本部

【異界逼迫】連動シナリオ

【界逼】三つを制する戦い

落花生

形態
イベント
難易度
やや難しい
オプション
参加費
500
参加制限
-
参加人数
能力者
11人 / 1~25人
英雄
11人 / 0~25人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2018/11/09 18:37

掲示板

オープニング

 地中海の海の底に沈んでいたはずの――ガリアナ帝国。
 そのガリアナ帝国は、悠久の眠りから覚めようとしていた。

「ガリアナ帝国が浮上してる? なんでや」
 ガリアナ帝国の監視を任された支部の職員に、思わず正義は聞き返してしまった。
「原因は不明です。ですが、エージェントたちがガリアナ帝国の内部に侵入できたこともあり、ガリアナ帝国自体はずっと無人の潜水艇で監視をしていました。マガツヒが再びやってくる可能性もありましたから」
 そして、とあることが発覚したのである。
 ガリアナ帝国が浮上を始めていると。
「ヨイさんは、どうしたんや。あの帝国のことは、彼女がよう知ってるはずや」
「間が悪く、現在はロンドンにいます。ですが、すでに彼女にもこのことは伝わっているはずです」
 何か危険があればすぐに戻ってくるかもしれない、とH.O.P.E.の職員は言う。そのときは、誰もロンドンの大英図書館が襲われるとは予期していなかった。


『空母や戦闘機が盗まれただと……』
 支部で、その話を聞いたアルメイヤは目を丸くした。
「それだけではありません。まだ正式発表はされていませんが、戦艦も盗まれたそうです」
 あまりの衝撃に、エステルでさえ言葉を失った。
 ガリアナ帝国が眠る地中海の海から、さほど離れていない小国。その国の武装が、その国の兵士によって盗まれたというのである。
「……兵士たちは……どうして盗みなんてしたんでしょうか?」
 エステルの言葉に、職員は「推測ですが」と前置きを入れる。
「恐らくは、最初からマガツヒの構成員が軍のなかに入り込んでいたのでしょう。そして、隙を見て武装を盗んだ。ガリアナ帝国が浮上する――このタイミングで」
 職員とアルメイヤは、青い海を見る。
 未だに姿は見えないが、この海の深いところには時が止まった都市が存在するのだ。マガツヒがそれに対しての攻撃のために、軍から武器を盗んだと考えるのが一番自然であった。
「もし、本当に……一国の軍艦や空母が盗まれたとしたら……H.O.P.E.の手には負えない」
 エステルは震えながら、アルメイヤにしがみつく。
「いいえ。H.O.P.E.だからこそ、戦わなければならないのです」
 職員は、毅然とした態度で言う。
 その言葉に、エステルははっとした。
「……マガツヒはテロリストだけれども……盗まれた武器は小国のもの。……そして、空母や軍艦にいる全員が……テロリストであると判断されたわけではないんですね」
 そのとおりです、と職員は頷く。
「マガツヒはテロリストですが、武器や兵士は小国のものです。国際的な荒波は、どの国も立てたくはない。だからこそ、民間の企業であるH.O.P.E.が矢面に立つことになります。もちろん、各国の支援も受けられますが……時間がありません。武器は思ったより集まらないでしょう」
 アルメイヤは舌打ちする。
「ですが、替わりの武器は用意できています。今回ばかりは、非難を浴びてしまうかもしれませんが」


