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【終極】連動シナリオ

【終極/機抗】指揮官求む(同士討ちあり)

岩岡志摩

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2018/10/29 16:30

掲示板

オープニング

●斡旋前の攻防
 真継優輝(az0045)は、形式的には上司にあたる人物の発した言葉を聞き間違いではないかと思い、問い返した。
「新人ばかりの隊をいきなり最前線に投入するんですか?」
「主戦場ではない。討ち漏らした従魔達が逃走する先で、待ち伏せに向かわせるだけだ」
 スクリーンに映し出された地図には、敵を示す赤い点と味方を示す青い点があちこちに点灯し、敵の予想進路が矢印で複数示されていた。
「お言葉ですが、その待ち伏せは彼等にとって危険であると思われます」
「おいおい、ぶつかるとしても逃げる敵ばかりだぞ」
「それでも現在までに判明している情報を確認する限り、侮れる相手ではありません」
 恐らく従魔たちは、迎撃などものともせずに突っ込んでくることだろう。
「だが乗り越えてもらわねば困る。今は一人でも多くの戦力が必要なのだからな。指揮官を兼ねたベテランに守らせれば問題あるまい」
「それが無難な所ですね」
「ベテランたちには最も重要な正面を守ってもらうとしよう」
 優輝は上司の発した言葉の内容に一瞬戸惑ったが、内容を理解し抗議する。
「正面にはその新人リンカー達の武器が展開しているんですよ。間違いなく誤射による同士討ちが発生します!」
「だからこそ依頼で募集するんだ。新人たちの誤射を受けても隊の指揮と護衛の任をこなせるエージェントたちを」
「味方の銃撃に晒されながら、迫る従魔達を迎え撃てと仰るのですか!?」
「新人たちにとっても、それを乗りこえられれば掛け替えの無い経験を糧として成長してくれるに違いない。ベテランのエージェント達ならそこまで新人たちを導いてくれると信じている」
 なおも優輝は抗議するが『既にこの依頼内容は上層部の認可が下りている』との宣言に、優輝は依頼を受けてくれるエージェント達の現地での裁量権を増やすことを提案する。
「新人リンカー達を生き延びさせることに繋がるのでしたら、エージェントの方々の現地での自由な行動や新人リンカー達への自由な指揮を認めて下さい」
 それについては上司も『問題ない範囲』として承認した。

●指揮官求む。ただしフレンドリーファイア(誤射・同士討ち)つき
 そんな攻防の末、『あなたたち』の前にある意味新人教育の依頼が斡旋される。
「申し訳ありません。今回は無茶な依頼をお願いさせていただきます」
 優輝は『あなたたち』にまず謝罪した。
 優輝は機械を操作し上司と話し合った時に使用した地図をスクリーンに映し出す。
 敵を示す赤い点と、味方を示す青い点が地図上に展開し、敵の予想進路が大きな矢印で示されていた。
 そのうち赤い矢印が枝分かれし、その一つが別の方角へと向かうが、その先には味方を示す青い点が待ち構えている。
「ここでリンカー隊が待ち伏せをしています。皆様にお願いしたいのは、このリンカー隊の指揮と従魔達の殲滅です」
 そこまでは普通の話だったが、上司より強いられた任務内容に、部屋にいたリンカー達の顔が一部ひきつった。
「戦場未体験の新人たちの前に立ってそいつらを守れだと? 誤射が出て俺達がそいつらに撃たれるぞ」
 優輝の説明では、今回の新人たちは全員ジャックポットの適正持ちで距離を置いた戦いはある程度期待できるが、近接戦では非常に脆いらしい。
 情報部の先行偵察によると、新人たちが受け持つ場所には以下の従魔達が進んでいる模様だ。
 突撃銃装備のデスアーミーがボーンホースに騎乗する騎兵隊として40騎(上下2体で1騎)。
 どこかの戦場で撃破され、放棄された戦車に憑依した従魔が5体。
 歩兵として手榴弾、突撃銃装備のスケルトンが30体。
 火炎放射器を操るデクリオ級従魔べトンフレイムも約5体ほど歩兵に混じっている。
 その情報部の分析によると、新人リンカー達は訓練ではそこそこの成績を残している。
 だがこの集団の突撃を受けた場合、何らかの対策を講じない限り新人リンカー達は突破を許し、壊滅してしまうだろうとのことだ。
「上層部との交渉の結果、現地での自由な行動と裁量権は獲得できました。今新人たちは一本道の山道に1列塹壕を掘って待ち構えている状態ですが、その形に拘らず部隊の新人たちを自由に指揮して迎撃にあたって下さい」
 最後にぴかぴかの銃剣付きライフルを握る、若く溌剌としたリンカー達の映像がスクリーンに映し出される。
「彼らは全部で40名います。恐らく戦闘が始まれば恐慌状態に陥るでしょうから、その対策や班分け、役割分担などはその前に指示をして決めておくのがいいでしょう」
 現場は森林の中を突っ切る形で拓かれた一本道の山道だが、塹壕より左右の森に展開して迎撃する作戦をとる等、実際の作戦は『あなたたち』に任せるとの事だ。
 どうか未来ある新人たちを『あなたたち』の手で導いてやってほしい。 

