    藤咲 仁菜aa3237
    獣人|14才|女性|生命
  • 守護する“盾”
    リオン クロフォードaa3237hero001
    英雄|14才|男性|バト
  • 絆を胸に
    五十嵐 七海aa3694
    獣人|18才|女性|命中
  • 絆を胸に
    ジェフ 立川aa3694hero001
    英雄|27才|男性|ジャ
  • 口の悪い英国紳士
    リアン ベルシュタインaa5349
    人間|19才|男性|命中
  • 狂気の国の少女
    アリスaa5349hero001
    英雄|10才|女性|カオ
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