『恐竜ですぅ!』
 地中海の海岸――ガリアナ帝国に陸で一番近いところに、巨大な檻が次々と運ばれてくる。そのなかに入っているのは、スワナリアにいるはずの恐竜たちである。
「スワナリアに入り、恐竜を狩っていた密売人を逮捕しました。その逮捕された密売人に売られた恐竜たちをH.O.P.E.で保護していたのです」
 職員は説明を聞きながら、恐竜を見ていた小鳥は震え上がった。
『こっちを……すっごい見てるですぅ』
「ちなみに、すべて肉食です。魚を食べていたものもいるようですが。陸で動くことが出来る恐竜、海の海竜、空の翼竜。彼らを足りない戦力を補うために投入します。むろん、現代兵器を前にしては勝ち目はありませんからオーパーツを飲み込ませる予定です」
 オーパーツと一緒に自分も食べられそうだ、と小鳥は生唾を飲み込む。
『恐竜、暴れそうですぅ』
「それに関しては、ヨイさんからお預かりした笛を使用します。H.O.P.E.の職員が懐から出したのは、ヨイが恐竜を操り癒していた笛である。今は緊急事態であるということから、一つだけお預かりしていました。作戦に参加する一部のエージェントたちが今頃はヨイさんから、笛の使い方についてレクチャーを受けているはずです」
 そのとき、一発の銃弾が職員の足を撃った。
『なっ、なにがあったんですぅ!』
「……どうやらマガツヒの一部に、嗅ぎつけられてしまったようです。小鳥さん、あなたは笛を持って他のリンカーと合流してください! 私はいいから、早く!!」
 笛を授けられた小鳥は走り出す。
 それと同時に、空を聞きなれない轟音が引き裂いていた。


 戦闘機が空を低く飛ぶ。
 その光景を見ながら、エステルは呟いた。
「まるで……この世の地獄が始まってしまうみたい」
『そうは、させない。エステルが生きる世界は、私が守る』
 アルメイヤは、叫んだ。
『今回の戦いは、空と海の戦いだ。現状の戦力では空母の完全破壊は難しいため、空母の内部に侵入して制圧するのが最善だと思われる。空の戦いはスピードが命だ。空母の制圧を勘付かれて、空母ごと攻撃されたら目も当てられないからな』
 各国の支援を受けているため、味方の戦闘機もいる。だが、数に限りがあるために頼り切ることは出来ない、アルメイヤはそう続けた。
「空と海の移動はどうするんや? 足があらへんで」
 正義の言葉に、アルメイヤは笑った。
『今回は、凶暴な移動手段をH.O.P.E.が用意してくれたらしい』
 そのとき、正義の携帯がなった。
 電話をとった正義は「なんやて!」と叫ぶ。
「大変や。現在、笛を持った小鳥が海岸で武装したマガツヒに追いかけられとる」

解説

・マガツヒの撃破

海岸(12:00 快晴)見晴らしのよい海岸。小鳥がマガツヒの兵士たちから逃げ回っている。砂浜は非常に歩きにくく、巨大な生物は足をすくわれる可能性あり。10人もマガツヒが出現。全員が腕の立つ兵士であり、銃とナイフで武装している

空母……30人のマガツヒで動かしている。その全てが老兵であり、銃で武装はしているが攻撃力があまりない。一艘出現。出撃していない戦闘機が三機余っている
戦艦……三艘出現。空母を囲んで守っている。積んでいる大砲は大きくて攻撃力があるが小回りが効かない。各船に10人ずつのマガツヒがいるも全員が新人。銃で武装している
戦闘機……燃料の関係から、一時間飛ぶと空母へと帰らなければならない。六機出現。ベテランのパイロットが乗っており、簡単には打ち落とされない

支援戦闘機……味方の戦闘機。五機出現。通信は可能であり、指示通りに動いてくれる。一時間を越えると燃料補給のために近くの基地に帰らなければならない
支援戦艦……味方の戦艦。三艘出現。敵のものよりは小型だが、小回りが利く。しかし、あまり丈夫ではない。戦闘機と同様に通信可能

マジュンガサウルス……巨大な肉食恐竜。笛の力で操っていないと近くにいるものを捕食しようとする。捕食するものがなくなると共食いを始める。三体出現
プテラノドン……巨大な翼竜。オーパーツで強化されているため、人を足で掴んで飛ぶことも可能。防御力は非常に弱く、戦闘機の攻撃が一撃でも当たると海に落ちる。十体出現
イクチオサウルス……イルカに似た二メートルほどの海竜。海のなかにマグロの養殖場のような囲いがあり、そのなかを泳いでいる。聴覚にすぐれ早く泳ぐことが可能。五体出現
クロノサウルス……モササウルスに似た海竜。十二メートル巨体で、口に入るもの全てを食べようとする。イクチオサウルスほどのスピードはなく、別の囲いのなかを泳いでいる。一体出現

