本部

誰がこまどり殺したの

絢月滴

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
4人 / 4~8人
英雄
4人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2018/10/29 19:35

掲示板

オープニング


 赤、熱、紅、焦げた匂い。絶叫、悲鳴、慟哭。
 肉体、血液。
 父が、母が、姉が、妹が――私を呼んでる。
『エリス……おねえ、ちゃん……』



●とある少女の一日・1
 こんにちは! あたし、ローズ!
 エカテリンブルクにお父さんと、お母さんと、お兄ちゃんと、二人のお姉ちゃんと一緒に暮らしてるの! 今日はね、学校の帰りに素敵な人に会ったんだ。エリスお姉ちゃんのお友達の……コミルくん! あのね、お姉ちゃんのことが心配で来てくれたんだって! 嬉しいなあ!
 あたしはコミルくんの指を掴んで、おうちに帰ったの。
「お帰り、ローズ」
「お帰りなさい、ローズ」
 ただいま! お父さん、お母さん! あ、リリーお姉ちゃん! ただいま!
「お帰り。ね、それ誰を連れてきたの?」
 誰って、コミルくんだよ! ほら、エリスお姉ちゃんのお友達の! ほら、この前お話したじゃない! あたしがそう言ったら、リリーお姉ちゃんは、納得してくれた。コミルくんに椅子を勧めてくれた! 一緒にお茶するみたい! でもコミルくん、お茶大丈夫なのかなあ? え、大丈夫だよローズちゃん? ありがとう!
 皆でテーブルを囲って、お茶。クッキー美味しい! お父さんもお母さんも、リリーお姉ちゃんもこんなにおいしいのに、何で食べないんだろ? お茶も減ってない。コミルくんは? あ、ごめん、熱かった? 火傷、大丈夫? そうだ、聞いてお母さん!
「何、ローズ?」」
 美幸ちゃんって覚えてる? エリスお姉ちゃんと二年間、クラスが一緒だった子。
「……ああ、その子がどうしたの?」
 美幸ちゃんがね、今度家に来たいって! エリスお姉ちゃんに会いたいって! ……あれ、お母さん? お父さん? リリーお姉ちゃんも、どうしたの?
「……ローズ、コミルくんと部屋に行ってエリスと遊んでおいで。父さんたちは大事な話があるからね」
 えー、つまんなーい。でも仕方ないや。行こ、コミルくん! あたしはもう一度コミルくんの指を掴んだ。あー目が痛いなーコンタクトって、やだやだ。



●家族会議
 ローズが完全に部屋に行ったのを見送ってから、私はテーブルの上に置いてあった眼鏡をかける。そして妻に問いかけた。アンジェラ、どう思う?
「美幸って、あのうるさい子よね」
 リリーは?
「同意見。絶対、エリスに変なこと言うに決まってるよ!」
 ふむ、意見の相違はないようだ。……おや、アルバート、帰ってきたのかい?
「ただいま親父。今、エリスの事について話してたのか?」
 ああそうだよ。またローズがエリスの友達に会ったそうなんだ。それで、その友達がエリスに会いたいそうなんだよ。
「ふーん」
 なあ、アルバート。その美幸っていう子にリリーと一緒に会いに行ってくれるかい? 話してみて――エリスに悪影響が出るようだったら。
「分かってるよ」



●これで二人目
「トルストイ警部補! こちらです!」
 眠気覚ましに噛んでいたガムを部下に見つからないように紙に包み、ポケットに入れてからデースケ・トルストイ警部補は現場に近づいた。
 また、子供の死体だ。今度は――女?
「被害者の身元は」
「確認途中であります!」
「死因は」
「絞殺であります!」
 ふむ、とデースケは顎を撫でた。この遺体も”ある部分”がない。犯人が、持ち去ったのか――。
(前に起きた事件と同一犯なのか?)
 デースケの刑事の勘が、蠢く。
「おい」
「は、トルストイ警部補!」
「念のため、三週間前のあの事件と共通点があるかどうか調べておけ。それと――H.O.P.E.に連絡を」



●とある少女の一日・2
 ほら美幸ちゃん! 何を恥ずかしがってるの? エリスお姉ちゃん、待ってるよ! あたしは美幸ちゃんの腕をぐいぐいと引っ張った。ただいま、お父さん、お母さん、リリーお姉ちゃん! あ、アルバートお兄ちゃんも!
「お帰りローズ。今日は誰かとエリスの話をした?」
 うん、したよお兄ちゃん! あのね、エリスお姉ちゃんの学校の……オズワルド先生と!



