本部

恭佳のトライアル

影絵 企我

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2018/11/20 10:31

掲示板

オープニング

●実験に次ぐ実験
 H.O.P.E.の研究室で、共鳴した仁科恭佳と澪河青藍が向き合う。片や拳銃を構え、片や手ぶらで立っている。恭佳は銃口を胸元へ向けると、引き金を引いた。青藍は突っ立ったままその光線をその身に受けた。一瞬の沈黙。恭佳はおずおずと青藍に尋ねた。
「……どう?」
「別に何も感じないけど……」
 青藍が申し訳なさそうに言うと、恭佳は呻いて額を叩く。
「あー、やっぱりダメかあ。姉さんくらいになってくると、リンクレートが高すぎて効果出ない」
 恭佳は手の内で銃を弄ぶ。それは彼女がヴィランズの安全な無力化をコンセプトにして作ったAGW、「シスマ」だった。能力の元になった愚神はターゲットを選ばなかったが、只の人間の開発品ではそうもいかない。 
「ターゲットにしたい強いヴィランほど逆に効かなくなってくって事か……」
「最終的には解決しておきたいけど、しばらくは無理かな。ま、解決してもふつーに肉弾戦で解決したほうが楽って事になりそうだけどさ」
 苦々しげに呟きつつ、恭佳は強く拳銃を握りしめた。
「……それでも、これは早めに開発を済ませなきゃダメなんだよね」

●格好のターゲット
 君達はブリーフィングルームに集合していた。オペレーターはスクリーンに映像を流す。その映像からは、まだ真新しい家々が、住人を失いみるみる寂れていく様子が手に取るように分かった。
「今回のミッションは廃墟になった住宅街に出現したヴィランズの捕縛です。“王”の到来以降、世界各地の郊外の住宅街では、より安全な保護を求めて都市に人口が流入するようになりつつあります。それであとに残された住宅街はこのようにゴーストタウン化してしまうわけですが……」
 映像が地図に変わる。住宅街の中を赤い点が目まぐるしく動き回っていた。
「最近ヴィランズがこの廃墟を狙って窃盗を繰り返す事件が増えています。避難の際に持ち切れなかった家財道具などが主に狙われているようです。プリセンサーの予知によって本日も空き巣が出現する事が発覚したため、皆さんにはこれを捕縛していただく事になります」
 一旦言葉を切ると、オペレーターは足元からアタッシェケースを一つ取り出した。目の前に置くと、君達に向かってずいと突き出す。
「また、科学部の方から本日は試作品の提供があります。鎮圧の際に余裕があればこれを行使し、使用感などの報告をお願いします」
 蓋を開くと、中には銀色の拳銃がきらきらと輝いていた。

●不届き者達
 軽トラックに乗り合わせたヴィランズが、廃墟となった住宅街を駆ける。一斉に荷台から飛び降りると、獲物へ群がる狼のように家へ突撃し、乱暴に窓を叩き割って中へ飛び込んだ。放置されたテレビやら冷蔵庫やら、目についた高価そうな代物を次々に担ぎ上げて運んでいく。いつの世もモラルが崩壊した人間は出てくるものであるようだ。

 小型のバンに乗り合わせた君達は、住宅街の前に一斉に降り立った。不届き者には成敗をしないといけない。

解説

メイン 空き巣しているヴィランズを捕縛しろ
サブ 恭佳の試作品を使用せよ

ENEMY
☆ヴィランズ×12
 愚神勢力の脅威により放棄された郊外を訪れ、好き放題空き巣しているヴィランズ。捕まえよう。
●ステータス
 レベル40/20相当、クラスはバラバラ
●スキル
 敵に直接ダメージを与えるスキルのみ
●行動指針
 集中攻撃:最初に攻撃した敵を全員で狙う

FIELD
☆放棄された住宅地
 住民がより保護が厚いと考えられている都市へと流出してしまい、家財だけが残された廃墟。持ち出せない家具などが盗難の対象になっている。
●住宅
 庭付きの広い住宅が多く、遠距離攻撃に対する遮蔽を提供している。潜伏するには好環境
●日中
 空は明るく、暗闇に対する対策は必要とならない
●無人
 ヴィランズ以外は存在しない。人質を取られる問題などは無い

