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本を探そう相談卓!
最終発言2015/09/22 10:24:24 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2015/09/19 15:57:41
オープニング
●失踪する本達
夏の暑さも遠のき、冷たい風が頬を撫でる季節となった。学生同様、木々も衣替えの準備を始めている。
秋と言えば食欲、スポーツ、読書などが捗る季節だ。
図書館でも気温が下がるに連れ、利用者が増えていた。子供から年配の方まで、様々な年代の人達が思い思いに読書を楽しんでいる。
小学生の男の子が、カウンターにいる司書に声をかけた。
「すみません。この本を探してるんですけど……」
男の子は、本の情報が印刷された紙を差し出す。図書館のパソコンを使い蔵書の所在を調べたが、見つからなかったようだ。
司書は少年から紙を受け取り、カウンターにあるパソコンで検索する。
貸し出し中ではないことを確認した司書は、その本があるべき書架へ向かった。だが、いくら探しても目当ての本は見つからない。
「お待たせしました。ごめんなさい、本は見つからなかったの。誰かが館内で読んでいるか、別の本棚に戻しちゃったのかもしれないわ」
「……そうですか。探してくれて、ありがとうございました」
司書はもう一度、少年に謝罪の言葉を述べる。少年は顎を引くようにして頭を下げた後、図書館を後にした。
結局、少年が探していた本は見つからず終いだった。それどころか、他にも行方不明となる蔵書が相次ぎ、司書達は頭を抱えた。
図書館内は明るいが、外はとっぷりと陽が暮れている。夏至はとうに過ぎ、暗くなるのが早くなっていた。
「どこに行っちゃったのかしら……」
図書館が閉館した後も司書は本を探し続けていた。なくなった本はまだ一冊も見つかっていない。
ため息をついて、司書は帰り支度を始める。その時、目の端で何かが動くのを捕らえた。
「……え?」
書架の間をふよふよと危なっかしく揺れながら、本が飛んで移動している。司書は思わず目を疑った。すると、次から次へと本が宙を舞い始めたではないか。
司書は叫び声を上げ、荷物を引ったくるように掴むと一目散に逃げ出した。
●司書の嘆願
「最近は少し肌寒くなってきましたね。さて、秋と言えば読書の秋! そこで、皆さんには自分の好きな本を選び、読書感想文を書いてもらいたいと思います」
教壇に立つ教師は、黒板に概要を書いていく。来週までに原稿用紙3枚以上の感想文を提出しなければならないようだ。
「皆さんがどんな感想文を書いてきてくれるのか、楽しみにしていますね」
板書を終えた教師はくるりと振り返り、生徒達に笑顔でそう告げた。
放課後、生徒達はそれぞれ連れ立って書店や古本屋、図書館へ向かう。
その中で図書館に向かったグループは、渋面している司書と対面していた。
「皆さんが探している本の中に行方不明になっているものがあるようですね。申し訳ないのですが、まだ探している途中でなんです」
司書はますます俯き、
「本を見つけても、少し目を離した隙になくなっていたり、移動したりしているみたいなんです。こちらも、どう対応すればいいのか途方に暮れている状態で……」
と、小さな声で漏らした。ほとほと困り果てているのが伝わってくる。
司書は手を祈るように組合せ、生徒達を見つめる。その瞳は薄い涙の幕に覆われていた。
「どうか、本を探すのを手伝って頂けないでしょうか? ……もう、他に頼れる人がいないんです。お願いします……!」
生徒達はお互いに顔を見合わせた。
解説
●目標
行方不明になった本(複数)の回収
本が行方不明になった理由の解明
●登場
司書
20代後半の女性。見つからなくなった本を探そうと奮闘している。
夜に本が飛んで移動するのを目撃した。
イマーゴ級従魔 複数
クリオネのような形状。大きさは20cmほど。
戦闘力はほとんどないため、払えばいなくなる程度の強さ。
本を移動させ、いたずらをしている。1匹では本を運べず、3匹ほどで持ち上げている。
基本的に集団で行動する。
本を動かすのは夕方から夜が多く、昼間は寝ている。薄暗い場所が好き。
●状況
舞台は、古めかしい造りの図書館。老若男女問わず様々な人が利用している。
利用者に話しかけることも可能。
図書館は地上2階建て。
1階は背の高い本棚がいくつも並んでおり、小説や専門書などが置かれている。
机や椅子、ソファがあり、座って読書ができる。
2階は児童書や絵本が中心となり、子供向けとなっている。本棚は低く、1mほど。
カーペットを敷いたスペースがあり、くつろいで本を読めるようになっている。
1・2階共につり下げるタイプの電灯を使用している。
開始時刻は昼。天候は晴れ。
リプレイ
●お探しの本はこちらですか?