●舞い込んだ怪事件
 西原 純(az0122)は集まったエージェント達に対して、任務の概要の説明を始めた。
「エカテリンブルクで妙な事件が起きている。子供が二人、大人が一人、殺されている。どうもただの殺人事件ではないみたいだ。詳しくはエカテリンブルクに行って、デースケ・トルストイ警部補に話を聞くのと、レポートを参照してくれ。……説明は以上。あとは任せた」

解説

エカテリンブルクで発生している事件の真相究明が今回の目的です。
以下の情報に注意しながら、目的を達成して下さい。


◆被害者の身元

 一人目:コミル・ハーグ。男。トルデント学校十年生。死因:絞殺。

 二人目:新堂美幸。女。トルデント学校十年生。死因:絞殺。

 三人目:オズワルド・コーマン。男。トルデント学校教師。死因:絞殺。


◆事件発生前の主な出来事
 遊園地の飲食店で火災が発生。客・スタッフ合わせて百人近くが犠牲に。
 今回の被害者はいずれもこの火災に巻き込まれています。
 生存者リストはデースケ・トルストイ警部補に頼めば入手することが出来ます。

◆他、何か分からないことがあれば、純が答えます。

リプレイ

●三度、エカテリンブルク
「いやはや、毎回物騒な街だよねぇ」
 石畳を杖を頼りに歩きながら、木霊・C・リュカ(aa0068)は言った。隣に居る凛道(aa0068hero002)は一つ頷いてこう返す。
『そういった物は続く物ですよ』
 二人が向かっているのはデースケ・トルストイ警部補が居る警察署だった。到着し、受付にH.O.P.E.であることを告げるとこの前と同じ部屋に通された。デースケはすぐにやってきた。リュカの姿を見て、デースケの表情が和らぐ。やはり見知った顔に安心するのだろう。
「Здравствуйте!、警部補? 今回も頑張るからお酒奢ってくーださいっ」
 茶目っ気たっぷりに言うリュカにデースケはああ、事件が解決したらいくらでも、と笑って見せた。そんなリュカとは対照的に凛道は礼儀正しくお辞儀をした。
『お世話になります』
「ああ」
「さっそくだけど警部補。被害者の共通点、死因、凶器、奇妙な殺人事件という名目、現場……などなど、教えて下さいな」
 デースケはぱらぱらと手帳をめくる。
「まず共通点だ。話がいっているかもしれんが、どの被害者も一か月ほど前の遊園地で起きた火災事件の生存者、かつトルデント学校の関係者だ。……あの火災は、酷かった」
『百名ほど犠牲になったとか』
「ああ。そして被害者は事件の前、ある一人の少女に接触していた。――エリス・マリオス。この少女も、火災事件の生存者だ。被害者は皆、エリスを”元気づけようとした”らしい」
『……では、そのエリス、という少女に事情を聞けばいいのでは……?』
 眼鏡のブリッジを押し上げながら、凛道は言う。もちろん事情聴取はした、とデースケは答えた。
「何分物凄い強気な少女でな……”私は人殺しなんてしてないわ”と」
 リュカは一つ息を吐いた。エリスへの聞き込みは骨が折れそうだ。それにしても――違和感がある。元気づけようとした……ならばエリスは落ち込んでいるはず……それなのにデースケの印象が”物凄い強気な少女”?
「凶器は手だ。全員、首を手で締められている。……不思議なことに、どの被害者も後ろから立った状態で首を絞められている。一人目と二人目はまだわかるが……三人目のオズワルド・コーマンは身長が二メートル近くあるんだ。その男の首を立った状態で、しかも手で締められるか? 普通、しゃがませたりするだろう?」
『確かに妙ですね。……それはそうと警部補、遺体には持ち去られた部位があるそうですが』
 デースケが手帳をめくる。
「一人目。コミル・ハーグは右手。二人目。新堂美幸は左腕。三人目。オズワルド・コーマンは右足だ」
「バラバラだねぇ。あ、あと警部補、そのエリスって子の家の位置と、その家の周りに監視カメラがついている店の情報、あと現場付近の映像が残っていたらください」
「ああ。今まとめている最中だ。終わったら、部下に持って行かせる。……出来うる限り協力する。今回も頼む」
「任せてよ、警部補」