ITEM
☆AGW「シスマ」
 恭佳が開発中の、リンカーヴィランを安全に無力化するための装備。ビームピストル型で、ヴィランズのライヴス活性度を沈降させ共鳴を維持させないというのがコンセプトとなる予定。
●カタログスペック
 武器種「銃」、ステータス補正は命中+200のみ。武器コスト10。
●能力
 攻撃が命中した場合、ダメージを与える代わりにリンクレートを1減少させる。元々リンクレートが0だった場合、共鳴が解除され、シナリオ中再共鳴が行えなくなる。ただし、(敵のリンクレート)×10%の確率でこの武器の攻撃は無効化される。

☆AGW「インターディクト」
 同じく開発中のアイテム。グレネード型で、使い切りな代わりに範囲攻撃を行える。
●カタログスペック
 アイテム、使用すると1~10sq以内の指定したsqを中心に範囲3無差別の爆発を起こす。
●能力
 シスマと同じ。

リプレイ

●無血開城のススメ
 バンの中、鬼灯 佐千子(aa2526)は銀色のピストルを見つめていた。オペレーターの語ったカタログスペックに、彼女は驚嘆するばかりだった。
「……凄いわね」
『うむ。流石は天才科学者だ』
 リタ(aa2526hero001)も頷く。完成すれば、これ以上ないほど彼女達にとっては“欲しい”ものとなる。
「そうね。それに……、何より、仁科さんの信念が垣間見えるわ」
『ふむ。では、その信念に応えるためにも十分に情報を収集するぞ』
 年若き天才科学者の為に意気込むリタであったが、佐千子は神妙な面持ちを崩さない。今のコレは試作品。仕様を聞く限り、まともな使用に堪えるものでは決してない。自前の拳銃を手に取り、彼女はじっと見つめる。
「まぁ、そうね。そうなのだけれどね。……順序だけは、間違えるわけにはいかないわ」

 街の外れでバンを出て、エージェント達はヴィランズの“仕事場”へ向かう。足取りの軽い日暮仙寿(aa4519)を、不知火あけび(aa4519hero001)がちらりと見遣る。
『ヴィランズの取り締まりは勿論だけど……仙寿様、銃が使いたかったから参加したよね』
「坂本龍馬は知ってるだろ?」
『え? うん……』
「サムライが銃を使わないって決まりは無いぞ」
『えー……』
 あけびは不服そうだったが、やがて渋々と共鳴する。懐から仙寿は拳銃を抜き、ふっと微笑んだ。
《さて、このピストールがどれほどの実力を持つか、試してみるとするか》
『むぅ』
 若いカップルがそんなやり取りを繰り広げている間に、Jude=A(aa4590hero001)もまたビームピストルをじっと見つめていた。普段振るう剣に比べると随分と軽い。
『実地検討ですか。……それも悪くはありませんが』
「それを成すには情報が不可欠だとも。一人ではなく、“皆”のな!」
 神門 和泉(aa4590)はそう言って意気込んでいる。とはいえ、彼女は若干落ち着かない。何分、依頼を受けるというのも久方振りの事なのだ。
『共鳴すると、感情が私にも若干波及します。鎮めてください』
「むっ。……緊張してなどおらぬぞ。これは武者震いよ!」
『……ええ。そうですね』
 ふっと溜め息を吐いたジュードは、彼女の手を取り静かに共鳴するのだった。

 フローラ メタボリック(aa0584hero002)と共鳴したヴァイオレット メタボリック(aa0584)は、若返った装いに老婆じみたメイクを施し、一足先に軽トラックへ近づいていた。その懐から取り出したのは角砂糖だ。
『ガソリンタンクに角砂糖。またベタな手段を使うね?』
「凝った事をするよりも、ベタな手段が一番効くだよ」
 タンクを開いて一つ二つ放り込み、そのまま軽トラックの陰に隠れながら、今度は仕事が行われている家の陰へと回り込む。懐からスマートフォンを取り出し、そっと窓の近くに掲げる。ハッキングは原状回復の問題もあって難しかったが、代わりにやれる事は幾らでもある。
[窃盗行為を直ちに中止しなさい。全て監視カメラによって記録されています]
 無機質な女性の声が家の中に流れる。ヴィオは薄汚れた格好を装ったまま、建物の中へと忍び込んだ。

