本部

思い出に残るプレゼントを

影絵 企我

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
7人 / 0~8人
報酬
無し
相談期間
5日
完成日
2018/11/03 12:21

掲示板

オープニング

●紅茶狂い、怒る
 澪河 青藍(az0063)と愉快な仲間達の住むアパート。いつものように朝から湯を沸かし、紅茶を淹れようとしていたウォルターだったが、お気に入りのティーカップを取った瞬間何かに気付いた。見る見るうちに目を三角にした彼は、ティーカップを乱暴に台所へ置くと、ずかずか居間へ歩いていく。
『ニシナキョウカァッ!』
「うわらばばば」
 テレビを見ていた仁科 恭佳(az0091)は、背後から突如吼えられ跳び上がる。青藍も振り返るが、相方の剣幕を見た瞬間にテラスにヴィヴィアンを連れて隣の部屋へと逃げ込んでしまった。あっという間にタイマン状態である。
「ど、どしたどしたの。そんなに怒っちゃって」
『どうしたぁ? ふざけるなよ貴様。私のティーカップでコーヒーを飲んだだろうが!』
「はぁ? 何で事実確認もせずに私に来るわけ?」
『この家でお前以外にコーヒーを飲む奴いないだろう!』
 恭佳はソファの陰に身を隠しつつ、背後を振り返る。そもそも飲食をしないテラス、ウォルター程ではないがコーヒーが苦手なヴィヴィアン、ウォルターとの裏誓約で“コーヒーとジンを飲まない”青藍。確かにコーヒーを飲むのは恭佳しかいないのだ。
「……というか、何でわかるんだよ!」
『私は感じるのだ。ティーカップの声を。泣いているぞ。紅茶を淹れるために生まれた私が、あんな泥水に穢されてしまった……とね』
「電波やめろ! ちゃんと洗ってあっただろ!」
『黙れ! お前は許されざる事をしたのだ!』
 ウォルターは袖の内から一本のメスを取り出すと、指の間に挟んで恭佳に狙いを定める。
『というわけでオヌシを殺す』
「待って待って待ってえええ! わかった、わかったからああ!」
 恭佳はあまりにもマジなウォルターにいよいよ顔色を失い、急いでコートを着て飛び出していった。

●贈り物を買いましょう
「くっそがぁ……あの紅茶狂いめ……」
 ぶつくさと文句を垂れ流しながら、恭佳は日曜日のデパートを訪れていた。とにかく人が多い。北極で何やらかんやら起きているが、日本人はまだまだ呑気に生きているようである。恭佳はポケットに手を突っ込んだまま、人波をすり抜けていく。寝起きのまま飛び出したせいでウルフカットなのか寝ぐせなのか区別のつかない頭をしているが、それでも学校一つに一人いるかいないかの美貌は目立つ。
 おまけに彼女は天才的なトラブルメーカー。店を訪れていた君達の中にも、彼女の存在に気付いた者は多くいるだろう。

 君達は彼女に声を掛けてもいいし、掛けなくてもよい。此度の目的は一つ。大切な人に送るプレゼントを用意する事だ。明日命があるかもわからない、こんな時だからこそ。

解説

メイン 誰かのために贈り物を買おう

NPC
☆仁科恭佳
 ウォルターの激昂に突き上げられてデパートにやってきた研究員。おすまししてれば眼鏡の似合うすっごい美少女。一人きりにしていればその表情が拝める。
・行動指針
 ティーカップ買って帰る。それなりの値段がするやつ。

☆ウォルター
 絵にかいたような紅茶党のコーヒーアンチ派。いつもは鷹揚だがそういうとこだけすごくおっかないし危うい一面を見せる。
・行動指針
 怒りはすでに沈静。H.O.P.E.の医務室で勤務している。