リプレイ

 砂浜で笛を持った小鳥が、敵に追われていた。
 逃げ回る小鳥は、慌てふためきながら悲鳴を上げる。
「うわわわわっ、小鳥を食べても美味しくはないんですぅ!」
 そんなことを叫ぶ小鳥に助っ人が現れた。
 それは、空から現れた。
「射程で負ける気はしないんでな、そのままハチの巣になってくれや」
 味方の戦闘機に体を固定し、麻生 遊夜(aa0452)とユフォアリーヤ(aa0452hero001)は空からマガツヒを砲撃する。冗談のような姿であったが、その攻撃力は本物であった。
『……ん、こっちが気になる? ……でも余所見してると、危ないよ? 小鳥も』
 さすがに戦闘機からの精密射撃は難しく、一応はマガツヒを狙っているのだが小鳥にも弾は飛んでいきそうになっている。『いやぁぁぁ!』と小鳥は悲鳴を上げる。
「ま、昔からこんな感じの事はよくやってたしな。小鳥さん、こっちは当てないように撃ってるから、そっちも当たらないように動いてくれよ」
 だが、小鳥には聞こえていないようであった。
『……ん、懐かしいねぇ』
 ユフォアリーヤはどこか懐かしそうだが、小鳥は「むちゃくちゃですぅ」と悲鳴を上げた。
「ワタシ達が来たからには自由にさせません」
 餅 望月(aa0843)と百薬(aa0843hero001)は、えっへんと胸をはった。
『笛の量産は間に合わなかったね』
「間に合うも何でも、できちゃったら事件じゃないの」
 まったく、と言いながらも望月が発動させたのは、セーフティーガスである。その威力で、ほとんどのマガツヒが眠りの世界に落ちていく。
「たっ、たすかったですぅ」
 座り込む小鳥を狙ったのは、セーフティーガスの範囲外にいたマガツヒであった。だが、そのマガツヒと小鳥の間に荒木 拓海(aa1049)が入り込む。
「お疲れ! 今はここが一番の安全地帯と保証する」
『エスコートは口だけじゃだめよ?』
 メリッサ インガルズ(aa1049hero001)は小鳥に声をかける。
「もちろんっ!」
 拓海は、マガツヒに向って攻撃を放った。
 その後姿を見ながら、小鳥はぼそりと呟いた。
「正直……戦闘機で狙われたときが、一番生きた心地がしなかったですぅ」
 小鳥の言葉に、全員が「その気持ちは分かる」と頷いた。例え味方の作戦であっても、戦闘機で狙われるような体験はしたくはない。
「小鳥ちゃん、笛を使ってくんない?」
 東江 刀護(aa3503)は、小鳥に恐竜に指示を出して欲しいと話をした。戦闘機の数も限られているなかで、マガツヒの母船に近づくには恐竜の力が必要だったのだ。
「わかったですぅ。でも、簡単な命令ぐらいしか聞いてくれないと思いますぅ」
「それで十分だ」と大和 那智(aa3503hero002)は答えた。