●未だ戦場を知らぬ者たち
 自分達の堀った塹壕の内で銃を構える新人リンカーは、隣の同僚に尋ねる。
「なあ、あの人は何だって塹壕の向こう側に居るんだ? あれじゃ下手すりゃ当たっちまうぜ」
「ばーか、そんな味方にフレンドリーファイア(誤射)かますヘボ、ここに居るかっての」
 先行した優輝が新人たちの前にいることを、別のリンカーもそう言って笑う。
 残念ながら、今彼らが言ったようなことはこれから発生してしまう。
 彼等が本物の戦場を知り、フレンドリーファイアをやらかしまくるまで、あと少し。

解説

●目標
 新人リンカー達を指揮し従魔達を殲滅
 犠牲者を出さない

 登場
 新人リンカー×40
 実戦経験ゼロ。全員ジャックポットの適正あり。装備は射程18sqの銃剣付きライフル。従魔達の突撃に新人たちは恐慌状態となり、引き金を引き続ければ生き残れるという根拠不明な思い込みで銃撃を続ける。前にいる『あなたたち』を誤射する確率は何もしなければ高い。彼らを生き残らせるなら、どのように指揮しても問題なし。

 従魔達×120
 内訳は以下の通り。
 デスアーミー×40:武装したアンデッド型従魔。略称「死兵」。ミーレス級。射程35sqの突撃銃を装備。
 ボーンホース×40:骨の馬の姿をした従魔。略称「骨馬」。ミーレス級。最高時速100kmで走るが物理魔法耐性共に弱い。
 戦車×5:撃破された戦車に憑依した従魔。デクリオ級。射程75sqの戦車砲で砲撃。
 べトンフレイム×5:火炎放射器を装備した鬼型従魔。略称「炎兵」。デクリオ級。射程5sqの直線貫通効果のある火炎状ライヴスを放射する。
 スケルトン×30:骸骨型従魔。ミーレス級。略称「骨」。射程35sqの突撃銃や射程7sq、範囲1の手榴弾を装備。非常に脆い。
 予想される敵戦術:
 デスアーミーがボーンホースに騎乗する騎兵達が最初に突撃し戦車が援護砲撃。その後をスケルトン達が突撃しべトンフレイムが突破口をこじ開ける予定。

 状況
 森を切り開いて出来た1本道の山道。道の両側は森になっており新人リンカー達が腰の深さ程度の塹壕を1列だけ構築済み。『あなたたち』から見れば明らかに準備不足だとわかる。
 塹壕を構築する為の用具は現地にあり、無線貸与済み。周囲に人影なし。
 以下は簡略図。貴方達が現地の新人リンカー達と合流してから約20分後に従魔達が襲来する模様。