「皆さん、よろしくお願いします!」
司書から行方不明の本のリスト、図書館の見取り図、そして臨時スタッフの身分証を受け取ったリンカー達は、それぞれ本の捜索に乗り出した。
「本が動くのを見たのは閉館後って話だけど、開館中にも消えた本はあるのかな?」
十影夕(aa0890)は皆が捜索に向かう中、司書にそう尋ねた。
「少なくとも記憶している限りでは、ないと思います」
「……他に何か困ったことは?」
「そうですねぇ、特に何も……」
首をかしげながら答える司書に小さく頷きを返す。
夕は思案しながら、紙とインクの懐かしい匂いが充満する空間を見渡した。椅子に腰掛けて新聞を読んでいる老齢の男性や子供を連れた女性、机で勉強をする男子学生など様々な人が図書館を利用している。
(子供向けの、ベタな探偵ごっこ的な。ちょっと面白いかもしれない)
行方知れずの本と本を動かしている『何か』を探すべく、夕は誰も捜索していない書架の狭間へ消えていった。
脚立を借りた鳥居 翼(aa0186)は、2階で棚や電灯の上、天井を捜索していた。だが、行方知れずになった本はまだ1冊も見つけていない。
窓から午後の暖かな陽が差し込み、図書館に穏やかな雰囲気を漂わせる。
そんな空気に和みつつも、
「……大丈夫! きっちり見つけてしっかり解決!」
ガッツポーズをする翼。ふと後ろを振り返ると、困った顔をした女の子がいる。翼は腰をかがめ、少女に笑顔で話しかけた。
「どうしたの?」
「あのっ、この本落ちてたんです」
女の子は、古代文字の専門書を差し出した。
「これ、なくなってた本……。ありがとう!」
そういえば、と翼が少女に何か変わったことがないか尋ねてみると、やはり本が見つからないことがあるようだ。
去っていく女の子に手を振り、翼は拳をぎゅっと握りしめた。
もうひとり、2階で本を探す小さな姿があった。
それは、ペンライトで児童書コーナーの本棚の下を照らし、隅々まで探すルーシャン(aa0784)。
下に何もないことを確認すると、手にもっている所在不明になった本の一覧と書架に並んだ本の背表紙を交互に見つめる。
その途中、彼女はこの図書館にやって来た理由を思い出した。
(そういえば、読書感想文の本も探さなきゃいけないんだっけ)
ルーシャン何となく目についた本を抜き出す。森で暮らす熊の日常を描いた絵本のようだ。
「わ、この本絵が可愛い……♪ どんなお話なんだろ……」
思わず本を読みふけっていたルーシャンははっと我に返り、捜索を再開する。
「……はうっ!? い、いけない、今は本読んでる場合じゃなかったの」
一方その頃、黄昏ひりょ(aa0118)は司書が手をつけていない場所を巡っている途中、手荷物を預けるロッカールームに立ち寄っていた。図書館の入り口近くにあるその部屋は利用者が少ないらしく、鍵のかかっていないロッカーが多い。
「欲しい時に見つからなくて、必要のない時に変な所で見つかるっていうのはよくあるしな」
鍵のかかっていないロッカーを、しらみ潰しに調べていく。
ぱたり、ぱたり、と扉を開閉する音が部屋を支配する。
「…………おっ、あった」
ロッカーの中に一冊の絵本が入っていた。表紙には亀と兎のイラストが描かれている。
「見つかって、よかった」
ひりょは手にした本を微笑みながら見つめ、そう呟く。
全てのロッカーを調べ終わった後、ひりょはまだ捜索されてない場所へと向かった。
1階の読書スペースでは、葛原 武継(aa0008)がソファの下を覗き込んでいた。しかし、ソファの下に目当ての本はない。
「どこにあるのかな……」
近くにあった備え付けの棚の下を見てみると、何かあることがわかった。武継は隙間に小さな手を入れ、探り当てたものを引っ張りだした。
武継が見つけたのは、埃まみれの文庫本。それは行方がわからなくなっていた本だった。
「見つけた……!」
ぱっぱ、と本の埃を払うと、クリオネのような従魔が1匹飛び出てきた。
突然のことに驚いたのか、従魔は羽を忙しなく動かす。
「従魔さん……? あっ、待ってください!」
従魔は専門書コーナーに向かい、光を避けて自分から壁の隅に逃げ込んだ。正面には武継がいるため、どうしたものかとおろおろしている。
「どうしたのじゃ?」
そこへ現れたのは、カグヤ・アトラクア(aa0535)だ。
