本部

紅葉と寺

花梨 七菜

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~6人
英雄
5人 / 0~6人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2018/11/04 21:33

掲示板

オープニング

●よく晴れた秋の日に
「あー、疲れた」
「先生、もう歩けませーん」
「お前達、だらしないぞ。あと少しだから頑張れ」
 5年1組の担任は、子供達を励ましながら長い石段を登った。石段の両側には、カエデが美しく色づいていた。
 皆は、ようやく石段の頂上に到着し、楼門を通り抜けて本堂の前に集まった。
「はい、お疲れ様。最初に周りをよく見て、何を描くかを決めてから、描き始めて下さい。時間は、11時40分までです。はい、スタート」
 担任の号令で、子供達は境内のあちこちに散らばっていった。
 しばらくすると、子供達は思い思いの場所に座って画用紙に絵を描き始めた。まず、鉛筆で下描き。それから、絵の具で色を塗る。
 子供達は絵を描くことに集中していて、静かだった。
 その時、ポキポキッと小枝を踏む音がして、本堂の後ろに広がる林の中から獣が姿を現した。
 身体から剣を生やした禍々しい見た目に、子供達が悲鳴を上げた。
 獣は一匹ではなかった。次々に林から飛び出し、子供達を襲い始めた。
「みんな、逃げろ!」
 担任は子供達をかばいながら叫んだ。数人の子供達が、石段のほうへ駆けていく。それを追って残りの子供達も駆け出したが、「ちょっと待て!」と担任はひきとめた。大勢で一斉に石段に殺到したら、事故が起こりかねない。どうしたらいいのか、と担任が逡巡していると、寺の住職が竹箒で獣を追い払いながら「本堂の中へお逃げなさい!」と叫んだ。
「みんな、お寺の中へ入るんだ!」
 担任は叫んだ。子供達は、本堂の中へと駆け込んだ。担任が外に誰も残っていないことを確認すると、住職はガタガタと雨戸を閉めた。
 担任は子供達の数を数えた。三人足りない。ここにいないのは、さっき石段のほうへと駆けて行った子供達だろう。無事に逃げ切っているといいのだが……。
 ガシャン、と雨戸が揺れた。
 獣が体当たりしているのだ。
 薄暗いお堂の中で、子供達は身を寄せ合った。

●子供達を救え!
 H.O.P.E.敷地内のブリーフィングルームで、職員が説明を始めた。
「A市の寺にソードウルフが5体出現しました。ミーレス級従魔です。図工の授業で絵を描くために寺に来ていた子供達が襲われました。5年1組の生徒30人の内、3人が無事保護されました。残りの27人と、担任の先生、お寺の住職は、本堂に避難しました。生徒2人が怪我をしているそうです。従魔は本堂に攻撃をしており、戸が破られるのも時間の問題です。一般人の救出と従魔の討伐、よろしくお願いします」

解説

●目標
 一般人の救出、従魔の討伐

●登場
 ソードウルフ × 5体。
 ミーレス級従魔。
 体長約1m。
 爪、牙、身体から生えた剣で攻撃する。

●状況
 晴天。午前11時半頃。
 A市にある寺。寺は、小高い丘の上にあり、周囲は林になっている。
 寺の本堂に、5年1組の生徒27人、担任、住職が避難している。
 避難している生徒の内、2人が怪我を負っている。
 従魔は、本堂の戸を打ち破ろうとしている。

リプレイ

●従魔の群れ
「怪我の程度は判りますか? 場合によっては一足先に救助に動きます」
 荒木 拓海(aa1049)は、移動中にH.O.P.E.本部に無線で確認をとった。寺の本堂に避難している子供達の内、一人は重傷であるということがわかった。拓海は、通信機で仲間と情報を共有した。
「119番に通報して、石段の下で救急車に待機して貰っている」
 事前に怪我人を想定していた迫間 央(aa1445)の対応に、拓海は「さすが」と呟いた。
「重傷者はできるだけ早く避難させなきゃね」
 避難を担当することになった小宮 雅春(aa4756)が言い、仲間は同意して通話を切った。
『こわがってる……よね。ふあんは……なくして……あげたい……』
 拓海の英雄、レミア・フォン・W(aa1049hero002)は、ヤナミのぬいぐるみを抱き締めて呟いた。レミアは、犬の夜波に懐いていて、外出する時は犬のぬいぐるみが手放せない。
「そうだね」
 拓海は深く頷いた。