FIELD
☆デパート
 一般的な百貨店。少しお高めなブランドが多めに入っている。通常プレゼントに贈るために買うようなものは一通りそろっている。

リプレイ

●珈琲嫌いの秘密
「……ってわけっすよ」
 偶々出くわした赤城 龍哉(aa0090)とヴァルトラウテ(aa0090hero001)に、恭佳はかくかくしかじかを話す。龍哉は顎を探った。
「俺はどっちも飲むから何とも言えねぇな」
『そもそも、何が原因でそこまでコーヒーが嫌いなのか興味がありますわ』
「ですよね! コーヒーを何だと思ってんだって話ですよ! 素晴らしい飲み物ですよ!」
 ぼさぼさの髪をさらにふんわりさせて恭佳が叫ぶ。我が意を得たりと言わんばかりだが、龍哉は拳骨作ってこつんと叩く。
「とはいえ、カップの件は仁科が不注意だぜ」
『考えてみるのですわ。自分が愛用しているティーカップを、他人がうがいに使ったとしたら、と』
「……ああ、それはとりあえずしばく」
 頷き合う龍哉とヴァルに向かって、恭佳はいかにも不機嫌そうに口を尖らす。
「はえー? その喩えはコーヒーに失礼じゃないですかぁ?」
『言い訳はせず、どう取り成すか考えた方がよろしいのではなくて?』
 恭佳は口を尖らせる。腕をぷらぷらさせ、いかにも子どもっぽく応えた。
「わかってますー。だからここにいるんですー」
 龍哉はちらりと商品棚を見遣る。ブリティッシュブランドの値が張る食器が並んでいた。様々な柄や形のティーカップは特に目立つ。
「新しいティーカップか。なら、ついでにもう一つくらい付け足したらどうだ?」
「もう一つ?」
「そうだ。質のいい茶葉とか茶器の類は定番と言えば定番だが……ただ弁償的に代わりのモノを買っても余計苛立たせるだけかもしれないからな。ほら、揃い柄のティーポットとか、どうだ?」
 彼はショーケースに飾られているティーセットを指差す。恭佳は眼鏡を掛け直しながら、じっと値札を覗き込む。
『予算が許すなら、ですけれどね。わたくしはベルガモットのアロマオイルなどもおすすめですわね。香りには敏いようですし』
 ヴァルトラウテは別の棚に飾られていた香料を手に取る。二人のアドバイスを聞いていた彼女は、小さく頷いた。
「そうですね。何だかんだであいつには世話になってますし」

 恭佳の買い物に付き合って数日後、二人は食堂で蕎麦を啜っている青藍を訪ねていた。
「ウォルターさんがコーヒー嫌いな理由、ですか?」
「そうだ。何だか嫌い方が過激に見えてな」
『何かトラウマでもあるのではないかと思ったのですわ』
 箸を置いた青藍は、肩を竦める。
「あの人も細かい事は憶えてないんであんまりよくわかってないんですけど……イーストエンドで診療所を開く前は軍医だったらしくて、その時に何か厭になることがあったんじゃないかって、ウォルターさんは言ってました」
「軍医?」
『ワトソン君はアフガン戦争で肩を悪くしたのですわ』
 最近某推理小説を読み込んでいたヴァルが反射的に応えた。ウォルターが本来生きていた時期とも一致する。龍哉は小さく唸った。
「自分にも判らねえ何かがあるってのはやっぱりもどかしいもんだろうな」
『判らないのでは折り合いもつけられませんわ』
「……まあ、苦労してるって事ですね」

●友に贈り物を
 皆月 若葉(aa0778)とラドシアス(aa0778hero001)は、開店して間もない百貨店を練り歩いていた。冬物の服の前で立ち止まると、マネキンの着たカーディガンを指差す。
「こういうのも似合いそうだよね」
『この時期一枚あると便利だが。贈り物としてはどうだろうな』
 窘められ、若葉はそろそろ手を引っ込めた。
「だよね。マフラーとか小物系? うーん……他も見てみよう」

 今度は靴屋を通りかかる。表に平積みにされたスニーカーを手に取った。
「これは……今秋の新作!」
『サイズは分かるのか?』
 若葉はそっと靴を棚へ戻した。流石に足のサイズは把握していない。

 階を上がって、彼らは雑貨店を訪れていた。若葉が手に取ったのは、ストラップが括りつけられた一つのカップ。
「じゃあこれにしよう」
『ククサカップか。いいんじゃないか』
「一つ一つ表情が違う一点物だし、貰った人に幸運が……って言うしね」
 親友に幸せがあってほしい。そんな願いを込め、若葉は親友とその英雄達に似合うカップを探していく。
「そうだ、珈琲も一緒に買わないと」
 夏のキャンプを思い出し、若葉は柔らかく微笑むのだった。

