本部

七つの夜

玲瓏

形態
シリーズ(続編)
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,300
参加制限
-
参加人数
能力者
5人 / 4~8人
英雄
5人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2018/12/08 21:48

掲示板

オープニング


 リンカーを従えたドランは真っ直ぐに自分の席へと向かった。物珍しさを感じさせる視線は受け取らずにパソコンのモニターを点けた。
 モニターには数々の顔写真が映っている。
「こいつらはナミョクの連中だ。全員分はねえが、顔が知れてる分だな」
 マウスホイールを使って下へ下へ写真をスクロールし、一番下に着いた時にドランは顎を片手で摩った。
「事件をおさらいするぜ。お前らリンカーは監視カメラで映った出来事を、実物じゃなくとも聞いただろ。ルイゼハウスの女が、突如現れた愚神だかなんだか分からない奴に吸収され、脱走したって出来事だ」
 酒が抜けきっていないらしく、ドランの口調はしどろもどろだった。時折目を細め、後頭部を手でどつく。
 片頭痛でも起きているのだろう。
「マフィア写真集の一番下に映ってるこの女。コイツが監視カメラに映っていた女に瓜二つなわけだ。
 ――よし、ここから捜査開始だぜ。取調室には多少のライヴス反応が残ってるだろ。まずはライヴスの痕跡を辿り、こいつがどこに向かったのかを確かめてこい」
 ドランが指示を言い終わるか言い終わらないか、その瀬戸際に署長室の扉が荒々しく開いた。二段程の段差を駆け下りたモーディは急ぎ足でドランの机へと向かってきた。
 その形相は青くなっている。
「大変なことになった、ドラン!」
「落ち着けよ。コーヒーと間違えてココアを買った? それとも娘が今晩は帰らないとでもメールが来たか」
「ルイゼ・ハウスから子供が一人いなくなったんだ。誘拐された痕跡が残ってる」
 口を開けたままドランは黙った。
「ドラン、悠長に捜査をしている場合じゃなさそうだぞ」
「ああ、分かってる。分かってる――」
 するとドランはリンカーの一人一人に視線を向けた。
「いいか、取調室に行く班と孤児院に戻る班で別れるんだ。急いで行け! 俺はしばらく過去の事件を洗ってる。後、これが俺の通信機だ。渡しとくぜ」
 行動が開始し、ドランはパソコンと向かい合ったが忙しなく画面を動かすだけで頭の中は混乱していた。
 犯人、マフィアの狙いはルイゼ・ハウス。その行動理由が分からなかったのだ。何があった? あの孤児院で何が起きたのだ。
 今は祈ることしかできなかった。誘拐された子供が、生きていれば。

解説

●目的
 ドランの指示を達成する。

●取調室の痕跡
 室内は既に清掃が終わっており、綺麗になってはいるが不浄なライヴスまでは消し去れていない。
 ここのライヴスを調べれば、どこに逃走したのかが分かるだろう。

●逃走先
 本シナリオでは、逃走先についても捜査する必要がある。
 逃走先は町のドールハウスである。ドールハウスは人形屋で、愛想の良い主人「グニドラ」が手造りの人形を売っているお店だ。しかし、この店はマフィアの情報提供場となっており、グニドラは人形の綿に端末チップを詰め込んでナミョクに売っている。

 グニドラもマフィアの一員で、リンカーに追い詰められれば戦闘用の人形を持ち出して殺害を試みるだろう。グニドラ自身はリンカーではないが、自在に動く等身大の人形には愚神のライヴスが宿っている。

●人形
「アウター・ラン」「アウター・レン」と呼ばれる二つの人形。中世騎士が纏う甲冑を身に着けており、合金製の剣で対象を攻撃する。
 ランは赤いマントを羽織っており、鎧は非常に硬い。更に腰に備え付けられたブーストの機能で機動力も高い。
 レンは黒いマントを羽織っている。剣が特殊であり、暗黒のライヴスを扱って攻撃範囲を広めている。レンは剣にブースト搭載が施され、攻撃スピードと威力が倍加している。