 森森森森森森森森森森
 ◆→    }●
 森森森森森森森森森森

 ◆:従魔
 }:塹壕
 ●:新人リンカー隊

リプレイ

●準備
 エージェント達が最初に行ったのは、新人リンカー達に上下関係を教え込む事だった。
『私はナラカだ。新兵の子等よ、総員傾注せよ!』
 ナラカ(aa0098hero001)が挨拶代わりの号令をかけ、H.O.P.E.特別教官証明書を掲げた麻生 遊夜(aa0452)や月鏡 由利菜(aa0873)、ウィリディス(aa0873hero002)も次々と挨拶する。
「麻生遊夜だ。ま、宜しく頼む」
「私はH.O.P.E.東京海上支部のエージェント、月鏡由利菜。私達で皆様のリンカーとしての初陣をサポートさせて頂きます」
『あたしはユリナの親友、風の聖女ウィリディスだよ! 新人リンカーのみんな、傷の治療はあたしとユウキくんにお任せ!』
 そんな4人の挨拶に、新人達の一部は挨拶を返さず私語を止めない。
「悪いけれど、新米だろうと遠慮はしないわよ。……と言うわけで。ヨロシク、リタ教官」
 それを見咎めた鬼灯 佐千子(aa2526)は、リタ(aa2526hero001)に『教育』を頼み、頼まれたリタが新人達へ雷を落とす。
『私語は慎め! ここは既に戦場だ!』
 リタの怒号を浴びた新人達が身をすくめる中、リタは新人達の堀った塹壕のやり直しを命じる。
『トロトロと掘るんじゃないっ! この――』
 これ以降のリタの発言は活字で表現するには難しいため、ここでは割愛させて頂く。
 新人の一部が抗議するも、その威勢は遊夜が提案した手合わせの前に悉くへし折られた。
「元気が良いのは何よりだが……いかんな、それじゃすぐに死ぬ」
『……んー、初々しいねぇ。……可愛い可愛い、この程度で死んじゃダメよ?』
 ユフォアリーヤ(aa0452hero001)は、遊夜に歯が立たず転がされた新人達を微笑ましく見つめていた。
「さぁヒヨッコ共、生き足掻くとしようか!」 
『……ん、まずは……塹壕の手直し、だね……これじゃ足りない、ひとっ飛び』
 遊夜とユフォアリーヤは掘削用具を使い、駄目な点を指摘しながら改善に動き、佐千子も新人達の指導に加わる。
「深さは身長ほどを目標に」
 見栄えは求めず、歪で良し。
『ある程度は出入り用の段差を足場に残す』
 リタは掘り起こした土をそのまま敵が来る前方へ盛り土する作業をやって見せる。
「高さよりも厚さ優先。敵側から見て上り傾斜になるように」
 佐千子が土を盛って説明する。
『……ん、先達の言う事は……ちゃんと聞いて、おくものよ?』
 佐千子やリタの説明にユフォアリーヤはコクコクと頷き、新人達に忠告する。
『覚者よ。今回は新兵の子らを率いるつもりはないか?』
「指揮をするのも吝かではないが、より適切に指揮が出来る者がいる以上はそちらに任せる」
 号令を終え、掘削道具で塹壕を手直しするナラカが八朔 カゲリ(aa0098)に話を向けると、カゲリは淡々とそう答えた。
 カゲリは新人達が恐慌に陥る事を前提として動くつもりだ。
 仲間からの教え、届けば良し。然し届かずとも気にはしない。
 その結果は戦場を甘くみた末路として現れるだろうと、ナラカも予測する。
 氷室 詩乃(aa3403hero001)と共鳴した柳生 楓(aa3403)も作業に加わり、今は遊夜の提示した足止め用の陥没を不規則に掘って、穴を増やしている。
 もちろん作業中にリンクコントロールでリンクレートを上げる事も忘れない。
「誤射の可能性があるのは少し怖いですが、避けられないなら仕方ありません」
 楓は新人達の防衛上ある程度誤射で撃たれても構わないと割り切っていた。
 それでも「救済之輝」の銘を持つレアメタルシールドは背後に構えている。
『大丈夫だよ。ボクが君を負傷させるのを認めるとでも思っているのかな?』
 詩乃は自己犠牲に陥りがちな楓の方針に釘を刺すと、言外に楓は自分が護ると伝える。
 優先されるのは新人達に被害を出すことなく敵を殲滅すること。味方と連携を取って勝利を目指すことは、楓も詩乃も一致している。
 やがて佐千子やリタより作戦が説明される。
 囮のA班と奇襲のB班に分かれ、A班が敵を引きつける間にB班が敵を討つ。
 単純だがわかりやすい内容だ。
「実戦経験を積んで貰う為にも、何名かは中衛に出てもらわないと支援射撃できないのですが……何よりも大切なのは生き残ることです。手柄は、生きていればいくらでも立てる機会があります」
 ウィリディスと共鳴した由利菜は、共に作業を行いながら、新人達に当面の作戦方針を伝える。
 初戦で新人が前に出るのは危険と由利菜は判断し、自身が討ち漏らした敵を倒して回る遊撃役も担うつもりだ。
「私がスィエラと呼んでいる、このデストロイヤーは攻撃した敵の周辺にも衝撃を与えます。私がこれを敵へ構えて向かったら、敵から離れて下さい」
 由利菜の作戦方針も、徐々に新人達に浸透していく。
「諸君らに小官が必勝の策を授ける。だから絶対に勝て、さもなくば小官自らの手で諸君らに引導を渡してやるのである」
 ソーニャ・デグチャレフ(aa4829)とラストシルバーバタリオン(aa4829hero002)は、新人達に『生き残る策』を提示した。
「塹壕内で伏せて敵が頭上を通り過ぎるのを待ってから撃て」
『それだけ? と言う疑問もあるだろうがそれだけだ』
 ソーニャもラストシルバーバタリオンも真剣だった。
 新人達がソーニャ達の迫力に押し黙る中、ソーニャとラストシルバーバタリオンの説明は続く。
「貴官らが支給されている銃はお世辞にも射程が長くはない。敵の長所は火力と衝撃力だ」
『正面からの撃ちあいでは新人である諸君に勝ち目等皆無だ』
 では如何にして敵のアドバンテージを殺すか?
「彼我の距離を0にしてしまえばよい」
 その策を説明後、ソーニャはラストシルバーバタリオンに乗り込む形で共鳴し、人型戦車のごときボディとなる。
 ミツルギ サヤ(aa4381hero001)と共鳴したニノマエ(aa4381)は、率いることになった新人達に改めて挨拶し、互いの自己紹介によってコミュニケーションがとれるよう腐心していた。
 全員は無理だろうが、見える味方が名前ある味方と認識できればフレンドリーファイア(誤射)も減らせるのではないか。
 そう判断しての対応だったが、少なくともニノマエの周囲では効果があった。
「リンカーであるなら、一人で戦うわけじゃないだろ。……自分達に英雄が共にいることを忘れるな」
『えらそうなことを言うようになったな』
 新人達の顔つきが変わるのを、ミツルギも気づいていた。ニノマエの手腕を褒め不敵な笑みを向ける。
「……生きて戦場をくぐり抜けた者の特権てやつさ」
 そうミツルギに応じながら、ニノマエは山道の側面に並ぶ森の中へと新人達と共に進み、身を潜める。
「まずは息を合わせるってことを覚えてもらおうか」
『案ずるな。待つことができれば、おまえ達はもうベテランだ』
 ニノマエとミツルギは命令があるまで発砲を控えるよう新人達に教え込む。
 その間にエスティア ヘレスティス(aa0780hero001)と共鳴した晴海 嘉久也(aa0780)は、土嚢の袋に土を詰め込んでは、ものすごい勢いで佐千子や遊夜の要請する場所へ土嚢を積み、作業を終えた。
『今回は新人リンカーの方々に実戦を指導するのも任務ですよね』
「まあ……集まった人達を見ていると『バトルマニアの祭典』になりそうですね」
 エスティアにそう答えながらも、嘉久也は表現を若干修正して新人達に忠告する。
「新兵の皆さん。我々のやる事は我々しかできませんので、真似だけは絶対にしないでください」
 ――まじめな話、今回の敵は電撃戦は得意でも、指揮官無しでの接近戦ともなると自壊するでしょうし。
 嘉久也もまた森の中へと消えていく。
 やがて遠くから林道を蹴る蹄の音が聞こえてくる。
 情報にあった従魔デスアーミー(以下死兵と略)とボーンホース(以下骨馬と略)による騎兵隊だ。
 騎兵達は大地をおどろに轟かせ、急速にエージェント部隊へと殺到する。