 その頃、構築の魔女(aa0281hero001)と辺是 落児(aa0281)は百貨店の隅にある金細工店を訪れていた。
「注文の品は出来ておりますよ。このような形で宜しかったでしょうか?」
 カウンターに立つ店員が、五枚のコインをカウンターに並べる。ライヴス結晶を地金にした、表にそれぞれ異なる武器の紋様が彫られ、裏にメッセージを込められた特注のコインだ。
 “異邦人たる優しき友人へ。  より”
 “親愛なる後輩へ祝福を。  より”
 “掛け替えない友人へ。  より”
 “親愛なる友人に幸運を。  より”
 “私の誇るべき片翼へ。  より”
 表の紋様と裏のメッセージを検め、魔女は満足げに微笑む。
『ふむふむ、名前の部分は彫らないといけませんが……良い仕事をしてくださいました』
「またご利用の機会がありましたら、何なりとお申し付けください」
『ええ、その時にはよろしくお願いします』

 親友へのプレゼントを買った若葉は、今度はお留守番中の幼い英雄にお土産を買うべく、玩具売り場を訪れていた。
「この三匹のどれか……むむ」
 若葉は犬のぬいぐるみを三つ手に取り、ずっと見比べていた。犬種や模様は違うが、ラドシアスには同じぬいぐるみにしか見えない。呆れたように肩を竦めると、彼の背中を叩いて歩き出す。
『……他を見て来るぞ』
 ラドシアスは一人歩き出す。本屋の横を通り過ぎ、彼はアクセサリーショップの前で足を止めた。ショーケースを覗いてみると、煌びやかなシルバーイヤリングが目に留まる。
 慕い合う仲となった彼女の姿が、ふと意識を掠めた。
『(……彼女に似合うだろうか)』
「お気に入りの物がございましたか?」
 店員に尋ねられ、思わずラドシアスは頷くのだった。

 小さな袋を提げて玩具売り場に戻ってきたラドシアス。彼が目の当たりにしたのは、五匹のぬいぐるみを並べてうんうん言っている相棒の姿だった。
『……増えてないか?』
 優柔不断な背中を呆れたように見つめていると、魔女達が側を通りかかった。彼女達はにこやかに歩み寄ってくる。
『あら? 若葉さんにラドシアスさん、こんなところで会うとは珍しいですね』
『ふむ。二人も買い物か?』
「魔女さんいい所に! どれがいいと思います?」
 振り返った若葉は、五つのぬいぐるみを落児と魔女に差し出す。首を傾げた魔女の横から、落児はそっと真ん中のぬいぐるみを指差す。目配せすると、魔女も納得したように頷いた。
「確かに。これが一番表情が柔らかくて可愛らしいかもしれませんね」
「じゃあこれにします!」
『決まったみたいで良かったです。もし、時間があればこれからお茶でもどうですか?』
「はい! 是非!」
 若葉は二つ返事で応える。すっかり待たされていたラドシアスは、肩を掴んで無理矢理回れ右をさせた。
『いいから、買ってこい』

 最上階の喫茶店を訪れた四人は、窓際の席に腰を落ち着ける。メニュー表を手に取りつつ、魔女はほっと息を吐いた。
「この頃忙しかったせいか、久しぶりな気がしますね」
『依頼で顔を合わせる事はあっても、のんびり話をするのは本当に久しいな』
「Lin CLASSにも最近遊びに行けてなくて……あ、何か新しいゲームとか、入りました?」
 ゲーム好きの若葉にとって、二人が営むゲームセンターは憩いの場所の一つでもあった。
「新しいものは、ガンシューティングでしょうか? 中古のものですけどね」
『それで……二人は何を買ったんだ?』
 店員を呼びつけて幾つか注文しながら、ラドシアスは魔女に尋ねる。魔女は紙袋を開くと、小箱を一つ取り出す。ライヴス結晶のコインが不思議な光を放っていた。
「私はこのコインを受け取りに来たんですよね」
『珍しいコインだな。何か、特別な物なのか?』
「そうですね。……特別な物です」
 丁寧に箱を袋へ戻すと、魔女は若葉へ眼を戻す。
「しかし、若葉さんはホントに長く悩んでましたね」
 袋からはみ出したぬいぐるみの頭を撫でつつ、若葉は頷く。
「お土産が決まらなくて……魔女さん達が来てくれて助かりましたよ」
『決まらないにも限度があるがな』
「友達の誕生日プレゼントも探してたんです。いいのが見つかりましたよ」
 ククサカップを手にした若葉は、満ち足りた笑みを浮かべていた。