●空の戦い
 プテラノドンは、空を飛んでいた。
 太古の翼竜の足に捕まって飛んでいるのは、刀護と那智である。風にのって空をとぶプテラノドンはまるでハングライダーのような乗り心地で、ここが戦場でなければレジャーに来たと錯覚してしまっていただろう。
『恐竜に掴まって飛ぶのサイコー!』
 那智の上げる歓声に「最後まで気を抜くな」と刀護は注意する。緊張でがちがちになるよりはマシだが、ここまで心から喜んでいるのも不安になる。恐竜に乗るまでは『恐竜、大丈夫かねえ』と那智は不安をもらしていたというのに、今はすっかりそのことを忘れてしまっているようであった。
 いや、不安とも違っていたのかもしれない。
 那智は、恐竜を人間の戦闘に巻き込んでしまうのを不満に思っていたに違いない。恐竜とは依頼を通して何度かかかわりをもった。だからこそ、人間側の都合で振り回してしまうことに罪悪感を感じてしまうのだ。
「笛をもってる小鳥は海岸だ。離れてるから、プテラノドンには敵艦まで飛ぶっていう単純な命令以外はできないからな!」
 攻撃を避けろ、というふうな複雑な命令は小鳥から離れてしまった今となってはできない。生物としての本能から、多少は敵から逃げてくれるかもしれない。だが、笛で操っている今の状態では動物の本能がどこまで発揮されるかは不明である。
『分かってるよ!』
 那智は「分かってるよ」というが、本当に分かっているのか刀護は不安になる。
「人手不足だからこそ、私達が駆り出された……行けますね、ラシル?」
 月鏡 由利菜(aa0873)の言葉に、リーヴスラシル(aa0873hero001)は無論と答える。彼女たちもまた、プテラノドンの足に捕まって空を飛んでいた。彼女たちの長い髪が、風で舞い上がる。
『少数での作戦展開の為、長期戦は不利と判断だ。短期決戦に持ち込むぞ』
 リーヴスラシルは、心眼を発動させる。
『対射撃法陣、展開する!』
「皆様、心眼の持続は短いです! その間に一気に攻略を!」
 由利菜の言葉に「オッケー」と答えたのは、雨宮 葵(aa4783)であった。その様子に、彩(aa4783hero002)ははっとする。
『あおいちゃん! お姉さんこういうの見たことあるのだわ!』
「こんな状況滅多にないと思うんだけどー」
 アメリカの映画かなにか? と葵は尋ねた。彩は「いいえ」と首を振る。なぜか、彩は深呼吸した。そして、アニメの声優のように高い裏声で叫ぶ。
『みんな、抱きしめて! ぎっ』
「それ以上は駄目なやつ!!」
 著作権、と葵は叫んだ。
「最近は厳しいんだから、ふざけてないでやる事やるよ!」
 葵は深呼吸をした。
「という訳で! 一番葵行きます! 新人から老兵までしんみりしちゃう歌行くよー! 定番卒業ソングに聞き惚れろー! ついでに今の貴方達が幼いころの自分に見せられる事してるのか考えてみなさい!」
 戦闘機に体をくくりつけながら、葵は歌う。
 自分の歌が敵に――否、同じ人間に届くことを信じて。
「私はちょっと歌えるだけのリンカーだけど……少しだけ皆の優しい気持ち、素直な気持ちを引き出す手伝いは出来るかな? 愚神相手じゃなくて同じ人相手だから出来る事だよね」
 できるかな、彩ちゃん?
 と葵は自分の相棒に尋ねる。
 彩は、頷いた。
『こんなとき、なんて言えばいいのか分かるわ』
 彩は、深呼吸した。
『私の歌をきっ!!」
「だから、著作権!!」
 葵は再び、それを叫んだ。
「さて…それじゃあ、始めようか」
 アリス(aa1651)は海岸から、海を見ていた。海岸のマガツヒを制圧できたことは、彼女にとって喜ばしい。なぜならば、ここの対応が遅れれば全てのものに遅れがでてしまうからだ。
「アルメイヤさん…も言ってたけど、空は早めに制圧したいんだよね。上から狙われるのも面倒だし」
 戦闘機はアリスとAlice(aa1651hero001)の頭上を飛ぶ。
『……敵の戦闘機は、鬱陶しいね』
 Aliceの言葉に、そうだねとアリスは言う。
「とはいえ随分と操縦が上手みたいだから……さて、どうしようかな。……まぁいいや。どう転ぶか分からないけど……早めに済ませよう」
 アリスは、ため息をつく。
『とにかく、私の範囲25以内には入らなければいいよね』
 Aliceの言葉に、アリスは頷く。
「こっちの戦闘機まで堕ちるとか御免だから。あとは海上からこっちを狙われない様にしてくれれば……」
 アリスは、マジックブルームを使用した。