●落ち着け
 地を揺るがす蹄の轟きに、新人達は色を失った。
 だがこの場に集ったエージェント達は、いずれも数々の戦場を潜り抜けてきた精鋭ぞろいだ。
「いい機会だから見ておきなさい。オルカのエーススナイパー(麻生さん)と主砲(デグチャレフさん)の戦いを」
 リタと共鳴し、20mmガトリング砲「ヘパイストス」の銃座を構築した佐千子は、新人達に見本として2人のエージェントの名を挙げた。
 佐千子に推挙された2人のうち、遊夜はA班所属の新人達に指示を出す。
「頭をひっこめろ。敵の初撃をやり過ごす」
 パニックは仕方ないにしても常に顔を出しっぱなしにするのは危険だ。
 そこへ突進してきた騎兵隊より無数の銃弾が飛来し、構築した土塁や塹壕の周囲に土煙を上げていく。
 ただ新人達は、大きくなる馬蹄の轟きと銃撃の着弾に早くも怯えている。
「敵の先鋒は騎兵、突撃は大迫力だ……ではどうするか?」
『……ん、だから足止め……勢いが止まれば、怖くはないの。……小さい穴を、いくつも掘って……足を挫かせたり、ね。ああやって』
 遊夜が悠然とした口調で、ユフォアリーヤが笑みを含む声で、新人達に指示した作業がこの突撃対策だと説明する。
 遊夜が指し示した先では、無数の穴が骨馬達の脚をとり、転倒しては騎乗する死兵達を宙に飛ばしていた。
 無数の穴に脚を取られた騎兵が次々と脱落し、突撃に遅滞が生じた。
 そこへ身を乗り出した遊夜からのロングショットが発動する。
 アンチマテリアルライフルの銃声が轟いた。ロングショットによって射程を延ばした弾丸状ライヴスは、地上に落ちた死兵の胸に命中し、一撃で粉砕した。
 塵と化し消える死兵には目もくれず、遊夜はライヴス通信機「雫」を介しカゲリや由利菜に連絡する。
「八朔さん。月鏡さん。脱落した敵が本隊に向かわないよう撃破を頼む」
 穴や銃撃で骨馬からおろされた死兵達には、遊夜の連絡を受けたカゲリや由利菜が向かっていた。
「カゲリさん、私は右から向かいますので左からお願いします」
「承知した。残りは俺が片付ける」
 短いやり取りの後、由利菜とカゲリは死兵達を挟撃する。
 死兵達も近づくカゲリや由利菜に突撃銃を向け、銃火を閃かせた。
『ユリナ、そのまま行って。ユリナに傷なんてつけさせないよ!』
「リディス、私は貴方を信じています」
 ウィリディスの加護を受けた由利菜が、弾着の火花を散らして死兵達の中へと突っ込んだ。
 スィエラの名を冠し、細身の風の聖槍へ改造されたデストロイヤー+5の唸りが風を裂き、解放されたライヴスが爆発を引き起こすと肉、骨を打ち砕く異音が衝撃波と共に響き渡る。
 ウィリディスの宣言通り由利菜は銃撃を弾き飛ばし、死兵達は塵となった。
 残る死兵達はカゲリを銃撃するが、リンクコントロールも併用し、『降神礼装』へと改良されたブレイブガーブ+5が能力を向上させ、その悉くを跳ね返す。
『覚者よ。既にコレらは役割を終えたぞ』
 ナラカからすれば先の騎兵突撃は、十分新人リンカー達への『試練』となった。
「ならばこれ以上存在させておく理由はないな」
 カゲリの呟きと共に【天剱】の名を冠するカゲリの天剣「十二光」+5が翻る。
 黒光の軌跡が宙に描かれる度に肉を断つ異音が響き、縦や横に両断された死兵達が塵を噴いて消えていく。
 浄化と慈愛という相反する性質を抱くナラカと、全てを『そういうもの』と肯定するカゲリは独特の観点を持つが、敵を討つことには変わらない。
 遊夜や由利菜、カゲリの攻撃を逃れた騎兵達の前には楓が立ち塞がる。
「大丈夫です。私たちと貴方たちがいれば絶対勝てます。だから落ち着いて、しっかり狙って」
『恐れるのも仕方ない。けど今回の戦いで君たちは強くなる。それにボクたちもいる。多少の誤射も仕方ない。とにかく敵を倒すんだ』
 楓と詩乃は背後や周囲にいる新人達に声をかけた後、守るべき誓いを発動する。
 楓より放たれたライヴスが騎兵を絡め取り、騎兵達の一部が楓の方に向かう。