 家に帰った魔女は、早速コインの仕上げに取り掛かった。彫刻刀で丹念に削り、自分の名前を入れていく。それから彼女は、コインに添えるメッセージカードも書き始める。
 小さな色紙の上に万年筆を走らせ、魔女は言葉を幾つかしたためていく。交わった日常を懐かしむ言葉、感謝と謝罪の言葉、在りし日の闘争を偲ぶ言葉、過ぎ去った日常を振り返る感謝の言葉。そして、共に駆けた戦場の思い出と感謝の言葉。
『さてと、こんな感じでしょうか?』
 万年筆を置くと、魔女はその出来栄えを眺めた。一人頷くと、魔女はカードとコインを五つの小箱へ収めていく。
『渡す時までは大切に保管しておきましょうか……』

●二人の記憶
 秋ファッションの琥烏堂 晴久(aa5425)は、スキップしながら市井を歩く。その見た目は、相変わらず男子か女子かわからない。
「兄様とお出かけだー!!」
『ハル、今からその調子では着く前に疲れるぞ』
 数歩離れて琥烏堂 為久(aa5425hero001)が晴久の後を追う。顔は仮面で覆われているが、きっと苦笑しているに違いない。
「だって! 兄様からのお誘い、しかも一緒に買い物なんて滅多にないんだよ! テンションだって壊れるよー!」
 一足飛びで為久のそばへ駆け寄ると、その腕を引く。歩調を合わせながら、為久は心の奥でそっと溜め息を吐く。
『(これはハルが元気なうちに目的を済ませた方がいいな)』

 かくてデパートに辿り着いた二人。今度は為久が晴久の腕を引き、とある店へと連れていく。ショーケースの煌びやかな品々を見つめ、晴久は息を呑んだ。
「宝石?」
『ああ。兄と言いながら、今まで贈り物をした事が無かったと思ってね』
 晴久は目を見張る。思いがけない贈り物に、晴久は思わず目を泳がせた。
「そ、そんな……兄様がくれるなら、河原の石だって宝物になるのに……」
『ハルはそう言うと思ってさ。逆に何がいいのか難しくてね』
 為久はケースの真ん中に飾られていた、桃色の宝石を指差す。
『でも。……このピンクスピネル、だったかな。ハルの髪と同じ色の宝石の話をしていたのを思い出したんだ』
 兄の仮面に覆われた横顔を見上げる。頬を染めて、晴久は声を掠れさせた。
「……覚えててくれたの……?」
 為久は頷く。これまで、為久が何かを贈ることも、晴久が何かをねだる事も無かった。ただ、半年前にある愚神が言ったのだ。
――ハルちゃんの髪の毛、綺麗な紅色だから、そういう色の宝石を使った指輪なんて素敵だと思うな!
 それを傍で聞いていた為久。王との戦いを控えて、一つくらいは残る物が在ってもいいと、そういう気分になったのだ。
『後で“揃いの腕輪がいい”とも言っていたね。何が欲しいなんて滅多に言わないから、覚えているよ』
「……え、じゃあじゃあ、とりあえずお店全部見ていい? 他にもたくさんあるから!」
『もちろん』

 それから二人は、幾つも宝石店を練り歩いた。あれはこれはと目を輝かせながら跳ね回る晴久。それを見守る為久も、いつになく楽しげだった。

 一時間以上もデパートを練り歩き、二人は美しい宝石の嵌った腕輪を手に入れた。為久は晴久の左腕を通しながら、独り思う。
『(あの愚神は、贈り物を“見えない想いを見せる手段の一つ”と言っていた。……癪だが、その通りだ。悪くない)』
 晴久も為久の右腕を腕輪に通していく。
「(贈り物に腕輪を選んだのには意味があるって、兄様はきっと気付いてないよね。その宝石を選んだのだって、色だけじゃないんだよ)」