「リンクを破壊する武器って……また厄介なものが出来たものですね」
『こちらの手にある時は良いですが、うっかりお相手さんの手に渡ってしまった時が心配ですよー……』
 ヴィランズが乗り込んでいる家の前、扉をこっそり閉めて細工を仕掛けながら、晴海 嘉久也(aa0780)が小さく顔を顰める。エスティア ヘレスティス(aa0780hero001)も少々浮かない顔で頷いた。
「脅威がこちらにそのまま跳ね返ってくるわけですから、ね」
 二人がかりの仕掛けを終え、彼らは共鳴する。身長二メートルにも迫る偉丈夫の手には、そのハンドガンは小さすぎた。とはいえ、ある意味で頼りになるのだ。
「まあ、変に加減する必要もないだけ、動きやすくはある……か」
 鍛え抜いた彼らが容赦をしなければ、素手でもコソ泥はうっかりやってしまいかねないのである。

 嘉久也達の別働隊が動く様子を柵の外からクロード(aa3803hero001)が見守っていた。磨き上げられた六角形の盾を構え、いつでも前庭へと飛び出せる状態だ。
『とりあえずヴィラン達に外に出てきて貰えればいいんですよね?』
「まあそうだね。そこを僕達が囮になって押さえてる間に、グレネードを投げて貰えれば一網打尽に出来るかな?」
 世良 霧人(aa3803)が呟く。そもそも敵が仕事をしているのは一軒だけではなさそうだ。
『ふーむ。声を張り上げたとしても出てくるのは数人くらいでしょうか……』
「別働隊の人が動いてくれているから、とりあえず僕達は待とうよ」
『まあ、いざとなったら余ってる花火でも使いましょうかね』
「庭も枯草ばかりで危ないし、それは本当に最後の手段だね……」

 ピストルをベルトに挟んだままこっそりと動き回り、プリンセス☆エデン(aa4913)は茂みに潜り込んだ。決して小柄ではないが、アイドルとして鍛えた柔軟さが生きている。
「共鳴を解除できる武器かー……今は弱い相手にしか聞かないらしいけど、実用化されて、強いヴィランズにも使えるようになったら、かなり便利だよね!」
『王と戦って勝ったとて、ヴィランの存在は確実に残ります。実用化されないに越したことはないですね』
 Ezra(aa4913hero001)も肯ずる。エデンはにっと笑った。
「おーし、それじゃお試ししまくって、開発に協力しちゃうよ!」
 囁くように意気込んだが、その後エデンはこっそり付け足す。
「(といっても、あたしの優先する仕事は違うけど……ね)」
 その手にあるのは愛用の魔導書。ごーいんぐ・まい・うぇいのアイドルは、だんだんと強かになっているのであった。

 かくしてエージェント達は迎撃の態勢を着々と進めていく中、善知鳥(aa4840hero002)と共鳴したナイチンゲール(aa4840)は囲む家からやや離れた位置から様子を窺っていた。
『謂わば諍いを殺す為の弓。是非とも完成に導かなくては』
「……うん!」
 彼女はピストルを握りしめる。この武器こそがカギになると彼女は直感していた。