●誘拐されたミーナ
 ミーナの部屋にもまたライヴスの痕跡が残っている。
 家族が一人誘拐された、という事件は子供達に大きな混乱を招いており、恐怖が蔓延している。子供達は一刻も早く家から出なければならないという意見と、家を捨てたくないという意見が交差している。

●誘拐先
 町の近辺にある森までライヴスが続いており、森の入り口からは痕跡が残らなくなっている。
 もし探索に成功すれば、ミーナの居場所を突き止めることができるだろう。

 彼女は森の中にある廃れた廃屋に閉じ込められている。

リプレイ


 先日に事件が起きたのはこの取調室だ。大方の清掃は済んでいるが、事件の色は残っている。割れたガラス、地面に付着した黒い染み。
「監視カメラの映像では、ここに突然少女が現れていましたね」
 部屋の中央からやんわりと右に逸れた場所。喉を斬られた刑事の真後ろに少女は顕現した。小宮 雅春(aa4756)は同じように立ってみせ、目の前のアクリル板に顔を向けた。
 事件からはまだ一日と半分ほどしか過ぎていない。まだライヴスの痕跡は残っているだろう。小宮はゴーグルを装着した。
「どうだ?」
 地面にしゃがんでいた赤城 龍哉(aa0090)は上向きに訊ねた。まだ警察内部に犯人が潜んでいる可能性はある。
「いえ、反応がありません。もうこの建物にはいないのでしょう」
「狙いは警察じゃないってことか」
「やはり、子供達を狙っているのですわ」
 ヴァルトラウテ(aa0090hero001)はしきりに腕を組んだり、解いたりを繰り返して二人の捜査を立ち見していた。この瞬間、ミーナという存在には生と死どちらの可能性も混在している。犯人が何のために彼女を誘拐したのか明確にならない限り不明なのだ。
 取調室に何もなければ用はない。小宮はドランの通信機に連絡を取った。
『俺だ。何か手掛かりは見つかったのか』
『いえ、ライヴスの痕跡は確認できましたがそれだけです。彼女はテレポートした様子です。そう遠くまでは行っていないと思いますが』
『じゃあリンカー絡みの事件なんだな』
 小型スピーカーの向こう側から嫌悪を示す小言が聞こえてきた。小宮がはっきりそうだと言い切ると、ドランは言葉を続けた。
『ライヴスの痕跡は追えるのか』
『ええ、やれるだけ努力してみようかと』
『努力? そんな下らないこといってねえでさっさと追え! 悠長にしてる時間はねえんだよ』
 一方的に電話が切られ、小宮はJennifer(aa4756hero001)を向いて苦笑気味に通信機を閉まった。
「彼、焦っているようね」
 彼女は小さく言った。
「事件の責任者だからだろうな。小宮、あんまり気を落とすなよ」
「ええ、大丈夫です。ありがとうございます」
 子供好きなヴァルトラウテが近くにいるから、赤城は小宮の内心を窺うことが出来る。優しい心の持ち主が、自分の誤った判断で危険な状態に陥ったらどうなるか。
 焦燥だけではない。