 ピンクスピネルは勝利・目標達成の象徴。愚神に、王に勝つ。兄様とも離れない。それを、貴方に誓う。

「……兄様、ありがとう! ずっと大事にするよ!」
 晴久は為久の手を取る。銀の腕輪が触れ合い、凛とした音が響いた。

●星に願いを

「あ、すみません。鴛鴦茶ひとつお願いします」
『え~っと……エッグタルトに、温かい紅茶で』

 桜小路 國光(aa4046)とメテオバイザー(aa4046hero001)は、喫茶店でティーブレイク中だった。テーブルの傍らには小さな紙袋。中には、友人達に送るプレゼントが一つ一つ包まれていた。
「(……こんな御守り程度の者でどうにかなるとは思ってないけど)」
 バカバカしい、意味がない。そんな風に自嘲しつつ。しかし、“死地へ赴く友人達の無事”の為なら、下らない願掛けでもしたかった。
 國光が右腕をふと見れば、メテオから贈られたお揃いの腕輪が嵌っている。似たようなものかもしれない。恋人でなくても、大事に想われているのは素直に嬉しかった。
「(かけがえのない……か)」
 英雄が家族になっていく感覚は、國光にとってはこれで二度目だった。姉の英雄が消えた頃には、能力者や英雄と二度と関わりたくないとさえ思った。その思いは、今も何処かに燻っている。
「(また失ったら、きっと……)」
 エッグタルトを受け取っているメテオをちらりと窺う。屈託無い笑みを浮かべていた。
「(王を斃したら……英雄も消えるのかな?)」
 ふと、そんな事を考えてしまう。それでも“兄”が健在だった頃と同じように、もう相棒の居ない日々を想像する事は出来なかった。
『……サクラコ、聞いてるんですか?』
「あ、ごめん、なに?」
 ふいにメテオに語気を強められてハッとなる。どうやらずっと話しかけられていたらしい。彼女は頬をぷっくりさせた。
『また、難しいこと考えてたのです!』
「ごめんなさい。他に頼みたいものあるの?」
 國光がメニューを取るが、メテオはそれを引っ込める。
『違うのです! この間の腕輪、実は少しリメイクをお願いしたのですよ』
 メテオは腕からするりと腕輪を外すと、その裏側を見せるように差し出す。
『それがこの間届いたのです。見てください』
「うん……?」
 本来なら、そこには小粒のルビーが嵌っているだけだった。しかし、今はその左右に色とりどりの宝石が、最初からあったかのように並んでいる。
『今のメテオには、サクラコはそう映ってるのです……。きちんと調べてお願いしたのです。あってます? あってますか?』
 メテオは不安げに尋ねる。國光は覗き込むが、石が小さすぎてどれがどれだか一目ではわからない。結局曖昧に頷く事しか出来なかった。
「……うん。多分」
『よかった。なので、サクラコの腕輪とその腕輪、交換してください』
 メテオは國光の手に自分の腕輪を押し付ける。國光は微笑むと、自分も腕輪を外し、裏側を覗き込む。
「待って……それなら、オレもメテオがどう見えてるか、同じ形で応えないとね」

 買い物が終わった後の最重要課題が決まった。まずはメテオが彼をどう見ているのか知る。それから、自分がメテオをどんな存在だと思っているか、伝える。
 今のうちに、やっておかなければならない事だ。

「(えーと、これはファイアオパール、これは……オレンジサファイア、かな?)」

●少女の想い
 水瀬 雨月(aa0801)は、さりげないお洒落をしながらさりげなくデパートを訪れていた。歩くだけで周囲の目を惹きつけているが、彼女は全く気付かない。
「(……さて、何を贈ったものかしら)」
 ギフトコーナーにやってきた雨月は、洋菓子和菓子の列を見つめる。地元の家族へ生存報告ついでの贈答品を探していた。とはいえ、連絡してもただ顔を出してくれと言われるだけだ。彼女自身の一存で決めるより他にない。
「(まあ、この辺のお菓子でいいかしら。地方じゃ中々食べる機会無いでしょうし)」
 並ぶお菓子は目にも優しい。以前に料理で血反吐を吐いた彼女は、当たり前に美味しい物の有難みをしみじみと実感するのだった。


――六花に少しでも気分転換させてあげて。難しいと思うけど――
――ついでにオールギンも色々見てくるといいわ。まだあんまり任務以外で出かけた事って、無いでしょう?――