 イザベラ・クレイを、GLAIVEを、命を繋ぎ留めるための。

●待ち伏せからの強襲
 マスクを被った男達は、ずかずかと二階に上がり込む。テレビやらなにやらは金になる。表立って売るのはロンダリングが必要で面倒だが、ばらして基板を売れば問題無い。
「今日も色々と持ち帰れそうだな」
「ああ。……何が世界蝕だ。それくらいでビビってんなよ……」
 工具を取り出し、テレビ台に固定されたテレビを外そうとする。その時、下から甲高い声が響いた。
[既に即応部隊がそちらへ向かっています。直ちに降伏しなさい]
「即応部隊……?」
 一人が首を傾げる。先程も何か聞こえた気がしたが、どうにも様子が変だ。周囲を見渡している間に、階段をよたよた駆け登ってボロを纏った老婆が姿を見せる。誰かが咄嗟に拳銃を向けた。老婆――ヴィオは慌てて手を挙げる。
「ま、待っとくれ。わしゃ隠れに来ただけじゃ。誰かが来とる」
「はぁ?」
 男達は顔を見合わせると、素早くクローゼットに身を隠した。ヴィオを放置して。
「薄情もんめ、どうして――」
「無人の家に入り込み盗みを働いているのはお前か!」
 そこへ、外套に身を包んだ一人の男――ジュードがやってくる。儚げな容姿に似合わずやたらはきはきした物言いだ。気乗りしないジュードに変わって和泉が一芝居打っているからなのだが、男達は知る由も無い。
 そのまま和泉はヴィオを掴み、外へ引っ張っていく。
「来るがいい! 年寄りだからといって、悪い事をしたなら容赦はせぬ!」
「あああ、待て、待っとくれ」
 嵐のような一瞬だった。男達は闇の中で顔を見合わせる。
「これヤバいんじゃねえか?」
『まずいな。H.O.P.E.が来るかもしれん』
「仕事は中止だ。とっとと逃げるぞ」
 男達は頷くと、四人並んで素早く窓辺に集結した。

『来ました!』
 玄関先に立ったクロードが、二階の窓から外を覗き込むヴィランズを指差す。茂みに潜んでいたエデンが早速動き出す。魔導書を開き、その掌に幾つも火の玉を浮かべる。
「窓越しでも関係ないもんね!」
 手首をひらりと返し、蒼白い炎を幾つも飛ばした。窓の僅かな隙間から炎は潜り込み、覗き込んだ男達の脚を舐める。突然の事に、男達は慌てて背後の方へと引っ込んでしまう。エデンは首を傾げた。
「当たった……?」
『慌てぶりを見る限りは問題無いと思います。後はお仲間の動きに合わせましょう』
「そうだね。じゃあ第二弾を、っと……」

 突然の攻撃に慌てふためき、ヴィランズは背後の扉から外へと逃れようとする。しかし、そんな彼らの前にジュードin和泉が立ち塞がる。ピストルを構え、四人を睨みつける。
「命までは取らん。だが、為した事の責任は取って貰うぞ!」
 さらに嘉久也までもが立ち塞がる。その屈強な肉体には、ヴィランズが持つどんな武器も効果はなさそうだ。二の足を踏んでいる間に、二人は一斉にビームピストルの引き金を引く。どす黒いライヴスの塊がヴィランに直撃した。
「怪我をしたくなければ大人しくしておくことだな」
「くっ……」
 ヴィランズは踵を返して駆け抜け、一斉に窓をぶち破って飛び降りる。強行突破の構えだが、既にクロードが待ち構えていた。盾の全面から、眩いライヴスの光が放たれる。
『この先には、私達を倒してからでないと通れませんよ!』
「気取りやがって! 一斉にやれ!」
 一人の男が拳銃を放つ。それを皮切りに、両隣の家からも一斉にヴィランズが飛び出し次々物陰に隠れながらクロードへ攻撃を始める。
「(武器は銃が多いのか……これだと思ったように僕達だけじゃ集められないかな……)」
『(それでも、数名はこちらに来ています)』
 外套の内側に鎧を纏ったヴィランが三人、剣を構えて押し寄せてくる。クロードは身を翻し、器用に三人の攻撃を受け流していった。クロードは声を張り上げる。
『気を付けてください。彼らはブレイブナイトのようです』
「なるほど」
 佐千子は柵を台座代わりにしながらヴィランズの様子を見守る。
『(数に物を言わせての強行突破か。ふむ……もう少し実力が拮抗しているなら正しい解決法だったかもしれないが)』
「(流石にこの程度の相手に遅れは取れないわね)」
 幻想蝶からメガホンを取り出すと、佐千子は敵に向かって淡々と呼び掛けた。
「既に貴方達は包囲されています。武器を捨てて投降しなさい」
「うるせえ!」
 柵の陰から攻撃が飛んでくる。佐千子は咄嗟に身を伏せて攻撃をやり過ごし、ピストルでカウンターショットを見舞う。
「答えは確認しました。ならH.O.P.E.の権限において実力を行使させてもらうわね」
 佐千子が言い放った瞬間、地不知で壁から屋根へと一気に駆け登った仙寿が、さらに屋根から屋根へと飛び移りながらヴィランズの頭上に向かってビームを撃ち込んでいく。応戦とばかりに一人が大量の刃を天へ向かって放つが、仙寿は袖を振るってひらりひらりと受け流していく。
《その程度の弾幕では、この俺を捉える事は出来んな》
 再びビームを見舞う。着物姿でSFチックな武器を使う彼の姿は、どこかの戯画から飛び出したかのように時代錯誤。だがそれも絵になるのだ。銃身を軽く撫でて、彼はご満悦に呟く。
《ふむ。悪くないな》
『仙寿様がノリノリだ……!』
 牛若丸のように飛び回るその姿を、ヴィランズは苛立ち交じりに見上げる。
「ちっ、ちょこまかと……」
 刹那、その背後から鋭い風が襲い掛かった。身体がふわりと浮き上がったかと思うと、クロードの傍まで吹っ飛ばされる。
「いつまでも陰に隠れてる、なんてさせてあげないからね」
 ナイチンゲールが建物の陰から姿を現し、再び風を吹かせてくる。男達には成す術も無かった。
「仙寿くん!」
《承知した》
 仙寿は屋根の上からライヴスで編んだワイヤーを擲つ。クロードの目の前に掃き集められたヴィランズは、纏めて網の中に閉じ込められてしまった。そこを狙って彼女や仙寿、霧人、佐千子の四人が一斉にシスマを抜き放つ。
「さ、これでどう?」
 放たれる四条の光線。集中攻撃を浴びた一人が、成す術も無く共鳴を解かれてしまった。