「ミーナちゃんを一人にするべきじゃなかった! どうしよう」
 ハウスへと向かう車中、アンジェリカ・カノーヴァ(aa0121)はミーナの後ろ姿を何度も思い出していた。
「悔やむ前に行動だ。急げばまだ間に合う!」
 マルコ・マカーリオ(aa0121hero001)は丸まったアンジェリカの肩を鼓舞するように叩いた。彼女は頷いたが、小さな足踏みは止まらなかった。
 マルコもまた焦っていた。ありとあらゆる想像が出来るからこそ、早くミーナを見つけて安心したかった。自身も、ハウスで震える子供達も。
 ハウスに到着し、運転手に礼を告げると真っ先に中に入った。皆はエントランスに集まっていた。麻生 遊夜(aa0452)とユフォアリーヤ(aa0452hero001)の姿が見え、二人を中心に子供達がバラバラに立っていた。
 ユフォアリーヤの手を握っていたネミサンが、その場に立ったままアンジェリカに尋ねた。
「ミーナは?!」
「ごめんね、まだ見つかってないんだ。探しに行く前に、皆の様子が気になって」
「ママは? 本当にママは悪い人なのか?」
 リアディは地面に座り、胡坐をかきながら慎重な声音だった。手で触ったら崩れてしまう砂の城に触れる時のように、慎重に。
「まだアリナがどうして逮捕されたのかも、脱走したのかも分からない。だが君達が見た彼女の笑顔は偽物だったか?」
 マルコはリアディに、彼にだけでなく全員に問いを示した。誰一人として首を振る子供はいない。
「ママは、私達を一生懸命育ててくれました。だから悪い人じゃないって、私信じてて」
「その通り。だから信じて待ってほしい。それに、ミーナは必ず連れて戻る。名馬マルコ号の騎手がいないと困るからな」
 事件が起きる前に、庭でマルコは名馬となり、背中にミーナが楽し気に乗っていた。
 子供達にとってもあの日は人生で特別な三日間となっただろう。もしくは、今もまだ続いているのかもしれない。長い長い余興として。
 アンジェリカはメモ帳を手にして麻生に近付き、それを手渡した。そのメモ帳には以前子供達を世話した時に感じた、アンジェリカ独自の子供達の特徴が記されている。
「手間かけさせたな」
「平気。遊夜さん、子供達の事宜しくね」
「ああ。おかげで皆と仲良くなれそうだ――風代ならもうミーナの部屋でお前を待ってる。行ってこいよ」
 二人は階段を急ぎ足で登り、ミーナの部屋を目指した。子供達は何人かはその後ろ姿を追って、ミーナの無事を神様に願った。
 アリナも、ミーナも無事に帰ってきてまた以前のように楽しく、時々喧嘩もするけど宝物のような、日々に戻ることができれば。
「大丈夫だ、アイツらがすぐ解決してくれるさ」
 麻生は朗らかに笑みを浮かべ、子供達に言った。
「リンカーさんが強いのは分かってるよ。だけど、とても怖い。リンカーさんでも守れないものって、きっとあるんでしょ」
「……ん、怖い?」
「怖いよ。もしかしたら私達も狙われてるかもしれないんでしょ。ミーナの事だって心配だよ。でもさ私達もさ! いつ狙われてもおかしくないんでしょ?!」
「ネミサン、あんまりリンカーさんに迷惑をかけちゃいけないよ」
 頭に包帯を巻いた男の子、ドラールは冷静に言った。あまりにも冷静でネミサンは不満気な顔で彼を見たが、麻生が二人の間に割って入った。
「よし、ここらで一つ自己紹介といこうか。俺達は会ってからまだ全然時間も経ってないしな。皆のことも教えてもらえるか。後、皆が大好きなママのことも」
 自己紹介をするにはエントランスよりも遊び場の方が似合っているだろう。ドラールを筆頭として、一同は遊び場へと移動した。
 最後尾にいたユフォアリーヤは部屋の扉を閉める時、後ろを振り向いて周りを見渡した。目を瞠るものもなく、彼女はゆっくりと扉を閉めた。