「本堂から早く遠ざけないと」
 皆月 若葉(aa0778)は、子供達の身の安全を案じた。
『時間との勝負か……』
 いつもクールな英雄のラドシアス(aa0778hero001)は、表情を変えずに呟いた。
「だね、突破される前に倒すよ」

「木造建築がそう長く攻撃に耐えられるとは思えない」
 古い寺のようだしな、と央が呟くと、英雄のマイヤ サーア(aa1445hero001)は頷いた。
『……急ぎましょう』

『まだ死者は出てません。間に合いましたね……良かった』
 英雄の禮(aa2518hero001)は、ほっと胸をなでおろした。
「このメンバーなら後れを取ることもないだろう。さあ、行こうか。我が誓約にかけて」
 海神 藍(aa2518)は、何度も共に戦ってきた仲間を深く信頼していた。
 禮との誓約は、“正義や組織の為でなく、小さく尊き幸せの為に”。子供達の笑顔のために、藍は走った。

「僕ら大人がしっかりしなきゃ……だよね」
 早く重傷者を助けなければ、他の子供達も恐怖に震えているだろうし、と雅春は焦りを感じた。
『気負っているの? それなら「お人形ごっこ」はどうかしら』
 英雄のJennifer(aa4756hero001)が差し出したのは、魔導機械「くまんてぃーぬ」だった。

 現場に到着したエージェント達は、共鳴して戦闘準備を整えた。
 央は、全力移動で石段を駆け上がり本堂の前へ到着した。
 拓海も、モスケールを起動した状態で、本堂の前へ全力移動した。隠れている従魔がいないか確認したところ、本堂の周囲にいる五体の従魔以外に反応はなかったので、そのことを仲間に伝えた。
 央は、本堂自体を傷つけないように、雨戸に殺到している従魔の側面から攻撃を仕掛けた。従魔を本堂から引き剥がすのが目的である。従魔は央に向かって唸り声をあげた。
 若葉は、本堂方面に急行し、本堂に体当たりしている従魔が射程に入るとすぐに、すかさず一体を狙い撃ちした。まずは従魔の意識を本堂から逸らす必要がある。
「お前らの相手は俺達だっ!」
 矢を背中に受けた従魔は振り向いた。
(……まずは成功か、そのまま引付けろ)
「了解」
 若葉は、ラドシアスの言葉に頷いて、従魔を本堂から引き離すために、弓を構えたまま後ずさりした。従魔は、若葉に向かって駆け出した。
「見つけた。仕掛けるよ!」
 藍は、仲間に呼び掛けた。
(ほんとに雨戸で耐えてます……! きっと御仏の加護があるんですね!)
 妙なところに感心する禮。
 藍は、幻影蝶を使用して従魔の群れを攻撃した。状態異常に陥った従魔達の攻撃が止まった。
 雅春は、パニッシュメントを使用し、破壊は最小限に抑えて従魔を攻撃した。
 拓海は、金の掌を使用して、雨戸の前に土壁を発生させ、従魔と本堂との距離を確保した。続けて、碧の王と碧の髪を使用した。
「お堂から離れろ」
 ライヴスの竜巻と突風が、従魔を吹き飛ばした。拓海は、従魔と本堂との間に入った。
「子供が危険! そんな時はオレに任せてー」
 手に入れたばかりのペンギンの着ぐるみ姿で颯爽と登場したのは、最上 維鈴(aa4992)。子供達の怖かった思い出を少しでも良い思い出に変える為のペンギンスーツである。強いペンギンが助けてくれたという思い出に変えられたらいいな、と思ったからで、断じてネタに走りたかった訳ではない。
(わあ、かわいいです)
 ペンギン対狼というシュールな構図に、禮がくすりと笑いをもらした。
 従魔は、本堂にいる子供達への興味を失い、エージェント達に向かって唸り声をあげた。従魔の数は五体。若葉、央、拓海、藍、維鈴が、一体ずつ従魔に対応すれば、従魔の連携を阻止し、本堂を攻撃する暇を与えないようにすることができる。若葉達は、それぞれ自分の敵を決めて、従魔に相対した。
「もう大丈夫だから、待ってて!」
 若葉は、本堂の中で怖がっているであろう子供達に、力強く声をかけて励ました。
「頑張ったね、もう大丈夫だよ」
 拓海も、壁越しに子供達に明るく声をかけた。
「雅春、後は頼んだ!」
「任せて!」
 雅春は拓海に応えると、本堂へ走った。若葉は、雅春の邪魔をさせないように従魔を攻撃して援護した。
 雅春は土壁をジャンプして跳び越え、本堂の雨戸を開けた。