 愛しい女神にそんな事を言われ、オールギン・マルケス(aa4969hero002)は氷鏡 六花(aa4969)と共にデパートを訪れていた。厳めしい顔をしているが、内心は行き交う人々の姿に興味津々である。海に生きた彼にとって、人間の暮らしを直に見るのは半ば初めてだった。
『人の世とは、かくも賑やかなものなのだな。北極に愚神の王が降臨したというのに、悲愴感もさほど感じぬが……』
「……うん。普通に暮らしてる人には……きっと、あんまり実感とか、ない……んじゃないかな」
 周囲を見渡す六花は、戦場と違ってその表情も声色も穏やかだ。とはいえ、よくよく見ればその瞳の奥に冷たい光が見えるし、その声も寂しげだ。
 視線の先を辿れば、六花と同じ年頃の少女が、両親と手を繋いで幸せそうに歩いている。
『(……六花が南極での暮らしを望むのも……もしかすると、ああしたものを目にしたくないからという理由もあるのやもしれん……な)』
 六花の心中慮りつつも、それを慰める為の気の利いた言葉は見つからない。ふと、眉をしかめたまま、彼は人の群れを見つめる。
 馴染みの顔ぶれが、その中に混じっていた。

 修道服でデパートを歩くフローラ メタボリック(aa0584hero002)とヴァイオレット メタボリック(aa0584)。どちらも中々の太さだ。
『慣れないよ毎日が初めてなんだから、ばっちゃは褒めてたけど肉が邪魔だし可愛くない』
 フローラは腹回りを突き回しながらぼそぼそと呟く。何やらかんやらあって急に体重が激増してしまったのである。腰も膝も痛くて仕方ない。ヴィオはからからと笑った。
「確かに、ふてぶてしい感じになっちまっただども、外見は――」
 関係ない、というその口を塞ぎ、フローラはさらりと言ってのける。
『嘘つき姉さん顔を覆ってるくせに、ま、表情を勝手に想像出来て楽しいけど』
 ペラペラ喋りながら、彼女は手元の小包を弄ぶ。中にはゲートボール大会に出ているノエルへのプレゼント、聖歌の歌集が収められていた。
「オラにはプレゼントないんかのう?」
『あたしたちは今日すらすぐ忘れる。だから今を楽しむことがプレゼントだよ』
 さらりと言ってのける。分厚いベールの向こう側で、ヴィオは小さく舌を出した。
「どうせ、思い付きだべ。……ありがとうだよ」
 そんなやり取りをしていると、彼方からのしのしとオールギンがやってくる。
『ヴァイオレット殿ではないか。奇遇であるな』
「おお。オールギンに六花や」
 振り返ったヴィオは猫撫で声を上げる。その隣でフローラは首を傾げた。
『こんなところで何してるの? って買い物しかないか』
『いや、買い物というよりは、物見遊山と言うべきかもしれぬ。これといった算段もなくここまで上ってきた次第故』
「なんら、一緒に洋裁屋へ行くべ。修道服、可愛いと言っておったな。作っておいたんじゃ」
 六花は目を丸くする。
「……ん。本当、ですか?」
『うん。じゃあ早速行こうよ』

 二組のリンカーはその場を後にする。ベンチに座った雨月は、その姿を遠目に見つめていた。今日は見知った顔を見る機会が随分と多い。さっきも雑貨店で誰かを見かけた気がする。
「(今日は随分と色々な知り合いに会うわね。そういう日なのかしら)」
 エスカレーターへ向かう背中を見送ると、スカートの裾を払って立ち上がる。その足はエレベーターの方を向いた。
「(お取込み中みたいだし、話しかけるのは後にしておこうかしらね)」