 ミーナの部屋に残留していたライヴスは森の方向へと続いている。風代 美津香(aa5145)達は別れて捜索することになった。捜索範囲を広げれば容易にミーナを見つけられるだろう。
 風代は木の上に登り、双眼鏡で辺りを見渡した。
 森の中は鬱蒼とし、視界は良好ではない。人が入った痕跡はいくつかあるが、ベアトリナが残した物かの判別はつかなかった。陽もこれから傾いてくるならば、捜索の厳しさは増すばかりだ。
 木から降り、舗道された道を進んでいくと左手に切り倒された木を見つけた。綺麗な丸い断面だ。
「通せんぼしてるみたいじゃない? この木」
 周囲に目を走らせていたアルティラ レイデン(aa5145hero001)に、風代は言った。
「言われてみれば、そうかもしれません。あれ……? 木の表面に何か書かれていませんか」
 互いに肩を寄せて表面を覗き込むと、微かに焦げ臭い香りが鼻についた。見れば、焼印が押されている。球体に絡まった二つの鎖。鎖の先端は蛇の頭をしており、球体を睨みつけている。
「この先に行ってみよう。……この妙な胸騒ぎ、杞憂ならいいんだけど」
 倒木の側面は湿気た土で、歩きにくくなっていた。舗道されていない道のために足場も悪い。
 太陽は更に傾き、夜風が身に染み込み始めた。


 町の聞き込みで、監視カメラに映っていた少女と似た風貌の目撃証言が幾つか上がった。少女の学生服はこの町では見ないもので、人々の記憶に留まりやすかったのだろう。小宮は彼女がこの町にきたことを確信し、再びモスケールを使って捜査を進めると一つの店に辿り着いた。
 取調室で感知したライヴスと類似したものがこの店から見つかった。
「ここだな。しっかし、こんな普通な店に隠れてるってのか?」
 一軒立ての家で、立て看板には「カローリ・イグラー」と書かれていて営業時間や品物が白のチョークで書かれている。
 片開き式の扉を開け、中に入るとメルヘンチックな世界に包まれた。体を一回転させても、どこにも人形が置いてあるのだ。
「いらっしゃい!」
 玄関から入ってすぐ見えるカウンターの裏、バックヤードから赤い髪に緑色のエプロンを掛けた三十歳くらいの女性が顔を出した。彼女はエプロンに「グニドラ」と書かれた名札を付けている。
「何かお求めの商品があればオススメしちゃいますけど!」
「それじゃ、こいつに似合いそうなぬいぐるみはないかね」
 赤城はヴァルトラウテの肩に手を乗せ、グニドラに微笑を向けた。
「そうですねぇ~、美人さんに似合うぬいぐるみ。うーんただの美人さんというより、なんていうか毅然とした風格も感じます!」
 やんわりと、ヴァルトラウテは照れ隠し。
「貴女にピッタリなのは、ズバリ! ヒヨコとかどうでしょう。私は美人さんにお似合いのぬいぐるみというより、こう……守ってもらえるようなそんなぬいぐるみがいいかなぁと思って」
「おう、じゃあそれ一つ頼もうか」
「毎度ー! そちらの方は!」
 小宮は店を見て回っていたから、次にグニドラの眼が移ったのはジェニファーだった。ジェニファーは思い立ったように、懐から人形を取り出した。
「この子に新しいオトモダチを作ってあげたいの」
 その人形は、文字通りヒトの形をした物だ。グニドラは少し悩んだ様子を見せたが、五秒もすればすぐに閃いた。
「それならこれは!」
 彼女はバックヤードへと戻り、持ってきたのは人形と同じサイズの妖精だった。妖精には蝶羽が生えていて、丸い瞳にはジェニファーの持つ人形が反射して映っている。
「この子の名前はエリーンっていうの。この子の事、聞きたいです?」
「ええ、ぜひ」
「この子は人間の世界を幸せにするためにやってきた天使の使いなんです! この子がいると色んな事から護ってくれるんですよ。でもこの子は友達がいないんです。なぜなら、人間の世界は争い事ばかりだから……。エリーンはちょっと諦め気味なんです。本当に世界を幸せにすることができるんだろうかーって」
 カウンターの上でエリーンは口を閉じて笑っていた。
「もしよかったら友達になってあげてください! そして励ましてあげてくれると嬉しいんです」
「そう。エリーンは優しい子なのね」
 撫でるように声をかけ、ジェニファーは人形を手に取った。その人形は平和を願う妖精。微笑みに偽りはなかった。
 他に客のいない店内を見回っていた小宮は、ライオンのぬいぐるみに手を触れながらグニドラに向けて言った。
「僕たちはルイゼ・ハウスっていう孤児院で暫く子供達の面倒を見ていたんです」
「へえ、そうなのですね」
「ええ。とても良い子達ばかりでした。グニドラさんは、孤児院についてはご存知で?」
「知ってますよ! アリナさんは良い人ですよね。捨てられた子供達を集めて、頑張ってきたのですから」
 グニドラは両手を握り合わせ、親指を忙しなく動かすとバックヤードに戻ろうと踵を返した。エプロンの結び目が少し解けかけている。
「ところで」
 赤城は含みを持つ言い方で彼女を止め、言葉を続けた。
「ストラーフ・ミェチターの動きは最近どうだい。ここなら、と聞いて来たんだが」
 驚きの形相を露わにした彼女は振り返り、焦ったように首を横に振った。