●海上
「俺たちは、海上を何とかしに行く」
 赤城 龍哉(aa0090)は、アサルトユニットで海を渡ろうとしていた。空では、戦闘機とプテラノドンに捕まった仲間たちが戦っている。
『やはり、あちらは目立ちますね』
 ヴァルトラウテ(aa0090hero001)の言葉に、龍哉は思わず空を仰いだ。戦闘機に恐竜といったSF映画でもなかなか見ないような空中戦が繰り広げられている。あんなものに注視しない人間は、なかなかいないだろう。
「俺たちは、こっそりと行くぞ」
 龍哉の言葉に頷いたのは、迫間 央(aa1445)は頷いた。すでに、央は船に侵入していた。
『後ろ!』
 とマイヤ サーア(aa1445hero001)が叫ぶ。
 その声に、央はすぐに反応した。央の銃を向けようとしていたのは、船の乗組員のようであった。乗組員を刺激しないように、央は両手を上げる。
「マガツヒの構成員がこの艦に紛れ込み、その活動に利用されているとの通報を受けて来た。協力願いたい」
 央は、自分がH.O.P.E.の人間であると伝えた。
『軍人なら、今回の作戦内容を疑われたはずです』
 都呂々 鴇(aa4954hero001)と共鳴した新城 霰(aa4954)は、乗組員にそう語りかける。
『本作戦はテロリストが仕組んだ! 貴国に利益無し! 協力するな!』
 今ならば何とかなる、鴇とは言う。
 央も、言葉を続ける。
「武力抵抗があれば制圧するが、基本的に小国が国際的にテロ支援国家と認定されぬよう配慮する。……強力を願う」
 央の言葉に、乗組員は答える。
「いいや、無理だ。戦いは始まってしまった。俺たちの国は、国際的に責任を取らされるさ」
 乗組員の言葉を聞いたマイヤは『交渉は難しそうね』と囁いた。央も同じ意見であった。
『恐らくは、勝つためにはなんでもするような心理状態でいるわね」
 マイヤの言葉に、央は頷く。
「だが、これ以上は罪を重ねさせるわけにはいかない」
 央は、ジェミニストライクを使用する。
「説得は難しそうですね」
 霰の言葉に、鴇は頷く。
 乗組員の全員が、大なり小なり覚悟を決めているだろう。
『できるのならば、手を組みたかったです』
 鴇は、そう呟いた。

●空母
 藤咲 仁菜(aa3237)と共鳴したリオン クロフォード(aa3237hero001)は、空母のなかにいた。事前に地図は頭に叩き込んでいたが、それでも人が少ないなかで空母を一人で歩くのはなかなか緊張する作業であった。
「なるべくばれないように……ばれても盾で強行突破できたら」
 仁菜の言葉に、リオンは『そうだな』と呟いた。
 心優しい仁菜は、空母にいる人間もできるかぎり傷つけたくないと考えているのだろう。リオンも同じ気持ちであった。だが、念のためを考えてセーフティガスが聞くような状態にはしておきたい。
「リオンも無理はしないでね」
『うん、分かっているって。ニーナは、心配しすぎだな』
 リオンは笑うが、味方の少なさから彼も多少は緊張していた。
 だが、それで仁菜に心配をかけたくもなかった。
『さてと……』
 リオンは、剣を握る。
 できるかぎりそっと移動していたが、空母のなかで敵と思われる乗組員と鉢合わせすることもあった。そのたびにリオンは攻撃を受けたが、相手の命を奪わない程度の戦いをした。倒したマガツヒの武器は遠くへと蹴飛ばして、身柄を拘束した。
「この人たち、自害とかしないとね……」
 仁菜は、心配そうであった。
 リオンは仁菜の言葉を受けて、乗組員に猿轡をする。これで、舌を噛み切るようなことはできないはずである。
『どうして簡単に命を捨てようとするのかなー』
 ぼそり、とリオンは呟いた。
 仁菜のように敵であっても心から心配してくれる人がいるのに、人々は簡単に命をなげうつ。そのことが、リオンには不満だった。