 雅春が本堂に入るのを確認すると、央は目の前の敵に集中し刀を握る手に力をこめた。今回の戦闘では、誤射を防ぐ為に刀で戦うと決めていた。
(人型相手とは勝手が違うわ……下段、下からの攻撃への対応を意識して)
「あまりやった事はないが、やってみよう」
 マイヤの助言を聞いて、央は敵の正面に立った。ソードウルフの瞬発力と低い姿勢に対処するため、下段に構え、剣先を敵の目線に合わせて牽制する。
 従魔は、牙を剥き出して央に襲いかかった。

 若葉は、できるだけ敵の攻撃を回避して、ダメージを受けない安定した戦い方を心掛けていた。エージェント達が劣勢に見えたら、避難する子供達が不安になるだろう。それを避けるための配慮だった。
 従魔が若葉に飛びかかった。避けることは可能だったが、避けた場合、楼門が従魔の剣で傷つく恐れがあったので、若葉はアガトラムで従魔の攻撃を受け止めた。瞬時に展開された魔法陣が従魔の身体をはじき、更にリフレックスが呪いのダメージを従魔に与えた。

 藍は、従魔との距離を一気に詰めてトリアイナ【黒鱗】で攻撃した。青い穂先が、従魔の背中に当たり、キンと甲高い音をたてた。
 従魔が他へ攻撃する隙を与えないように、藍は矢継ぎ早に槍を繰り出した。藍の長い黒髪が激しく揺れる。
 従魔は頭を低く下げると、藍に突進した。藍は、トリアイナの三叉を十手の要領で使って、従魔の剣を受け止めて捻った。従魔の剣が折れて宙に飛んだ。

 維鈴は、ぺちぺちと走って、従魔を戦闘しやすい場所に誘い出した。
(ペンギンの手でうまく銃を撃てるのかは謎だけど、戦闘用だしきっと大丈夫だよねー)
 そんなことを思いながら、拳銃を取り出して構えた。拳銃を握る手の感触は普段通りだった。
(よかった。でも、油断せずに行こう)
 銃を持つペンギンの姿は、やっぱりシュール。だが、従魔はそんなことはお構いなしに維鈴に襲いかかってきた。維鈴は、零距離回避で従魔を避けた。

 従魔は、鋭い爪で拓海の肩を切り裂いた。
 拓海はブレイブザンバーで応戦。
 拓海の背後には土壁。その向こうにある本堂の中では、雅春が避難の準備を進めているはずだ。
「子供達に手出しはさせない!」
 飛びかかってきた従魔を拓海は薙ぎ払った。