 自己紹介も終わり、少しだけ子供達の緊張も緩和したように感じながらも、夜が近いせいか部屋の色が薄暗くなっていた。
「ああ、そうだ。家のガキ共も紹介しておこうか」
「……ん、可愛い子達……おかーさんには、いっぱいいるの」
 ノートパソコンのモニターには様々な子供達が映し出された。ルイゼハウスの子供達は興味深そうに画面に食い入る。
 自分達は知らない世界が広がっていた。ルイゼハウスよりも多くの子供達、自分達と年齢が変わらない子供達が劇をしている。知らないお話だが、それはかとなく物語の意図は伝わる。
 此処にいる子供達は全員で協力して何かを成し遂げることはしなかった。各々がスタンドプレーに及び、目標を達成してきたのだ。だからモニターの中に映るそれぞれは革新的に感じたのだ。卑屈なドゥーンさえ(ややつっけんどんな眼差しではあるが)写真を見ている。
 麻生の用意してきたお菓子籠はハイペースで中身を失っていく。その味は、恐怖を和らげるほどの味わい。
「リンカーさんって、どんな敵と戦ってきたんだろう。少し気になるな」
 フィンは麻生に向かって言った。彼は目が見えないから、子供達の反応でどんな写真だったのかを想像している。
「そうだな。本当に色々さ。騎士だったり、ロボットだったり。人間だけが相手じゃないんだ」
「怖くないの?」
 そう訊ねたのはリアディ。愚神に友人を奪われた彼は、人一倍異形なる物に恐怖心を抱いていた。
「戦う事は怖くない。家族がいるからな。ガキ共に怖い思いをさせたくないから、戦い続けるのさ」
 お菓子籠の中身は尽きてしまったが、ノートパソコンに入っている思い出はまだまだ底が無かった。麻生が子供達と暮らしてきた歳月は、ほんの三十分で語られるほど短くはないのだ。
「そういやここで流行りのゲームがあるって聞いたが」
「あっ、うん。あるよ!」
「……ん、気になる……ボク達も、やって良い?」
「いいよー! 一緒にやろうやろう」
 ネミサンは二人の袖を引っ張って、遊び部屋のゲームコーナーまで連れてきた。いつものわがままが始まったと、ドラール達は苦笑した。


 倒木を抜けた先、数分歩くと獣道が見つかった。アンジェリカと風代は合流し、周囲を再び捜索すると朽ちた廃屋が見つかった。湿気が強く、水滴が何処からか滴っている。
 二人は共鳴し、声を殺して草の茂みから廃屋へと歩いた。風代は双眼鏡で窓から中を覗いたが、動く気配はない。
 迷彩マントで身を隠したアンジェリカはドアへと近づき取っ手を掴んだ。鍵はかかっておらず軽い力でドアは開く。ノクトヴィジョンで中を確認すると、ライヴスの空気が確認できた。
 ――間違いない。
 地面が湿っているおかげで足音は響かないが、二人は油断せず中に続いた。明かりがないから、中は薄暗く間取りが掴みにくい。ドアを開けたら廊下のようだ。
 先にアンジェリカが入り、右手側に見えた階段を上に上る。風代は数歩置き、後から一階の捜索を開始した。
「あんた、一体何がしたいんだ」
 男の声が聞こえ、アンジェリカは足を止めた。二階の、開き放された部屋から声が聞こえる。
「ハウスの子に危害を加えるのは契約違反じゃないのかボス。いくら俺でも、今回の動きはあんまり良くは見れねえな。魔女の言いなりになる訳じゃないんだろ」
 いくらかの応酬の後、男の声は静まって静寂に包まれた。
 部屋の中は殺風景で、真っ先にベッドが視界に映った。ベッドの上には人影――ミーナだ。彼女は枕に頭を乗せ、うつ伏せにさせられていた。意識は無いように見える。
 視認できる敵の数は一人。アンジェリカは瞬時に部屋の中に転がりこみ、男の腕を捉えた。