 その間も楓は騎兵達の銃撃を受けるが、詩乃の護りもあって、楓は揺らぐことなく騎兵達を押しとどめる。 
『敵が止まった。撃たせるなら今だ』
 ミツルギの指摘にニノマエは即座に指示を下す。
「撃て!」
 ニノマエの号令で、潜伏させていたB班の新人達が一斉に引き金を引き、敷き並べた銃口が咆哮する。
 弾丸の群れが騎兵の隊列に突き刺さり、腹を貫かれた骨馬や、頭を粉砕された死兵達が塵をあげ消えていく。
「撃ち方やめ。次を狙え!」
 ニノマエは誤射を防ぐため、一度新人達の銃撃を制止してウェポンズレインを発動する。
 刀剣状のライヴスがニノマエの頭上に数多く展開し、豪雨のような音を響かせ騎兵達に降り注いでいく。
 文字通り刃の雨に全身を斬り刻まれ、貫かれた騎兵達は塵をあげて倒れ伏す。
「よしいいぞ。撃て!」
 そこへニノマエの命令を受けた新人達の銃撃も合わさり、騎兵達が撃ち減らされていく。
 残る騎兵隊には佐千子が推したもう1人、ソーニャが応戦する。
「総員、塹壕の中に伏せ敵を一度やり過ごせ」
 ソーニャはA班の新人達にそう命じた。
 ソーニャは塹壕の中で新人達に改めて説明する。
 騎兵突撃は確かに脅威だがいったん始めてしまえば前に進むしかない。
 ゆえにこの行動こそ事前に説明した策に繋がる、と。
 その間にも、騎兵隊は新人達の籠もる塹壕を飛び越えていく。
『これで全騎だ。後続の騎兵はもういないぞ』
 頭上を跳んでいく騎兵達を監視していたラストシルバーバタリオンより報せが届き、それまで新人達を宥めていたソーニャは塹壕より飛び出す。
「よし、今だ。あの騎兵隊を撃て!」
 既に塹壕の中でソーニャは新人達に撃破の優先順位を教え込んである。
 ソーニャの号令で、塹壕より起き上がった新人達が一斉に発砲する。
 銃声が続けざまに鳴り渡り、風を切って飛んだ弾丸の雨が遠ざかる騎兵達に命中すると、骨馬や死兵達が次々に撃ち落とされていく。
 ソーニャもまた「バッヘルベル・カノン」の名を冠する37mmAGC「メルカバ」+4を構え、発砲した。
 新人達のそれとは比べものにならない砲声が轟き、ソーニャの砲弾状ライヴスが騎兵の1体に命中すると、1撃で死兵の身を粉砕し塵に変える。
 残る騎兵隊の先には、佐千子がいた。
『問題ない。射程内にいるのは敵だけだ』
 携帯品にある武器との交換に時間を要した佐千子は、リタからの報告を受けバレットストームを発動した。
 佐千子の顕現するSMGリアール+5が周囲に発射焔を閃かせ、銃声を轟かせる。
 風を切る音をあげて周囲にぶちまけられた無数の弾丸状ライヴスが、周囲にいた死兵や骨馬の全身を貫通し、従魔達の身を打ち砕く。
「突破しそうな敵は退治完了よ。次が来るからその前に残りを始末してよね」
 周囲の騎兵達を塵に変えた佐千子は、ライヴス通信機「遠雷」を介し、仲間や新人達に残敵掃討を指示する。
 ほぼ同じころ、後方より進んできた戦車が主砲を一斉に発砲した。
 放たれた砲弾が次々と弾着して土煙を巻き上げ、地響きが塹壕や周囲の森を震わせる。
「原則、三点バースト。戦車は狙わない。接近されたら即撤退の三点ですかね……戦車は我々の仕事です」
 嘉久也はライヴス通信機を介して新人達に戦車を相手しないよう伝えると、木々の間からアンチマテリアルライフルを伸ばし、戦車に向け一撃粉砕を発動する。
 重い銃声と共に嘉久也の放った一撃粉砕は戦車に到達すると、金属音を響かせ戦車の主砲を粉砕した。
『味方への攻撃を封じたのですから、これはこれでいいと思います』
「そうですね。次は小細工せずに仕留めるとしましょう」
 エスティアの指摘に嘉久也は気持ちを切り替え、別の戦車に発砲する。
 アンチマテリアルライフルが吼え、発射された弾丸状ライヴスは戦車の側面を貫通し、その一撃で戦車は動きを止めた。
 嘉久也がこじ開けた破口より塵が噴出し、戦車の姿が消えていく。
 やがてエージェントと新人達の奮戦により、騎兵隊は全滅した。