●子供達の救出
 子供達は、本堂の中央に寄り集まっていた。その前には、担任の先生と住職が子供達を守るように立ちはだかっていた。
 雅春は、担任の先生に先に逃げた三人の子供が無事であることを伝え、怪我人の状況を確認した。
 足を従魔に噛まれた重傷の子供が、座布団の上に寝かされていた。雅春は、子供にケアレイをかけて救命救急バッグで手当をした。応急手当はしたものの、早く病院に運んだほうがよさそうだ。雅春は、避難経路の確保を優先するように交戦中の仲間に連絡を入れた。
 他には、従魔の剣で腕に怪我をした子供がいた。雅春は素早く傷の消毒をして包帯を巻いた。
 負傷者の応急手当を終えると、雅春は、魔導機械「くまんてぃーぬ」を手にはめて動かしながら、子供達に話しかけた。共鳴後の雅春は魔術師のような風貌なので、劇が始まったかのようだ。
「これからお兄さん達の言うことをよおく聞いて、落ち着いて行動してね!」
 この場に不釣合いな程あっけらかんとした様相であった。子供達を不安にさせないように、場の空気に飲まれぬように、雅春は演技を続けた。
「おさない・かけない・しゃべらない」
「避難訓練の時と同じですか?」
「そうだよ。大丈夫、焦らずいつもどおりにやれば良いのさ!」
 子供達が頷くのを見て、雅春はほっとした。
(……案外、強気になれるもんだなあ。小さい頃、一人遊びでよくやってたからかな)
 だが、全員が素直に話を聞いたわけではなかった。集団の端っこにいる男の子は、クマのぬいぐるみに目を向けずに俯いていた。
 雅春は、その子の前にしゃがんだ。男の子が視線を上げる。
「子供扱いするなって? ようし、それならきみにも一肌脱いでもらおうじゃないか。頼りにしてるよ」
 雅春は、演技の通用しない子程、冷静に対処できる見込みがあると判断して、声をかけた。男の子は肩をすくめた。照れているようだ。
 雅春は、避難の細かい手順を皆に説明して準備が整うと、通信機で仲間に報告した。

 央は、ジェミニストライクを使用し、分身との同時攻撃によって、敵を撹乱させた。動きが止まった従魔に、央は刀で一撃を加えた。
 子供達の避難が始まるまでに、少しでも従魔の数を減らしておきたいところだ。央は、仲間を信じて、目の前の敵を確実に仕留めることに集中した。
 狼狽から回復した従魔が、央に飛びかかった。央は、敵の動きに合わせて同じ方向へバックステップし相対速度を合わせた。
「動きを合わせてしまえば止まっているのと同じ……剣を摂れ、銀色の腕!」
 央は、射線上に本堂等がないことを確認してから、ヌアザの銀腕のビームを剣状に固定し、従魔を叩き落とした。
 地面に落ちた従魔が立ち上がる前に、銀腕のビームがその身体を貫き、従魔は息絶えた。

(着ぐるみだから多少刺されても大丈夫かも? あ、でも穴空いたら嫌だなぁってことで)
 維鈴は、ペンギンのふっくらしたお腹で腹ばいになり、従魔に向かって滑って突進した。従魔が弾き飛ばされる。維鈴は、怯む従魔に銃弾を放った。そして、立ち上がろうとしたが、大きなお腹があだとなってうまく立ち上がれない。
(あれっ?)
 じたばたしている維鈴に向かって、従魔が走り出した。
 絶体絶命!
 と思われたが、どこからか飛んできた矢によって従魔は足を止め、その間に維鈴は起き上がることができた。
「大丈夫?」
 援護射撃を行ったのは、若葉。若葉は、視野を広くもって仲間と敵の動きに常に気を配り、全体の戦況把握に努めていたので、維鈴の危機にすぐ気づくことができた。
「大丈夫だよ。ありがとう!」
 維鈴は、ペンギンの手をぶんぶんと振った。