 グニドラは視線を赤城に向けたまま、震える片手をポケットの中に入れた。
「し、知らないなぁ」
「とぼけなくても良い。こいつがここに来たのは判ってる」
 赤城は監視カメラに映っていた黒髪の少女をグニドラに見せた。グニドラは写真を一瞥し、押し黙ったまま赤城と小宮を交互に見た。
 一瞬の沈黙。
 途端、鎧の音が沈黙を破りバックヤードを突き破って二人のエージェントに突撃した。
 瞬時に共鳴し、主体となったジェニファーは肩に突き刺さった剣を片手で掴み、メフィストの道化人形で騎士を背後から羽交い絞めさせた。
 ――オトモダチ、壊さず、バラす。
「ウソ、ちょっと待って!」
 想定外。グニドラは拳銃を取り出してジェニファーに狙いを定め引き金を引いた。弾丸は体を貫通したが、大きなダメージではない。ジェニファーは騎士の鎧を文字通り、分解した。
「ああ折角のお人形が……。こんな簡単に壊れるなんて聞いてないよ~!」
 銃を捨てた彼女はジェニファーに向かって突進し、勢いのままに絡みついた。二人は重なって地面に倒れ、拍子にぬいぐるみが幾つもグニドラの背中に落ちてきた。彼女はジェニファーの首に手をかけている。
「悪く思わないでね? こうでもしないと生きていけなくて」
 強気な言い分だが、彼女の力は一般人程度のものでしかない。彼女の腕は容易く振り払われた。
 今度はジェニファーがグニドラの上に馬乗りになり、両腕を塞いだ。
「ま、まって殺さないで!」
「大丈夫、殺しはない」
 店主の捕獲が完了し、ジェニファーは赤城に眼を向けた。
 赤城は剣を腕で受け、騎士と対峙していた。構えられた剣は素早いジャブで弾き飛ばされ、半回転の勢いをそのままにストレートを腹部に叩きこむ。
 硬い鎧が腕を通じて体に伝わってくるが。
「堅さを自慢するには百年早いぜ」
 赤城はブレイブザンバーを構え、横向きに薙ぎ払い――それは一度だけではない。鎧が傷つき剥がれ落ちるまで連撃は止まらなかった。
「あぁ~、綿密に作り上げた私のアウター兄弟があ」
「今回は相手が悪かったな。俺たちじゃなかったらもっと活躍出来ただろうよ」
「グスン……」
 呆気なく拘束されたグニドラは目尻に悔し涙のようなものを浮かべていた。
「話は署で聞く。が、先に1つ教えろ。この女はどこへ行った」
「その人なら本部に帰りましたよう。計画が狂ったとかいって」
「計画?」
 この事件には根深い裏があるのだろうか。孤児院を狙ったことには何か目的が? 連続殺人も、想像の付かない理由が隠されているのだろうか。
 捕縛されたグニドラを片手で引いたまま、赤城はドランと通信を取った。組織の一人を捕まえたから一旦帰る、と。