 九字原 昂(aa0919)はリュカから連携された情報を確認していた。側ではベルフ(aa0919hero001)がフードを目深に被って、煙草を吸っている。今、二人は火災があった遊園地に来ていた。ここで、当時消火にあたった消防隊の人と待ち合わせている。周りには子供達の声が響いていた。けれど遊園地という場所を考えると、少し寂しい気もした。
「ただの殺人事件にしては、色々と疑わしい所がいくつかあるね」
『その線も否定はしきれないが……疑わしいなら、俺達が動くべきだろう』
 ふ、とベルフは紫煙を吐き出した。そして煙草の火を消した。
「後手後手に回るよりは、その方が被害も少なくて済むしね」
「H.O.P.E.の方ですね! 遅れて申し訳ありません。マックスです!」
 好青年、といった出で立ちの青年が二人に声をかける。軽く挨拶を交わして、マックスは早速二人を火災現場へと案内した。
 そこは、まだ”進入禁止”を示すテープが張り巡らされていた。焼け焦げたコンクリート。曲がった鉄線。ここが飲食店だったと言われなければ、おそらく分からないだろう。
「どんな火事だったんですか」
 昴の問いに、マックスは眉間に皺を押せた。
「……酷い火事でした。厨房のガス台付近が激しく燃えて……当日は初出勤のコック見習いが居て、どうやら彼が火力調整を誤ったらしく……」
『……弱火で調理しなければいけないものを強火にした。運悪く、燃えやすいものが近くに』
「それもありますが……コック見習いの服に、燃え移ってしまったようです。それで、現場がパニックに……」
 マックスの話を聞きながら、昴はもう一度現場を観察した。あの燃え方が酷いところが厨房だろう。そこから炎は建物全体に――。
「死亡したのはスタッフと――トルデント学校の関係者が多かったと聞きました。スタッフは分かりますが……」
 マックスがますます悲しそうな顔をした。
「その日は……トルデント学校のファミリーデイ、でした」
 聞き慣れない単語に昴は首を傾げた。ベルフが助け船を出す。
『”働く姿を家族に見せる日”というのがある。それの学校版だろう』
 その通りです、とマックスは言った。昴は納得した。そして考えを次に移す。事件の鍵を握っているであろう少女、エリス・マリオス――。
「――念のために、彼女の家に”何か”居ないかの確認をした方が良さそうだね」
『同感だ』