●殲滅
 騎兵隊が全滅しても、従魔達の進撃は止まらない。
 戦車が進み、べトンフレイム(以下炎兵と略)が混じったスケルトン(以下骨兵と略)達がその後に続く。
 遊夜とユフォアリーヤは新人達への指導を続けていた。
「基本的に敵の方が強くて射程も長いことの方が多い、今回はそういう奴だ」
『……撃つのも良いけど、ちゃんと隠れて……隙を伺うのも、大事……いいね?』
 新人達が頷いたところで遊夜はカチューシャMRLを構え、アハトアハトを発動する。 
 身を隠していた森林の木々を揺らし、叩き出された多数のロケット弾状ライヴスが大気を裂いて飛び渡り、炎兵や骨兵の密集地点に着弾した。
 弾着の爆発が無数に沸き起こり、衝撃波に引き裂かれた従魔達は骨兵、炎兵の区別なく吹き飛ばされて塵と化す。
 土煙に覆われた着弾点の向こうから、生き残った骨兵達が撃ち返す。
 断続して響き渡る銃声と共に着弾した木々が木片を散らす。
 さらに残る炎兵が森に武器を向けたところで、駆けつけた楓が『救済之輝』を掲げて強引に割り込んだ。
「大丈夫です! これ以上攻撃は通させません!」
 新人達に声をかけながら、楓は眼前の炎兵に向けライヴスリッパーを発動する。
 楓より放たれた攻撃は炎兵の意識を刈り取り、火炎放射は不発に終わる。
『無茶だよ。全ての攻撃を受け止めるつもりなの?』
「そうなったとしても、新兵達への攻撃は見過ごせません」
 詩乃は楓を叱るが、楓は新人を守るのが優先だと譲らない。
 気絶した炎兵に遊撃を担うカゲリが迫り、思うさま【天剱】を振るった。
 胴を斬り裂かれた炎兵が、塵を撒いて消えていく。
『そう言えば覚者が初陣の時は如何であったかな』
「……俺は、恐慌するほど繊細ではなかったからな。師も良かった」
『まあ、覚者と比べるべくもなしか。ならばさて、如何したものかな?』
 今のところはエージェント達の奮闘で辛うじて新人達の恐慌も抑えられている。
「……それを如何するのか、お前は見たいのだろう?」
『然り。そしてそれは覚者も同じであろう。肯定と裁定、互いに人を見定めるものなれば』
 ナラカは新人達が恐怖を乗り越えられると信じている。
 では、カゲリは?
「……さてな」
 カゲリは明言を避け、次の場所へと向かう。
 一方で嘉久也は浦島のつりざおを使い、主砲を失った戦車を近くまで引き寄せた。
 ただ浦島のつりざおには対象を横転させる機能はなく、戦車も撃破されれば塵となって姿を消すため、盾には使えない。
『強引に押して横転させますか?』
「そこまで戦車に拘りはありませんよ」
 エスティアから作戦続行を伺う声が届くが、嘉久也はそう応え、グランブレード「NAGATO」+5に武器を切り替え、ストレートブロウを発動する。
 嘉久也のライヴスによって加速したグランブレード「NAGATO」が唸りをあげた。
 思うさま振るわれたグランブレード「NAGATO」が漆黒の剣閃を宙に描き、真横に切断された戦車の車体が宙を舞う。
 2つに分かれた戦車は塵を撒いて跳ね飛ばされ、地面に激突する前に消えた。
「一番危険なのはべトンフレイムの集中攻撃です」
 炎兵の火炎放射がどこまで被害を及ぼすか未知数だったためだ。
 それでも嘉久也は乱戦に持ち込む方針を変えるつもりはない。
 この間に、由利菜が負傷した味方の治療に回る。
「優輝さん、塹壕側で傷ついた方々の治療をお願いいたします」
 由利菜とウィリディスは、真継優輝(az0045)に指示を出して、負傷した味方をケアレインで治療して回り、新人達を落ち着かせていた。
『あたし達は引き続き前衛で攻め気味に守るよ!』
 一通り治療を終えるとウィリディスがそう宣言して、由利菜は最後の炎兵へと突っ込んだ。
 由利菜のスィエラが唸り、緑色の風が舞いあがる。頭を叩き潰され、次いで全身を砕かれた炎兵は浄化の奔流に呑みこまれ、塵となって消えた。
 残る戦車と周囲の骨兵達にはニノマエの隊が忍び寄る。
「俺が出た場所の直線上から味方を退避させろ」
 ライヴス通信機「雫」を介しニノマエが味方に警告を出した後、新人達にも指示を出す。
 そしてニノマエはライヴスキャスターを発動した。
 ニノマエよりライヴスの奔流が解き放たれ、直線上にいた骨兵達は粉々に粉砕されて塵となり、直撃を受けた戦車は引き裂かれて四散した。
「新人は森から動かず援護射撃!」
『骨兵の腕を狙え。手榴弾を投げさせるな!』
 障害を取り除いたニノマエとミツルギが指示を下す。
 ニノマエの放った一撃の威力に呆然としていた新人達は、慌てて武器を構えて発砲し、骨兵達を仕留めていく。
 戦車、炎兵が全滅する間に残る骨兵達は塹壕に向かうが、ソーニャ、佐千子の隊がそれぞれ応戦する。
『間もなく敵からの銃撃が届く。迎撃は新人どもを護り抜いてからだ』
「小官は最初からそのつもりだ」
 ラストシルバーバタリオンが観測結果をソーニャに伝えると、ソーニャは気負うことなく応じ、塹壕より前に出て心眼を発動した。
 やや遅れて骨兵達が一斉に発砲し、飛翔した弾丸がソーニャを捉えるが、ソーニャは殺到する銃撃をことごとく打ち払い、新人達を護り抜く。
『よかったな。新人達は全員トリオを活性化していたようだ』
 リタが確認したところ、新人達は全員トリオは活性化していたらしい。そのため囮と奇襲に分かれても、佐千子の手元にはトリオを使える新人達が残った。
「新人達はトリオを発動よ! 撃ち崩して!」
 佐千子の号令と共に、新人達がトリオを一斉に発動した。
 集団となった弾丸状ライヴスが、押し寄せる骨兵達を撃ち崩す。
 そして佐千子もまた、【SW(銃)】バイポッドや禁軍装甲で固めた20mmガトリング砲「ヘパイストス」を構え、トリオを発動する。
 20mmガトリング砲「ヘパイストス」の銃身が唸りを上げて回転し、大口径銃弾状ライヴスが束になって撃ち出され、射線上にいた骨兵達が次々と撃ちぬかれ、砕け散る。
「敵はあれだけだ。よく狙ってから撃て」
「このまま残る敵を殲滅よ!」
 ソーニャと佐千子の命令に応じ、新人達の銃声が突進する骨兵達を覆い尽くす。
 骨兵達は次々と撃ち抜かれ、最後の1体が塵となって消えた時、戦いは終わりを告げた。