「ちっ……なんだよあの武器!」
 遠巻きに見つめていたヴィランズの一人が、咄嗟に逃げ出そうとする。しかし目の前には、老人メイクを落としたばかりのフローラが立ちはだかる。
『そうはさせないって。あたし達から逃げられないよ?』
 銀色のピストルを構え、彼女は強気に笑う。
『覚悟してよね。これからあんた達はモルモットになるんだからさ』

●分裂させよ
 攻撃しても攻撃しても、クロードの堅い守りは崩せない。不利を悟ったヴィランズは、庭から飛び出し逃げ出そうとする。しかし、木製の扉を蹴破ろうとした瞬間に鋼鉄のような反発を受けて弾き飛ばされてしまう。
「何だこれ!」
 女が叫んで扉を叩くが、ワイヤーで固められた扉はびくともしない。その襟に太い釣り針が引っ掛かり、剛腕で一気に釣り上げられる。
「そう簡単に逃がしはしない」
 嘉久也の目の前に引き出された女は、連発されるビームを纏めて受け、そのまま共鳴を解除されてしまう。英雄と共に、彼女は忌々しげな眼を彼へ向けるが、最早立ち上がる力すら残っていないらしい。
「諦めるんだな」
 手錠を取ると、彼は幻想蝶を奪いながら能力者の腕に嵌め込んでしまった。

「なあるほど。これは良い武器ね」
 敵にビームを撃ち込みながら、佐千子はぽつりと呟く。“人間爆撃機”だのなんだのと綽名され、知人からは“ヴィランと見れば容赦しない、重火器を振り回すトリガーハッピー”と彼女は思われがちであった。
 しかし、携行する火器の選定には細心の注意を払っていたのだ。
「(相手の人数や装備、地形や天候の把握、味方の装備や得意戦法を考慮、そして“必要最小限”の武器を持ち込む……そうしたものがこれで片付け得る場面が出てくるのはとても大きいわね)」
 そんな事を思いながら、再び彼女は引き金を引く。このシスマには、新たな一つの選択肢として大きな期待を寄せ、天才JK仁科恭佳にも敬意を抱いていた。
 まあ、佐千子はまだ彼女の被害者じゃないから敬意を抱けるのだともいえる。