 雅春から最初に連絡があった時点で、残る従魔は四体。
 エージェント達は連絡を取り合って、四体の従魔を境内の東側へと誘導するように戦った。
 雅春から二度目に連絡があった時には、避難経路が確保できていた。
「じゃあ、行こうか」
 雅春は、明るく子供達に声をかけ、避難が始まった。
 雅春のカバー範囲に収まるよう、子供達は二・三列縦隊でかたまり、担任の先生は先頭、住職は最後尾で子供達を挟む形で進んでいった。クマのぬいぐるみに興味を持たなかった男の子には、軽傷の子供の手助けをお願いしておいたのだが、うまくやってくれているようだ。雅春は、重傷の子供を抱えて、集団の東側、従魔に面するほうを歩いた。万一こちらに攻撃が向かう場合は、全てカバーリングする心づもりであった。
 藍と戦っていた従魔が、移動する子供達に気づき、子供達に向かっていこうとした。
(沈め)
 禮が呟いた。
 藍は、リーサルダークを使用した。ライヴスの闇が従魔を包み、従魔は気絶した。藍は、距離を一気に詰めて槍で従魔を突いた。
 拓海は、素早く動き回る従魔に黄の爪を使用し、雷撃を命中させてから、魔導機械「ヤナミ」で従魔に攻撃した。犬のぬいぐるみは、レミアには似合うが、拓海にはちょっとファンシー。だが、避難中の子供達の不安を軽減するにはちょうどいい。
「ワンちゃん頑張るよ~」
 パペットらしく少しコミカルな動きで、子供達にアピールした。その際も目線は従魔達から離さず、従魔達が子供達を攻撃しないように挙動の監視を続けた。拓海は、怪しい動きを見せた従魔に直ちに攻撃を加え、従魔の関心を自分にひきつけた。
 従魔達が、激しく吠え出した。思わず子供達の足が止まる。それを見た従魔達は、一斉に走り出した。
 央は、即座に繚乱を使用した。影が収束して薔薇の花弁となり、従魔達の周囲に舞う。従魔達は、舞い散る花びらを見上げて足を止めた。
「そっちは駄目なんだよー」
 維鈴は、子供達に一番接近していた従魔の足に、ドローミチェーンを引っかけて引き戻した。腹を立てた従魔が追いかけてくるのから、ぺちぺちと逃げつつ、維鈴は手を振った。
「くまんてぃーぬ、子供達はよろしくね~」
「りょーかいっ! またね!」
 雅春は、「くまんてぃーぬ」を動かして応えた。
「あいつはペンギンのモガミン。僕の頼もしい相棒さ!」
 雅春は、逃亡中の維鈴に目配せして、「さあ、前に進もう」と子供達に避難を促した。
「おっと、ふれあいタイムは後にしておくれよ? お楽しみはとっとくもんさ」
 ペンギンから目を離せないでいる子供には、冗談っぽく声をかけた。
 子供達は、再び歩き出した。
 子供達がペンギンに気を取られている間に、若葉は、繚乱によって翻弄されている従魔に攻撃を加え、子供達への接近を防いだ。拓海、藍も、他の従魔達に攻撃した。その結果、従魔を子供達から離れた場所へと押し戻すことに成功した。
 子供達は、楼門を通り抜けて石段の上に辿り着いた。そして、雅春と共に石段を下り始めた。
 雅春は、石段の下で待機していた救急隊員に重傷の子供を託した。