●空の戦場
 遊夜は、空を飛んでいた。
 戦闘機のパイロットには回避を最優先するように伝えているが、今まで味わったことのないようなスリルを彼は味わっていた。
「なに、これでも狙うのは得意でね」
 遊夜の言葉に、ユフォアリーヤは笑う。
『……ん、そこはボク達の射程内……逃がさない、よ?』
 ロングショットを使用し、遊夜は敵を狙う。
「……ん、今度はみんなで遊園地に行こうか?」
 ユフォアリーヤのちょっとわくわくしたような口ぶりに、遊夜は少しばかり考える。
「いや……遊園地のジェットコースターはこれよりも安全だし、スリルもないからな」
 同じような期待をしないでほしい、と遊夜は呟いた。
『……ん。少し残念。でも……』
 遊夜はその言葉に、少しばかり違和感を覚えた。
「でも?」
『……ん、今楽しめるなら思いっきり楽しもうと』
 ユフォアリーヤの言葉に、遊夜は苦笑いする。
 一方でグングニルを構えながら、由利菜はプテラノドンに捕まっていた。
「私達にはドッグファイトの方が向いていますので…!!」
『飛翔せよ、神槍!』
 リーヴスラシルは叫びながら、ダメージを与えた敵機を睨む。
『……マガツヒなら特攻をやりかねん。油断はするなよ』
 リーヴスラシルの言葉に、由利菜は頷いた。
「ええ。敵であろうとも、殺させはしません」
 由利菜は、そう呟いた。
「そうだよね。だって、相手は人間だもん」
 葵は歌い続けていた。
 思いは届くと信じて。
『うーん、何か言うたびに著作権って怒られちゃうのよね。何を言えばいいのかしら』
 彩の言葉に、葵は「……オリジナルでお願いします」と呟くのであった。
「ありがとな」
 刀護は、プテラノドンから手を離した。
 着地したのは、船である。
『着地は上手くいったな』
 那智の言葉に「おう」と答えつつも、刀護は砲台をにらみつけた。
「マガツヒ、おまえらはこれで仕舞いだ! 恐竜達の怒りも思い知れ!」
 刀護はロストモーメントを使用して、敵艦を破壊する。
「戦闘機と速度で張り合うつもりはないよ」
 とアリスは言う。
『遅くなるなり、堕ちるなりしているところを狙って破壊したいね』
 とAlice。
「というか、軍艦とかって盗んだものなんだよね。ライヴス纏ってるとは思えないんだけど、そこのところどうなのかな」
 アリスの言葉に、Aliceは「どうなんだとうね」と答えた。
 海では、イクチオサウルスの乗った仲間たちが船を目指していた。
「ロープで簡易的な手綱を作ったけど、けっこう役にたつものだよね」
 拓海の言葉に、メリッサは頷いた。
『ええ。意外とすべるものなのね』
 イルカのようなイクチオサウルスの皮膚は、滑りやすいものだった。そのため、ロープの手綱が意外と役にたった。
『イクチオサウルスって、鱗とかはないのね。本当に、イルカみたい』
 感心するメリッサ。
 捕まりにくいけどね、と拓海は苦笑いする。
「この大きさ相手に砲撃が当たるとは思えないけど、戦闘に参加しないですぐ逃げてね」
 望月の言葉に、百薬は頷く。
『無駄に命を散らしてはいけないんだよ。君たちだったら、もぐれば攻撃はあたらないだろうし』
 言いながら、百薬ははっとする。
『そうだよ。もぐって進入すればよかったんだよ』
 百薬の言葉に、拓海は「ちょっと難しいかな」と呟いた。
『そうね。イクチオサウルスは早いし、私たちが付いていけなさそうだもんね」
 メリッサも頷く。
 望月は、遠い目をした。
「あたしたちが、海の藻屑になるのか……。さて、そのまえに船に連中を一網打尽にしないとね」
 気持ちを切り替える、望月。
 船にはもう仲間たちが乗り込んでいるはずである。
 思ったとおり、船の中からは龍哉の怒鳴り声が聞こえてきた。
「老い先短いからって命を粗末にするんじゃねぇよ」
 どうやら、乗務員の強力を得る作戦は失敗したらしい。それでも狭い船内でなんとか戦っているのが龍哉らしい。
『自爆しようとする輩もいるようですわ』
「させるかよ!」
 と龍哉はストレートブロウを使用する。
「制圧した空母を敵戦艦に撃たせる等の証拠隠滅を図る可能性がある。油断はするな」
 央はそう告げた。
『人数不足から、空母のほうは苦労しているようね』
 マイヤは、少しばかり心配そうであった。
「あちらも上手くやっていると今は信じるしかないな」
 央の言葉に、マイヤは頷くしかなかった。
「船の操舵は取り戻したわ」
 霰の声が響く。
『でも、僕らだけだと操縦はちょっと難しい感じだよ。手を貸してもらえませんか』
 鴇の言葉に、一同は操舵室へと急いだ。