 一方、家の裏側では敵を逃がすまいとするエデンにジュードとヴィランズの抗争が続いていた。挟み込むようにして布陣を敷き、エデンが魔法で牽制しながらジュードがビームで圧していくのだ。
『銃、といったか。使い勝手としては……悪くはない』
 普段重みのある剣を振るっている彼としては、やはり物足りない思いがあったが。敏感に察知した和泉が尋ねる。
「私が使った方が良いだろうか」
『いえ。……最後に報告を行うなら、私自身がこの銃を握っておくべきと思いますので』
 これは仕事。全てはこの依頼の成すための努力である。
「クソが、どけよ!」
 癇癪を起こした女が、大剣を肩に担いで突っ込んでくる。しかしそこはエデンが先手を打っていた。暴風を巻き起こし、女の足下に向かって飛ばす。
「そーれっ!」
 思い切り足を掬われた女は、ひっくり返ってその場に倒れ込む。そこへジュードがさらにビームを撃ち込んだ。エデンは深く息を吸い込み、喉元に指を当てながら女に尋ねる。
「“いま英雄とのリンク、どんな感じ?”」
「ああ? 知るかよ! だるいわ!」
 女は叫んで立ち上がり、再び剣を取り直す。乱暴な回答に、エデンは思わず首を傾げる。
「あ、あれ~?」
『倦怠感が一応症状といえるでしょうか……?』
 女が斬りかかってくる。ジュードは咄嗟に盾を手に取り、エデンを庇った。
『仕方ない。このまま押し込むぞ』

 攻撃の応酬の中、這うようにしてその場を逃れたヴィランが逃げ出そうとする。守るべき誓いは放たれているが、戦意の無いヴィランズまで留め置けるわけではないのだ。
『おや、一人が逃げ出しそうですわね』
「そんな事させないって」
 ナイチンゲールは全身にライヴスを纏わせると、目にも止まらぬ速さで無色透明のライヴスを放つ。妙な力場に足を絡め取られ、地面に引き倒される。そこへ仙寿が再び駆け込み、立ち上がろうとしたヴィランに向かって蹴りを見舞った。
 そのままその身を翻し、再びヴィランズの頭上から網を被せる。
《さあ、今だぞ》
 仙寿が言い放つと、物陰から素早くフローラが飛び出した。腰に付けたグレネードのピンを引き抜き、ワイヤーの中でもがく四人のヴィランズに向かって投げつける。
『It’s the Party!』
 フローラが叫んだ瞬間、グレネードは眩い光を放つ。光をまともに浴びたヴィランズは、一人を残して次々に共鳴が解けていく。
『っと、残っちゃったか。じゃあ後はよろしく!』
 彼女が手を振ると、仙寿は頷きピストルを残ったヴィランへと向ける。引き金を引けばビームが出るが、どうにも引き金が軽すぎ、手ごたえを感じない。
《……やはり、光線銃より実弾だな。とはいえ、安全にリンカーを無力化できるのは良い》
 実包で似たコンセプトの武器が出来れば完璧。ちらりと仙寿はそんな事を思うのだった。

「うーん、結構かかるなあ……あ、やっと解けた」
 左手で敵の身体を押さえつけ、最後の一人の胸元に向かってナイチンゲールが引き金を引きまくる。何度も放たれたビームが、ようやくヴィランの共鳴を引っぺがす。体力をがりがりに削られたヴィランは、息も絶え絶えになりながらナイチンゲールを睨む。
「な、なにすんだ、てめえ……」
「悪い事してたのは貴方達でしょ? 全員ジャンク海賊団に送ってあげようか?」
「はぁ?」
 何を馬鹿な事を、とでも言いたげな顔をしていたが、残念ながら彼女とC.クラーケンは一緒にご飯を食べた仲なのだ。
「“可愛がってあげてね”って伝えとくよ」
 後ほど彼女は本部にもそれを進言する。下っ端として海賊船の甲板を拭きまくる仕事が、彼らには待っている筈であった。