 アクセサリーショップ。ヴィオとフローラはレジに向かう六花の姿を遠目に見つめていた。氷の意匠を用い、紫を差し色にした修道服風のローブを着た六花。思わずヴィオは独りごとを洩らす。
「六花のシスター服姿、とてもとてもめんこいだなぁ」
『破壊力凄まじいよ、こんな子を持ち帰って……姉さん冗談じゃないから! ……あっ』
 いつものようにぺらぺらと喋ってうっかり良からぬことを喋ったらしい。ベールの奥から鋭い眼光がフローラを射抜いた。フローラが黙ると、ヴィオはしみじみと呟いた。
「ムラサキカガミ様もオラと違って素直にお喜びのはずだぁ」
 やがて、何かを買った六花がオールギンと共にレジから戻ってくる。胸元に何かを握りしめていた六花は、ヴィオの目の前で立ち止まる。
「……ん。これ、六花から……」
 差し出されたのは、雪の結晶を模した首飾り。ヴィオは目を丸くし、袖からそっと手を差し出す。
「おんやまぁ……すまねえだなぁ……」
 早速ヴィオは首飾りを掛ける。自前のロザリオと雪の結晶が触れ合い、澄んだ音色を立てる。音が耳に触れた瞬間、ヴィオははっと閃いた。
「(年老いた姿になったのもこの楽しいひと時の為だったのぢゃ)」
 ふと、ヴィオはその場に崩れ落ちた。六花をそっと抱きしめると、彼女はひたすら泣きじゃくる。
「うぐぅ、あぐぅ……、あっあーー、うでぢぃどでぃ涙がどまらねぇだよ」
「……ん。ヴァイオレットさん」
 六花はそっとヴィオの背中へ手を回す。冷たさと温かさが入り混じる不思議な感覚。ヴィオはその手の中で、静かに決意を固めていく。
【わたくしは六花のおばあ様なのです。導くため強くならねば】
 アイデンティティを探し求めて変化の渦に呑まれていたヴィオ。ようやく一つの答えが見つかった。ヴィオは六花の肩にそっと手を載せ、その顔を覗き込んで尋ねる。
「……六花。私の本当の孫になるつもりは無いかい? ……養子として、だけれども」
 その問いかけに、六花は一瞬目を泳がせた。しかしやがて首を振ってしまう。
「今は愚神を……王を殺すことしか、六花は……考えられないから。そのためなら……死んだっていいって……そう、思ってる……から。だから……今は、その……ごめん、なさい……」
『……六花』
 年端も行かない少女の言葉に、オールギンは顔のしわをさらに深める。一方で、ヴィオは穏やかな笑みを浮かべていた。全てを柳のように受け容れる、凛々しい老女へと変わっていた。
「そう。……それも一つの選択だねえ」
『六花ちゃん、いいこと教えようか?』
 両腰に手を当て、フローラが六花の眼を見つめる。
『幸せな事も、辛い事も、皆で分け合うのが一番なんだよ。それを忘れないでね。あたしはアレだけど、六花ちゃんと分かち合いたいって人は、いると思う』
「……」

 そんな折、通路の端から悠々とした足取りで、雨月がやってくる。いつもと変わらない微笑みで、彼女は四人に尋ねた。
「皆さん、お取込み中?」
「おや、水瀬さんか。……特にこれといった用事はないかねえ」
 ヴィオは首を振る。雨月は階上を指差した。
「そう。だったら、これからお茶でもどう? 折角だし、お金は私が持つけれど」
『いいね! 行こうよ、二人も』
 フローラは六花とオールギンを見渡す。しばし顔を見合わせていたが、やがて二人も頷いた。
『すまない。……ご相伴に与からせて頂こうか』
「決まりね。今日は色々な人が来ているようだし、また他の人とも会えるかもしれないわ」



 かくして、皆々の穏やかな一日は過ぎゆくのであった。

 終わり

結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • ライヴスリンカー
    赤城 龍哉aa0090
    人間|25才|男性|攻撃
  • リライヴァー
    ヴァルトラウテaa0090hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • 誓約のはらから
    辺是 落児aa0281
    機械|24才|男性|命中
  • 共鳴する弾丸
    構築の魔女aa0281hero001
    英雄|26才|女性|ジャ
  • LinkBrave
    ヴァイオレット メタボリックaa0584
    機械|65才|女性|命中
  • 苦悩と覚悟に寄り添い前へ
    フローラ メタボリックaa0584hero002
    英雄|22才|女性|ジャ
  • 共に歩みだす
    皆月 若葉aa0778
    人間|20才|男性|命中
  • 温もりはそばに
    ラドシアス・ル・アヴィシニアaa0778hero001
    英雄|24才|男性|ジャ
  • 語り得ぬ闇の使い手
    水瀬 雨月aa0801
    人間|18才|女性|生命



  • きっと同じものを見て
    桜小路 國光aa4046
    人間|25才|男性|防御
  • サクラコの剣
    メテオバイザーaa4046hero001
    英雄|18才|女性|ブレ
  • 絶対零度の氷雪華
    氷鏡 六花aa4969
    獣人|11才|女性|攻撃
  • 南氷洋の白鯨王
    オールギン・マルケスaa4969hero002
    英雄|72才|男性|バト
  • 奪還屋
    琥烏堂 晴久aa5425
    人間|15才|?|命中
  • 思いは一つ
    琥烏堂 為久aa5425hero001
    英雄|18才|男性|ソフィ
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