●空母の中
 マガツヒの船は、次々と沈み始めていた。
 その光景を見ていた船の乗組員は、ため息を漏らす。ガリアナ帝国の技術を盗み出すという国の方針を聞いたとき、乗組員は無理だと思った。だが、従わなければならなかった。
『どうして、敵わないって分かってても降参しないんだよ!』
 乗組員の目の前には、リオンがいた。
 乗組員よりも随分と年若いリオンは、苦しんでいるようであった。降参ではなくて、最後まで戦う乗組員の気持ちが理解できないのかもしれない。あるいは、最後まで戦う姿勢を見せ付けられる仁菜のことを心配しているのかもしれない。
「失敗することは分かってる。けど、失敗するなら……俺たちは国と共に死んでやる」
 乗組員は、そう言った。
 リオンは目を細める。
『その気持ちも分かるんだ……。でも、誰も傷つけたくない。そう願う、誰かの気持ちも分かってくれよ』
 リオンはそう言って、乗組員を気絶させた。
 彼の耳には、少女の嘆きが聞こえたのかもしれない。

●それぞれの思い
 マガツヒを制圧することはできだ。
 だが、H.O.P.E.のリンカーたちを包む空気はどこか重いものだった。
「思ったより、手早く制圧できたな」
 龍哉の言葉に、ヴァルトラウテはどこか浮かない顔をしていた。
「どうした?」
『いえ、このあとマガツヒに協力した国がどのような運命をたどるのかが気になったのですわ」
 ヴァルトラウテの言葉に、遊夜は思わず目をそらした。
『……ん、難しい話はわからない。これから、どうなる』
 ユフォアリーヤの言葉に、遊夜は答える。
「俺も難しい話は、分からないが。国際的な批判を受けるだろうな」
 マガツヒというテログループに協力した国が、どのように批判をうけるのか。それを想像できない遊夜ではない。
『真面目な話しで、みんなが不幸になる話しはやだよ。みんなが、天使の力で幸せにならないと』
 百薬はそういうが「現実は、そうはいかないんだよ」と望月は小さく呟いた。
「本当に、皆さんが幸せになるような結末が用意されているといいんですが」
 由利菜の言葉に、リーヴスラシルは首を振った。
『マガツヒを支援したのは、元小国だ。国際的な批判はアフリカという大きな国に行き、元小国はアフリカのなかでさらに批判を受けるだろう。そこに住まう人々も批判の対象になるかもしれない。テロに協力していいことなど……何一つない』
 リーヴスラシルの言葉に、拓海はやりきれないものを感じていた。
『ここから先、私たちができることはなにもないのよね?』
 メリッサの言葉に、拓海は頷く。
 すでにマガツヒに譲渡された船は自分たちによって拘束されている。
 拓海たちができるのは、そこまでである。彼らを裁くことも、罰することも、拓海たちには許されていない。
「でも……彼らの気持ちもわかるんだ。最後の希望を自分たちの手で掴み取りたいっていう気持ちも。マガツヒに協力した小国の人々の気持ちは、たぶん極々普通の気持ちなんだと思うんだよ。巻き込まれた恐竜たちには、申し訳ないけど……」
 拓海は自分たちを運んでくれたイクチオサウルスを撫でる。
 イルカのように、つるりとした感触であった。
『あなたのお陰よ、ありがとう』
 メリッサは、そのようにイクチオサウルスに伝えた。
『なんで敵を倒したのに、こんなに暗い雰囲気になってんだよ』
 那智の言葉に、刀護は「仕方がない」と呟いた。
「今回は事件の背景が複雑だ。でも、これでマガツヒに強力をしようだなんて考える奴はいなくなるさ」
 マガツヒに協力しても、得はしない。
 小国への制裁が厳しければ厳しくなるほどに、そんな風潮が強くなるだろう。そうなれば、誰もマガツヒのパトロンになりたがるような人間はいなくなるはずだ。
『そういうものなのね』
 と彩は不思議がる。
「大人の話しは難しいよね。歌だけで分かり合える世界ってないのかな?」
 葵は、苦笑いした。
『そういえば、僕たちが利益がないって言っても聞いてくれない人ばっかりだったよね。なんで、だったのかな」
 鴇は、不思議そうに首を傾げる。
 霰は「命令に従うしかなかったのよね」と呟いた。
「たとえ、間違っていると知っていても……命令に従うしかなかったのよね。軍人として仕方がなかったとも言えるけど、彼らも夢を見たのかもしれないわね。ガリアナ帝国の技術で、先進国の仲間入りをする自国の姿を――あるいは国として独立していたころに戻れるとでも考えたのかもしれない」
 霰の言葉に、マイヤは「そうなの?」と首を傾げた。
「俺たちには、分からないことだ。考えなければならない問題ではあるが、歴史に翻弄された国に住まう人々の気持ちは……本当の意味では俺たちには分からないだろう」
 央は、そう言った。
 けっして、冷たい言葉ではなかった。
「そういうものだよね。違う国の人も歴史も、理解するのは難しいよ」
「そうだよね」
 アリスとAliceは、頷きあう。
「たしかに、理解するのは難しいよね。今回のことも、私にはきっと小国の人々の本当の気持ちは分からない」
 仁菜は、どこか寂しげに呟く。
「けど……自分が戦うことで、何かを救うことができるって考えていたんだったら……私は小国の人々の気持ちが少しだけ分かるような気がする」
 リオンは、ぎゅっと仁菜の手を握り締めた。
 彼女が守ろうとしたものが、小国の軍人たちと同じような末路をたどらないことを祈って。