 気付けば、放棄された住宅街は再び静けさを取り戻していた。盾を脇に置きながら、クロードは捕らえたヴィランズの数を数えていく。
『10、11、12……ええ、とりあえず全員居そうですね』
「じゃあこれで任務完了かな……ああ、ヴィランの攻撃受け止め続けるって、結構辛いね」
 共鳴を解き、霧人はその場によろよろと崩れ落ちる。ダメージがそこそこ蓄積していた。
『愚神達の攻撃は守りを固めれば完全に防げますが、リンカー相手はそうもいきませんからね』
「……最後に厄介になるのは、やっぱり人間って事なのかな……」
 額に浮かぶ汗を拭きつつ、彼らは曇りがちな空を見上げるのだった。

●聖務停止の方法
 数時間後、H.O.P.E.所有の実験棟に共鳴したクロードが立っていた。彼の目の前ではエデンがシスマを構えている。
『リンクレートが0になるまでは何も起きないとわかってるとはいえ……こうして立つと、やっぱり怖い所がありますね』
「まあでも、一度解除されるまでやって見ると決めたのは僕達だし……」
『そうですね……受け容れましょう』
 両腕を広げ、大の字で立つクロード。エデンは脇を締めて狙いを定める。
「じゃあ、行くよーっ! えいえいっ!」
 次々にビームを放つ。何発も胸に突き刺さるが、中々共鳴が解ける様子はない。エズラは小さく溜め息を吐いた。
『これでは何発かかる事やら……』

 そんな様子を、嘉久也とエスティア、それから恭佳は眺めていた。メモを片手に、嘉久也は呟く。
「ふむ……やはりこの手の武器は、やはり効果は凶悪でも当たらなければ意味が無いのですよね……もっと試行回数を稼げるようにすればいいんですが」
『例えば、武器に仕込んだりとか、フィールド型にして踏み込んだらー、とかでしょうか?』
「多連装武器で一気に、なんてのもありますね。奪われたら悲惨ですが……」
 恭佳は腕組みしながら彼らのアイディアを聞いていたが、やがて重苦しい面持ちで首を振る。
「まあ、考えてはいるんですけどね。この武器には特製のAGWドライブを使ってるんですが、そういった強力な運用をしようとするとどうしても出力が足りなくなっちゃうんですよ」
『今回の形が限界、って事でしょうか……?』
「まあそういう事っすね」
 そんな話をしているところへ、ナイチンゲールも真剣そのものの顔でやってくる。バインダーに挟んだ幾つものメモと、実験室の様子を見比べる。ようやく共鳴が解け、眠気を喰らった霧人とクロードがぶっ倒れていた。
「この武器のコンセプト、いいですね。でも、課題はやっぱり相手が高リンクレートの場合でしょうか」
「そうですね。多分リンクレート10とか準備されたらどうにもなりませんし」
 実際に運用していくには、効かない相手には運用できないなどと言っている場合ではない。元になった機械の死神の姿を思い浮かべながら、彼女は恭佳に尋ねる。
「使い手のリンクレートを出力に転換出来ないかな。クロスリンクの原理で――」
 刹那、善知鳥の平手がナイチンゲールの頬へと飛んだ。
「イタッ。何を……」
『何を考えたのかは概ね承知しております。けれど、誰もそんな事望みはしない。あなたが今思い浮かべた者も、あなたの友人達も、あなたの半身も、……わたくしも』
「ごめん。……でも、同じだけのリスクを負わずに命を守る事なんか……出来ないよ」
 ナイチンゲールはあくまで強情だった。この手の話になると梃でも曲がらない。溜め息を吐きながら、善知鳥は恭佳に尋ねる。
『……出来ますの?』
「まあ無理なんですがね」
 恭佳はすぐさま肩を竦めた。その顔には一切の迷いがない。ナイチンゲールは険しい顔をする。彼らを止めるために、この武器は有効打になり得ると思っていたから。
 そして、それ自体は恭佳も同じだった。
「まあでも、あいつらを止めるにはそんなむつかしい事考える必要はないんです」
 恭佳は手の内でグレネードを転がす。
「チャンスは一度きりになるでしょうがね」