 時鳥 蛍(aa1371)は以前この街に来た時のことを思い出して、急に恥ずかしくなった。あの時も事件の調査だったけれど、自分はどちらかと言えば犯人をおびき出す為のバンドの練習をずっとしていて――。
「シルフィ」
 蛍は前を行くシルフィード=キサナドゥ(aa1371hero002)を呼んだ。何ですの? とシルフィが振り返る。
「聞き込みは頼みます……」
《蛍がそういうのなら、やりますわ!》
 そう言いつつも、実はシルフィードは自信がなかった。調査――特にこうした推理が絡むものは苦手だ。刑事ドラマは好むけれど、犯人を当てることが出来たためしがない。
(それにしても蛍は死体のお写真を見るのに、慣れすぎてる気がしますの)
 普通ならあのような写真――体の一部がなくなった写真――など目をそむけたくなるものなのに、蛍は。
(今はそんなことを考える時ではありませんわ!)
 シルフィはトルデント学校の食堂に足を踏み入れた。ランチタイムだからそれなりに混んでいる。適当な生徒を見つけて、シルフィは彼に話しかけた。
《H.O.P.E.のエージェントですわ! 捜査をしています》
 シルフィの登場に生徒は面食らったようだった。すかさず、蛍がタブレットに文字を打ち込む
『お時間とらせてしまいますがよろしくお願いします』
「あ……ああ、うん、いいよ」
 彼は隣の席を蛍に勧める。シルフィはその向かいに座った。彼はサージルと名乗った。十年生だと言う。
《事件のことは聞いていると思いますの》
「うん。コミルは俺の親友だったんだ。なのに……」
『コミルさんが死ぬ前、何か変わったことはありましたか?」
 サージルはスプーンをトレーの上に置いた。
「幼馴染のエリスを心配してた。エリスは家族全員を火事でなくしたからって……あ」
《何か思い出しまして?》
 サージルは側を通りかかった女生徒を呼び止めた。
「真壁、お前最近エリスがおかしいって言ってなかったっけ。あ、この二人、H.O.P.E.のエージェントさん」
 サージルの言葉に彼女は軽く頭を下げた。真壁里美(まかべ・さとみ)です、と名乗る。適当な椅子を引っ張って、座った。
「エリス、何か変なんです」
『変?』
「はい。あの火事の日からすっかりふさぎ込んでしまって、口数も少なくなってるんですが……最近凄く子供っぽくなって……明るく振舞ってるのかな、と思ったんですけど。あと絶対眼鏡は嫌って言ってたのに、眼鏡してきたり……でも何故かすぐ外して、コンタクトに着けなおしたりして」
 里美の証言にシルフィは首を傾げた。これは一体どういうことだろう。それは蛍も同じだった。エリスに接触しようと考えていたが、一回、皆と相談した方がいい気がする。
『あの、エリスさんと他に仲が良かった人は居ませんか。あの火事に遭った人の中で』
「一級上のシェンバル先輩かな。ずっと同じ習い事をしていて、エリスの家族とも親密だったらしいよ」
『そうですか。ありがとうございます』
 サージルと里美に礼を言って、二人は食堂を後にした。シェンバル先輩には事情を話しておこう。そして協力を要請するのだ。エリスから連絡が来たらこっちにも、と――。



 ナイチンゲール(aa4840)と墓場鳥(aa4840hero001)はデースケに許可をもらった上で、警察の資料室に来ていた。先程リュカから連携された火災の情報をもっと詳しく調べる為だ。資料自体に埃は積もってないものの、何年も使っている資料室だ。どこかカビ臭い。
 ナイチンゲールは”事件概要”と書かれたファイルを開いた。
「出火原因……コック見習いの不注意……見習いと言えども、コックなら……」
『文字通りのきな臭い話だな』
 墓場鳥はナイチンゲールとは別の棚を見ていた。”生存者一覧”と書かれたファイルを開き、中を見る。被害者の名前とリュカから聞いた少女の名前――エリス・マリオスの名前を確認する。と、資料室にノックの音が響いた。鍵付きのアタッシュケースを持ったデースケが入ってくる。鍵とそのケースを机の上に置いた。
「トルデント学校の資料だ」
「……ありがとうございます」
「何か足りなかったら言ってくれ」
 自分に向けられる信頼をナイチンゲールはひしひしと感じ取った。
(――絶対に解決してみせる)
 去ろうとするデースケに墓場鳥が声をかけた。
『デースケ・トルストイ。百名もの犠牲を出した炎は未だ消し止められて等いない。……おそらくこれはそういう事件だ』
「だとしたらますます俺達の手には負えないものだ。……情けない」
『そんなことはない。貴公の心は立派だ』
「そう言ってくれると助かる」
 少しだけ笑って、デースケは資料室から去っていった。
 ナイチンゲールはアタッシュケースを開ける。近年の生徒名簿と被害者リストを付き合わせ始めた。墓場鳥は死亡者一覧を探し始める。
「……うん、被害者はエリスと同じクラスになったことがあるみたいだね。オズワルド先生は……去年の担任か。だとすると、事件の被害者は、エリスと同じクラスになったことがあって、あの火事で生き残って……あと」
『グィネヴィア』
「何?」
 墓場鳥が示した資料にナイチンゲールは目を落とす。
 それは、死亡者一覧だった。墓場鳥が指し示す箇所、そこに書かれた四つの名前――。
「ペーテル・マリオス。アンジェラ・マリオス。リリー・マリオス。ローズ・マリオス。……これって、エリスって子の」
『家族、だろうな』
 念のため、とナイチンゲールはもう一度生徒名簿でエリスの家族構成を確認する。父、母、姉、妹。
「エリスは一人生き残ったんだ……話を聞きにいこう」
『そうだな』
 ナイチンゲールのライヴス通信機が受信を告げた。
「蛍からだ。……一回集まろう? うん、分かった」