結果

シナリオ成功度 普通

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • ライヴスリンカー
    赤城 龍哉aa0090
    人間|25才|男性|攻撃
  • リライヴァー
    ヴァルトラウテaa0090hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • 来世でも誓う“愛”
    麻生 遊夜aa0452
    機械|34才|男性|命中
  • 来世でも誓う“愛”
    ユフォアリーヤaa0452hero001
    英雄|18才|女性|ジャ
  • まだまだ踊りは終わらない
    餅 望月aa0843
    人間|19才|女性|生命
  • さすらいのグルメ旅行者
    百薬aa0843hero001
    英雄|18才|女性|バト
  • 永遠に共に
    月鏡 由利菜aa0873
    人間|18才|女性|攻撃
  • 永遠に共に
    リーヴスラシルaa0873hero001
    英雄|24才|女性|ブレ
  • 苦悩と覚悟に寄り添い前へ
    荒木 拓海aa1049
    人間|28才|男性|防御
  • 未来を導き得る者
    メリッサ インガルズaa1049hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • 素戔嗚尊
    迫間 央aa1445
    人間|25才|男性|回避
  • 奇稲田姫
    マイヤ 迫間 サーアaa1445hero001
    英雄|26才|女性|シャド
  • 紅の炎
    アリスaa1651
    人間|14才|女性|攻撃
  • 双極『黒紅』
    Aliceaa1651hero001
    英雄|14才|女性|ソフィ
  • その背に【暁】を刻みて
    藤咲 仁菜aa3237
    獣人|14才|女性|生命
  • 守護する“盾”
    リオン クロフォードaa3237hero001
    英雄|14才|男性|バト
  • その背に【暁】を刻みて
    東江 刀護aa3503
    機械|29才|男性|攻撃
  • 最強新成人・特攻服仕様
    大和 那智aa3503hero002
    英雄|21才|男性|カオ
  • 心に翼宿し
    雨宮 葵aa4783
    獣人|16才|女性|攻撃
  • 桜色の鬼姫
    aa4783hero002
    英雄|21才|女性|ブラ
  • 闇に光の道標を
    新城 霰aa4954
    獣人|26才|女性|回避
  • エージェント
    都呂々 鴇aa4954hero001
    英雄|16才|男性|シャド
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