●成長
 後始末を終えたところで、迎えの部隊がやって来た。
 いち早く嘉久也がエスティアを伴い帰還する。
『今なら新人の方々も素直に耳を傾けると思いますよ?』
「やるべきことは果たしました。後は言いたい人達に任せましょう」
 帰路でエスティアと嘉久也はそんな会話を交わしていた。
 その頃遊夜は、動画用ハンディカメラで撮影した新人達の戦闘内容を新人達に見せていた。
「……とまあ、改善点は多々あったわけだ。それはわかるだろう?」
 新人達は遊夜の話に素直に頷く。
『……ん。素直に聞く姿勢は大切』
 ユフォアリーヤは微笑んで新人達の成長を褒める。
「あくまで誤射はさせない……も、目標だったが」
『状況が悪ければ味方を撃っても良い、という学習はどうにか避けられたな』
 ニノマエとミツルギは、もう1つの目標である『誤射を防ぐ』ことが達成できたので、ともに安堵する。
 指導が行き届き、守って落ち着かせれば新人達は忠実に動いていた。
「誤射がなかったのは及第点でしょうが」
『実際の戦場ではヘマをしたら敵も私達も容赦しない。心がける事だな』
 佐千子とリタは、新人達に釘を刺す事も忘れない。
「次は落ち着いて対応して下さい。そうすれば誤射は防げます」
『君たちはこれから強くなる。いつかボク達のいる戦場で会おう』
 新人達を護り抜いた楓と詩乃からは、助言混じりのエールが送られた。
『あたしとユリナで共通してるのは、頼れる人や英雄が側にいてくれた……ってことかな。おかげで今はあたし達も、みんなを支える立場になれてる』
「皆さんにも英雄がいらっしゃるのですから、いつか皆さんも誰かを支えられる人になれると信じています」
 ウィリディスと由利菜は自身の経験を話し、最後に新人達に期待の言葉をかける。
『惑えし子等を如何に目覚めさせるのかと悩んだが……うむ』
 ナラカの中では今回の戦いが新人達の試練となりうるか、決着はついたらしい。
「あれだけやれたんだ。今はそれでいいと思うぞ」
 カゲリの言葉をナラカは頷いて肯定する。
 ――だからこそ人の子は愛おしい、と。
『ではこの訓示をもって終了とする』
 ラストシルバーバタリオンの号令のもと、ソーニャは新人達に訓示し、最後に告げる。
「貴官らは本日で雛鳥を卒業する。故にH.O.P.E.は貴官らに永遠の奮戦を期待する」
 いつか彼らが成長し、戦場で肩を並べる日もそう遠くないだろう。