「カグヤさん! 従魔さんを見つけたんです。ほら」
武継は体を横にずらし、カグヤにも従魔が見えるようにする。
ほう、と嘆息したカグヤは自分の魔法書を従魔に差し出し、釣れるか試し始めた。
ライヴスに惹かれたのか、おずおずと近寄ってきた従魔を機械の右手でがしっと掴む。従魔は逃げ出そうとカグヤの手の中で身をよじらせた。
「なんじゃコレ? 可愛いのぉ。1匹くらい持ち帰ってもええじゃろ?」
知識欲と保護欲からか、カグヤの赤い瞳は爛々と輝いている。
カグヤは持っていた容器に従魔を詰め込むと、手早く懐にしまった。
武継は不安げな面持ちで、カグヤに問いかける。
「そんなことして、だいじょうぶでしょうか?」
「研究のためじゃ。後生じゃから見逃すとよいぞ」
●返却期限はお守りください
西の空は赤く染まり始め、図書館の利用者がだんだんと減っていく。人が少なくなっていく様は、物悲しく、まるで自分が置いていかれたような気持ちになるものだった。
捜索を終えたリンカー達は一旦集合し、情報を共有する。それぞれ1冊から2冊、行方がわからなくなっていた本を発見していたが、全てを見つけるには至っていない。
ルーシャンの提案により、集めた本は段ボール箱にまとめて保管することとなった。
「見つかっていない本は、あと3冊ですね」
武継は手元のメモと照らし合わせながら、そう告げる。
「夜に張り込んでおれば、全て見つかるじゃろう。無論、従魔もな」
カグヤの言葉に、皆は頷く。
それまで静観していた夕が口を開いた。
「従魔に遭遇したときの対処法は?」
「一応、H.O.P.E.に問い合わせてみたんだけど、原則倒すようにっていう指示だったよ」
夕の質問に翼が答える。
従魔は本部や支部から捕獲指示が出ていない限り、倒すのが務めとなっている。なぜなら、放っておけばライヴスを吸収して成長し、更に大きな事件を引き起こす可能性があるからだ。
「……誰かが傷つくことになるのは、嫌ですからね」
争い事を好まないひりょは下唇を噛む。相手が従魔では、意思の疎通を図ることも難しい。だが、今後被害を及ぼすような者を放っておくこともできないのだ。
辺りは夜の帳に包まれ、さわさわと葉が揺れる音だけが聞こえる。窓からは冷ややかに輝く月が見えた。
リンカー達は事前に立てた作戦通り、視界が確保できる程度の明かりを残して2人1組のペアで配置に付いた。武継とカグヤは1階、翼とルーシャンは2階で張り込み、ひりょと夕は館内を見回る。連絡役や集合場所も決めてあるため、常に連携が取れるよう配慮されていた。
1階を担当する武継とカグヤは、貸出し用カウンターに身を潜めている。
「従魔さんを見つけたこと、内緒にして良かったのでしょうか……」
「案ずるな、武継。わらわ達は誰にも迷惑をかけておらぬぞ?」
武継はカグヤの答えに釈然としないまま、カウンターからひょこりと顔をのぞかせて張り込みを続ける。途中、あくびをかみ殺し、目を擦る様子は年相応のものだった。
「もし、ねちゃってたら起こしてくださいね?」
わかった、と答えたカグヤはいくつもの本棚が並ぶ薄闇を見つめた。
ひりょと夕は、図書館内を移動しながら従魔を探す。
電灯は点いているものの、昼間に比べれば視界が悪くなっている。2人とも周囲をよく見回し、異常がないか確認しているようだ。
「……今の所、何もなさそうですね。犯人を見つけたら、尾行して本の所在を特定するようにしましょう」
夕はひりょの提案に、
「わかった」
と、短く返事をした。
ひりょはパートナーの返答を聞き、再び捜索を再開する。
一方、夕はまだ見ぬ敵を思い、心がざわめくのを感じていた。
「よろしくね! 一緒に頑張ろう!」
翼の言葉にルーシャンは頷きを返す。
「うん、がんばります!」
2階では、翼とルーシャンが児童書の詰まった本棚に体を隠し、辺りを窺っていた。
すると、ルーシャンの瞳に危なっかしく揺れながら書架の間を飛ぶ本が映る。翼の袖をちょいちょいと引き、
「あそこに、飛んでいる本が……」
ほら、とルーシャンは先ほど発見した本を指差した。
「本当だ! よーし、みんなに知らせてくるね!」
翼は従魔が現れたことを、こっそりと仲間へ知らせに走った。
皆が駆けつけた頃、既に2階は空中を行き交う本で溢れていた。上下左右にふらふらしながら飛ぶものもいれば、本棚の間を勢いよく飛行するものもいる。