●作戦会議
 デースケが手配してくれたホテルの一室に全員が集まっていた。凛道が淹れてくれた紅茶(もちろんロシアなのでジャムつき)を飲みつつ、調査結果を報告し合う。
「……やっぱりエリスって子に一回話を聞かないと」
 墓場鳥と共鳴し、ナイチンゲールが立ち上がる。待って下さい、と声を出したのは昴だ。
「何の考えもなしに行かない方がいいと思います。……実は、エリスさんの家に”潜伏”してきました」
 全員の顔を見渡し、昴が報告を始める。
「まず、愚神や従魔の姿はありませんでした。ですが……彼女の家にはまだ”家族全員”が生活している跡が」
「それはおかしいね。エリスの家族は全員死んだはずだよ」
 ナイチンゲールが腕を組む。
『決定的な証拠も見つかった』
 ベルフが昴の話の後を継ぐ
『ぬいぐるみが沢山ある部屋にあったんだ。……被害者の体の一部が』
 シルフィが息を呑む。
《それでは、エリスさんが犯人ですの?》
「んー違うんじゃないかなー」
 全員の視線がリュカに集まる。
「蛍ちゃんが聞いてきてくれたエリスちゃんの話……子供っぽくなった、コンタクト派なのに眼鏡をしてきた……一方、警部補はエリスちゃんを”物凄い強気な少女”と言っていた」
『ちぐはぐです』
「ですね」
「だからお兄さんはこう考えた。――エリスちゃんは家族を失ったことに耐えられず、他の家族を”演じてる”んじゃないかな」
《いわゆる多重人格、というものですわね!》
 シルフィが若干興奮した様子で言う。専門じゃないのに断定しない方がいいよ、とナイチンゲールは彼女に言った。
『だとしても、おかしいです。被害者は後ろから立ったままの状態で首を絞められたんですよね?』
「おそらく、”六人目”が居ると思います。流し台に、何故か六人分の食器がありましたから」
 エリスの家族構成は父、母、姉、妹。エリスを入れても五人なのに。
 不意に、ドアがノックされた。場が緊張する。用心しながら、ナイチンゲールが対応した。来訪者はデースケの部下だった。頼まれたものです、と彼は鍵付きのアタッシュケースをナイチンゲールに渡す。その中身はノートパソコンだった。添えられていた手紙の手順通りにノートパソコンを操作して、ナイチンゲールは動画を再生する。映っていたのは一軒の家の、入口辺りだった。手紙によると、これはエリスの家の近くにある雑貨店の防犯ビデオの映像らしい。
『怪しい男が映っていた。身元の特定が出来ない。見て欲しい、だそうです』
 映像が取られた時間帯は、朝方。日付は? と昴が口にした。ベルフが凛道が持つ手紙を覗き見る。二番目の犠牲者の死亡推定日だそうだ。
 エリスが鞄を持って家を出ていく。そこからはただただ人々が通り過ぎるだけ。
 変化は夕刻に訪れた。
 エリスが帰宅する。直後、大柄な男性と共に家を出ていった。二、三時間経過した後、二人は戻ってきた。エリスが嬉しそうに抱えているのは――腕だ。
『あ』
 蛍のタブレットがメールの受信を告げる。昼に接触したシェンバルからだった。エリスに公園に呼ばれた、と。
 リュカは空になっていたカップをソーサーの上に戻す。
「さて、さて、犯人を捕まえにいきましょうか」