結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 燼滅の王
    八朔 カゲリaa0098
    人間|18才|男性|攻撃
  • 神々の王を滅ぼす者
    ナラカaa0098hero001
    英雄|12才|女性|ブレ
  • 来世でも誓う“愛”
    麻生 遊夜aa0452
    機械|34才|男性|命中
  • 来世でも誓う“愛”
    ユフォアリーヤaa0452hero001
    英雄|18才|女性|ジャ
  • リベレーター
    晴海 嘉久也aa0780
    機械|25才|男性|命中
  • リベレーター
    エスティア ヘレスティスaa0780hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • 永遠に共に
    月鏡 由利菜aa0873
    人間|18才|女性|攻撃
  • 花の守護者
    ウィリディスaa0873hero002
    英雄|18才|女性|バト
  • 対ヴィラン兵器
    鬼灯 佐千子aa2526
    機械|21才|女性|防御
  • 危険物取扱責任者
    リタaa2526hero001
    英雄|22才|女性|ジャ
  • これからも、ずっと
    柳生 楓aa3403
    機械|20才|女性|生命
  • これからも、ずっと
    氷室 詩乃aa3403hero001
    英雄|20才|女性|ブレ
  • 不撓不屈
    ニノマエaa4381
    機械|20才|男性|攻撃
  • 砂の明星
    ミツルギ サヤaa4381hero001
    英雄|20才|女性|カオ
  • 我らが守るべき誓い
    ソーニャ・デグチャレフaa4829
    獣人|13才|女性|攻撃
  • 我らが守るべき誓い
    ラストシルバーバタリオンaa4829hero002
    英雄|27才|?|ブレ
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