 子供達の避難が終わり、エージェント達は気合いを入れ直して従魔に向き合った。
 拓海は、黄の爪を使用した。雷撃が従魔を襲った。
 すかさず、藍は龍宮宝典「海帝」を開いた。魔法書から海水のようなライヴスが溢れ出し、従魔を押し流した。
 ライヴスに溺れて動けなくなっている従魔に対して、維鈴は銃撃し、従魔を仕留めた。
 従魔は、残り三体。
「一気に畳みかけるよ」
 若葉は、仲間に声をかけ、シャープポジショニングで最適な攻撃位置に移動して、トリオを使用した。三本の矢が次々に放たれ、従魔に突き刺さった。
 拓海は、魔導機械「ヤナミ」から弾丸を発射した。従魔は、弾丸に眉間を貫かれて息絶えた。
 残る二体の従魔は、それぞれ藍、央に噛みついて血路を開き、左右に分かれて走り出した。
 若葉と維鈴は、逃げ出そうとする従魔達に攻撃し、従魔達を元の場所に押し戻した。
 拓海は、碧の王を使用した。ライヴスの竜巻が、従魔達に襲いかかり、動きを止めた。
 若葉は、テレポートショットで従魔の死角から攻撃した。背後に人間がいると勘違いした従魔が、背を向けたところに、藍のトリアイナ【黒鱗】による攻撃。槍は、従魔を貫き息の根を止めた。
 最後に残った一体に、若葉の放った矢が刺さり、従魔は地面に倒れた。
 五体の従魔は息絶え、境内は静寂に包まれた。

●秋深し
「とりあえずは片付いたか……?」
 藍は、辺りを見回して呟いた。
『ほかにも居るかもしれません。周囲を警戒しましょう』
 禮が言い、藍は、念のため境内と周辺の警戒を行うことにした。
 若葉も、モスケールで周囲の安全確認をした。
「敵影なし……」
『……討伐完了だな』
「よかった。あと、お寺の状況も確認しないと。修理が必要だったら手伝おう」
 面倒くさそうな顔をしているラドシアスを引き連れて、若葉は寺の建物を見て回った。
 拓海は、モスケールで討ち漏らした敵がいないか、新たな敵がいないか確認しながら、石段を下りた。そして、下で待っていた担任の先生、住職、子供達に、従魔の討伐が完了したことを伝えた。
 子供達が絵や絵の具セットを取りに戻りたいと言ったので、皆で寺に戻ることにした。
 子供達は、境内で自分の絵や絵の具セットを見つけたが、絵の多くは千切れたり汚れたりしていた。
「また今度、皆で描きに来よう!」
 拓海は、明るい声で子供達を励ました。そして、子供達の気分を盛り上げて少しでも楽しく帰るために、「ジャンケンする人、手を挙げて!」と呼び掛け、全員で一斉ジャンケン。
「ジャンケンポンッ! チ、ョ、コ、レ、ー、ト」
 子供達に笑顔が戻り、楽しく石段を下り始めた。なぜか拓海だけジャンケンに負け続けた。
「あれ? ……こんなに距離が開いたら警備できない!」
 拓海は、わざと真剣な表情で、最後尾の子供にさっと近寄った。
 ずるい、と子供達から声が飛ぶ。
「困った……戦いなら負けないんだけどなぁ」
 拓海は、笑って頭をかいた。

 央は、本堂の損傷を確認した。柱についた小さな傷は若葉が修理してくれたが、雨戸はかなり傷ついているので、取り替える必要がありそうだった。
「子供達を守ったお寺さんが痛々しい姿じゃあ悲しいですから」
 央は、住職に話しかけ、損害保険の手続きや補修業者への連絡について確認した。人命が尊いのは当然だが、物的損失だって看過できるものではない。央の家は神道なのでお坊さんには縁が薄いが、人の心の支えとなるこのような建物は大事にするべきだ、と央は思っていた。
 マイヤは、央の隣に控えていた。子供への接し方がわからないので、央の影に隠れてそっと子供達を見守る。
「おねーさん」
 男の子が近寄ってきて、右手を出した。人差し指が赤く染まっている。
『……ごめんなさいね。私には怪我を治す能力はないの』
 マイヤは相当頑張って言葉を返したのだが、それに対する男の子の返答は「これ、絵の具だよ。だまされたー」であった。
 マイヤの頬がうっすらと赤く染まった。
 央は、いたずらっ子に注意してやろうと口を開いたが、男の子が「おねーさん、綺麗だね」と言っているのを見て満面の笑みを浮かべた。
『……央、黙って見ていないで、助けて』
「婚約者を褒められて嬉しくない奴はいないから」