 男は即座にアンジェリカの手中に収められ、地面に頬を合わせたまま抵抗をしていたが、やがて抵抗も終わった。
「いつから付けていた、お前ら」
 一階の捜査を終えた風代が物音を聞きつけ二階に駆け上がり、アンジェリカが男を捕えている間にミーナの様子を窺った。ただ眠っているだけで、目立った外傷はない。
 大丈夫だ、生きている。
「よくがんばったね。お姉ちゃん達が来たからもう大丈夫だよ」
 寝ているミーナの額にキスを落とした風代は、彼女を抱きかかえて男を見下ろした。
「あなたは何者? それだけ答えてくれればいいよ」
「タダで口を割るとでも? あんたらは運が悪いな。他の奴らなら簡単に言葉を吐いただろうが。いや、だからボスは俺を選んだのか。賢い判断かもな」
「なるほど、それじゃあ後々って事だね。アンジェリカちゃん、その人を警察まで送り届けてあげて」
「了解! 大人しくしててねお兄さん。痛い目見たくないでしょ」
 ミーナは疲れ切った顔で眠っている。風代は扉から外に出て、安堵の意識を心に宿した。急いで帰って、皆にミーナの無事を知らせなくては。
 何かが焦げる匂い、異臭がする。嗅覚が警笛を鳴らしている。
 黒い煙が階段の下から上がってきていた。出入口付近の廊下から火が燃え移っている。家は湿っていたはずなのに、火が燃え移るのだろうか? 
 油が予め敷かれていた? しかし、それでは油の匂いがするはずだ。
「アンジェリカちゃん! 急いでここから逃げて!」
 階段の一段目まで火が起きている。この速度は尋常ではない。風代は周囲を見渡し、窓を見つけるとガラスを肘で割った。ガラスの破片が突き刺さるが、気にしている猶予はない。彼女は窓から飛び降りた。
 土がへこみ、ガラスの割れる音が別の所からも聞こえてきた。
「ご機嫌よう」
 彼女は顔を上げると、そこには見慣れない姿をした婦人がいた。金色のドレスに、銀色の髪。手には本が握られている。
「私はベアトリナ。残念だ……。そなたらは、既にチェックされている」
 風代はミーナを守るように一歩引き、ベアトリナに構えた。
 隣では廃屋が、音を立てて崩れ始めた。火炎が空へと噴き上がり、熱風が空気を焦がす。

 ルイゼハウスの扉が勢いよく開かれた。麻生はユフォアリーヤに子供達を任せ、一人エントランスへと向かった。
 そこには血塗れの、スーツ姿の男が虫の息で倒れていた。
「どうした?! 何があったっていうんだ!」
「逃げろ、逃げろ……」
 男はそれだけ口にして――すると、扉の奥……夕闇に染まる庭園の向こう側に同じコートを着た人間達が幾つもいた。それらは平等に機銃を手にし、銃口はルイゼハウスに向けられていた。
 白いコートを着て、サングラスをかけた男が前に出て、彼はこう言った。
「契約は破られた! これより、処罰を実行する。相手が子供でも大人でも構わん。皆殺しにしろ」

結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • ライヴスリンカー
    赤城 龍哉aa0090
    人間|25才|男性|攻撃
  • リライヴァー
    ヴァルトラウテaa0090hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • 希望を胸に
    アンジェリカ・カノーヴァaa0121
    人間|11才|女性|命中
  • コンメディア・デラルテ
    マルコ・マカーリオaa0121hero001
    英雄|38才|男性|ドレ
  • 来世でも誓う“愛”
    麻生 遊夜aa0452
    機械|34才|男性|命中
  • 来世でも誓う“愛”
    ユフォアリーヤaa0452hero001
    英雄|18才|女性|ジャ
  • やさしさの光
    小宮 雅春aa4756
    人間|24才|男性|生命
  • お人形ごっこ
    Jenniferaa4756hero001
    英雄|26才|女性|バト
  • 鋼の心
    風代 美津香aa5145
    人間|21才|女性|命中
  • リベレーター
    アルティラ レイデンaa5145hero001
    英雄|18才|女性|ブレ
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