 東京支部の屋上に立ち、仙寿は吹き抜ける木枯しを浴びながら空を見つめていた。その脳裏に浮かぶのは、かの洞窟で出会ったとある司令官。
「(イザベラは絶望を糧にしているようだが……俺に言わせれば楽な道を選んだとしか思えない)」
 仙寿には彼女達へ、どうしても譲れない想いがあった。
「(自己犠牲は楽だ。愚神と心中するような、死を厭わぬ行動も。残される者や世界の事を何も考えなくて良いからな)」
 彼女の笑みを思い出す。その笑みを、受け容れたくは無かった。
「(フィオナに繋ぐ用意を整えたと言ったって、それだけだ。あいつはダスティンと違う。まだ引き返せる人間が死に場所を決めつけるのは許さない)」
 彼は己の胸に手を当てる。自らに己の意志を問いかけた。
「(俺はあけびの為なら死ぬのも構わない。あけびもきっと……けどそれは、二人で最後まで足掻いた後の話だ。……最後まで、“本物の光”でいてやる)」
 背後からひょっこりとやってきたあけびは、そんな仙寿の横顔をじっと見つめる。いつになく張り詰めた表情を眺めていた彼女は、不意にその背後に回って飛びついた。
『私、刀を使ってる仙寿様が好きだな!』
「それは知ってる」
 さらりと受け流すと、仙寿はあけびの肩に手を回してそのまま屋内へと歩き出す。逆に虚を突かれたあけびはただ目を丸くするのだった。
『あ、え、ちょっと……』

 食堂。ヴィオとフローラがのんびり食事をしていた。ヴィオはベールの向こうからフローラの体躯をじっと見つめる。
「折角、姉者説得したというに、あまり変わってないだな」
『痩せても良いってなったら、負担無いくらいなら太めも有りかなってさ、子供達にぷにぷにされるの気持ちいいし』
 お腹を撫でるフローラ。ヴィオは肩を竦めた。
「全く、しつこく言って居ったのに」

 資料室では、ジュードが幾つかの報告書を照らし合わせながら自らの報告書をまとめていた。和泉は傍で見つめている事しか出来ない。
「すまぬな。やらせてしまって。どうにも私はそういったものが苦手だ……」
 ジュードは首を振る。それは最初から分かっている事だった。
『いえ……また一つ、功績を残せた……と思う事にします』
 その少し離れたところで、佐千子達も報告書をまとめていた。
「実用化はなかなか大変そうだけど……でもこれ、違う事にも使えそうよね」
『リンクを弱らせ解除する。弱っているリンクも解除できるか』
「リンクバーストを安全に解除する方法には、いつかなり得るかしらね?」
 振り返ると、リタは眉をしかめる。
『中々の難題になりそうだな』



 かくして、無事に試作品のデータは取られたのであった。

 おわり

結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

  • 心優しき教師
    世良 霧人aa3803

重体一覧

参加者

  • LinkBrave
    ヴァイオレット メタボリックaa0584
    機械|65才|女性|命中
  • 苦悩と覚悟に寄り添い前へ
    フローラ メタボリックaa0584hero002
    英雄|22才|女性|ジャ
  • リベレーター
    晴海 嘉久也aa0780
    機械|25才|男性|命中
  • リベレーター
    エスティア ヘレスティスaa0780hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • 対ヴィラン兵器
    鬼灯 佐千子aa2526
    機械|21才|女性|防御
  • 危険物取扱責任者
    リタaa2526hero001
    英雄|22才|女性|ジャ
  • 心優しき教師
    世良 霧人aa3803
    人間|30才|男性|防御
  • 献身のテンペランス
    クロードaa3803hero001
    英雄|6才|男性|ブレ
  • かわたれどきから共に居て
    日暮仙寿aa4519
    人間|18才|男性|回避
  • たそがれどきにも離れない
    不知火あけびaa4519hero001
    英雄|20才|女性|シャド
  • エージェント
    神門 和泉aa4590
    人間|17才|女性|攻撃
  • エージェント
    Jude=Aaa4590hero001
    英雄|24才|男性|ブレ
  • 明日に希望を
    ナイチンゲールaa4840
    機械|20才|女性|攻撃
  • 明日に希望を
    善知鳥aa4840hero002
    英雄|20才|女性|ブラ
  • Peachblossom
    プリンセス☆エデンaa4913
    人間|16才|女性|攻撃
  • Silver lace
    Ezraaa4913hero001
    英雄|27才|男性|ソフィ
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