 ペンギン姿の維鈴は、子供達に囲まれていた。
「ペンギンって凄いんだよっ。こんな短足なのに凄いスピードで泳ぐんだからっ」
 でも、ここは地上。とりあえず、子供達は楽しそうだ。
「皆大丈夫そうだねっ。よかったー。けど、この姿だといつも以上にお腹すいちゃうよー」
 維鈴のお腹がぐぅと鳴り、笑いが巻き起こった。
「維鈴くん、お疲れ様」
 雅春がやってきた。
「お疲れー。もらったペンギンスーツ使わせてもらったよ。似合う?」
 維鈴は、ポーズを決めた。
「うん、すごく似合ってるよ」
 雅春は、にっこり微笑んだ。

『それにしても……きれいな紅葉ですね』
「ついでに散策と洒落込もうか」
 周辺の警戒を終えた禮と藍は、のんびりと紅葉を見物した。
 色づいたカエデとイチョウがひなびた寺によく似合っていて、子供達が絵を描きに来るのも納得の美しさだった。
「お参りして帰ろう」
 藍は、本堂の前で手を合わせた。
 冷静な先生と徳の高い住職、そして御仏の加護が無ければ子供たちは犠牲になっていただろう。藍は、心の中で仏様に感謝を伝えた。
 藍の隣で、禮も手を合わせた。
『……これからも甘い物をたくさん……』
「え? 今なんて? ……甘い物と聞こえたんだが」
『空耳ですよ、きっと! さあ、帰りましょうか!』
 禮は、元気よく歩き出した。

 他の子供達が寺に戻ったのに、石段の一番下の段に座ったまま動かない女の子がいた。
 レミアは、まだ震えているその子供に近づいて話しかけた。
『びっくりした……の? こわかった……かな?』
 女の子は、無言で頷いた。
『……おねえちゃんもこわいのが……たくさんなの……おなじ、だね……』
 レミアは、女の子の背中をそっと撫でた。女の子の目から、涙がボロボロとこぼれた。
 我慢するより泣いた方がいい。レミアは、女の子の隣に静かに座っていた。
 やがて、女の子の涙が止まった頃、子供達が賑やかに石段を下りてきた。
「絵の具セット持ってきたよー」
 石段の途中で絵の具セットを高く掲げる友達に、女の子は「ありがとう!」と叫び返した。
 拓海は、レミアに手を振った。子供達にはショックな一日。でも、それが怖いだけの記憶ではなく、助け手がいる、自分達も頑張れると、前向きな記憶として残すことができますように。拓海は、そう願った。
 今の子供達の表情は、拓海の願いが叶ったことを示していた。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 苦悩と覚悟に寄り添い前へ
    荒木 拓海aa1049
  • 素戔嗚尊
    迫間 央aa1445

重体一覧

参加者

  • 共に歩みだす
    皆月 若葉aa0778
    人間|20才|男性|命中
  • 温もりはそばに
    ラドシアス・ル・アヴィシニアaa0778hero001
    英雄|24才|男性|ジャ
  • 苦悩と覚悟に寄り添い前へ
    荒木 拓海aa1049
    人間|28才|男性|防御
  • 願い叶えて
    レミア・フォン・Waa1049hero002
    英雄|13才|女性|ブラ
  • 素戔嗚尊
    迫間 央aa1445
    人間|25才|男性|回避
  • 奇稲田姫
    マイヤ 迫間 サーアaa1445hero001
    英雄|26才|女性|シャド
  • マーメイドナイト
    海神 藍aa2518
    人間|22才|男性|防御
  • 白い渚のローレライ
    aa2518hero001
    英雄|11才|女性|ソフィ
  • やさしさの光
    小宮 雅春aa4756
    人間|24才|男性|生命
  • お人形ごっこ
    Jenniferaa4756hero001
    英雄|26才|女性|バト
  • 着ぐるみ名人
    最上 維鈴aa4992
    獣人|16才|男性|回避



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