「た、大変です、本がどんどん飛び始めて…………きゃっ」
恐竜の図鑑がルーシャンの頬を掠めて飛ぶ。
危険を察知したリンカー達は英雄と素早く共鳴し、本を操る従魔を倒すべく行動を開始した。
カグヤが魔法書を開くと、ライヴスが剣の形を成す。それは彼女の思い通りに、飛んでいる本だけを狙って攻撃する。
攻撃を受けた本からはぽろぽろと従魔が落ち、消滅していく。従魔が剥がれ落ちた本は力を失い、そのまま落下した。
その様子を見ていた夕は、
「これが本を動かしてた原因か……」
そう呟き、ライフルで次々と本を撃ち落としていく。ダメージを受け、依り代から離れた従魔達は追撃する必要もない程、力のないもののようだ。
武継はサーベルを握り、あたふたとしている本に斬りかかろうとする。しかし、従魔が少し攻撃しただけで消滅することが脳裏によぎり、思わず手が止まってしまう。
直後、武継の目の前にいた本が輝く扇に打ち払われた。
「大丈夫!?」
「は、はい。……ありがとうございます」
翼は武継を庇うように、彼の前に躍り出た。ライヴスを纏った扇を構え直した翼は、自分に向かって飛んでくる本を薙いでいく。
「危ない!」
武継と翼の背後に迫っていた本を射ったのはひりょだ。矢は本のど真ん中を射抜いている。ひりょは仲間の援護をしながら、飛翔する本を攻撃していった。
ルーシャンは己の背丈を優に超える長槍を用いて、空中を舞う本を時に穿ち、時に払いながら従魔を倒している。
「えいっ、えいっ」
書架に行儀よく収まっている本や館内の設備に傷を付けないよう戦っているためか、少々動きがぎこちないようだ。
動きの鈍い本はあらかた倒したようだが、高速で移動する本がリンカー達の目の前を嘲笑うかのように横切った。くすくす、と小さな笑い声が聞こえたような気がする。
「もう! 何なのー!」
従魔の挑発に乗った翼は本を追いかけるが、本棚や電灯が妨げとなり攻撃することができない。
夕の遠距離攻撃も寸での所で躱されてしまう。
「みんなで協力して、追いつめましょう!」
ひりょの言葉に、皆が頷く。
カグヤ、ひりょ、夕は離れた場所から攻撃を仕掛け、本を壁の隅へ追い立てる。本は攻撃を避けるうちに、動ける範囲が狭まっていった。
「ほれ、そっちへ言ったようじゃぞ!」
武継、翼、ルーシャンは追いつめられた本の真下へ移動する。
「やっと追いつきました!」
武継はジャンプし、本に攻撃を仕掛けるが上手く躱されてしまう。
「これで、終わりなの!」
本棚の上に移動していたルーシャンが、鳥の嘴のように尖った槍を突き立てる。本は攻撃を避けようとするが、夕の援護射撃と翼の攻撃により退路を塞がれてしまった。
槍に穿たれた本からは10匹程の従魔が飛び出し、消滅していった。
「……終わった、かな」
夕の呟きにリンカー達は肩の力を抜いた。
図書館に平和が戻ってきたのだ。
事件を解決したリンカー達に司書は幾度も頭を下げ、礼を述べる。
「みなさん、本当にありがとうございます! 後片付けまで、手伝って頂いて……」
従魔を倒したリンカー達に残されていた仕事は、散乱する本を回収し、元あった場所に返すことだった。
「ちゃんと元の場所にもどしますね」
睡魔と戦いながら、本を片付ける武継。
「私もお手伝いします……!」
ルーシャンは司書と一緒に荷台を押し、本を運ぶ。
幸い、本や設備の被害はほとんどなかったため、片付けにそれほど時間はかからずに棲んだ。
行方不明となっていた本が全て見つかったことを確認し、その原因を解明したことによって、この事件は幕を閉じた。
事件を解決したリンカー達はそれぞれ帰路についた。
思わずスキップをしそうな程、上機嫌に歩いているのはカグヤだ。
「ふふふ、これで従魔の研究が捗るのう」
懐から従魔を閉じ込めた容器を取り出し、顔の高さに掲げた。だが、それを見たカグヤの顔から笑みが消えていく。
「な、なぜじゃ!? 従魔がおらんぞ!」
そこで彼女は、はたと気付いた。今回、捕らえた従魔が弱く、依り代がなければすぐ消滅してしまう儚いものだということに……。
結果
シナリオ成功度 | 成功 |
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