●犯人
 ナイチンゲールはエリスが指定した公園に居た。他の皆は、近くの茂みに共鳴した状態で隠れている。この公園はデースケに頼んで一般人が近寄らないようにしてもらった。ナイチンゲールはブランコに腰かけ、微かに揺らし、待つ。
 やがて、”彼女”が現れた。
「あれ、シェンバルお兄……シェンバルは? まだ来てないのかな? せっかくエリスお姉、ううん、私が……」
 ナイチンゲールは彼女に近づいた。彼女がこちらを向くと同時に、話しかける。
「あなた、誰? エリスはどこ?」
 瞬間、彼女の表情と声が変わった。
「エリスのことは――放っておいてくれる? それが出来ないのなら、死んをでっ」
 彼女は胸元からペンダントを取り出した。それが放つ輝きにナイチンゲールは見覚えがあった。幻想蝶だ。
 ペンダントから男性が現れる。
「呼んだか、リリー?」
「アルバート、力を貸して。こいつ、エリスに嫌なことを吹き込むんだ!」
「分かった」
 エリス……否、リリーとアルバートが共鳴する。リリーの髪と背が伸び、上半身が異様に発達した姿へと変化する。潜んでいた全員が飛び出した。
 ――まさか能力者とはね。
『驚きです』
 凛道が鎌を手に、戦闘体勢に入る。真顔になった昴は彼女を拘束する機会をうかがっていた。ナイチンゲールは剣を構え、蛍は銃を手にした。リリーが一歩で凛道に迫る。その攻撃を鎌でいなし、凛道は彼女と距離を取った。次いで、蛍の援護を背中に、ナイチンゲールがリリーに切りかかる。攻撃は簡単に当たった。
「うっ!」
 ――戦い慣れはしていないようだ。
「みたいだね」
 墓場鳥の呟きにナイチンゲールは同意する。リリーが攻撃の目標を昴に定めた。リリーの大振りな攻撃を避け、昴は絡新婦を発動した。蜘蛛の糸のようなライヴスがリリーにまとわりつく。彼女は動けなくなった。
「っ、何なのよ――何なのよあんたたち! エリスに何か言ったら許さないんだからぁ!」



●結末
 事件を解決したエージェント達をデースケはささやかな宴に招待した。
「今回も助かった」
「お兄さんはやるべきことをやっただけだよ。んーウォッカ美味しー」
『エリスはどうなったのですか?』
 凛道の問いにナイチンゲールと蛍が反応する。彼女たちもエリスの行く末が気になっているのだ。
「ああ……今、カウンセリングの真っ最中だ。もちろん、アルバートとは隔離した状態でな」
 エリスの状態はリュカが推理した通りだったらしい。カウンセリング最中にころころと一人称や口調が変わり、好みも変わり――しかし、そこにまだ”エリス”本人は居ない、と。
『アルバートは何故エリス……いや、リリーと誓約を交わした?』
 クレープを密かに楽しみながら、墓場鳥がデースケに問う。
「本人の言葉を信じるなら……目が覚めたら、面白い少女と出会った。とある火事を認めようとしない少女。”妹”に現実を見せたくないと頑なに主張する彼女を面白いと思った。だから”いつまでも妹を守る”という誓約を交わした……だ」
「それなら、エリスさんが自分を取り戻したら」
『誓約は切れるだろうな』
 昴とベルフの言葉に、そうですわね……とケーキを食べていた手を止め、シルフィは同意した。
「……こういった話はここまでにしよう。さあ、どんどん食べて飲んでくれ」
「もっちろーん! 警部補、ウォッカお代わり―!」
『飲みすぎないでくださいよ』
「このチョコレート、美味しい」
『今度は苺のクレープにしよう』
『あ……このピクルス、美味しそう』
《それ、とても苦かったのですわ!》
「ロシア料理って中々食べないからこの機会に」
『ああ、味わっておこう』



 

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
    人間|31才|男性|攻撃
  • 断罪者
    凛道aa0068hero002
    英雄|23才|男性|カオ

  • 九字原 昂aa0919
    人間|20才|男性|回避

  • ベルフaa0919hero001
    英雄|25才|男性|シャド
  • 暗夜の蛍火
    時鳥 蛍aa1371
    人間|13才|女性|生命
  • 優しき盾
    シルフィード=キサナドゥaa1371hero002
    英雄|13才|女性|カオ
  • 明日に希望を
    ナイチンゲールaa4840
    機械|20才|女性|攻撃
  • 【能】となる者
    墓場鳥aa4840hero001
    英雄|20才|女性|ブレ
前に戻る
ページトップへ戻る